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【誰の味方でもありません】(315) 野次馬精神と暴走する正義

https://www.dailyshincho.jp/article/2023/09280555/?all=1


キャプチャ  2023年9月28日号掲載
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テーマ : 政治・経済・社会問題なんでも
ジャンル : 政治・経済

【呉座勇一の「問題解決に効く日本史」】(39) 上司を論破しても敵を増やすだけ! 西郷隆盛に学ぶ人望の作り方

上司や同僚との人間関係に悩む社会人は少なくない。しかし、性格や仕事上の方針が合わないからといって、その人間関係を避けるわけにはいかない。どう付き合っていけばいいか。実は西郷隆盛が参考になる。西郷隆盛は薩摩藩の下級武士の家に生まれ、兄弟が多かったこともあり、幼少期には布団も不足する程の貧乏生活を送った。西郷は18歳で藩の役人となる。業務を通じて農民の苦しい生活を知り、農政改革の意見書を藩に提出した。これが藩主の島津斉彬の目に留まり、28歳の時に庭方役に抜擢された。同役は藩主の側近くに仕え、機密事項に与る重要ポストであった。以後、西郷は斉彬の側近として、将軍継嗣問題等の政界工作に従事する。ところが、32歳の時に斉彬が急死してしまう。幕府は一橋派(※一橋慶喜を次期将軍に就けようと画策していた斉彬らの派閥)に対する弾圧を強め(※安政の大獄)、前途を悲観した西郷は鹿児島湾で入水自殺を試みる。蘇生した西郷は、藩の命令により、奄美大島で流島生活を3年程送る。さて鹿児島では、新藩主・島津忠義の実父である島津久光が藩の最高権力者の座に就いた。久光の信任を得た大久保利通は、久光に働きかけ、盟友である西郷隆盛を藩政に復帰させることに成功した。この頃、島津久光は兵を率いて上洛し、幕政改革を行なおうと考えていた。しかし、久光と面会した西郷は、久光の計画は「無謀である」と痛烈に批判する。挙げ句の果てには、久光を“地ゴロ”と呼び捨てたという。地ゴロとは、薩摩の方言で“田舎者”という意味であった。田舎者の久光が京都に行ったところで、幕政改革などできる筈がない、という趣旨の発言だったらしい。

久光が不愉快に思ったことは言うまでもない。嘗ての主君である斉彬を崇拝していた西郷は、久光を斉彬と比較して劣ると見做していたのだろう。そのような久光を軽んじる気持ちが、地ゴロ発言に繋がったのではないか。西郷は更に久光の許可なく大坂に行き、勝手に政治工作を行なった。これを知った久光は激怒し、徳之島、更に沖永良部島への流島を命じた。沖永良部島での流島生活は、粗末な座敷牢に閉じ込められるという過酷なものだった。けれども、沖永良部島での苦難は西郷の人格を磨き、これまでの自分の生き方を反省するきっかけにもなった。薩英戦争に敗れて危機的状況に陥った薩摩藩は、藩の立て直しの為に西郷を呼び戻した。38歳の時である。再度の復帰を果たした西郷は、以前とは別人のようだったという。嘗ての西郷は己の才能を恃んで、誰に対してもズケズケと直言する人間だった。ところが、復帰後の西郷は謙虚で口数少なく、自分の本心を心の奥に隠すようになった。久光に対しても議論をふっかけるようなことはせず、敬意を払った。こうした態度の変化によって、西郷は益々人々から信望を集め、薩摩藩を代表する政治家へと成長していく。西郷隆盛というと、度量の広い大人物のイメージが強い。だが、西郷は生まれながらにそのような人間だったわけではない。寧ろ自分の意見が正しいと思うと、相手を徹底的に論破するような攻撃的・感情的な人間だった。西郷は、自分の激しい性格が失脚に結び付いたことを反省し、人間関係の円滑化の為に意識的に謙虚に振る舞ったのである。結果的にその努力は、明治維新という大仕事の土台形成にも繋がった。近年は論破ブームというものもあったが、上司や同僚をやりこめても敵を増やすだけである。我々は西郷を手本にして、周囲の人間のプライドを傷付けことなく、正しい結論に導く議論の進め方、配慮を身に付けるべきだろう。


呉座勇一(ござ・ゆういち) 歴史学者・信州大学特任助教・『国際日本文化研究センター』機関研究員。1980年、東京都生まれ。東京大学文学部卒。著書に『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』(中公新書)・『頼朝と義時 武家政権の誕生』(講談社現代新書)・『戦国武将、虚像と実像』(角川新書)等。


キャプチャ  2023年9月19・26日号掲載

テーマ : 歴史
ジャンル : 学問・文化・芸術

【台湾総統選2024・候補の素顔】(02) 侯友宜(国民党)…名刑事、“一つの中国”が壁

20230928 06
「人を貶して勝つのが選挙ではない。政策を批判しても、人の悪口を言うべきではない」――。侯友宜氏(66、右画像の中央、撮影/大原一郎)は今月上旬、新北市幹部との電話で選挙の話題になると、自らに言い聞かせるように話した。先月下旬、『鴻海精密工業』の郭台銘前会長の出馬表明により、野党陣営は事実上、3つに分裂した。侯氏は、票が割れる心配をする選挙スタッフにも「定めた方向に進むだけだ」と動揺を一切見せない。陣営内では「派手さはないが、大樹のように揺るがない」(国民党幹部)と厚い信頼を得ている。警察学校で同期だった立法委員(※国会議員)の游毓蘭氏は、「彼だけが遅刻、着衣の乱れ等の減点がない。自己管理が厳しかった」と振り返る。殺人や人質事件等数々の凶悪事案を解決した名刑事として名を馳せ、警政署長(※日本の警察庁長官に相当)に歴代最年少で起用された経歴も頷ける、折り目正しさと実直さがある。新北市長という行政マンとしての業績も輝かしい。数十年も放置されていたゴミ山を短期間で緑地に変えて喝采を浴びたのは、担当部門や専門家の進言をよく取り入れた結果とされる。党派色が薄く、実務家としての手腕と人柄で人気が高い――。2016年、2020年の総統選で連敗し、「後がない」と党勢衰退が指摘されて久しい国民党が今回、満を持して公認候補に立てたのが侯氏だった。

総統選の民選が始まった1996年以降、国民党と民進党の二大政党が交代で政権を担ってきた。“独立志向”を強めた民進党の陳水扁政権(※2000~2008年)が中国との関係を悪化させると、国民党の馬英九政権(※2008~2016年)が統治を引き継いだ。台湾の民意のバランス感覚だ。しかし、中国の習近平政権が統一圧力を強めるにつれて、国民党の対中融和の主張は寧ろ「中国に呑み込まれかねない」という警戒感を呼んだ。4月に実施された世論調査では、中台が“一つの中国”に属するという考え方に、67%が「賛成しない」と答えた。侯氏は昨年12月、総統選に立候補が見込まれる政治家の中でトップの40%近い支持率も得ていた。対中融和支持とは限らない中間層を意識し、中台が“一つの中国”原則で合意したとされる『1992年合意』について、受け入れるかどうかを「言わないことが戦略」(陣営関係者)とした。だが、党の政策綱領にも明記する1992年合意への曖昧な態度は、党内の郭氏の支援者ら中国との関係強化を求める層からの支持離れに繋がった。7月3日、テレビ番組に出演した侯氏は、条件付きで「1992年合意を受け入れる」と語った。中間層向け候補から、国民党の伝統的な候補のスタンスに転換した瞬間だった。それでも、支持率は2割前後で停滞している。党内では、警察官と地方行政の経験しかない侯氏の総統としての資質を疑問視する声もあった。6月の大学生との対話集会では、防衛問題や対外関係の質問に正面から答えない侯氏に会場から批判の声が上がり、印象を悪化させた。意見が割れがちな党に睨みを利かすこともできない党内基盤の弱さから、一部の立法委員からは「支持率が上がらないなら交代だ」という声も公然と上がった。党内では2020年の段階で、1992年合意は「古くなった」として、党の方針見直しも一時検討された。にも拘わらず、党幹部らが訪中する度に“合意の堅持”を繰り返し求める習政権に対して、受け身の状況が続いている。先月下旬、野党の候補者統一に関して問われると、「私は国民党から正式に選ばれた候補者だ。自ら降りることはない」と明言した。残り4ヵ月で、民進党への対抗軸を形成できるのか。侯氏の選挙戦は、100年を超える歴史を持つ老舗政党の浮沈をも象徴する。


キャプチャ  2023年9月16日付掲載

テーマ : 中朝韓ニュース
ジャンル : ニュース

【台湾総統選2024・候補の素顔】(01) 頼清徳(民進党)…信念の人、“独立”封印

来年1月13日に投開票される台湾総統選まで4ヵ月を切った。有力候補4人が名乗りを上げ、論戦を展開している。事実上、3分裂した野党は、候補者の統一を模索する動きを強める。焦点となる中国にどう向き合い、台湾を導くのか。其々の人物像に迫った。

20230928 05
迷いがない、という印象だった。先月25日、頼清徳氏(63、左画像の中央、撮影/大原一郎)が台北市内の民進党本部に日米欧等外国記者を集めた記者会見。あけすけに中国との対立を問う、台湾記者とは角度の違う質問にも、相手をじっと見つめながら、回答が滞ることはない。質疑の最後では、それまでの穏やかな口調を一変させ、こう締め括った。「台湾の総統は台湾人が決める。中国が選挙に介入して影響を与えれば、台湾の民主主義は破壊される」。行政院長(※首相)時代に自らを“現実的な台湾独立工作者”と言い切った頼氏を、中国は敵視する。先月の訪米後には、中国の軍用機は台湾側の空域で嘗てない長時間に亘って飛行を続けた。強まる一方の圧力に晒されても、緊張緩和に向けて折り合うのは“対等で尊厳のある状況”のみとの主張は変えない。1949年に中国から渡ってきた国民党の独裁時代と、李登輝総統(※当時)の下で進んだ民主化の時代を跨ぐ世代の政治家だ。炭鉱労働者の家庭に生まれた当時、政治活動や言論の自由はなく、“台湾独立”を口にするだけで重罪に問われ、社会は分断されていた。頼氏は2歳の時に事故で父を亡くし、女手一つで子供6人を養った母の姿から“不屈の精神”を学び、勤勉や実直さを養った。

内科医の道に進んだ後、台湾の政治と社会は転換期に入った。中国と台湾は別という“台湾人意識”も高まりつつあった。頼氏は、当時は“独立”を掲げていた野党・民進党の選挙を手伝い始めた。政界に飛び込んだのは、1996年、直接選挙による初めての総統選を前に、中国が台湾の周辺にミサイルを撃ち込んだ台湾海峡危機がきっかけだった。頼氏と25年以上の交流がある立法委員(※国会議員)の林俊憲氏は、「我々は国民党の独裁を打破したかった。政治への情熱が強い頼氏は『10年で結果を出す』と語っていた」と振り返る。その決意通り、頼氏は1999年から11年務めた立法委員時代には、有権者の声10万件超を“カルテ”として纏め、頭角を現した。ただ、「一番欠けているものは妥協だ」(台湾メディア)との指摘は根強い。演説は原稿に頼らずに自らの言葉で聴衆を引きつけるが、「何を言うのかひやひやする」(党関係者)との声もある。行政院長時代の“独立工作者”発言の代償は大きかった。“独立志向”を強めた陳水扁政権(※2000~2008年)が中台関係を緊張させ、アメリカの信用も失った過去と重なり、不安視する評価が今も付き纏う。9割近い住民が望む現状維持を貫いてきた蔡英文総統の後継者として、昨年11月に蔡路線の継承を打ち出した。今年4月に党公認候補に選出されると、「台湾は事実上既に独立し、改めて宣言する必要はない」との言い回しで、“独立”に動かないことを改めて強調した。先月の訪米時も要人と面会せず、中国への刺激を避けたいアメリカから一定の評価を得て、“独立”問題は沈静化しつつある。支持率がトップの40%前後で推移する頼氏は、総統選に加え、同日実施の立法委員選でも過半数を得る“完全勝利”を目指す。当選を果たせば、民進党は30年に及ぶ民主主義体制下で初めて、3期(※1期4年)連続で政権を担うことになる。ただ、『台湾民意基金会』の先月の世論調査では、完全勝利の不支持は46.1%で、支持(※44.5%)を上回った。そこには、同一政党の長期政権化を嫌う民意の傾向も指摘される。頼氏は、独裁からの脱却を目指し、自ら定着させてきた民主化プロセスからの挑戦にも直面する。先月末、党内の集会でこう強調した。「民主主義の道を歩み、台湾を強くしたい。優れた政党が政権をとり続けるのは、民主主義の精神に合致する。この選挙は必ず勝たなければならない」。


キャプチャ  2023年9月15日付掲載

テーマ : 中朝韓ニュース
ジャンル : ニュース

【30年ぶり肥満症薬】(下) 痩せ願望からの使用を警戒

20230928 04
約30年ぶりに新薬が承認され、肥満症治療に注目が集まる一方で、社会問題化しているのが、糖尿病治療薬のGLP-1受容体作動薬を“痩せ薬”として、糖尿病ではない人達に販売する美容クリニックの存在だ。公的医療保険の対象外で高額な為、購入者とのトラブルも起きている。更に、薬の供給にも影響が生じている。「コロナ禍でオンライン診療が普及し始めた2020年頃から、GLP-1受容体作動薬を通信販売する美容クリニックが増えてきた」。近畿地方の総合病院で、糖尿病患者らの診療に携わる循環器内科医は、そう振り返る。一部の美容クリニックは“GLP-1ダイエット”や“メディカルダイエット”といった言葉で、痩せ願望がある人を引きつける。「1ヵ月に数㎏減る程度の食事や運動療法に対し、GLP-1受容体作動薬を使うと大きな減量効果が期待できる点や、脳に働きかけて空腹を感じ難い点を強調している」と話す。契約トラブルも発生し、2020年9月には『国民生活センター』が注意喚起の文書を公表した。同センターによると、本来、糖尿病の診断を受けて処方される薬が、十分な説明や問診がないまま販売されているという。担当者は、「利用者は糖尿病の薬とは知らず、“痩せる為の薬”と思って申し込み、副作用にも対応してもらえない事態が起きている」と話す。

『日本肥満学会』の横手幸太郎理事長も、「正常血糖の人が使用すれば低血糖となり、失神するケースもある。若い女性が痩せ過ぎると感染症に罹り易くなったり、不妊になったりする」と事態を憂慮する。更に深刻なのが、GLP-1受容体作動薬の在庫への影響だ。横手理事長は、「痩せ薬として使われてしまうと、本来使うべき人達が使えない」と心配する。事実、『日本イーライリリー』等は、3月に週1回投与の『トルリシティ』(※一般名は『デュラグルチド』)、7月には、6月に発売したばかりの新薬『マンジャロ』(※一般名は『チルゼパチド』)の出荷制限を発表した。『ノボノルディスクファーマ』も、週1回投与の『オゼンピック』(※一般名は『セマグルチド』)を出荷停止や出荷制限にしている。メーカー2社は、在庫逼迫の理由を「世界的な需要増の為」と説明する。しかし、臨床の医師の間には「美容クリニックの適応外使用も一因」との見方が広がる。前出の医師は、「今年に入り、新規の糖尿病患者への処方は控えるよう制限がかかった。肝心の保険診療に薬が足りない状況は本末転倒だ」と憤る。『北里大学北里研究所病院』糖尿病センター長の山田悟氏は、「新規患者にトルリシティが使えなくなり、以前から使っている患者への継続処方も別の薬への切り替えが求められた。トルリシティは他のGLP-1受容体作動薬よりも痩せ難い特徴がある為、痩せさせたくない高齢の患者の治療に適していた。更に、オゼンピックの新規処方も止められ、治療選択が難しくなっている」と打ち明ける。厚生労働省は7月28日、都道府県等に文書を出し、GLP-1受容体作動薬が真に必要とする糖尿病患者に供給されるよう、買い占め等を控え、適正使用に努めることを医療機関等に周知するよう求めた(※右上画像)。『ウゴービ』等の肥満症新薬の発売日は未だに決まっていない。横手理事長は、「肥満症治療薬が発売されると、痩せたい人が飛びつくことが懸念される。発売の際は、薬による治療が必要な肥満とはどんな状態かという点等を啓発する必要がある」と話す。

          ◇

(医療プレミア編集部)高野聡が担当しました。


キャプチャ  2023年9月20日付掲載

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

【30年ぶり肥満症薬】(上) 患者の治療に新たな選択肢

20230928 03
今春、肥満症治療の自己注射薬『ウゴービ』(※一般名は『セマグルチド』)の製造販売が承認された。肥満症治療の為の新薬は、1992年に登場した『サノレックス』(※一般名は『マジンドール』)以来。今後、発売されれば約30年ぶりに肥満症治療の選択肢が広がると注目されている。ウゴービは、肥満症の患者に対して医師が処方する医療用医薬品に当たる。抑も、肥満症とは肥満とどう違うのか。『日本肥満学会』の横手幸太郎理事長は、「BMIが25以上で、脂質異常症や高血圧等の健康障害がある人が肥満症に該当する」と説明する。BMIは体重(※㎏)を身長(※m)の2乗で割ったもの。18.5以上25未満が適正とされ、18.5未満はやせ過ぎ、25以上は肥満にあたる。「世界保健機関(※WHO)では25以上30未満を過体重、30以上を肥満としているが、日本人の場合、30にならなくても糖尿病や脂質異常症になり易い」と横手理事長。そこで、BMI25以上に加えて、肥満に伴う11の健康障害がある人を肥満症として、公的医療保険による治療の対象としている。では、日本人のどれくらいが肥満症に該当するのか。国民健康・栄養調査(※2019年)によると、BMI25以上は男性の33.0%、女性の22.3%。しかし、11の健康障害がある割合まではわからないという。

長年、肥満の唯一の治療薬とされてきたのがサノレックスだ。この薬は食欲抑制薬で、BMI35以上の人等を対象に、3ヵ月を上限として投与される。横手理事長は、「現在のように充実した治験がなされていない時代に承認されており、覚醒剤と似た特徴がある為、長期間の投与に伴う問題が懸念された。それで使用期間の指導が付いた」と解説する。だが使用期限があると、サノレックスで減量しても、3ヵ月経って薬を止めると元に戻ってしまうという不便さがあった。ウゴービは、週1回投与の糖尿病薬『オゼンピック』と同じセマグルチドという成分を使ったGLP-1(※グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬と呼ばれるタイプの注射薬だ。GLP-1は体内にあるホルモンで、食べ物が小腸に達すると分泌され、血糖を低下させるインスリンの分泌を促す。セマグルチドはGLP-1によく似た構造で、注射するとGLP-1同様にインスリン分泌を促進し、血糖値を下げる。実際に糖尿病治療に使用する中で、GLP-1受容体作動薬に体重減少や食欲抑制の効果があることがわかり、肥満症治療薬としての開発が進んだ。BMI30以上の成人ら約2000人を対象にした国際共同治験では、68週で体重が平均15.6%減少した。治験を通じて、糖尿病治療で投与する量よりも高用量を投与すると高い体重減少効果が確認された為、同じ週1回投与でも、肥満症薬のウゴービの投与量はオゼンピックよりも高く設定されている。投与の対象となるのは、高血圧、脂質異常症、Ⅱ型糖尿病の何れかがあり、食事療法・運動療法で十分な効果が得られないことを前提に、“BMI35以上”或いは“BMI27以上で肥満に関連する2つ以上の健康障害がある”人。横手理事長は、「これまでの肥満治療では、食事・運動療法という一般的な治療と胃を切除する外科治療の間の治療法がなかった。治療薬で減量をサポートできれば、患者の健康やQOL(※生活の質)が改善する。薬の登場で高血圧や脂質異常症の治療が進んだように、肥満症の治療も前進する」と期待を寄せる。


キャプチャ  2023年9月13日付掲載

テーマ : 医療・病気・治療
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【木曜ニュースX】(397) 金正恩が脱北阻止を徹底…「もはや中朝国境越えは物理的に不可能」、体制動揺を警戒し鉄条網増

北朝鮮から中国を経由し、韓国に入国する脱北者が急減している。北朝鮮が新型コロナウイルスの流行期、中朝国境地帯の鉄条網を増設する等、国外脱出を阻む態勢を強化したからだ。北朝鮮の住民が抑圧や飢餓から逃れるルートが閉ざされかけている。 (取材・文/ソウル支局長 中川孝之)



20230928 02
「金正恩は脱北をゼロにしようとしている。中朝国境を越えるのは、物理的に不可能になった」――。韓国の『脱北者同志会』の徐宰坪会長(53)は厳しい表情で語る。自身も北朝鮮出身だ。北朝鮮で地質調査の仕事をしていた約20年前、韓国のラジオ放送を聴いて逮捕されそうになり、故郷を脱出した。今は韓国で脱北者を支援する。徐さんは先月、北朝鮮の住民から切迫した声で「このままでは餓死する。韓国に行きたい」と相談された。北朝鮮北部では中国製の携帯電話を使い、韓国と通話することができる。「今は助ける方法がない」。そう答えるしかなかった。北朝鮮から脱出する場合、韓国との軍事境界線は両国軍の警備が厳しい上、無数の地雷も埋まっており、一般人が通過することはできない。この為、ブローカーの手を借りながら中朝国境を越えて中国に入り、陸路で東南アジアまで南下するルートが利用されてきた。タイ等で韓国政府の保護を求めれば、空路で韓国に入国することができる。北朝鮮はコロナ禍をきっかけに、このルートを潰そうとしている。金正恩政権は2020年1月、新型コロナウイルスの流入を防ぐとの名目で、中朝国境でのヒトやモノの往来を止めた。同時に、国境地帯にフェンスを増設する等の大規模な工事を行なってきた。国際人権団体『ヒューマンライツウォッチ』が昨年11月に発表した衛星写真の分析によると、中朝国境を流れる豆満江沿いの咸鏡北道・会寧では、川沿いのフェンスの強化工事が行なわれ、50m毎に監視所が設置された。この第一フェンスに平行し、第二フェンスも建設された。増設工事は、川幅が狭く、脱北ルートになってきた豆満江沿いで先行して実施された。フェンスはコンクリートや鉄条網で造られ、一部区間では電流が通されたとの情報もある。

徐さんによれば、北朝鮮当局は2025年までに、全長約1300㎞以上ある中朝国境全域にフェンスを設置する予定だ。北朝鮮は国境警備隊の配置も頻繁に変更している。1ヵ所で長く勤務し、近隣住民と接する機会が増えれば、「賄賂を受け取って脱北の手助けをする者が出てきかねないから」(徐さん)だという。北朝鮮情報専門サイト『デイリーNK』の李尚龍ディレクター(43)によると、北朝鮮の社会安全省(※日本の警察庁に相当)は2020年8月末、「国境を越えようとする者を発見した場合は射殺してもよい」という布告文を出した。住民に恐怖感を与え、脱北を思いとどまらせる狙いがある。中国の中朝国境近くには、北朝鮮の工作機関である偵察総局の若い要員が送り込まれ、脱北者の捜索や摘発を行なっているという。「脱北者を支援する中国人の動向を監視し、脱北者と接触した現場を急襲することもある」と李さんは証言する。現在の中国国内の状況も脱北者には不利だ。中国は、北朝鮮から逃げた住民を“不法滞在者”と見做し、逮捕すると北朝鮮に強制送還する。顔認証システムや高性能カメラ等、中国の街に設置されたハイテク監視技術が脱北を阻む。元北朝鮮軍人で、過去20年間に数千人の脱北を支援した『脱北難民人権連合』の金龍華会長(70)は、この夏、中国東北部を訪れた。北朝鮮が国境の管理を緩和し、貿易や人の往来が再開する動きがある為、新たな脱北の可能性を探ろうとした。しかし、金さんは「中国国内が危険だ。監視網をかいくぐるのは極めて難しくなった」と結論付けるしかなかった。嘗て中国に逃れた北朝鮮住民らは、ブローカーの用意した偽の身分証で中国朝鮮族になりすまし、鉄道やバスで東南アジア国境まで移動する手法をとった。現在は身分証のデジタル化等が進み、偽造は不可能になった。乗用車やタクシーを乗り継いで東南アジアに向かうしかないが、高速道路でも厳しい検問がある。中国から韓国に帰国する当日、ホテルに来た中国警察から事情聴取を受けた。警察官は、金さんが実際に行った市場の名前等を挙げてみせ、「何の用事で行ったのか?」と質問した。「『行動は全てお見通しだ』という警告だった」。金さんは苦い表情になった。脱北者が増えたのは、“苦難の行軍”と呼ばれた1990年代半ばの食糧危機がきっかけだった。1995年の大洪水等で配給制度が崩れ、数十万~数百万人が餓死したと推定されている。歴代の韓国政府は脱北者を受け入れ、就学や就職、住居の斡旋等の定着支援を行なってきた。その後、北朝鮮からの脱出を支援する団体が活動を強化したこと等から脱北者は増え、2009年には年間2914人が韓国に入った。韓国に定住した脱北者は約3万4000人に上る。しかし、金正恩政権になると国境警備の強化によって減少傾向が続き、中朝国境でのヒトやモノの往来が止められた2020年以降は急減。昨年は67人にとどまり、ピーク時の2009年の40分の1以下になった。今年は6月までに99人が韓国入りしたが、最近の脱北者の殆どは中国やロシア等に労働者として滞在し、職場から逃げた人達だ。中朝国境を越えたケースはごく僅かとされる。徹底した脱北阻止は金正恩総書記の強い意向が反映されている。正恩氏は独裁体制が動揺することを最も恐れているとされる。韓国統一省の関係者は、脱北者が北朝鮮に残る親戚や知人と連絡を取ることで、「外部の情報が北朝鮮に入り、住民が北朝鮮の体制に疑念を持つことに神経を尖らせている」と分析する。正恩氏の指示を受けた妹の金与正氏(※党副部長)が、中朝国境沿いの両江道・恵山を視察し、国境の統制強化を指示したとの情報もある。正恩氏は2021年1月の党大会で、“反社会主義・非社会主義”と闘争するよう大号令を発した。韓国ドラマ等、資本主義文化の流入を遮断することを意味し、脱北阻止もここに含まれる。平壌や地方毎に連合指揮部が設置され、統制強化の成果を競い合っている。

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テーマ : 中朝韓ニュース
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【堀江宏樹の「セックスで読み解く日本史」】(10) 江戸時代の遊女は“パイパン至上主義”

江戸時代の日本では、その人の社会的階層や職業は外見で明らかでした。プロの女性である遊女達が、何本もの笄と呼ばれる鼈甲製の飾りを髪に挿し、素人女性とは隔絶した派手なビジュアルを誇ったのはその為です。自然界では毒のある生き物ほど華やかな風貌をしているのと同様に、遊女達も、男達が気軽に手出しできない空気を纏っていたことでしょう。遊女達は“プロの女性”として、あそこの外見にも拘りました。明治から昭和時代初期の川柳研究者である西原雨が纏めた『川柳吉原志』という書物に、“十本程 額へ残す てんや者”・“小綺麗に 毛を引いておく てんや者”等の句が収録されています。「以下の数句は遊女の風俗史上省くべからざるものとして採録し置きたるも、説明は省略しておく」という説明がついていますが、これだけだと現代人には何の意味かもわからないでしょう。先ず、この句に出てくる“てんや者”とは、現代では“出前されてくる飲食物”を指しますが、嘗ては“プロの女性”を指しました。つまり、遊女です。遊女達が“額へ残す”とか“毛を引いておく”のは、髪ではなく陰毛の話で、商売道具であるあそこの見た目を気にする遊女達は、陰毛は殆ど全部抜いて外見を整えていたようです。勿論、陰毛が長く、密集し過ぎていると、男性のあそこに絡みつき、“毛切れ”という怪我をさせるからという配慮もあったでしょうが、毛がないほうが男性客のペニスが女性器に出たり入ったりするさまが丸見えだから、それで楽しませたいというプロ意識の反映だったと考えられます。

江戸時代は男女混浴の銭湯で、素人女性も大っぴらに陰毛ケアを行なっていました。これは男女共に行なうので、銭湯には専用の毛切り石が置いてあった程です。“下刈り”・“摘草”・“毛引き”等と多彩な表現があることから、ごく一般的な行為だったことが推測されますが、やはり素人は痛いのが嫌だから、抜くのではなく剃るのですね。その一方で、ツルツルになるまで毛を抜くのがプロ仕様のあそこです。川柳にも“吉原の 土手通るほど 草を抜き”・“売り物は 草をむしって 洗う鉢”等とあります。あそこが(ほぼ)無毛であるべきというルールが遊女達に根付いた時期は不明ですが、中国文化が与えた影響は無視できません。唐代の詩人である白行簡(※白居易の弟)が天と地、陰と陽の交歓を、男女の性行為で表現した詩において、「亦タ出ルヲ看、入ルヲ看ル」等と態と目的語を省いていますが、これは女性器に出し入れされるペニスが丸見えの状態――つまりパイパンの女性器との性交を指すのでしょう。ここから転じて、唐文化を重んじた平安時代の日本に“パイパン至上主義”が定着していたとしてもおかしくはないと考えられるのです。因みに、この白行簡の詩、シルクロードの名所である敦煌・千仏洞の内部にこっそり書かれていたのを、フランス人探検家のポール・ユジェーヌ・ペリオに発見されたものです。今日では「寺院に性描写の漢詩!?」と思ってしまいますが、昔は寺院だからこそ、という感覚でしょう。性器には魔除けの呪力があり、寺の壁や仏像の礎石にその絵等を入れることは、中国や日本では罰当たりな行為どころか、信仰心の表れでした。江戸時代の吉原でも、客が全然来ない不運の日は悪い空気を断ち切る為、遊女達は店の外に出て着物の前を捲り、あそこを丸出しにして開運のまじないとしたそうですが、ある種の客引きにもなっていたことでしょう。


堀江宏樹(ほりえ・ひろき) 作家・歴史エッセイスト。1977年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒。日本・世界を問わず、歴史の面白さを拾い上げる作風で幅広いファン層を持つ。著書に『乙女の日本史』シリーズ(KADOKAWA)・『眠れなくなるほど怖い世界史』『愛と欲望の世界史』『本当は怖い日本史』(三笠書房)・『偉人の年収』(イーストプレス)等。


キャプチャ  2023年8月号掲載

テーマ : 歴史
ジャンル : 学問・文化・芸術

【水曜スペシャル】(654) 楽天のトヨタ自動車出身副社長2人の悪評…三木谷浩史会長の腰巾着に不満の声

20230927 07
『楽天グループ』に2人いる『トヨタ自動車』出身の副社長執行役員の評判がよろしくない。『楽天モバイル』がグループの足を引っ張る中、先月には楽天モバイルの共同CEOだったタレック・アミン氏が退任。同氏は楽天モバイルの仮想化技術のキーマンであり、責任をとった格好だ。楽天モバイルの経営トップは、これまでも交代している。一方、「何故彼らが居座っているのか?」と名指しされるのが、グループの副社長執行役員を務める百野研太郎氏と武田和徳氏だ。トヨタ出身という共通点がある他、楽天が『日本郵便』との提携で設立した物流会社『JP楽天ロジスティクス』の役員を務める。武田氏は三木谷浩史会長兼社長とハーバード大学経営大学院時代の同期生という縁で取り立てられたが、「結果を出していない」(同社関係者)。百野氏も「三木谷氏にごまをすっているだけ」(同)という。そうした中で、JP楽天は未だに赤字体質から抜け出せず、楽天のEC事業の物流改革も道半ばだ。社内では、この2人のせいで士気も下がっているという。


キャプチャ  2023年9月号掲載

テーマ : 経済ニュース
ジャンル : ニュース

【水曜スペシャル】(653) ユニクロとZOZOの創業者が揃って“持ち株売却”の何故今

20230927 06
『ユニクロ』を展開する『ファーストリテイリング』会長兼社長の柳井正氏や、インターネットアパレル『ZOZOTOWN』を展開する『ZOZO』創業者の前澤友作氏が、持ち株を大量売却している。本人達は理由を語らないが、市場関係者は「デフレ企業崩壊の前兆」と警戒する。柳井氏が先月、関東財務局に提出した報告書によれば、同氏は7月18~31日にかけて約175万株を売却した。短期間で600億円程の巨額を売り捌いたことになる。前澤氏は年初から毎月、保有株を市場内外で売り続け、500億円弱分を手放したとみられる。ユニクロとZOZOはデフレ経済下で躍進したが、現下の日本の消費者物価指数の上昇率は3%台超えのインフレが止まらず、個人消費は落ちこむ。直近こそ両社の業績は好調だが、株売りは「デフレ小売企業がここをピークに落ち込む前兆」と市場関係者は見る。デフレ企業の代表格『日高屋』を運営する『ハイデイ日高』の創業者、神田正氏は従業員に「感謝の気持ち」として持ち株を無償譲渡した。「これも最後のご褒美になる可能性がある」(同)と囁かれる。


キャプチャ  2023年9月号掲載

テーマ : 経済ニュース
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George Clooney

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