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【火曜特集】(687) 廃棄物から最先端技術に迫る!? 理化学研究所を狙う中国の陰に元国会議員

日本の科学技術を担う『理化学研究所』。まさに“聖域”とも言える組織だが、世界の覇権を握る野望を隠さない中国の触手は、予想を超えた形で着実に迫っている――。 (取材・文/フリージャーナリスト 時任兼作)

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世界をリードする技術に関わる理化学研究所。日本の科学の総本山であるが、飽くなき野望を持つ中国は勿論、放ってはいなかった。実は、2010年代には100名を超える研究者を派遣していたのである。中国共産党の機関紙『人民日報』電子版は、2016年11月1日、その中の1人にフォーカスし、理研の内情を詳らかにしている。この記事は理研の影の部分をも指摘しているのだが、それほど内部事情に通じている中国人研究者がいる以上、最先端技術に中国が手を伸ばすのも容易なのではないか、と思ってしまう。だが、記事に書かれているように、研究者は“誰もやっていない研究”をしているわけで、その中身に触れるのは至難の業だろう。換言すれば、自分の研究以外には手が出せないのが実際のところのようだ。そこで、中国は最近、新たな情報工作を開始したという。公安関係者が語る。「意外というか、機密保持の盲点を突くような奇抜な工作が先頃、確認された。日本の技術を盗むというと、工作員を送り込んだり、技術者を買収したり、ハニートラップにかけたり、機密データをハッキングしたり、と思われがちだが、今回は“廃棄物”に着目した工作だった。手口は廃棄物を入手し、それを解析することで最先端技術に迫ろうというものだ。特に、人体に関わる生命科学については垂涎の的となっている」。同関係者によれば、こうした工作は日本の産廃企業を介して行なわれているとのことだが、だとすると中国は、その企業を支配下に置いていることになる。どんな経緯でそこに至ったのかを質すと、こんな答えが返ってきた。「中国の政府中枢と太いパイプを持つ元国会議員が暗躍し、中国に協力させるよう段取りをした」。当該企業は関西にあるが、理研の大阪や兵庫の拠点に焦点を当てている為だという。調べてみると、理研は大阪に『生命機能科学研究センター』を、兵庫には同センターに加えて『放射光科学研究センター』を置いていることがわかった。放射光科学研究センターでは、大型放射光施設『SPring-8』の運用や最先端の高エネルギー光科学の研究等が行なわれている。それにしても、ゴミから最先端の研究内容を明らかにすることができるのか甚だ疑わしいが、そこまでしても手にしたいという中国の貪欲な執念が恐ろしい。


キャプチャ  2023年10月号掲載
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テーマ : 中朝韓ニュース
ジャンル : ニュース

【脳は成長する】第3部・軍民の狭間で(下) 識者2氏に聞く

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■もう絵空事でない  福士珠美氏(東京通信大学教授)
BMI(※脳と機械をつなぐ技術)を含む、脳に関する技術(※ニューロテクノロジー)の軍事応用の可能性は多岐に亘る。単に兵器を操作するだけでなく、兵士のトラウマ等精神疾患の治療にも応用できる。その為、記憶を消したり、敵を殺す時の罪悪感を覚えさせないようにしたり、AIに人間の脳を制御させたりすることもできるようになるだろう。倫理的な懸念はいくらでも想像できる。一方で、日本の技術は未だ軍事に使える水準からは遠いと考える。頭部に埋め込まない脳波計を使い、読み取った脳波で思い通りに機器を操作する技術も確立されておらず、戦闘機を自在に動かすこと等はできない。しかし、アメリカ国防総省・国防高等研究計画局(※DARPA)は1990年代からニューロテクノロジーに投資を続けている。世論の許容度を考慮して積極的に公表していないが、実際には実戦配備が間近な、精緻な技術もあるのではないか。中国がどのように投資しているかは公表資料が少なく、実態が掴めないが、兵士の健康を守るというよりは、攻撃手段の一つとして検討されている可能性がある。技術として実用化は遠いかもしれないが、世界的な情勢から見ると、日本で思われているほど遠くはないという状況にある。BMIは嘗て絵空事のように言われていたが、実業家のイーロン・マスク氏が率いる企業が参入する等、臨床に応用可能な技術になっている。「こんなことができると大変」「社会皆で考えよう」と思考実験をするだけでは、もう許されない時代になっている。民生利用のルール策定に関しては、2010年代から国際的な動きが活発化している。『経済協力開発機構(OECD)』や『国連教育科学文化機関(UNESCO)』の委員会が、利用や開発に当たって留意すべきことについて、提言を公表した。現在は『国際標準化機構(ISO)』や『全米電気電子学会(IEEE)』で、工業規格等の議論も始まっている。ただ日本では、ニューロテクノロジー全般を扱なう行政機関の部署がはっきりしない。国際的な窓口になる省庁や組織が明確化されるべきだ。日本では昨年、経済安全保障推進法が制定され、最先端の重要技術の開発支援や保護が始まった。ニューロテクノロジーの軍事応用で国際的な議論は未だ始まっていないが、ルール作りにどういったスタンスで臨むのか、方向性を決めていかないといけない。

20231117 05
■人体実験に指針を  橳島次郎氏(『生命倫理政策研』共同代表)
軍民両用(※デュアルユース)技術の研究費を助成する、防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度の対象に、脳科学関連の研究が入り始めた。学術研究機関でのデュアルユース研究に「絶対反対」という声もあるが、防衛省と契約を結ぶ企業だけに、軍事研究を閉じ込めてしまうと市民社会の目が届かなくなる。BMIが危険な兵器の開発に繋がる可能性は、原子力等他の技術に比べると低いだろう。研究者は防衛予算を、人類全体に役立つ研究に繋げる気概をもって活用してほしい。BMIは例えば、様々な障害がある人の社会参画を助ける技術になり得る。そうした研究成果を広く示すことで、学術研究機関には防衛関連等の活動を社会に繋ぎ留める役割を果たしてほしい。但し、デュアルユースの研究は、成果の使われ方について、研究者が責任を持って見守る必要がある。『日本学術会議』は2017年の声明で、防衛関連の研究助成に対し、大学等の研究機関には倫理面の適切性を審査する制度を、学会には指針を設けることを求めている。軍事関連の予算を貰うのであれば、研究の適切性がどういう基準でどのように審査されたのか、公開されるべきだろう。BMIの軍事応用は、兵士と兵器システムをインターネットで直接的に接続する技術として発展すると予想される。ロシアのウクライナ侵攻では、サイバー攻撃が盛んに行なわれる等、インターネットの空間も戦場になった。将来的に様々な軍事行動が、サイバー空間とBMIを通じてなされるようになるだろう。そこでBMIは、人工知能を搭載した兵器システムの暴走を防ぎ、人間の側に繋ぎ留めておく為の防波堤として運用されるべきだ。しかし逆に、BMIを通じて、兵士が人工知能の指揮を受ける端末のように扱われる恐れもある。中国軍機関紙では、兵士の脳をインターネットで繋げる“脳のインターネット”の構築が提唱されている。そこでBMIがハッキングされれば、敵から視覚等の認識や行動を制御されるリスクも出てくる。BMIの安全性を確かめるには人間で実験しないといけないが、兵士は研究対象にされることに同意するかどうか意思を表明し難い弱い立場にある。アメリカでは国防総省の指針でその点が配慮されている。日本でも軍事目的の人体実験について、そうした倫理指針が必要なのではないか。 (聞き手/大阪本社科学環境部 池田知広) =シリーズ完


キャプチャ  2023年4月21日付掲載

テーマ : テクノロジー・科学ニュース
ジャンル : ニュース

【脳は成長する】第3部・軍民の狭間で(中) 防衛装備庁が脳研究を支援

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ロケットやAI等、軍事利用と民間利用の両方に応用できるデュアルユース(※軍民両用)技術。日本政府は研究機関に資金を出し、最先端の技術を発掘しようとしている。これまでは理工学が研究支援の対象だったが、近年になって脳科学等生命科学のテーマの研究支援にも乗り出している。今年1月、国際神経回路学会誌『ニューラルネットワークス』に『自分の状態への気づき』という論文が載った。研究で実施した実験では、参加者36人に一定の時間の呼吸数を測る等、簡単な課題をしてもらっている時に脳波を計測する等して、自分が注意散漫だと気付けるかどうかを調べた。自分の思考や行動等を客観的に捉える“メタ認知”の研究という。論文を投稿したのは、国内で脳情報科学の研究開発をリードしてきた会社『国際電気通信基礎技術研究所(ATR)』のチーム。研究プロジェクトを率いる動的脳イメージング研究室の川鍋一晃室長は、「自分の状態を客観的に捉えられるようになれば、就職活動の面接や仕事で部下を指導する時、的確なコミュニケーションが図れるようになる。研究成果は、脳の状態を即時に可視化できるBMI(※脳と機械を繋ぐ技術)の開発につなげたい」と説明する。メタ認知は、自制心を保ったり、問題解決能力を高めたりするのに繋がるとして、近年は教育やビジネスの分野で注目されている。一見、軍事とは関係がないように見えるが、ATRの研究に資金を出しているのは、自衛隊の装備品の研究開発も担う防衛装備庁だ。防衛装備庁は2015年度、大学や企業から最先端のデュアルユース研究を公募して委託する安全保障技術研究推進制度を始めた。2020年度以降、ATRのメタ認知の研究を含め、脳情報科学に関する研究4件に資金を助成している。

何故、防衛装備庁は脳科学に目を付けたのか。その目的の一つが、人為的ミスの発生を減らすことだ。脳にかかる負荷が高まって注意散漫になると、人為的ミスが起き易くなる。メタ認知の研究について、同庁技術振興官の南亜樹さんは「判断能力を高める為の自衛隊員のトレーニングに生かしたい」と話す。更に、南さんは次のように説明する。「BMIにより、機器を手を使わずに操作できるようになれば、もう1本、手が増えたのと同じことになる。例えば(機器の)非常停止が手を動かす前に脳波でできるなら、非常に有用ではないか」。自衛隊員は訓練や有事の際、機器の操作や状況の判断に一刻一秒を争う場合が多い。BMIの活用で、隊員の意思決定や情報伝達を早められることを期待しているのだ。こうした脳科学研究の公募に当たって、防衛装備庁はアメリカ国防総省・国防高等研究計画局(※DARPA)の研究プログラムを手本にしている。DARPAは2018年から、外科手術を伴わないBMIの研究6件に資金を出している。BMIは、脳波の読み取り精度を高めようとすると、頭蓋骨を開ける手術をし、機器を埋め込まなければならない。計画を率いるDARPAのゴパル・サーマ博士は、「埋め込み型のBMIはリスクやコストが高く、一部の人しか利用できない。そのリスクを取り除ければ、BMIを普及させられる」と説明する。防衛装備庁が研究開発を見据えるBMIの機器も、手術不要で着脱可能なものを念頭に置いている。今年度の委託研究制度では、公募テーマの中で「(体を傷付けない)非侵襲BMIの実現が期待される」と記した。一方、委託研究制度を巡っては、『日本学術会議』が2017年に「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」とする声明を出した。防衛装備庁は指摘を受けて、論文投稿等研究成果の公表を制限しないことや研究に介入しないことを公募要領に明記した。自衛隊もBMIを使う日が来るのだろうか。南さんは「直ぐに防衛装備品になるとは思っていない」と話しつつ、「将来的には現場で使いたい」と期待感を示す。研究成果の実用化に向けては、防衛装備庁が改めて独自に開発に取り組むことになる。BMIは、日本が国際的な地位を保つ為に不可欠となる先端技術として、経済安全保障の意味でも熱い視線が注がれている。内閣府は昨年、“重要な先端技術”20例の一つとしてBMIを挙げた。ATR脳情報通信総合研究所の川人光男所長らは2010年、「戦争や犯罪にBMIを利用してはならない」等と定めた倫理原則を提案した。ただ、BMIはデュアルユースで、軍事転用の可能性を秘める。近年は特に、転用される可能性を見極めて研究を一律に規制することが難しくなっている。メタ認知の研究を率いるATRの川鍋さんは「現段階では、防衛装備品への直接的な利用を想定していない。研究者として、常に研究がどのように使われているかを意識しておくことが重要だ」と話した。 (取材・文/東京本社くらし科学環境部 松本光樹/大阪本社科学環境部 池田知広)


キャプチャ  2023年4月20日付掲載

テーマ : テクノロジー・科学ニュース
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【脳は成長する】第3部・軍民の狭間で(上) 軍事転用へ米中競争

脳と機械を繋ぐ技術は、医療やビジネスの世界だけでなく、安全保障の分野でも実用化が模索されている。中でもアメリカと中国は、技術開発で鎬を削る。

20231116 07
国際学術誌『サイエンティフィックリポーツ』のウェブサイトには、中国・杭州の浙江大学が実施したある実験の映像が公開されている。箱の中に迷路のようなコースが設けられ、コース上には所々に矢印がある。背中に通信装置を背負った白いネズミは、スタートの位置から歩き出すと、矢印の意味を理解していないのに、矢印が指す方向へ進みながらゴールに向かっていく(※左画像)。その様子を、傍にいた男性が見つめていた。「これはBCIを用いて哺乳類同士の脳を直接、接続した初めての試みです」。実験に取り組んだ浙江大学のシュウ・ケディ教授は、そう解説する。BCIとは、脳と機械を繋ぐ技術『ブレインコンピューターインターフェース』のことだ。『ブレインマシーンインターフェース(BMI)』とも呼ばれている。実験で、男性は脳波を読み取る装置を装着していた。右手を動かそうとイメージするだけで、その脳波が電気的な刺激に変換されて、通信装置を介してネズミの脳に送られる。ネズミが矢印と反対の方へ進もうとした場合、男性が進路を直す為に手を動かそうとイメージすることで、刺激がネズミの脳に伝わり、進行方向を変えさせ、矢印の方向へ向かわせる。今回の実験で、ネズミの“遠隔操作”ができたとしている。シュウ教授は、人と人の脳同士の接続によって、話をしなくても意思疎通できる日が将来訪れると信じているという。一方、BMIを巡っては中国軍も関心を抱いている。軍が研究にどれほどの支援をしているのか実態は不明だが、軍の機関紙『解放軍報』を捲ると、BMIに関する論考が何度も登場する(※右下画像、撮影/池田知広)。その一つが、2020年9月の軍報だ。BMIの将来の軍事応用について、「敵の兵士の脳を刺激することで、脳を制御できるようになる」「(脳の刺激で)敵の戦意を左右させ、戦わずして倒せる」と主張していた。BMIに関する議論が盛んになるのに伴い、“制空権”や“制海権”に倣って“制脳権”という言葉も登場した。敵兵士の脳の判断能力をコントロールして、支配下に置くといったような意味があるとみられる。シュウ教授は、「(自分達の)研究は決して軍事的な目的で行なわれたものではない」と説明する。

20231116 08
ただ、中国の防衛技術に詳しい防衛省防衛研究所米欧ロシア研究室の飯田将史室長は、「脳同士のコミュニケーション技術が実現すれば、ロボット戦士の操縦や動物を用いた攻撃等、軍事的な使われ方も推測できる」と指摘する。「中国は民間発の技術を軍に応用する“軍民融合”を推進している。(BMI等)最先端の基礎研究が軍事に応用される可能性は、常に存在している」。テレパシーのような脳同士のコミュニケーションに関する研究は、アメリカでも始まっている。テキサス州ヒューストンのライス大学で実施されているのは、光や磁気を使ったワイヤレス通信で、人の脳と脳を繋いで意思疎通を図ろうとする研究だ。資金面では、国防総省の国防高等研究計画局(※DARPA)が援助している。DARPAは、軍事転用が可能な民間の研究開発を見定めて資金を提供していて、BMIの分野でも新型の義手の開発等成果を上げてきた。頭の中で念じることで複数のドローンを一度に操作したり、戦闘機の模擬飛行の操縦をしたりする実験も支援している。実際の戦場では、どのような使い方が想定されているのか。国防総省との関係が深いシンクタンク『ランド研究所』は2020年、BMIの軍事応用に関する報告書を纏めた。報告書によると、将来的には手を使わず、考えただけでロボットやドローン等の兵器を操作することや、人が聞こえない周波数の音でも聞き取れるよう、兵士の聴力を向上させること等が想定されている。ランド研究所の報告書や、解放軍報が触れているような技術の実用化に向けては、まだまだ課題が山積している。脳同士のコミュニケーションも、実現の見通しは全く立っていない。それでも、米中とも脳科学に関連する技術開発に力を入れていることについて、前出の飯田さんは「近年の米中対立が、お互いの開発を加速させている」と分析。「米中とも危機感は非常に強い。特に、中国は『生死をかけて自力でやらないとアメリカにやられてしまう』と危惧している」と語る。アメリカも中国の動向を懸念している。科学技術系シンクタンクの公益財団法人『未来工学研究所』の多田浩之主席研究員は、「アメリカの軍人は中国の軍民融合を物凄く脅威に感じている」と話す。実現性が不透明な技術の戦場での転用を互いに恐れて、米中が技術覇権を争っている。その狭間で日本も研究開発に動いていた。 (取材・文/大阪本社科学環境部 池田知広/東京本社くらし科学環境部 松本光樹)


キャプチャ  2023年4月19日付掲載

テーマ : テクノロジー・科学ニュース
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【WEEKEND PLUS】(411) “黒い雨”の定説を覆した100歳…気象学者の増田善信さん、出世より研究に熱中



20231006 09
柔らかい日差しの中で、好々爺が住民の証言を記したノートを捲っていく。ゆっくりとした話し方で、滑舌は明瞭だ。柔和な表情を崩さないが、話が核心に触れたのだろう。そんな時、眼差しが鋭くなる。肺炎を拗らせて5年前に入院した。左目の視力が落ち、小さい字は殆ど見えないが、記憶力は健在だ。東京都狛江市で暮らす増田善信さん(※右画像)は先月11日、100回目の誕生日を迎えた。百寿の気象学者である。気象庁を60歳で定年退職した後、広島に投下された原子爆弾による“黒い雨”が降った範囲を見直す調査に没頭した。報酬はなく、ボランティアだった。増田さんの調査は国の施策を変え、放射性物質を含んだ雨を浴びたことで健康被害に悩む多くの人を救う一助となった。「気象庁ではずっと天気の研究をしてきました。黒い雨の範囲を調べることは、私の専門とは重ならない部分もある。でも、そんなことは関係ないのです。自分が疑問に思ったことを明らかにしたかったのです」。その当時、国は雨が降った地域を特定し、援護対象区域に指定していた。しかし、区域外でも雨が降っていたとする証言は多かった。退職してから時間に余裕があった増田さんは、現地で聞き取り調査を行ない、援護対象区域よりも大きな範囲の降雨図を作り上げた。その調査結果は、区域外の住民が被爆者認定を求めた裁判で証拠として提出された。国には一切相手にされてこなかったが、2021年になって裁判所に信用性が認められた。この時、増田さんは97歳だった。「私が生きている間に評価されたのは幸せでしたね」。今も研究を続けている。毎日午前8時に起き、午前10時から研究を始める。ここ数ヵ月かけて調べているのは、1950年代に行なわれた水爆実験による放射能の影響だ。アメリカ政府の関係機関のホームページをチェックし、当時の放射線量の推定値をパソコンに打ち込んでいく。

健康は万全とは言えないが、「今も興味のある研究や調査を続けています。これほど幸せなことはないです」と意気盛んだ。1923年、京都府に生まれた。裕福な家庭とは言えなかった。「旧制中学に進学したい」と告げると、自作農だった父は地主から田圃を新たに借りた。「その田んぼで取れた35俵のうち、25俵を荷車に積み、小作料として父と一緒に地主に渡しに行きました。残った10俵が中学に行く為の資金になったのです」。医師を目指したが、受験に失敗。浪人する余裕がない為、1941年春、通っていた中学の近くにあった宮津観測所(※京都府宮津市)に入った。天気に関する仕事をしながら、再び医療系の大学を受験するつもりだった。腰掛けと思っていたから、観測所の仕事は退屈に感じた。しかし、その認識を一変させる出来事があった。ある日、太陽の周りに光の輪が発生するハロ現象が観測された。その一報を聞きつけた所長や数人の職員が庁舎の屋上に一斉に上がり、何やら観測を始めた。軈て、光の輪が刻々と変化していく状況が10枚の克明な図で記録された。「驚きました。見たこともないような太陽の様子が、紙と鉛筆で見事に再現されているのです。それで気象の仕事の魅力に気付いたのです」。増田さんは医師になることを止め、気象の道に進むことを決断する。1949年に気象庁の前身である中央気象台の気象研究所に進むと、等圧線を正確に描く為の研究に取り組んだ。1959年に移った電子計算室(※現在の数値予報課)では、台風の進路について調査を続けた。同時に力を注いだのが労働組合活動だ。6年間に亘って非専従の組合幹部となり、全国を回って職員の待遇改善等を訴えた。「組合活動をしていても、庁内で結果を出さなければと思っていました。酒は好きでしたが、家で飲むのは止めました。帰宅してから午後9時までは家族と過ごし、そこから午前2時までを研究の時間に充てたのです」。手を抜かない日々を送った。気象予報は誰よりも詳しいと自負していた。台風の進路予想に関する論文は日本気象学会賞(※1959年)に選ばれ、1961年には東京大学から理学博士を授与された。同期や後輩が次々と幹部に登用される中、出世は無縁だった。「上司であれ、誰であれ、正しいと思えば自分の意見は曲げることはなかった。そういうところが敬遠されたかもしれません」。冷静な自己分析だ。天気予報の要となる電子計算室には、誰よりも長く在籍した。「職員名簿は私が一番上。歴代の気象庁長官は、嘗ては部下でした」。役職が上がるよりも自身の研究を進めることに熱中し、在職中には複数の著作も出した。1984年4月に定年退職。“気象研究所の室長”が最後の肩書になった。「悠々自適な生活を送るつもりはなかったですね。自分なりの研究を進めていこうと思っていました」。黒い雨の調査にのめり込んだのは戦争体験も影響している。戦地に向けて飛び立つ爆撃機の操縦士に、航路の天気を教えてきた。空しさを感じても、戦争は悉く正しさを否定する。だからこそ、戦後は自分で正しいと思ったことを信じ、行動してきた。

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テーマ : 気象
ジャンル : 学問・文化・芸術

【迷走するプルトニウム政策】(06) 巨費投じても遠い全量再処理

20230830 03
フランスや日本で核燃料サイクルが行き詰まっている。プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を繰り返し利用する技術が確立できないのだ。使用済み核燃料の置き場に困ったフランスは、巨大な中間貯蔵プールの建設を計画し、最終貯蔵も見据えている。日本には“ウラン資源の有効活用”を目的に、全ての使用済み核燃料は必ず再処理してプルトニウムを分離し、再利用する全量再処理の原則がある。これを墨守すれば、プルサーマルと呼ばれる燃焼を終えた使用済みMOX燃料も再び再処理する必要がある。しかし、日本がお手本とするフランスでさえ躊躇する。何故か。「使用済みMOX燃料は、使用済みウラン燃料の数倍のプルトニウムを含む為、大きく2つの問題が生じ、再処理を妨げる」と説明するのは、『日本原子力研究所』(※現在の『日本原子力研究開発機構』)でプルトニウムを研究してきた京都工芸繊維大学の木原壮林名誉教授。第一に、MOX燃料の多量のプルトニウムを燃やすと、溶解し難い物質の割合が増え、再処理し難くなることだ。具体的には、化学的に安定している白金族元素のパラジウム、ロジウム、ルテニウムが増える。難溶性のプルトニウム酸化物もできる。二つ目に、多量のプルトニウムを扱うと臨界事故の危険性が高まる。冷却不足で溶液が蒸発し濃縮されると、プルトニウムが集まり、核分裂が意図せずに始まる。2人が被曝で死亡した茨城県東海村の臨界事故(※1999年9月)は、ウランの溶液が一定量以上に達して臨界となったものだった。

最先端のフランスでさえ、使用済みMOX燃料の再処理は実験レベルでしかない。対策として、少しずつ処理したり、ウランで薄めたりして試みられているが、効率が悪く、実用化には程遠い。フランスの核政策研究家である真下俊樹さんは、「商業レベルで使用済みMOX燃料を再処理するのはとても難しく、巨費を要する。この為、原発を運転するフランス電力(※EDF)も手を出すのを躊躇っている」と説明している。こうした中、EDFは使用済み核燃料約6500トンを貯蔵できる集中中間貯蔵プールの新設を計画している。長さ70m、幅30m、深さ10mの巨大なもので、100年以上の貯蔵を想定している。このプールが必要な理由について、EDFは「後の再利用、又は最終貯蔵の為」と説明する。つまり、使用済みMOX燃料も“核のごみ”とせざるを得ない可能性を考え、最終的に貯蔵することも視野に入れているのだ。「もうたくさんだ」。集中中間貯蔵プールが計画されるフランス北西部のラアーグ再処理工場の周辺地域では、原子力推進派の一部からも疑問の声が上がる。使用済みウラン燃料も余っており、既存の貯蔵プールが2028~2029年に満杯になると予想される。では、日本の使用済みMOX燃料はどうするのか。『関西電力』の担当者は、「再処理するまでの間、発電所で貯蔵、管理します」と答える。だが、再処理に回す時期はフランス同様、見通しが立たない。使用済みMOX燃料を扱える第二再処理工場について、政府の第六次エネルギー基本計画(※2021年10月決定)は「2030年代後半の技術確立をめどに研究開発に取り組みつつ、検討を進める」と曖昧だ。再利用への障壁は、再処理の難しさだけにとどまらない。使用済みMOX燃料のプルトニウムは質が悪化していて、原発では燃やし難い。原因は、プルトニウムの仲間(※同位体)のうち、燃え易いプルトニウム239が、中性子を吸収して燃え難いプルトニウム240に変わる等の為だ。再利用する度に、プルトニウムの質はどんどん悪くなっていく。元々、プルトニウム利用の主役と想定されたのは、既存の原発ではなく、高速増殖炉だった。高速増殖炉等“高速炉”は、高速の中性子をぶつけてプルトニウム240等の一部を燃やすことができる。しかし、主役登場の実現は怪しいと考える原子力関係者は少なくない。日本海に突き出た敦賀半島に建つ巨大な高速増殖炉の原型炉『もんじゅ』(※福井県敦賀市)。この原子炉にあった使用済みMOX燃料が昨年4月、全て取り出された。複雑な仕組みで、開発に1兆円以上が投じられた。しかし、水や空気と激しく反応するナトリウムの冷却材が漏れて火災事故を起こす等、トラブルが続発し、2016年に廃炉が決まっていた。その頃、日本政府が共同開発のパートナーとして期待したのがフランスだった。高速増殖炉の開発では米英独が断念。フランスも失敗したものの、類似の高速炉の開発を計画していた。しかし、フランスは2019年に開発を中止してしまった。ウランの価格が上がらない等として、高速炉の開発計画を21世紀後半という遠い未来へ先送りした。政府は核燃料サイクルを推進する理由として、①高速炉の開発によって廃棄物の体積を減らす“減容化”②放射能レベルを低減させる“毒性低減”――を掲げる。これに対し、内閣府原子力委員会の阿部信泰委員長代理(※当時)は2017年、放射性物質を集めて燃焼させ再処理を繰り返す点で、「これは素人でも経済性がないことがわかりますね」等と指摘。過去に、原子力規制委員会の委員からも燃料製造の難しさを含めて実現性に疑問が呈されている。NPO『原子力資料情報室』の松久保肇事務局長は、「使用済み核燃料を再処理すると、中の放射性物質が環境に放出される。とりわけ使用済みMOX燃料は再処理するあてがなく、仮にできても巨費がかかる。結局、核のごみとして直接処分するしかない」とみる。減容化でも、松久保氏は「使用済みMOX燃料は長期間、発熱量が多く、地層処分ではかなりのスペースをとり、減容化にはならない。今や太陽光や風力等、燃料費ゼロのエネルギーがふんだんに得られる。高額をかけてプルトニウムを取り出して燃やすことに意味があるのか」と批判する。核燃料サイクルが実現する見通しは、未来に先延ばしされるのが慣例になった。あてのない国策に巨費が投じられる現状を、幅広い分野の識者がしっかり見直す必要がある。 =おわり

          ◇

(専門編集委員)大島秀利が担当しました。


キャプチャ  2022年3月2日付掲載

テーマ : 環境・資源・エネルギー
ジャンル : 政治・経済

【迷走するプルトニウム政策】(05) 高価格過ぎるMOX燃料

20230830 02
使用済み核燃料から分離したプルトニウムを日本の原発で再利用する為、燃料を加工してもらっているフランスの工場で不良品が続出している。電力会社が明かさないそのコストにも大きく影響していそうだ。プルトニウムは、ウラン燃料を原発で燃やすことで生じる。利用するには、先ず使用済みウラン燃料を化学処理(※再処理)してプルトニウムを分離する。分離したプルトニウムは、ウランと混ぜて直径約8㎜の粒であるペレットに焼き固める。これをウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(※MOX燃料)と呼ぶ。ペレット約320個を燃料棒の中に積み重ね、更に燃料棒約260本を束ねて燃料集合体(※高さ約4.1m)とする。2021年11月17日午前、福井県高浜町の『関西電力』高浜原発の岸壁。地元や関西の市民が対岸で反対の声を上げる中、フランスで加工されたMOX燃料の集合体16体を積んだ船が到着した。関電の担当者は、ウラン燃料に比べての安全性について「問題ありません」と強調したが、記者の質問が燃料の価格に及ぶと、「契約上の守秘義務があり、公表していません」と急に歯切れが悪くなった。アメリカの元国務次官補(※国際安全保障・不拡散担当)であるトーマス・カントリーマン氏は、2018年10月の本紙への寄稿で「ウラン燃料よりもMOX燃料は8倍高い」と経済的でないことを指摘している。実際、これを裏付けるような記録がある。それは財務省貿易統計だ。2021年11月にフランスから高浜原発に輸入されたMOX燃料集合体16体の輸送費や保険料を含む通関額は175億3533万円と記録され、1体当たり10億9595万円だった。これに対し、2ヵ月前の9月にアメリカから高浜原発に輸入されたウラン燃料は、燃料集合体1体当たり1億2425万円を示していた。MOX燃料はウラン燃料よりも8.8倍高価だったことになる。

MOX燃料の費用は、各電力会社の電気料金に反映されることになる。関電は、「原発の発電コストに占める燃料費の割合は1割程度。MOX燃料はウラン燃料の数倍程度高いが、MOX燃料の利用量が原子燃料利用量全体の1割程度であることから、MOX燃料の利用による発電コストへの影響は僅か」と説明する。ただ、MOX燃料の割合を増やせば増やすほどコストが嵩むことになる。今、このMOX燃料の国産化が進められようとしているが、国産化しても安価にならず、寧ろ高価になるという指摘がある。計画では、使用済みウラン燃料を六ケ所再処理工場(※青森県六ケ所村)で化学処理してプルトニウムを分離。次に、プルトニウムを近くにあるMOX燃料加工工場で燃料化する。この両施設の建設コスト等が膨れ上がり、国産MOX燃料の費用を押し上げている。六ケ所再処理工場の建設費用は当初、7600億円と見込まれた。しかし、現在は3.1兆円に膨らみ、操業や廃止等も含めた関係事業費は14.4兆円と見積もられている。MOX燃料加工工場の事業費は2.4兆円とされる。両施設の事業の実施主体として、国の認可で『使用済燃料再処理機構』が2016年に設立された。同機構は電力会社から拠出金を集めており、拠出金の算定基準として、使用済み核燃料1g当たりの再処理等の為の単価とMOX燃料加工単価を公表している。これを基に、NPO『原子力資料情報室』(※東京都中野区)が、再処理に関連する廃棄物の管理・輸送・処分費を差し引いてMOX燃料の費用を算出すると、関電の場合は1トンあたり約71億円となった。ウラン燃料が1トンあたり2億~3億円とされており、他の電力会社の国内MOX燃料も含めると20倍以上高価と見積もる。これに対し、関電の担当者は「拠出金単価に基づいてMOX価格を算定していないので、試算の妥当性を答える立場にない」と話している。アメリカでは、MOX燃料があまりにも高くつくことを示す事態が起きた。建設の途上にあったMOX燃料加工工場が途中で放棄されたのだ。アメリカは核拡散防止と経済性への疑問から、再処理を止めて使用済み核燃料は地層に直接処分する方針をとっている。ところが2000年、ロシアとの核軍縮交渉に伴い、既に核兵器用に分離していたプルトニウム50トンを“余剰”と見做すことになった。プルトニウムは容易に地層に処分できない為、うち34トンをプルサーマルで処分することにし、MOX燃料加工工場を2007年、サウスカロライナ州のサバンナリバー核施設内で着工した。建設費と運転コストの見通しは2002年時点で50億ドルだったのに、約15年後には6~10倍の300億~500億ドル(※当時のレートで3兆4000億~5兆7000億円)に膨れ上がった。MOX燃料を使う電力会社が現れないという状況の中で、2019年に計画中止が確定した。長崎大学の鈴木達治郎教授は、原子力委員会の委員長代理時代(※2010~2014年)、再処理して分離したプルトニウムの価値を計算した。すると、1g当たりマイナス40ドルとなった。「つまり、使えば使うほど損をするという計算結果だった」と明かしている。プルサーマル後の使用済みMOX燃料からプルトニウムを取り出すと、更に大きなマイナスの価値になると鈴木教授は断言している。


キャプチャ  2023年2月2日付掲載

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【迷走するプルトニウム政策】(04) 不良品、核燃サイクルに影響

20230829 04
プルトニウムを原発で再利用するプルサーマル発電用の燃料を製造するフランスの工場で不良品が多発している影響で、同国の複数の原子炉でプルサーマルを中止する事態になっている。フランス当局は、「このままでは全体に重大な影響を及ぼしかねない」と懸念する。プルトニウムは使用済みウラン燃料に含まれている。フランスでは北西部にあるラアーグ再処理工場で処理して、プルトニウムを分離する。南東部のメロックス工場では、プルトニウムとウランの粉末を混合して粒状に焼き固めたMOX燃料を製造している。均一に混合する必要があるが、2015年半ば以降の製造分から、プルトニウムの大きな塊ができてしまう問題が指摘されている。核反応が異常に高まる可能性があるといい、同工場の報告書によると、MOX燃料集合体の生産量は2015年に295体だったが、2021年には106体と3分の1に減っている。『全仏原子力安全規制当局(ASN)』が昨年5月に出した報告書によると、2021年も期待通りの品質と量を製造するのが困難になった。この為、仕様を満たしたMOX燃料が不足し、プルサーマルを実施していた90万㎾級の原子炉の数基は、MOX燃料を使用しない“脱MOX化”されつつあるとしている。これがフランスの核燃料サイクル全体に影響を及ぼしている。プルサーマルができなくなると、プルトニウムが消費できない。余剰を抱えない為には、使用済みウラン燃料からプルトニウムを分離する再処理もできなくなる。報告書は、「今度は使用済みウラン燃料が溜まるのが早まり、貯蔵プールが2028~2029年に飽和状態になる可能性がある」と予測。つまり、原発から出る使用済みウラン燃料の行き先がなくなるというのだ。

MOX燃料の不良品であるMOXスクラップも溜まり続け、深刻な状態となっている。フランスのプルトニウムの分離を担うラアーグ再処理工場には、様々な核関連の施設が建ち並ぶ。その一つである放射性物質の貯蔵施設に、メロックス工場から不良品が粉末や核燃料棒の集合体の状態で大量に押し寄せているのだ。貯蔵施設は予想よりも早く飽和状態になり、新たな貯蔵施設を建設する必要に迫られている。ASNは、「プルトニウム含有物の貯蔵能力を増強できなければ、その分、(使用済みウラン燃料の)再処理の量を減らして調節する必要がある」と指摘する。使用済みウラン燃料を処理できなくなる連鎖が、ここでも生じている。報告書は「燃料サイクルの幾つかの段階で不具合が悪化」と強調している。溜まり続ける使用済み核燃料。保管場所の問題は日本でも大きな問題だ。とりわけ保管が難題なのが、プルサーマルを実施した後に残る使用済みMOX燃料だ。使用済みウラン燃料とは違って、厄介な物質が多く含まれている。厄介というのは、多量のプルトニウムを燃やすと、中性子を吸収する等して別の放射性物質が生まれ、長期間に亘り高温を発し続けるからだ。多くはウランよりも重い元素で、放射性物質研究の先駆者のキュリー夫妻に因んで名付けられたキュリウム242やアメリシウム241等がある。使用済みのウラン燃料も、使用済みMOX燃料より少ないものの、厄介な放射性物質が生じていて熱を発しており、通常は10年程プールで冷やしている。では、使用済みMOX燃料は何年プールで冷やす必要があるのか。これまでの使用済み核燃料の研究資料を検討した大阪府立大学の長沢啓行名誉教授は、「使用済みMOX燃料は、使用済みウラン燃料よりも6~9倍長くプールで冷やす必要があることがわかる」と指摘している。使用済みMOX燃料は100年冷却する必要があるとする文献もある。プールで冷却する期間が長いということは、それだけ原発の敷地内に置かれる期間が長いことを意味する。これに対して、『関西電力』は「使用済みMOX燃料を輸送容器(※キャスク)に収納する数を減らす等して対応すれば、ウラン燃料と同じ発熱量まで冷却しなくても搬出することは可能」と説明している。それでも、記者が「使用済みウラン燃料を10年冷やした時と同じ発熱量にする為に、使用済みMOX燃料をどれくらい冷やす必要があるか?」と質問すると、関電の担当者は「代表的な例で見れば数倍の期間を要する」と認めた。使用済みMOX燃料の長期冷却は、只でさえ課題山積の原発のごみ問題を、より複雑にする。福井県は、使用済み核燃料の移送先である中間貯蔵施設の候補地を県外で見つけるよう、県内3ヵ所に原発を持つ関電に求めている。関電は中々求めに応じられず、「候補地を今年中に示す」と約束。果たせなければ、運転開始から40年を超えている美浜原発3号機、高浜原発1・2号機を動かさないと退路を断って、候補地を探している。昨年6月28日に就任した関電の森望社長は、本紙の取材に対して「もうやるしかありません。私の最大の責務」と答えたが、難航しているとみられる。使用済み核燃料の県外搬出の原則は、使用済みMOX燃料が次々と生み出されることで、一層達成のハードルが高くならないか――。プルサーマルを実施している高浜原発3・4号機が立地する福井県高浜町の担当者は、「使用済みMOX燃料は全て再処理する計画になっている」との前提に立った上で、「受け入れ先が決まるまでは、国や県の監視の下、貯蔵する。当面、発電所内で貯蔵することになるが、一定期間冷却した後は安全に搬出できる」と静観する。これに対し、高浜原発から4㎞に住み、原発に批判的な立場の『ふるさとを守る高浜・おおいの会』代表の東山幸弘さん(76)は、「プルサーマル後に燃料がどうなるかは、町内で殆ど説明されていない。使用済みMOX燃料が簡単に動かせないと私が知ったのは、つい最近のこと。一時保管の筈が、高浜から出せなくなるのではないか。原発の事故や故障が起きなくても、問題が多いプルサーマルは止めてほしい」と話した。


キャプチャ  2023年1月12日付掲載

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【迷走するプルトニウム政策】(03) フランスで核反応異常と不良品多発

20230829 03
プルサーマル発電用の燃料を製造するフランス南東部のメロックス工場で、不良品が相次いでいる。更に、プルサーマルを実施する原発で部分的に核反応が異常に増える現象も起き、“異常事象”とされたことが、『全仏原子力安全規制当局(ASN)』等の資料でわかった。同工場は日本向けの燃料も製造しているが、今のところ問題は見つかっていないという。しかし、製造は遅れており、今後の製品納入が見通せない状況に陥っている。プルトニウムは、原発の使用済み核燃料を化学処理(※再処理)して取り出す。燃料にするには、プルサーマルを実施している加圧水型原発の場合、ウランと混ぜて直径約8㎜の円筒形の粒であるペレットに焼き固める。これをウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(※MOX燃料)と呼ぶ。ペレット約320個を燃料棒の中に積み重ね、更に燃料棒約260本を束ねて燃料集合体(※高さ約4.1m)とする。プルトニウムとウランを均一に混ぜるのは難しい。プルトニウムの密度が高い部分があると、原発の運転中に部分的に高温になり、燃料を覆う管が変質して脆くなる恐れがあると指摘されている。ASNの資料等によると、メロックス工場で製造した燃料ペレットに、プルトニウムの密度の高い塊(※プルトニウムスポット)が見つかった。一方、MOXの燃料棒の上下の端付近で、核反応を示す中性子の量が想定以上に増えてしまう現象が、プルサーマルを実施しているフランスの原発で確認された。ASNによると、このプルトニウムの塊の問題と、部分的に核反応が上昇する2つの異常が重なった場合、「事故の状況によっては燃料の健全性に疑問を投げかける事態になる」と予測された。

NPO『原子力資料情報室』(※東京都中野区)で工学担当の上沢千尋さん(56)によると、懸念されるのは燃料が溶けたり、燃料を覆う管が破損したりする事態。「プルトニウムを燃料に使うと、核反応が局所的に上昇する可能性が指摘されてきた。それが顕在化した」と上沢さんはみている。原発を運転する『フランス電力(EDF)』が、初めて同種の事態を公表したのは2017年だった。この時は国際原子力・放射線事象評価尺度(※INES、深刻度の尺度0~7)で、異常事象と見做さない“0”と判断していた。ところが、2019年11月に異常事象“1”(=逸脱)と修正する。当初見つかった燃料棒の下端での核反応異常に加え、新たに上端でも異常が見つかった為だ。この異常事象は、フランスでMOX燃料を使用している90万㎾級原発22基の全てに関係するという。燃料棒の核反応の増加の原因は、燃焼で飛び交う中性子が燃料棒の両端の材料に吸収されずに反射してしまった為と推定された。メロックス工場でMOX燃料の製法の改良が試みられているが、同工場の報告書によると、ペレットの生産量は2015年に125トンだったのが、昨年は51トンと半分以下まで減った。来年、更に製法に改良が加えられる予定という。日本は原発の使用済み核燃料を英仏に送り、其々の国で再処理してプルトニウムを分離し、両国の工場でMOX燃料にしてきた。ところが、2つあったイギリスの燃料工場は検査データ捏造という不正が表面化する等して、何れも閉鎖。2006年以降はメロックス工場でのみ作られてきた。そのメロックス工場でMOX燃料の不良品の可能性が指摘されたのは、2015年半ば以降の製造分。『関西電力』燃料技術グループの左右田尚彦チーフマネージャーは、「一定の品質が保たれていると確認している」と言う。イギリスの工場で検査データの捏造があったことを教訓に、メロックス工場に駐在員を派遣しており、検査データをチェックしたと説明する。原子力規制委員会の担当者は「詳細が把握できたら技術情報検討会で対応を検討したい」と話す。昨年11月17日午前、海上保安庁の船が厳戒する中、MOX燃料の集合体を積んだ船が福井県高浜町の関電高浜原発に到着した。フランスの港を出発した9月にはMOX燃料集合体の数は明かされなかったが、到着後に関電が発表した資料にはMOX燃料集合体が“16体”と記されていた。関電は2017年に32体の製造を委託していた。そのうち、何故半分だけが届いたのか。関電の担当者に取材すると、残り半分は完成したものの、未だフランスにあるといい、「全て一緒に運びたかったが、製造に遅れが出てしまった」と説明した。残りの16体は今年9月にフランスを出発し、先月22日、約1年遅れで高浜原発に到着した。更に関電は、2020年にも32体を発注しているが、製造開始や納入の時期について「確認中で、いつになるかわからない」(左右田氏)状況だ。メロックス工場では労働者の被曝量が増える問題も発生していると、フランスの公的機関『放射線防護原子力安全研究所(IRSN)』は指摘している。内閣府の7月の発表によると、日本は分離済みプルトニウムをイギリスに21.8トン、フランスに14.8トン、国内に9.3トンの計約46トン備蓄している。しかし、中々消費が進まず、国際的に厳しい目に晒されている。フランスでの不良品問題は、プルトニウム利用の難しさを改めて浮き彫りにしている。


キャプチャ  2022年12月1日付掲載

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【迷走するプルトニウム政策】(02) 解決先送りの所有権交換

20230829 02
日本が使用済み核燃料から分離したプルトニウムは約46トン。このうち約22トンはイギリスに委託して分離したものの、消費する目処が立たないでいる。この対策として、電力各社でつくる『電気事業連合会(電事連)』が2月、各社の協力で消費を進める“裏技”を打ち出した。プルトニウムを燃料にするには、ウランと混ぜて焼き固めて成形する必要がある。これを専門的にはウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(※MOX燃料)と呼ぶ。電事連の裏技というのは、イギリスとフランスにあるプルトニウムの所有権を交換することによって、少しでもプルトニウムを消費しようとするものだ。現状では、プルトニウムを通常の原発で燃やすプルサーマル発電ができるのは、『関西電力』・『九州電力』・『四国電力』の3社に限られる。このうち、九電と四電は自社用のプルトニウムを海外ではイギリスにだけ持っているが、現地工場の閉鎖で新規に利用できなくなっている。この為、九電と四電のプルトニウムの所有権と、他の電力会社のフランスでの所有権とを交換する。所有権交換後、九電と四電はフランスで燃料加工する計画だ。早くて九電は2026年度から玄海原発3号機(※佐賀県玄海町)で、四電は2027年度から伊方原発3号機(※愛媛県伊方町)で、其々MOX燃料を燃やし始めるという。交換相手となる電力会社は明らかになっていないが、特に注目されるのが『東京電力』がフランスに持っている約3.2トンだ。東電は国内外に最多のプルトニウムを保有しながら、福島第一原発事故以降、原発を1基も再稼働できておらず、プルサーマルも実施できていない。東電は「プルサーマルの具体的な計画を見通せる状況にない」とした上で、「地域の理解を大前提に、電事連始め関係各所と連携して、プルトニウム利用を推進していく」と説明している。

プルトニウムの所有権交換には複数の先例がある。「独電力が所有する4トンのプルトニウムをスワップすることに合意した」――。2012年12月、在日イギリス大使館が日本の原子力委員会に資料を提供した。「ドイツの電力会社がイギリスに持つプルトニウム4トンの所有権を、イギリスの原子力廃止措置機関が取得し、代わりにドイツはフランスにあるプルトニウムの所有権を得て、MOX燃料に加工する」という内容で、同年7月に合意したというのだ。これにより、ドイツの電力会社は厳重な核防護措置が必要になるイギリスからフランスへのプルトニウム輸送を回避しつつ、プルトニウムを消費することができた。「イギリスにも財務上の利益があった」と書かれている。もう一つの交換には東電が絡んでいる。「検討の結果、当社は提案に応じ、プルトニウムの交換を実施しました」(※2013年4月の東電のプレスリリース)。ここで提案したのは英仏両国側。東電が福島第一原発3号機のプルサーマル用にフランスに持っていたプルトニウムの所有権と、ドイツの電力会社がイギリスに保管してあったプルトニウム650㎏を交換するに至った。この交換には、同3号機等3基が深刻な炉心溶融事故を起こした2011年3月11日の福島第一原発事故が影響している。3号機は廃炉が決まり、プルトニウムを使いようもなかったが、どう処分するか判断を迫られていた。同じ頃、ドイツの電力会社はイギリスに処分費用を支払って、プルトニウム750㎏をイギリス政府に引き渡している。ドイツ側は、何れも脱原発を前進させる手段として利用したと言える。しかし、電事連が今回打ち出した所有権交換という裏技は、イギリスにあるプルトニウム問題の根本的な解決にはならないとみられる。イギリスのプルトニウムの燃料を作る工場は閉鎖されており、日本の電力会社全体がイギリスに保有するプルトニウム約22トンが減るわけではないからだ。電事連が、プルトニウム余剰の問題を根本的に解決できるとは思えない所有権交換を使ってまでプルトニウムを消費しようとする目的はどこにあるのだろうか。そこに、近く完成を目指している六ケ所再処理工場(※青森県)の存在を指摘する声がある。六ケ所再処理工場の稼働は電力各社の共通の課題になっている。何故なら、全国各地の原発で使用済み核燃料が溜まり続け、貯蔵が限界に近付きつつあるからだ。同工場が稼働すれば、年最大約800トンの使用済み核燃料を受け入れ可能になる。その半面、再処理で新たに年間約6.6トンのプルトニウムが分離される。余剰は持たないという国際的な約束から、少しでもプルトニウムを消費することが、再処理工場稼働の前提になるというわけだ。大阪府立大学の長沢啓行名誉教授(※生産システム論)は、「プルトニウムを新たに分離してしまう六ケ所再処理工場は、日本のプルトニウム所有量が減った分だけしか操業できない。英仏分の所有権の交換は、プルサーマルによって少しでもプルトニウムを減らそうと捻り出されたのではないか」とみる。こうした所有権交換等のプルトニウム利用計画について、長沢名誉教授は「絵に描いた餅だ」とも指摘する。何故ならば、九電や四電が所有するプルトニウムは限られた量に過ぎないからだ。イギリスに残るプルトニウムは、九電が約1.5トン(※燃料集合体36体に相当)、四電が約1トン(※同24体に相当)。両社其々2~3回程度、原子炉に入れられる量に過ぎない。関電も、高浜3・4号機のどちらかに毎年、MOX燃料約0.7トン(※同16体に相当)を入れるという鈍いペースで、フランスに保管する約7.1トンを消費するには約15年かかると長沢名誉教授は計算する。電事連は2030年までに最低12基の原子炉でプルトニウムを利用する計画だが、今年秋の時点で実施できるのは4基に過ぎない。しかも利用計画には、敦賀原発2号機(※福井県)や東海第2原発(※茨城県)等再稼働の見込みがない原発や、完成していない大間原発(※青森県)も含む等と、計画の実現性が疑われる。泊原発3号機(※北海道)も対象炉だが、今年5月末、津波対策が立証できていないと札幌地裁が運転差し止め判決を出したばかりだ。ところで、イギリス政府側からは「お金を払ってもらえれば日本のプルトニウムを引き取って、自国分のプルトニウムと一緒に処分してもいい」と提案もされている。先に紹介したドイツの電力会社がイギリスにあるプルトニウムをイギリス政府に引き渡したのと同様に、である。これに対し、日本側は態度を明らかにしていない。


キャプチャ  2022年11月3日付掲載

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