ミャンマー、語られざる民族浄化――筆舌に尽くし難い弾圧を受けるロヒンギャと21世紀最悪の虐殺を放置する国際社会

20170623 17
ホロコースト――言わずと知れた第2次世界大戦中のナチスドイツによる国家的・組織的なユダヤ民族の迫害と殺戮のことだ。だが、国家的・組織的な民族迫害は過去の歴史ではない。今もアジア、それも民主化した筈のミャンマー(ビルマ)で起きている。この国で続く悲劇は、現代のホロコーストと言える。その犠牲者はロヒンギャ。ミャンマー南西部のラカイン州を主な居住地とするイスラム系少数民族だ。国民の95%を仏教徒が占めるミャンマーにおいて宗教的少数派だが、古くからこの地に暮らす。にも拘わらず、軍事政権が“ミャンマー人”を定義した1982年の国籍法によって、無国籍状態に置かれ続けている。その結果、政府や軍による暴行・強奪・殺戮の対象となり、祖国を脱出する人々が後を絶たず、“世界で最も迫害されている人々”とも呼ばれる。実際、迫害から逃れる為に外国を目指すロヒンギャ難民は、拡大の一途を辿る。しかし、漸く故郷を逃げ出した彼らを待つのが、密航業者の“奴隷船”と“難民収容所”だ。2015年には、ロヒンギャ難民を寿司詰めにした船が海上で密航業者に放置され、漂流する事件が発生した。多くの場合、ミャンマーから目的地のタイまで船旅で数週間かかる。その間、灼熱の太陽に曝され、食事は少しの米だけ。水も僅かしか与えられず、餓死すれば海に捨てられる。辿り着いたタイ国内の密林の収容所で、男性のロヒンギャ難民は暴行、女性はレイプされる運命が待っている。タイの漁船で奴隷労働を強要される実態も発覚した。難民受け入れ・イスラム差別・不法移民の国外追放…現在、世界で政治問題化しているあらゆる悲劇を抱え込んだような存在故、ロヒンギャは難民問題として報道される。だが、本当に深刻なのは、ミャンマー政府がロヒンギャを標的に進める民族浄化策だ。

2015年の総選挙で、ノーベル平和賞受賞者でもある民主化運動リーダーのアウンサンスーチーを事実上の元首とする新生ミャンマーが船出した。軍事独裁政権に別れを告げ、民主化した筈の新政府だが、スーチーと与党『国民民主連盟(NLD)』はロヒンギャ迫害を止めようとせず、虐殺行為は今も続いている。直近の悲劇は昨年10月に始まった。“ロヒンギャ武装集団による国境警察官の殺害事件”を口実に、ミャンマー政府軍がラカイン州で攻撃を開始。ロヒンギャが住む3つの村で、合計430の住居が軍隊によって破壊され、村全体が焼き打ちを受けた。衛星写真に映る襲撃後の村は、住居が消え、更地のようになっている。焼き打ちから逃れた村人が国連の調査団に語った当時の生々しい様子は、筆舌に尽くし難い。襲撃はこんな風に行われた。先ず、ロヒンギャの住む村の上空に軍のへリコプターが飛来し、上空から住居を目がけて次々と手榴弾を投げ込む。爆発に驚いて家から飛び出てきた住民たちを、待ち構えていた地上部隊がライフルで狙い撃ちにする。動けない老人たちは家から引きずり出され、殴打された後に木に縛られる。そして、体の周りに灌木や枯れ草を巻かれ、火を付けて焼き殺される。虐殺の例に漏れず、女性や子供は格好の標的になった。11歳のある少女は、家に押し入った4人の兵士が父親を殺害した後、代わる代わる母親を強姦するのを目の当たりにした。その後、母親だけを残した家に火が放たれたという。別の家では、泣きじゃくっていた乳児に兵士がナイフを突き刺し、殺した。5歳の少女は、兵士に強姦されていた母親を助けようとして、ナイフで喉元を切られて殺されたらしい。ロヒンギャの住む家で次々に殺戮が繰り返され、最後は村ごと焼き打ちにする。ボスニア紛争中の1995年に起きたスレブレニツァの虐殺を思い起こさせる手口だ。スレブレニツァの犠牲者数は8000人以上とされるが、ロヒンギャのこれまでの死者数はそれを遥かに上回る。追害に加担しているのは、政府や軍隊だけではない。ミャンマー政府は、社会に影響力を持つ僧侶を巧みに取り込み、ロヒンギャ弾圧の先鋒に据えている。その中心が、仏教過激派の指導者である僧侶のウィラトゥ。「ロヒンギャがジハード(聖戦)を仕掛けていて、ミャンマー人の女性をレイプしている」等と話し、イスラム教徒への憎悪を煽っている。国際人権団体の『ヒューマンライツウォッチ』のリチャード・ウィアーに言わせれば、“完全なへイトスピーチ”だ。しかし、インターネットの動画サイト等で繰り返されるウィラトゥの言葉は、一定の影響力を持っているようだ。政府と軍、そして宗教界までもが一体となってイスラム教徒を迫害する構図だが、悲劇は今に始まった訳ではなく、長い歴史の一部に過ぎない。ロヒンギャに対する迫害と難民の歴史は、古くは18世紀にまで遡る。

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【Korea Risk】(05) 国際力学の変化が試す日本の覚悟

20170623 06
この1ヵ月、北朝鮮に対する国際的圧力は尋常ではなかった。それでも北朝鮮は、真珠湾を攻撃した日本と違って、向こう見ずな攻撃は仕掛けてこない。国際力学が当時の日本とは違うからだ。北朝鮮の命運を握るのは、攻撃したくとも金正恩国務委員長の所在すらつかめないアメリカではない。原油供給をほぼ一手に握る中国だ。嘗て、アメリカが日本を敵視したのと違って、今の中国は北朝鮮と敵対していない。それどころか、朝鮮戦争で自国の兵の血を流してアメリカ軍の攻勢をはね返した絆は、中国の軍と共産党に強く残る。社会主義諸国との外交を担当する中国共産党にとって、北朝鮮は冷戦終了後も残された数少ない外交利権の相手でもある。だから中国にとり、北朝鮮の核は容認できる。隣のロシアにある多数の戦術核兵器同様、友好国の核は不問に付す。中国がどうしても防ぎたいのは、北朝鮮の崩壊。それは別に、金正恩を守る為ではない。北朝鮮が混乱すれば、難民が中国に多数押し寄せる。国境地方の延辺朝鮮族自治州に80万人ほどいる朝鮮系住民と合流して、騒ぎを起こすかもしれない。金政権崩壊に乗じて、米韓主導で朝鮮半島が統一されると、中国は在韓アメリカ軍と直接対峙してしまう。アメリカは、北朝鮮の核ミサイルが自国に届き得る危険性に憤り始めた。だが、軍事制裁に踏み切れば日韓両国が煽りを食うので、中国に核問題の処理を押し付けている。その期待に応えないと、中国はアメリカから貿易制裁をされてしまう。北朝鮮を生かさず殺さず、且つ米中双方の面目も保てる落としどころを見つけないといけない。

この中・米・北という“三つ巴”の外で、日本は韓国やロシアと共に、北朝鮮問題における存在の耐えられない軽さを噛み締めている。ミサイルが飛んできてもおかしくないのに、日本の風景は平和そのもので、野党が安倍政権の安保政策を批判するビラ配りをしている。韓国は、「ソウルを火の海にしてやる」と脅されてもどこ吹く風。大統領選に国が混乱する兆しもない。ロシアはウラジーミル・プーチン大統領の1期目初期、北朝鮮との関係を不釣り合いなほど良くして、自分の数少ない外交カードとしたが、その後、関係は停滞している。「万景峰号のウラジオストク航路就航は、北朝鮮に外貨収入を齎し、ロシアの対北カードになる」とみる向きもある。だが、これは北朝鮮経由で中国人を大挙して極東のカジノに運ぼうと、ウラジオストクの実業家が金儲けを狙っているだけだ。ロシア政府が圧力をかけるまでもなく、中国政府が中国人観光客を乗船させないだろう。客がつかない以上、暫く就航するまい。北朝鮮問題では、中国が一時抜け駆けをして、ロシアが鼻白む場面があった。先月中旬、国連安全保障理事会が北朝鮮非難の声明を検討した際、中国は声明容認に回り、ロシアだけが反対して浮いてしまった。そこで先月下旬、習近平国家主席の腹心である党中央弁公庁の栗戦書主任が、クレムリンでプーチンと会談。「中露関係は不変」という習のメッセージを伝えて、この局面を取り繕った。しかし、プーチンは今月初め、アメリカのドナルド・トランプ大統領に電話して、シリア・北朝鮮問題の話し合い解決促進を持ち掛けることで、米露関係を修復。こうやって、自力で米中とのバランスを維持してみせた。周辺がバランスゲームを展開する中で、近日中には戦争は起きるまい。米・中・北朝鮮が合意に達し、日韓露を交えた6ヵ国協議で追認されるだろう。落としどころは金体制という現状維持、そして北朝鮮の核兵器も現状のまま凍結というところだろうか。今回の危機が日本に残した課題は大きい。日米同盟は抑止力として有用だが、アメリカ軍空母派遣の二転三転で、日本の安全をアメリカの胸三寸に依存することの限界が露わになった。日本独自の核抑止力の議論はタブーだが、自衛隊の存在を明記する形での憲法改正は政治日程に上ろうとしている。国際力学の変化が、日本の政局をも動かそうとしているのかもしれない。 (本誌コラムニスト・外交アナリスト 河東哲夫) =おわり

               ◇

朝鮮半島情勢の緊張が解け切らない中、韓国の大統領選で対北朝鮮政策は主要な争点ではありませんでした。周辺国からすれば意外かもしれませんが、今回に限ったことではありません。「自分たちの問題ではあるが、米中の頭越しに韓国が半島問題を主導できる余地は無い」と、知人の韓国人は諦めムードでその理由を語ります。ただ、そうした環境に慣れてしまったせいなのか、外交政策全体が他国任せになっている感は否めません。 (本誌 前川祐補)


キャプチャ  2017年5月16日号掲載

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【アホでマヌケな韓国人】(03) 親北・反日・反財閥…林立する大統領候補たちの横顔

20170621 10
朴槿恵前大統領(※右画像)の長年の友人である崔順実による国政介入疑惑に端を発する大統領弾劾訴追の動きは、罷免へと発展。それを受けて2017年5月9日、大統領選挙が実施される。元々、次期大統領候補として最有力だったのは、前国連事務総長の潘基文だった。潘は2016年5月末に韓国へ一時帰国した時に、「韓国の市民として、何をしなければならないのか、悩み、決心する」と発言。そして、同年末の事務総長職任期終了後に大統領選出馬の意思表示をしていたが、翌2017年2月に立候補を断念する考えを明らかにした。潘は、既存の政治勢力と柵の無い清新な人物というイメージで、保守系の大統領候補として期待は高かったが、朴の失脚で保守系に逆風が吹くようになり、ダメージを受けた。更に、慰安婦問題での合意を評価した発言を野党支持層に配慮して覆したり、性的少数者(LGBT)への連帯発言を保守系のキリスト教団体に配慮して否定する等、国連事務総長時代の発言を国内の選挙を意識して次々と撤回してしまった。これによって、掴みどころの無い言行が“油ウナギ”と評され、国民の間に失望感が広がった。その上、自身や親族を巡る贈収賄等のスキャンダルも相次いで報じられ、クリーンなイメージも悪化。支持率も思うように上がらず、早々に出馬断念を余余儀なくされた。保守系最有力候補の出馬辞退で大統領選は混迷し、多数の候補者が乱立している。

各党の予備選挙に名乗りを上げているのは、以下の通りだ。『共に民主党』(※中道左派、国会議員数は定教300人中121人)からは、文在寅(共に民主党前代表)・安熙正(忠清南道知事)・李在明(城南市市長)・崔星(高陽市市長)の4人。『自由韓国党』(※保守系、国会議員数は93人)からは、金寛容(慶尚北道知事)・金鎮台(国会議員)・李仁済(同党元最高委員)・洪準杓(慶尚南道知事)の4人。『国民の党』(※中道、国会議員数は39人)からは、安哲秀(同党前共同代表)・孫鶴圭(京畿道知事)・朴柱宣(国会議員)ら5人。『正しい政党』(※保守・中道左派、国会議員数は32人)からは、劉承旼(党常任顧問)・南景弼(京畿道知事)の2人。『正羲党』(※社会民主主義、国会議員数は6人)からは、沈相奵(党代表)の1人。今後、各党は予備選で大統領選の立候補者を選出し、本選に臨むが、韓国の世論調査専門機関である『リアルメーター』が2017年3月20~24日に成人2553人を対象に実施した、大統領選に関する最新の世論調査の結果は以下の通りとなった。1位は共に民主党の文在寅で34.4%。2位は同じく共に民主党の安熙正で17.1%。3位は国民の党の安哲秀で12.6%。4位は共に民主党の李在明で10.2%。5位は自由韓国党の洪準杓で9.5%だ。支持率トップで独走状態の文は、弁護士出身の政治家で、共に民主党の候補。学生時代の1975年、当時の朴正熙政権に反対する民主化運動に関わり、刑務所に収監されるほどのめり込んだが、大学を卒業後に司法試験に合格し、盧武鉉と共に法律事務所を開設。弁護士業の傍ら、時の全斗煥政権に反対する民主化運動に取り組んだ。2002年12月に行われた大統領選挙に盧が立候補した際、釜山地域の選挙対策本部長を務め、盧政権が誕生すると側近として仕事を熟した。盧の投身自殺の後に政治活動を活発化させ、2012年の大統領選に野党統一候補として立候補していたが、朴槿恵に大接戦の末に敗れ、今回はリベンジを狙う。自身を、金大中や盧武鉉に続く正統派の革新派大統領候補と位置付けている。2017年3月11日に掲載された『ニューヨークタイムズ』のインタビューで、「韓米安保同盟を尊重する」という前提に立ちながらも、「韓国はアメリカに“NO”と言うことを学ばなければならない」と述べている。丁度、アメリカが韓国内に『高高度ミサイル防衛計画(THAAD)』配備を求め、中国がこれに神経を尖らせていた時期であり、文の発言はTHAAD配備拒否の意思表示と解釈され、話題となった。北朝鮮との関係についても、李明博・朴槿恵の保守政権が続いた時代に極限まで冷え込んだ南北関係を修復させたい気持ちが強く、北朝鮮に対する外交的緊張緩和政策である『太陽政策』を継承する方針だ。当選後は北朝鮮との関係改善を優先し、「アメリカより先に北朝鮮を訪れる」と述べている。北経済協力事業の象徴である『開城工業団地』の再開等は、直ぐにでも手を出したいところだろう。一方、対日政策については強硬派と見られる。2012年の大統領選の際は「親日清算をしたい」と主張しており、最近も2016年12月、釜山市が日本領事館前の慰安婦像設置を不許可(※後に許可)とした際に、自身の『Facebook』で市の姿勢を「清算されていない親日行為」と非難し、日韓合意について批判的な見解を述べている。

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【Korea Risk】(04) 生き残りを賭けた金正恩のロジック

20170620 10
「北朝鮮は狂った国だ」と誰もが決め付けたがる。最高指導者の金正恩国務委員長は「アメリカ本土への核攻撃も辞さない」と脅しをかける一方で、軍高官を次々に処刑。異母兄まで暗殺し、残忍さを見せつけた。しかも、破綻した経済モデルにしがみ付きつつ、核開発には湯水のように資金を注ぎ込むありさま。このところ、アメリカのメディアは連日、北朝鮮の“狂った暴走”を伝えている。問題は、アメリカの政策立案者まで北朝鮮と金正恩を“狂った国”・“狂った指導者”と決め付けたがることだ。それでは北朝鮮という国を理解できないばかりか、そうした見方に基づいて北朝鮮政策を立案すれば、破滅的な事態を招きかねない。確かに、外から見れば、金日成・金正日・金正恩と3代続く金王朝の支配体制は異様としか言い様がない。だが金一族は、政治的な生き残りにかけては究極の巧者だ。“権力の座に留まる”――ただその目的の為に、冷徹且つ合理的に判断を下す。彼らを狂人と見做すのは過ちであるばかりか、危険でもある。スターリン主義の愚かしさを絵に描いたような金一族は、1980年代には社会主義諸国にもバカにされていた。時代遅れの個人崇拝と計画経済にしがみ付く彼らは、「東欧の改革派の指導者を見習え」と言われたものだ。それが今では、当の改革派指導者は忘れ去られているが、金一族は依然として権力をほしいままにしている。

ここ25年ほど、彼らが苦境に曝されたのは確かだ。大規模な飢饉で国民が食糧難に喘ぐ一方、国際的にはほぼ孤立状態に陥り、唯一の同盟国である中国にも次第に見放され、超大国のアメリカと自力で対峙しなければならなかった。そんな窮地を乗り切ってきたのも、彼らが体制維持の為に合理的に考え、あらゆる手段を講じてきたからだ。金正恩も、父や祖父と同様、自分と自分の血を引く後継者が支配する北朝鮮の現体制を維持していく為に知恵を絞っている。体制維持を脅かす要因は3つある。彼はこの3つを認識し、それらを無害化する為に着々と手を打っている。第1の脅威は外国の攻撃。父と同様、金はこれを恐れて眠れぬ夜を過ごしている筈だ。只のパラノイアではない。イラクのサダム・フセインや、アフガニスタンの嘗てのタリバン政権の運命を見るといい。何れも北朝鮮と同様、アメリカ政府に“ならず者”と呼ばれた国々だ。中でも金一族が肝に銘じたのは、リビアの独裁者であったムアマル・カダフィの悲惨な最期だ。金正恩にとって、核開発は彼らの二の舞にならない為の手段だ。韓国を制圧できるなら勿論したいだろうが、どう考えてもそれは不可能だ。アメリカ軍が韓国を支援するからだが、経済でも技術水準でも今の北朝鮮は韓国に到底敵わない。それでも核があれば、大国に攻撃されたり、国内で反乱が起きた時に介入されたりする心配はない。核を保有するだけでなく、核があることを世界に度々思い出させ、リチャード・ニクソン元大統領の“狂人理論”――この国は予測不可能だから、迂闊に手を出せないと相手国に思わせる戦略を使うことも有効だ。その他の金の如何にも狂人じみた政策も、本質的には保身の為とみるべきだ。核兵器だけでは体制を維持できない。外国の攻撃は抑止できても、第2の脅威、つまり国内の軍事クーデターを防ぐ手段にはならない。金正恩が疑心暗鬼になるのも無理はない。若くて未熟な彼の支配に、軍高官が不満を募らせている可能性は大いにある。「クーデターを防ぐ最も確実な手段は恐怖支配だ」と金は考えている。彼の指導下で、軍と警察幹部の処刑は史上最多を記録した。著名な将軍が次々に消され、軍参謀長や人民武力部長(※国防大臣)まで粛清の対象になった。だが、金を倒すのは軍高官とは限らない。第3の脅威は国民の蜂起だ。北朝鮮の抱える最大の間題は、経済の停滞に他ならない。1940年代には、北朝鮮は東アジアでは日本に次ぐ工業国だったが、その後のお粗末な経済運営で今や見る影も無い。中国を見習って経済改革を進めようにも、韓国との圧倒的な所得格差が大きな障害になる。中国の場合は恵まれていた。台湾は小さ過ぎて、体制転覆の脅威にはならないからだ。北朝鮮が中国の“改革・開放”政策を踏襲すれば、これまで情報を遮断されていた国民が、信じ難いほど豊かで、政治的にもより自由な韓国の人々の暮らしぶりを知ることになる。人々はあらゆる問題を一夜にして解決する方法として、韓国主導での南北統一を求めるだろう。つまり、北朝鮮が改革・開放に踏み切れば、中国のような高度成長は齎されず、嘗ての東ドイツのように体制崩壊に繋がる可能性が高いということだ。

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【Korea Risk】(03) 韓国の民主化を阻むメディアの大罪

20170615 04
朴槿恵前大統領の罷免を受けて、半年以上も前倒しで行われた韓国大統領選挙。時期だけでなく、保守勢力が分裂する等、異例尽くめの選挙戦で注目を集めたのは、“民主化”に対する意識の高まりだ。1987年の民主化から30年を迎えた韓国だが、政府や行政に留まらず、幅広く非民主的な慣習や社会構造が今も根強く残っている。前回2012年の大統領選では、財閥による経済支配が問題視されたことから、“経済民主化”が大きな争点になったが、朴の弾劾を経た今回の大統領選挙では、経済以外の方面でも民主化が議論された。言論もその1つだ。朴に対する昨年の大規模デモをきっかけに、市民の間では“報道の民主化”の重要性に対する意識が再び高まり始めている。世論の力によって現職大統領を罷免に追い込んだ市民たちは、次期政権下でもこの流れを加速させるだろう。その中で、当の韓国メディアは、調査報道による権力の不正の追及等、本格的な“民主化”の流れに乗り遅れ、相変わらず独善的で政治的な報道を繰り返している。直近の好例が、民放テレビ局『SBS』による誤報騒ぎだ。大統領選終盤の先週、「2014年に沈没して304人の犠牲を出した客船・セウォル号の引き揚げ作業が大幅に遅れたのは、大統領就任が濃厚な左派系の文在寅候補と関係省庁が裏取引をしたからだ」と報じた。「引き揚げが早いと保守派政権の手柄となり、保守派候補に有利に働くとみられていたところ、官僚組織の拡大を目論む当局が文と取引した」という筋書きだ。ところが、「選挙戦をリードしていた文を陥れる為の報道だった」との疑惑が持ち上がり、SBSは謝罪に追い込まれた。朴が知人に国政介入させた昨年の“崔順実ゲート”では、「メディアが政権の監視役としての役割を果たした」と評する向きもある。例えば、『中央日報』系のテレビ局『JTBC』が、崔の国政関与を裏付ける物証を報じたことで、朴は謝罪に追い込まれた。ただ、実際のところ、事の発端は崔の関係者らによる内部告発だった。その報道が関心を集めたのは、崔の娘の不正入学が注目されてからのことで、メディアに大きな手柄があったとするのは過大評価だ。そんな韓国メディアの“民主化”には、未だ時間がかかるだろう。抑々、韓国メディアはジャーナリズムに求められる倫理性や公正性を欠くことが多い。証拠を基に事実を伝えるという、ごく初歩的な報道規律の遵守すら未熟だ。多数の高校生が犠牲になったセウォル号事故で、発生直後に“学生全員救助”と誤報を出したのは、その最たる例だろう。

2013年には、ソウル市庁の職員が北朝鮮のスパイ容疑で一時逮捕され、その後の裁判で無実が判明した事件があった。リベラル派だった当時の市長を追いやる為、情報機関の国家情報院が企てた陰謀だったとみられているが、ここでも事実確認することなく、政府の発表を垂れ流す怠慢報道が繰り返された。もう1つの問題は、韓国メディアと世論との乖離だ。例えば、北朝鮮は韓国の選挙前に核実験やミサイル発射を行うことで、選挙に影響を与えようとする。“北風”と呼ばれるもので、韓国の保守政権もこれを逆手に取って利用するのが常だ。保守系メディアも政府と歩調を合わせるように“北風”を利用して、半島危機を煽り、保守派候補を有利にさせようとする動きが、選挙戦ではよく見られる。だが、良し悪しは別にして、韓国の有権者は最早北風に対して不感症になっており、その影響力は限定的だ。にも拘わらず、保守派メディアは相変わらずの北風報道を続けている。メディアが認識のずれに気付いているにせよ気付いていないにせよ、古臭い報道スタイルに対する国民の不信感は増す一方だ。勿論、メディアが有権者や国民に媚びを売る必要はない。ただ、政治的な意図を含む報道が繰り返される一方で、報じられるべき社会的課題が中々伝えられないもどかしさが、国民の中に渦巻いている。例えば、若者の失業問題や非正規労働の問題は、経済が低迷する中でもっと報道されてしかるべきだが、問題の深刻さに比べて扱いが小さく、情報量も少ないと言わざるを得ない。更に韓国メディアには、未だに軍事政権時代のような非民主的な体制が残っている。政権に批判的な記者が悉く解雇されているのだ。実際、李明博元大統領や朴等の保守政権下では数十人の記者が解雇されたり、“業務妨害”の疑いで当局から起訴された。これはメディアを弾圧する政権の問題だけではなく、政権と近しい関係を続けるメディア幹部の姿勢にも問題がある。尤も、メディア関係者の中には、こうした状況を改善させようとする動きもある。半官半民の放送局『MBC』を解雇された元記者の李容馬は、朴の罷免が決定した翌日に行われた大規模集会で、「社会的害悪を清算する最初の出発点は検察とマスコミを改革すること」と訴えた。彼は嘗て、「韓国の報道現場は軍政時代より深刻だ」と筆者に語ったことがある。若手記者が報道の自由を主張すると、決まって“北のシンパ”のレッテルを貼られ、解雇される。残念ながら、彼のような改革を求める声は、韓国メディアを根本的に変えるには至っておらず、未だその兆しも無い。韓国社会が民主化に向かう中、メディアが旧態依然としたままなら、新生韓国にとって大きなリスク要因になる。そうなれば、朴を罷免に追い込んだ大規模デモの次なる矛先は、不公正な報道を続ける巨大メディアに向けられるだろう。 (朴辰娥)


キャプチャ  2017年5月16日号掲載

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航空自衛隊vs中国空軍、封印された一触即発の事態――有事や覇権拡大に向けた諜報戦争、日本語で“侮蔑的な言葉”も

日本の周辺空域では今、領空侵犯の恐れがある外国機に航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)する回数が急増し、昨年度は過去最多の1168回に及んだ。この内、対中国が7割を占める。防衛省が公表しているのは、この乾いた数字だけで、その裏側に潜む日本のトップガンたちの暗闘と苦闘は全く知らされていない。国民の目に触れることもない天空で一体、如何なる攻防が繰り広げられているのだろうか? 雲の幕間から見えたのは、命を賭したパイロット同士の一触即発の危機、そして24時間365日絶え間なく続く熾烈な情報戦争だった――。

20170615 01
トム・クルーズ主演のハリウッド映画『トップガン』(パラマウント映画)が一世を風靡したのは、冷戦末期の1986年のことだった。彼の扮する戦闘機パイロットのマーヴェリックは、その高度な技術を認められて、アメリカ海軍戦闘機兵器学校『トップガン』に入り、孤高の操縦士として宙を舞い、国家の盾となる。時は流れて30年余り。マッハの音速で緊迫の大空へ誘う前に、スクランブルとは何か、改めておさらいしたい。端的に言えば“空の警察活動”、謂わば取り締まりであり、スクランブル=有事ではない。領土は警察、領海は海上保安庁が警察の役割を担っている。しかし、日本の領空には、警察に相当する組織は存在しない。そこで、空自がスクランブルで警察活動を兼務している訳だ。具体的には、地上レーダーや情報収集機が日本領空の周辺を警戒して、領空侵犯の恐れのある航空機を発見した際、戦闘機を発進させる。対象の航空機に接近して状況を確認し、行動を監視する。領空侵犯になれば退去を警告したり、近くの空港への強制着陸を促したりする。日本の領空は、領土から12海里(約22.2㎞)までの領海の上空だ。日本の防空識別圏(ADIZ)は中国寄りで、中国のADIZは日本に寄っている。つまり、双方のADIZは重なり合っており、日中は暗黙の了解で互いのADIZの中間ライン付近で牽制し合う。そこから、中国軍機が日本の領空の方向へ向かう動きを察知した場合に緊急発進するのだ。航空機は高速で飛行するが故に、この12海里に侵入する直前に対処していてはとても間に合わない。そこで、領空侵犯に備える為、領空の外側にADIZを設定している。これは国際法で確立された概念ではなく、日本のADIZは占領期のアメリカ軍による線引きをほぼそのまま準用している。この為、北方領土が含まれていなかったり、竹島が韓国のADIZに含まれていたりする等、不整合も残る。逆に、日本と中国の間にある東シナ海上空は、長らく中国軍の航空勢力が無きに等しい状態だった為、日本のADIZは中国側に接近している。

ところが、中国は近年、海洋進出の後を追うように東シナ海での飛行を活発化。そして2013年11月、遂に中国も朝鮮半島の南側から台湾の北側まで、日本の南西諸島に沿うようにADIZの設定に踏み切った。沖縄県の尖閣諸島付近が含まれ、日本のADIZと重なる。その事件は、今も日本政府は公式に認めていない。昨年6月17日、 航空自衛隊のF15戦闘機がスクランブル(緊急)発進して、尖閣諸島周辺の東シナ海上空で、中国軍機と不測の事態の寸前となった出来事である。「中国軍機が空自機に対し攻撃動作を仕掛けてきた。仕掛けられた空自戦闘機は、いったんは防御機動でこれを回避したが、このままではドッグファイト(格闘戦)に巻き込まれ、不測の事態が生起しかねないと判断し、自己防御装置を使用しながら中国軍機によるミサイル攻撃を回避しつつ戦域から離脱したという」。事件から11日後、空自OBの元航空支援集団司令官・織田邦男がウェブニュースで概要を公開した。そして、「中国は間違いなく、一歩踏み出した」「上空での熾烈な戦いは今もなお続いている。もはや空自による戦術レベルの対応だけでは限界かもしれない。上空での中国軍の危険な挑発行動は、いち早くこれを公表し、国際社会に訴え『世論戦』に持ち込むことが必要である。【中略】今のまま放置すれば、軍による実効支配が進むだけでなく、悲劇が起きる可能性がある」と警鐘を鳴らした。ところが、日本政府は「中国軍機から攻撃動作をかけられた、ミサイル攻撃を受けたという事実はない」(当時の萩生田光一官房副長官)と否定。記者の質問に「ロックオンの事実もない」と答え、「今回のことは特別な行動ではないと判断している」と結んだ。どちらの言い分が正しいのか? 事件の真相は奈辺にあるのか? 当時の関係者は、織田氏の指摘をより具体化して明らかにした。中国軍機がその機首をF15へ向け、ミサイル攻撃の動作を仕掛けてきた。一触即発の事態を憂慮したF15のパイロットは回避行動を取り、赤外線ミサイルの追尾を躱す為に、囮として強い赤外線を放出する“フレア”を撒いて、那覇基地へ帰還した――。戦闘機が機首を相手機に向ける飛行(ロックオン)は、極めて重大な挑発行為であることは論を俟たない。フレアを撤く行為は通常の手順とはいえ、その段階は交戦の一歩手前であり、別の空自パイロットは「間一髪だった」と、当時の緊張度合いに自らの憂いを重ねる。何故、日本政府は織田氏の指摘を認めなかったのか? その理由は「日本側から詳細な事実を公表したり、認めたりすれば、こちらの手の内が中国サイドにわかってしまう恐れがあった」(政府当局者)からだ。そこで防衛省は、「中国軍機が自衛隊機に接近する事案が起きた」とざっくりと抽象的な内容を発表しようと検討していたところ、「織田氏が暴露してしまい、否定的なトーンの公式発表になってしまった」(同)という。実は、中国軍の挑発的な危険行為は、この事案だけではない。複数の自衛隊関係者は、「同じような事態は、その前後に数件は起きている」と言明した。自衛隊OBは、「織田氏の指摘を否定してしまったことで、中国軍機の挑発的な行為を積極的に公表し難い悪しき前例を残してしまった」と危惧する。このような危険を内包したスクランブルとは、どのように展開されているのだろうか?

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【アホでマヌケな韓国人】(02) 法律よりも権力に忠実? 韓国検察が抱える“業”

20170614 10
韓国の検察は3つの側面を持つ。1つ目はポピリュズムに走り易いこと。2つ目は、その一方で時の権力にべったりだということ。3つ目は、常に時の政権の勢いを読むこと。時の政権が弱ってきたら、ポピュリズムに乗ってとことん叩く。今回の朴槿恵大統領弾劾と、韓国検察との立ち位置を検証すれば、韓国検察の実態が見えてくる。「簡単に言うと、その時の政権が絶対的な力を持っていれば擦り寄る。しかし、力が無いと見るや、次の政権の行方を読みながら叩き始めるんです」(在韓ジャーナリスト)。それは、これまでの韓国の歴史を見てもわかる。韓国の歴代大統領で、退任後に検察から直接聴取を受けたのは、全斗煥・盧泰愚・盧武鉉に続き、朴槿恵で4人目だ。軍人出身だった全斗煥元大統領と盧泰愚元大統領逮捕の背景には、韓国初の文民出身の金泳三大統領の意志が働いたという説もある。2人の元軍人の大統領は、市民200人以上が警察と軍による弾圧で死亡した『光州事件』に関与したとして起訴され、全は死刑、盧は懲役17年の刑とされた(※後に2人とも特赦)。また、親北の盧武鉉元大統領は退任後、保守の李明博政権時代に収賄疑惑で検察の捜査を受け、自殺。これらに、元大統領の親族逮捕まで含めると、韓国の歴代大統領は退任後、軒並み不遇な扱いを受けている。しかし、今回の朴前大統領の場合、弾劾されたこと自体驚くべきことだが、在任中に関係者が次々と調べられたというのも異常だ。何故、こんなことになったのか? それを検証する前には先ず、韓国の大統領が検察に限らず、行政機関に対して絶対的権力を持っていることに触れなければならない。

「韓国では、大統領が捜査機関や情報機関の人事を一手に握る為、これらの機関が政治権力と一体化するという背景があります。つまり、検察庁・警察庁・国家情報院・監査院・国税庁といった強い権限を持つ役所のトップの任命権を、大統領が一手に握っている。その為、大統領は自分に都合のいい人物で行政機関を抑えるのが慣例です」(事情通)。その為、韓国では大統領の鶴の一声で検察や警察が動くことが日常茶飯事だ。元大統領がお約束のように摘発されるのは、現職大統領の疑心暗鬼が働いた結果とも言えるかもしれない。大統領の権限が検察に対して如何に強く、そして検察が如何に理不尽な捜査をするかは、2014年に起きた産経新聞ソウル支局長名誉毀損起訴事件を見れば明白だ。この事件は、産経新聞ソウル支局の加藤達也支局長(※当時)が同年4月、300人近くの高校生等が死亡したセウォル号沈没事故当日の大統領の行動に関しての記事を、同年8月に産経新聞ウェブ版に掲載したことに端を発した。その記事のポイントは、事故当日、朴槿恵大統領が事故第一報後、7時間に亘って所在不明の状態だったことにあった。このコラムには、“空白の7時間”に、元秘書室長と密会したという疑惑に触れ、その元秘書室長の離婚した妻が朴大統領と密接な関係があった牧師・崔太敏の娘の順実だったこと等が書かれていた。その記事は、韓国の朝鮮日報の報道や証券界で噂されている話をソースにしていたという。この記事に対する韓国政府の反応は素早く異常だった。大統領府や駐日韓国大使館が「名誉毀損に当たる」として、記事の削除を要請。だが、産経が記事削除に応じなかった為、韓国検察は名誉棄損で加藤支局長を在宅起訴した。そして、韓国からの出国を8ヵ月に亘り禁止。裁判で争われたが、最終的に無罪判決が出た。しかし、元の話を書いた朝鮮日報には何のお咎めも無く、日本に限らず、世界の報道機関からも、韓国政府と検察に対して厳しい批判が出た。「この件の背景には、当時の朴大統領の強い指示があったことは間違いないでしょう。韓国検察がその指示に忠実に、産経新聞に対して無理矢理罪を被せようと動いたのでしょう」(全国紙在ソウル特派員)。この一点を見ても、韓国検察は大統領命令ならシロもクロと言う組織であるかが明白だ。そして、加藤支局長の記したコラムが、今思えば、朴大統領が最も触れてほしくない側面を偶然にもえぐり取っていたとも言える。それだけに、朴大統領の怒りがわかる。検察も、その怒りで必死になったのだ。そんな大統領に忠実な韓国検察が何故、大統領在任中に側近中の側近、“韓国の女ラスプーチン”こと崔順実逮捕に動いたのか?

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【Korea Risk】(02) 韓国経済のドミノが倒れる日

20170614 05
朴槿恵前大統領の罷免と新大統領の選出、北朝鮮のミサイル問題を巡る米中を巻き込んだ緊張――。韓国の政治情勢は波乱続きだが、輸出や株価は好調だ。但し、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は怪しい。先ず、韓国経済の実態を簡単に整理してみよう。2015年のGDPの約46%は、商品やサービスの輸出が占めた。つまり、韓国経済の約半分は輸出に依存している。これでも2012年のピーク時(56%)と比べれば低下したが、アメリカは13%、日本は18%、中国は22%であることを考えると、依然として極めて高い水準にあると言えるだろう。輸出主導型経済の問題点は、海外市場の変動の影響を受け易いことだ。国内市場なら政府の助けを借りてシェアを守れるかもしれないが、外国市場では消費者の嗜好の変化や、新たなライバルの出現、安い類似品の増加でシェアを失い易い。ジャコウネココーヒーやイタリアの美術品等、地域の特産品、或いはスイスの金融業等、外国企業が真似し難いサービスなら、外国市場での需要は安定しているかもしれない。だが、韓国の主要輸出品はどれもこのカテゴリーに属さない。過去20年間、韓国の主な輸出品といえば電気製品・自動車・船舶だった。実際、2000年代半ば、韓国メーカーはこれらの分野で世界のトップクラスにいた。だが最近、多くの分野で韓国企業の突出は目立たなくなってきた。その大きな原因の1つは、中国企業が技術力を付け、多くの市場で安い類似品を提供できるようになったことがある。その影響が最も顕著に見られるのが海運・造船業だ。中国の港湾や造船会社が世界的に頭角を現してきた結果、太平洋地域の海運・造船業は大掛かりな再編を迫られている。

見落とされがちだが、韓国の輸出品には多様性が無いという問題もある。48%は電子機器や関連部品で、31%は自動車や船舶と関連部品だから、その何れかの分野で大掛かりなシフトが起きれば、韓国経済全体がゆっくりだが確実に下降する恐れがある。輸出が1割減っただけで、経済が5%収縮して、大量の雇用が失われる可能性もある。潜在的失業率が10%以上と言われる雇用環境は、一段と悪化するだろう。『サムスン電子』等のハイテク企業の業績は今のところ好調だが、『華為技術(ファーウェイ)』や『広東欧珀移動通信(OPPO)』等の中国企業が激しく追い上げている。それに韓国企業は、競争力を維持するのに不可欠な研究開発投資に、あまり積極的でないことで知られる(※とりわけクリーンエネルギーの分野では、この傾向が顕著だ)。このことが衰退に拍車を掛ける可能性もある。韓国経済のもう1つの大きな懸念は、企業部門が抱える莫大な債務だ。韓国企業の債務残高は、対GDP比150%にも上る。アメリカと中国も高い水準にあるが、多くの理由から、韓国のほうがいざという時、危険な状況に陥り易い。第一に、韓国版“ゾンビ企業”――即ち債務返済が3年以上滞っている企業が多い。韓国の企業債務の約4分の1はゾンビ企業のもので、焦げ付く可能性が高いとみられている(※しかもその割合は年々高まっている)。更に危険なのは、その貸し手が韓国の金融機関やグループ企業が多いことだ。従って、幾つかの企業がデフォルト(債務不履行)に陥れば、連鎖的に韓国経済全体が深刻な打撃を受けかねない。これまでは、借り換えや条件変更によってデフォルトを回避してきたケースが殆どだが、いつまでもこの手法を繰り返すことはできない。韓国の大手企業も、莫大な負債と無縁ではない。例えばサムスンは、年間収益の148%に相当する約290億ドルの債務を抱えている。将来性への期待がこうした借り入れを可能にしているが、中国企業の台頭でその期待が萎めば、債務の割合は上昇して、株価、更には業績に影響が出るだろう。債務返済計画や研究開発投資も打撃を受けるかもしれない。何故、韓国企業はそんなに借金漬けなのか? その背景には、幾つかの環境的要因がある。先ず、1990年代末~2000年代の好況で、余剰資金を積極的に運用する投資ブームが起きた。この時、政府は国内での運用を推進する為に、関連法令を緩和。これにより、企業は体力を上回る借り入れが可能になり、後にゾンビ企業が増える原因となった。企業側の経営判断が甘いことも問題だ。昨年破綻した『韓進海運』も、無能な経営陣の非現実的なほど楽観的な経営判断が、資金繰りの悪化に繋がった。それだけではない。韓進海運は中堅財関『韓進グループ』の一員で、グループ企業から多くの出資(と支援金)を受けていた。それが再建不能と判断されたことで、グループ企業も打撃を受けることになった。よく知られるのが、約3億4000万ドルの債権が回収不能になった『大韓航空』だろう。

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【占領50年・遠のく和平】(下) 入植・闘争、信仰が支え

20170613 03
「我々はユダヤの地に帰っただけ。神が与えると約束した土地をパレスチナ人から解放することは、私たちの使命」――。ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地であるオフラで暮らす女性のタマール・ニズリさん(38)は、ユダヤ教の聖典である『旧約聖書』を論拠に、パレスチナ人の私有地の占拠を正当化した。大半の入植者は熱心なユダヤ教徒で、信仰を支えに、ヨルダン川西岸に点在するフェンスや壁に囲まれた入植地の“孤塁”を守る。西岸は赤茶けた大地の丘陵地帯で、所々にオリーブや葡萄等の畑が広がる。入植者は農業を営んだり、会社勤めの為にイスラエルに通ったりしている。イスラエルは、50年前の第3次中東戦争でヨルダン川西岸と東エルサレム国を占領し、住んでいたパレスチナ人から土地を奪い、入植地を建設した。政府は低利の住宅ローン等の優遇策で、入植を奨励してきた。現在、約240ヵ所の入植地に約62万人が暮らす。イスラエルの人権団体『べツェレム』によると、ヨルダン川西岸約5700㎢の36.6%を入植地が占める。ベンヤミン・ネタニヤフ政権は今春、20年ぶりに入植地の新規建設を決定する等、入植政策に積極的だ。

これに対し、土地を奪われたパレスチナ側は憎悪を募らせる。「イスラエルの兵士を刺すのは何と甘美なことか。降伏よりも死を」。ヨルダン川西岸のラマッラ近郊で、先月下旬に行われた16歳少女の葬儀で、数百人の参列者の間に狂信的な叫びが響いた。少女は、イスラエルの警察官を刃物で刺そうとして射殺された。少女は自身の『Facebook』に、「アラー(神)の為に殉教者になりたい」と投稿していた。東エルサレムの旧市街には、イスラム教の聖地『岩のドーム』がある。この為、パレスチナにとってイスラエルとの闘争には、異教徒から聖地を解放する宗教的な意義がある。2015年9月以降、パレスチナ人によるユダヤ人襲撃が相次ぎ、イスラエル外務省によると約500件に上る。「襲撃をパレスチナ自治政府が扇動している」と、イスラエルは非難する。少女のように死亡すれば、殉教者に祭り上げられる。ユダヤ人に危害を加え、服役する者には、自治政府が拠出した基金を通じ、給付金が与えられる。昨年9月からパレスチナの学校で使われている小学4年生の算数の教科書には、「第1次インティファーダ(反イスラエル蜂起)の殉教者は2026人。第2次の殉教者は5050人。殉教者は合計で何人か?」といった例題まで出てくる。双方の交渉は2014年4月に頓挫した。その再開に意欲を示すアメリカのドナルド・トランプ大統領は、入植について「少し自制してほしい」とネタニヤフ首相に促した。自治政府のマフムード・アッバス議長には、「暴力に見返りが与えられる環境に平和は根付かない」と対策を求めた。入植地の取り扱い、土地を奪われた難民の問題、東エルサレムの帰属等、双方の対立は根深い。対話の軌道に戻すことさえ簡単ではない。

               ◇

エルサレム支局 上地洋実が担当しました。


⦿読売新聞 2017年6月9日付掲載⦿

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【占領50年・遠のく和平】(上) パレスチナ、“宿敵”に同化

第3次中東戦争の開戦から50年が過ぎた。和平の展望が描けないイスラエルとパレスチナの分断の現実を報告する。

20170613 02
午前3時。高さ8mの壁に取り囲まれたヨルダン川西岸のパレスチナ自治区べツレへムに住むユニス・アブサルハンさん(27)が、隣で眠る臨月の妻のふっくらとしたお腹を撫でて家を出た。乗り合いタクシーでイスラエルに通じる検問所に着くと、長蛇の列に並んだ。手荷物検査や指紋照合等を受け、約2時間後、イスラエル側に抜けた。アブサルハンさんはイスラエルの就労許可を持ち、同国の建築会社で働く。行列に並び、越境通勤する理由は、給与の高さにある。4000シェケル(約12万円)の月収は、ベツレへムの約4倍だ。アブサルハンさんは、「イスラエルで働かなければ結婚も出来なかったろう」と話す。パレスチナ自治政府等によると、自治区の失業率は26%と高く、イスラエルへ働きに出るパレスチナ人は約14万人と、過去5年で1.7倍に増えた。自治区は社会基盤が十分に整わず、電力供給さえイスラエルに頼る。経済的な自立に繋がる産業は育たず、海外を含む自治区外への農産物等の販売もイスラエルを仲介する形でしか行えない。政治的には自治区でも、経済的にはイスラエルの支配下にあるのが実情だ。

東エルサレムに住むパレスチナ人のイード・グルーフさん(30)は、2014年にイスラエル国籍の取得を申請し、3年近く審査結果を待っている。「イスラエル国民になれば、好待遇の仕事に就く機会が増え、ビザ無しで行ける国も増える。イスラエル国籍は可能性を広げてくれる」。国籍を求める動機を、グルーフさんはこう説明した。第3次中東戦争でイスラエルが占領した東エルサレムには、約32万人のパレスチナ人と約20万人のユダヤ人が暮らす。パレスチナ人に居住権はあるが、国籍は無い。税金はイスラエルに納め、イスラエル国民と同じ教育や医療サービス等は享受できる。但し、旅券も参政権も無い“2級市民”の扱いだ。この為、より良い境遇を求め、宿敵であるイスラエルへの“同化”を選ぶパレスチナ人が増えている。国籍申請に際し、ユダヤ教への改宗は不要だ。地元メディアによると、2003年以降、約1万5000人が国籍を申請し、約6000人が取得した。パレスチナは、イスラエルが占領した東エルサレムを首都とする国家の樹立を目指す。パレスチナとイスラエルの“2国家共存”が国際社会も認める和平の目標で、アメリカのドナルド・トランプ大統領も先月、イスラエルとパレスチナを訪問し、和平実現への仲介に意欲を示した。だが、第3次中東戦争でイスラエルが引いた分断線は、この50年で固定化した。ベンヤミン・ネタニヤフ政権は、東エルサレムやヨルダン川西岸への入植を進める強硬姿勢を崩さず、和平交渉は2014年に決裂したままだ。一方で、双方の経済格差は広がり、『国際通貨基金(IMF)』等によると、自治区の1人当たり国内総生産(GDP)はイスラエルの約12分の1に留まる。反目・依存・同化――。国家樹立という政治的な大義と経済的な窮状の狭間で、パレスチナ人のイスラエルへの意識は変わりつつある。


⦿読売新聞 2017年6月7日付掲載⦿

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