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【クレディスイスはどこへ】(下) 変化を迫られるスイスの銀行

20231201 06
“金融立国”スイスの銀行業界で、古き良き伝統を最も色濃く残すのが、小規模、家族経営で富裕層の資産運用を専門とするプライベートバンクだ。中でも、経営陣が無限責任を負う経営形態の銀行はプライベートバンカーと呼ばれて区別され、“生粋のプライベートバンク”とされる。スイスの金融界を支えるそんな銀行の一つを訪ねた。チューリヒの南西約50㎞に位置するルツェルンに、プライベートバンカー『ライヒムート』の本店がある(※左画像)。石造りの重厚な建物だが、邸宅のような佇まいで銀行のようには見えない。芝生に囲まれた庭を通り、小さな玄関扉を開けると、簡素ながら高級感ある応接間が広がっていた。ライヒムートは1996年創業と、プライベートバンカーの中では最も歴史が浅い。カール・ライヒムート氏とその息子、クリストフ氏が創業した。カール氏は『クレディスイス』に長く勤務した経験を持つ。「父は、販売力にものをいわせて既成の金融商品を売り捌く米英型の経営に疑問を感じていた。私も起業を目指しており、スイスの伝統である顧客本位を維持しながらも革新的な部分を持つ銀行の開業を思い立った」。引退したカール氏を継いで社長を務めるクリストフ氏は、そう話す。現在、顧客は8000人超。スイスやドイツ、イギリスが中心で、アジアは今のところいないという。クリストフ氏は「誰でも取引はできます」としつつも、「200万スイスフラン(※約3億円)以上の金融資産を持つ顧客が多い」と話しており、やはり富裕層に限られるようだ。クリストフ氏ら経営陣3人は、経営破綻の際には個人資産を弁済に充てる無限責任を負う。「無限責任は古臭いかもしれないが、私達がリスクを負っていることで顧客は安心する。無限責任は信頼関係を更に深めるのに役立っている」と胸を張る。

ライヒムートでは、顧客の家族構成や資産状況等詳細を把握した上で、其々に合った資産運用や投資を提案する。クリストフ氏は、「顧客は私達の姿勢を見ている。無限責任を負っている私達は慎重を期し、投機的な運用はしない」と説明する。クレディスイスの経営危機については、「彼らはスイス国内の経営は順調だったが、海外でリスクを負い過ぎた」と分析する。スイス金融業の伝統を受け継ぐプライベートバンクだが、取り巻く環境は厳しい。1990年代に300行を超えていたが、現在は92行に減少。中でも、ライヒムートのように無限責任制を貫くプライベートバンカーは17行から5行に減った。背景には、テロ資金や犯罪収益等のマネーロンダリング(※資金洗浄)や国境を超えた脱税をあぶりだす為、国際的な資金の流れに対する監視が強まったことがある。嘗てスイスでは1934年に施行された銀行法で、顧客情報の第三者への提供が禁じられていた。この為、財産の詳細を知られたくない世界の富裕層がスイスの銀行を利用した。「ナチスの金塊が預けられている」「暗殺者の報酬の振込口座がある」――。小説や映画で増幅されたその秘密主義は神秘性を高め、スイス金融業のブランド確立に一役買った。しかし、2001年のアメリカ同時多発テロ等を背景とした国際的な規制強化で、伝統的なルールの維持は難しくなった。アメリカ政府は2008年、顧客の脱税を幇助した疑いで、スイス最大手の『UBS』を告発。スイス政府はこれを受け、銀行の顧客情報をアメリカに提供した。そうした変化の中で特に影響が大きかったのが、アメリカ当局によるスイスの銀行『ウェゲリン』の告発だ。2002年から2010年にかけ、アメリカの納税情報開示義務を履行していないアメリカ人顧客の口座を開設したとして、アメリカ当局が脱税幇助で告発。ウェゲリンは2013年1月、弁償金や罰金等計5780万ドルを支払うことに合意したが、廃業を決めた。ウェゲリンは1741年設立のスイスでも最古のプライベートバンカーの一つで、この事件をきっかけに、廃業したり業態を変えたりするプライベートバンカーが相次いだ。法的なリスクや訴訟、規制対応のコストは跳ね上がっており、クリストフ氏は「私達は比較的規模が小さいが、規模が大きくなればなるほど経営者個人が負うリスクも大きくなった」と語る。変化を迫られているスイスのプライベートバンク。ただ、数こそ減ったものの、世界的な株高等で、管理する資産の総額は増加傾向にある。「無限責任といったスイス金融業の伝統を守りながら、運用面では風力や太陽光発電分野への投資等、革新性を追求していきたい」。クリストフ氏は、そう話す。

          ◇

(欧州総局長)宮川裕章が担当しました。


キャプチャ  2023年5月25日付掲載
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【クレディスイスはどこへ】(上) スイス、陰る金融立国

世界有数の金融機関である『クレディスイス』が今年3月、経営危機に陥り、スイス最大手の銀行『UBS』に救済合併されることが決まった。金融立国スイスの象徴とも言えるクレディスイス。その危機と救済劇を、スイスの人々はどう見ているのか。現地を取材すると、喪失感と共に複雑な感情が浮かんできた。



20231201 04
スイス北部、チューリヒ。中央駅を降りると大きな緑の銅像が目に付く。街の英雄、アルフレッド・エッシャー像だ(※右画像)。欧州の中心部に位置するチューリヒは19世紀、繊維産業を中心に栄えた。だが、交通の便の悪さから陸の孤島のような状態だったという。エッシャーは鉄道網の開発に尽力し、1853年、現在のスイス国鉄の前身である『スイス北東鉄道』を創設した。鉄道の開発は多額の資金を必要とする。そこでエッシャーが設立したのが投資銀行、後のクレディスイスだった。駅前に聳え立つエッシャー像が見つめる約1㎞先に、チューリヒの金融街がある。クレディスイスやUBSが本店を構え、中小多くの銀行も拠点を置く。通りには『グッチ』や『プラダ』等高級ブランドが軒を連ね、その賑わいはエッシャーによる投資が実を結び、チューリヒが世界有数の金融センターに成長したことを物語る。そんな街の発展を牽引してきたクレディスイスは今年3月、167年の歴史に幕を下ろすことが決まった。引き金となったのは、アメリカ発の金融不安だった。アメリカ地銀の経営破綻で不祥事続きだったクレディスイスの経営にも懸念が高まり、株価が急落。クレディスイスは国際的規制で“グローバルなシステム上重要な銀行”の一つに指定されており、破綻すれば世界的な金融危機に発展する恐れがあった。スイスの金融当局は、市場の取引が休みの土日にUBSによる買収を纏め上げ、市場の不安沈静化を図った。「スイス国民にとってクレディスイスの消滅は、単なる一つの銀行の消滅ではない。スイスを象徴する歴史を失う悲しさがある」。『スイス金融博物館』のアンドレア・バイデマン館長は、そう話す。

アルプス等険しい山々に囲まれたスイスにとって、金融業は経済を支える柱の一つとなってきた。どの陣営にも与しない永世中立国という強みと口の堅さをモットーに、世界中の富裕層らの資産を受け入れて発展してきた。そんなスイスの金融業を代表する存在の一つがクレディスイスだった。ただ、バイデマン氏はこうも指摘する。「スイスの銀行は伝統的に大きなリスクを取らず、慎重な経営で今の地位を築いてきた。銀行員は控えめで堅実を美徳とし、それはスイスの国民性そのものだった。だが、クレディスイスはそんな伝統的な銀行経営から逸脱した。それに不満を持つ国民は多い」。実際、スイス国内でクレディスイスを見る目は冷ややかだ。クレディスイスのアクセル・レーマン会長は3月19日、UBSによる買収を発表した記者会見で、「アメリカで始まった出来事が最悪のタイミングで直撃した」と弁明した。だが、ザンクト・ガレン大学金融研究所のエコノミストであるシュテファン・レッゲ氏は、「金融不安は最後のとどめに過ぎない。これまでの経営の歪みがこの結果を招いた。スイスの銀行が積み重ねてきた名声、信用に傷を付けた罪は重い」と手厳しい。“経営の歪み”を招いたものとは何なのか。レッゲ氏は「アメリカ流経営を取り入れ、短期的な利益を目指すようになったこと」を要因に挙げる。スイスの金融業は、富裕層の資産管理を専門とする家族経営のプライベートバンクを中心に発達した。倒産の際には経営者が自らの財産を充てて損失を弁済する無限責任が原則で、株主ではなく顧客と向き合い、リスクを避け、堅実に利益を重ねる独特な経営スタイルで知られた。そんな業界で、株式会社として株主を重視し、常に高い利益を追求するアメリカ流の経営手法を導入したのがクレディスイスとUBSだった。クレディスイスは1978年、アメリカの有力な投資銀行『ファーストボストン』と提携。1988年には事実上買収し、投資部門に注力した。UBSも投資業務を拡大し、自らのヘッジファンドでリスクの高い投資に乗り出した。市場規模が小さいスイスを飛び出し、世界に進出した2行だったが、最初に躓いたのはUBSだった。アメリカの低所得層向け高金利住宅ローン『サブプライムローン』の問題に端を発した金融危機で、2008年に日本円で数兆円規模の巨額の評価損を計上。スイス政府が60億スイスフラン(※当時のレートで約5300億円)の公的資金を注入し、救済した。UBSは事業の抜本的見直しを迫られ、投資部門や市場部門を縮小し、富裕層向けの資産運用業務に回帰した。

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【WEEKEND PLUS】(434) ドイツ文学賞の授賞式延期で波紋…パレスチナ人女性作家が描いた作品とは?

20231201 02
ドイツで翻訳出版された女性作家から選ばれる文学賞『リベラトゥール賞』の今年の受賞者が、パレスチナ人のアダニア・シブリの作品に決まった。しかし、その授賞式が延期となり、波紋を広げている。受賞作は、イスラエル兵らによってパレスチナ人の少女がなぶり殺しにされた第一次中東戦争中の1949年に実際に起きた事件を基に書かれている。例年通り、10月にフランクフルトで開催される書籍見本市で授賞式が行なわれる予定だった。しかし、主催団体の出版協会『リトプロム』は直前になって見本市での授賞式中止を発表。理由は「ハマスが戦争を始めた為」と説明されている。これに対して、「パレスチナ人の口を閉ざすのか」と批判が殺到。リトプロムは「受賞自体は有効だ」と説明している。


キャプチャ  2023年11月号掲載

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【気候変動のリアル】(26) フランス、原発ムラの“ノン”



20231127 01
鈍く輝く煙突が空に突き刺さる。コンクリートと鉄が織りなす建物のシルエットは、まるで巨大戦艦のようだ。フランス北西部、コタンタン半島にある『オラノ』(※旧社名は『アレバ』)ラアーグ再処理工場。1966年の設立以来、フランス国内の他、日本を含めた外国からの使用済み核燃料を再処理し、原発で再利用するウラン・プルトニウム混合酸化物(※MOX)燃料の原料となるウラン、プルトニウムを抽出してきた。フランス国内有数の原子力関連施設が集中するこの地では、2011年3月の『東京電力』福島第一原発事故後も住民の原子力への支持は揺らがなかった。そして今、ロシアによるウクライナ侵攻が引き起こした資源価格の高騰や気候変動対策への意識の高まりが、温室効果ガスの排出量が少ない原発の再評価を促している。しかし、原発に追い風が吹く中、コタンタン半島で嘗てない大規模な抗議運動が起きている。きっかけは、再処理工場の隣接地にフランス政府が大株主の『フランス電力(EDF)』が新たに計画した使用済み核燃料等の貯蔵プールだ。フランス国内の原発から送られる使用済み核燃料が蓄積し、ラアーグ工場内の既存の貯蔵プールが満杯になりつつある為だ。エマニュエル・マクロン政権は昨年2月、原発6基の新設を発表しており、事態は更に深刻化しそうだ。EDFは当初、原発があるベルビルシュルロワールに新たに貯蔵プールを建設予定だった。だが、周辺住民の反対運動で計画は中止に。代替地として選ばれたのが、再処理工場のあるラアーグだった。EDF関係者は、「既に原発関連施設がある場所以外に新施設を建設するのは難しいとの判断があった」と打ち明ける。

「核のごみはもう要らない!」――昨年6月18日。コタンタン半島の中心都市、シェルブールで約800人の住民が新貯蔵プールの計画中止を求めるデモを始めた(※左上画像、ギ・ペシャールさん提供)。抗議運動は今も続いている。EDFにとって、この地での抗議運動は想定外だった。運動に参加する教員のティボー・カルムさん(29)は言う。「私達はこれまで核のごみを受け入れてきた。だが今後、永遠に受け入れるつもりはない」。デモ会場で壇上に立ったマチルド・ジローさんも、「誰がこれを決めたのか。自分の都合のいいように物事を進めるのに慣れたパリの人達ではないか」と声を張り上げた。現在、ラアーグ再処理工場にある4ヵ所の貯蔵プールの容量は計約1万4000トン。既に使用済み核燃料約1万トンが貯蔵されており、現在のペースでは2030年頃に満杯になる計算だ。この為、EDFは隣接地に面積2万㎡の新貯蔵プールを建設し、原発から出る使用済み核燃料6500トンを収容する計画を立てた。来年着工し、2034年の完成を目指す。総工費を約12.5億ユーロ(※約1700億円)と見積もる。工場を運営するオラノも、既存のプールで貯蔵する燃料の間隔を狭めるリラッキングを計画し、容量を約3600トン増やす方針だ。だが、リラッキングは使用済み核燃料が高温化する等の危険があり、周辺住民はこれにも反対する。核のごみが蓄積する原因の一つには、使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクルの破綻がある。フランスは当初、効率の良い高速炉での再利用を半永久的に続けることを目指したが、トラブル等で頓挫。高速炉の代わりに、通常の炉でMOX燃料を使うプルサーマル発電を続けている。だが、ラアーグで抽出したプルトニウム等をMOX燃料に加工するマルクールの工場はトラブルで稼働率が落ち、以前は年平均約110トンのMOX燃料を生産していたのが、2021年は『関西電力』から受注した7トンを含め、計51トンにとどまった。この為、MOX燃料への加工を待つ使用済み核燃料がラアーグに溜まっていく。一方、プルサーマル発電を続けると使用済みMOX燃料が増える。オラノによると、ラアーグ工場には既に約2000トンの使用済みMOX燃料が蓄積されている。原発のリスクを検証する科学者グループ『グローバルチャンス』のジャンクロード・ゼルビブ氏は、「我が国では使用済みMOX燃料を更に再処理してリサイクルした実績は非常に少ない。臨界事故のリスクが高まる等、使用済み核燃料よりも取り扱いが難しく、産業化は困難で無益だ」と指摘する。2021年末現在、ラアーグにはプルトニウム80トンも保管されている。そのうち、日本からのものが16.7%で、83%を占めるフランス国内分に次ぐ。また、再処理過程で生まれた放射性廃棄物の大半は日本に送り返されたが、一部は「日本側の事情」(オラノ)でラアーグに取り置かれている。フランスでは北東部のビュールで最終処分場の建設計画が進んでいるものの、操業開始は2050年以降とみられ、核のごみはその間、ラアーグに溜まっていく可能性が高い。

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【WEEKEND PLUS】(430) ハマスショックで中東テック投資がピンチ…治安悪化でアメリカ企業撤退の可能性も

20231124 01
イスラム過激派組織『ハマス』によるイスラエルへの攻撃に端を発した危機が、中東エリアのIT産業や、テック業界に影を落としつつある。イスラエルはサイバーセキュリティーやITの先進国。現地のテック企業の中には、ITエンジニアが既に予備役で招集されたところもある。懸念されるのは、中東エリアへのIT投資への影響。『Amazon.com』は、クラウドサービスを提供する『AWS』の中東エリア部門を昨年立ち上げ、今後50億ドル(※約7500億円)を投資する計画を発表していた。また、『グーグル』を提供する『アルファベット』も、今年5月にカタールに中東の拠点を開設したばかりだ。こうした事業はイスラエル企業が下請けになるケースも多く、エンジニアが招集される影響はある。また、治安悪化が周辺に広がれば企業活動にも支障をきたす。更に、アメリカのテック企業の場合、アメリカ政府が警戒する国への最新のIT技術提供を制限される可能性がある。盛り上がっていた中東地域のテック投資に暗雲が垂れ込め始めた。


キャプチャ  2023年11月号掲載

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【木曜ニュースX】(423) チュニジアからイタリアへの黒人移民が急増…「密航しか人生切り開けぬ」、仕事や教育はないが汚職はある



20231123 06
海岸に黒人の男女が座っていた。地中海のほうをじっと見ている。「特に何もしていない。ただ休んでいるだけだよ」。近付くと、2人は片言のアラビア語でそう語り、疲れたような笑みを浮かべた。「今日も朝から何も食べていないんだ」。水平線の向こうには、イタリア最南端の離島、ランペドゥーサ島がある。先月上旬、チュニジア中部のスファクス(※右画像)。この街から昨年以来、イタリアを目指して密航を試みる黒人が急増している。海岸に座っていたソマリア人男性のアヤレさん(21)と妹のファラハさん(20)も9月、密航ボートで海に出た。だが、出港から約3時間後、チュニジアの国家警備隊の船に見つかり、スファクスに戻された。密航業者に支払った2000チュニジアディナール(※約9万6000円)は戻ってこない。「食べ物も寝る場所もない。今はトルコで働いている姉の送金を待っている」。ソマリアの両親はイスラム過激派に殺害された。何度でも密航に挑戦するしか人生を切り開く道はない。『国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)』の統計では、地中海を渡ってイタリアに密航した移民は、今年は14万4675人(※5日時点)に上り、2021年から倍増した。うち約6割がチュニジアからの渡航者だ。ギニアやコートジボワール等サブサハラ(※サハラ砂漠以南)出身者が目立つ。スファクスの地元漁師、ハメディ・ダーヒシュさん(29)は漁に出る度、黒人数十人を乗せた密航船とすれ違う。粗末なボートで、今にも沈みそうなものだ。国家警備隊が摘発した船の曳航を頼まれることも少なくない。だが、現場に向かうと黒人達は「近付いたら(自分達の)子供を海に落とす」と脅してきたり、硝子瓶で襲いかかってきたりすることもある。「毎日摘発しても、それを上回る移民がスファクスに来ている。国家警備隊の巡視船は6隻。止めることはできない」。

密航は死と隣り合わせの航海だ。スファクスの保健当局によると、今年は既に昨年の1.5倍の900人以上の水死体を埋葬した。市内の遺体安置所は常に身元不明の遺体で溢れているという。UNHCRの統計では、地中海の死者・行方不明者は5日時点で2563人で、既に昨年1年間(※2439人)を上回っている。市内の墓地を訪ねた。墓標のない数百の墓が並んでいる。名前の代わりに記載されているのは番号だけだ(※左下画像)。「この墓地だけで100体以上は埋葬されている」。墓地を掃除していた地元住民のシャムスさん(28)は、移民に対する反感を滲ませた。「黒人移民が増えたせいでスファクスの治安が悪くなり、我々の仕事も取られた。イタリアに行きたいなら、行かせればいいのに」。スファクスの中心部から北へ車で約40分。オリーブ畑を抜けてアムラ地区の集落へ入ると、街は黒人で溢れ返っていた。「母国の家族の為に仕事を探して、ここに来た。でも、仕事も寝泊まりする場所もない。畑の中を見てみろ。野宿する黒人ばかりだ」。街を歩く黒人達に声をかけると、ナイジェリアから来たアレックスさん(56)が堰を切ったように不満をぶちまけ始めた。同国の最大都市、ラゴスで家具職人として生きてきた。だが、イスラム過激派等の暗躍で治安が悪化し、コロナ禍で物価も急騰。7~25歳の息子5人を抱える生活を支えるのは難しくなった。国を出たのは2021年8月。砂漠を歩いて国境を跨ぎ、ニジェールからリビアを目指した。飢えと渇きに耐え、全長3000㎞を約1ヵ月かけてリビアに着いた。首都トリポリで2年間働いたが、治安の悪化や当局の取り締まりを恐れ、西隣のチュニジアに逃れることを決めたという。今年9月にスファクスへ来たものの、密航業者からは「イタリアへ渡るには1500チュニジアディナール(※約7万2000円)かかる」と言われた。稼ごうにも仕事は見つからない。仮に出航できても、途中で命を落とす恐れもある。それでも進むしかない。「アフリカは失敗の大地。欧州は約束の地だ」。アレックスさんは言い切る。イスラム過激派の危険があるソマリアやナイジェリア、紛争が続くスーダン、クーデターが起きたマリやニジェール、貧困が広がるギニアやリベリア――。スファクスに集まるアフリカの人達に密航の動機を聞くと、様々な理由を口にした。だが、共通している点が一つあった。「イタリアに辿り着けば人生が変わる」という認識だ。「仕事を見つけて、稼ぎたい。これは人生のセカンドチャンスだ」。8月にスファクスからイタリアへ密航したガンビア人のスレイマンさん(18)は、現地からのオンライン取材にこう打ち明けた。過酷な船旅だった。イタリアの離島、ランペドゥーサ島までは本来、十数時間の航海だ。

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【木曜ニュースX】(422) ミャンマーからの難民で満ちるタイの学校…「今一番欲しいのは安全だ」、過疎化の穴を埋める存在に



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ドーン、パンパン――。2021年12月15日、ミャンマー東部のタイ国境沿いの街、カイン州ミャワディ。男子学生のレインさん(※仮名・18)は教室での授業中、爆撃音に驚き、教師や友人らと慌てて外に飛び出した。ミャンマーでは同年2月に軍事クーデターが起き、今も反発する民主派勢力や少数民族が武装闘争を続ける。戦闘はレインさんが学んでいた学校にも迫った。レインさんらは銃撃から離れようと、友人らと息を切らし、泣きじゃくりながら草むらを裸足で逃げ惑った。それでも銃声の数は増し、逃げても近付いてくる。皆で倒れ込むように枯れた草むらに伏せ、身を隠した。夜通しで歩いて国境の川を渡り、翌日、タイに違法に入国した。レインさんは2年近く故郷には帰っていない。現在は親族らの支援でタイ側の街メソトで暮らし、高校1年生のクラスで学ぶ。「これがミャンマーの日常だ。今の学校を卒業し、将来はアメリカの大学で勉強するのが夢」。避難の一部始終を撮影した動画を見せながら、淡々と語った。クーデター後の政情不安を受け、ミャンマーから隣国のタイに避難する人が急増している。その数はメソト等を中心に4万人以上とされ、生活や教育をどう保障するかが大きな課題となっている。レインさんが学ぶメソトのミャンマー人学校『スーメーキー学習センター』(※左画像)は、この1年間で生徒数がほぼ倍増し、約2300人になった。教室や教員の確保など容易ではないが、ウェイド校長(47)は「できる限り受け入れたい」と話す。

メソトがあるターク県には64のミャンマー人学校があり、過去にも政情が不安定になると流入する子供が増えてきた。ただ、今回は最近半年だけでも児童・生徒数が約3700人増え、過去最多だ。日本政府も政府開発援助(※ODA)で学校の建設支援に乗り出している。背景には、母国での教育環境の悪化がある。コロナ禍の混乱にクーデターが追い打ちをかけ、授業ができなくなる学校が相次いだ。最大都市ヤンゴン等では現在は状況は比較的落ち着いているとされるが、『世界銀行』の調査では就学率(※6~22歳)は2017年の69.2%から今年には56.8%に下落した。ミャンマーでは民主派が作る『国民統一政府(NUG)』の影響下にある学校が、全国に1万以上あるとされる。ただ、そこでも教員の国外流出等により、教育の質は十分確保できていない。スーメーキーで学ぶドーさん(16)は、「地元には戻りたい。でも戦闘が続き、学年も違う生徒が一緒に学んでいるような状況では難しい」と話した。スーメーキーの教員であるジェシカ・ニューリンさん(38)によると、卒業後はミャンマーで教師になりたい生徒が多いという。「ただ、彼らがいつその夢を叶えられるのかと考えると、正直胸が痛む」。母国の混乱を逃れてタイに渡るミャンマー人達。ただ、その後の生活は楽ではない。タイ側には移民受け入れで深刻な過疎化や労働力不足を補いたい狙いもある。メソトに位置する『メータオクリニック』(※右下画像は同クリニックの待合所)では、連日のように新しい命が生まれる。9月中旬、マットレスのない木製ベッドが40以上並ぶ産科を訪れると、奥のベッドで女性(34)が脚を伸ばして上体を起こしているのが見えた。膝の間には、この日生まれたばかりの男児がすやすやと眠っていた。同クリニックは、ミャンマーの1988年の民主化運動の際に、タイの国境付近でボランティアをしたシンシア・マウン医師(63)が翌1989年に開設した。タイで働くミャンマー労働者や難民、治療の為に国境を越えるミャンマー人らに安価で医療を提供する。2018年頃まで患者の5割を占めたミャンマー側からの患者は、新型コロナウイルスの感染拡大で一時1割程度にまで落ち込んだが、国軍によるクーデター後に再び増加。今は2割以上に及ぶ。とりわけ出産は増加傾向にある。昨年の出産は1700件近い。記者が訪れた日とその前日も其々3人の新生児が生まれた。ミャンマーの不安定な情勢に加え、タイの出生届を得られれば、将来的にタイ国内で生きていく道が開かれることが大きいようだ。

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【タイ下院総選挙2023・現場から】(下) 高齢化で進む分断

20231123 03
「家賃を延滞しながら何とか暮らしています」――。バンコク中心部にあるスラムに住むルンナパーさん(69)は3月下旬、取材にそう話し、溜め息を吐いた。息子(45)、孫(13)との3人暮らしだが、息子は体調が優れない為に働けず、古着や母親のルンナパーさんが集めたペットボトルを売って生計を立てている。国から月600バーツ(※約2400円)の高齢者手当を受給するが、家賃と電気・水道代だけでもその5倍以上はかかるといい、困窮の日々だ。ノーイさん(52)も、寝たきりの母(73)と妹と同じスラムで生活する。自身も体に障害があるが、数年前に父親が亡くなってからは自動車修理の仕事を辞めて母を介護しているという。タイは、この時期が1年で最も暑く、気温は連日35℃を超えるが、一家が住む平屋にはエアコンもない。先月のタイ正月の大型休暇も「いつものように母の面倒を見るだけです」と悲しそうに語った。タイは東南アジアの中でシンガポールに並び高齢化が急速に進み、昨年中に60歳以上が人口の2割に達したと推計されている。だが、介護保険制度はなく、年金等の社会保障制度も十分に整備されていない。貧富の差が激しい為、高齢者間の生活格差も深刻化している。NGO『福祉ウォッチネットワーク』のアドバイザー、スリーラットさん(63)は「タイは不平等な社会で、大半の高齢者は働き続けるか、経済的に家族に依存しないと生活できない」と指摘する。高齢者の持病や孤立も問題になっている。

スラムの住民を支援する社会活動家のプラティープ・ウンソンタム・秦さん(70、右上画像の右、撮影/高木香奈)が創設した財団が昨年実施した実態調査では、約3300世帯中、寝たきりや障害の為に外出できない人が200人以上いる他、高血圧や腎臓病等の慢性疾患を抱える人が660人以上いることが判明した。スラムの一角にある財団事務所では毎週、地域の高齢者の集いを開いているが、参加者は年々増えているという。60歳以上が対象の高齢者手当は、年齢に応じて月600~1000バーツ(※約2400~4000円)が支給される。だが、インフレ等で生活費を賄うにはとても足りないことに加え、出生届や移転届を出していない為に受け取れない貧困層も少なくない。各政党も高齢者の苦境を深刻に受け止め始めた。今月14日に投開票される下院の総選挙で高齢者票を取り込む為、公約で高齢者手当の引き上げを競う。与党の『国民国家の力党』は、70歳以上への支給額を月4000~5000バーツ(※約1万6000~2万円)と大幅に増やすことを提案。野党の『前進党』は、2027年までに月3000バーツに増加させると共に、児童手当を月600バーツから2倍に引き上げることを掲げている。少子高齢化は世界的な課題だが、タイ社会の根底にある世代間の分断が問題を複雑にしている。2020年に王室改革を求める若者主体のデモが活発化した際には、70年に亘り国家元首を務めたプミポン前国王と共に生き、王室批判をタブーと考える中高年の王室支持派と、インターネットで虚実ない交ぜの王室情報に触れ、王族の贅沢な暮らしぶりに反発する若年層の対立が表面化した。タイ社会は年功序列の風潮が強い。ユニークな高齢者を紹介するインターネット番組を製作しているバンコクのテレビ局『ブンメリットメディア』のプラサーン・インカナン社長は、「高齢者は尊敬の対象である一方で、人生の終盤は家で休息するように教えられてきたことが高齢者の活動の幅を狭め、自分の子孫に頼らざるを得ない状況に繋がっている」と指摘する。そして、こう訴えた。「タイは日本や欧米に比べ高齢化対策が乏しく、現状では政府だけに頼るのは難しい。先ずは世代間の溝を埋め、高齢者を社会全体で支える意識を育むことが重要だ」。

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(大阪本社社会部)高木香奈が担当しました。


キャプチャ  2023年5月9日付掲載

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【タイ下院総選挙2023・現場から】(上) 水面下で強まる王室批判

4年ぶりとなるタイ下院(※定数500)の総選挙が、今月14日に投開票される。2014年の軍事クーデターを率いた元陸軍司令官のプラユット・チャンオチャ首相による親軍政権から、農村部の貧困層に浸透するタクシン・チナワット元首相派の野党に政権交代するかが焦点。与党側が内紛で分裂する等、激しい選挙戦が続く中、各地を歩き、社会の課題を探った。

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先月上旬、バンコク中心部のコンベンションセンターで開かれた『国際ブックフェア』。各出版社がブースを出し、本を安売りしたり、来場者に著者らと交流してもらったりする。11日間の期間中に延べ約115万人が訪れたと報じられた人気イベントに、この国のタブーに切り込む出版社も出店していた。その名は『ファーディアオカン(同じ空)』。タイの歴史や政治を扱う定期刊行物等を発行する、従業員9人の小さな会社だ。だが、2020年に反軍政や王室改革を訴える若者らの大規模デモが続いた際、歴史書『将軍、封建制、米国帝国主義』がSNS上やデモ参加者の間で話題になった。“政治を超越した存在”として絶大な力を持つ国王や王室が政治や軍に深く関与してきたことを指摘し、「知らない歴史が書かれている」と評判を呼んだのだ。一方、王室を擁護する人々は同書に強く反発した。ブックフェアで幅広い年代の人々が同社の本を手に取る中、購入した工学専攻の男子大学生(24)は「デモに参加したことはないが、SNSを見て興味を持った」と話した。「人々は民主主義、政治、君主制について今も学びたがっている。デモという物理的な抗議は止められても、人々の思考の変化は止められないのです」。元学生運動家で2002年に同社を設立したタナポン・イウサクン社長(49、左画像の右端、撮影/高木香奈)が語るように、同社への関心の高まりは、絶対視されてきた王室に対する国民感情の揺らぎを表す。この社名には仏教思想家の著書名に因んで、“人は皆平等、同じ空の下にいる”との思いが込められている。

タイでは立憲君主制に移行した1932年以降、これまで19回の軍事クーデターがあり、何れも国王が承認することで成功とされてきた。クーデターと民主主義は本来相容れない筈だが、タイ式民主主義の下では政治的手段として容認され、政治混乱の度に軍が介入する事態が続く。2020年の大規模デモは、圧倒的な人気を集めたプミポン国王が2016年に死去して以降、国民の王室観が変わっていく中で起きた。反軍政を掲げて2019年の前回総選挙で躍進した新未来党が、憲法裁判所に政党法違反を指摘され、解党処分となったことがきっかけだった。デモ隊は軍政の流れを汲むプラユット政権の退陣に加えて、不敬罪を定めた刑法112条の廃止や王室予算の削減等を求め、“真の民主主義”の実現を目指した。当局は要求に応じず、2020年11月、デモの取り締まりの為、数年間控えていた不敬罪の適用を再開。タイの法律家団体によると、同月以降、少なくとも240人以上が同罪で訴追された。デモはリーダーらが摘発される等して収束したが、SNS上では不敬罪廃止を訴える投稿が今も続く。デモ以前なら、不敬罪廃止に言及することすら難しかった。また、映画館やコンサート会場では開演前に国王賛歌が流れ、来場者が直立不動になる習慣があったが、起立する人は限られるようになった。だが、大規模デモの後初めてとなる今回の総選挙で、こうした人々の思いは反映されそうにない。王室改革は争点になっておらず、不敬罪の改正を掲げる政党は、新未来党の後継政党である前進党等僅かだ。デモを主導した学生らのその後を纏めた本を昨年出版した市民団体『iLAW』代表のインチープ・アッチャノンさん(38)は、「デモを主導したことで企業から敬遠され、就職できていない学生もいる。社会の変化に時間がかかることは覚悟しているが、その務めを学生ばかりに背負わせてはいけない」と強調する。各地のデモで演説したインチープさんも非常事態宣言法違反に問われ、知らぬ間に当局からスマートフォンをスパイウェアで監視された。透明性のある選挙を訴え、各政党の政策を検証するパンフレットを街頭等で配っている。「選挙の進め方や結果によってはデモが再燃するでしょう」。インターネットメディア『カオソッド』のベテラン記者、プラビット・ロチャナプルックさん(55)は表現の自由を守る立場から、不敬罪や度々起きるクーデターへの反対を主張してきた。「王制について声を上げる人は、これまで国内でほんの一握りだったが、大規模デモで主流になり、社会で議論が始まった。タイ社会は今、もがいているのです」と力を込める。タイでは18歳から投票権が与えられる。ファーディアオカンの本を買ったバンコクの男子大学生(18)は、総選挙で初めての投票に臨む。高校時代に何度かデモに参加する等、政治に興味がある。「二度とクーデターが起きないようにする等、根本的にこの国が変わってほしい」。そんな願いを込めて、一票を投じるつもりだ。


キャプチャ  2023年5月8日付掲載

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【今月のチャイナ短信】(01) 大学の第二外国語選択に異変…中国語を忌避する学生が増加中



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大学の第二外国語の選択で地殻変動が起きつつある。全国の大学で過去10年以上、就職に有利な外国語として人気ナンバーワンだった中国語を忌避する動きが強まっているのだ。東京都内の私立大学の多くでは、今年の夏休み以降、「第二外国語を変更できないか」という問い合わせが急増した。底流にあるのは、中国経済の悪化と習近平政権の姿勢への反発。加えて、『東京電力』福島第一原発からの処理水海洋放出に対する異常とも言える日本批判に対し、反発する学生もいるようだ。一度選んだ第二外国語の選択を変更することは認められないが、「何らかの対応を検討したい」という大学も少なくない。近年、希望者が減少しているドイツ語、フランス語、イタリア語等は定員に余裕があり、寧ろ教員過剰の為、語学間の受講生均等化の為、移籍を認めたいのが大学の本音。来春の新入生の第二外国語選択では中国語希望が激減する上、大学側が中国語の受講定員削減等に動く可能性がある。孔子学院等の開設で中国語と中国文化の普及を目指した習政権は、自らの首を絞めている。

          ◇

アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は先月13日、国務省でバーレーンのサルマン・ビン・ハマド・アル・ハリーファ皇太子(※首相)と『包括的な安全保障の統合や繁栄に関する合意』に調印した。“信頼できる技術”の獲得を両国が手を携えて追求していくことと説明されているが、「要するにハイテク製品から中国製を排除することだ」とフランスのメディアは報じている。バーレーンにはアメリカ海軍第五艦隊の司令部があり、アメリカ軍約5000人が駐留している。バーレーン人の6割はイスラム教シーア派でイランに親近感を持つとされ、バーレーンに圧力をかけ続けている隣の大国サウジアラビアは最近、イランとの関係正常化で中国に接近した。アメリカとしては、もう一段階進んだ“安全地帯”をバーレーンに構築しておく必要に迫られている。調印式に臨んだブリンケン氏は、新たな合意で「バーレーンで生じる脅威に対し、我が国は更に良い対応ができるようになる」と評価した。皇太子は「安全保障も勿論大事だが、経済や技術も大事だ」と応じた。

          ◇

習近平政権の外交の力点が中東にシフトするのに伴い、中東エリアでの中国語教育に力を入れている。欧米圏での『孔子学院』の閉鎖が続く中で、中国当局が中東に活路を見出そうとしている。サウジアラビアは今年6月、中東最初の孔子学院をプリンス・スルタン大学にオープン。UAEでは早くも2019年の時点で幼稚園から高校までの公立学校百校に中国語教育を導入したが、今年までにそれが158校に広がった。この他にも中国政府はエジプト政府とも小中学校に中国語教育を導入する協定を交わしており、既に始まっている。これら中東諸国への中国語教師送り出しには、中国本土の旧・孔子学院、現在の『対外語学教育協力センター』という組織が担っている。中東各地で義務教育段階から中国語を導入する国が増えた影響で、最近では慢性的な教員不足が問題になっているという。採用の条件が厳しいことも一因で、最低でも修士以上の学歴が必要。教師の質を担保する為とみられるが、今後は採用・育成に力を入れ、中東各国に送り込んでいく。

          ◇

エジプトの首都カイロ近郊のギザに建設中の『大エジプト博物館』が完成し、年内にも開館する。日本が低利の円借款で、建設費の6割以上に当たる840億円を供与したが、批判も出そうだ。日本国内の国立博物館の運営予算が逼迫してクラウドファンディングに乗り出す中で、外国への大盤振る舞いに、既にインターネット上では批判の声が渦巻いている。完成する博物館を目玉に据えて、エジプト観光庁が誘致するのが中国人観光客。中国人客はコロナ禍前、年間20万人を超えており、これを倍増したい構えだ。エジプトは日本人にも人気だが、円安の影響は深刻。日本のカネで造った観光施設に中国人を集める構図だ。建設を巡り、エジプト特有の汚職が問題視された他、砂嵐や豪雨の多い立地もネックだった。これを推し進めたのが外務省傘下の『国際協力機構(JICA)』だ。JICAは嘗ての民主党政権で受けた批判を忘れたのか、再び我が世の春を謳歌している。

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