【迷走するプルトニウム政策】(06) 巨費投じても遠い全量再処理

フランスや日本で核燃料サイクルが行き詰まっている。プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を繰り返し利用する技術が確立できないのだ。使用済み核燃料の置き場に困ったフランスは、巨大な中間貯蔵プールの建設を計画し、最終貯蔵も見据えている。日本には“ウラン資源の有効活用”を目的に、全ての使用済み核燃料は必ず再処理してプルトニウムを分離し、再利用する全量再処理の原則がある。これを墨守すれば、プルサーマルと呼ばれる燃焼を終えた使用済みMOX燃料も再び再処理する必要がある。しかし、日本がお手本とするフランスでさえ躊躇する。何故か。「使用済みMOX燃料は、使用済みウラン燃料の数倍のプルトニウムを含む為、大きく2つの問題が生じ、再処理を妨げる」と説明するのは、『日本原子力研究所』(※現在の『日本原子力研究開発機構』)でプルトニウムを研究してきた京都工芸繊維大学の木原壮林名誉教授。第一に、MOX燃料の多量のプルトニウムを燃やすと、溶解し難い物質の割合が増え、再処理し難くなることだ。具体的には、化学的に安定している白金族元素のパラジウム、ロジウム、ルテニウムが増える。難溶性のプルトニウム酸化物もできる。二つ目に、多量のプルトニウムを扱うと臨界事故の危険性が高まる。冷却不足で溶液が蒸発し濃縮されると、プルトニウムが集まり、核分裂が意図せずに始まる。2人が被曝で死亡した茨城県東海村の臨界事故(※1999年9月)は、ウランの溶液が一定量以上に達して臨界となったものだった。
最先端のフランスでさえ、使用済みMOX燃料の再処理は実験レベルでしかない。対策として、少しずつ処理したり、ウランで薄めたりして試みられているが、効率が悪く、実用化には程遠い。フランスの核政策研究家である真下俊樹さんは、「商業レベルで使用済みMOX燃料を再処理するのはとても難しく、巨費を要する。この為、原発を運転するフランス電力(※EDF)も手を出すのを躊躇っている」と説明している。こうした中、EDFは使用済み核燃料約6500トンを貯蔵できる集中中間貯蔵プールの新設を計画している。長さ70m、幅30m、深さ10mの巨大なもので、100年以上の貯蔵を想定している。このプールが必要な理由について、EDFは「後の再利用、又は最終貯蔵の為」と説明する。つまり、使用済みMOX燃料も“核のごみ”とせざるを得ない可能性を考え、最終的に貯蔵することも視野に入れているのだ。「もうたくさんだ」。集中中間貯蔵プールが計画されるフランス北西部のラアーグ再処理工場の周辺地域では、原子力推進派の一部からも疑問の声が上がる。使用済みウラン燃料も余っており、既存の貯蔵プールが2028~2029年に満杯になると予想される。では、日本の使用済みMOX燃料はどうするのか。『関西電力』の担当者は、「再処理するまでの間、発電所で貯蔵、管理します」と答える。だが、再処理に回す時期はフランス同様、見通しが立たない。使用済みMOX燃料を扱える第二再処理工場について、政府の第六次エネルギー基本計画(※2021年10月決定)は「2030年代後半の技術確立をめどに研究開発に取り組みつつ、検討を進める」と曖昧だ。再利用への障壁は、再処理の難しさだけにとどまらない。使用済みMOX燃料のプルトニウムは質が悪化していて、原発では燃やし難い。原因は、プルトニウムの仲間(※同位体)のうち、燃え易いプルトニウム239が、中性子を吸収して燃え難いプルトニウム240に変わる等の為だ。再利用する度に、プルトニウムの質はどんどん悪くなっていく。元々、プルトニウム利用の主役と想定されたのは、既存の原発ではなく、高速増殖炉だった。高速増殖炉等“高速炉”は、高速の中性子をぶつけてプルトニウム240等の一部を燃やすことができる。しかし、主役登場の実現は怪しいと考える原子力関係者は少なくない。日本海に突き出た敦賀半島に建つ巨大な高速増殖炉の原型炉『もんじゅ』(※福井県敦賀市)。この原子炉にあった使用済みMOX燃料が昨年4月、全て取り出された。複雑な仕組みで、開発に1兆円以上が投じられた。しかし、水や空気と激しく反応するナトリウムの冷却材が漏れて火災事故を起こす等、トラブルが続発し、2016年に廃炉が決まっていた。その頃、日本政府が共同開発のパートナーとして期待したのがフランスだった。高速増殖炉の開発では米英独が断念。フランスも失敗したものの、類似の高速炉の開発を計画していた。しかし、フランスは2019年に開発を中止してしまった。ウランの価格が上がらない等として、高速炉の開発計画を21世紀後半という遠い未来へ先送りした。政府は核燃料サイクルを推進する理由として、①高速炉の開発によって廃棄物の体積を減らす“減容化”②放射能レベルを低減させる“毒性低減”――を掲げる。これに対し、内閣府原子力委員会の阿部信泰委員長代理(※当時)は2017年、放射性物質を集めて燃焼させ再処理を繰り返す点で、「これは素人でも経済性がないことがわかりますね」等と指摘。過去に、原子力規制委員会の委員からも燃料製造の難しさを含めて実現性に疑問が呈されている。NPO『原子力資料情報室』の松久保肇事務局長は、「使用済み核燃料を再処理すると、中の放射性物質が環境に放出される。とりわけ使用済みMOX燃料は再処理するあてがなく、仮にできても巨費がかかる。結局、核のごみとして直接処分するしかない」とみる。減容化でも、松久保氏は「使用済みMOX燃料は長期間、発熱量が多く、地層処分ではかなりのスペースをとり、減容化にはならない。今や太陽光や風力等、燃料費ゼロのエネルギーがふんだんに得られる。高額をかけてプルトニウムを取り出して燃やすことに意味があるのか」と批判する。核燃料サイクルが実現する見通しは、未来に先延ばしされるのが慣例になった。あてのない国策に巨費が投じられる現状を、幅広い分野の識者がしっかり見直す必要がある。 =おわり
◇
(専門編集委員)大島秀利が担当しました。

スポンサーサイト
テーマ : 環境・資源・エネルギー
ジャンル : 政治・経済