【脳は成長する】第2部・ブレインテック新時代(06) 「“死”からは逃れられる。何とか20年後に実現したい」――渡辺正峰氏(東京大学准教授)インタビュー
生身の体が死んでも、機械の中で目覚めて生き続ける――。東京大学発のベンチャー企業が、人の意識をコンピューターに“移植”するマインドアップローディングの技術開発に取り組んでいる。“死”を逃れるという究極のブレインテックが、本当に実現できるのか。この会社を起業した同大の渡辺正峰准教授に聞いた。 (聞き手・撮影/科学環境部 池田知広)

――人の意識をコンピューターに“移植”できるのでしょうか?
「できると考えています。脳の神経細胞であるニューロンの一つひとつの電気的な信号を伝える働きは、そこまで複雑なものではありません。ニューロンが膨大に集まった脳は、少し手の込んだ電気回路に過ぎないと言うことができます。その電気回路を機械上に再現できれば、そこにも意識が宿ると考えられます。意識について研究しているオーストラリアのデヴィッド・チャーマーズ博士は、ニューロンを一つずつシリコン製に置き換えた場合、全てが置き換わっても意識が残るという思考実験を発表しています」
――理論的に可能でも、技術的には困難に思われます。どのような方法があるのでしょうか?
「例えば、マサチューセッツ工科大学発のベンチャー企業“ネクトーム”は、死亡した直後の人の脳を取り出してから、ニューロン同士がどう結合しているのかを読み取り、その情報をコンピューター上にコピーすることで意識を移植しようとしています。しかし、この手法では、移植されるのは死後の脳の情報です。仮に意識が移植できたとしても、主体としての連続性はありません。読み取り精度にも限界があります。私は、人が生きているうちに脳と機械を繋いで意識を統合し、記憶まで機械に転送する方法を提案しています」
――“機械に意識が宿る”とは、どういう状態のことを指すのでしょうか?
「私は、機械に意識が芽生えたのかテストする方法を考えました。人の脳には右脳と左脳があります。それを繋ぐ脳梁という神経線維の束を切断して分離すると、右脳と左脳で其々意識が生まれることが、アメリカのノーベル医学生理学賞受賞者、故ロジャー・スペリー博士の研究でわかっています。私達が左右の視野を一つの景色として見られるのは、脳梁を通して左右其々の意識が統合されているからです。そこで片方の脳を機械に差し替えて、それでも左右の視野を一つの景色として見ることができれば、“機械のほうにも意識が芽生えた”という証明になると考えています」
――脳と機械を接続する方法があるのですか?
「脳梁に平板な電極を差し込み、機械の脳と統合する新たな方法を考案しました。意識を移植する上で重要なことは、機械側に“記憶”をきちんと転送できるかです。そうでなければ、機械の中で目覚めても、自分かどうかはわからないですよね。この電極は、新たなブレインマシーンインターフェース(※BMI)として、特許取得に向けた国際出願をしています」
――機械の脳とはどういうものですか?
「人の脳と接続するので、脳の情報処理のメカニズムを真似たコンピューターを想定しています」
――意識がコンピューターに移植された場合、どんな世界で生きていくことになるのでしょうか?
「先ずは、映画“マトリックス”で主人公がBMIを通して没入していたような、デジタルの仮想空間になると思います。マトリックスでは、仮想空間で体験するあらゆる感覚が信号として生身の脳に入ってくることで、仮想空間の中にいることにさえ気付かない状態になっていました。私がやろうとしているのは、その状態から更に進めて、コンピューターに意識を移植して脳もデジタル化することです。但し、技術が進展すれば、仮想空間だけでなく、アバターのロボットとして実世界の中で生きていくこともできるでしょう」
――意識のアップロードの実現まで、どのように会社の事業を成立させるのでしょうか?
「認知症では、記憶を司る部位、海馬の損傷が進みます。例えば、海馬と大脳皮質の間にBMIを挟み、海馬をコンピューターに置き換えることで、記憶をとどめておくことが可能になると考えています。こうした需要が出てくると思っています」
――道程は険しそうにも見えます。
「私は荒唐無稽なことを言っているつもりはありません。何とか20年後に実現したい。本気で信じているし、やりたいと思っています」 =第2部おわり
2022年12月29日付掲載

――人の意識をコンピューターに“移植”できるのでしょうか?
「できると考えています。脳の神経細胞であるニューロンの一つひとつの電気的な信号を伝える働きは、そこまで複雑なものではありません。ニューロンが膨大に集まった脳は、少し手の込んだ電気回路に過ぎないと言うことができます。その電気回路を機械上に再現できれば、そこにも意識が宿ると考えられます。意識について研究しているオーストラリアのデヴィッド・チャーマーズ博士は、ニューロンを一つずつシリコン製に置き換えた場合、全てが置き換わっても意識が残るという思考実験を発表しています」
――理論的に可能でも、技術的には困難に思われます。どのような方法があるのでしょうか?
「例えば、マサチューセッツ工科大学発のベンチャー企業“ネクトーム”は、死亡した直後の人の脳を取り出してから、ニューロン同士がどう結合しているのかを読み取り、その情報をコンピューター上にコピーすることで意識を移植しようとしています。しかし、この手法では、移植されるのは死後の脳の情報です。仮に意識が移植できたとしても、主体としての連続性はありません。読み取り精度にも限界があります。私は、人が生きているうちに脳と機械を繋いで意識を統合し、記憶まで機械に転送する方法を提案しています」
――“機械に意識が宿る”とは、どういう状態のことを指すのでしょうか?
「私は、機械に意識が芽生えたのかテストする方法を考えました。人の脳には右脳と左脳があります。それを繋ぐ脳梁という神経線維の束を切断して分離すると、右脳と左脳で其々意識が生まれることが、アメリカのノーベル医学生理学賞受賞者、故ロジャー・スペリー博士の研究でわかっています。私達が左右の視野を一つの景色として見られるのは、脳梁を通して左右其々の意識が統合されているからです。そこで片方の脳を機械に差し替えて、それでも左右の視野を一つの景色として見ることができれば、“機械のほうにも意識が芽生えた”という証明になると考えています」
――脳と機械を接続する方法があるのですか?
「脳梁に平板な電極を差し込み、機械の脳と統合する新たな方法を考案しました。意識を移植する上で重要なことは、機械側に“記憶”をきちんと転送できるかです。そうでなければ、機械の中で目覚めても、自分かどうかはわからないですよね。この電極は、新たなブレインマシーンインターフェース(※BMI)として、特許取得に向けた国際出願をしています」
――機械の脳とはどういうものですか?
「人の脳と接続するので、脳の情報処理のメカニズムを真似たコンピューターを想定しています」
――意識がコンピューターに移植された場合、どんな世界で生きていくことになるのでしょうか?
「先ずは、映画“マトリックス”で主人公がBMIを通して没入していたような、デジタルの仮想空間になると思います。マトリックスでは、仮想空間で体験するあらゆる感覚が信号として生身の脳に入ってくることで、仮想空間の中にいることにさえ気付かない状態になっていました。私がやろうとしているのは、その状態から更に進めて、コンピューターに意識を移植して脳もデジタル化することです。但し、技術が進展すれば、仮想空間だけでなく、アバターのロボットとして実世界の中で生きていくこともできるでしょう」
――意識のアップロードの実現まで、どのように会社の事業を成立させるのでしょうか?
「認知症では、記憶を司る部位、海馬の損傷が進みます。例えば、海馬と大脳皮質の間にBMIを挟み、海馬をコンピューターに置き換えることで、記憶をとどめておくことが可能になると考えています。こうした需要が出てくると思っています」
――道程は険しそうにも見えます。
「私は荒唐無稽なことを言っているつもりはありません。何とか20年後に実現したい。本気で信じているし、やりたいと思っています」 =第2部おわり

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