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【政治の現場・危機管理】(04) 病床の確保、綱渡り

20200714 04
「現状では未だ全国的且つ急速な蔓延には至っていないとしても、医療提供体制が逼迫している地域が生じていることを踏まえれば、時間の猶予はない」。首相の安倍晋三は4月7日、改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令した。政府はとりわけ、首都・東京の実態に危機感を募らせていた。都の1日あたりの外来患者数は、感染のピーク時に約4万5400人、入院患者数は約2万500人、重症患者数は約700人――。厚生労働省が3月6日付で公表した推計式に基づくデータは、政府関係者に衝撃を与えた。都内で患者を受け入れる感染症指定医療機関の病床数は100床程度にとどまる。推計が現実のものとなれば、“医療崩壊”という最悪の事態を迎える。折しも都内では新規感染者が増加し始めていた。それに対し、都の病床確保の動きは鈍かった。「都は政府に情報を上げてこない。どんなオペレーションをしているのかもわからない」。首相周辺の苛立ちは高まるばかりだった。入院者は重症者らに限らなければ、医療機関がパンクする。そう見切りをつけた政府は、一昨日決定した基本的対処方針に、感染拡大地域の無症状者や軽症者は自宅や宿泊施設等で療養させることを盛り込んだ。一方、安倍は先手を打って、自ら軽症者の受け入れ先となる都内のホテルの確保に動いていた。どこのホテルも風評被害を恐れ、自発的に手を挙げてくれるとは思えなかったからだ。

人伝に電話番号を聞き出し、安倍が直談判した相手は、大手ホテルチェーン『アパホテル』のグループ会社代表・元谷外志雄だった。説得の末、元谷から「1万床は出せる」との言質を得た安倍は、漸く胸を撫で下ろした。特措法は、海外で新型インフルエンザが流行した場合、入国者の停留施設としてホテルを所有者の同意なしに使えると明記している。厚労省はこれまでも有事に備え、ホテル業界に「いざとなれば強制的に使うことだってできるので、受け入れに協力してくれないか?」と予め打診してきた。尤も、色よい返事をしてくれるホテルは殆どないという。実際にホテルを使うとなれば、運営にあたるスタッフの協力も不可欠だ。「強制力があるからといって、無理矢理やるわけにはいかない。今回、ホテルが軽症者を受け入れてくれたのは、トップダウンの力があったからだ」。厚労省幹部は、綱渡りとなったホテル確保の現状を、そう振り返る。病床確保では、別の問題も起きた。「3800床です」――。3月末、首相官邸で開かれた連絡会議の場で、厚労省の担当者が感染者向けに使える全国の病床数を報告すると、居合わせた政府幹部は耳を疑った。厚労省の全国推計では、ピーク時の入院患者は約22万2000人。これに比べ、病床数があまりに少なかった為だけではない。全国47都道府県の内、厚労省が回答を得ていたのは30にも満たなかった。しかも、回答漏れで病床数が0とされた愛知県は、既に記者会見で病床数を公表済みだった。お粗末な報告内容に出席者は呆れ果て、厚労省が公表予定だった“3800床”という数字はお蔵入りとなった。政府関係者は厚労省の杜撰な集計を批判しつつ、地方の内情をこう推し量る。「厚労省に回答しないところが多かったのは、自治体が言いたがらないという側面もある。体制整備が追いついていない状況を報告したくないんだろう」。国民が必要とする正確な情報は、自治体の都合で国に届かず、病床数の把握という危機管理の基本は蔑ろにされた。 《敬称略》


キャプチャ  2020年5月30日付掲載
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【政治の現場・危機管理】(03) 厚生労働省、水際対策で後手

20200714 03
「新感染症に指定するのは、明らかに無理だね」――。1月下旬、厚生労働省の大臣室。昨秋の内閣改造で2度目の厚生労働大臣を任された加藤勝信は、幹部らを見渡すと、そう結論を下した。新型コロナウイルスによる肺炎が感染症法の新感染症に当てはまるのか、省内で協議した時のことだ。新感染症は、既に知られている感染症とは“病状や治療の結果が明らかに異なる”ものを指す。謂わば“未知の脅威”にあたる為、行政は入国に伴う検疫時に、感染者の隔離入院や停留等の措置を取ることができる。当時は国内初の感染者が確認されたばかりで、海外からの感染者を水際でどう防ぐかが課題となっていた。しかし、新型肺炎の病原体は新型コロナウイルスだと、中国で既に特定されていた。厚労行政を熟知した加藤を含め、厚労省とすれば、法的整理に基づいて新感染症指定を見送ったのは、ごく当然と言えた。決着がついた筈の議論は、1ヵ月後の2月下旬頃に再燃する。国内の感染者が急増し、新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく緊急事態宣言を求める声が高まった為だ。特措法を使えば、宣言に基づいて土地や建物の持ち主が臨時の医療施設を設けることを拒んだり、業者が医薬品や食品等の売り渡しに応じなかったりした場合、強制収用が可能だ。ただ、私権制限を伴う為、特措法を使える感染症は限られる。インフルエンザ以外に認められるのは、新感染症だけだった。

野党は新型コロナウイルスを新感染症と認定するよう、政府を攻め立てた。一方、政府は「新感染症にはあたらない」とする厚労省の判断を踏まえて国会で答弁した経緯があり、今更覆せなかった。特措法を改正し、新型コロナウイルス対策にも使えるようになったのは、3月14日のことだ。厚労省にも、流行の初期段階で「首相が『新型コロナウイルスを新感染症と位置付けるように解釈を変えろ』と言えば、不可能ではなかった」と振り返る幹部もいる。省内に“首相官邸の政治決断を促す”という発想が生まれなかったのは、新型コロナウイルスを軽く見ていたことが大きい。1月下旬、政府は官邸で開かれた連絡会議で、武漢の在留邦人がチャーター機で帰国した後の手順を協議した。厚労省は当初、新型コロナウイルスの症状がない帰国者は、公共交通機関で帰宅させるつもりだった。そこに、首相秘書官の一人が「皆、家に帰しちゃだめだ」と割って入り、急遽、見直しが決まった。すると帰国直後、無症状の帰国者2人からウイルスの陽性反応が出た。官邸の懸念は的中し、厚労省の危機管理の甘さを裏付けることになった。抑々、厚労省は検疫時の停留には極めて後ろ向きだ。官邸が3月4日、水際対策として“入国者の指定施設での停留”を盛り込んだ原案を纏めると、加藤や厚労次官の鈴木俊彦が口を揃えて猛反発した。鈴木は約10ページの反論資料を官邸に持ち込み、「内閣支持率が落ちる」等と訴えた。加藤らの抵抗の凄まじさは、首相の安倍晋三が「何で厚労省があんなに反対なのかわからなかった」と戸惑う程だった。厚労省が停留に及び腰だったのは、「マンパワーの不足による」と見る向きは多い。停留となれば、入国者の宿泊場所を確保しなければならない。そんな手間のかかる仕事に、とても労力は割けないというわけだ。平時でさえ、限られた人員で膨大な厚労行政に追われ、“強制労働省”と揶揄される。それ以上に負荷がかかる非常時の対応は、どうしても後手に回る。「厚労省は何をやるにせよ、今までと違うことを極度に嫌がる」。政府関係者が半ば諦め顔で語る体質に、安倍政権内では組織体制の課題と限界を巡る自問も始まっている。 《敬称略》


キャプチャ  2020年5月28日付掲載

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【政治の現場・危機管理】(02) 読めぬ民意、発信不発

20200714 02
「手短にお願いします。これ、最後にしますから」――。首相官邸の大ホールに、司会役の内閣広報官・長谷川栄一の声が響いた。首相の安倍晋三が一昨日、緊急事態宣言の全面解除を発表した記者会見は、1時間10分で打ち切りとなった。安倍は一礼し、その場を後にした。新型コロナウイルス対応で、安倍はこれまで計8回の記者会見に臨んだ。2月29日の初回こそ40分足らずだったものの、2回目以降は何れも1時間前後。過去の例と比べれば、開催頻度、所要時間とも際立っている。それでも国民の関心が極めて高いテーマだけに、質問は毎回、途切れることがない。その度に、打ち切りで指名されなかった記者の不満は募る。安倍自身は情報発信に意欲的だ。長谷川に「どんどん質問者を当てればいい。自分が倒れるまで質問に答える」と漏らしたこともある。とはいえ、周囲のスタッフは、他の公務との兼ね合いを考慮しなければならない。同日も、直後に新型コロナウイルスの政府対策本部が控えていた。記者会見の場では、どんな質問が飛び出すかわからず、“時間無制限”というわけにもいかない。安倍内閣の情報発信のやり方には定評がある。内閣広報室のSNS班に20~30代を主体に約40人を配し、特に内閣支持率や自民党支持率の高い若年層に訴求力のある手法も取り入れた。数々の危機を乗り越え、内閣支持率が高止まりする一因ともなった。しかし、安倍は今回、国民の感覚とどこかずれた発信を繰り返し、痛手を被った。

先月1日の政府対策本部で、安倍は全戸への布マスク2枚配布を公表した。首相周辺が発案し、本人も「いいと思った」という。尤も、東京を除けば、配布が始まったのは5月中旬以降だ。その頃、既に市中にはマスクが大量に出回りつつあり、国民が最も必要とする時期は過ぎていた。旬外れの布マスクは“アベノマスク”という異名で揶揄された。先月12日には、安倍自ら外出自粛を呼びかける動画をSNS上に投稿した。「若者に受けますよ」。首相秘書官の一人がそう言って、安倍に持ちかけたものだ。シンガーソングライターの星野源の楽曲『うちで踊ろう』の動画に合わせ、安倍が自宅で愛犬を抱いたり、読書したりする内容だった。狙いに反し、動画を投稿すると、インターネット上は批判の嵐となった。動画公開の時点で、政府は緊急経済対策を盛り込んだ2020年度補正予算案を国会に提出していなかった。そんなタイミングに流れた安倍の“優雅な週末”の様子は、休業や自宅待機で先の見えない生活に苛立つ多くの人々の神経を逆撫でした。官房長官の菅義偉が「過去最高の35万回を超える“いいね”を戴いた」と庇う一方で、与党からも「1000万回以上の再生で35万回の“いいね”では少な過ぎる」(自民党幹部)との声が漏れた。国民の多くが「新型コロナウイルス対策は後手に回っている」と不満を募らせている。『桜を見る会』や『森友学園』の問題に加え、検事長の定年延長を巡る問題が尾を引き、政権への信頼を傷付けているという面もある。安倍を前面に出せば批判の矛先が集中し、安倍の露出を抑えようとすれば「トップの顔が見えない」と叩かれる。首相官邸のリスクコントロールは、袋小路に迷い込んだ感すらある。“民意”の在り処を掴みそこねた危うさは、安倍が一番、自覚している。先月下旬、側近の一人に、しみじみとした口調で呟いた。「世の中の声が官邸に伝わり難くなっている。真剣に反省しないといけない」。 《敬称略》


キャプチャ  2020年5月27日付掲載

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【政治の現場・危機管理】(01) 首相の決断、菅氏不在

新型コロナウイルスへの対応を巡り、政府や与野党、国会等の危機管理の現状と課題を探る。

20200714 01
その発言に、出席者は驚きを隠せなかった。「宣言を全都道府県に拡大すればいいじゃないか」――。新型コロナウイルスの感染拡大で、首相の安倍晋三が4月7日に7都府県に緊急事態宣言を発令した直後、関係省庁の閣僚や次官らを首相官邸の首相執務室に集めた連絡会議でのことだ。会議は1月下旬から連日のように開かれ、安倍がしばしばトップダウンで指示を出す場でもある。この日は、宣言の対象外となった愛知県等から相次いだ不満の声に対する善後策を練っていた。官房長官の菅義偉も、安倍の発言に呆気に取られた一人だ。菅は、「政府が対応を厳しくし過ぎれば、国内経済を麻痺させる」と考えていた。しかし、当初は反対だった菅も、結局は折れた。安倍は自らの言葉通り、4月16日、全都道府県を対象とした宣言発令に踏み切る。官邸の危機管理はそれまで、菅と事務方トップの官房副長官である杉田和博のコンビが主に担ってきた。「首相と判断が違ったことはない」。政権の屋台骨である菅は嘗て、そう豪語したこともある。ただ、新型コロナウイルスは、従来の自然災害や閣僚の不祥事といった危機管理とは異質だった。.外交に強い安倍は1月末、他国に先駆けて武漢の在留邦人をチャーター機で帰国させようとした。省庁を率いる閣僚とは異なり、自前のスタッフを殆ど持たない首相が、この種のオペレーションを陣頭指揮するのは「史上初」(政府関係者)だ。安倍が危機対応で前面に立つほど、菅は後景に退くことになった。

安倍と菅の二人三脚から、安倍の独壇場へ――。こうした官邸内力学の変化は、ポスト安倍を巡る安倍と菅の温度差が齎したと見る向きもある。安倍は来年9月末の自民党総裁任期切れをにらみ、盟友である副総理兼財務大臣の麻生太郎と共に、自民党政調会長の岸田文雄に期待を寄せる。一方の菅が、政治家としての岸田を見る目は厳しい。安倍が麻生・岸田との間だけで減収世帯への30万円給付という目玉政策を構想し、菅を絡ませなかったのも、そうした背景からだとする見方もある。安倍が2月下旬に学校の一斉休校を打ち出した際も、菅は蚊帳の外だった。官邸幹部の一人は、「首相は政権終盤で自分の思い通りにやりたくなったのだろう」と推し量る。昨秋の内閣改造以降、菅に近いとされる閣僚が複数更迭されたことで、安倍と菅の距離が広がったとも囁かれる。発生時期も災いした。安倍は中国国家主席の習近平の来日を春に控え、中国発のウイルスに果断な措置を取り難かった。一方の菅も、旗振り役となった2020年の訪日客4000万人達成をにらみ、中国からの人の流れを止めるのはマイナスだと思っていた。厚生労働省が「ウイルスはインフルエンザみたいなもの」との甘い見立てを上げていたこともあり、官邸の水際対策は立ち遅れた。とはいえ、菅が危機対応で手を抜いているわけではない。医療機関でマスクが不足すると、首相補佐官の和泉洋人を使い、都道府県を介さずに直送するシステムを作った。PCR検査数を増やす為、僅か数日で厚労省の反対をねじ伏せ、歯科医師も検査に必要な検体を採取できるようにする等、変わらぬ剛腕ぶりも見せつけた。尤も、「自分が余程拙いと思うところだけやっている」と漏らす菅に、嘗ての覇気は感じられない。右腕である和泉を巡る“醜聞報道”で、当初は和泉を動かし難かったという事情もあった。3月15日昼、菅は国会近くのホテルで旧知の千葉県知事・森田健作と昼食をとった。元気付けようとする森田に、菅は鶏蕎麦を啜り続けた。途中、長い沈黙を挟んだ後、自分を奮い立たせるように、こう応じた。「そうだな、頑張らないとな」。 《敬称略》


キャプチャ  2020年5月26日付掲載

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【新型コロナウイルス・日本再生への道】(04) 国と地方、分担曖昧

20200710 03
新型コロナウイルスへの対応では、国と地方の役割分担が曖昧なことが問題となった。知事が事業者に休業の要請や解除ができる一方で、国が知事の権限行使に注文をつける“総合調整権”を持つ為だ。「外出自粛効果を2週間も見極めてからという対処方針はきつい」。4月8日、テレビの生放送中に割り込んできた東京都の小池百合子知事の発言に、西村康稔経済再生担当大臣は思わず顔を顰めた。前日の7日、改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が、7都府県に発令された。特措法は「都道府県知事が事業者に休業を要請する」と明記している。しかし、国は都に慎重な判断を求めた。日本の心臓部である東京の経済が止まれば、取り返しがつかなくなることを恐れた。西村大臣は、先ず外出自粛にとどめ、効果がなければ休業要請という段取りを描いた。これに対し、小池知事は新型コロナウイルスの感染封じ込めの為、早期の休業要請を訴えていた。9日まで折衝した結果、小池知事の主張通り、10日に休業要請を公表する運びとなった。

小池知事が幅広い業種に網をかけようとするのに対し、西村大臣は居酒屋やホームセンター、理髪店等を対象から外すのがやっとだった。調整に手を焼いた政府高官は9日、「都知事の政治パフォーマンスは今日で終わりだ」と息巻いた。小池知事が10日、休業を要請する業種を発表すると、近隣県は対応に追われることになった。県内の店が開いていれば東京から人が押し寄せ、感染が広がる恐れがある。「都が突然、(休業要請の対象)業種をバーッと出してきた」(神奈川県の黒岩祐治知事)ことに戸惑いながら、都に追随せざるを得なかった。東京が休業の“入口”で国とぶつかったのに対し、大阪は“出口”で国と火花を散らした。「勘違いされているのではないか」。西村大臣は先月6日、記者会見の場で気色ばんだ。怒りの矛先は、大阪府の吉村洋文知事だ。吉村氏は休業要請の解除に向け、「国に具体的な数値・指標を示してもらいたい」と注文をつけていた。特措法は知事に解除の判断を委ねている。尤も、吉村知事にすれば、判断の見極めは知事の手に余る。休業は事業者への補償と直結するのに、特措法に補償規定はない。「血の通っていないポンコツの法律だ」。知事が責任だけ持たされる仕組みに、吉村知事の不満は募る。感染流行の第1波は、休業の要請や解除の際、知事が独自に判断することの難しさを浮き彫りにした。第2波に備え、総合調整にあたる国の権限強化が急がれる。


キャプチャ  2020年6月5日付掲載

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【新型コロナウイルス・日本再生への道】(03) 宣言解除、揺れた戦略

20200709 06
政府は新型コロナウイルス対策で、有識者による専門家会議と基本的対処方針等諮問委員会を活用した。両組織は共に医療分野の専門家に偏っており、政府の戦略が定まらない一因となった。4月30日、首相官邸で安倍晋三首相や菅義偉官房長官らによる新型コロナウイルス対策の連絡会議が開かれた。首相は会議後、5月6日までの緊急事態宣言の期限延長を記者団に表明することになっていた。「今後の対策期間はどういう書きぶりになるの?」。出席者の一人から、専門家会議が近く公表する提言についての質問が出た。原案に“1年以上は何らかの形で持続的な対策が必要”との表現があるのを知ると、官邸幹部は「国民はキレますよ」「破裂しますよ」等と声を上げ、首相も「何故こんなに長くしなければいけないのか」と同調した。問題の表現は先月1日の提言から消えていた。感染防止を徹底すれば経済が立ちゆかなくなる。弱った経済の再生を急ぎ過ぎると感染がぶり返す――。政府が最も苦慮したテーマだ。当初は、感染防止が前面に立った。

政府が感染症の専門家会議を設けたのは2月14日のことだ。メンバー12人の大部分は医療分野の専門家が占めた。科学的知見を新型コロナウイルス対策の参考にする為だ。改正新型インフルエンザ対策特別措置法が3月13日に成立し、政府は緊急事態宣言の発令や解除にあたって、基本的対処方針等諮問委員会の判断を仰ぐことになった。諮問委は16人中、専門家会議の12人が全員参加していた。役割こそ違うものの、感染防止に重きを置く組織がもう一つ増えた。一方、官邸は出口戦略として経済再生を強く意識するようになっていた。これを踏まえ、先月14日の会合から、経済分野の専門家4人を諮問委に加えた。しかし同日、専門家会議は宣言解除の判断基準として、“直近1週間の累積新規感染者が10万人あたり0.5人未満程度”等とする目安を示した。官邸の反対を押し切って公表したものだ。首相も「聞いた時、『えっ?』と思った」と周囲に漏らす程、“かなり厳しい数字”だった。先月25日、宣言の全面解除の是非を論じる諮問委の会合が開かれた。脇田隆字委員(※『国立感染症研究所』所長)は「21日に諮問委をやったばかり。頻繁にやる理由は何でしょうか?」と、開催日を当初予定の28日から前倒しした点を質した。解除を急ぐ官邸との温度差は明らかだった。感染の第2波が来れば、宣言の再発令も視野に入る。“感染防止”と“経済再生”にどう折り合いをつけるか。政策の司令塔がバランスの取れた戦略を打ち出せる体制を整えなければ、第1波の時と同じ轍を踏むことになる。


キャプチャ  2020年6月4日付掲載

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【新型コロナウイルス・外交の行方】(下) “安全はアメリカ任せ”の代償――北岡伸一氏(東京大学名誉教授)インタビュー

20200708 03
新型コロナウイルスの感染対策を巡り、権威主義国家が民主主義国家より優れているという見方がある。中国は感染拡大を抑える為、強引な武漢封鎖を実行した。だが、非常時に指導者が強い指導力を発揮して対応することは、民主主義体制でも可能であり、台湾や韓国は初期段階で強い措置を取り、感染拡大をかなり抑え込んだ。日本は阪神大震災や東日本大震災を経験してきたにも拘わらず、非常時の想定が不十分で、強制措置を以てコロナ禍に対応することができなかった。日本がアメリカのジュニアパートナー(※下位の同盟国)であり続け、“安全はアメリカ任せ”できたことが一つの要因だろう。民主主義そのものの欠陥というより、“日本の民主主義”の欠陥だ。また、政府は新型コロナウイルス対策を決める際、学者や専門家の科学的根拠に基づく意見に耳を傾ける姿勢が不十分だったのではないか。政治家があらゆる分野に詳しいわけではなく、専門知を尊重するべきだ。欧州の民主主義国家より日本の感染対策が上手くいったのは、国民の普段からのマナーや、自発的な協力によるところが大きい。多くの日本人は民主主義について、“個々人の目の前の利益を大事にすること”だと誤解している。非常時に私権を制限しなければ、公共の利益が損なわれるかもしれないということを理解せずにきた。この点を理解し、これから来る災害に備える法的な整備を進めることが重要だ。指導者が非常時に強い指導力を発揮することと、その対応を検証することはセットだ。権威主義国家は批判を認めず、無謬性を主張する。指導者の過ちは体制崩壊に繋がるから、検証しない。検証して改善を積み重ねる民主主義のほうが、長い目でみれば優位だ。今や体制の優劣が問われており、民主主義の優位を示したいなら、事後検証をしなければならない。自由と民主主義を信じる国・地域が連帯し、途上国の信頼を得ないと、中国が支配する時代になりかねない。中国は他国に大量のマスクや防護服を提供し、保健外交を展開している。経済力が弱い国は「今は何より援助が欲しい」と、中国に靡いてしまう可能性がある。最悪の場合、日本は経済の回復が遅れて、1人当たりの名目GDPが韓国に抜かれる可能性がある。韓国は歴史的に親中だ。国力が低下したアメリカが中国と妥協して、日本はアメリカから見放され、中国に対して様々な譲歩を迫られるという可能性もある。民主主義諸国の努力が求められている。民主主義のリーダーだったアメリカが自国第一主義を強める中、日本が自由、民主主義体制の連帯を主導していかなければならない。 (聞き手/政治部 大藪剛史)


キャプチャ  2020年5月25日付掲載

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【新型コロナウイルス・外交の行方】(中) 色褪せる“中国モデル”――宮本雄二氏(元中国大使)インタビュー

20200708 02
中国モデルの魅力の源泉は経済力だった。経済力の弱い国は、中国と結び付くことで、中国から資金が投入され、インフラが整備され、経済が良くなるというわけだ。中国経済は、2008年のリーマンショックの時には成長を続け、世界をリードした。今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、中国を含め世界的に痛みが大きく、急速なV字回復は難しい。中国は、自らの権威主義的なガバナンスが西欧の民主主義より優れているという宣伝もしてきたが、事実はそうではないとわかってきた。アメリカを含めて民主主義は、失敗しても隠さない。中国は基本的に隠す。今回は初期の対応が不十分で、尚且つ危険について世界に発信するのが遅れた。米中の宣伝合戦の中で、こうしたアメリカの発信がフランスに波及し、更にはフランス語圏のアフリカにも広がっている。アフリカの国まで、「中国がちゃんとやらなかったから今、自分たちもこんなに大変な目に遭っている」と言い出している。ソフトパワーの差が出ている。巨大経済圏構想『一帯一路』を意識して組織的に進めた“マスク外交”も、品質の悪さが指摘される等、成功したとは言い難い。要するに、中国の統治体制や生活様式に魅力を感じている人は少なく、経済の力が落ちてくると、そのまま中国モデルの魅力の低下に繋がっていく。安全保障面でも、経済が打撃を受ける中、アメリカや欧州が後退して力の空白ができても、今の中国に空白を埋める為の膨大な資金や人的負担の余裕はない。感染の終わり方にもよるが、新型コロナウイルスによって欧米の権威が失墜し、中国の影響力が高まるという一時の心配は、相当に薄れたと感じる。中国共産党にとっても、コロナ禍は大きな試練を課している。元々、社会保障等の国内問題が山積し、国民からは「何故アフリカを援助しているのか」という批判も出始めていた。コロナ禍でも、初動対応が遅れ、統治に不満の声が上がった。その後、感染を抑え込んだのはよかったが、次はどう経済を回復させるのかという新たな挑戦が待っている。リーマンショック後にやった公共投資に大幅にお金を注ぎ込むやり方は、マイナスのほうが多いと中国も結論付けており、もう使えない。経済の改革を進め、従来の国有企業重視から、民営企業重視へと路線を変えざるを得ないだろう。共産党が過去に経験したことがない別次元の挑戦となる。中国共産党の組織原理には、民主的に議論し、決めた結論を集中した権力で実施する“民主と集中”がある。習近平国家主席が権力を強めた結果、今は民主が弱まっている。コロナ禍対応では、李克強首相が中心に立ち始めており、集団指導制に軸足を移す可能性もある。 (聞き手/政治部 森藤千恵)


キャプチャ  2020年5月24日付掲載

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【水曜スペシャル】(181) 検証・陸上イージス配備停止――防衛省は「アメリカに騙された」、首相も費用対効果を疑問視

20200708 01
「ブースターを改修すれば、九州しか守れなくなるそうだ。それでは本末転倒だ」――。安倍晋三首相は、地上配備型迎撃システム『イージスアショア』の配備手続き停止を決めた理由を、周辺にこう漏らした。防衛省の河野太郎大臣は記者会見等で、配備候補地の一つである山口県の陸上自衛隊むつみ演習場(萩市・阿武町)で、ブースターが演習場外に落下する問題が判明し、改修にかかる“コストと期間”を理由に挙げた。首相にとってはこれらに加え、改修しても防護範囲が3分の1程度に狭まり、本州西部が外れてしまうことが決断の決め手となった。首相は当初、配備見直しには慎重で、4日の河野大臣との協議では了承しなかったという。だが12日夕、河野大臣が示した手続き停止の方針を了承。これを受け、18日の記者会見では安全保障戦略の再検討を表明した。首相をよく知る関係者は、「イージスアショア配備見直しを奇貨に、持論である敵基地攻撃能力の保有に取り組もうとしている」と首相の思いを読み取る。イージスアショアの配備手続き停止の決定を巡り、安倍首相は敵基地攻撃能力の保有を進める好機と捉え、河野大臣は防衛政策上の成果作りを狙った。防衛省が、迎撃ミサイルの大幅改修の必要性をアメリカ側から告げられたのは、今年2月だった。アメリカ側はそれまで、ソフトウェアの改修で、むつみ演習場内にブースターを落下させることが可能だと説明していた。

防衛装備庁の武田博史長官は2月以降、アメリカ国防総省ミサイル防衛局長のジョン・ヒル氏とオンラインで交渉を重ねたが、先月下旬に「ミサイル本体の大幅な改修が避けられない」との結論に至った。改修には2000億円、10年程度かかり、改修すると防護範囲が3分の1に狭まるとの見通しも伝えられた。「騙されたという思いはあるが、アメリカの当初の説明を鵜呑みにしてしまった」。防衛省幹部は、こう悔しがった。河野大臣は昨年9月の就任当初から周囲に、「防衛予算が右肩上がりで伸びる時代ではない。目立った装備品を圧縮しなければならない」と語り、宇宙、サイバー、電磁波等の予算を増やす意向を示していた。標的にしたのが、イージスアショアや大型無人偵察機『グローバルホーク』だ。河野大臣は先月初め、イージスアショア配備の白紙撤回の可能性を内々に模索し始めた。「“行革の河野”が暴れ出した」と省内に波紋が広がった。河野大臣は手続き停止に向けた検討を一部の防衛省幹部だけと進め、与党幹部らに根回ししなかった。『国家安全保障会議(NSC)』のメンバーとも十分に調整しないまま発表したとされる。政府高官は、「ポスト安倍の総裁選を見据え、『ここは俺が』という思惑が働いたのだろう」と見る。アメリカとの関係を重視する首相は何故、配備手続き停止に踏み切ったのか。実は、首相も以前から、イージスアショアの費用対効果を疑問視するようになっていた。配備計画が地元の反対で停滞する中、周辺には「新しいミサイルの登場で、“盾”だけでは限界がある。“矛”を持たないとダメだ」と語っていた。イージスアショアの導入を決めたのは、北朝鮮のミサイル開発を懸念するアメリカとの関係を重視したのが大きな要因だった。この為、首相は当初、配備見直しに慎重だったが、「イージスアショアに使う予定だったレーダーや迎撃ミサイルを予定通り購入することで、アメリカの反発は抑えられる」と判断した。首相は周辺に、「レーダーは購入するので、ドナルド・トランプ大統領はこの問題に関心はない」と言い切った。


キャプチャ  2020年6月20日付掲載

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【火曜特集】(182) 国境離島、複数確認できず…地元の漁師は「島などない」、認定根拠の海図が不正確か?

20200707 08
日本の領海や排他的経済水域(EEZ)の範囲の基点となる“国境離島”の中に、存在が確認できない島が複数あることがわかった。このうち1島は、国境離島に認定する根拠とした地図や海図が不正確だった可能性があるという。領海が狭まる恐れもあり、島国日本で、500近くに及ぶ国境離島の調査や認定の難しさが浮かび上がった。政府は2007年に定めた海洋基本法等で、海洋資源の確保に重要な役割を持つとして、国境離島の保全を決めた。これを受け、内閣府は2017年までに全国60の有人離島と、中国が領海侵入を繰り返す沖縄県の尖閣諸島を含む424の無人離島について、国境離島として名称付与や国有財産化の認定手続きを行なった。ところが、実態把握の為、2017年以降に現地調査や衛星画像等で詳しく調べたところ、無人離島に確認できない島があることが判明した。1島は、北海道猿払村沖のエサンベ鼻北小島で、流水や波に削られたとみられる。他にも同様の島があり、内閣府は「確認中」を理由に明らかにしていないが、関係者によると、鹿児島県南さつま市沖のスズメ北小島で、地図や海図で描かれる位置に島がなかったという。同島は面積約35㎡とされるが、本紙が上空から確認したところ、地図上の場所には海が広がるだけだった。内閣府は国土地理院の地図と海上保安庁の海図で国境離島と認定し、現地調査は行なっていなかった。地理院によると、地図に同島が記載されたのは2014年で、海図を根拠にしたという。一方、海保によると、海図に島が記されたのは1985年だった。海保は取材に、記載場所に島がない可能性を認めたが、「海図は航空機で測量して作られた。島は全くないのではなく、南にある島が実際の場所から北にずれて描かれた可能性がある」と説明。海保によると、海図は船の事故を防ぐ為、島の存在を目立たせるような記載が認められるという。ただ、領海が0.5㎢以上狭くなる恐れがある。内閣府の担当者は「遠方の為、調査に時間がかかる島も多い」とした上で、「認定手順は妥当だが、各島の現地調査が進んでおり、問題が見つかれば修正していきたい」と話している。

存在が確認できないのに、地図には描かれている――。俄かには信じ難い話が、国境の島で起きていた。鹿児島県沖にある無人のスズメ北小島(同県南さつま市)。地元漁師らも存在を否定する島が何故、国境離島になったのか。羽田空港を飛び立った本社機は、途中給油を経て、3時間程で九州本土から約70㎞西の宇治群島上空に着いた。生憎の曇り空だが、約600mまで高度を下げると、小さな島々の輪郭は肉眼でも確認できた。国土地理院の地図では、険しい山のような雀島の約600m北にスズメ北小島がある、筈だ。だが、30分程上空で旋回し、12倍ズームの双眼鏡を何度覗き込んでも、島は勿論、岩らしきものすら見当たらない。「深そうな海があるだけですよね」。海上を飛び慣れているパイロットも首を傾げた。現場に詳しい漁師にも話を聞いた。約30年間に亘り同群島周辺で漁をする南さつま市の森宝徳さん(54)は、地理院の地図を睨んだ後、きっぱりと言った。「昔から船で通っているが、島などない」。同市の四元等さん(56)も、「何故こんな島が地図に描かれているのかねぇ」と訝しんだ。南さつま市によると、土地の地番や面積等を把握する為の地籍調査は行なわれておらず、土地台帳もない。担当者は、「宇治群島は全て無人なので、行く機会もない。我々には(認定の)経緯はわからない。国に聞いてもらうしかない」と困惑した様子で話した。地図には、スズメ北小島と雀島の間に小さな島が描かれている。地元の一部で“スズメのかぶり”と呼ばれる岩礁だ。上空からも確認できた。スズメ北小島の認定作業に使われたのは、海上保安庁の海図と、それを基にした国土地理院の地図だった。海保は取材に、「この岩礁がスズメ北小島として描かれた可能性がある」との見解を示した。では、何故この岩礁が、雀島からより遠い位置に描かれたのか。海保の担当者は言う。「近くを通る船の安全の為、昔の担当者が実際の位置から変えたのかもしれない」。海図は航行安全等の為、記載内容を誇張することが国際的に認められているという。担当者は、「指針に照らして許容範囲だと考える」と話した。国境離島に詳しい中京大学の古川浩司教授(国際関係論)は、「海洋権益を巡る周辺国との緊張は高まっており、国境に絡む主張を国際社会で貫く為には、島の位置を明確にしなければならない。今回の問題は、調査が遅れた影響と言える」と指摘する。一方で、「国境周辺の島は500近くあり、全て政府の力で調べるには時間も労力もかかる。漁業者や自治体の協力も得る必要があるのではないか」と話す。 (柳沼晃太朗・蛭川裕太)


キャプチャ  2020年5月25日付掲載

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