【2017衆院選・現場から】(02) 北ミサイル、身近な脅威

20171018 08
朝鮮半島情勢の緊迫化に伴い、安全保障が衆院選の大きな争点となっている。「ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射された」――。8月29日午前6時2分、全国瞬時警報システム『Jアラート』がけたたましく鳴り、弾道ミサイルが北海道えりも町の上空を通過した。当時、襟裳岬近くの沖合では15~20隻の船が操業中だった。『えりも漁業協同組合』は、直ぐに船舶電話で安否を確認した。「またいつ撃ってくるかわからないが、怖がって漁を止める訳にはいかない。誰が漁師の生活を保障してくれるんだ?」。同組合参事の金子武彦(52)は、苦々しげに語る。町民には今も不安が広がる。ミサイル発射後、えりも町役場には防災行政無線を受信する戸別受信機の設置に関する問い合わせが相次いでいる。北朝鮮は先月、6回目の核実験を強行し、北海道上空を越える弾道ミサイルも再び発射した。北朝鮮のミサイルの脅威に、どう対応するのか? 襟裳岬を選挙区に抱える北海道9区では切実なテーマだ。衆院選公示日の今月10日。気温14℃と肌寒い登別市で、自民党の堀井学が強調したのは自衛隊の存在だった。「7割の憲法学者が違憲と言って、自衛隊の存在を認めていない。憲法にしっかり自衛隊を明記し、我が国の領土・領海・領空、そして国民の生命と財産を守る」。自衛隊の根拠規定を憲法に明記する改憲に触れつつ、対北朝鮮の万全な備えをアピールする戦略だ。選挙区内には陸上自衛隊幌別駐屯地があり、“自衛隊票”への思いも見え隠れする。

20171018 09
強固な日米同盟で抑止力を獲持しつつ、北朝鮮への圧力を強め、対話を通じた平和的な解決を目指す――。対北朝鮮で自民と希望の党の違いは殆ど無い。希望は、衆議院解散のタイミングを攻め立てる。「北朝鮮が私たちの北海道上空にミサイルを撃ち、Jアラートが鳴る。暮らしの安心と安全の議論を深めなければならない時に解散総選挙をし、政治空白を作るとは理解に苦しむ」。今月10日、希望の山岡達丸は、室蘭市役所近くの小さな公園で第一声を上げた。この公園は、嘗て元首相の鳩山由紀夫が衆院選の第一声に使っていた。鳩山の地盤を引き継いだ山岡の演説前には、「友愛の精神で夢と豊かさのある政治を実現させましょう」という鳩山からのメッセージが紹介された。希望は安全保障関連法の容認を掲げており、「鳩山の引退後に堀井に流れた保守票を取り戻す」(陣営幹部)ことを狙う。安保関連法を巡り、難しい立場に追い込まれた候補者もいる。公示前の今月6日、民進党から希望に移った後藤祐一は、東京都内のホテルで党代表の小池百合子(※東京都知事)と並び、衆院選公約の発表記者会見に臨んだ。後藤は、2年前の安保関連法を巡る国会審議で、政府批判の急先鋒として名を馳せた。「新法で自衛隊員が戦闘行為に巻き込まれるリスクは増大する」「ホルムズ海峡での機雷掃海は存立危機導態にあたらない」等と執拗に首相の安倍晋三を攻め立てる様子は、何度もテレビのニュースで流された。「北朝鮮の状況については、現実的に現行の安全保障法制を憲法に則って、適切に運用していく」。希望の政策責任者に就いた後藤は、記者会見で淡々と述べた。自らの出馬記者会見で安保関連法について問われると、「北朝鮮からのミサイル対応の為の集団的自衛権行使を認めることは、民主党時代から一貫している」と釈明した。自民党の義家弘介は、「国を守るという姿勢が何ヵ月で変わってしまうのは大変危険だ」と指摘する。 《敬称略》 (工藤淳・森山雄大)


⦿読売新聞 2017年10月15日付掲載⦿
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テーマ : 政治のニュース
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ポピュリズムに克つには――市場経済が暴走し貧困層にツケ、官の役割もっと拡大を

20171018 04
嘗て、ヨーロッパでは2つの“必然”が鬩ぎ合っていた。1つは、ソビエト連邦(※当時)との核戦争の危機が一触即発の状態でずっと続くというもの。もう1つは、核戦争さえ回避できれば民主主義と市場経済が繁栄を保証し、世代が進むにつれて豊かさが増すというものだ。結局、後者によって前者は必然ではなかったことが判明する。ソ連は崩壊し、ヨーロッパが国家運営の手本となるのは自明と思われた。これは僅か25年ほど前の出来事だ。それがここにきて、“社会は発展し続ける”という明るい展望が揺らいでいる。「世界的なパワーシフトにより、新興国が力を持ち始めた為だ」と見る人もいるが、大きな危機は内部にこそ潜む。ヨーロッパの民主主義をひっくり返すのは中国ではなく、ヨーロッパ自身かもしれない。旧来の政治秩序への信頼が地に落ち、人々の怒りが高じているのは、「社会の永続的成長が止まった」と思われている為だ。未来に希望が持てなければ、今、ここで苦難や不公平を我慢することなどない。こうした悲観論は、約10年前の世界金融危機で生まれた苦境を映し出す。

尤も、「それ以前からグローバル化とITの恩恵に浴した人は一握りに留まっていた」とも指摘されている。実際、1990年代から労働者の賃金の中央値は停滞し、金融機関の利益は積み上がっていた。そこへ移民の増加で文化的な摩擦が起き、希望を失った人々の心に怒りを吹き込むポピュリズム(大衆迎合主義)が台頭した。第1次世界大戦後にヨーロッパを率いた政治家は、1930年代に起きた社会崩壊から、民主主義と資本主義の間で保たれていた均衡が市場経済の暴走によって破られたことを学んだ。特権階級ばかりが恩恵を受け、貧困層にツケが回されるような経済モデルは、人々には受け入れ難いものだった。そうした事態に対し、アメリカでは当時のフランクリン・ルーズベルト大統領がニューディール政策を打ち出し、ヨーロッパでは“福祉国家”や“ヨーロッパ社会モデル”と呼ばれるものが第2次世界大戦後に作られた。経済の繁栄と政治の安定が齎された。今日、政治家はこの経験を生かさなければならない。富と機会が不平等な現状を放置すれば、ポピュリストを益々勢いづかせるだけだ。人々の信頼を取り戻すには、資本主義の在り方を、グローバル化や技術革新の影響で経済が不安定になっているこの時代に合うよう、見直さなければならない。その方法は、フランスのマリーヌ・ル・ペン氏率いる極右政党『国民戦線』のような排外的な右翼勢力にわかる筈がない。労働党のジェレミー・コービン党首のような時代遅れの社会主義者も同様だ。求められているのは、官と民の境界線を引き直し、官の役割をもっと広げることだ。即ち、特権的利益を追求する巨大な独占企業を許さない。僅かな税金しか払っていないアメリカのIT大手等に適切に納税負担をさせ、移民を受け入れても労働者の賃金が下がらないようにする。労働市場の弾力化と実践的な職業訓練の整備を進める――等だ。ヨーロッパでは、多くの人が怒りや不安を抱えている。彼らは何も革命を求めている訳ではない。今よりは公平な社会と、長い間信じてきた政治家は少なくとも味方だという実感が欲しいだけだ。ポピュリズムに克つのは、弱い立場の人々に目配りする“社会的市場経済”ではないか? (Philip Stephens)


⦿フィナンシャルタイムズ 2017年10月13日付掲載⦿

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ジャンル : 政治・経済

【2017衆院選・現場から】(01) 億ションと子ども食堂

20171017 05
高級ブティックが立ち並ぶ東京都港区南青山の一角に来春、総戸数163戸、最高額1戸15億円の26階建てマンションが完成する。リゾートホテル並みの豪華さが売りで、最上階には外縁部を見えなくしたプールも備える。分譲する『三井不動産レジデンシャル』(東京都中央区)によると、8割近くが売却済みで順調という。親会社の『三井不動産』は、「当面、“億ション”の需要は続く」とみている。アべノミクスの大胆な金融緩和で超低金利が続き、利回りの良い投資対象が見つからず、投資マネーは不動産に流れ込んだ。2016年の東京23区の新築マンションの1戸あたりの平均額は、5年前を約1300万円上回る6629万円に高騰した。不動産会社の多くは業績を伸ばしており、“第2のバブル到来”とも囁かれている。不動産業界の活況をアベノミクスの“光”とすれば、“影”も見え隠れする。板橋区のボランティア団体『前野町子ども食堂わくわくランド』は、月2回、ボランティアの主婦らが食事を作り、高校生までは無料、大人には300円で提供している。今月9日夜には、同区内の施設で、約20人の小中学生らがキャベツたっぷりのソースカツ丼と具沢山の豚汁を頬張った。団体を運営する千葉より子さん(61)は、「食費が大変だと言って子供を連れてくる母親もいれば、親が夜遅くまで働く子供が来ることもある」と語る。無料や低額で食事を提供する子ども食堂は、都内で90ヵ所以上に広がっている。低所得の家庭で暮らす18歳未満の子供の貧困率は、2012年の第2次安倍内閣発足後減少し、2015年は13.9%(※2012年比2.4ポイント減)となっている。しかし、野党は現実との乖離を指摘し、立憲民主党の枝野幸男代表は「貧困が増大し、社会が分断された」と批判している。一方、安倍首相は経済政策の実績を主張の柱に据える。翌日には新潟市中央区の商店街でマイクを握り、「3本の矢で経済を成長させた。私たちの政策で、GDP(国内総生産)を50兆円増やした」と胸を張った。アベノミクスの光と影は、選挙戦の大きな争点だ。日本経済の中心地である千代田区・港区・新宿区を抱える東京1区では、上向く景気の波に乗った“勝ち組”が目立つ。「経済再生一直線。この流れを止めてはならない」。昨日朝、自民党の山田美樹は、通勤途中のサラリーマンが行き交う港区の交差点で、経済政策の継続を求めて声を張り上げた。地元の中小企業や商店街を回ると、「成長戦略は成果が出てくるのに時間がかかる。根気強くやっていかなければならない」と説明している。

20171017 06
大胆な金融緩和による円安と株高は、企業業績の大幅な改善を齎した。安倍政権は、「戦後2位の“いざなき景気”を超える景気回復になった可能性が高い」(茂木敏充経済再生担当大臣)と誇る。千代田区九段北の複合ビルに居を構える不動産会社『ディア・ライフ』。従業員は50人ほどだが、都心周辺等のマンション開発に的を絞る戦略が奏功し、売上高が2012年度の19億円から、この4年で5倍以上に跳ね上がった。阿部幸広社長(49)は、「アベノミクスによる低金利の後押しがあった」と語る。だが、恩恵は十分に行き渡っていない。都心でも好景気を実感しているのは一握りだ。豊島区高田馬場のスーパーマーケットでは、特売の野菜や日用品が飛ぶように売れる。セール品を手に取ったアパート経営の女性(63)は、「将来が不安で贅沢をする気にはならない」と話す。「アベノミクスは既に限界だ。一部の大企業で賃金は上がったかもしれないが、多くの人たちの賃金は全く上がっていない」。立憲民主党の海江田万里は今月7日、北新宿のスーパーマーケット近くで買い物客や通行人に握手を繰り返しつつ、経済政策の転換を訴えた。希望の党は、大胆な金融緩和等の効果は一部認めつつ、「民間活力を引き出す規制改革が不十分」との立場だ。同党の松沢香は今月9日の記者会見で、「アベノミクスの方向性は評価しているが、規制緩和は骨抜きだ。大企業に受けの良い施策しか実現できていない」と指摘した。前野町子ども食堂わくわくランドがある板橋区で今月8日夜、東京11区の候補者による討論会が開かれた。議論の中心となったのは、子供の貧困や格差問題だった。「格差が広がった」という野党側の主張に対し、元文部科学大臣で自民党の下村博文は、「日本の子供の貧困率は高いが、減ってきている」と、対策が功を奏し始めていることを強調した。これに対し、希望の党の宍戸千絵は、「貧困の連鎖はリアルな問題だ。不十分なアベノミクスに手を打ち、成果の分配にメスを入れる必要がある」と反発した。今年7月の東京都議選で、自民党は都知事の小池百合子(※希望の党代表)が率いた『都民ファーストの会』に惨敗を喫し、都連会長だった下村は辞任に追い込まれた。希望は都議選の再来を狙い、小池が主宰する政治塾出身の宍戸を下村にぶつけた。火花を散らす両者の主張は、最後まですれ違った。民進党から立候補を予定していた前田順一郎は、小池の“排除の論理”に反発し、立憲民主党への参加を決めた。前田は「今、日本は貧しい人と富める人の格差がどんどん広がっている」と批判し、「弱者に優しい社会を」と訴えている。 《敬称略》 (森藤千恵・高田育昌)


⦿読売新聞 2017年10月13日付掲載⦿

テーマ : 政治のニュース
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【憲法のトリセツ】(16) 実は保守派が主導している“公教育離れ”

20171013 03
憲法26条が定める教育権の続きです。嘗てはリベラル勢力が唱えていた国民教育権説(※「何を教えるかは国家ではなく、国民が決める」)を、保守勢力の口からも聞くようになってきたというのが、今回のテーマです。アメリカのドナルド・トランプ大統領は、自身初の予算教書で、教育予算を100億ドル削減する方針を打ち出しました。経済成長の鈍化に悩む主要先進国は、どこも人材育成こそ重要と考えています。如何にもトランプ大統領らしい逆噴射なのでしょうか。折角なので、合衆国憲法の教育に関する規定を見てみましょう…。あれ、見当たらない。そうです、アメリカでは教育の権限は原則として連邦政府ではなく、州にあるのです。世界各地から来た移民は、自分たちが住み着いた地域に母国の制度を持ち込みました。今さら全国単一の制度を作ると、混乱を生じさせかねません。あまりにもばらばらということで、アメリカ政府に教育省ができたのは1979年でした。つい最近という感じですね。しかも、翌1980年の大統領選で当選したロナルド・レーガン氏は“小さな政府”を訴えていて、その象徴として同省の廃止を公約していました。結局、同省廃止は見送られましたが、アメリカには「教育を国家が統制すべきではない」という考えが根強くあります。

それと並行して、1950年代から始まった公民権運動を踏まえ、アメリカ政府は公立学校における人種融合を進めました。白人が多い地域の公立学校には白人の子供しかいない。黒人の多い地域は黒人の子供ばかり。そこで、バス通学を導入して、強制的に子供たちを混ぜ合わせたのです。また、アメリカには「人類は神が創造したもので、サルから進化したのではない」と信じるキリスト教原理主義者が沢山います。でも、公立学校で教えるのはチャールズ・ロバート・ダーウィンの進化論です。という訳で、保守派の白人は子供を私立の学校に転校させ始めました。現在では、子供の10%程度が私立に通っています。また、学校に行かずに自宅で学ぶ子供も3%程度います。つまり、国家が教えるリベラル思想に染まりたくない保守派が、公教育をボイコットしている訳です。戦後日本の国民教育権説と正反対ですね。でも、日本にも、「国家の教育方針を軌道修正させるよりも、自分たちが教えたいことを教えられる学校を造るほうが早い」と考える人々が出てきました。典型例が今年、安倍政権に激震を齎した『森友学園』です。学習指導要領のような縛りの無い幼稚園を先ず設立し、園児に「安倍首相、頑張れ。安保法制、国会通過よかったです」と言わさせていたのはご存知でしょう。そうした教育の場を広げたいので、今度は小学校を造りたい。だから国有地の払い下げを受けたい――。それが森友騒動の抑々の始まりでした。小学校と中学校は義務教育です。私立学校の場合でも、全く好き勝手なことを教える学校では困ります。そこで、都道府県の私学審議会が新設の是非を審査します。森友学園の審査をしていた当時の会長は、小渕恵三首相が2000年に設けた『教育改革国民会議』のメンバーだった梶田叡一氏でした。主著の1つである『日本再生と道徳教育』(モラロジー研究所)の表紙をみて頂くと、保守派の論客である渡部昇一氏や八木秀次氏らと近いことがわかります。渡部氏が先日、亡くなった際、安倍晋三首相は弔問に足を運びました。学校で子供に何を教えるべきかは教育論の問題であって、憲法のコラムで取り上げる必要はないかもしれません。でも、“どんな国を目指すのか”と“憲法の読み方は一体の問題である”ということは、記憶に留めて置いたほうがよいと思います。


大石格(おおいし・いたる) 日本経済新聞編集委員。1961年、東京都生まれ。東京大学法学部卒。国際大学国際関係学科修士課程修了後、1985年に『日本経済新聞社』入社。政治部記者・那覇支局長・政治部次長・ワシントン支局長として、様々な歴史的場面に立ち会ってきた。現在の担当は1面コラム“春秋”・2面コラム“風見鶏”・社説等。


⦿日本経済新聞電子版 2017年6月1日付掲載⦿

テーマ : 憲法改正論議
ジャンル : 政治・経済

ポピュリスト社会主義が成功しないワケ――トランプと似るコービンの発言、3つの社会主義の違いは何か?

20171013 01
労働党のジェレミー・コービン党首が齎す経済的な結果は、どんなものになるだろうか? 同氏が権力の座に就く可能性は、かなりあるように思える。我々は、その意味合いを検討し始めなければならない。コービン氏は、国民投票でブレグジット(※イギリスのEU離脱)が決まる可能性を大きく高めることで、既に悲惨な経済的影響を齎した。先月24~27日の党大会での演説で述べたように、恰も自分は何も関係しなかったかのように、ただ「我々は民主社会主義者として、国民投票の結果を受け入れ、尊重する」等と言うことはできない筈だ。国民投票に向けたキャンペーンの最中、労働党は表舞台から姿を消し、コービン氏の支持に回った大勢の若者に悲惨な結果を齎した。今でさえ、国が直面する最も重要な問題と言えるイギリスとEUの将来の関係について、コービン氏がどうあるべきだと考えているのか判断するのは不可能だ。これはリーダーシップではない。甚だしく無責任だ。保守党が見事なまでに自党をずたずたに引き裂いていることから、コービン政権の誕生はあり得る。それは意外ですらない。世間ではもう長らく、危機後の生活水準の停滞、長引く財政緊縮、高い住宅価格、相対的に大きな格差、世代間及び地域間の分断に対する失望感が高まってきた。金融危機の衝撃や危機後の生産性低迷を忘れることも絶対にできない。そう考えると、多くの人が急進的な選択肢を求めるのも無理はない。問題は、労働党が実際に別の道筋を示せるかどうかだ。これについては、懐疑的にならざるを得ない。社会主義は新しい発想ではなく、何度も試されてきたものだ。

主に3つのタイプの社会主義があった。独裁的な社会主義、ポピュリスト(大衆迎合)の社会主義、それに社会民主主義だ。独裁的な社会主義は、旧ソビエト連邦と毛沢東のそれだ。このタイプの社会主義は大惨事だった。北欧諸国やオランダの社会民主主義は、対照的に大成功だった。これらの国は地球上で最も成功した社会に数えられており、豊かで活力に満ち、安定している。最後に、中南米の大きな特徴であるポピュリスト社会主義は、経済的に上手くいったことがない。だが、少なくともソ連や毛沢東思想の共産主義のような劇的な結果を人間に齎すことはなかった(※尤も、コービン氏が盛んに称賛した故ウゴ・チャベス前大統領によるベネズエラの実験の結果は、明らかに凄惨だ)。ヨーロッパの社会民主主義は、何故これほどの成功を収めたのか? その答えは、こうしたヨーロッパ諸国が、成功する政策を形作らねばならない根本的な制約を理解していることにある。積極的な政府を信じる政党にとっては、特にそうだ。第一に、政府のあらゆるレベルで、財政の制約に関する呪術的な思想の誘惑を避けなければならない。財源は常に限られているものだ。第二に、人間の行動を形作る上で、インセンティブが果たす大きな役割を理解しなければならない。第三に、そうしたインセンティブを指南する上で、安定した機構的枠組みが持つ重要性を完全に受け入れなければならない。そして最後に、経済においては、国内外の民間部門が主役を務めなければならないことを理解する必要がある。経済は、税金の水準が極めて高くても機能し得る。先進的な社会民主主義国では、国内総生産(GDP)の50%近く、或いは50%超に上る税収が一般的だ。経済を支える為に政府が大きな役割を果たすこともできる。しかし、民間部門が主導権を握ることが不可欠だ。そして、これは政府が命令するから実現するものではない。政府が動機を与えるから、民間が主導権を発揮するのだ。では、何故ポピュリスト社会主義は失敗したのか? それは、こうした制約を尊重しない為だ。ポピュリスト社会主義は財政の規律を欠き、インセンティブに無頓着で、財産権を軽蔑し、民間部門に敵意を抱き、政府を制約する制度機構と対立している。最後の点は極めて重要だ。プリンストン大学のヤン・ヴェルナー・ミュラー教授が書いているように、左派と右派のポピュリストが1つ共有しているものは、「自分たちだけがエリートに対して庶民を代表している」という信念だ。自分たちが思うままに行動する力を制限するものは何であれ、正統性が無いと見做される。では、コービン氏はどんな社会主義者なのだろうか? 同氏は先の演説で、「次の労働党政権は、本当に国民の手に権力を委ねることで、イギリスを一変させる」と述べた。この発言は、「我々はワシントンから権力を取り戻し、国民の皆さんにお返しする」というアメリカのドナルド・トランプ大統領が就任式で語った言葉と、驚くほどよく似ている。トランプ大統領はそんなことをしていなかったし、コービン氏だってそんなことはしない。権力は、本人とその仲間たちが握る。問題は、グローバルな市場経済に取り返しがつかないほど組み込まれた国が直面する課題を対処する上で、彼らがその権力をどう使うか、だ。家賃統制と大学の授業料廃止の提案は、良い兆候ではない。これらの対策は、典型的なポピュリストのジェスチャーだ。ブレグジットを巡る混乱も不吉だ。コービン氏の労働党が夢を現実に変えるのか、それとも悪夢に変えてしまうのかを問うべき時が来た。 (Martin Wolf)


⦿フィナンシャルタイムズ 2017年10月6日付掲載⦿

テーマ : 大衆迎合政治(ポピュリズム)
ジャンル : 政治・経済

【日本人と右翼】(02) 基礎からわかる右翼の主義・主張

辞書で“右翼”を調べると、“保守的・国粋的な思想傾向。また、そういう団体”と記されている。どの団体や人も天皇崇拝・北方領土返還・日教組打倒等を大きな柱とするものの、その活動形態は1つにできない。そこで、右翼に纏わる疑問を考えてみたい。 (取材・文/本誌編集部)

20171012 10
①右翼と保守はどう違うのか?
“右翼=街宣車”をイメージする人が少なくない通り、日本における右翼のイメージは街宣車に集約されるが、右翼を広義に捉えると、戦前からの流れを汲む“正当右翼”、特攻服を身に纏った“行動右翼”や“政治結社”、三島事件の後に戦後体制を打破するべく自然派生した“新右翼”、論壇で保守思想を語る“保守論客”、愛国的思想信条を世間に喧伝し草の根活動を行う“右派団体”、そして“神社系組織”や“宗教系・民族派系組織”等に分類できる。安倍総理の誕生と共に保守言論が活発化されたこともあり、ここ数年は保守言論人が日本人に多大なる影響を与えているが、右翼も保守も「国家を護りたい」という“国粋主義的な思想の傾向”の持ち主である。両者の主義主張は非常に似ているが、右翼と保守の違いを説明するなら、右翼は“行動”で保守は“言論”にあると言える。街頭で主義主張を唱えるか否かは、両者の明確な境界線と言えよう。ただ、右翼も保守も日本の伝統文化や風習を重んじる。一部例外もあるが、殆どの右翼思想家は天皇陛下を崇拝する。日本という国家が誕生した時から国家の中心は天皇であり、それが「日本の中心は天皇である」という尊皇意識に結び付いている。

②ネトウヨは右翼と言えるのか?
インターネット上で国粋主義的・国家主義的な発言をする人たちは“ネトウヨ(ネット右翼)”と呼ばれている。あまりにも多用され過ぎて定義は定まっていないが、右翼団体や右翼活動家に対し、ネトウヨは匿名で主義主張を唱えているという違いがあり、蔑称の意が込められている。本誌でインタビューに応じてくれた『二十一世紀書院』の代表者・蜷川正大氏は、ネトウヨについて「非常に卑怯な人たちだと思いますね。自分を犠牲にすることを前提にしない発言や行動に、他人が感動をする筈がないと思っています」と語っている(※宮崎学著『右翼の言い分』・アスコム刊より抜粋)。「我々は直接行動を担保し、留保しつつ自分の発言をします」という行動原理には、物凄く納得させられる。ネトウヨの特徴の1つに人種差別的発言があるが、右翼主義者の中に、こうした発言を嘆く声は少なくない。例えば、韓国人や中国人を差別する行動・発言に対するコメントを読むと、「外国人を口汚く罵ることが愛国心ではない」「国を冒涜しているとしか思えない」との批判も聞こえてくる。白人国家が帝国を築いていた時代に、当時の大日本帝国は人種差別撤廃提案を主張した。関東大震災で「暴動を企てている」との流言飛語から襲われた朝鮮人を守ったのは『黒龍会』だった。権力者には厳しいが弱い者苛めはしない、それが日本の右翼だとも言える。外国人を自分たちより劣る存在とし、相対的に「日本人は素晴らしい」とするのは、天に唾するようなことなのかもしれない。

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テーマ : 右翼・左翼
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「報道テロリストと化した朝日新聞が“独裁者”を生み出す日」――モーリー・ロバートソン氏(フリージャーナリスト)インタビュー

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――フジテレビ系の報道番組『ユアタイム』やバラエティー番組等で幅広く活躍されているモーリー・ロバートソンさんが、本誌初登場です。『森友学園』や『加計学園』等の問題に関し、多くのコメンテーターとは一線を画した冷静な分析と発言が注目されています。本日のテーマはずばりメディア論ですが、既存メディアの姿勢を“正論”で攻めて頂きたいと思います。
「日本の現状を考える上で深刻なのは、メディアと国民と政治による“三つ巴の衆愚サイクル”に拍車がかかっていることです。先ず、テレビ局と視聴者の間に一種の相互依存というか、馴れ合いが見られます。例えば、憲法改正・原発推進・移民受け入れの是非等を論じることは最早避けられない時代を迎えていますが、何らかの不都合や痛みを強いるこうした“良薬口に苦しのテーマ”について、テレビは報じないし、視聴者も目を背けています。テレビを“お母さん”、視聴者を“子供”に例えるのは適当でないかもしれませんが、テレビがほうれん草や豆といった“良薬口に苦しのテーマ”を提供しても、カレーライスやハンバーグのように味付けが濃く、派手で難しく考える必要のない、例えば森友学園や加計学園のようなニュースにしか興味が無い視聴者は食べようとしません。『野菜も食べるまでテーブルを離れちゃいけませんよ』と注意するのが“躾”ですが、このお母さんは『どうせ食べないのだから…』とファストフードやレトルトばかりを食卓に出しています。私は、『避けて通れないテーマから逃げるべきではない』『逃げて最終的に困るのは国民だ』と正直に伝えることもメディアの役割だと思うのですが、今はファストフード的な報道に大衆が飛び付き、メディアも視聴率を稼ごうとファストフード的な報道に終始しています」

――負の連鎖ですね。
「はい。段々、視聴者が熟慮をしなくなっていきます。『原発は嫌だけど電気代は安くしろ』『アメリカ軍基地は嫌だけど日本を守れ』というような、痛みを少しも背負うことができない“モンスター予備軍”を、親であるテレビ局が育ててしまっているような気がします。更に、ここへ政治が関わってきます。今の野党は巨大与党を前に劣勢です。“強行採決”・“共謀罪”・“戦争法案”といった感情的な言葉で危機感を煽る以外の抵抗手段を持っていません。そんな彼ら野党が一縷の希望を見出したのが、テレビと国民が構築したファストフード的な関係に便乗し、与党を攻撃することでした。纏めますと、大衆の劣情にメディアが寄生している。議員数で劣勢の野党が“餌”(※扇情的なニュースのネタ)を提供することで、メディアに寄生している。そして、現代社会の大衆には、個人レベルでも簡単に情報を発信できる“ソーシャルメディア”という“玩具”が与えられていますが、そこから発信されるネタにメディアと野党が寄生しています。あるジャーナリストを自称する人物が、この玩具を使って森友学園等の問題について根拠不明な陰謀論を流しました。素人に近いその人物を、テレビ局は識者であるかのように扱い、その発言を延々と紹介しました。テレビ局が持っている扇情的なネタと親和性があるからです。そして、成長著しいIT業界としても、広告費の基準となるアクセス数を稼ぐことができますから、ソーシャルメディアも加わったこうした連鎖は大歓迎です。つまり、メディアと国民と政治が 互いに“燃料”を投下し、便乗しているんですね」

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テーマ : テレビ・マスコミ・報道の問題
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石破茂vs農水次官、“漁業改革”の暗闘――狙いは“漁業権の民間開放”、ポスト安倍潰しで官邸の策謀

20171006 12
7月17日『海の日』の午前。自民党の石破茂元幹事長は、晴海埠頭に係留された水産庁の漁業取締船『白竜丸』と『東光丸』の船上にいた。自他共に認める軍事オタクの石破氏は、海洋秩序を維持する上で、海上自衛隊や海上保安庁に肩を並べる水産庁の役割に深く感動したという。昨夏の内閣改造で閣外に去った石破氏は、政府や自民党の要職と無縁と思われてきたが、例外が1つだけある。昨年9月に自民党政務調査会の水産部会水産基本政策委員長に就任した。「政調会長を経験している石破さんにとって三段落ちのポストであり、あまりにも失礼」(水産部会関係者)と、従来の水産基本政策小委員会から“小”を削除した。自民党の水産関係の合同会議では、中央に石破氏、左右に水産総合調査会の浜田靖一会長と水産政策推進議員協議会の鈴木俊一会長を従え、次いで水産部の中西祐介会長という序列で迎えた。そうまでして自民党水産部会が石破氏を必要としたのは、水産業界、とりわけ『漁業協同組合(JF)』の基盤となっている沿岸漁業関係者の危機感が高まっているからだ。嘗ては鈴木善幸元首相や浜田幸一元衆議院予算委員長らを輩出した水産族議員だが、代替わりを経て政治力は衰退している。根本には、本誌7月号で指摘した畜産族の衰退と同様、漁業従事者の減少がある。1960年代に約60万人いた漁業就業者数は、16万人(※2016年)に減少している。水産族議員は質・量の両面で劣化が進んでいる。

昨秋から今春にかけては、政府が5年に1度の中期計画である『水産基本計画』を策定する時期だった。JF等漁業団体としては、この計画に漁業権の民間開放等官邸主導の規制改革が盛り込まれてはかなわない。何としても、漁業団体の声を代表する“重鎮”が必要だったのだ。一方、前回(※2012年9月)の自民党総裁選の1回目投票で、地方票を集めて安倍晋三氏を圧倒した石破氏にとって、農村・漁村は“生命線”だ。こうした地方では、『環太平洋経済連携協定(TPP)』等貿易の自由化や規制緩和を推進する安倍政権に対して、根深い反発がある。石破氏は地方創生担当大臣だった経験も生かし、今年4月に『日本列島創生論』(新潮新書)を出版。「東京一極集中を是正し、地方に雇用と所得を取り戻す」「地方から革命を起こさずして、日本が変わることはない」等と訴え、“都市/地方”を政権との対立軸に置いている。石破氏を“重鎮”として迎え入れた御利益があったかどうかは別として、4月に纏められた水産基本計画自体は、露骨な規制改革の表現は無く、水産業界にとって無難な線で纏められた。しかし、その後もJFの危機感は収まらない。農業改革を推進した安倍政権が、漁業を次のターゲットとしているからだ。そして、その背後には、“あの”農林水産省・奥原正明事務次官の存在が見え隠れする。7月4日に農水省が発表した幹部人事は、省内で“インパール並み”と密かに語られるほどの衝撃だった。奥原次官の後継候補だった水産庁の佐藤一雄長官、林野庁の今井敏長官、そして農水省消費・安全局の今城健晴局長(※いずれも法律経済キャリア)が揃って退任。第2次世界大戦のインパール作戦で、司令官の指示に従わない3師団長が一気に解任されたのと同様の異例さとして受け止められた。しかも、後任にはそれぞれ、水産庁の長谷成人次長、林野庁の沖修司次長、池田一樹大臣官房付(※獣医)が起用された。いずれも技官であり、特に水産庁の場合、技官が長官に上り詰めたのは、1956年に就任した岡井正男氏以来2人目。現行の国家公務員上級職(※総合職)制が整えられてからは初めてだ。「既に定年を超えている奥原次官がレームダック(死に体)になるのを避けるため、後継候補を全滅させ、長期政権に意欲を示した」(農水次官OB)という見方もあるが、奥原氏がその程度のことで満足する筈がない。本省の事務次官の立場では、独立性の強い外局の行政に手を出し難く、“農業の次は漁業”という官邸の意向に沿う為、奥原次官が水産庁を直轄するのが狙いとみるべきだろう。長谷長官は、北海道大学水産学部卒業後の1981年4月に農水省入省後、水産庁で主に漁業調整の分野を歴任した漁業権のスペシャリストだ。漁協側が「浜が分断される」と警戒してきた漁業権の民間開放は、“奥原事務次官=長谷長官”のラインで練り上げられていくだろう。

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【憲法のトリセツ】(15) 教育権は国にあるのか、国民にあるのか

20171006 04
前回は、日本国憲法(※現憲法)の施行70年に合わせて、安倍政権の改憲への思惑を解説しました。社会権に話を戻します。25条の生存権に加え、現憲法にはもう1つ、社会権に関する条文があります。26条の教育権です。教育は受けなくても直ちに死ぬ訳ではありません。でも、人間が単なる動物ではない理由を考えると、25条が言及する“文化”はその代表例です。そう考えると、“教育”も社会権の重要な一部です。2014年のノーベル平和賞に、パキスタンのマララ・ユスフザイさんが選ばれました。17歳での受賞は史上最年少でした。女子が教育を受ける権利を命がけで主張したことが評価されました。このことからもわかるように、教育権の存在を否定する人は世界中に先ずいません。でも、その中身を巡り、様々な論争がなされてきました。算数の九九は誰が教えてもほぼ同じかもしれませんが、政治体制の在り方となると、どうしてもイデオロギーが絡みます。戦前の軍国教育への反省から、現憲法下では何を教えるかを国が定めることに強い反発がありました。この動きを主導したのは、現憲法を踏まえた教育基本法を制定した吉田茂内閣の文部大臣で、後に最高裁長官も務めた田中耕太郎氏(1890~1974)です。1952年に発表した論文『教育権の自然法的考察』で、「教育権とは広義に解すれば、教育を受ける権利と教育をなす権利または権能を含む」と説きました。

26条は、単に子供たちが学校に行く権利があるというだけでなく、どんな教育をするのかを決める権利が主権者にはあると定めているという訳です。以来、憲法学では、教育を主導する権利はどこにあるのかで、①国家に教育権がある②国民に教育権がある――の2説が争ってきました。国家教育権説を強く訴えたのは文部省(※現在の文部科学省)であり、その後ろには自民党がついていました。国民教育権説は教育の現場にいる教師たちに支持され、それを日教組、さらに社会党が後押ししました。この両勢力が激突したのが、1961年に起きた旭川学力テスト事件です。そこに至るまでの文部省が教育への関与を強めていく過程は、左上の年表を見て下さい。日教組は「全国統一の学力テストの実施は、文科省が教育現場を統制する一歩だ」と位置付け、絶対阻止の構えでした。北海道旭川市の永山中学校では、日教組のメンバーがテスト実施を妨害し、建造物侵入・公務執行妨害・暴行の罪で起訴されました。1審・2審とも建造物侵入は有罪としつつも、「学力テストは教育基本法の基本理念に反して違法であり、しかも違法が甚だ重大である」と判断し、公務執行妨害と暴行は無罪としました。しかし、最高裁は1976年、「国は教育内容について必要、且つ相当と認められる範囲において、決定する権能を有する」として、2審判決を破棄し、被告人を全ての罪状で有罪とし、懲役刑に処しました。最高裁は、東京教育大学の家永三郎名誉教授が執筆した歴史教科書が偏向しているとして、文部省の検定を通らなかったことに伴う一連の訴訟でも、国の関与を合憲としました。今回、旭川事件の最高裁判決をよく読み直したのですが、「憲法26条からは教育の内容および方法を誰が決定するかという問題に一定の結論は出てこない」と書いてありました。同時に、「教育基本法は他の法律に優先する」との立場も示しました。最高裁は、国民教育権説そのものは必ずしも否定しなかった訳です。あくまでも、「学力の全国的な統一党の観点から国の一定の関与を認めただけだった」ということは、留意しておいたほうがよいと思います。ここまで読んで、“国民教育権説=左翼”と思い込んだ向きが多いと思います。実は近年、保守派の中から国民教育権説を強力に後押しする動きが出てきています。次回はその話を取り上げます。


大石格(おおいし・いたる) 日本経済新聞編集委員。1961年、東京都生まれ。東京大学法学部卒。国際大学国際関係学科修士課程修了後、1985年に『日本経済新聞社』入社。政治部記者・那覇支局長・政治部次長・ワシントン支局長として、様々な歴史的場面に立ち会ってきた。現在の担当は1面コラム“春秋”・2面コラム“風見鶏”・社説等。


⦿日本経済新聞電子版 2017年5月17日付掲載⦿

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【日本人と右翼】(01) 国家権力により制限されてきた右翼活動の今

明治維新を号令とするように、飛躍的に近代化した日本の右翼団体。その歩みや形態は、歴史という激流の中で常に翻弄されてきた。特に近年、暴力団排除条例の施行により、その活動には以前とは比べ物にならぬほど制限がかかっている。右翼団体関係者に、“右翼の今”を語ってもらった。 (取材・文/本誌編集部)

20171005 10
第2次世界大戦後、日本は占領下に置かれ、軍国主義の復活を恐れる『連合国軍最高司合官総司令部(GHQ)』の指示により、右翼団体は軒並み衰退。だが、昭和26年の『サンフランシスコ講和条約』に日本が調印し、占領時代が終わりを告げると、右翼団体が相次いで設立されるようになった。「特に、1960年頃から激化した日米安全保障条約反対運動に対抗するように、右翼団体の運動は活発化しました。大型スピーカーを使い、大音量で軍歌を流しながら街宣車を走らせるといった“街宣右翼”が登場したのが、この時代です。その後、昭和38年からヤクザ組織に対する“第1次頂上作戦”を警察庁が展開します。これにより、解散に追い込まれたヤクザ組織が政治団体に鞍替えして活動するようになりました。そこで、“任侠右翼”が急増したんです」(右翼運動の歴史に詳しい専門家)。また、1960年代から1970年代にかけ、左翼勢力が更に増大すると、既存の右翼勢力が極端に“反共路線”へと舵を切った。しかし、この流れとは別に、自民党を中心とした戦後体制への批判を強める集団が現れた。それが“新右翼”である。昭和45年の『三島事件』も、新右翼に傾倒する若い世代が増えた大きな一因とされている。現在は、戦前からの歴史を持つ伝統ある団体を始め、街宣右翼・任狭右翼・新右翼が混在している状態だ。これら右翼的・保守的思想を標榜する団体は、日本国内に合わせて500~1000ほど存在すると言われる。

団体の実数が定まらない背景には、右翼特有の理由があるという。東京都内で運動する右翼団体関係者は、次のように語る。「右翼団体は自民党や日本共産党と一緒で、政治運動を目的に結成されているから、総務大臣に届けを出している。だから、一応の管轄は総務省だが、知っての通り、取り締まるのは主に警察の担当だ。其々、団体に関する詳細な資料は持っているだろうが、お役所だから縦割りで、付け合わせるような真似はしない。それに、新しい情報を何よりありがたがる体質なんで、新団体の追加には矢鱈と詳しいが、とっくに活動していない古い団体は放ったらかしだよ」。他にも、団体数が判明し難い要因としては、右翼団体の細分化が急速に進んでいることが挙げられる。届け出ている名称が“○○会”や“××塾”でも、実は構成員が1人という団体が非常に多いという。その傾向は、大都市から地方に向かうほど顕著となるようだ。「国内最大規模を誇る大行社だったら、人員が多いから単独の運動でも見栄えがするし、達成感も味わえるだろう。だが、日本青年社や日本皇民党等の有名な団体でも、単独での運動はあまりしていないようだ。だから、数人とか1人の団体なんて、いくら大声を出して頑張ったところで、市民には中々注目してもらえない。そこで、全愛會議(全日本愛國者團體會議)や青年思想研究会(青思会)といった“協議体”と呼ばれる連絡機関に加盟して、合同で運動している。演説だって、1人で延々と話しているより、色んな人が登壇するほうが内容もバラエティー豊かになるのは当然だ」(東海地方で運動する右翼団体代表)。団体の細分化が進むと同時に、団体の構成員数も減少の一途を辿っており、何よりも取り締まりが嘗てない苛烈さだという。平成23年10月、『暴力団排除条例(暴排条例)』が全国47都道府県で施行されるようになると、取り締まりの勢いが加速したと言われる。それまでも、右翼団体には警察の公安部門による監視の目が光っていたが、暴排条例の施行以降は、暴力団対策部門からも厳しいマークを受けるようになったのだ。「右翼団体とヤクザ組織の区別が付かない一般の人は多い。任侠右翼との言葉もあるように、ヤクザ組織を率いながら右翼団体を持っている親分さんは何人もいる。実際のところ、右翼の半分近くはヤクザ組織と関係があるんじゃないかな。勘違いされても仕方がない面もあるけど、正直辛いよ。これまでは、ウチらと親しく付き合ってくれていた一般人の中にも、離れていった人は少なくない。暴排条例は、運動しているヤクザを取り締まるだけでなく、付き合う市民にもペナルティーが科せられる。そこが暴排条例の怖さだ」(中京地区で運動している右翼団体関係者)。暴排条例では、ヤクザとゴルフや会食等の親しい付き合いを繰り返した一般市民を“密接交際者”と認定。密接交際者となれば、「金融機関から融資を受けられない」「賃貸物件が契約できない」等の制約があるという。関西地方で運動する右翼団体関係者は、溜め息混じりに次のように話してくれた。「嘗て運動を支援してくれた方とは、暫く会っていません。若しかしたらご迷惑をお掛けするかもしれないので、こちらからは連絡できないですよ。資金が集まらなくて運動の回数が減りました。他団体でも人は減っている筈です。抗議行動等の度に参加者が減っているのを実感しますし、この先、ウチも団体を維持できるのか不安です」。

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