【Deep Insight】(26) “北朝鮮核武装”目をそらすな

経験したことがない危機に直面すると、人は現実から目を逸らし、「大したことにはならない」と思い込みたがる。こうした傾向を、社会心理学では“正常性バイアス(偏り)”と呼ぶ。北朝鮮問題について、私たちは同じ落とし穴にはまってきたのではないだろうか? 「核ミサイルを実戦配備するのは未だ先だろう」――。そう思っているうちに20年余りが過ぎ、北朝鮮の核武装は時間の問題と言われるまでになってしまった。尤も、一見すると、日米韓に加えて頼みとする中国からも圧力を強められ、北朝鮮の外堀は埋まりつつあるようにみえる。「あと3ヵ月間もすれば北朝鮮の航空燃料は枯渇する」。今年3月下旬に訪中したアメリカのレックス・ティラーソン国務長官に、中国が密かにこう伝えたとの情報がある。「約100日間かけて北朝鮮への原油供給を絞る」と暗に約束したという訳だ。真偽は兎も角、符合する動きもある。スーザン・ソーントン国務次官補代行(アジア太平洋担当)は先月26日、北京で記者団に「問題の解決に期限があることを中国側も理解している」と明かした。北朝鮮は、原油の大半を中国からの輸入に頼っている。若し中国が供給を本気で減らすのであれば、一定の効果があるかもしれない。中国の外交専門家は、こうした前提に立ち、北朝鮮が5月に3週連続でミサイルを発射したのは、「ミサイル燃料が尽きる前に、駆け込みで実験し、交渉に備えるつもりなのだろう」と読み解く。しかし、日米両政府内の空気は、そうした楽観論からは程遠い。寧ろ、「北朝鮮は最後まで核を手放さない」という悲観論が、じわりと広がっているように思える。何故か? 中国は北朝鮮の体制崩壊を望まないため、極限まで金正恩(キム・ジョンウン)政権を追い詰める兆しがうかがえないからだ。実際、中国は国連の追加制裁に慎重な姿勢を崩していない。「中国は、中朝国境が不安定になるのを恐れている。北朝鮮への圧力は未だ足りない」。中国の内情を知るアメリカ政府当局者は、こう打ち明ける。アメリカは期限を区切り、北朝鮮の暴走を止めるよう、中国に繰り返し迫っているという。日米に悲観論が漂っているのは、中国のせいばかりが理由ではない。本欄でも以前触れたが、真剣に検討すればするほど、軍事オプションが難しいという現実にぶつかっていることも一因だ。「アメリカが北朝鮮と開戦すれば、韓国内でも数十万人の死者が出る」との試算がある。韓国には、アメリカ兵やその家族も含め、二十数万人のアメリカ人が滞在しているとされ、彼らにも多数の死傷者が出かねない。

北朝鮮政策に携わった元アメリカ政府高官は、「この現実を知る軍人系の側近らが、アメリカ国民を見捨てるような決断をドナルド・トランプ大統領に進言できるとは思えない」と話す。ジェームズ・マティス国防長官は最近、「軍事解決しようとすれば信じられない規模の悲劇になる」と語った。韓国では先月、北朝鮮に融和的な文在寅政権が生まれた。包囲網が緩み、北朝鮮が更に核とミサイルの開発を加速することも考えられる。日米の専門家には、「アメリカ本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を、彼らが2~3年で完成する」との見方がある。そうなれば、「『日韓に核攻撃してもアメリカから核で報復されることはない』と北朝鮮が勝手に信じ込み、更に強硬な行動に出かねない」(日本政府関係者)。そうならないよう、日米韓は中国と結束を強め、北朝鮮を抑え込む努力を尽くす必要がある。だが残念ながら、それでも北朝鮮を止められる保証は無い。その場合、無策のまま最悪の事態を迎え、パニックに陥ることだけは避けなければならない。日米韓は、今から北朝鮮が核ミサイルを配備する悪夢を想定し、北東アジアの平和を保つ具体策を急ぐべきだ。では、何をすればよいのか? 日米の安全保障専門家らが挙げるのが、北朝鮮が手にした核ミサイルを決して使わないよう、これまで以上にアメリカ軍の核戦力をアジアに展開し、警告を強めることだ。「万が一、核ミサイルを発射したら、アメリカから必ず核で報復される」と北朝鮮側に思い知らせる。「核の挑発は、核による脅威で抑え込むしかない」という訳だ。例えば、核兵器を搭載できる『B1』・『B2』・『B52』といった戦略爆撃機によるパトロールや演習を、アメリカ軍が朝鮮半島近辺で更に増やすこと等が選択肢になるという。アメリカ軍内には、「韓国への核の配備を検討すべきだ」との意見もある。尤も、この対策を取れば、嘗ての米ソ冷戦中のように、アジアの緊張は更に高まってしまう。抑々、北朝鮮のような異形の独裁国家に、核抑止力がどこまで有効なのかも見通せない。だからこそ、“核ミサイルを持つ北朝鮮”という最悪のシナリオに備えると共に、ミサイル防衛網の拡充を急ぎ、制裁と圧力による“非核化”を諦めずに追求していかなければならない。バラク・オバマ氏がアメリカ大統領として初めて広島を訪れてから、先月27日で1年が経った。唯一の被爆国として、日本は“核無き世界”の理想を後退させる訳にはいかない。その一方で、北朝鮮の暴走に対抗する為、アメリカによる“核の傘”を強めなければならないのも、北東アジアの悲しい現実だ。理想を掲げながら、必要な対策を淡々と打っていく――。そうした冷徹なリアリズムが、今ほど日本に求められている時はない。 (本社コメンテーター 秋田浩之)


⦿日本経済新聞 2017年6月2日付掲載⦿
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ジャンル : 政治・経済

【オトナの形を語ろう】(30) 快楽ほど厄介で、人間の本能を動かすものはない

先週は、「自分本位のセックスはダメだ。そういうのは止めておけ」と書いた。その理由は、私たち人間がすることには、特に男がすることは、自分だけがイイ思いをすればそれでイイというのはあり得ないからだ。こう書くと、何人かの読者は、それも若い時から女というものと人並み以上に接し、何人もの女と肌を触れ合ってきた者なら、「男と女がヤルのに理屈なんぞいるものか」と言う者もいるだろう。私もそういう類いの男どもの何人かと付き合ったし、実際、彼らの女との接し方、果てはどんなセックスをするのかを覗かせてもらったこともある。そんな男の中で真面に生き抜いた男の、本音と思われる言葉を紹介すると、こうだった。「女は可愛いもんだ。そりゃ凄いのもいたが、詰まるところは“女は可愛い”、かけがえのないもんだよ」。赤ん坊がセックスができないように、老いさらばえば、性器なんぞは只の身体の部位として、萎びたまま垂れ下がるものだ。その男たちの話は後で話すとして、これを読んでいる君が、童貞であろうと、自分1人が男女の事情に手練れと思っていようと、童貞と手練者の間でも、セックスに大した差異は無いということだ。肝心は、相手のことを考え、思ってセックスができるということが、如何に大事かということだ。

先週も話した通り、相手を悦ばすことを私は言っているのではない。そんなもんは“女衒”か“竿師”に聞けばいいし、彼らが毎日毎夜、天国にいるようなセックスをしている訳ではないというのはわかり切っている。童貞は別に恥じることでも何もない。童貞でなかった男は、この世の中に1人もいないんだから。セックスが上手いってことを自分の長所だと思っている輩がいたら、そいつは最低で、男と女から言う“クズ”でしかない。セックスは怖れることでもないし、自慢するようなものでも、勿論ない。男と女が出逢って、そこで「ずっと同じ時間、同じ場所にいたい」と思ったとしよう。男には凸の部位があり、女には凹の部位がある訳だが、「相手が欲しい」という感情によって血が凸に集まり、凹のほうも同じく、「相手を欲しい」という感情が働けば、凸を受け入れ易いものに自然となるように、人間の身体はできているんだ。何も、男の顔・かたちがイイからとか、甘い言葉を言ってくれたから、凹がそうなるんじゃないんだ。私たち男に生き様や、「こう生きたい」という精神があるように、女たちにも同様に、「こう生きたい」「こうしなくては」という精神があるのは当然だ。それに反してまで、セックスはやるほどのものではないということだ。そういうことを踏まえて、相手に向かって行けば、きちんとした悦び・快楽が来るのがセックスというものだ。

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【Test drive impression】(26) 『アウディA5 スポーツバック2.0 TFSI クワトロスポーツ』――世界で最も優れたクルマ&美しいクルマに選出されたF-PACE

昨年、9年ぶりにフルモデルチェンジとなり、世界で話題の『アウディA5』。今年4月からは日本でも受注開始。A5はクーペ、カプリオレも用意されているが、人気且つ主力となっているのが、今回試乗したスポーツバックと呼ばれるモデルだ。では、スポーツバックとは一体、どんなモデルなのか? 特に真横からの写真を見ると、「クーペ的なフォルムを持った4ドア?」と思うだろう。しかし! 実はこのスポーツバック、リアはハッチ式となっており、つまりは5ドアハッチバックというボディー形状を持っている。で、これによってスポーツバックは実に“いいとこ取り”な1台に仕上がっているのだ。先ず、いいところは誰が見ても美しいサイドからのフォルムだ。4ドアなのにクーペ的なデザインは、実用性と美しさの融合と言ってもいいだろう。結果、スポーツバックはセダンのようにリアシートにもしっかりと大人を座らせることができる1台に仕上がっている。更に、リアにハッチバックを与えたことによって、スポーツバックは実用性にダメ押しをしている。言うなれば、これはワゴンとして使える感覚だ。実際、リアのハッチを開けると、とても大きな開口部を備えており、大抵の荷物ならば容易く呑み込んでしまうほどだ。河口は先代のA5スポーツバックで、後席を倒してロードバイクを積んだことがあるが、ロードバイクの前後輪を外すことなく呑み込んでくれた。

勿論、新型もそれが可能だ。そう、美しいフォルムながら、とても使える1台になっている。という訳でスポーツバックは、見た目はクーペ、乗員の為の空間はセダン、そして荷室はワゴンといった具合に、超使える、実にマルチな1台なのだ。で、今回試乗したモデルは『2.0 TFSI クワトロスポーツ』という、スポーツバックの中でも最もハイパフォーマンスなモデル。搭載エンジンは2リッターの直噴ターボで、最高出力は252馬力、最大トルクは37.7kgmを発生する。これを7速Sトロニックを介して、4輪に駆動を伝えるクワトロを採用。走り出すと、印象はやはり落ち着きのあるセダンのそれ。滑らかに路面を捉える乗り心地の良さと、速度が上がるにつれてフラットな感覚が増していく乗り味によって、スッキリとした走りの味わいを提供してくれる。エンジンは力も十分以上で、1610㎏の決して軽くはないボディーを余裕で加速させるだけのパワフルさもある。アクセルをそう多く踏み込まなくてもスルスルと加速していき、気が付けばハイペースで走っているという感覚だ。このモデルの走りは、それだけでは終わらない。アウディドライブセレクトというボタンを押すと、クルマがスポーティーな仕様へと変化するのだ。ハンドルに重みが増すと共に、ダイレクト感が加わり、サスペンションは硬さが増して、よりキビキビとした感じになるのに加えて、カーブでは踏ん張りを利かせるようになる。

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【Deep Insight】(25) それでも挑むデータ立国

昨日(30日)、改正個人情報保護法が全面施行された。企業等に安全な情報管理を求めつつ、個人の行動や状況に関するビッグデータの利用を促し、産業創出で国の活力を高める狙いがある。個人を特定できないよう手を加えれば、本人の同意を取らなくても情報を使える“匿名加工”という仕組みも取り入れた。日本も愈々、データ活用に本腰を入れる。そんな矢先の今月半ば、大規模なサイバー攻撃が世界を襲った。パソコンやサーバーのデータに暗号をかけて使用不能にし、解除の見返りに身代金を要求するランサムウエアが使われた。被害は150ヵ国・地域に及び、イギリスでは病院の機能が麻痺した。日本への影響は軽微だったが、デジタル社会の危うさを示した。サイバー攻撃の手法は日々巧妙化し、完全に防御するのは難しい。「2020年の東京オリンピックに向け、人と情報が集まる日本への攻撃が今後激しくなる」との見方は多い。ならば、データ活用にブレーキをかけるべきなのか? 結論から言えば、その選択肢は無い。攻撃への備えに努力しながら、寧ろデータ活用のアクセルを踏み込む時だ。それだけの価値はある。例えば医療だ。国民が病院や診療所で受けた医療の情報を網羅するデータベースを作る国家プロジェクトが動き出した。内閣官房は2年後に5000万人規模を目指し、企業や大学等は匿名加工された情報を買うことができる。データを使いこなすことで見込める利点は多い。効果の高い治療法や薬、異なる病気同士の意外な相関等がわかる可能性がある。診断を支援する人工知能(AI)の学習にも役立つ筈だ。新しいヘルスケア産業を編み出せれば、国民の健康寿命が延び、社会保障費の膨張に歯止めをかけられるかもしれない。企業人・研究者・医師等にとって、相当やり甲斐のある仕事ではないか。データは“21世紀の石油”と呼ばれ、経済を動かす燃料になる。とりわけ、個人に纏わるデータは巨大な力を秘める。それをわかり易い形で実証したのは、ライドシェア(相乗り)サービスの『ウーバーテクノロジーズ』だろう。人の居場所という情報を用いて、乗客とドライバーをリアルタイムに繋ぐ。新たな交通手段として各国に伝わり、自動車産業やタクシー業界を揺さぶる。企業価値は凡そ7兆5000億円。『ホンダ』の株式時価総額を3割以上上回る。1月には、サービスを通じて集めた個々人の移動データを匿名化して公開し、地方政府等が都市の交通インフラ整備に役立てられるようにした。中東のドバイ等と組み、“空飛ぶタクシー”の実用化にも乗り出した。データ経済の豊かな潜在力を示した同社の功績は大きい。

改正個人情報保護法の施行は、日本にとって一歩前進ではある。だが、ウーバーの例が示すように、肝心なのはデータを駆使して世の中を変えようとする起業家精神だ。日本にもその芽は育ちつつある。AIベンチャーの『ABEJA』(東京都港区)は、来店客の顔画像をカメラで撮って解析し、性別や年齢を推定したり、店内での動きを把握したりできる技術を手掛けている。来店客の属性や行動のデータから、合理的な品揃えや店員の配置を割り出す。勘や経験では得られない知見を求め、既に百貨店等300店以上が導入した。国内のサービス産業は予て、生産性の低さが指摘され、人手不足の逆風も吹く。「技術でできることは多い」。データによる業務革新を訴える岡田陽介CEOは、アメリカの半導体大手『エヌビディア』からも出資を受けた。2013年設立の『スマートドライブ』(東京都品川区)は、人がいつ、どこを、どう運転したかというデータを車から集め、様々なサービスに応用する会社だ。企業の車両を管理する他、安全運転すると安くなる自動車保険、高齢ドライバーの見守り等も思い描く。両社は、社会課題の解決にデータを生かす“攻め”だけでなく、“守り”も怠らない。ABEJAは、撮影した顔画像を直ぐ破棄し、個人情報を残さない。スマートドライブは情報セキュリティーの国際認証を取得し、北川烈CEOは「個人情報・データを無闇には集めない」と言う。4年前、『JR東日本』がIC乗車券のデータを『日立製作所』に提供した時は、説明不足が乗客の不安を招き、批判を浴びた。プライバシーや個人の気持ちに鈍感では、データ経済の担い手として失格だ。データ立国に挑むべきなのは、産業創出だけが理由ではない。インターネットが一般化したこの20年余り、世界はアメリカ発のITに大きく依存してきた。データ分析力でもアメリカ勢は突出する。「データ活用の為の日本の技術基盤が心配だ」。『ヤフー』の別所直哉執行役員は危機感を隠さない。『ヨーロッパ連合(EU)』のヨーロッパ委員会は今月18日、『Facebook』が対話アプリ大手『ワッツアップ』の買収時に示した情報が不正確だったとして、約140億円の罰金を科した。大量の個人情報を握り、広告事業等で影響力を強めるアメリカ企業への警戒が背景にある。あらゆるモノがインターネットに繋がるIoT時代に入り、アメリカ勢はAI家電やウェアラブル機器を通じ、私たちの身の回りのデータも集め出した。国民の思考や健康状態までわかるとなれば、安全保障にも関わる問題だ。ハードルは高いが、日本もデータを扱う技量の底上げを諦める訳にはいかない。 (本社コメンテーター 村山恵一)


⦿日本経済新聞 2017年5月31日付掲載⦿

テーマ : 経済
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【中外時評】 中国ネット統制、波紋広がる

「インターネットの安全を保障し、インターネット空間の主権・国家の安全・社会の公共利益を擁護し、公民や法人、その他の組織の合法的な利益を守り、社会と社会の情報化が健全に発展するのを促す」――。中国で今月1日に施行された『インターネット安全法』は、こんな文章で始まる。個人の権利や経済・社会秩序、そして国家の安全保障まで、幅広い課題に対する法律であることが伝わってくる。ユニークなのは、“インターネット空間の主権”を守ると明記した点だ。国内法で敢えて“主権”を主張したのは、サイバーセキュリティーの問題を国際的な視点から捉えていることの表れだろう。実際、中国のインターネット統制の波紋は世界的な広がりを見せている。同法については、中国に進出した外資が早くから懸念の声を上げてきた。例えば、「“大切な情報インフラの運営者”は個人情報や重要なデータを中国国内に保存しなくてはならず、海外に持ち出すには関係当局の定めに従わなくてはならない」との条項だ。「ビッグデータの持ち出しが禁じられるのでは?」。こんな声が聞こえてくる。実際にどんな影響が出るか、現時点では未知数と言える。“大切な情報インフラの運営者”が何を指すのか、はっきりしないからだ。そうした不透明感こそが、外資の不安を増幅している印象もある。国際的な人権団体等からは、「情報統制が一段と強まるのでは?」といった声が出ている。中国では最近、政権に批判的な発言で知られる北京大学の賀衛方教授が、自分の公式アカウントを閉鎖されたことへの抗議として、ソーシャルメディアでの“断筆”を宣言し、話題になった。習近平国家主席率いる共産党政権は、異論を封殺しようとする姿勢を益々強めている。インターネット安全法の施行は、賀教授への圧迫のような活動に対する法的根拠を改めて用意したことになろう。

波紋が及ぶのは中国の内側に限られない。アメリカで生まれ広がってきたサイバー空間のありようそのものが、影響を免れない。情報が国境をも軽々と飛び越えて自由に流通できる世界的なインフラとしてのインターネットに、共産党政権は早くから警戒感を抱いてきた。1998年には、公安省が『金盾工程』というプロジェクトに乗り出した。これは、国民の海外サイト閲覧を制限する『グレートファイアウォール(防火長城)』を含むインターネット統制の事業で、2006年に第1期の完了を宣言した。“自由”を核心とするインターネットを、中国は“統制”しつつ利用する道を選んだ訳である。今年初めに防火長城の迂回が困難になる等、インターネット統制は“進化”している。そこに改めて明確な法的根拠を用意したのがインターネット安全法であり、同時に金盾工程等の成果が同法の実効性を高めているとも言える。中国の取り組みは一部の国々、とりわけ独裁的な国々の指導者にとって魅力的なようだ。ジャーナリストの国際的な非政府組織(NGO)『国境なき記者団』は、10年以上も前から、中国の技術がキューバ等に提供されている可能性を指摘してきた。法体系の整備も、今後は協力のテーマになるのかもしれない。日本等民主主義の国々にとって、体制の維持を最優先する中国流は論外ではある。ただ、参考にすべきことが無い訳ではない。例えば、インターネット安全法は、エネルギーや金融といった重要インフラを担う企業に厳しい安全管理を義務付けている。インターネットの安全に関する宣伝・教育の重視を明確に打ち出している。サイバー空間の自由な情報の流通は、民主主義にとっても脅威となり得る。アメリカ大統領選を揺さぶったフェイクニュース、インターネットを利用したテロ組織の宣伝活動、個人攻撃やヘイトスピーチの拡散等を思い浮かべればいい。その対策は、中国のような独裁国家であれば寧ろ簡単と言える。情報の自由な流通を妨げず、それに伴う弊害を抑え込むにはどうしたらいいか? 民主主義世界は、共産党政権よりも真剣に取り組む必要がある筈だ。 (上級論説委員 飯野克彦)


⦿日本経済新聞 2017年6月22日付掲載⦿

テーマ : 中国問題
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【補助線】 “加計ありき”で進んだか

学校法人『加計学園』が愛媛県今治市に獣医学部を新設する計画が、国家戦略特区に認定された経緯を巡って騒動となっている。「安倍首相が規制改革に名を借りて、長年の友人である加計学園理事長に利益誘導したのではないか?」と野党が追及しているのだ。先月17日の衆議院文部科学委員会で、民進党の玉木雄一郎氏が「文科省の作成した内部文書に、特区を担当する内閣府から“総理の意向”と伝えられたとの記述がある」と指摘し、問題が広がった。松野文科相は19日、「文書の存在は確認できない」との調査結果を公表する。前文科次官の前川喜平氏が「あったものをなかったことにはできない」と記者会見に打って出たのが、25日だった。前川氏は、“総理の意向”等とする文科省の文書を「本物だ」と断定し、昨年11月の『国家戦略特区諮問会議』での獣医学部新設の選定過程について、「行政の在り方が歪められた」と述べ、“前次官の乱”という様相を呈している。前川氏は、「昨年9月に和泉洋人首相補佐官から、『総理は自分の口からは言えないから、私が代わりに言う』と獣医学部設置の推進を求められた」とも説明した。だが、今回の再調査で出てきた文科省の文書を含めて、文書の存在が内閣府から伝えられたとされる“総理の意向”を裏付けるものではない。そこに書かれた内容が事実かどうかは別問題だ。内閣府は、“総理の意向”との発言や首相の圧力を否定する。首相も今月5日の参議院決算委員会で、「私が一々官邸スタッフに指示を与えることは、抑々あり得ない。政治レベルで私が指示する場合は文科相に指示をする」と反論した。1日のラジオ番組の収録では、「前川氏は、私の意向かどうか確かめようと思えば、文科相と一緒に私のところに来ればいいではないか」と疑問を投げかける。この点、前川氏は3日の日本経済新聞のインタビューで、「首相の意向かどうかは政策に関係がないので、首相に確かめる必要はない」と答えたが、会見の発言との整合性は保たれているのか?

“総理の意向”は所詮、伝聞の伝聞に過ぎない。それによって、行政の在り方はどう歪められたというのだろう? 国家戦略特区には、地域を限定して岩盤規制を穿つ狙いがある。獣医学部は1966年を最後に、「獣医師過剰の恐れがある」として新設が認められていない。大学設置の許認可権を持つ文科省が、首を縦に振らなかったからだ。前川氏は記者会見で、今回の獣医学部の認定について、「極めて薄弱な根拠の下で規制緩和が行われた」と批判した。獣医師の需給見通し等が十分に示されず、内閣府に押し切られたという。規制を正当化する側に、その立証責任がある。規制緩和で新規参入を認めたい内閣府に対し、規制を維持したい支科省が政府内の議論で敗れただけではないのか? 政府は、2015年に閣議決定した『日本再興戦略』で、“獣医学部新設の検討”を明記した。「獣医師の新たな具体的需要がある」「既存の大学・学部では対応が困難だ」等の開設4条件も示した。獣医師は、産業獣医師や公務員獣医師が不足し、地域の偏りもある。近年は鳥インフルエンザや口蹄疫等への対応も急がれる。今治市は、2007年に始めた特区指定申請を計15回も却下された。民主党政権の2010年に、それまでの“対応不可”から“実現に向けて検討”に格上げされ、昨年1月に漸く指定が認められた。昨年11月の特区諮問会議は、4条件にも留意し、獣医学部を特区のメニューに決定した。“広域的に獣医師養成大学の存在しない地域に限る”との要件も加えた。その後、“1校に限る”とされた。野党は“加計ありき”と批判するが、獣医学部ゼロの四国への誘導は不合理ではない。1校限定は、『日本獣医師会』の要請を受け入れざるを得なかったからだ。加計学園が今年3月に設置認可を申請した獣医学部は、文科省の『大学設置・学校法人審議会』で審査中だ。文科相がそれを受け、8月に設置の可否を決定して初めて、来年の開学へ準備が本格化する。政府は、こうした選定理由や経緯を丁寧に説明し、公正性への疑念を払わねばならない。民進党は今月7日、特区の新規適用停止法案を参議院に提出した。官僚主導の行政に戻したいのか? 加計学園に不満だからといって、特区を悪者にしてはいけない。 (論説主幹 小田尚)


⦿読売新聞 2017年6月17日付掲載⦿

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【変見自在】 特定外来生物

朝日新聞は何で趣味みたいに嘘を書くのか? それもいい嘘でなく、韓国人みたいに日本人を貶める為の嘘ばかりを。その理由の一端を、朝日記者を長年やってきた永栄潔が『ブンヤ暮らし三十六年』(草思社)で明かしている。記者は先ず、支局で修行を積む。しかし、彼を迎えた支局のデスクは、「事実に拘るな」「針小棒大のどこが悪い」と指導する。我が産経新聞では「事実を追え」「裏を取れ」「思い込まず双方の話を聞け」だったから、随分違う。その違いが判る例に、彼は北陸電力事件を挙げる。順を追うと、彼の先輩が『北陸電力』の㊙資料を手に入れる。恐らく、労組からのタレコミだろう。その資料には、新聞各社の記者がランク付けされていた。労組は「記者の思想をチェックしたものだ」と言う。原発に賛成か反対かの色分けといったところだろう。「いけるじゃないか」と先輩は、『北陸電力が記者の思想を調査』の特ダネを打った。影響は甚大だった。ところが、話には続きがあった。北陸電力が、「あれは常駐記者か担当外かの区分け。誤報だ。何とかしてくれ」と言ってきた。専門記者か門外記者かは、実は重要だ。同じ頃、伊丹空港で着陸機が滑走路を逸脱し、タクシーウェーに突っ込んだ事件があった。専門記者はタクシーウェーが誘導路のこととわかるが、毎日新聞の記者は門外漢だった。“タクシー専用道路”に飛行機が突っ込んだが、「幸いタクシーは走っていなかったので事故は避けられた」と書いて、却って大騒ぎになった。そんなミスが無いよう、取材される側も門外漢かどうかを確かめ、それに合った説明を準備するものだ。それを悪意で曲解した。とんだ誤報をやらかしたら、お詫びして訂正するのが新聞業界のルールだが、朝日はそこも違った。

彼らは北陸電力の幹部を呼びつけて、「載ったものはしょうがない」と開き直って訂正を拒否した。驚いたことに、北陸電力が逆に紛らわしい表記をしたと謝罪させられたという。一方で朝日の傲慢がある。その一方で世間の対応もおかしい。誤報されたのに、妙に朝日を崇めて下手に出てしまう。彼の本には、「警察も北陸電力と同じ」とある。朝日の車を速度違反で捕まえながら、「出稿に遅れる」と聞いてサイレン鳴らして先導してやった件がある。斯くて、朝日の記者は誤報を恐れなくなる。裏を取る気も無い記者の中に清田治史が出てきた。彼は“詐話師”吉田清治を見つけて、嘘と知りつつ、30年せっせと慰安婦強制連行の嘘を世に広め続けた。この本には、若い頃の清田が出てくる。清田の将来を予見した支局長が、ハサミで彼を殺そうと追い回す。すっぱりやってくれていれば、日本人も慰安婦の嘘に塗れずに済んだ。そんな訳で、今日も朝日には裏も取らない与太話ばかりが載るが、中で異色の、つまり裏を取った風な記事が幾つか出てきた。「外来のクワガタが在来種を脅かす。だから輸入を禁じ、駆除しよう」とか。「昔、縁日で見たミドリガメが今、1700万匹に増え、在来種を追い立て、畑まで荒らす。それを駆除するいい罠ができた」とか。北海道の島を占領した外来ドブネズミの完全駆除に成功した話もある。「凶悪なカミツキガメも含め、今や“美しい日本”の風土に仇なす外来生物をやっつけろ」と主張する。それって、日頃朝日が推奨している「日本は多様で寛容な社会を目指せ」という主張とは、明らかに反するように見える。朝日にやっと真面さが芽生えたか。それなら、駆除外来生物に付け加えてほしいものがある。鄧小平の頃から大量に渡ってきたカミツキガメの一種で、居つくなりピッキングにガムテープ強盗に一家4人殺しまでやった。今は北海道の森もほぼ乗っ取った。朝鮮からきた亜種と一緒に、日本人に多様化と寛容を強いる。この駆除を語ってこそ、朝日の反省の印になる。


高山正之(たかやま・まさゆき) ジャーナリスト・コラムニスト・元産経新聞記者・元帝京大学教授。1942年、東京都生まれ。東京都立大学法経学部法学科卒業後、産経新聞社に入社。警視庁クラブ・羽田クラブ詰・夕刊フジ記者を経て、産経新聞社会部次長(デスク)。1985~1987年までテヘラン支局長。1992~1996年までロサンゼルス支局長。産経新聞社を定年退職後、2001~2007年3月まで帝京大学教授を務める。『高山正之が米国・支那・韓国・朝日を斬る 日本人をますます元気にする本』(テーミス)・『アジアの解放、本当は日本軍のお陰だった!』(ワック)等著書多数。


キャプチャ  2017年6月22日号掲載

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【誰の味方でもありません】(07) デブに不思議のデブなし

ダイエット情報に目がない。友人と会うと、大抵は他人の悪口かダイエットの話をしている。「ガセリ菌SP株ヨーグルトで痩せた」とか「ミドリムシやチアシードがいい」とか、要は林真理子さんが毎週エッセイで書いているような話だ。僕はそれほど太っている訳ではないが、いつ親方体型にならないとも限らない。この数年、よく話題に上がるのは腸内細菌。一般的に言われるのは、「消化を良くして代謝を上げれば、太らなくなる上に、肌も綺麗になるし、花粉症も怖くない。だから、乳酸菌と食物繊維の摂取が大事だ」ということだ。中には、「『○○を食べたい』といった欲望や“我慢強い”といった性格まで、人間の行動自体が、かなりの部分、腸に支配されている」と考える研究者もいる。事実、世の中は乳酸菌ブームだ。ヤクルトの価値が見直され、チョコレートにまで乳酸菌が入っている。その乳酸菌界隈で最もラディカルな施術が糞便移植である。健康な人の便を患者の腸に注入するのだ。本来は腸疾患の為の治療法で、日本では潰瘍性大腸炎の患者に対して臨床例があるくらい。だが、海外では「肥満や糖尿病に効果がある」という研究もあり、ダイエット目的で興味を持つ人も多い。そのうち林真理子さんあたりが試しそうだが、冷静に考えたら凄い時代になったものだ。ダイエットの為に便移植を考えるなんて。

何故、ここまで腸内細菌が話題になっているのだろうか? それは、兎に角わかり易いから。「腸が重要だ」というのは何となく納得し易いし、「兎に角、乳酸菌や食物繊維を摂ればいい」という解決策も単純明快だ。昔から流行したダイエット法や健康法というのも、兎に角シンプルだった。りんごダイエット・紅茶きのこ・ダイエットスリッパ・レコーディングダイエット・糖質制限等、要は一点突破主義である。良心的なお医者さんは、ダイエットについて聞かれたら、規則正しい生活と運動、腹八分目を心がけるといったことを指示すると思う。だが、一般的に言って、肥満に悩むのは、自制心が弱く、我慢できない人たちだ。今更、そんな優等生のような生活はできない。そこで縋るのが、「これさえすればいい」というシンプルなダイエットなのである。だが、毎年のように新しいダイエット法が流行するのは、太っている人たちの自制心の弱さを証明している。いくら「これさえすればいい」と言われても、続かないものは続かないのだ。「デブに不思議のデブなし、痩せに不思議の痩せなし」という名言があるように、デブは兎に角自己責任だと考えられがちである。しかし、行動経済学にとても残酷な研究がある。子供の頃、夏休みの宿題を後回しにしていた人ほど、大人になってからの肥満率が高いのだという。要は、子供の頃に自制心が身に付かなかったら、大人になってからはもう手遅れだというのだ。その話を聞いてから、太っている人に優しくしようと思った。


古市憲寿(ふるいち・のりとし) 社会学者。1985年、東京都生まれ。東京大学大学院博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。著書に『希望難民ご一行様 ピースボートと“承認の共同体”幻想』(光文社新書)・『絶望の国の幸福な若者たち』『誰も戦争を教えてくれなかった』(共に講談社)等。


キャプチャ  2017年6月22日号掲載

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ジャンル : 政治・経済

【ヘンな食べ物】(42) 麗しきラクダ丼

ラクダ肉は、中東やアフリカでも決して一般的な食材ではない。妻とチュニジアに行った時も、探すのに苦労した。レストランや食堂のメニューには全く存在しない。そこで、トズールという砂漠の町へ行った時、途中のバスで知り合ったブバケルという若者に「調理してほしい」と頼んだ。トズールに朝、到着すると、早速市場へ。生きたラクダが食用として売られていたが、殆どが頭の高さが2m未満の仔ラクダ。訊けば、1歳が日本円で約4万8000円、2歳が6万円と結構いい値段。流石に1頭買う訳にいかないので、肉は肉屋で購入。1㎏ざっと560円。この肉を一旦、ブバケル君に預けた。昼頃、彼の自宅を訪問すると、お母さんがラクダのクスクスを作ってくれていた。イスラムの作法では成人男子しか客人と食事をしないので、ブバケル君とお父さんと4人でちゃぶ台のような低い食卓を囲む。チュニジアも、田舎の一般家庭は床に座るのだ。クスクスは、じゃがいも・にんじん・青とうがらしがゴロンと乗っかっていて素朴だが、意外にも店で食べるより辛みもスパイスも控えめ、つまりマイルドで美味しかった。肝心の仔ラクダ肉は…固かった。「大人のラクダは固過ぎるから食べない」とブバケル君。今朝捌いたばかりの新鮮な仔の肉がこれでは無理もない。正直、固いだけでなく肉汁も乏しいが、噛みしめると淡泊な中にも一本筋の通った味わいで、窓が少ないけれど涼しく落ち着いた石造りの家によく似合っていたことを思い出す。その後、ソマリアの中にできた“自称独立国家”のソマリランドへ通うようになると、ラクダ肉はとても身近なものになった。

というのも、ソマリランドは若し“国家”として認められるなら、世界で最もラクダの輸出量が多い国になると言われるくらい、ラクダの飼育が盛んだからだ。それでも、やはり一般の食堂には置いていない。町の人間は、「ラクダ肉は固い」と敬遠する。日頃は「ラクダこそ俺たちソマリ遊牧民の象徴だ」とか言っている癖に。一度だけ、「毎日ラクダ肉を食べている」というおじさんに会ったことがあるが、「だから俺は子供を12人作れたんだ」と自慢げ。どうやら、ラクダは半分野生動物的な扱いらしい。「固くて美味くないけれど、食べると精が付く」というような。ラクダ肉を食べたければ、ラクダ料理専門の食堂に行くしかない。そこは、如何にも田舎の出という雰囲気の人たちで賑わっている。食べ方は、煮たラクダ肉の塊をナイフで切って、ピリ辛のトマトソースに漬け、パンと一緒に食べる。ただそれだけ。よく煮込んであるせいか、然程固くはないが、肉質がむっちりとして、飲み込むと胃袋にずしんと来る。野菜等の付け合わせは何も無いし、1回食べたら「もういいや」という気持ちになる。寧ろ、私のお気に入りは“ラクダ丼”。一部のラクダ食堂では、肉の塊を煮込んだ汁とクズ肉をご飯にぶっかけて出す。見てくれも味わいも日本の牛丼に似ている。こちらは味付けに軽くカルダモンを利かせ、千切ったレタスを散らしている。更にライムをたっぷり搾ると、重たいラクダ肉が一気に爽やかな昼飯へ変わる。値段も軽やかで、1杯100円しない。唯一残念なのは、現地の友人をこの店に誘うと、「うーん、今日はラクダはいいや」と必ず言われることぐらいか。「誇り高きラクダ遊牧民の末裔の癖に!」と思いながら、私は1人、木陰の食堂で至福の一時を過ごすのであった。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2017年6月22日号掲載

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ジャンル : 旅行

【寝言は寝て言え!】(07) 時間泥棒なスマホ

デジタルカメラといえば世界的にも日本のメーカーが強いのですが、これが今、どんどん売れなくなっています。大手の『ニコン』は、今年3月期決算で7年ぶりの赤字に転落。レンズ交換式デジカメの販売台数は、昨年3月期の404万台から310万台まで減少し、今後も下がると予測されています。世界のデジカメ出荷台数は、2010年がピークで1億2100万台。昨年は2400万台と、たった6年で大体5分の1まで縮小してしまいました。ニコンに限らず、全体的にデジカメの販売不振が続いている訳ですが、“写真を撮る”というニーズが無くなった訳ではありません。単純な話、スマホに市場を食われてしまったのです。一昔前のガラケーでは画質も悪く、旅行等でちゃんと写真を撮ろうと思えばデジカメを持ち出すしかありませんでした。しかし、今はスマホのカメラが驚くほど進化していますから、デジカメに比べれば画質面は劣るにしても、写真として十分過ぎるほどの記録を残すことができます。F値(※絞りの開き具合)やシャッタースピード、ISO感度の変更といったマニュアル設定はできなくとも、起動が早く、手軽に撮影できるという点で、スマホは圧倒的に優位に立っています。抑々、デジカメを買ってもマニュアルで撮るという方が少ないでしょう。一般的な要望としては、如何に手軽にそこそこ綺麗な写真を撮るかということだと思うので、スマホは見事にニーズを満たしています。SNSにそのまま投稿できるのも強みです。

仕事柄、カメラを使うことが多いですが、特にコンデジの衰退は当然とも言えます。しっかりした一眼レフに比べたら画質もボケ感も追求できず、手軽さはスマホに劣ります。近年は10万円前後のハイエンドなコンデジも、各メーカーから出ています。ただ、全体としてスマホと一眼の間で何とも中途半端な存在になってしまいました。個人的にはコンデジより、「でかくて重くてもいいから、一眼レフでいい写真を撮りたい」という欲求があります。やはり、いいカメラ・いいレンズで撮った写真は格別です。美人はより美人に写りますし、ブサイクでも綺麗なブサイクになります。子供を撮ったりだとか、残したい写真はいいカメラで撮影したいものですし、今後も確実にニーズはあるでしょう。メーカーとしては、手軽さをスマホに奪われてしまった以上、それ以外の付加価値を追求していくしかありません。カメラ市場も携帯音楽プレーヤー市場もゲーム市場も、スマホがだいぶ食っています。ニュースも新聞ではなくスマホで見て、暇潰しはテレビでなく『YouTube』。インターネットのコンテンツにお金を払う人も増えてきたでしょう。あらゆる市場をスマホが食い尽くそうとしています。しかし、一番食われたのは私たちの時間でしょう。スマホはとんでもない時間泥棒です。SNSを見始めると止まらなくなりますし、動画も関連動画を辿っていくと、あっという間に数時間経ちます。ゲームをやっていると、課金されてお金まで食われてしまう場合があります。付き合い方は慎重にしなければ…。


KAZUYA YouTuber。1988年、北海道生まれ。2012年、『YouTube』に『KAZUYA Channel』を開設。著書に『日本一わかりやすい保守の本』(青林堂)・『バカの国 国民がバカだと国家もバカになる』(アイバス出版)等。近著に『日本人が知っておくべき“日本国憲法”の話』(ベストセラーズ)。


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George Clooney

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