【佐藤祥子の「力士、燃ゆ」】(11) 阿炎(錣山部屋)――謹慎生活で心が成長、あわや優勝の復活劇
のびのびと長い手脚で土俵狭しと飛び回る“やんちゃ関取”が、一年納めの九州場所で幕内に復活した。元関脇・寺尾の錣山親方が育てた愛弟子の阿炎だ。阿炎は『日本相撲協会』のガイドライン違反により、昨年9月の秋場所から3場所の出場停止処分を受け、処分明けの今年3月の春場所では西幕下五十六枚目まで番付を落としていた。しかし、怪我や病気での休場ではなく、身体は至って健康故に、復帰場所では何なく優勝し、翌5月の夏場所も幕下連続優勝を果たす。7月の名古屋場所で十両に復活すると、翌9月の秋場所でも十両優勝。各土俵で実力差を見せつけて、番付を一気に戻してゆく。幕内の土俵に戻った先場所は、西前頭十五枚目の地位で横綱・照ノ富士と対戦を組まれるほどの快進撃。優勝争いを盛り上げ、12勝の成績で敢闘賞を受賞した。謹慎処分を受けた当時、新婚ホヤホヤで長女が誕生したばかりの阿炎だったが、奔放だった行動を諫められ、妻子と別居しての“錣山部屋での単身生活”もその処分内容に含まれていた。後に処分が解除されるも、阿炎は「幕内の土俵で勝ち越すまでは家族と一緒には住みません」と、妻子との同居は自ら“お預け”にしていたという。ガイドライン違反処分前にも、SNSで問題動画を上げたり、その為のSNS講習会では、反省どころか「講習内容は寝ていて聞いていない」と発言し、そのやんちゃな言動や“ビッグマウス”ぶりで、師匠の頭を度々悩ませていたものだった。師匠曰く「まだまだ大人になりきれていない子供です」との阿炎だったのだが、この度の厳しい処分――。お灸が些か効き過ぎたのか、その手脚のようにのびのびした性格も言動もなりを潜めて、すっかり大人になった模様。「師匠からは『感謝の気持ちを忘れないように』と言われ、肝に銘じている」と口元を引き締め、謙虚で殊勝だ。未だ27歳の若さでもある。最高位は小結だった阿炎だが、今後は心身共に充実し、それ以上の番付を狙えるだろうか。精神的に一回り成長して、再び臨んだ幕内の土俵。目標だった“幕内での勝ち越し”以上の活躍で、晴れて妻子と共に年越しできそうだ。
佐藤祥子(さとう・しょうこ) 相撲ライター。日本相撲協会認定・相撲健康体操指導員。1967年生まれ。週刊誌記者を経て、1993年からフリーに。著書に『相撲部屋ちゃんこ百景』(河出書房新社)・『知られざる大鵬』(集英社)等。
2022年1月号掲載
佐藤祥子(さとう・しょうこ) 相撲ライター。日本相撲協会認定・相撲健康体操指導員。1967年生まれ。週刊誌記者を経て、1993年からフリーに。著書に『相撲部屋ちゃんこ百景』(河出書房新社)・『知られざる大鵬』(集英社)等。

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