夏草や兵どもが夢の跡――廃墟と化したアテネオリンピック会場の無惨な姿

東京に昭和39年以来、64年ぶり2回目のオリンピックがやって来る。その2020年開催に向けて、競技場建設の本格的な準備が始まった。国民の期待を背負って造られる競技会場だが、過去の開催地では大会終了後、全く使われなくなって放置されたままの悲しい競技場も存在する。平成16年夏、世界を湧かしたアテネオリンピック。その競技会場が今、廃墟化しているのだ――。 (取材・文・写真/写真家 カイ・サワベ)

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【文在寅の韓国】(04) “反日大統領”の虚実

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「安倍に“直球”!」「出発点から正面衝突」――。韓国大統領・文在寅(64)の日本との“初仕事”を、韓国メディアは概ね評価した。就任の翌11日、首相の安倍晋三(62)との電話協議で、文は従軍慰安婦問題の日韓合意を「韓国国民の大多数が情緒的に受け入れられない」と言い切った。日本側に映った姿は、“反日大統領”では必ずしもない。関係者によると、冒頭、文は「安倍首相とは、小泉純一郎・盧武鉉両政権で官房長官と秘書室長の間柄だった」と切り出し、「またお話しできて嬉しい」と語りかけた。両首脳のシャトル外交の復活を提案する一方、大統領選の公約だった慰安婦合意の再交渉には触れなかった。「政治家だ。日韓どちらにも良い顔ができる」と、日本政府高官を唸らせた。小泉・盧武鉉時代は、日韓当局に残る苦い記憶だ。

竹島(※韓国名は独島)の領有権や小泉の靖国神社参拝を巡り、「外交戦争も辞さない」と盧が過激な表現で日本を非難した当時、参謀だったのが文。シャトル外交が途切れたのもその時だ。電話で“未来志向”の言葉を何度も使った文に、日本側は関係改善の意欲を感じ取った。が、文の“信念”への警戒は解いていない。2012年の前回大統領選時の『対日“5大懸案”解決に関する構想』が、その1つ。慰安婦問題に加え、竹島問題も「日本の挑発に絶対に妥協しない」。日本統治時代の朝鮮半島出身者の徴用工問題では、“日本の戦犯企業”への入札規制等を次々ぶち上げた。竹島には昨年7月に上陸。“盧DNA”が文に宿る。革新系政権が誕生した今月10日、『韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)』は、「日本軍性奴隷制の基本からもう一度始めよう」と、慰安婦合意の破棄を求める声明を出した。前大統領・朴槿恵(65)の弾劾・罷免要求デモを主導した市民団体や労働組合が、文の応援団から圧力団体へと変貌する。折しも、国連の委員会が「被害者対策が十分とは言えない」と慰安婦合意の見直しを勧告し、日韓新関係はいきなり試験台に立たされた。韓国で“反日”は結束し易い。安倍に見せた文の配慮が、いつまで続くのか。「『ピープルパワーで生まれた政権だ』と強調してほしい」。今月16日、文はこう指示し、日米中露の“周辺4強”に特使を送り出した。始動した文外交は、“民心”の風に漂う。 《敬称略》 =おわり

               ◇

峯岸博・鈴木壮太郎・山田健一が担当しました。


⦿日本経済新聞 2017年5月20日付掲載⦿

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【点検トランプ政権100日】(07) 通商、貫く“アメリカ第一”

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「協定破りが収まらないなら、協定を破棄する。わかっているな?」――。大統領のドナルド・トランプは、直ぐ後ろに立つ商務長官のウィルバー・ロスに念を押した。ロスが相槌を打つと、トランプはペンを握り、新たな大統領令にサインした。先月29日、ペンシルベニア州ハリスバーグの道具メーカーの一室。就任100日を迎えたこの日、トランプは新大統領令に基づき、貿易・投資協定に関する調査を商務省等に命じた。「協定の締結後、相手国の違反行為で、アメリカは損をしているのではないか?」。そんな疑念があるからだ。調査の目的は、トランプが口癖のように言う“不公正な貿易”の実態を洗い出し、国内に雇用を取り戻すことにある。態々大統領令という形を取ったのは、“アメリカ第一”を求めて支持した白人労働者らへのアピールと言えた。トランプの矛先は、他国だけではない。アメリカの空調大手『キャリア』には、減税措置と引き換えにメキシコへの工場移転を止めさせた。「もうメキシコの工場は、ほぼ完成しているんですよ」。親会社の経営トップは、移転中止を渋ったという。「そんなの関係ないね」。トランプは、有無を言わせず押し切った。“労働者”の目線を優先するトランプ政権の姿勢は、“消費者軽視”という矛盾も孕む。典型が、検討中とされる“国境税”だ。輸入企業の税負担を重くする“国境税”が導入されれば、輸入品を扱う企業は増税分を販売価格に転嫁せざるを得ず、必然的に値上げとなる。

打撃を被るのは一般消費者の懐だ。「1台あたり2000ドル(約22万5000円)以上の値上げに繋がる」。3月上旬、全米の自動車ディーラーたち200人以上が、ワシントンで“国境税”の反対集会を開いた。「トランプの標的になるのを恐れる海外自動車メーカーに代わって、私たちディーラーが声を上げたんだ」。『アメリカ国際自動車販売協会(AIADA)』会長のポール・リッチーは、反対集会の狙いを明かした。先月下旬に発表された税制改革案に、“国境税”は盛り込まれなかった。尤も、政権側は諦めてはいないようだ。財務長官のスティーブン・ムニューシンは今月1日、ロサンゼルスでの講演でこう語り、将来的な導入を示唆した。「アメリカが関税を課していないのに、相手国がアメリカ製品に高関税を課すなら、自由貿易とは言えない」。トランプ政権は、通商分野で“アメリカ第一”を堅持している。ただ、『通商代表部(USTR)』代表の議会承認が遅れている他、ホワイトハウス内の主導権争いもあり、「具体論は先送り」(外交筋)の政策が少なくない。「あらゆる方法でルールを破っている」と批判し、為替操作国に指定することまで示唆していた中国との関係も、対立を一先ず回避して北朝鮮への圧力強化を優先する構えだ。「中国が北朝鮮の問題を解決するなら、アメリカとの貿易は遥かに良くなる」。トランプは習近平にこう持ちかけ、“通商カード”で揺さぶりをかけた。中国は強かに応じている。先月6日、フロリダ州パームビーチにあるトランプの別荘『マール・ア・ラーゴ』に、習の姿があった。トランプと初の首脳会談を行う為だ。夕食会には、トランプの長女であるイバンカも同席した。アメリカメディアによると、同じ日、中国当局はイバンカが手がけるファッションブランドについて、中国市場での独占販売権に繋がる商標登録申請を承認した。トランプを懐柔する為とみられる。政権発足100日を経て、変質の兆しもある“アメリカ第一”はどこへ向かうのか? 神経戦は続く。 《敬称略》 (アメリカ総局 山本貴徳) =おわり


⦿読売新聞 2017年5月7日付掲載⦿

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【文在寅の韓国】(03) 財閥改革は“オオカミ少年”

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「財閥改革の先頭に立ちます」――。今月10日の国民向け演説。青色のネクタイと濃紺のスーツに身を包んだ大統領の文在寅(64)は、減速する韓国経済を立て直す為、雇用改革と共に財閥改革を進める考えを高らかに訴えた。公正取引委員会委員長に内定した漢城大学教授の金商祚(54)は、「創業家による不透明な経営支配と財閥優先の経済構造の解消が必要だ」と、文の狙いを代弁する。韓国は、経済成長率が2年連続で2%台に低下。「グローバル競争で疲弊し、余力が無い企業に代わり、政府が経済改革を主導する」というのが文政権の構想だ。政経癒着も厳しく断罪する。文は選挙戦のテレビ討論で、贈収賄の罪で起訴された『サムスン電子』副会長の李在鎔(48)と、前大統領の朴槿恵(65)について、有罪判決が出ても「恩赦を考えたことはない」と明言した。

だが、就任から1週間。財閥改革の“先頭に立つ”動きは見られない。演説の2日後に『仁川国際空港公社』を訪問。「任期内に公共部門の非正規職ゼロ時代を開く」と宣言し、正規職化のロードマップ作成を指示したスピード感とは対照的だ。「半年ぐらいは様子見だ」。大手財閥の幹部は、冷ややかに文を見つめる。文自身も、盧武鉉(※故人)政権時代、サムスンの不正資金を巡る捜査で、同社に手心を加えた疑惑が取り沙汰された。大手財閥は、文の財閥改革に対する“本気度”を疑っている。“オオカミ少年”――。新大統領が誕生する度に財閥改革が叫ばれては何も変わらない韓国の状況は、こう例えられる。韓国経済の屋台骨である財閥の改革は、口で言うほど容易くはない。「『財閥の力を借りないと経済成長は不可能だ』と、新政権もわかっている筈だ」と、別の大手財閥幹部も高を括る。文に近い議員によると、新政権は具体的な財閥改革案として、仕事を身内に発注して非財閥企業を除外する不公正な商取引の禁止策導入等を検討している模様。だが、ある財閥幹部は、「グローバル競争を戦う我々に、実力の無い身内を使う余裕は抑々無い」と苦笑する。新政権誕生毎に浮かんでは消える財閥改革論。大手財閥と取引の多いある日系企業幹部は、首を捻る。「時間のかかる財閥改革より、企業統治等、経営のグローバル化を先に議論すべきなのに…」。 《敬称略》


⦿日本経済新聞 2017年5月19日付掲載⦿

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【文在寅の韓国】(02) 後援会長は朴槿恵

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「革新系なのに何故、朴槿恵(65)よりも激しく責めるのか?」――。先月19日のテレビ討論会。労働系の『正義党』候補である沈相奵(58)が文在寅(64)を鋭く批判すると、同党のブログには“ムンパ”と呼ばれる文の熱烈な支持者から非難の書き込みが殺到した。中心は所得格差や就職難等の現実に直面する30代とみられ、文が訴える“積弊打破”に共感する。「書き込みをお願いします」。文に不利な言動があれば、誰かが抗議の声を上げ、呼応した人々がSNS・メール・ブログへの書き込みで拡散する。他候補の支持者もやってはいたが、ムンパの激しさは、韓国大手紙の『毎日経済新聞』が社説で「文候補の支持者のデジタルテロは深刻な水準だ」と諌めるほどだった。元外務大臣の宋旻淳(68)も攻撃対象となった。盧武鉉政権が2007年に国連の北朝鮮人権決議案の採決を棄権した際、秘書室長だった文が事前に北朝鮮の意向を聞いていたことを示すとする文書を公開すると、宋のブログには「下心は何か?」等と書き込まれた。

ただ、大統領選での文の得票率41.1%は、ムンパの支持だけでは説明がつかない。国民と対話せず、長年の友人だけに心を開いた朴に憤り、弾劾に追い込んだ“民心”が文に味方した。「大好きという訳じゃない。『朴槿恵が許せない』という気持ちのほうが強いかな」。大統領選の投票まで最後の日曜日となった今月7日。ソウルの繁華街・弘益大学前で、安哲秀(55)の街頭演説を眺めていた男子大学生に誰を支持するか聞いたところ、悩んだ末に「文在寅」と答えた。“ABP(Anything But Park=朴でなければ何でも)”――。主催者発表で100万人がソウル中心部の『光化門広場』に集まった昨年末の蝋燭集会以降、韓国ではこんな言葉が飛び交った。物静かな文に、同志だった盧のようなカリスマ性は無い。政権交代の象徴だった革新系『共に民主党』の大統領候補が文だった面もある。中道の安にもチャンスはあった。だが、安は先行する文との形勢逆転を狙い、朴から離れた保守層の取り込みに動いた。それは、“非朴”の支持を失うことも意味する。「文在寅の後援会長は朴槿恵だった」。安陣営の関係者は悔しがった。 《敬称略》


⦿日本経済新聞 2017年5月18日付掲載⦿

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【点検トランプ政権100日】(06) 対テロ、大統領令に固執

20170523 03
イラク北部のアルビル。クルド自治政府治安部隊の司令官室に、1畳ほどの大きさの“戦略図”が掲げられていた。無数の矢印が示すのは、イスラム過激派組織『IS(イスラミックステート)』が居座る拠点都市・モスルの中心市街地だ。矢印は、各部隊の進軍状況を意味するという。「ISは包囲された。もう逃げ場は無い」。同部隊のオメル作戦部長は、司令官室で表情を引き締めた。ISは、イラクで略奪・虐殺・遺跡の破壊等、暴挙を繰り返している。アメリカ軍主導の有志連合によるIS掃討作戦が始まって約3年。約20万の兵力を有するクルド人部隊は、イラク政府軍のモスル奪還作戦を支えてきた。アメリカ国務省によると、ISは最盛期に比べ、イラクで支配地域の61%を失った。要衝であるモスルの“解放”は、あと一歩のところまで来ている。「ISの支配地域の縮小は、短中期的には世界中でテロ攻撃の増加に繋がる恐れがある」。軍事研究で定評がある『ランド研究所』は先月、こんな報告書を公表した。「支配地域を追われた過激派が、世界各地に離散して、破れかぶれの自爆テロに走る」。そうした懸念を指摘したものだ。ドナルド・トランプは「テロリストが難民や移住者に紛れて押し寄せてくる」として、就任直後、イスラム圏7ヵ国からアメリカへの入国を制限する大統領令に署名した。ただ、これはテロ防止には逆効果との見方が強い。『ワシントンポスト』は社説で、「テロ防止効果は皆無同然。寧ろ、ISの宣伝活動に利用される」と警鐘を鳴らした。

大統領令は結局、「“信教の自由”の侵害にあたる可能性がある」として、裁判所に執行を差し止められた。テロ対策を巡る迷走は、政権交代後、政治任用の政府高官人事が野党の反対等で遅れていることも一因とされる。トランプは大統領令の効力復活に執念を見せるばかりで、アプローチを変える様子はない。2001年9月11日の同時多発テロ後、綿密な計画と準備を必要とする大規模テロは、アメリカ本土では起きていない。しかし、アメリカ人を狙ったテロは今も起きている。今月3日、アフガニスタンの首都・カブールで、『北大西洋条約機構(NATO)』軍の車列を狙ったとみられる爆弾テロが発生した。アフガニスタン内務省等によると、アフガニスタン人8人が死亡し、20人以上の負傷者にアメリカ兵3人が含まれるという。これに対しISは、「アメリカ人8人を殺した」とする犯行声明を発表。当局発表と事実は異なるが、アメリカ人を標的とする犯行だったことは明らかだ。アフガニスタンでは2014年末以降、ISが急速に勢力を伸ばした。アメリカ主導のNATO軍が戦闘任務をアフガニスタン軍に任せ、後方支援に移行した後のことだ。トランプが“テロ対策”で活路を見い出そうとしたロシアとの共闘も進んでいない。決定的だったのは、シリア軍によるとみられる化学兵器を使った空爆だ。トランプは対抗措置として、巡航ミサイル59発をシリア中部のホムス南東にあるシャイラト空軍基地に撃ち込んだ。ロシア大統領のウラジーミル・プーチンは、「主権国家への侵略的行為は許し難い」とトランプの判断を詰った。シリア攻撃後初めて行われた今月2日の両首脳による電話会談では、シリア問題で協力の道を探ることで一致したとされる。とはいえ、トランプ自身が「過去最悪かもしれない」と語る米露関係の修復は容易ではない。国務長官のレックス・ティラーソンは今月3日、国務省職員を前にこう演説した。「シリアとイラクでISを打ち負かしつつあるが、ISがその範囲を超えて存在することもわかっている」。言葉の端々に、一朝一夕ではいかないテロ対策の難しさが滲んだ。 《敬称略》 (アメリカ総局 尾関航也・テヘラン支局 中西賢司・ニューデリー支局 田尾茂樹)


⦿読売新聞 2017年5月5日付掲載⦿

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【イラン大統領選・核合意への審判】(下) 対米路線、“継続”か“対決”か

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大統領選まで残り4日となった今月15日、再選を目指すハサン・ロハニ大統領(68)の対立候補であるテヘラン市のムハンマド・ガリバフ市長(55)が突然、選挙戦から撤退した。イスラム教に基づく統治体制を守る為に国際社会との対立も辞さない保守強硬派のガリバフ市長は、「現状を変えなければ“革命(体制)”を守ることはできない」と表明し、同じく強硬派のエブラヒム・ライシ前検事総長(56)への支持を宣言した。調査機関が今月13日に行った支持率調査では、ライシ師(25.2%)とガリバフ氏(19.5%)の数字を単純に足せば、ロハニ師(47.2%)に迫る。ライシ師は大統領の上に君臨し、“反米国家”の全権を握る最高指導者のアリー・ハメネイ師に近いとされる。強硬派が候補者を一本化したことで、ロハニ師が優位とみられていた選挙の行方は見通せなくなった。大統領選は、イランが核開発の制限を受け入れ、見返りに米欧が経済制裁を解除するとした“核合意”(※2015年7月)への審判となる。核合意の立役者であるロハニ師は、「核合意の継続が最も重要だ」と繰り返し訴え、今月15日の演説では「合意に反対する者は制裁の復活を望んでいる」と、ライシ師ら強硬派を牽制した。

一方、ライシ師は同日、演説で「ロハニ政権が合意を履行しても、相手(※アメリカ)は守っていない。革命的な政府でなければ、移合意という小切手を現金化できない」と述べ、「核合意の恩恵を最大限引き出すには、アメリカとの対決が不可欠」と主張した。宿敵のアメリカは、バラク・オバマ前政権の時代に核合意を受け入れ、核開発と結び付いた制裁は解除した。だが、“テロ支援”を理由に独自に行っているイランへの制裁は、現在も続けている。この為、イランは国際送金し易いドル取引を規制されたままで、日本企業の関係者からも「正常なビジネス環境と言えない」との声が聞かれる状況だ。更に、今年1月20日に就任したドナルド・トランプ大統領は、イランへの敵対姿勢を強め、核合意についても「史上最悪の取引だ」と批判し、見直しさえ示唆する。こうした中で、イラン国内の対米不信は強まっている。シリア内戦を巡っても、イランはロシアと歩調を合わせてアサド政権の後ろ盾となり、同政権打倒を目指す反体制派を支えるアメリカと対立する。更にイランは、ペルシャ湾岸の国々やイエメンへの影響力拡大も目指す。イランと中東の覇権争いを繰り広げるアメリカの同盟国であるサウジアラビアや、イランが存在を認めないイスラエルは、“核合意”を批判し、イランの核武装に警戒を強める。外交評論家のサへブ・サデリ氏は、「強硬派の大統領が誕生すれば、周辺国やアメリカとの緊張は一段と高まる」と述べ、「核合意の根幹が揺らぎかねなくなる」と指摘する。

               ◇

テへラン支局 中西賢司が担当しました。


⦿読売新聞 2017年5月17日付掲載⦿

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【イラン大統領選・核合意への審判】(上) 描けぬ“繁栄”、国民失望

大統領選挙を前に、“核合意”を受けイランで進む変化について報告する。

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「マンション建設は10ヵ月程前に止まった。核合意で経済制裁が解除されたなんて信じられない」――。テへラン郊外のニュータウン『パランド』で、骨組みと外壁だけのマンションを見上げ、現場を管理するメへディ・レザイさん(62)が嘆いた。200戸の入居を見込む5階建てマンションは、「元請けの資金繰りが悪化し、工事再開の目途は立たない」という。再選を目指すハサン・ロハニ大統領の1期目の成果は、アメリカやロシア等『国連安全保障理事会』の常任理事国にドイツを加えた6ヵ国と結んだ“核合意”だ。「原油輸出で国の財源は潤い、貿易や投資が活発化し、疲弊した経済が立ち直る」。ロハニ師は、核合意の恩恵をこう強調してきた。テへランで今月上旬に開かれた国際展示会『オイルショー』には、約40ヵ国から1500社近くが参加し、世界第4位の原油埋蔵量を持つイランへの関心の高さを示した。参加した中国の石油掘削会社の幹部は、「資源が豊かなイランで事業ができると期待している」と話した。

だが、外国企業の“イラン回帰”の動きは鈍い。イラン政府の発表では、核合意が結ばれた後、外国企業と交わした覚書の投資総額は約500億ドル(約5兆6500億円)に達するが、正式契約に至ったのはその4分の1で、実現した案件は更に少ない。ドイツ企業のテへラン駐在員は、「イランを敵視するドナルド・トランプ政権の登場で、先行きに不透明感が増した。投資判断は情勢を見極めてからにしたい」と慎重だ。『イラン中央銀行』によると、制裁解除を反映し、イランの昨年3~12月の国内総生産(GDP)は、前年同期比で11.6%の高い伸びを記録した。だが、エネルギー部門を除けば1.9%と微増で、昨年12月の世論調査では7割が「生活は向上していない」と回答した。失業率は12%と高く、約8000万人の人口の半分を占める30歳未満の世代では26%と特に深刻だ。核合意の後も改善しない状況に、失望が広がっている。ロハニ師の対立候補で、イスラム教に基づく厳格な統治を主張する強硬派が推すエブラヒム・ライシ前検事総長は、雇用分野におけるロハニ師の失政を批判し、「倒産企業を再生し、失業者を再雇用する」と主張する。「4年前はロハニ師に投票したが、今回は選挙に行かない」。南部のシーラーズ近郊で昨年10月、約2万人が参加した政府への抗議デモに参加した男性(35)は言い切った。


⦿読売新聞 2017年5月16日付掲載⦿

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【文在寅の韓国】(01) それでも「対話の道開く」

韓国に革新系の大統領が誕生し、緊張が高まる朝鮮半島に波乱要因が加わった。“文在寅の韓国”の行方を探る。

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今月14日早朝、北朝鮮による弾道ミサイル発射は、夢見心地の韓国新政権を叩き起こした。大統領の文在寅(64)は、同10日の就任演説で南北対話への意欲を示したばかり。「『朝鮮半島の平和定着の為、私ができる全てを尽くす』と話した。それにも拘わらず…」と悔しさを滲ませた。それでも尚、南北対話を探る文の信念は揺らいでいない。同10日夜、9年ぶりの革新系大統領に就いた“長い1日”は、未だ終わっていなかった。ソウルの自宅に電話が鳴った。アメリカ大統領のドナルド・トランプ(70)だ。「十分な礼節をもって歓迎する。2人の大統領選勝利を一緒に祝おう」と訪米を招請した。「会うのを待ち焦がれる。懸案があればいつでも気楽に電話してほしい」。恋人に囁くような言葉で締め括ったが、北朝鮮との融和姿勢を隠さない文とトランプの腹の探り合いは、既に始まっている。投開票前日の同8日夜、文は選挙戦の最後の訴えで光化門にいた。李氏朝鮮時代の王宮の城門前広場は、前大統領の朴槿恵(65)を弾劾・罷免に追い込んだ“蝋燭集会”の本拠地だ。「トランプ大統領と金正恩を動かすことができる交渉者、確固たる安保、堂々たる外交ができるのは誰ですか!」と呼びかけると、支持者から文在寅コールが沸き起こった。韓国は、南北分断後70年を過ぎても、親米派の保守層と北朝鮮に融和的な革新(進歩)層が拮抗し、時に激しくぶつかり合う。革新層の脳裏には、市民と戒厳軍部隊が衝突し、街が戦場と化した1980年の『光州事件』等の影が残る。「アメリカは軍事政権の市民弾圧を黙認した」との抜き難い不信感だ。文は人権派弁護士として、反軍事独裁政権の民主化運動に身を投じた筋金入りのリベラル。当時の運動家には“反米DNA”がある。

「北朝鮮が核を凍結すれば米韓合同軍事演習を縮小できる」「朝鮮半島の軍事行動は断じて韓国の同意無しになされてはならない」――。最近の文は、アメリカを刺激しかねない発言が目立つ。トランプも黙っていない。韓国大統領選が文リードで後半戦に差しかかった頃、アメリカメディアのインタビューで『米韓自由貿易協定(FTA)』を糾弾し、『地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)』の配備費用についても「韓国が払うのが妥当だ」と、10億ドル(約1100億円)の負担を突きつけた。外交専門家は、「韓国がTHAAD配備に抵抗すれば在韓アメリカ軍を撤収しかねない」とみる。韓国の革新政権の取り込みを狙うのが中国だ。北朝鮮の核実験阻止に向けてアメリカと一先ず歩調を合わせるものの、韓国との関係改善で緊張関係にあるアメリカや日本を牽制する意図が透ける。「平凡ではない経歴・思考・観点に深い印象を抱いている」。米韓首脳の電話協議から13時間後、中国国家主席の習近平(63)は電話で文に語りかけ、極貧生活から革新系大統領に上り詰めた生い立ちに共感を覗かせた。「交渉してこそ北朝鮮の核放棄を実現できる」との考えで2人は一致。中国が反発するTHAAD問題を話し合う代表団派遣を打診した文に、中国は歓迎の意を示した。同10日の文との電話で、トランプは北朝鮮問題より先に米韓FTAの再交渉を切り出した。中国にも配慮する文に、米中のどちらをとるかを迫る踏み絵だった可能性がある。米中が北朝鮮と朝鮮半島の将来を頭越しで決める“韓国パッシング”を、文は恐れる。対北朝鮮軍事作戦も、電撃的な米朝和解も、韓国に望ましくない。「北朝鮮と活発に対話していれば、アメリカも中国も韓国を無視できなくなる」と信じる。ミサイル発射後、文は北朝鮮への“断固たる対応”を命じつつ、「対話の可能性を開いている」と語った。韓国政府の声明も、「対話の道に出てくることをもう一度促す」。“制裁”や“懲罰”の文字が消えた。韓国が“文カラー”に染まりつつある。「最早、我々が主導しなければならない」と意気込む文。米中等周辺の大国の利害を調整して自らの外交力を強化する理念は、盟友の元大統領・盧武鉉(※故人)が目指しながらも挫折した“バランサー論”に通じる。文外交が危うさを孕みながら、日米を揺さぶり始めている。 《敬称略》


⦿日本経済新聞 2017年5月17日付掲載⦿

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【点検トランプ政権100日】(05) 報道批判、目くらまし

20170519 03
ドナルド・トランプ政権発足から100日の節目を迎えた先月29日、ワシントン市内の『ワシントンヒルトンホテル』。ホワイトハウス記者会主催の夕食会に、2600人を超すメディア関係者や著名人らが集まった。タキシード姿の男性に、色鮮やかなドレスを身に纏った女性。華やかな雰囲気の中、『ロイター通信』の記者で同会会長のジェフ・メイソンが演台に立った。「我々の仕事は、事実に基づいて報道することだ。我々は“フェイクニュース”ではない」。名指しこそしなかったものの、トランプが念頭にあるのは明らかだった。記者仲間たちは、総立ちで拍手を送った。例年なら、会場に現職の大統領が招待され、ユーモア溢れるスピーチを披露する。しかし、トランプは出席を断り、約100マイル離れたペンシルベニア州ハリスバーグで自らの集会を開いた。「私の100日を語る前に、メディアの100日を採点してみよう」。トランプはそう切り出すと、新政権に関するテレビ報道の89%が“否定的な切り口”だったとの調査結果を紹介した。そして、政権批判を続ける記者たちをばっさり切り捨てた。「非常に不誠実な人々だ」。集まった支持者らは、大きなブーイングでトランプに賛意を示した。メディアとの喧嘩は、今やトランプの代名詞だ。歴史ある報道機関を“エスタブリッシュメン(既存支配層)”の一部に位置付け、旧来型政治からの脱却をアピールする狙いがトランプにはある。

しかし、この対決構図も単純ではない。トランプが“フェイクニュース”だと指弾するのは、『CNN』・『MSNBC』のテレビ2社や『ニューヨークタイムズ』等一部に限られる一方で、保守系の『FOXニュース』を「最も正直だ」と持ち上げ、他の主要メディアの多くとも“100日”を前に単独インタビューに応じた。明確に差別化している。インターネットに記事を掲載する『ポリティコマガジン』は、ホワイトハウスを担当する記者60人超にアンケートを行った。トランプ政権になって取材機会が「減った」とする回答は38%。42%は「ほぼ同じ」だとし、21%は「増えた」と答えた。トランプや政権幹部は実のところ、多くのメディアと歴代政権並みに付き合っている。「トランプは、表ではメディアを激烈に批判するが、本音では報道ぶりを気にかけているし、取材にも積極的に応じている」。『ABC』記者のジョナサン・カールは、こう指摘する。同じアンケートでは、75%の記者がトランプによるメディア攻撃の目的を、単なる“目くらまし”だと受け止めていた。都合の悪い報道は“フェイク”だと決めつけ、支持者の関心が薄れるよう仕向けるトランプの思惑が、アメリカ人記者には見透かされている。二面性を持つトランプ政権とメディアの関係は、どこに向かうのか。ジャーナリズム関連の博物館『ニュージアム』で報道の自由を守る活動をしている『憲法修正第1条研究所』は先月下旬、アメリカ国内で“報道の自由”が保たれているかどうかについて、判定を発表した。15人の評価者の平均は、6段階評価で上から3番目の“C”に辛うじて届いた。同研究所のラタ・ノット常任理事は、「最低のF評定にならなかったのは、メディアが“政権の監視役”の仕事を熟しているからだ」と分析する。ただ、ニュージアムの昨年の世論調査では、「メディアは偏向なく報道していると思うか?」との問いに、74%のアメリカ国民が否定的な見解を示した。『ワシントンポスト』論説委員長のフレッド・ハイアットは、こう自戒する。「政権のメディア攻撃に対するジャーナリストの答えは、同じレベルで政権を非難することではない。プロフェッショナリズムに基づいて仕事を続けることだ」。 《敬称略》 (アメリカ総局長 小川聡)


⦿読売新聞 2017年5月4日付掲載⦿

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