fc2ブログ

【ソビエト連邦崩壊と今】(06) 中露、カザフスタンを“共謀の舞台”に



20230526 15
「暴徒には警告なしに発砲するよう、治安部隊に命令した」――。ロシアと中国の狭間にある旧ソビエト連邦、中央アジアの資源大国であるカザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領(68)は、この一言で“恐怖政権の新指導者”として国際デビューを果たした。ソ連崩壊に伴う建国30年という年明けから突如、世界の耳目を集めたカザフスタン全土の反政府騒乱。トカエフ氏は、これを制圧して「国内の権力闘争に勝利した」とされるが、「決定的役割を果たしたのはカザフスタンに軍を急派したロシアのウラジーミル・プーチン大統領だった」と現地の消息筋は指摘する。カザフスタンを巨大経済圏構想『一帯一路』の要衝と位置付ける中国も、プーチン氏の部隊派遣を強く支持した。軍事同盟宛らに連携を強める中露両国は、中央アジア最大の国カザフスタンに「共謀と共闘の舞台を広げた」(同)ように見える。カザフスタンではソ連崩壊による独立から27年余り、ヌルスルタン・ナザルバエフ氏(81)が大統領の座にあった。同氏は2019年に大統領職をトカエフ氏に譲り、自らは終身の国家安全保障会議議長として院政を敷いた。今回の騒乱は「トカエフ氏追い落としに民衆を巻き込んだクーデター」とみられ、これに気付いたトカエフ氏が反撃に出たと消息筋は分析する。その証左に、ナザルバエフ氏の安保会議議長ポストはトカエフ氏が襲った。ナザルバエフ氏の最側近で“トカエフ大統領の監視”が主任務だったというカリム・マシモフ国家保安委員会(※ソ連時代のKGBに相当)議長は解任され、“国家反逆罪”の容疑で拘束された。

消息筋によると、トカエフ氏は騒乱が発生するや真っ先にプーチン氏に緊急電話して、軍の派遣を懇請。プーチン氏はベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領に電話を入れ、即座にロシア軍を主体とする『集団安全保障条約機構(CSTO)』の2500人規模の平和維持部隊急派を決めた。プーチン氏は2005年春、同じ中央アジアのキルギスで議会選の不正に民衆が立ち上がった『チューリップ革命』や、2020年秋のナゴルノカラバフ自治州を巡るアルメニアとアゼルバイジャンの紛争では、加盟国にCSTOの部隊を送ることがなかった。カザフスタンには何故、同盟軍を派遣したのか。実際の作戦任務でCSTO軍が出動したのは初めてのことだ。消息筋は、こう解説する。「全方位外交が国是のカザフスタンだが、唯一の同盟国扱いはロシアだけで、重要度はナンバーワンだ。中国、アメリカ、EUは“パートナー”に過ぎない。プーチン氏にすれば、キルギスでの革命は兎も角、安全保障と国益の面で死活的に重要なカザフスタンでは、ウクライナで2004年に親露政権を倒したオレンジ革命のような、いわゆるカラー革命は絶対に許せない」。他国から攻撃されたのではなく、カザフスタン国内で民衆が表向きは燃料値上げに反対して起こした騒乱に、CSTO軍が出動した。部隊出動の根拠に、アメリカのジョー・バイデン政権は疑問を呈した。日本在住のウクライナ人国際政治学者、グレンコ・アンドリー氏は「ソ連軍が主力のワルシャワ条約機構軍が1968年8月、チェコスロバキアに侵攻して民主化運動“プラハの春”を戦車で蹂躙した弾圧を彷彿させる」と語る。チェコ侵攻の暴挙に無理矢理理屈付けしたのが、「社会主義圏全体の利益は一つの社会主義国の利益に優先する」としたブレジネフドクトリン(※制限主権論)だ。CSTO軍派遣の根拠は、旧ソ連勢力圏の死守に血眼になっているロシアの“プーチンドクトリン”といったところか。「今回わかったのは、ウズベキスタンの独裁者であるイスラム・カリモフ氏が2016年に死去した際の権力闘争を含め、中央アジアの揉め事の解決で頼りになるのはプーチン氏だけという現実だ」と消息筋は断言する。トカエフ氏は中露双方と太いパイプを持つ。ソ連時代、スパイ養成機関としても知られるモスクワ国際関係大学で中国語を学び、ソ連の外交官となって北京に語学留学した後、1991年のソ連崩壊まで約7年間、北京のソ連大使館に勤務した。1994年以来、二度の計10年に亘って外務大臣を務め、とりわけ中露との幅広い人脈づくりに励んだとされる。プーチン氏にとって、これまではナザルバエフ氏という独裁の大先輩の存在があった。1歳年下で今回の騒乱で大きな貸しをつくったトカエフ政権には、遥かに自由な物言いができる。現在、毎日のようにプーチン氏に電話して指示を仰ぐというトカエフ氏は、その言い回しまでプーチン氏に似てきた。カザフ騒乱始め、旧ソ連各国の反政権運動は「外国勢力の影響を受けたテロリスト」の仕業で「外国で訓練を受けた」等だ。「武力鎮圧はテロリストの完全排除まで続ける」は、プーチン氏がチェチェン戦争に絡んで吐いた「テロリストは便所にいても捕まえてぶっ殺してやる。それで問題は終わりだ」を想起させる。「警告なしに発砲」も、後ろ盾にプーチン氏がいたからこその発言だとグレンコ氏は指摘する。現在、ジェノサイド(※民族大量虐殺)で世界の指弾を浴びる中国の新疆ウイグル自治区は、カザフスタンと1700㎞もの国境で隣接する。中国は1991年12月25日のソ連崩壊から実に2週間足らずで、カザフスタン始め中央アジア5ヵ国全てと電撃的に国交を樹立した。新たな独立国との国境画定が主目的だったが、中央アジアの民族主義や民主化の波が、ウイグルやチベット、内モンゴルの分離・独立運動に影響するのを懸念したことも、関係構築を急いだ理由だった。その懸念が初めて現実味を帯びたのが、今回の騒乱だ。

続きを読む

スポンサーサイト



テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

【日朝文化史のリアル】(25) 永田絃次郎の帰郷(中)…明かされない日本人妻の行方

20230526 12
在日2世の音楽プロデューサー、李喆雨(83)がテノール歌手の永田絃次郎(※1909-1985、朝鮮名は金永吉)の死を知ったのは1985年8月19日、北朝鮮の首都・平壌でのことである。李はその前日、『朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)』時代から世話になっている北朝鮮文化芸術担当大臣の張徹(※後に副首相等を歴任)と面会の約束があったのだが、突然、理由も告げられないままキャンセルされてしまう。実は、更に1日前の17日、永田が肺結核で亡くなっていた(※享年75)。ドタキャン翌日に改めて張に会った李は、その事実を密かに打ち明けられる。「金永吉先生(=永田)が亡くなった。昨日は葬式だったんだ」。李は心底驚いた。永田が昭和35(1960)年1月、北朝鮮への帰国事業に一家6人で参加して海を渡ったのは、本連載の前回で書いた通りである。以来、数年は“永田の活躍”が日本にも伝わってきたものの、その後はさっぱり消息が途絶え、生死さえ不明だったからだ。北朝鮮で永田が厳しい立場に追いこまれていたらしいことは、日本にも伝わっていた。その理由の中には、永田の7歳下の日本人妻、北川民子に関する噂があった。曰く、北朝鮮の最高権力者である金日成と永田と一緒に面会した時、「日本への里帰りを直訴して怒りを買ったのだ」といった類の話である。何れにせよ、永田の死は軽々に口にできない。公になっていないからだ。この国(※北朝鮮)では公にされていないことに触れてはならないし、公にできないことには必ず理由がある――。張が李に話してくれたのは、特別に親しかったからであろう。

北朝鮮で永田の死が公にされるのは、その時から実に18年後、2003年のことであった。北へ渡った時、既に50代になっていた永田は、時を惜しむかのように歌の仕事へ打ち込む。ソビエト連邦(※当時)や東欧等東側諸国への海外公演にも出かけ、1962年の中国公演では首相の周恩来が永田を“東洋のカルーソ(※イタリアの歌劇王)”と絶賛。華々しい活躍は北のメディアによって逐一伝えられた。但し、“快進撃”も2~3年までだった。次第に、永田は北での音楽活動に不満を募らせてゆく。公演の選曲さえも、朝鮮労働党芸術部門の幹部の了解なしには決められない。オペラのアリア(※独唱)等が得意な永田にとって、党側から押し付けられたような革命歌や、“首領さま”を称える歌など歌いたくはなかったであろう。1960年代後半以降、表舞台から消えた永田は持病の悪化による療養生活や、後進の指導や歌の創作といった“後方の仕事”に回される。その名はすっかり忘れ去られた。李喆雨が再び永田の名を耳にしたのは、張徹からこっそり死を打ち明けられた数年後、1990年代初めだった、と記憶している。それは意外な形だった。きっかけは、北朝鮮の二代目最高権力者のポジションを約束された金正日の誕生日からとった『2.16芸術賞』のピアノ部門で、地方出身の無名の少女ピアニストが優勝した、という報道だった。“何でも平壌優先”のこの国にあって、地方出身の音楽家が、このような大きな賞を勝ち取るケースは珍しい。「一体、誰の弟子なのか?」という噂が広がり、辿っていくと、この少女を指導しているのは永田の長女、和美(※昭和14年生まれ)だとわかったのである。20代になったばかりで両親や弟妹と帰国事業に参加した和美は、日本時代から学んでいたピアノを生かし、北朝鮮の音大に進む。報道があった時は、平壌近郊の都市の音大で副教授の地位に就いていた。その報道によって、北朝鮮の音楽関係者は数十年ぶりに永田の名を耳にすることになったのである。李喆雨が伝手を辿って和美に会うことができたのは、報道の後だった。聞きたいことはいっぱいある。永田の死の状況や“空白の期間”の動向。何よりも噂になった母親(※民子)の消息である。和美は事前に用意していた直筆のメモを李に渡した。そこには、父親(※永田)の帰国直後の華々しい活躍や、自身や他の3人の子供は何れも有名大を出て音楽家や教員として幸せに暮らしていることが書かれている。謂わば“公式見解”であろう。但し、母親のことだけは一切、書かれていなかった。案内員が席を外した隙に李が尋ねてみたが、和美は「(母のことは)今は言えません」と口を噤んだ。2時間近くに及んだ面会は結局、“当たり障りのない世間話”に終始したという。時は更に飛んで2003年、永田の死が公になった時である。それは、北朝鮮の音楽雑誌に載った記事――金正日が永田の長女、和美から送られた“お礼の手紙”に応える――の形で明らかにされた。何故、和美が“お礼”をしたのか? それは、その5年前(※1998年)に、永田の弟子の歌手が国際コンクールで優勝した際に金正日が接見し、“永田の想い出”を語ったことへのお礼であった。何と“回りくどい”ことか。実は、自身の誕生日を記念した賞を永田の長女の弟子が受賞したことにこそ、この“回りくどい”仕掛けを解くカギはあるのだろう。北朝鮮ほど、メンツや外聞を気にする国はない。北朝鮮で最高権力者(※金正日)が態々故人に言及したということは、嘗て厳しい立場に追い込まれた者の“名誉回復”が図られたことを意味している。賞の受賞者の関係者(※永田)の行方もよくわからないままでは具合が悪い。立場を明らかにしておく必要がある――。金正日の周辺がそう考えたからではなかったか。つまり、“少女の優勝”がなければ、今も永田の死は公にならなかったままだった可能性は強い。或いは、金正日が本当に永田の素晴らしい歌声を突然、思い出したのかもしれないが――。それでもなお、日本人妻の民子には未だ“触れない”のだ。一体、どんな“罪”に問われたというのだろうか? 永田の死が公になってからもう20年近い、というのに。 《敬称略》 (編集委員 喜多由浩)


キャプチャ  2022年7月13日付掲載

テーマ : 北朝鮮問題
ジャンル : 政治・経済

【WEEKEND PLUS】(360) ノルウェーがサーモン養殖に巨額課税か…世界的な価格高騰の恐れも

20230526 09
ノルウェー政府が、サケやマスの養殖業者の利益に対して35%の資源賃貸税を導入することを計画している。法人税は22%なので、合計すると57%に上る。ノルウェーは養殖サケの世界シェアの半分程度を占めており、業者が利益を確保しようとすれば価格が高騰しかねない。ヨーナス=ガール・ストーレ首相は3月28日、「我々に共通の自然資源を使用して創出された価値が社会に還元されるべきだという発想は、我が国の伝統である」と述べた。報道によると税の対象は大規模事業者で、全体の3分の2を占める中小規模事業者は課税対象から除外される方向だという。税収は、社会福祉、ウクライナ難民の受け入れ、家庭の電気料金支払い支援等に充当される見込みだ。


キャプチャ  2023年5月号掲載

テーマ : 食に関するニュース
ジャンル : ニュース

【WEEKEND PLUS】(359) キーワードは“アンチ意識高い系”…2024年アメリカ大統領選、“文化戦争”保守色競う



20230526 03
来年のアメリカ大統領選の共和党候補指名争いで、リベラルな価値観の広がりに対抗する“文化戦争”を基軸に据える候補が目立っている。人種・性的少数者(※マイノリティー)が過度に優遇され、宗教心は薄れ、伝統的な家族観が崩れている――。そう危ぶむ白人保守層に、反転攻勢を訴えかけているのだ。合言葉は“反Woke”。“Woke”は“目覚めた”という意味で、人種やジェンダーを巡る差別や不平等に強い問題意識を持つ人を指す前向きな言葉を逆手に取り、「意識が高いことを気取って、価値観を押しつけている」と批判している。州毎に争う党候補指名レースの初戦の舞台となるアイオワ州クライブ。先月22日、キリスト教右派の団体主催で、出馬や出馬意欲を表明している共和党候補の演説会が開かれた。本命のドナルド・トランプ前大統領(76)がビデオメッセージにとどめ、対抗馬のロン・デサンティス氏(※フロリダ州知事、44)が出席を見送る中、知名度や人気で劣勢の他の候補が、初戦で勢いをつけようと集った。約600人が集まった会場(※左画像、撮影/秋山信一)で特に注目を集めたのは、インド系アメリカ人でバイオテクノロジー関連の起業と投資で成功した実業家のビベック・ラマスワミ氏だ。「1985年生まれの37歳。共和党で初のミレニアル世代(※1980年代前半~1990年代半ば生まれ)の大統領候補です」。ラマスワミ氏がそうアピールすると、白人の中高年を中心とする聴衆から大きな拍手が湧いた。ラマスワミ氏に政治経験はなく、2月に出馬表明した当初は注目度が低かったが、地道に各州を回り、保守系メディアを通じて徐々に知名度を上げている。

『CBSニュース』の先月27~29日の世論調査では、党候補指名争いで、トランプ氏(※58%)、デサンティス氏(※22%)に次ぎ、マイク・ペンス前副大統領(63)と並ぶ3位(※5%)だった。会場に来ていた看護師のウェンディ・ブロワーさん(56)はトランプ氏の支持者だが、「気になるのはラマスワミ氏。若くて活気がある」と期待感を表す。白人以外の人種的マイノリティーや若者の支持が民主党に劣る共和党にとって、ラマスワミ氏は支持者の“多様化”を期待できる経歴の持ち主でもある。しかし、ラマスワミ氏が力点を置くのは、年齢やマイノリティーとしての出自ではない。「信仰、愛国心、勤労、家族といった道徳観が消え、左派はその空白を人種、性別、性的指向、気候(変動)といった考え方で埋めた。心に穴が開いた時、神がいなければWokeの思想が入り込んでくるのだ」。演説では女性やマイノリティーの権利拡充を図る民主党を批判。大学の入学選考でマイノリティーを重視する積極的差別是正措置(※アファーマティブアクション)の廃止や、移民受け入れの厳格化を提唱している。“反Woke”が主題の著作もあるラマスワミ氏の演説を聞き、ブロワーさんは「トランプ氏よりも保守的なのが彼の良さだ」と評価。キャンドル製造業のスタン・マクハーズさん(58)も、「トランプ氏が意中の候補だが、今日の演説はラマスワミ氏が力強くて良かった。自分達の価値観を押しつけてくる民主党こそ、我が国を分断している」と語った。演説会では登壇した他の候補も、次々と保守色をアピールした。キリスト教右派に支持基盤があるペンス氏は、自身が副大統領を務めたトランプ前政権の重要な業績は、「3人の最高裁判事を指名し、(人工妊娠中絶を選ぶ権利を認めた)ロー対ウェイド判決を歴史の灰だまりに送ることに繋がったことだ」と強調した。党唯一の黒人の連邦上院議員であるティム・スコット氏(57)も、「ジョー・バイデンと急進左派は我が国を破壊する青写真を作り出した」と民主党を批判。リベラル派が教育現場で人種差別を巡る白人の加害性をすり込む風潮を強めているとして、「子供を洗脳するのではなく、教育すべきだ」と訴えた。黒人の保守系ラジオ司会者であるラリー・エルダー氏(71)は、「私が出馬したのは、我が国が嘗てのユダヤ教とキリスト教に共通する価値観から離れ、若者が無宗教になり、気候変動を宗教のように信じているからだ。神をこの国に戻す必要がある」と訴えた。党内では中道寄りとされるアーカンソー州のエーサ・ハチンソン前州知事(72)も、「民主党のバラク・オバマ政権時代の教育省がトランスジェンダーに(性自認に基づき)学校のトイレを使わせるよう指示してきたが、知事としてはねのけた」と強調した。共和党の大統領候補指名争いでは、本命視されるトランプ氏と対抗馬と目されるデサンティス氏も、“文化戦争”を前面に出している。

続きを読む

テーマ : 国際ニュース
ジャンル : ニュース

【火曜特集】(602) 駐日ロシア大使は空席のまま…日本も対抗措置を検討か

20230523 03
昨年11月に帰国したミハイル・ガルージン前駐日ロシア大使(※現外務次官)の後任が空席のままだ。ロシア側は日露関係険悪化を反映して、当分、大使不在にするようだ。ロシア外務省筋によれば、後任にはニコライ・ノズドレフ外務省第三アジア局長の起用が有力だった。しかし、岸田文雄首相のキーウ電撃訪問等でロシア側が態度を硬化。ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は「日露交渉は完全に閉ざされた」とし、臨時代理大使級に格下げした形だ。臨時代理大使を務めるゲンナーディー・オヴェチコ公使(※右画像の左、鈴木貴子衆議院議員公式ブログより)は、ガルージン前大使の“戦浪外交”に批判的だったと言われる。その為か、ガルージン時代の『ツイッター』による強硬な反日論調発信も影を潜めている。在任8年と異例に長い上月豊久駐ロシア大使は夏の外務省人事で退任の見通しだが、日本側も大使不在にする可能性がある。両国は1年前、外交官8人を相互に追放したが、後任は補充していない。


キャプチャ  2023年5月号掲載

テーマ : 国際ニュース
ジャンル : ニュース

【トルコ大統領選2023・現場から】(下) 政権批判報道を“テロ扱い”

20230519 12
「我が国の力を思い知らせてやる!」――。2015年8月、トルコ東部の建設工事現場。トルコ当局者は、少数民族のクルド人労働者ら35人を後ろ手に縛り、うつ伏せに倒した後、そう叫んだ。トルコと敵対する非合法組織『クルド労働者党(PKK)』の戦闘員だと疑ったのだ。だが、間もなくPKKと無関係とわかり、労働者は釈放された。クルド人記者のネディム・トゥルフェントさん(33)は「これは人権侵害だ」と確信し、関係者から入手した現場の映像(※右画像)を報道した。その3ヵ月後、トゥルフェントさんは突然、逮捕される。容疑は“テロ組織(PKK)のメンバーの疑い”だった。裁判では、検察がクルド人20人を証人として連れてきたが、何れもトゥルフェントさんの容疑を否定。それでも、検察は「匿名の人物がテロ組織のメンバーだと証言した」と主張した。裁判所が下した判断は、懲役8年9ヵ月の実刑判決だった。トゥルフェントさんは当時、目の前で起こっていることが理解できなかったという。模範囚として刑期が短縮され、釈放されたのは昨年10月だった。今はニュースサイトの編集者として働く。「我が国では、政権の問題を報じると、直ぐにテロリスト扱いされる。記者はいつ逮捕されるか、わからないんだ」。2003年に発足したタイップ・エルドアン政権は、当初はEUへの加盟を目指し、民主主義の価値観を重視していた。だが2004年、トルコが政治的対立から国家承認していないキプロスがEUに加盟すると、状況は暗転する。EU加盟には全加盟国の賛成が必要な為、トルコの加盟への道が険しくなったのだ。複数のメディア関係者によると、エルドアン大統領の強権化が始まったのは、2007年の総選挙で勝利して以降だ。メディアの“支配”も、この頃から始まった。政府関連の広告を親政権のメディアに割り振り、経営力の弱った独立系メディアをエルドアン氏側近の会社が買収する手法をとった。

2015年、トルコ政府とPKKの和解交渉が決裂すると、クルドメディアの記者を“PKKの関係者”として弾圧するようになる。トゥルフェントさんの逮捕は、この時期だった。更に2016年、クーデター未遂が起こると、エルドアン氏は“反体制派”を徹底的に取り締まるようになった。100以上のメディアの閉鎖を強行し、政府批判をした記者を「国家に危害を加えた」等の理由で次々と拘束した。『トルコ記者協会』のトゥルガイ・オルジャイト会長(85)によると、現在、トルコメディアの9割以上が政権批判をしていないという。野党政治家の発言を取り上げることすら難しい。政権側がメディア幹部に常に連絡を取り、報道について“議論”している他、メディア側が報道内容を忖度しているという。独立系メディアはウェブやソーシャルメディアで規制をかいくぐり、情報を発信している。メディアの姿勢は選挙報道にも表れる。今月14日の大統領選に向け、エルドアン氏と対立候補である野党のケマル・クルチダルオール氏は先月以降、全国で選挙遊説を実施。トルコのウェブメディアによると、4月からの1ヵ月間、『トルコ国営放送(TRT)』が選挙演説を報道した時間は、エルドアン氏の32時間に対し、クルチダルオール氏は僅か32分だったという。「これまで、我が国で報道が完全に自由だったことはない。だが、今は過去最悪の状況だ。“自由な報道”は最早、夢になった」。記者歴60年のオルジャイト氏は嘆く。エルドアン政権が長期化するにつれ、メディアと共に政権の“道具”になったのが司法だ。「朝起きたら、突然解雇され、テロリストになっていた」。ブリュッセル在住の元裁判官、ヤブズ・アイディン氏(47)はそう振り返る。2016年にクーデター未遂が起きると、政権は約4000人の裁判官を解雇した。全裁判官の3分の1にあたる人数だ。政権はクーデターの“黒幕”をアメリカ在住のイスラム教指導者、ギュレン師だと考えている。当時、ギュレン師は各地に大学受験予備校を開設し、教育を通じてメンバーを拡大。裁判官等の国家公務員に多くの人材を送り込んだ。当初はエルドアン氏と連携していたが、政権内でギュレン師の存在が大きくなると、両者は対立。解雇された裁判官は、何れもギュレン師に近いと認定された。アイディン氏もその一人だ。その後、エルドアン氏は司法の“改革”を進めた。2017年には、裁判官や検察官の任命、解雇、異動等を司る『裁判官・検事委員会』の委員構成を変更。委員13人のうち、7人を大統領が、残り6人を国会が決めることにした。司法は事実上、エルドアン氏の手中に入った。「我が国では最早、司法が機能しているとは言えない」。最大都市イスタンブールのベイセル・オク弁護士(39)は嘆く。オク氏によると、クーデター未遂後に若い人材を大勢採用した為、知識と経験が不足した裁判官が多くなり、司法の質が著しく下がった。一方、政権が“反体制派”とレッテルを貼った記者らの訴訟では、記者らに有利な主張を採用する裁判官は同委員会によって交代させられ、政権が判決を“誘導”するという。フランスのNGO『国境なき記者団』による“報道の自由度ランキング”では、トルコは180ヵ国・地域中、165位。アメリカのNGO『世界正義プロジェクト』の“法の支配ランキング”では140ヵ国・地域中116位で、何れもロシア等の強権国家よりも低い。権力奪取から20年を経て、メディアと司法の支配をほぼ完成させたエルドアン氏。だが、政権の“独裁”を非難する声は、特に都市部で強まっている。対立候補のクルチダルオール氏は、報道の自由と司法の再建を公約に掲げている。

          ◇

(エルサレム支局)三木幸治が担当しました。


キャプチャ  2023年5月13日付掲載

テーマ : 中東問題
ジャンル : ニュース

【トルコ大統領選2023・現場から】(上) トルコ震災、強権打撃

今月14日のトルコ大統領選は、主要2候補の支持率が拮抗し、2003年から約20年間政権を維持するタイップ・エルドアン大統領にとって正念場となる。現場から、長期政権の功罪を追った。



20230519 10
トルコ南部、ハタイ県サマンダー。シリアとの国境に近く、地中海と山とに囲まれた風光明媚な街は、2月に起きたトルコ・シリア地震で甚大な被害を受けた。地震から約3ヵ月が過ぎた今月上旬に街へ入ると、海岸沿いに倒壊した建物の瓦礫が積み上がっていた。高さは5m以上。潮風に混ざり、異臭が鼻をつく。瓦礫は分別されておらず、ソファーといった家具や洗剤の容器等が見えた。「屋外にいると目が赤く腫れ、腕に湿疹ができる。喉も痛くなり、息苦しい。特に子供の症状は酷く、突然吐くこともある」。瓦礫置き場の近くに住むジュネート・アルスランさん(51、左画像の中央、撮影/三木幸治)は深い溜め息を吐いた。地震で貿易の仕事を失ったこともあり、できるだけ家から外に出ないようにしているという。『ハタイ医師会』のアリ・カナトゥルー会長(57)は、症状の原因について「間違いなく粉塵だ」と指摘する。瓦礫置き場へは、毎日50~60台のトラックで瓦礫が運び込まれ、白い粉塵が激しく舞い上がる。カナトゥルー氏によると、特に問題なのは、粉塵に“静かな時限爆弾”と呼ばれるアスベスト(※石綿)が含まれているとみられることだ。トルコでは2010年に禁止されるまで、耐火性の高い石綿が建材に広く使われていた。石綿は髪の毛の数千分の1程度の太さの繊維状鉱物で、飛散すると目には見えない。だが、吸い込むと数十年の潜伏期間を経て、中皮腫や肺癌を発症するリスクがある。地震が起きたのは、トルコ大統領選(※今月14日)を控えた時期だった。通貨リラの暴落等による経済混乱で支持率が低下していたエルドアン政権にとって、5万人以上の死者を出し、約23万棟の建物が倒壊した地震は大きな打撃だ。

初動の遅れ等を批判されたエルドアン大統領は地震後、被災地を訪問し、“1年以内の復興”を約束した。選挙公約では、被災地で住宅65万戸の建設を計画し、うち32万戸を1年以内につくると明記した。その為、急ピッチで進める必要があるのが、建物の瓦礫処理だ。「政府は2013年に制定された環境法を全く守っていない」。『ハタイ弁護士会』環境委員長のアルカン・エジェビット氏(45)は、そう主張する。エジェビット氏によると、環境法は災害時の瓦礫処理手順を定めている。先ずは倒壊した建物から石綿を除去し、瓦礫からリサイクルできる鉄や銅、有害物質を含む電気製品、個人所有の貴金属等を分類する必要がある。そして、粉塵を抑える為、放水しながら瓦礫を取り除き、荷台を覆ったトラックで運搬。瓦礫置き場では有害物質が地下に漏れないように、表土をシート等で覆う対策を取らなくてはならない。だが、エジェビット氏によると、これらの対策は殆どの現場で実施されていないという。記者(※三木)はハタイ県にある数ヵ所の瓦礫置き場を訪れたが、運搬トラックに覆いはなく、置き場でも対策が取られている様子はなかった。日本では阪神・淡路大震災の解体現場で石綿の飛散が問題となった。トルコ政府が瓦礫の処理方法を改善しない為、ハタイ医師会と弁護士会等は先月下旬、政府に環境法を守るよう求める訴訟を起こした。カナトゥルー氏は言う。「政府は選挙前に、街から瓦礫を除去し、『復興した』と(被災地以外の)市民にアピールしたいだけなのです」。サマンダーの中心部にある瓦礫処理現場。エジェビット氏は今月7日、辺りを見回してこう言った。「政府が設置した筈の大気の観測機器が見当たらない」。トルコ政府は大気中の粒子状物質(※PM10)を全国で測定しており、アプリで数値が確認できる。政府は地震後、瓦礫処理時の粉塵を懸念する声に応え、ハタイ県に観測機器を2台設置した。エジェビット氏と記者が設置場所に行ってみると、機器は見当たらなかった。だが、アプリの数値は正常値を示している。「政府は、空気の綺麗な別の場所に機器を置いている可能性がある。『瓦礫処理が大気に影響していない』という情報操作だ」。エジェビット氏は語気を強めた。強権で知られるエルドアン政権は地震後、情報統制を強めている。震災直後に『ツイッター』の使用を制限した他、救助活動等を巡る“フェイクニュース”を厳しく取り締まる方針を発表。エルドアン大統領は「今は連帯の時だ。この時期の反政府キャンペーンは我慢できない」と述べ、震災に絡めた政権批判を警戒している。

続きを読む

テーマ : 中東問題
ジャンル : ニュース

【G7広島サミットの焦点】(下) AIへの姿勢、温度差

20230519 05
AIの適正利用に向けた国際的なルール作りが重要なテーマになっている。如何にも人が執筆・撮影したかのような文章や画像を作り出す“生成AI”が広がり、人々の生活や働き方を大きく変える可能性が出てきているからだ。「推進一辺倒、規制一辺倒ではなく、バランスを模索している」。岸田文雄首相は今月11日の『AI戦略会議』で、AIへの対処の難しさを滲ませた。AIが作り出す文章や画像は、インターネット上に氾濫する正誤綯い交ぜの情報を基にしていれば、真偽不明だ。作り出す過程も「開発者ですら検証できないブラックボックス」(経済官庁幹部)だ。誤解に基づく人々の判断や行動を助長する。規制対応が遅れれば、個人情報や著作権等の侵害が野放しになる。ロシアがウクライナ侵略で、SNSを使って偽情報を流した“認知戦”が更に巧妙化し、社会の混乱に繋がる恐れもある。G7は先月のデジタル・技術相会合で、人権保護や偽情報対策等に配慮し、安心して使える“責任あるAI”で一致した。しかし内情は、厳しい規制を目指す欧州と、活用の道を探りたい日本政府の間で、表現を巡って駆け引きがあり、温度差が生じた。日本政府の姿勢は、米欧に比べてAIの活用に前のめりに映る。G7デジタル相会合で議長を務めた松本剛明総務大臣は討議の冒頭で、「技術革新を促進する環境を大事にしなければならない」と語った。各省庁では、機密情報等を除けば、組織での承認を前提に、生成AIの利用を認める方針だ。一方、欧州では3月、生成AIの代表的存在である『チャットGPT』を巡って、違法な情報収集の疑いが浮上した。イタリアが、チャットGPTの利用を一時禁止した。EUは、域内で統一したAI規制の策定に向け、年内の合意を目指して動く。デジタル分野で多くの成長企業を抱え、技術革新に寛容なアメリカ政府も、AIの進展を懸念している。ジョー・バイデン政権は昨秋、開発や利用の原則を纏めた“AI権利章典”案を示した。AIによる市民の権利やプライバシーの侵害は、民主主義への国民の信頼を損なうことに繋がるとの問題意識を持っている。生成AIの存在は、著作権等が仕事に直結する文筆や映像製作の世界で、既に雇用への不安を齎している。生成AIが世界から3億人分の雇用を奪うとの試算もある。AIのリスクを軽視すれば、人々の権利を奪う脅威になりかねない。日本政府はサミットで、議長国として危機感を持った対応が求められている。


キャプチャ  2023年5月18日付掲載

テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

【G7広島サミットの焦点】(中) 核軍縮の道、阻む現実

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20230515-OYT1T50208/


キャプチャ  2023年5月16日付掲載

テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

【G7広島サミットの焦点】(上) 対露制裁“抜け穴”塞ぐ

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20230514-OYT1T50018/


キャプチャ  2023年5月14日付掲載

テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接