【胎動・5Gの世界】(下) 波乱の規格策定

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アドリア海に面した観光地、クロアチアのドブロブニク。5Gの国際規格を協議する会合が終わった今年3月上旬、『NTTドコモ』先進技術研究所主任研究員の永田聡氏は、ほっと一息吐いた。5Gの最初の規格を作る時期を今年末に6ヵ月前倒しすることが決まり、規格作りの枠組みを維持できたからだ。世界の通信規格の標準化は、ヨーロッパや日本勢が主導する嘗ての形から様変わりした。今回の会議も、携帯電話契約数が13億件と世界最大の中国等、アジアからの参加者が4割を超す。交渉も、「中国の要求項目を入れることで何とか協調を保てた」(関係者)のが実情だ。「世界一流のスマートシティーを作れ」。習近平国家主席の指示の下、中国は北京近郊の新都市・雄安新区を環境に優しく効率的な都市にしようと躍起だ。カギを握るのが、あらゆるモノを繋ぐ5Gの通信網だ。10年前の3Gの標準化で、中国は自国の市場を守ろうと独自仕様に拘った。通信機器大手の『華為技術(ファーウェイ)』等、中国企業が力を付けた今、寧ろ国際規格を有利に導き先進国の市場を切り崩したい――。5Gで国際協調に転じた中国には、そんな計算が働く。逸早く5Gのインフラを整え、新しいサービスを確立できれば、世界競争を有利に導ける。中国以外の国も動き始めた。

ニュージャージー州の閑静な住宅街。アメリカの通信大手『ベライゾンコミュニケーションズ』は、昨年から家庭向け5Gの実験に着手した。ケーブルテレビと競う家庭市場で顧客を獲得しようと、「5Gでの高速通信を提供する」(同社のロジャー・ガーナニ副社長)。ベライゾンは国際協議の決着を待たず、見切り発車した。「2019年に全国で5Gを商用化する」。こう宣言するのは、『KT』(韓国)の黄昌圭CEO。来年2月の平昌冬季オリンピックで独自仕様の5Gを始め、全国展開に踏み切る考えだ。NTTドコモは、「先ずは標準を纏めよう」との立場だ。東京オリンピックのある2020年までの商用化で、『KDDI』も足並みを揃える。だが、事業展開を急ぐ世界の潮流に乗り遅れると、日本は5Gの果実を取り損ねる恐れがある。尤も、巨大投資は事業者にとり、重い負担だ。イギリスの調査会社『IHSマークイット』は、「アメリカ・中国・日本等主要国の5Gの研究開発と設備投資の合計が、2020年から2035年まで年2000億ドル(約22兆円)規模になる」と推計する。投資と収益のバランスが崩れれば、事業者の将来を左右しかねない。インド2位で『ボーダフォングループ』(イギリス)のインド法人と3位の『アイデアセルラー』は今年3月、5Gの早期展開を目的に事業統合を決めた。負担を軽減しながら5Gを導入する為の苦肉の策だ。先進国では、ベライゾンが今年1~3月期に携帯電話の契約件数が初めて減少し、純利益は34億5000万ドルと前年同期比で2割減った。格安スマホが台頭する日本でも、携帯電話大手にとって将来の業績に不安が強い。4Gまでの世界では、技術でもサービスでも欧米勢がリードしてきた。だが、桁違いの利用者を抱える中国の台頭で、主導権争いは混沌としてきた。巨大市場を巡る攻防は、これからヤマ場を迎える。

               ◇

堀越功・大西綾が担当しました。


⦿日本経済新聞 2017年6月20日付掲載⦿
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【胎動・5Gの世界】(上) 大競争時代再び

次世代通信規格である第5世代(5G)の実用化が、3年後に迫ってきた。最大100倍以上の高速・大容量と、殆ど遅れの無い通信網は、あらゆるモノがインターネットに繋がる第4次産業革命の基礎インフラ。産業のかたちを変え、暮らしの隅々にまで影響を及ぼす。

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2020年7月24日夕。東京オリンピックの開会式を見ようと『新国立競技場』へ向かう群衆を、空中に浮かぶドローンの4Kカメラが捉えた。半径150mにいる数千人の映像を人工知能(AI)が解析。攻撃性・緊張度・ストレス等、50の指標で異常値を示す人物を特定した。「不審人物発見」。スマートフォン(スマホ)にメッセージを受けた近くの警備員が、刃物を隠し持つ不審者を捕らえた。その間、僅か1秒以下。『綜合警備保障(ALSOK)』が昨年から『NTTドコモ』と共同で始めた、5Gを使った警備サービスの実証実験だ。「AIや4Kカメラは進化しているが、それを伝える“神経”が無ければ使えない」と、ALSOKの桑原英治執行役員待遇は5Gの重要性を強調する。5Gの特徴は、通信速度が最大毎秒20ギガビットで、実効速度では現行4Gの100倍以上という高速通信だ。データをやり取りする時に発生する通信の遅れは1000分の1秒以下と、殆ど無い。自動運転のカギを握るのも5Gだ。通信の遅れが大きい4Gでは、高速走行するクルマがブレーキを踏んでも、後続車のブレーキが作動するまで1m以上進んでしまう。5Gなら僅か数㎝。

実証実験を始めた『5Gオートモーティブアソシエーション』に参加する『ダイムラー』や『アウディ』を始め、『トヨタ自動車』等日本勢も5Gを使った運転支援機能の実用化を狙う。ほんの20年前まで音声だけだった携帯電話は、3Gで音楽配信や写メール等画像のやり取りができるようになった。4Gではスマホの普及と相俟って、人気ドラマをみたり、買い物をする等、生活の基盤となった。5Gはあらゆる産業を繋ぎ、立体映像が手のひらで踊る時代が来る。5Gが始まる2020年の東京オリンピックを睨んだ『KDDI』の実証実験。サッカーの試合を4つの8Kカメラで撮影し、3次元(3D)映像に合成して、テレビやスマホ等のディスプレーに送る。ポイントは、コントローラーで視聴者が見たい視点を自由に選べること。ピッチでプレーする選手の視点に設定すれば、試合に“参加”することができる。『iPhone』でスマホ時代を切り開いた『Apple』の時価総額は、この10年で7倍超に跳ね上がり、世界首位に君臨する。『Google』の持ち株会社『アルファベット』や『Amazon.com』も上位に食い込む。一方、10年前に首位だった『エクソンモービル』や2位の『ゼネラルエレクトリック(GE)』は、主役の座を譲った。アメリカのコンサルティング大手『アーサー・D・リトル』等は、5Gが生み出す市場が2026年に1.2兆ドル(約130兆円)になると推計する。新しいサービスや端末をどう開発し、市場を取るかで、世界の企業競争の構図はまた大きく変わる。5G時代の主役は誰になるのか? 次の10年に向けた戦いが始まった。


⦿日本経済新聞 2017年6月19日付掲載⦿

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【世界同時サイバー攻撃】(04) 狙われた修正の隙

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「ただごとではない」――。東京都中央区にある『日本IBMネットワーク監視センター』のセンター長・鳥谷部彰則が異変に気付いたのは、先月12日23時過ぎだ。顧客企業に設置したインターネット監視装置から寄せられる警告が急増。同日夕方に身代金要求型ウイルス『ランサムウエア』を初観測してから、5時間余りで爆発的感染が始まった。「ウィンドウズが最新の状態かどうかを直ぐに確認して下さい」。鳥谷部ら監視センターの社員は、顧客企業への連絡に追われた。ランサムウエアは、『マイクロソフト』の基本ソフト(OS)『ウィンドウズ』が抱える欠陥を突くことで拡散、爆発的感染に発展した。マイクロソフトは、今年3月に欠陥を修正するソフトを公開していた。しかし、情報セキュリティー会社『トレンドマイクロ』が実施した国内企業のIT担当者を対象とした調査によれば、「修正ソフトを全てのサーバーに適用している」と回答した企業は50%に過ぎない。

適用していないサーバーのある企業は36%に上り、残りの14%は適用状況の把握すらできていない。同社エンタープライズテクニカルサポート部長の原良輔は、「今回の大規模サイバー攻撃をきっかけに、修正ソフトの適用状況が少しでも改善することを願う」と語る。電子メールや受発注システムに障害を発生させた『日立製作所』も、修正ソフトを適用していなかった。修正ソフトを適用するには、他のソフトに影響を与えないかどうか事前に検証したり、システムを一時的に止めたりする必要がある。日立製作所では、「システムが巨大な分、適用に時間がかかり、その間に攻撃に遭ってしまった」(広報担当者)。トレンドマイクロの調査では、過渡期に対策を取っていない、若しくは取っているか不明とした企業は4割にも上る。今回の世界同時サイバー攻撃では、アメリカの『国家安全保障局(NSA)』から流出したとされる攻撃ソフトが使われた。NSAのソフトをインターネット上で公開していたハッカー集団『シャドーブローカーズ』は、「新たなソフトを7月に公開する」と宣言している。企業は、強力な武器を入手した犯罪集団による新たな攻撃に備えねばならない。日立製作所が再発防止策を取り纏める等、各社は対策を急ぐ。2度目の失態は許されない。 《敬称略》 =おわり

               ◇

川合智之・多部田俊輔・古川英治・黄田和宏・竹内康雄・浦崎唯美子・小沢一郎・吉田三輪・吉野次郎が担当しました。


⦿日本経済新聞 2017年6月8日付掲載⦿

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【世界同時サイバー攻撃】(03) 包囲網、摘発には高い壁

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先月19日夕、霞が関にある警察庁の一室にサイバー捜査や情報解析等の担当官が集まった。国際電話を通じ、各国の警察機関が被害規模や捜査状況が次々と報告した。大規模サイバー攻撃から6日。『国際刑事警察機構(ICPO)』が呼びかけ、電話会議を開いた。警察は情報を伏せる傾向が強く、「ここまで迅速に情報交換できたのは異例」と警察庁幹部。発生数日後にはイギリスの『国家犯罪対策庁(NCA)』からの要請で、ICPOから“紫手配書”も届いた。各国が掴んだ手口等を共有する書類だ。サイバー犯罪への国際包囲網は徐々に構築されてきた。2014年には、日本を含む12ヵ国がインターネットバンキングの不正送金ウイルスの壊滅作戦を展開し、成果を上げた。「1ヵ国ではどうしようもない。警察だけでもダメだ」。国際協力の先頭に立つ警察庁審議官の貴志浩平(55)は言い切る。

包囲には企業も加わる。先月25~27日、和歌山県でサイバー犯罪対策に関するシンポジウムが開かれた。警察やセキュリティー企業関係者ら約450人が参加した。「重要インフラも躊躇せず攻撃する」「意図は何か?」。会場では、今回のサイバー攻撃も話題に上った。主催したNPO『情報セキュリティ研究所』の代表理事・臼井義美(69)は、「企業もサイバー犯罪対策に膨大な投資をしている。捜査機関と企業の連携は更に重要になる」とみる。ただ、犯罪者を特定し、摘発するという捜査のゴールは遠い。警視庁は今回、被害を受けた70代男性のパソコンを解析。世界中で見つかったランサムウエアと同じ可能性が高いことはわかった。しかし、“誰が送ったか”は藪の中だ。感染した端末でウイルスが自己増殖して、被害を広げる。メールを介さない為、発信元の追跡が難しい。「感染源を特定するのは、インフルエンザの最初の感染者を特定するようなもの」(専門家)。外交ルートで海外のサーバーに捜査照会をするのは時間もかかる。イギリスでは、医療機関が診療を停止する等、市民生活に深刻な影響があった。「命を人質に取られたようなものだ」。警察庁幹部の表情は険しい。同庁長官の坂口正芳(59)は先月5日、全国の警察本部長を集めた会議で、「サイバー空間の脅威は深刻化している。人材育成、産学官の連携を強化してほしい」と促した。 《敬称略》


⦿日本経済新聞 2017年6月7日付掲載⦿

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【世界同時サイバー攻撃】(02) 「分からぬ事多い」、対応後手

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「国内にも影響が出ているんじゃないか?」――。サイバー攻撃が世界を襲ったとの情報が広がった先月13日未明。内閣官房の『サイバーセキュリティセンター(NISC)』で現場を取り仕切る内閣参事官の山内智生(52)は、スマートフォンやパソコンを駆使し、携帯電話を耳に当てながら情報収集にあたった。重要インフラの被害状況等、週末中、電話やメールでNISC幹部らと連絡を取り続けた。だが、政府全体の動きは鈍かった。同日の時点で、総務省・防衛省・経済産業省・警察庁等が連携した形跡は無い。NISCはツイッターで注意喚起したが、全省庁に対応を呼びかけたのは翌14日午前だ。「政府内に被害は確認されなかった為」と言うが、初動の遅さは否めない。同日夕、経産省所管の独立行政法人『情報処理推進機構(IPA)』で、セキュリティセンター長の江口純一(52)が記者会見で企業に対応を呼びかけた。

企業活動が活発になる月曜の15日を控えていたからだが、攻撃に使われた“ランサム(身代金)ウエア”と呼ばれるウイルスの実物を未だ入手していない。相次ぐ質問に、「わからないことが多い」と歯切れが悪かった。日本での被害は『日立製作所』等一部で、影響も限定的に終わった。ただ、「これだけ広範囲の攻撃は初めて」(経産省)という中で経験不足が露呈した。これをどう教訓にするのか? 「NISCの下に、金融・医療・石油といった重要インフラ12分野の情報を一元化」――。政府の内部資料に、こんな青写真が描かれている。「サイバー攻撃には、情報収集・共有体制の拡充は不可欠」と危機感を強める。今も、攻撃を受けた企業に迅速に被害を報告することを求めているが、義務ではない。企業には、「公表すれば顧客離れや株価下落を招く」との心理が働きがちだ。自民党IT戦略特命委員長の平井卓也(59)は、「自動的に情報が集まるよう法整備を検討したい」と語る。主要国は、情報を扱う省庁が一体で攻撃に対応するのが当たり前。そんな中で、日本は2020年に東京オリンピック・パラリンピックを迎える。先月23日、自民党のサイバー対策を推進する議員連盟会長の遠藤利明(67)らが、司令塔組織創設等を訴える提言を官邸に持ち込んだ。受け取った首相の安倍晋三(62)は、「対策は喫緊の課題だ」。政府で攻撃に対抗措置を取れるようにする検討も始まったが、残る時間はそう多くない。 《敬称略》


⦿日本経済新聞 2017年6月6日付掲載⦿

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【世界同時サイバー攻撃】(01) 見えぬ兵器、不断の脅威

先月、150ヵ国以上が被害を受けたサイバー攻撃。その攻防に迫る。

20170612 17
「教育・交通・医療・エネルギー等で、数十万件のウイルス感染が報告された」――。中国内陸部の貴州省で先月25日に開かれたIT関連の国際会議。世界のIT大手関係者を前に、中国のサイバーセキュリティーの権威である沈昌祥(76)が厳しい表情で語った。同13日未明、「サイバー攻撃が世界を襲っている」という一報が中国に飛び込んだ。約30ヵ国の首脳級を招き、広域経済圏構想『一帯一路』(※海と陸の現代版シルクロード)の会議を開く直前だった。国家主席・習近平(63)の威信がかかる大舞台だ。「一帯一路を絶対に守れ」。公安省トップの郭声琨(62)は、部下らにシステムの安全確保を厳命した。中国では、公安が数万人の“サイバー警察”を擁し、インターネットの安全も担う。公安は一帯一路の会議を守った一方、自らの組織で失態を見せた。「今日は受け付けません」。出入国管理当局や免許センターが、13日から14日にかけてこんな貼り紙を出した。管理システムで感染が発覚した為だ。北京・上海・天津・江蘇省でビザの手続き等が止まり、吉林省では運転免許の試験が延期となった。河南省や四川省でも、免許等の交通管理システムに支障が出た。公安だけではない。石油大手の『中国石油天然気(ペトロチャイナ)』が北京・上海・重慶・江蘇省等で運営するガソリンスタンドの支払いシステムも使えなくなった。今回の攻撃は、『マイクロソフト』の基本ソフト『ウィンドウズ』の弱点を突いた。公安のシステムを手掛けた沈は、「中国は独自のOSを開発する必要性がある」と強調。『Google』の検索サービスを締め出した中国は、インターネットを巡る独自路線を更に強めそうだ。

イギリスでは、工場や病院の情報システムがダウンした。探偵小説『シャーロック・ホームズ』でホームズが相棒の医師・ワトソンと出会った『聖バーソロミュー病院』も、手術や診察の先送りを迫られた。『ヨーロッパ警察機関(ユーロポール)』長官のロブ・ウェインライト(49)は、「ヨーロッパの多くの国で医療部門が特に脆弱だと心配していた」と明かす。イギリスはヨーロッパ債務危機で緊縮財政を進め、公共医療を提供する国民保健サービス(NHS)は予算を減らされた。NHSのパソコンの9割が、2014年にサポートが打ち切られたOSを使い続けていた。システムを止め、元に戻す為の“身代金”を求めたサイバー攻撃。大騒ぎと同時に、研究者や企業が真相を探り始めた。あるイギリス在住の研究者(22)は、攻撃に使われたウイルスを停止させる方法に気付いた。ウイルスは暴走に備え、緊急停止指令を受け取ると活動を止める仕組みがあった。その指令を出すウェブサイトを研究者が開設し、感染が収まった。セキュリティー大手の『シマンテック』等は、犯人について「ハッカー集団のラザルスと繋がりがある」と指摘する。ラザルスは2014年に『ソニー』の映画子会社に攻撃を仕掛け、アメリカ政府は北朝鮮の関与を断定した。予てサイバー攻撃への関与を疑われ、米欧の批判を受けてきたロシアも、今回は政府のシステム等で被害を受けた。「『脅威の根源はアメリカの情報機関にある』とマイクロソフトが指摘している」。大統領のウラジーミル・プーチン(64)は15日、ここぞとばかりに矛先をアメリカ政府に向けた。マイクロソフト社長のブラッド・スミスは、「国家安全保障局(NSA)から盗まれた(ソフトの)欠陥が、世界中の顧客に影響を与えた」と、政府を公然と批判していた。NSAのソフトは、ウィンドウズの欠陥を突いて感染する。外国政府やテロ組織から機密情報を入手する為に、秘密裏に開発していた。ロシアと関係があるとされる著名ハッカー集団『シャドーブローカーズ』が今年4月、「NSAから流出した」として公開し、先月12日からの攻撃に悪用された。サイバー空間は常に、米露や中国等の主要国も北朝鮮も情報入手を競い、攻撃の機会を探る戦場。その“兵器”が市民や企業にも牙を剥いた。「我々は自分たちに相応しい敵を選ぶ」。シャドーブローカーズはブログで、アメリカに挑戦状を叩き付けた。どんな国や組織も、備えを磨くことを怠れば危機に曝される。 《敬称略》


⦿日本経済新聞 2017年6月5日付掲載⦿

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【ダークウェブ】(下) 「あなたは捜査対象だ」――監視・摘発、攻防激しく

20170426 06
昨年10月、ダークウェブを悪用する世界中の犯罪者が驚いたであろう出来事があった。「貴方は特定されている」「捜査の対象だ」――。麻薬取引等を扱うサイトのトップ画面が改竄され、利用者に警告を発するメッセージが表示された。オランダの捜査機関の名前と共に。セキュリティー会社『スプラウト』(東京都渋谷区)リサーチャーの岡本顕一郎氏によると、捜査機関がサイトの不備を突いてサーバーを乗っ取った可能性がある。アメリカでは、『連邦捜査局(FBI)』が2013年、最大規模の違法サイト創設者を逮捕した。裁判資料等によると、複数の捜査員がサイトの運営スタッフになりすまして、創設者とみられる男に接触。サイト運営や違法取引に関与した証拠を掴んだとされる。匿名性の高さから、犯罪の温床になっているダークウェブ。リスク管理支援の『デロイトトーマツリスクサービス』(東京都千代田区)シニアマネージャーの岩井博樹氏は、「海外ではサイトの運営者側に潜入したり、犯人側のサーバーにプログラムを仕込んだりする手法を駆使し、摘発を強化しているようだ」という。

法律の違いもあり、日本で同じ捜査手法が使える訳ではない。犯罪が疑われる書き込みを探して監視の目を光らせるものの、発信元に辿り着くのは難しい。できるのは、違法行為がサイバー空間から実社会に移った瞬間を逃さないことだ。愛知県警は昨年、掲示板に口座の売買情報を投稿した男を、犯罪収益移転防止法違反の疑いで逮捕した。ウェブ上で購入希望者に伝えた口座番号から、身元を特定した。捜査幹部は、「現実世界でのカネや物の流れを丹念に分析するしかない」という。企業には自衛の動きもある。「金融機関なら流出したカードや口座情報、インフラ企業ならサイバー攻撃の兆候、メーカーなら自社製品の欠陥情報を逸早く見つけ、被害が広がる前に対策を打てる」。IT機器販売の『テリロジー』(東京都千代田区)は、イスラエルの企業がダークウェブで収集した情報を提供するサービスの販売を始めた。昨年、日本に分析拠点を設けた『アーバーネットワークス』名誉アドバイザーの名和利男氏は、「ダークウェブは今後も拡大する。誰もが被害を受ける可能性があり、防御の為にも、ダークウェブ上で情報収集することが不可欠になる」と予測する。サイバー犯罪の増加に対応する為、全国の警察当局は捜査体制を強化している。警視庁は昨年度、捜査や人材育成の司令塔となる“サイバーセキュリティ対策本部”を新設した。複数の部署が連携して捜査する体制を整える。小規模な県警も体制作りに乗り出しており、滋賀県警は今春、サイバー犯罪対策室を“対策課”に格上げした。警察庁によると、他に7県警が対策課を新設した。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、企業や政府機関を狙ったサイバー攻撃の増加も懸念されている。警察幹部は、「官民の連携強化や専門知識を持った捜査員の育成も急務だ」と話している。


⦿日本経済新聞 2017年4月21日付掲載⦿

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【ダークウェブ】(中) 17歳の掲示板、悪意群がる――開設者逮捕後も独り歩き

20170426 05
「ハッカーの情報交換の場を作りたい」――。2014年暮れ、神奈川県川崎市に住む17歳の少年が、ダークウェブ内にある掲示板サイトを開設した。名称は『恒心教サイバー部』。少年自身もハッカーで、企業サイトを改竄する行為を繰り返していた。既に海外ではダークウェブが広がっていた。通常のインターネットユーザーが入れない掲示板で、高い技術を競い合う。周囲の人によると、狙いは同じような仲間を呼び込むことだったようだ。少年が繰り返していたハッキングも違法行為。ただ、興味半分だった本人の意図を超え、掲示板には様々な悪意を持つ人が集うようになる。「インターネットバンキングの口座情報求む」「犯罪の手口を教えてほしい」。ハッカーからの投稿は減り、犯罪による金稼ぎや児童ポルノの取引を目的にした投稿で溢れた。暴力団関係者やITの知識に乏しい人物の投稿も目立つようになった。“恒心教”の名は、国内の闇の世界で広まった。情報セキュリティー会社『ネットエージェント』(東京都墨田区)の杉浦隆幸会長は、参加者について「ダークウェブを使う日本唯一の犯罪者集団」とみる。投稿内容から、「多い時で約100人が参加していた」と分析している。

少年は2015年、企業に対する不正アクセス禁止法違反容疑で警視庁に逮捕された。ただ、生みの親がいなくなったにも拘わらず、掲示板が閉鎖されることはなかった。何者かが管理用サーバーを乗っ取り、運営するようになったとみられる。事件として摘発された事例もある。昨年2月、掲示板でのやり取りを通じてコンピューターウイルスを入手する等した高校1年生の男子生徒が摘発された。同年7月には、他人のカード情報を売る広告を書き込んだ男が逮捕された。摘発が相次いだ為か、昨年から投稿は下火になった。今春の時点では既に閉鎖されたとみられている。しかし、最近でも大手眼鏡店チェーンがサイバー攻撃を受けた事件で“恒心教”の名が使われる等、余波は続いている。当時、掲示板を頻繁に閲覧していた20代の男子大学生は振り返る。「犯罪の舞台になったのは残念だが、ハッカーが技術を競い合える場ができた意義は大きかった」。幼い頃からインターネットに慣れ親しんできたデジタルネイティブ世代の言葉からは、自分たちの行為に潜む危うさを深く考えた様子は窺えない。サイバー犯罪に手を染めるのは若い世代が多い。警察庁によると、他人のIDやパスワードを無断で使ってネットワークに侵入する等の不正アクセス禁止法違反で、昨年1年間に摘発されたのは、10代(14~19歳)が62人で、年代別の最多。20代も含めると、全体の6割近くを占める。捜査関係者によると、サイバー犯罪を犯す少年は罪の意識が薄い傾向がある。「専門知識が無くても、ダークウェブ上でウイルス等を簡単に入手できる」(捜査幹部)といい、悪戯の延長のような感覚で違法行為を行う若者も少なくない。


⦿日本経済新聞 2017年4月20日付掲載⦿

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【ダークウェブ】(上) カード情報1人1万円――麻薬・企業機密まで売買

違法取引や犯罪の温床になっているとされる“ダークウェブ”。増殖する闇のサイバー空間の実態を追う。

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「貴男のクレジットカード情報が売られています」――。北陸地方の40代男性は昨春、警視庁からの突然の連絡に驚いた。「誰がどこで売っていたのか…」。売り主は岐阜市の男(30)だった。失業中の生活費を稼ごうと、他人のカード情報を転売することを思いついた。最初は一般的なインターネットの掲示板で情報を入手しようとしたものの、失敗。しかし、ダークウェブの存在を知ったことで状況が変わった。ダークウェブのあるサイトで、1人分1万円程度で買うことができた。別のサイトで価格を上乗せして売りに出すと、買い手は次々に現れた。売り上げは4ヵ月で約450万円に達した。逮捕後の調べに、「通常のインターネット空間よりも効率的に売買できた」と供述した。男は昨年7月、他人の口座から現金を引き出した窃盗容疑で逮捕された。捜査の過程でカード情報の売買が判明。警視庁幹部は、「ダークウェブ内の売買だけだったら、犯行は明るみに出なかったかもしれない」と漏らす。ダークウェブは、特殊なブラウザソフト等を使わなければ接続できないインターネットサイトの総称だ。検索サイトには表示されず、自分でアドレスを調べなければならない。発信元が特定されず、犯罪の温床になっているとされる。

そこで取引されるのは、個人情報に留まらない。「あらゆる違法なものが揃っています」。東京都渋谷区にあるセキュリティー会社『スプラウト』のオフィス。高野聖玄社長がパソコンを操作すると、数十種類のコンピューターウイルス・麻薬・偽造免許証が並ぶ英語のサイトが次々と画面に表れた。取引対象毎に専門分化が進み、あるサイトには“殺人請負”の文言も。一般的な通販やオークションサイトと同じように、出品者の信頼度を評価するシステムを導入したサイトもある。競争の激しさは、本物のインターネット通販業界宛らだ。脅威は、人々の暮らしや企業活動にも忍び寄る。イスラエルのセキュリティー会社の調査では、日本に本社があるクレジットカード会社の利用者約10万人分の情報がサイト上で売買されていた。「企業の経営会議資料や新製品の図面を確認したこともある」(高野社長)。情報は世界中からアクセスできる。インターネットのサイトが犯罪行為に悪用される事例は、過去にもあった。2007年には、携帯サイトで知り合った男3人が女性を殺害する事件が発生。大規模な掲示板で違法薬物が売買されるケースも少なくない。しかし、これらは誰もがアクセス可能で、身元の特定も容易だ。捜査機関が取り締まりを強化したことで、違法行為の摘発も進んだ。代わって台頭したのがダークウェブだ。身元を隠すソフトと仮想通貨が普及し、通信と決済の両方で高い匿名性を保つことが可能になった。捜査幹部は、「犯罪者が活動する舞台は、表のサイトからダークウェブに移っている」とみる。セキュリティー大手『トレンドマイクロ』シニアスペシャリストの鰆目順介氏は、「今後、日本語のダークウェブも増える。専門知識が無くても、簡単にサイバー犯罪等に手を染められる環境が整いつつある」と懸念する。

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【科学捜査フロントライン】(15) 内偵中に「離脱しろ!」のメッセージが…『LINE』を使用するイマドキ公安警察官の通信事情

20170313 09
2014年11月4日、京都市にある京都大学のキャンパス内で、京都府警の公安警察官と思われる人物が内偵捜査を行っていたところ、学生たちに発見され、拘束されるという事件が起こった。新聞等の報道によると、その日のキャンパス内では、その2日前に東京で開かれた『11.2全国労働者総決起集会』で、京大生2人を含む3人の学生(当時)が公務執行妨害で逮捕されたことに抗議する一部学生らによる演説が行われていた。その際、見慣れぬ30代の男性がその模様をカメラで撮影しているのを不審に思った学生が問い質し、その男性が所持していた保険証や免許証等から、京都府警の警備2課に所属する警察官であることが判明した。京都府警警備2課は、国内の過激派対策等を行う公安部門の部署で、京大周辺には数十人もの捜査員や機動隊の車両等が集結し(右画像)、キャンパス内は一時騒然となったという。京都大学の副学長が現場に駆けつけ、この警察官を大学施設内に引き入れて事情の説明を受けた後、数時間後に京都府警に身柄を引き渡した。この事件は、今から60年以上前の1952年、東京大学で『ポポロ劇団』という学生劇団が政治色の強い演劇発表をしていた際、学生が会場にいた私服警察官に暴行を加えて問題となった『東大ポポロ事件』を捩って、『京大ポポロ事件』と呼ばれた。今回の事件では、拘束していた際、公安警察官が所持していたスマホの画面を学生らが確認したところ、無料通信アプリの『LINE』に「離脱しろ!」のメッセージが残っていたことが判明。そのことから、「公安は連絡手段にLINEを使っているのか?」と、日本の公安警察の情報伝達手段に疑問が持たれることとなった。

LINEは、全世界の利用者数が2億人を超え、日本では7000万人前後の利用者がいるが、このアプリを提供している会社の親会社は韓国系企業。LINEは、その日本法人が企画・開発した日本製アプリではあるものの、親会社が韓国系企業であることに変わりはない。その為、「韓国国家情報院(※嘗てのKCIAから改編)により、LINE内でやり取りされている情報が抜かれているのではないか?」という噂が絶えない。そんな機密漏れの恐れがあるアプリを、日本国内の諜報機関とも言える公安の警察官が使って問題はないのだろうか。所謂諜報機関というと、一般人からしてみれば、連絡のやり取りには慎重を期し、外部との連絡ではすれ違いざまにメモを渡したり、符丁を使って電話連絡したりといったイメージがある。通信のデジタル化が進んだ現在なら、「特殊な回線や回線暗号化装置等を使って連絡を取り合っているのではないだろうか」と想像してしまう。果たして実際のところ、日本の公安警察官は日頃、どのような連手段を使っているのだろうか? 各国情報機関の最新動向・国際テロ・日本の防衛安全保障等に詳しい軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏に話を聞いた。「捜査官同士の連絡にLINEを使っていたのは、流石に公安として脇が甘いと思いますが、協力者というかネタ元となる新聞記者や商社マンといった外部の人たちとの連絡では、実は公安はGmailのようなフリーメールをよく使っているんです」。何と、公安も一般人と同じように、普通にメールのやり取りを外部としているのだという。「但し、そこでは本名は勿論、自分の身分も書きませんし、メールアドレスも頻繁に変えています。連絡内容についても、具体的な内容等は書きません。若し、他の誰かに見られてもいいように、名前は偽名ですし、固有名詞も出しません。警察のことも、本社とか支社とかいった言い方をしています。但し、自宅のパソコンは危ないので、そこから連絡するのは禁止されているのではないかと思います。携帯電話も複数台持っていて、公務用と個人用と使い分けている。フリーメールは、そのサービスを提供する外国企業や、そのサーバーに侵入している外国の諜報機関に中身を見られる可能性はありますが、見られて拙い内容は先ず書かないですし、国際的な諜報関連の事案は兎も角、国内の案件では外部との連絡で流石にそこまで警戒はしていません」(同)。

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