fc2ブログ

【迷走するプルトニウム政策】(06) 巨費投じても遠い全量再処理

20230830 03
フランスや日本で核燃料サイクルが行き詰まっている。プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を繰り返し利用する技術が確立できないのだ。使用済み核燃料の置き場に困ったフランスは、巨大な中間貯蔵プールの建設を計画し、最終貯蔵も見据えている。日本には“ウラン資源の有効活用”を目的に、全ての使用済み核燃料は必ず再処理してプルトニウムを分離し、再利用する全量再処理の原則がある。これを墨守すれば、プルサーマルと呼ばれる燃焼を終えた使用済みMOX燃料も再び再処理する必要がある。しかし、日本がお手本とするフランスでさえ躊躇する。何故か。「使用済みMOX燃料は、使用済みウラン燃料の数倍のプルトニウムを含む為、大きく2つの問題が生じ、再処理を妨げる」と説明するのは、『日本原子力研究所』(※現在の『日本原子力研究開発機構』)でプルトニウムを研究してきた京都工芸繊維大学の木原壮林名誉教授。第一に、MOX燃料の多量のプルトニウムを燃やすと、溶解し難い物質の割合が増え、再処理し難くなることだ。具体的には、化学的に安定している白金族元素のパラジウム、ロジウム、ルテニウムが増える。難溶性のプルトニウム酸化物もできる。二つ目に、多量のプルトニウムを扱うと臨界事故の危険性が高まる。冷却不足で溶液が蒸発し濃縮されると、プルトニウムが集まり、核分裂が意図せずに始まる。2人が被曝で死亡した茨城県東海村の臨界事故(※1999年9月)は、ウランの溶液が一定量以上に達して臨界となったものだった。

最先端のフランスでさえ、使用済みMOX燃料の再処理は実験レベルでしかない。対策として、少しずつ処理したり、ウランで薄めたりして試みられているが、効率が悪く、実用化には程遠い。フランスの核政策研究家である真下俊樹さんは、「商業レベルで使用済みMOX燃料を再処理するのはとても難しく、巨費を要する。この為、原発を運転するフランス電力(※EDF)も手を出すのを躊躇っている」と説明している。こうした中、EDFは使用済み核燃料約6500トンを貯蔵できる集中中間貯蔵プールの新設を計画している。長さ70m、幅30m、深さ10mの巨大なもので、100年以上の貯蔵を想定している。このプールが必要な理由について、EDFは「後の再利用、又は最終貯蔵の為」と説明する。つまり、使用済みMOX燃料も“核のごみ”とせざるを得ない可能性を考え、最終的に貯蔵することも視野に入れているのだ。「もうたくさんだ」。集中中間貯蔵プールが計画されるフランス北西部のラアーグ再処理工場の周辺地域では、原子力推進派の一部からも疑問の声が上がる。使用済みウラン燃料も余っており、既存の貯蔵プールが2028~2029年に満杯になると予想される。では、日本の使用済みMOX燃料はどうするのか。『関西電力』の担当者は、「再処理するまでの間、発電所で貯蔵、管理します」と答える。だが、再処理に回す時期はフランス同様、見通しが立たない。使用済みMOX燃料を扱える第二再処理工場について、政府の第六次エネルギー基本計画(※2021年10月決定)は「2030年代後半の技術確立をめどに研究開発に取り組みつつ、検討を進める」と曖昧だ。再利用への障壁は、再処理の難しさだけにとどまらない。使用済みMOX燃料のプルトニウムは質が悪化していて、原発では燃やし難い。原因は、プルトニウムの仲間(※同位体)のうち、燃え易いプルトニウム239が、中性子を吸収して燃え難いプルトニウム240に変わる等の為だ。再利用する度に、プルトニウムの質はどんどん悪くなっていく。元々、プルトニウム利用の主役と想定されたのは、既存の原発ではなく、高速増殖炉だった。高速増殖炉等“高速炉”は、高速の中性子をぶつけてプルトニウム240等の一部を燃やすことができる。しかし、主役登場の実現は怪しいと考える原子力関係者は少なくない。日本海に突き出た敦賀半島に建つ巨大な高速増殖炉の原型炉『もんじゅ』(※福井県敦賀市)。この原子炉にあった使用済みMOX燃料が昨年4月、全て取り出された。複雑な仕組みで、開発に1兆円以上が投じられた。しかし、水や空気と激しく反応するナトリウムの冷却材が漏れて火災事故を起こす等、トラブルが続発し、2016年に廃炉が決まっていた。その頃、日本政府が共同開発のパートナーとして期待したのがフランスだった。高速増殖炉の開発では米英独が断念。フランスも失敗したものの、類似の高速炉の開発を計画していた。しかし、フランスは2019年に開発を中止してしまった。ウランの価格が上がらない等として、高速炉の開発計画を21世紀後半という遠い未来へ先送りした。政府は核燃料サイクルを推進する理由として、①高速炉の開発によって廃棄物の体積を減らす“減容化”②放射能レベルを低減させる“毒性低減”――を掲げる。これに対し、内閣府原子力委員会の阿部信泰委員長代理(※当時)は2017年、放射性物質を集めて燃焼させ再処理を繰り返す点で、「これは素人でも経済性がないことがわかりますね」等と指摘。過去に、原子力規制委員会の委員からも燃料製造の難しさを含めて実現性に疑問が呈されている。NPO『原子力資料情報室』の松久保肇事務局長は、「使用済み核燃料を再処理すると、中の放射性物質が環境に放出される。とりわけ使用済みMOX燃料は再処理するあてがなく、仮にできても巨費がかかる。結局、核のごみとして直接処分するしかない」とみる。減容化でも、松久保氏は「使用済みMOX燃料は長期間、発熱量が多く、地層処分ではかなりのスペースをとり、減容化にはならない。今や太陽光や風力等、燃料費ゼロのエネルギーがふんだんに得られる。高額をかけてプルトニウムを取り出して燃やすことに意味があるのか」と批判する。核燃料サイクルが実現する見通しは、未来に先延ばしされるのが慣例になった。あてのない国策に巨費が投じられる現状を、幅広い分野の識者がしっかり見直す必要がある。 =おわり

          ◇

(専門編集委員)大島秀利が担当しました。


キャプチャ  2022年3月2日付掲載
スポンサーサイト



テーマ : 環境・資源・エネルギー
ジャンル : 政治・経済

【迷走するプルトニウム政策】(05) 高価格過ぎるMOX燃料

20230830 02
使用済み核燃料から分離したプルトニウムを日本の原発で再利用する為、燃料を加工してもらっているフランスの工場で不良品が続出している。電力会社が明かさないそのコストにも大きく影響していそうだ。プルトニウムは、ウラン燃料を原発で燃やすことで生じる。利用するには、先ず使用済みウラン燃料を化学処理(※再処理)してプルトニウムを分離する。分離したプルトニウムは、ウランと混ぜて直径約8㎜の粒であるペレットに焼き固める。これをウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(※MOX燃料)と呼ぶ。ペレット約320個を燃料棒の中に積み重ね、更に燃料棒約260本を束ねて燃料集合体(※高さ約4.1m)とする。2021年11月17日午前、福井県高浜町の『関西電力』高浜原発の岸壁。地元や関西の市民が対岸で反対の声を上げる中、フランスで加工されたMOX燃料の集合体16体を積んだ船が到着した。関電の担当者は、ウラン燃料に比べての安全性について「問題ありません」と強調したが、記者の質問が燃料の価格に及ぶと、「契約上の守秘義務があり、公表していません」と急に歯切れが悪くなった。アメリカの元国務次官補(※国際安全保障・不拡散担当)であるトーマス・カントリーマン氏は、2018年10月の本紙への寄稿で「ウラン燃料よりもMOX燃料は8倍高い」と経済的でないことを指摘している。実際、これを裏付けるような記録がある。それは財務省貿易統計だ。2021年11月にフランスから高浜原発に輸入されたMOX燃料集合体16体の輸送費や保険料を含む通関額は175億3533万円と記録され、1体当たり10億9595万円だった。これに対し、2ヵ月前の9月にアメリカから高浜原発に輸入されたウラン燃料は、燃料集合体1体当たり1億2425万円を示していた。MOX燃料はウラン燃料よりも8.8倍高価だったことになる。

MOX燃料の費用は、各電力会社の電気料金に反映されることになる。関電は、「原発の発電コストに占める燃料費の割合は1割程度。MOX燃料はウラン燃料の数倍程度高いが、MOX燃料の利用量が原子燃料利用量全体の1割程度であることから、MOX燃料の利用による発電コストへの影響は僅か」と説明する。ただ、MOX燃料の割合を増やせば増やすほどコストが嵩むことになる。今、このMOX燃料の国産化が進められようとしているが、国産化しても安価にならず、寧ろ高価になるという指摘がある。計画では、使用済みウラン燃料を六ケ所再処理工場(※青森県六ケ所村)で化学処理してプルトニウムを分離。次に、プルトニウムを近くにあるMOX燃料加工工場で燃料化する。この両施設の建設コスト等が膨れ上がり、国産MOX燃料の費用を押し上げている。六ケ所再処理工場の建設費用は当初、7600億円と見込まれた。しかし、現在は3.1兆円に膨らみ、操業や廃止等も含めた関係事業費は14.4兆円と見積もられている。MOX燃料加工工場の事業費は2.4兆円とされる。両施設の事業の実施主体として、国の認可で『使用済燃料再処理機構』が2016年に設立された。同機構は電力会社から拠出金を集めており、拠出金の算定基準として、使用済み核燃料1g当たりの再処理等の為の単価とMOX燃料加工単価を公表している。これを基に、NPO『原子力資料情報室』(※東京都中野区)が、再処理に関連する廃棄物の管理・輸送・処分費を差し引いてMOX燃料の費用を算出すると、関電の場合は1トンあたり約71億円となった。ウラン燃料が1トンあたり2億~3億円とされており、他の電力会社の国内MOX燃料も含めると20倍以上高価と見積もる。これに対し、関電の担当者は「拠出金単価に基づいてMOX価格を算定していないので、試算の妥当性を答える立場にない」と話している。アメリカでは、MOX燃料があまりにも高くつくことを示す事態が起きた。建設の途上にあったMOX燃料加工工場が途中で放棄されたのだ。アメリカは核拡散防止と経済性への疑問から、再処理を止めて使用済み核燃料は地層に直接処分する方針をとっている。ところが2000年、ロシアとの核軍縮交渉に伴い、既に核兵器用に分離していたプルトニウム50トンを“余剰”と見做すことになった。プルトニウムは容易に地層に処分できない為、うち34トンをプルサーマルで処分することにし、MOX燃料加工工場を2007年、サウスカロライナ州のサバンナリバー核施設内で着工した。建設費と運転コストの見通しは2002年時点で50億ドルだったのに、約15年後には6~10倍の300億~500億ドル(※当時のレートで3兆4000億~5兆7000億円)に膨れ上がった。MOX燃料を使う電力会社が現れないという状況の中で、2019年に計画中止が確定した。長崎大学の鈴木達治郎教授は、原子力委員会の委員長代理時代(※2010~2014年)、再処理して分離したプルトニウムの価値を計算した。すると、1g当たりマイナス40ドルとなった。「つまり、使えば使うほど損をするという計算結果だった」と明かしている。プルサーマル後の使用済みMOX燃料からプルトニウムを取り出すと、更に大きなマイナスの価値になると鈴木教授は断言している。


キャプチャ  2023年2月2日付掲載

テーマ : 環境・資源・エネルギー
ジャンル : 政治・経済

【迷走するプルトニウム政策】(04) 不良品、核燃サイクルに影響

20230829 04
プルトニウムを原発で再利用するプルサーマル発電用の燃料を製造するフランスの工場で不良品が多発している影響で、同国の複数の原子炉でプルサーマルを中止する事態になっている。フランス当局は、「このままでは全体に重大な影響を及ぼしかねない」と懸念する。プルトニウムは使用済みウラン燃料に含まれている。フランスでは北西部にあるラアーグ再処理工場で処理して、プルトニウムを分離する。南東部のメロックス工場では、プルトニウムとウランの粉末を混合して粒状に焼き固めたMOX燃料を製造している。均一に混合する必要があるが、2015年半ば以降の製造分から、プルトニウムの大きな塊ができてしまう問題が指摘されている。核反応が異常に高まる可能性があるといい、同工場の報告書によると、MOX燃料集合体の生産量は2015年に295体だったが、2021年には106体と3分の1に減っている。『全仏原子力安全規制当局(ASN)』が昨年5月に出した報告書によると、2021年も期待通りの品質と量を製造するのが困難になった。この為、仕様を満たしたMOX燃料が不足し、プルサーマルを実施していた90万㎾級の原子炉の数基は、MOX燃料を使用しない“脱MOX化”されつつあるとしている。これがフランスの核燃料サイクル全体に影響を及ぼしている。プルサーマルができなくなると、プルトニウムが消費できない。余剰を抱えない為には、使用済みウラン燃料からプルトニウムを分離する再処理もできなくなる。報告書は、「今度は使用済みウラン燃料が溜まるのが早まり、貯蔵プールが2028~2029年に飽和状態になる可能性がある」と予測。つまり、原発から出る使用済みウラン燃料の行き先がなくなるというのだ。

MOX燃料の不良品であるMOXスクラップも溜まり続け、深刻な状態となっている。フランスのプルトニウムの分離を担うラアーグ再処理工場には、様々な核関連の施設が建ち並ぶ。その一つである放射性物質の貯蔵施設に、メロックス工場から不良品が粉末や核燃料棒の集合体の状態で大量に押し寄せているのだ。貯蔵施設は予想よりも早く飽和状態になり、新たな貯蔵施設を建設する必要に迫られている。ASNは、「プルトニウム含有物の貯蔵能力を増強できなければ、その分、(使用済みウラン燃料の)再処理の量を減らして調節する必要がある」と指摘する。使用済みウラン燃料を処理できなくなる連鎖が、ここでも生じている。報告書は「燃料サイクルの幾つかの段階で不具合が悪化」と強調している。溜まり続ける使用済み核燃料。保管場所の問題は日本でも大きな問題だ。とりわけ保管が難題なのが、プルサーマルを実施した後に残る使用済みMOX燃料だ。使用済みウラン燃料とは違って、厄介な物質が多く含まれている。厄介というのは、多量のプルトニウムを燃やすと、中性子を吸収する等して別の放射性物質が生まれ、長期間に亘り高温を発し続けるからだ。多くはウランよりも重い元素で、放射性物質研究の先駆者のキュリー夫妻に因んで名付けられたキュリウム242やアメリシウム241等がある。使用済みのウラン燃料も、使用済みMOX燃料より少ないものの、厄介な放射性物質が生じていて熱を発しており、通常は10年程プールで冷やしている。では、使用済みMOX燃料は何年プールで冷やす必要があるのか。これまでの使用済み核燃料の研究資料を検討した大阪府立大学の長沢啓行名誉教授は、「使用済みMOX燃料は、使用済みウラン燃料よりも6~9倍長くプールで冷やす必要があることがわかる」と指摘している。使用済みMOX燃料は100年冷却する必要があるとする文献もある。プールで冷却する期間が長いということは、それだけ原発の敷地内に置かれる期間が長いことを意味する。これに対して、『関西電力』は「使用済みMOX燃料を輸送容器(※キャスク)に収納する数を減らす等して対応すれば、ウラン燃料と同じ発熱量まで冷却しなくても搬出することは可能」と説明している。それでも、記者が「使用済みウラン燃料を10年冷やした時と同じ発熱量にする為に、使用済みMOX燃料をどれくらい冷やす必要があるか?」と質問すると、関電の担当者は「代表的な例で見れば数倍の期間を要する」と認めた。使用済みMOX燃料の長期冷却は、只でさえ課題山積の原発のごみ問題を、より複雑にする。福井県は、使用済み核燃料の移送先である中間貯蔵施設の候補地を県外で見つけるよう、県内3ヵ所に原発を持つ関電に求めている。関電は中々求めに応じられず、「候補地を今年中に示す」と約束。果たせなければ、運転開始から40年を超えている美浜原発3号機、高浜原発1・2号機を動かさないと退路を断って、候補地を探している。昨年6月28日に就任した関電の森望社長は、本紙の取材に対して「もうやるしかありません。私の最大の責務」と答えたが、難航しているとみられる。使用済み核燃料の県外搬出の原則は、使用済みMOX燃料が次々と生み出されることで、一層達成のハードルが高くならないか――。プルサーマルを実施している高浜原発3・4号機が立地する福井県高浜町の担当者は、「使用済みMOX燃料は全て再処理する計画になっている」との前提に立った上で、「受け入れ先が決まるまでは、国や県の監視の下、貯蔵する。当面、発電所内で貯蔵することになるが、一定期間冷却した後は安全に搬出できる」と静観する。これに対し、高浜原発から4㎞に住み、原発に批判的な立場の『ふるさとを守る高浜・おおいの会』代表の東山幸弘さん(76)は、「プルサーマル後に燃料がどうなるかは、町内で殆ど説明されていない。使用済みMOX燃料が簡単に動かせないと私が知ったのは、つい最近のこと。一時保管の筈が、高浜から出せなくなるのではないか。原発の事故や故障が起きなくても、問題が多いプルサーマルは止めてほしい」と話した。


キャプチャ  2023年1月12日付掲載

テーマ : 環境・資源・エネルギー
ジャンル : 政治・経済

【迷走するプルトニウム政策】(03) フランスで核反応異常と不良品多発

20230829 03
プルサーマル発電用の燃料を製造するフランス南東部のメロックス工場で、不良品が相次いでいる。更に、プルサーマルを実施する原発で部分的に核反応が異常に増える現象も起き、“異常事象”とされたことが、『全仏原子力安全規制当局(ASN)』等の資料でわかった。同工場は日本向けの燃料も製造しているが、今のところ問題は見つかっていないという。しかし、製造は遅れており、今後の製品納入が見通せない状況に陥っている。プルトニウムは、原発の使用済み核燃料を化学処理(※再処理)して取り出す。燃料にするには、プルサーマルを実施している加圧水型原発の場合、ウランと混ぜて直径約8㎜の円筒形の粒であるペレットに焼き固める。これをウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(※MOX燃料)と呼ぶ。ペレット約320個を燃料棒の中に積み重ね、更に燃料棒約260本を束ねて燃料集合体(※高さ約4.1m)とする。プルトニウムとウランを均一に混ぜるのは難しい。プルトニウムの密度が高い部分があると、原発の運転中に部分的に高温になり、燃料を覆う管が変質して脆くなる恐れがあると指摘されている。ASNの資料等によると、メロックス工場で製造した燃料ペレットに、プルトニウムの密度の高い塊(※プルトニウムスポット)が見つかった。一方、MOXの燃料棒の上下の端付近で、核反応を示す中性子の量が想定以上に増えてしまう現象が、プルサーマルを実施しているフランスの原発で確認された。ASNによると、このプルトニウムの塊の問題と、部分的に核反応が上昇する2つの異常が重なった場合、「事故の状況によっては燃料の健全性に疑問を投げかける事態になる」と予測された。

NPO『原子力資料情報室』(※東京都中野区)で工学担当の上沢千尋さん(56)によると、懸念されるのは燃料が溶けたり、燃料を覆う管が破損したりする事態。「プルトニウムを燃料に使うと、核反応が局所的に上昇する可能性が指摘されてきた。それが顕在化した」と上沢さんはみている。原発を運転する『フランス電力(EDF)』が、初めて同種の事態を公表したのは2017年だった。この時は国際原子力・放射線事象評価尺度(※INES、深刻度の尺度0~7)で、異常事象と見做さない“0”と判断していた。ところが、2019年11月に異常事象“1”(=逸脱)と修正する。当初見つかった燃料棒の下端での核反応異常に加え、新たに上端でも異常が見つかった為だ。この異常事象は、フランスでMOX燃料を使用している90万㎾級原発22基の全てに関係するという。燃料棒の核反応の増加の原因は、燃焼で飛び交う中性子が燃料棒の両端の材料に吸収されずに反射してしまった為と推定された。メロックス工場でMOX燃料の製法の改良が試みられているが、同工場の報告書によると、ペレットの生産量は2015年に125トンだったのが、昨年は51トンと半分以下まで減った。来年、更に製法に改良が加えられる予定という。日本は原発の使用済み核燃料を英仏に送り、其々の国で再処理してプルトニウムを分離し、両国の工場でMOX燃料にしてきた。ところが、2つあったイギリスの燃料工場は検査データ捏造という不正が表面化する等して、何れも閉鎖。2006年以降はメロックス工場でのみ作られてきた。そのメロックス工場でMOX燃料の不良品の可能性が指摘されたのは、2015年半ば以降の製造分。『関西電力』燃料技術グループの左右田尚彦チーフマネージャーは、「一定の品質が保たれていると確認している」と言う。イギリスの工場で検査データの捏造があったことを教訓に、メロックス工場に駐在員を派遣しており、検査データをチェックしたと説明する。原子力規制委員会の担当者は「詳細が把握できたら技術情報検討会で対応を検討したい」と話す。昨年11月17日午前、海上保安庁の船が厳戒する中、MOX燃料の集合体を積んだ船が福井県高浜町の関電高浜原発に到着した。フランスの港を出発した9月にはMOX燃料集合体の数は明かされなかったが、到着後に関電が発表した資料にはMOX燃料集合体が“16体”と記されていた。関電は2017年に32体の製造を委託していた。そのうち、何故半分だけが届いたのか。関電の担当者に取材すると、残り半分は完成したものの、未だフランスにあるといい、「全て一緒に運びたかったが、製造に遅れが出てしまった」と説明した。残りの16体は今年9月にフランスを出発し、先月22日、約1年遅れで高浜原発に到着した。更に関電は、2020年にも32体を発注しているが、製造開始や納入の時期について「確認中で、いつになるかわからない」(左右田氏)状況だ。メロックス工場では労働者の被曝量が増える問題も発生していると、フランスの公的機関『放射線防護原子力安全研究所(IRSN)』は指摘している。内閣府の7月の発表によると、日本は分離済みプルトニウムをイギリスに21.8トン、フランスに14.8トン、国内に9.3トンの計約46トン備蓄している。しかし、中々消費が進まず、国際的に厳しい目に晒されている。フランスでの不良品問題は、プルトニウム利用の難しさを改めて浮き彫りにしている。


キャプチャ  2022年12月1日付掲載

テーマ : 環境・資源・エネルギー
ジャンル : 政治・経済

【迷走するプルトニウム政策】(02) 解決先送りの所有権交換

20230829 02
日本が使用済み核燃料から分離したプルトニウムは約46トン。このうち約22トンはイギリスに委託して分離したものの、消費する目処が立たないでいる。この対策として、電力各社でつくる『電気事業連合会(電事連)』が2月、各社の協力で消費を進める“裏技”を打ち出した。プルトニウムを燃料にするには、ウランと混ぜて焼き固めて成形する必要がある。これを専門的にはウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(※MOX燃料)と呼ぶ。電事連の裏技というのは、イギリスとフランスにあるプルトニウムの所有権を交換することによって、少しでもプルトニウムを消費しようとするものだ。現状では、プルトニウムを通常の原発で燃やすプルサーマル発電ができるのは、『関西電力』・『九州電力』・『四国電力』の3社に限られる。このうち、九電と四電は自社用のプルトニウムを海外ではイギリスにだけ持っているが、現地工場の閉鎖で新規に利用できなくなっている。この為、九電と四電のプルトニウムの所有権と、他の電力会社のフランスでの所有権とを交換する。所有権交換後、九電と四電はフランスで燃料加工する計画だ。早くて九電は2026年度から玄海原発3号機(※佐賀県玄海町)で、四電は2027年度から伊方原発3号機(※愛媛県伊方町)で、其々MOX燃料を燃やし始めるという。交換相手となる電力会社は明らかになっていないが、特に注目されるのが『東京電力』がフランスに持っている約3.2トンだ。東電は国内外に最多のプルトニウムを保有しながら、福島第一原発事故以降、原発を1基も再稼働できておらず、プルサーマルも実施できていない。東電は「プルサーマルの具体的な計画を見通せる状況にない」とした上で、「地域の理解を大前提に、電事連始め関係各所と連携して、プルトニウム利用を推進していく」と説明している。

プルトニウムの所有権交換には複数の先例がある。「独電力が所有する4トンのプルトニウムをスワップすることに合意した」――。2012年12月、在日イギリス大使館が日本の原子力委員会に資料を提供した。「ドイツの電力会社がイギリスに持つプルトニウム4トンの所有権を、イギリスの原子力廃止措置機関が取得し、代わりにドイツはフランスにあるプルトニウムの所有権を得て、MOX燃料に加工する」という内容で、同年7月に合意したというのだ。これにより、ドイツの電力会社は厳重な核防護措置が必要になるイギリスからフランスへのプルトニウム輸送を回避しつつ、プルトニウムを消費することができた。「イギリスにも財務上の利益があった」と書かれている。もう一つの交換には東電が絡んでいる。「検討の結果、当社は提案に応じ、プルトニウムの交換を実施しました」(※2013年4月の東電のプレスリリース)。ここで提案したのは英仏両国側。東電が福島第一原発3号機のプルサーマル用にフランスに持っていたプルトニウムの所有権と、ドイツの電力会社がイギリスに保管してあったプルトニウム650㎏を交換するに至った。この交換には、同3号機等3基が深刻な炉心溶融事故を起こした2011年3月11日の福島第一原発事故が影響している。3号機は廃炉が決まり、プルトニウムを使いようもなかったが、どう処分するか判断を迫られていた。同じ頃、ドイツの電力会社はイギリスに処分費用を支払って、プルトニウム750㎏をイギリス政府に引き渡している。ドイツ側は、何れも脱原発を前進させる手段として利用したと言える。しかし、電事連が今回打ち出した所有権交換という裏技は、イギリスにあるプルトニウム問題の根本的な解決にはならないとみられる。イギリスのプルトニウムの燃料を作る工場は閉鎖されており、日本の電力会社全体がイギリスに保有するプルトニウム約22トンが減るわけではないからだ。電事連が、プルトニウム余剰の問題を根本的に解決できるとは思えない所有権交換を使ってまでプルトニウムを消費しようとする目的はどこにあるのだろうか。そこに、近く完成を目指している六ケ所再処理工場(※青森県)の存在を指摘する声がある。六ケ所再処理工場の稼働は電力各社の共通の課題になっている。何故なら、全国各地の原発で使用済み核燃料が溜まり続け、貯蔵が限界に近付きつつあるからだ。同工場が稼働すれば、年最大約800トンの使用済み核燃料を受け入れ可能になる。その半面、再処理で新たに年間約6.6トンのプルトニウムが分離される。余剰は持たないという国際的な約束から、少しでもプルトニウムを消費することが、再処理工場稼働の前提になるというわけだ。大阪府立大学の長沢啓行名誉教授(※生産システム論)は、「プルトニウムを新たに分離してしまう六ケ所再処理工場は、日本のプルトニウム所有量が減った分だけしか操業できない。英仏分の所有権の交換は、プルサーマルによって少しでもプルトニウムを減らそうと捻り出されたのではないか」とみる。こうした所有権交換等のプルトニウム利用計画について、長沢名誉教授は「絵に描いた餅だ」とも指摘する。何故ならば、九電や四電が所有するプルトニウムは限られた量に過ぎないからだ。イギリスに残るプルトニウムは、九電が約1.5トン(※燃料集合体36体に相当)、四電が約1トン(※同24体に相当)。両社其々2~3回程度、原子炉に入れられる量に過ぎない。関電も、高浜3・4号機のどちらかに毎年、MOX燃料約0.7トン(※同16体に相当)を入れるという鈍いペースで、フランスに保管する約7.1トンを消費するには約15年かかると長沢名誉教授は計算する。電事連は2030年までに最低12基の原子炉でプルトニウムを利用する計画だが、今年秋の時点で実施できるのは4基に過ぎない。しかも利用計画には、敦賀原発2号機(※福井県)や東海第2原発(※茨城県)等再稼働の見込みがない原発や、完成していない大間原発(※青森県)も含む等と、計画の実現性が疑われる。泊原発3号機(※北海道)も対象炉だが、今年5月末、津波対策が立証できていないと札幌地裁が運転差し止め判決を出したばかりだ。ところで、イギリス政府側からは「お金を払ってもらえれば日本のプルトニウムを引き取って、自国分のプルトニウムと一緒に処分してもいい」と提案もされている。先に紹介したドイツの電力会社がイギリスにあるプルトニウムをイギリス政府に引き渡したのと同様に、である。これに対し、日本側は態度を明らかにしていない。


キャプチャ  2022年11月3日付掲載

テーマ : 環境・資源・エネルギー
ジャンル : 政治・経済

【迷走するプルトニウム政策】(01) 日本の22トンが何故イギリスに?

20230829 01
原子力発電所で生成される核物質のプルトニウムを、日本が46トン保有していることが世界から懸念されている。核兵器の材料に転用でき、「余分は持たない」という国際的な約束がある為だ。この46トンのうち、22トンが10年以上もイギリスで保管されている。何故だろうか。原発はウラン燃料を燃やして発電している。燃やされた燃料(※使用済み核燃料)に含まれているのがプルトニウムだ。燃やされた燃料を化学的に処理することで、プルトニウムは再び燃料として利用できる。日本はプルサーマル発電と呼ばれる、この燃料の再利用システムを構築しようとしてきたが、技術的な課題があまりにも多く、難航している。『国際原子力機関(IAEA)』は、僅か8㎏のプルトニウムを核兵器1発分と見做している。使用済み核燃料は強烈な放射性物質を帯びている為、これからプルトニウムを分離しないほうが盗難や悪用を防ぐことができて安全だと言われるほど、プルトニウムは厳重な管理が求められる。今年2月、電力各社で作る『電気事業連合会』が2022~2024年度のプルトニウム利用計画を明らかにした。『関西電力』は高浜原発3・4号機(※福井県)でプルトニウム0.7トンずつを新たに原子炉に入れて使うが、他の電力会社には利用する計画がないという。抑も、2011年3月11日の『東京電力』福島第一原発事故以降、プルサーマルを実施できたのは高浜3・4号機、『九州電力』玄海原発3号機(※佐賀県)、『四国電力』伊方原発3号機(※愛媛県)の4基だけだった。しかし、玄海3号機は2019年度に、伊方3号機は2021年度に、其々約0.2トンのプルトニウムを入れたのが最後となった。九電と四電がプルサーマルをできなくなってしまった理由は、燃料用に加工したプルトニウムの在庫が尽きたからだ。その原因はイギリスにあった。

日本はプルサーマルを推進するが、使用済み核燃料の再処理工場は未だに稼働していない。この為、日本の使用済み核燃料はイギリスとフランスに送られ、両国の再処理工場でプルトニウムが分離されてきた。イギリスでは、北西部のカンブリア州セラフィールドにあるソープ再処理工場等でプルトニウムを分離していた。更に、それをウランと混ぜた燃料(※MOX燃料)にする工場が2つあった。最初に日本向けの燃料を製造したのが、MOX実証施設(※MDF)と呼ばれる工場だった。ここで1999年に事件が起きた。現在の状況とも関係があるので、経過を振り返りたい。燃料製造は加圧水型原発の場合、プルトニウムとウランを混ぜて焼き固めて、円筒形の粒であるペレット(※直径約8.1~8.2㎜、長さ約10㎜)に成形する。ペレット約320個を金属製の筒に詰めて燃料棒とし、更に燃料棒約260本を束にして燃料集合体(※高さ約4.1m)ができる。1999年7月、MDFが作った日本向けMOX燃料集合体の初荷8体を積んだ船が、イギリスから高浜原発4号機に向けて出港した。日本近海に近付きつつあった同9月、続いて輸送される筈だった高浜3号機用のMOX燃料の検査データが捏造されていたとの情報が、イギリスから齎される。プルトニウム含有のペレットは寸法の違いで、熱がこもり易くなってしまう等の特性があり、安全に原子炉で燃やすには厳密に直径を守ることが要求される。しかし、このペレットの寸法の検査がされず、別の検査データをコピーする手口で捏造されていた。直後の10月、高浜4号機用のMOX燃料が到着した。4号機の検査データを調べた『美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会』の小山英之氏(※大阪府立大学講師、専門は数理工学、当時)らは、統計上の解析を元に「4号機用にも不正の可能性がある」と指摘した。これに対し、関電は「不正なし」との調査報告書を出したが、イギリス側から4号機用の検査データも捏造されていたと伝わり、MOX燃料はイギリスに送り返された。プルトニウムの迷走の始まりだ。そしてMDFは閉鎖された。検査データ捏造の背景には、プルトニウム燃料のペレットは寸法通り成形するのが難しい上、検査にも困難が伴うという事情がある。というのも、プルトニウムは強い発癌性がある為、微量でも粉末を吸入しないようにしなければならない。作業員は、手袋を取り付けたグローブボックスという作業空間を使って検査すること等を強いられる。外部被曝し易い放射性物質・アメリシウム等の不純物もどうしても入ってくる為、配慮が必要になる。イギリスにはもう一つのMOX燃料工場、セラフィールドMOXプラント(※SMP)があった。この工場も生産効率が極めて悪かった。そこで設備を改良することを前提に、2010年5月、日本の電力会社10社とMOX燃料製造を担うことで合意した。ところが、2011年3月11日に福島で原発事故が起き、日本の原発は次々と停止に追い込まれる。イギリス側は同年8月、「日本からの注文に期待が持てない」と工場閉鎖を決定。こうしてイギリスでのMOX燃料の製造が不可能になった。関電はフランスに加工可能なプルトニウムを保有するが、九電と四電はフランスにあったプルトニウムの在庫が尽きてしまい、新たなプルサーマルができなくなった。イギリスの工場閉鎖の決定から11年。日本の電力会社が保有権を持ちながら手を出せないでいるイギリスのプルトニウムは21.8トンに上る。IAEAの基準では核兵器約2700発分に相当する。ここで浮かんでくるのは、「イギリスにある日本のプルトニウムをフランスに移送して、MOX燃料に加工できないのか?」という疑問である。イギリスにプルトニウム約3.9トンを保有する関電の担当者は「所有する分は有効活用していく」と説明するものの、具体的な方策は示していない。資源エネルギー庁に取材すると、担当者は「政府間で外交上、様々な情報のやりとりをしているが、内容は口外できない。(英仏間のプルトニウムの移送については)日本は単独でプルトニウムを管理できないので、政府として『できる』『できない』を言えない」と回答した。九電の担当者は「あらゆる方策を検討する」と取材に答え、四電は「プルトニウムの国際間輸送は、核物質防護上の厳しい制約がある為、容易ではない」と説明している。イギリスのプルトニウムの行方は、政府も電力会社も“説明できない”状態が続いている。プルトニウム利用の見通しは不透明感が増している。


キャプチャ  2022年10月6日付掲載

テーマ : 環境・資源・エネルギー
ジャンル : 政治・経済

【世界秩序の行方・現場から】(02) ドイツの太陽光、国産回帰

20230712 06
世界的にサプライチェーンの見直しが進む。コスト削減だけでなく、米中対立等を背景に中国製品に依存するリスクを重くみたり、人権問題が指摘される原材料の使用を避けたりする動きが広がる。ロシア産ガスや中国製品への依存という2つのリスクを回避しようとしているのが、ドイツの太陽光発電事業だ。脱炭素を重視するドイツは昨年7月、2030年までに再生可能エネルギーで確保する電力の目標を65%から80%に引き上げることを決めた。ロシアのウクライナ侵略で、“化石燃料の脱ロシア依存”を再エネ転換への弾みにすることが政治課題となった。最終的に100%に高め、うち4割を太陽光で賄う構想だ。ドイツが特に意識するのは、やはり中国だ。中国企業はパネルで75%、材料となるウェハーで97%のシェアを握る。ドイツ政府内では、「一国への過度な依存は供給途絶のリスクが高い」との懸念が強い。寡占は結局、コスト高に繋がるとの見方もある。欧州でリーダー格のドイツは今、太陽光市場をリードした欧州勢の再興を目指す。ドイツには、2000年代に世界最大手となった太陽電池大手『Qセルズ』があったが、中国勢との価格競争に勝てず、2012年に破綻。韓国企業グループに買収された。

嘗て“太陽光のパイオニア”と呼ばれ、Qセルズも進出したドイツ東部のザクセン・アンハルト州の工業団地『ソーラーバレー』。企業撤退が相次ぎ、“投資の廃虚”と囁かれていた。ここで経営破綻した工場を利用し、太陽電池の生産を始めたのが『マイヤーブルガー』(※本社はスイス)だ。約2万8000㎡の工場では、太陽電池の工程を自動制御としてコスト競争力を強化し、1日の生産量は約30万枚。ドイツ国内の別の工場でパネルに仕上げる。ヨッヘン・フリッチェ製造部長(※左上画像)は、「1日3交代で24時間、365日操業している。クリスマスも年末年始もない」。設備投資を進め、来年には生産能力を3倍に拡充する計画という。ドイツには、「過去に製造設備を中国に売り、技術を学ばれて独走を許した」(担当者)という苦い教訓がある。電池からパネルにするまでの工程を自社で手がけ、“脱中国”を図る。警戒が広がるのは太陽光に限らない。ドイツは昨年10月、中国系企業によるハンブルクの港湾施設の取得株数に制限をかけ、重要決定に介入できないようにした。欧州では、国際物流の要となるベルギーやギリシャ等の港湾で中国企業の経営支配が進み、危機感が強まっていた。スマートフォンや自動車、最先端製品に欠かせない半導体関連でも、中国企業によるドルトムントのウェハー工場の買収提案を、ドイツは「安全を脅かす」として認めなかった。人権も判断要素になる。欧州では、企業に供給網での人権侵害対策を求める『人権デューデリジェンス(人権DD)』を義務付ける動きが広がり、ドイツでも1月に法律が発効した。少数民族弾圧が問題視される中国からの調達にリスク認識が高まるのは確実だ。一方で、ドイツを始めとする欧州各国にとって、中国は最大級の貿易相手であることに変わりはない。中国との距離の取り方が今後、問われることになる。 (取材・文・撮影/ベルリン支局 中西賢司)


キャプチャ  2023年1月4日付掲載

テーマ : テクノロジー・科学ニュース
ジャンル : ニュース

【世界秩序の行方】第1部・攻防経済(01) バイオ覇権、米中激突

https://www.yomiuri.co.jp/world/20230102-OYT1T50062/


キャプチャ  2023年1月3日付掲載

テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

【気候変動のリアル】(14) 「“損失と被害”への資金支援が焦点」――田村堅太郎氏(『地球環境戦略研究機関』上席研究員)インタビュー

気候危機への対応を議論する国連の会議が今月6日、エジプトで開幕した。地球温暖化の影響が指摘される気象災害が頻発する中、対策強化は進むのか。気候変動の国際交渉に詳しい『地球環境戦略研究機関』の田村堅太郎上席研究員に、会議の注目点等について聞いた。 (聞き手/くらし科学環境部 大場あい・岡田英)

20230526 10
――今年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、エネルギーの脱ロシア化を進める中で化石燃料回帰の動きがあります。世界の温暖化対策への影響をどう見ていますか?
「ドイツが二酸化炭素(※CO2)排出量の多い石炭火力発電の稼働を増やすことを決める等、これまで世界の対策を牽引してきた欧州の動きを受けて、脱炭素の道筋は破綻した等と指摘する声もあります。だが、欧州各国の対応は、あくまでこの冬の電力不足に対する短期的な措置で、中長期的に大きな影響があるとは考えていません。ドイツのオラフ・ショルツ政権は石炭火力の全廃時期を従来の2038年から2030年へ前倒しし、ウクライナ危機後もその方針は変えていません。イギリスも“2024年全廃”の計画のままです。寧ろ再生可能エネルギーを拡大する等して脱炭素化を加速することで、ロシアへの化石燃料の依存を減らしていこうとしています。新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済活動の停滞で、2020年の世界全体のCO2排出量は2019年より減りましたが、2021年は増加に転じて過去最高になりました。世界最大の排出国である中国や3位のインドで石炭火力が増えたのが主な要因ですが、両国は今、再生エネを物凄い勢いで導入しています。中国は2030年より前に排出量を頭打ちさせる目標を掲げていますが、欧米のシンクタンクはもっと早く、2025年過ぎには減少に転じると分析しています。一時的であっても排出増加は懸念すべきことですが、世界の脱炭素化の流れは覆ってはいません」
――エジプトのシャルムエルシェイクで『国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)』が開催されています。何が焦点ですか?
「昨年、イギリスのグラスゴーで開催されたCOP26では、産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑えることを事実上の世界共通目標にし、石炭火力の段階的削減で合意しました。COP27では“1.5℃”実現に向けて、実際に温室効果ガス排出削減を加速させる作業計画策定を目指します。もう一つの大きなテーマが、温暖化が影響している気象災害等によって既に生じている“損失と被害”に対する資金支援です。国連の会議ではここ数年注目されてきましたが、今回は温暖化の影響を受け易い国が多いアフリカでの開催でもあり、議長国のエジプトも力を入れています。“損失と被害”が焦点になるのは、今夏のパキスタンの大洪水、東アフリカの干魃等、大変な被害が顕在化してきているからでしょう。国際交渉の議題になるのは当然だと思います。但し、このテーマは政治的に非常に難しい問題です。途上国、特に海面上昇等の影響を受けている島国にとっては、何らかの資金支援を受ける仕組みに合意することが悲願ですが、先進国はずっと反対してきました。温室効果ガスを排出してきた“責任”と、その被害に対する“補償”という文脈の中で議論されることが多かったからです。過去の責任や補償と結び付けて議論すれば、先進国、特にアメリカは受け入れられません。“過去”の問題ではなく、“将来の被害を減らす為に頑張っていこう”という方向で妥協点を探っていくことになるのではないでしょうか」
――今年8月のG20環境・気候相会合では、ウクライナ侵攻に対する表現を巡って意見が纏まらず、共同声明の採択が見送られました。COP27でも、COP26の合意から後退する等、影響があるでしょうか?
「COP26での合意より後退することは、島国等には絶対に受け入れられません。大きく前進するのは難しいかもしれませんが、全会一致で採択した内容を覆すことは考えられません。G20は排出量の多い国の集まりですが、国連の会議には排出量が少ないのに悪影響を受け易い後発の途上国等が参加し、その声も影響力を持つ。そこが国連の会議とG20等との大きな違いです」
――世界全体での脱炭素化に向けて、日本がすべきことは?
「岸田文雄首相はCOP26で、アジアを中心にクリーンエネルギーへの移行を推進し、脱炭素社会をつくり上げるとし、化石燃料による火力発電をアンモニア、水素等のゼロエミッション火力に転換すると表明しました。一つの方法ではあるのかもしれませんが、水素やアンモニアは未だコストも高く、特に発電部門での脱炭素化に貢献するかは疑問を呈する意見があります。脱炭素実現に向け、再生エネ導入や電気自動車(※EV)への移行が進み、海外の知人から『何故日本が再生エネ技術等をリードしないのか?』と不思議がられることが多いです。残念ながら、今の標準的な再生エネ技術では中国等に価格競争で負けてしまうが、日本が強みを持つ技術はまだまだあります。ヒートポンプ等の省エネ技術は欧州等で需要が増しています。また、世界で開発競争が激化している次世代太陽電池“ペロブスカイト太陽電池”は日本発の技術です。ペロブスカイト太陽電池で世界の市場を席巻しようとするならば、今が勝負時です。これまでの再生エネ技術と同じようなことにならないよう、政府がしっかりサポートし、企業が大規模な投資を安心してできるような環境作りをしていく必要があります」


キャプチャ  2022年11月8日付掲載

テーマ : 環境・資源・エネルギー
ジャンル : 政治・経済

【池上彰の「そこが知りたい」】(24) 「宇宙船製造を夢見た少年時代…大学を再受験してでも叶えたかった」――袴田武史さん(宇宙ベンチャー『ispace』代表)

宇宙ベンチャー『ispace(アイスペース)』が独自開発した着陸船が、今月26日にも日本初、そして民間企業では世界初となる月面着陸に挑む。同社の月探査計画『HAKUTO-R』の第一弾で、着陸船は昨年12月、アメリカの宇宙企業『スペースX』のロケットで打ち上げられた。今回のミッションでは着陸技術の検証等を目的にしている。アイスペースの袴田武史代表(43)は、ジャーナリストの池上彰さんとの対談で、宇宙ビジネスの可能性や、幼少期の夢だった宇宙船開発を実現するまでの歩みを語った。



20230424 09
池上「宇宙開発は国家が担うイメージがありましたが、スペースXの登場で一変しました。ただ、どうやって民間企業が巨額の事業費を調達するのでしょうか?」
袴田「10年程前になりますが、NASAが民間企業からサービスを調達する形で、お金を支払う“お客様”になり始めたのが大きな変化でした。これまでNASAが技術開発に付けていた予算を“サービスを買う”形にシフトしたことで、企業も作った技術を売れるようになったのです。そして、私達も2025年のミッションで、NASAの月面輸送サービスを担う契約を獲得したのです。着陸船にNASAの物資を載せて月へ運ぶという契約です。こうした事業を継続していくことで、十分な収益を上げていけると考えています」
池上「日本企業はどんなメリットがあると考えて、アイスペースを支援しているのでしょう?」
袴田「これからの宇宙開発は国の事業ではなく、民間企業が参入する産業になっていくという方向性をご理解いただけるようになってきたことが大きいですね。例えば、月の水が利用できるようになって、人が月面に暮らせるような状態にできれば、インフラが必要になる。それは私達のような企業が全て造るわけではないので、インフラを整備したりサービスを行なったりする企業が参入するマーケットが生まれます。このような中長期的な視点に立って、私達の事業に賛同して下さっています」
池上「月を拠点に、火星へ人を送る計画もあります」
袴田「NASAは科学的な関心から火星を目指していますが、月の周りで燃料補給を行なって火星に向かったほうが大きくコストを下げられるという研究結果を出しています。これから、月の周りや月面が燃料補給基地として重要な役割を占めていくでしょう」
池上「宇宙開発に携わるのは子供の頃からの夢だったそうですが、どんな少年時代だったのでしょうか?」
袴田「小学3~4年生ぐらいの時にテレビで映画“スターウォーズ”シリーズを繰り返し見て、『宇宙船が凄く格好いい。造ってみたい』と感じ、夢として意識し始めました」
池上「とはいえ、夢を持ち続け、実現するのは非常に難しいですよね」
袴田「宇宙への夢を持ち続けられたかというと、一回、道を外しています」
池上「大学受験で挫折されたそうですね。東京工業大学に3回チャレンジしたと」
袴田「世界の学生が競うコンテスト“大学ロボコン”に憧れて、日本から出場していた東工大を志しましたが、自分の至らなさで入学は叶いませんでした。上智大学理工学部の機械工学科(※当時)に入学しましたが、理系にしては煌びやかな四谷にキャンパスがあったせいか、遊んでしまいました。そんな中、高校時代の友人が九州大学に進学し、私が学びたかった航空宇宙工学を専攻して頑張っている姿を見たのです。『僕は遊び呆けていていいのか』と反省し、再受験を決めました。猛勉強して名古屋大学工学部に入り、航空宇宙工学を専攻することができました」
池上「どんなことを学んだのですか?」
袴田「システム設計という授業がありました。宇宙船は色々な技術が組み合わさって、一つのシステムとして機能しなければなりませんが、それは“最適化の設計である”という内容でした。システム設計を学ぶうちに、一つひとつの技術を統合することが重要なのではないかと考えて、『やはり宇宙船を造りたい』との夢が再燃したのです」
池上「夢は持ち続けていたのですね」
袴田「はい。当時、日本のH2ロケットの打ち上げが連続して失敗した時期でした。ロケットを含めた宇宙機の設計は、非常に複雑で最適化が難しい領域です。宇宙開発では専門的な分野が多く、また、ある専門性を積んだ人が最終的に一番上のポストに就いて意思決定する。ただ、そのやり方だと必ずしも最適化できないのではないかと考えました。其々の人が自らの専門を守る為に主張し合うのでは、最適化は実現できません」
池上「それは日本の企業でもありがちなことです。事業部制を導入した企業は、其々の専門分野で成績を上げた人がトップになるので、事業全体を見渡すより自分の出身母体を見てしまい、最適な判断ができないリスクがありますから。宇宙開発の分野でも、企業経営と同じようなことがあるわけですね」
袴田「宇宙開発のような複雑なシステムの場合、担務領域の技術的な専門性まで深く入り込めないので、最適化が難しくなる傾向が強いのではないかと感じています」

続きを読む

テーマ : 星・宇宙
ジャンル : 学問・文化・芸術

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接