【ビジネスとしての自衛隊】(02) 背広組と制服組の対立…防衛省“不信の構造”

20170525 07
「昨晩の報道に関して、辰己(昌良)総括官とお話をされましたか?」――。今年3月11日の衆議院外務委員会で、民進党の寺田学議員(※左画像)は繰り返し“辰己総括官”の名前を挙げて、防衛省の稲田朋美大臣に質した。“昨晩の報道”というのは、『NHK』が報道した南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣されていた陸上自衛隊の“日報”の隠蔽疑惑だ。防衛省がこれまで「破棄して存在しない」と説明してきた日報が、陸自内部に保管されていたことがわかったものの、統合幕僚監部の背広組である防衛官僚の指示により、改めて廃棄されたというのだ。名指しされた辰己氏は、内部部局(※内局=背広組)の課長や報道官を歴任し、現在は統幕総括官として、国会の委員会で稲田大臣に想定問答を示したり、自ら答弁に立ったりしている。疑惑報道に出てきた“統幕の背広組”にピタリ当て嵌まる。辰己氏は、寺田議員からの「大臣に何を話したか?」との質問に臆することなく、「日々説明しているし、昨晩も話した。何を話したかは差し控えさせて頂きたい」と答えた。テレビ中継を見た防衛省幹部は、「辰己氏が“犯人扱い”されながら堂々としているのは、内局のトップクラスと相談しているからではないか?」と言う。事務次官や官房長と連携しているのは、省内で公然の秘密とされている。事実とすれば、長年、防衛省が取り組んできた防衛省改革に“失敗”の2文字が浮かぶのだ。何故か? 辰己氏は、陸・海・空の自衛隊を一元的に運用する統幕の幹部である。制服組だけで組織されていた統幕は、防衛省改革によって、制服組(※ユニホーム=U)と背広組(※シビリアン=C)が入り交じる“UC混合”の組織となった。内局にあった運用企画局は廃止され、背広組の総括官(※統幕副長級)・参事官(※部課長級)が新設された。参事官の下には、国外運用班・国内通用班・災害派遣・国民保護班の背広組約40人がいる。

だが、背広組が担うのは、国会答弁・対外説明・他省庁との連絡調整といった橋渡し役に過ぎず、内局でやっていた仕事と何ら変わりない。総幕の中核である運用部・防衛計画部・指揮通信システム部等、運用に関わる部長ポストは全て制服組の将官が占め、実務も制服組が仕切る。前出の幹部は、「結局、統幕の中にもう1つの内局ができただけ。辰己氏は統幕長の部下なのに、河野克俊統幕長は陸自で日報が見つかった事実を知らなかった。情報を上げなかったからです。その一方で、内局には報告を上げていた」と話し、指揮命令系統の混乱を指摘する。「長い時間をかけて実現させたUC混合は形だけだ」というのだ。より大きな問題は、政治家が自衛隊を統制するシビリアンコントロールの強化という防衛省改革の目玉が、掛け声倒れに終わったことだろう。防衛省は昨年10月、外部から日報の情報開示請求を受けた際、廃棄を理由に不開示を決定した。その後、統幕で見つかったものの、稲田大臣への報告は1ヵ月も遅れた。それだけでも問題なのに、統幕関与が疑われる陸自への破棄指示については、報告さえ無かった。稲田大臣は、日報問題の全容を明らかにする為、特別監察の実施を命じた。真相が解明されれば、自身が無視されたことが満天下に知られ、シビリアンコントロールの欠如が明らかになる。その一方で稲田大臣の統率力不足もバレるが、それでも構わないというのだ。防衛省の内実はどうなっているのだろうか? 日本の官僚が、政治家や国民を無視して省益を追求するのは、昔からの特徴であり、悪弊である。国民から見れば理不尽だが、優秀な人材なくして官僚制度は維持できない。防衛省が他省庁と異なるのは、防衛庁だった当時から深刻な“人”の問題を抱えている点にある。先の大戦後に発足し、しかも後発だった防衛庁は、人材不足から、大蔵省(※現在の財務省)・自治省(※同総務省)・警察庁から防衛庁の事務次官候補が送り込まれる“植民地支配”が常態化した。過去の事務次官31人の内、防衛庁出身者は9人に過ぎない。省に昇格した2007年以降の7人の内、防衛省出身が6人を占めるが、財務省出身も1人いる。過去、“名次官”と呼ばれたのは他省庁出身者ばかりだ。防衛庁出身で有名なのは、収賄罪等で有罪判決を受け、服役した守屋武昌氏だろう。大蔵省出身の事務次官に贔屓され、後任に指名されたが、権力を掌握するにつれて道を踏み外していった。守屋氏らプロパーのキャリア(上級職)採用が数人と極端に少ない防衛庁当時の世代は、「我こそは事務次官になれる」と思い込んだのか、同期のいがみ合いが絶えなかった。前出の幹部は、「他省庁では同期が次官候補を応援し、出世頭にして、その期の牽引役にする。防衛庁は仲間割ればかり。明らかに仕事の効率が悪かった」と言う。そんな状態で国防を支えることができたのか疑問だが、防衛省プロパーの別の幹部はこう解説する。「日本が戦争をしないから、問題が表面化しなかった。旧日本軍のように敗戦を重ねれば、戦略や部隊運用の間違いを歴史が証明する。我々の舵取りが正しいのか、誰にもわからないのです」。

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【解を探しに】第2部・引き算の世界(01) 出世イヤ、若者増殖中

経済や社会が成熟し、これまでの成長・拡大志向とは違う価値観が広がってきた。出世に拘らない、極力ものを持たない、人間関係は面倒臭いだけ――。“引き算”に向かう社会の光と影を見つめた。

20170525 03
「もうイヤになっちゃって」――。東京都内に住む高橋有人さん(仮名・31)は3年前、4年間勤めたIT関連会社を辞めた。理由は幾つかある。その1つが、上司のこんなセリフだ。「お前は同期の誰がライバルなんだ?」。連日深夜まで続く残業、土日出勤の無言のプレッシャー、そして同期を業績で競わせる社風。そのどれもが合わないと感じた。高橋さんの理想は、仕事3割・私生活7割のバランスだという。仕事は真面目に熟す。定時に退社し、アフター5で映画を見る。そんな生活を目指して転職した。給与は多少減ったが、「重い責任やノルマを背負わされ、部下の世話でストレスを溜めるくらいなら、出世なんてしたくない」と言い切る。昔から高橋さんのような社員はいた。しかし最近、「彼方此方で増えているのではないか?」と多くの職場で聞かれるようになってきた。

それを裏付けるデータもある。産業能率大学の調査では、男性新入社員が目標とする地位は、バブル期の1990年度は“社長”が46.7%だったが、2015年度は14.2%しかない。「地位には関心がない」は逆に20.0%から30.8%に増加した。「皆さんは管理職になりたいですか?」。昨夏、都内で行われた流通商社の30歳向け研修。人事担当者が席を外した際、人材研修会社の社員が尋ねた。手を挙げたのは23人中4人。「ノルマがきついのに権限が無い」「上司と部下の板挟みになった先輩が鬱病になった」。消極的な意見が会場を覆った。研修を担当した人材研修会社『シェイク』の吉田実社長は、「真面目だが、仕事に注ぐ力は70%。仕事にやり甲斐を見い出せず、責任を取りたがらない“ぶら下がり社員”が増えれば、日本は危うい」と警告する。「3人連続で断られました。どうすればいいでしょうか?」。昨年末、社会保険労務士・福田秀樹さん(43)の元を訪れた関西の小売企業の人事部長の顔は、青褪めていた。店長昇格を打診したところ、立て続けに拒否された。給与は上がるが転勤を伴う。「未知の土地に移り住み、部下を抱えて働きたくはない」のが、昇進を敬遠する理由だという。「『上司にゴマをすり、出世競争に勝ち抜けば明るい未来が待っている』という時代は、バブル崩壊と共に終わった」とみるのは、武蔵大学の田中俊之助教(社会学)。日本経済の先行きも不透明で、「社会的地位の向上・昇給・裁量の拡大といった昇進の魅力が薄れ、負のイメージが目立つようになった」という。


⦿日本経済新聞 2016年4月12日付掲載⦿

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【ナゾノミクス】(05) GDP、“ほどほど成長”は悪い?

20170524 01
先月23日、高級商業施設『GINZA SIX』が開業して最初の週末を迎えた。『ジミーチュウ』や『マノロブラニク』等、有名ブランドの前はどこも行列だ。しかし、訪れた27歳の女性は、「買い物はしない。私にはいつもの百貨店にあるもので十分」と語った。「1番が節約、2番が貯蓄。海外旅行やテレビ、車を買うとは誰も言わない」――。『日本経済団体連合会』の榊原定征会長は、最近の若者について嘆く。ただ、“ほどほど”が悪い訳ではない。嘗て、日本が大きく成長した時代は、公害等の問題が起きた歴史もある。それでも政府は、毎年のように“成長戦略”を纏める。2016年の戦略では、「戦後最大となる名目国内総生産(GDP)600兆円の実現を目指す」と宣言した。2016年の名目GDPは537兆円。目標の2020年まで毎年3%ずつ成長する計算だ。政府が高い目標を掲げるのは、「低成長では満足いく暮らしができない人が出る」と考える為だ。例えば、1989年まで20%以下だった非正規雇用の割合は、2016年には37.5%に上昇。景気の先行きに不安を覚えた企業が、正社員の採用を控えた。

一般に、非正規は正社員より給料が少ない。給料が増えないと、財布の紐が固くなる。家計が消費に使った金額は、1994年に前年より減り、足元もマイナス傾向だ。消費の停滞は、企業の業績悪化にも繋がる。1960年代の高度経済成長期は、消費・生産者が増える“人口ボーナス”が成長の原動力だった。ところが、2008年に人口減少が始まり、今は少子高齢化が経済の足を引っ張る“人口オーナス(重荷)”。1人ひとりが現状維持では、国全体で縮んでしまう。企業にとって“魅力ある国”かどうかも大切だ。アジアでは年7%近く成長している中国だけでなく、東南アジアの各国も年5%程度成長している。これから新たな投資をする企業の視線は、成長が期待できる国に向く。投資が集まらなければ働く場が生まれず、“ほどほど”を保つことすら難しくなる。これからの日本は、どうすれば成長できるのか? 『SMBC日興証券』シニアエコノミストの宮前耕也氏は、「歴史を紐解くと、新産業が生まれた時代に経済は大きく上向いた。成熟した日本でも技術革新を進め、海外で売れるコンテンツを育てられれば、未だ成長できる」と話す。国内だけを見ると成長は難しく、「それほど成長しなくてもいい」と思えるかもしれない。一方で、企業や研究者の戦う舞台は海外に広がっている。背伸びこそ社会の活力。日本経済も成長を軸に見れば、ナゾを解く方法が見えてくる。 (石橋茉莉) =おわり


⦿日本経済新聞 2017年5月6日付掲載⦿

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【新聞ビジネス大崩壊】(09) 早期退職と閉塞感…記者が新聞社を去る理由

長らく花形職種であった新聞記者だが、近年、その状況も一変している。ベテランは肩叩きで、中堅は見切りをつけ、多くの記者が他業界に転職している。記者たちの“第2の人生”を追った。 (取材・文/フリージャーナリスト・元新聞記者 安藤海南男)

20170523 14
嘗て、行政・立法・司法に次ぐ“第4の権力”とも形容されたマスコミ。その筆頭格として君臨してきた新聞業界が、岐路に立たされている。業界内での人材の流動化に拍車がかかり、業態に見切りをつけて人生の再出発を図る記者が続出しているのだ。大メディアの“傘”から抜け出した彼らは何を思い、何を目指すのか? 其々の人生模様を追った。「この年齢では再就職もままならない。かといって、会社に残っても今後のキャリアは望むべくもない…。迷った末に、第2の人生を歩むことにしました」。こう語るのは、首都圏近郊に住むA氏(52)だ。A氏は50代を目前にした3年前、20年以上籍を置いた某大手新聞社を辞めた。現役時代は地方支局で行政・警察取材を経験。東京本社に転じてからは、主に社会部の遊軍記者として活躍した。退職後は、これまでの経験を生かして、民間企業や政治家を対象とした広報戦略のアドバイザーとして活躍している。「私の場合は、経歴がちょっと特殊だったんです。というのも、元々記者職で新聞社に入った訳ではなく、営業局で10年以上働いた後に編集に移った。だから、広報のイロハもわかっていたし、人前でプレゼンする能力もありました。記者時代に培った人脈を頼って、何とかやっていますよ」。大組織から抜け出して、裸一貫での再出発の道を選んだA氏。安定したサラリーマン生活を捨てて、フリーランスとして生きていく決断を下したきっかけは何だったのか? 「正直、迷いはありました。ただ、50代手前の年を食った記者が今後、社内で厳しい立場に立たされるのも目に見えていた。特に、私のような生え抜きではない記者は尚更です。丁度、社内で早期退職者を募集していた時期で、『退職金が割増し支給される』と聞いて、『それなら』と…」。新聞業界全体に沈滞ムードが漂う中、A氏が所属する新聞社も、ご多分に漏れず深刻な財政難に陥っていた。とりわけ中高年社員の人件費高騰も重大な懸案事項になっていたといい、幹部候補から外れたべテランには容赦のない“肩叩き”が行われていたという。

「新聞記者の出世コースというのは大体、パターンが決まっている。有望株は、社会部なら警視庁担当や司法担当、政治部なら与党担当に配属されるのが相場です。そこで成果を出せば、キャップ→デスク→部長と上がっていく訳です。専門分野を持っていて現場に拘りがある人や、途中でラインを外れた人には、編集委員や論説委員のポストが用意される。ただ、望み通りの役職を得られるのは極々一部です。意に沿わない仕事をやらされて腐っていく人も少なくありませんよ」(同)。地方の支局を盥回しにされたり、子会社や関連会社への出向を命じられたり、何らかの原因でミソが付いた記者に与えられる選択肢は僅かだ。A氏が所属していた新聞社には、ラインから外れた記者が集まる吹きだまりのような部署もあったという。「うちの会社では、使えないベテラン社員は、読者からの苦情を受け付ける専門部署や、記事や写真の管理部門に回されるのが常道でした。数年前には、編集局とは別に、記事広告を扱う専門部署が新設され、そこもダメ記者の受け皿になっていました。追い出し部屋とまでは言いませんが、人事面での冷遇で追い詰めて、暗に退職を迫る会社の悪質な意図を感じました」。中高年社員の人件費高騰は、A氏が所属していた新聞社固有の問題ではない。最近では、業界2位の発行部数を誇る『朝日新聞社』が、2016年1月から2度目の早期退職制度の募集を開始し、大きな話題を呼んだ。「2010年、『45歳以上を対象に、年収の50%、最大10年分を毎年支払い続ける』という破格の条件で早期退職者を募集しましたが、今回は40歳以上を対象に、『退職金とは別に、年収の40%を最大10年分、一括支給する』というものです。早期退職者の間口を広げたのは、経営を圧迫する人件費の圧縮に本気で取り組み始めた証左と言えるでしょう」(朝日新聞OB)。ベテラン社員がこれまで積み上げてきたキャリアの見直しを迫られる一方で、現場の第一線で活躍する若手記者が会社に見切りをつけるケースも目立つ。入社10年目の節目に、ある大手新聞社を退職したB子さん(34)は、こう語る。「仕事も好きで、同僚たちとも仲良くやっていたんですが…」。東京都内の有名大学を卒業後、新聞社に入社。6年間の地方支局勤務を経て、30代になる直前に東京本社に上がった。上司との関係も良好で、社内での評価も高かった。一見、順調な記者生活を送っていたが、その心の奥では会社への不信感を募らせていた。「東京に上がってきてから、民間企業担当から突然、省庁担当に変えられる等、1年毎に担当をコロコロ変えられました。僅か半年で交代させられた時もあります」。担当替えを繰り返す度に、築いた人脈がその都度リセットされるのも悩みの種だったという。「『自分に問題があるのか?』と悩んで上司に相談しても、『お前には期待している』と言うばかり。そのうち、『結局、いいように使われているだけじゃないのか?』という思いが強くなってきましたね」。仕事を介して知り合ったNPO代表から誘われたのを機に、転職を決意。現在は地方都市の振興支援の仕事に携わっている。「年収は記者時代に比べて半減しましたが、プレッシャーも無いし、纏まった休みもある。精神的には楽ですね」。

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自動運転が変える産業秩序、自動車業界の新支配者は――まるで人間のようなクルマ、『インテル』は『BMW』と組んで逆襲

20170523 11
“TOYOTA”──。巨大なスクリーンに赤い文字が躍った瞬間、満員の会場は万雷の拍手と歓声で溢れた。今月10日、カリフォルニア州サンノゼで開かれた会見で、アメリカの半導体大手『エヌビディア』は、『トヨタ自動車』とAI(人工知能)を使った自動運転車の開発で協業することを発表した。エヌビディアが開発中のAI用半導体を、トヨタが実際に製品化する自動運転車に搭載。両社は、自動運転の実現に向けたソフトウエアも共同開発する。トレードマークの黒い革ジャケットを身に纏って壇上に立ったジェンスン・フアンCEOは、こう語った。「自動車業界のレジェンドとの協業は、自動運転の未来が直ぐそこまで来ていることを強く示している」。トヨタよ、お前もか。多くの自動車やITの業界関係者は、きっとこう思ったことだろう。ドイツ勢では『フォルクスワーゲン』・『アウディ』・『ダイムラー』と既に提携。アメリカ勢では『フォードモーター』に加えて、EV(電気自動車)の『テスラ』とも協業する。その列にトヨタも加わることになったからだ。AIは自動車の“頭脳”になる。但し、AIもコンピューターの中で動くプログラムの一種。スムーズに頭脳を回転させるには、高性能な半導体が必要だ。1993年にゲーム用の半導体メーカーとして誕生したエヌビディア。長らくニッチ企業の性格が強かったが、そこで培った高度な画像処理技術を生かして、AI用半導体で台頭しつつある。今年1月期の売上高は69億1000万ドル(約7900億円)。AI関連事業の急拡大によって、前期比で2200億円も増加した。今期に入って更に成長ペースが加速。瞬く間にAI時代の寵児になろうとしている。

世界で攻防を繰り広げる自動車メーカー。AIは、競争の前提をがらりと変える可能性がある。従来の産業序列は関係ない。エヌビディアの躍進は、その象徴である。先ず、AIの位置付けとメリットを整理しよう。何故、AIが今、注目されるのか? 端的に言えば、愈々本格的な実用段階に入ったからだ。AIを人間の脳のように“自ら判断する機械”だと捉えれば、イメージが掴み易い。右下図のように、情報をインプットし、人間の脳のように考え、答えをアウトプットする。これがどの産業でも当て嵌まる“AIの使い方”だ。AIの特徴は“学習する”点にある。人間の脳を模した計算手法『ディープラーニング』で、人間が教え込まなくても自ら進化することが可能になった。これまでのコンピューターと違い、学習した内容と全く同じ問題でなくとも、AIは類推して答えを導き出す訳だ。但し、AIが一人前になる為には、膨大な学習用のデータを読み込ませる必要がある。AIブームは1960年代と1980年代に2度訪れているが、当時はコンピューターの計算能力が足りず、結局“ブーム”のまま終わった。2010年代に入って第3次ブームが始まり、愈々本格普及に向けて動き出しているのは何故か? コンピューターの進化により、計算能力が飛躍的に高まり、AIの学習にかかる時間を大幅に短縮できるようになったからだ。自動運転は、まさにAIの出番と言える。センサーやカメラが捉えた人や障害物等の情報をインプットすれば、どのルートをどの程度の速度で走ると安全に通行できるかをAIが判断し、車を操ってくれる訳だ。AIの進化で自動運転の実現が見えたからこそ、世界中の自動車メーカーが一斉に動き出した。現在、実用化されている自動運転は、“レベル2”と呼ばれる運転補助機能。それを更に進め、ある条件下では運転を完全に車に任せる“レベル3”を実現するには、「AIが絶対に必要になる」(ドイツメーカーの自動運転担当者)。『日産自動車』で自動運転技術を担当する同社総合研究所の土井三浩所長も、「どの会社も(AIを使って)車の知能化を進めていくのは間違いない。何故なら、世界は複雑過ぎるからだ」と話す。トヨタは昨年1月、カリフォルニア州にAIの研究・開発拠点である『トヨタリサーチインスティテュート(TRI)』を設立。今年1月には、TRIが関わったAIコンセプトカーを発表した。『YUI』と名付けたAIが運転者のパートナーとなり、自動運転をするだけでなく、運転者の気持ちを理解し、好みに合わせた話題や関心の高いニュース等を提案するアイデアを盛り込んだ。TRIのギル・プラットCEOは本誌等の取材に対し、「AIによって、車の新しい付加価値をメーカーが提供できるようになる」と話した。『ホンダ』はAI技術で『ソフトバンクグループ』と提携し、トヨタと同様に、車が人格を持ったようなコンセプトカーを発表。日産も、AIを使った自動運転の技術開発を加速している。こうした“AIカー”の開発でも、エヌビディアは他社の一歩先を行く。

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【貧困女子のリアル】(16) 「大マスコミの劣化は国民に不利益を与えている」――中村淳彦氏(ノンフィクションライター)インタビュー

20170523 08
今、日本の貧困は、相当ヤバいレベルに達しようとしている。にも拘わらず、大半の人はその深刻な事態に気付かず、まるで他人事のようにのほほんとしている。それ以上にヤバいのは、自分たちがいつ貧困状態に陥るかもしれないのに、貧困問題など怠け者の戯言ぐらいにしか考えていないことであろう。そんな危機感の無い人間を作り出しているのが、テレビや全国紙といった大手マスコミである。マス(大衆)を扱うメディア自体が日本の“貧困”を全く理解せず、見当違いな報道を繰り返し、国民の多くを勘違いさせているのだ。どれほど大手マスコミが“役立たず”、いや“害悪”になっているのか。それを象徴する出来事が、2016年の夏に大炎上した貧困女子高生報道だろう。同年8月18日、『NHKニュース7』(NHK総合テレビ)で報じられた“子どもの貧困特集”で、同番組は「お金が無くてパソコンを買えず、キーボードだけ買って練習している」という女子高生を、貧しさを強調して取り上げた。ところが、放送直後から、彼女はアルバイトもしていて、好きなアニメグッズ等を買っていたことが判明。「どこが貧困なのか」と大炎上した。NHKのスタッフは彼女の自室で取材していた。彼女の家庭が“食うに困る”極貧ではないことくらい、アホでもわかる。抑々、彼女が“貧困”として主張していたのは、「好きなアニメの仕事に就きたいけど、専門学校に通う学費が捻出できない」ことだった。現状、希望する職業に就くには、専門的且つ高度な教育を受けなければ、スタート地点にすら立てない。“夢や希望”はカネで買う状況になっていること、「カネが無い貧乏人は“夢”を見ないで黙って低賃金で働け」という実情に、彼女は「何とかならないか?」と訴えていた。

別に“貧乏あるある”など喋る気は無かっただろうし、意味も無い。寧ろ、普通に生活できる家庭の子供でも、ちょっとした夢すら望めなくなっている現状を、“今の新しいタイプの貧困”として彼女は伝えようとしていた。そんな彼女の真摯な訴えを、NHKのプロデューサーは全く理解できなかった。“貧困=貧乏臭いネタ”と安直に考え、彼女に強要でもしたのだろう。一介の女子高生が、お偉いNHKの記者様と取材クルーを前に反論できる訳もなく、結果として嘘を吐いた。こうして彼女はインターネット上で大炎上し、夏休み後も学校に戻ることもできず、このままでは退学するところまで追い詰められている。彼女をNHKに紹介したNGO団体『かながわ子ども貧困対策会議』も怒り心頭で、今後、取材に協力することはあるまい。何より、この騒動で多くの人は、「やっぱり貧困ネタは嘘ばかり」「話を大袈裟に盛っているだけ」と考えてしまう。却って貧困問題の深刻さを遠ざけてしまったのだ。取材に協力してテレビの前で嘘まで強要された女子高生は退学寸前なのに、NHKの記者はお咎め無し。広報を通じて、「取材には自信がある」と切り捨てている。皆さまの受信料で成り立つ公共報道にあるまじき“犯罪行為”と言いたくなる。私が貧困をテーマにするようになったのは、別段、高尚な志があってのことではない。私のフィールドワークは、エロ本業界にいた関係でAVや風俗の関係者だ。加えて一時期、ライターを辞めて介護施設を運営していたので、介護関係やその周辺に溢れるブラック企業である。こうした業種には社会的弱者が集まり易い。社会の歪みは弱いところから生まれる。現場で普通に取材すれば、豊かな筈の日本とは思えないような“貧困”の実態を目の当たりにする。故に自然と、「それが何故起こっているのか?」「どうしてこんな状況になっているのか?」と取材している。とりわけ深刻なのが風俗産業である。“好景気型”から“貧困型”に変わってきたのだ。バブル時代にだってホームレスが沢山いたように、貧しさを理由にホームレスや風俗嬢になる訳でもない。景気の良い時には、ルックスや性格に問題のある子、メンヘルみたいな子が風俗に多くなる。2000年代までは確かにそうだった。ところが、現在は違う。明らかに生活費欲しさに、“普通”の女性が働いている。普通の女性が風俗に参入すれば、それまでの“風俗でしか働けない”ワケありタイプの女性は、どんどん仕事を奪われて生活できなくなる。それが近年、話題になった“最貧困女子”の問題となる。現場で普通に取材していれば、風俗産業の大きなテーマが“貧困”なのは、よっぽどの間抜けでない限り、簡単に気がつくものなのだ。扨て、ここで大手マスコミの記者やディレクターの方々である。見事なまでに、この簡単な構図を理解できないようなのだ。

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【熱狂!アニメビジネス最前線】(06) エイベックス、アニメの会社になります!

20170523 06
実写映像宛らに、スケートリンクの上でスピン、ジャンプ、滑らかなスケーティング――。『ユーリ!!! on ICE』(テレビ朝日ほか)は、フィギュアスケートをテーマにしたテレビアニメだ。2016年10~12月に深夜枠で放送されると、瞬く間に人気に火がついた。製作委員会に名を連ねるのは『エイベックスピクチャーズ』。DVDの制作や販売を行う権利を持つ他、グッズ等幅広くビジネスを手掛ける。これまでもパレーボールやサッカー等、スポーツアニメは数多く制作されてきた。しかし、複雑な動きを表現しなければならないフィギュアスケートは、技術的な問題で敬遠されてきた。同作では、実際に演技した映像を基にアニメーションを作ることで、ハードルを乗り越えた。振り付けは元フィギュアスケーターで振付師の宮本賢二氏が担当し、作中でスケート解説者として登場する織田信成氏や本田武史氏といったプロスケーターに、「違和感が無い」と言わしめた。「ジャンプ時の着氷の踵・爪先の動きにまで拘り、リアリティーを追求した」(エイベックスピクチャーズアニメ制作本部制作部第2制作課の田中宏幸課長)。アニメファンのみならず、フィギュアスケートファンも取り込んだことで、昨年12月に発売されたブルーレイ・DVDは、出荷ベースで1巻8万3000本(※全6巻を発売予定)の大ヒットを記録。「今後の展開は検討中」(田中課長)だが、続編や映画化、2.5次元舞台化等、ファンの期待は弥が上にも高まる。エイベックスと深夜アニメ。一見、親和性が低そうな組み合わせだが、グループ内においてアニメ事業は急激に存在感を増している。1990年代にダンスミュージックで急成長したレコード会社は今、アニメを主力事業に育てようとしている。2015年10月から2016年3月までテレビ東京系列で放送されたテレビアニメ『おそ松さん』も、エイベックスが製作委員会に参加している。赤塚不二夫原作のギャグマンガ『おそ松くん』を、6つ子が成人してからの設定に改めた。その上で、6つ子のキャラクターを明確に分け、其々を人気声優が演じたことがウケて大ヒット。若い女性を中心に一大ブームを巻き起こした。2016年1月に発売されたおそ松さんのブルーレイ・DVDは、出荷ベースで1巻12万本を突破。1巻当たり6000~7000円で全9巻(※現在は8巻まで発売)だから、ざっと見積もっても売上高は60億円ほどになる。直近のエイベックスの映像パッケージの売上高(※2016年4~12月)は、前年同期比で170%となり、販売枚数は3倍近くも伸びている。「アニメは総合エンターテインメント」と、エイベックスピクチャーズの勝股英夫副社長は意気込む。

20170523 07
大きなヒットコンテンツが生まれると商圏は広がり、キーホルダーやTシャツ等の関連グッズの販売や、ゲームアプリのライセンス収入、配信ビジネスの収益も上乗せされる。アニメの配信権ビジネスは国内に留まらず、海外にも広がる。ユーリは、日本での放送直後に中国や北米で配信され、海外のプロのフィギュアスケーターたちがSNSで反応する等、人気を集めている。「アニメ市場はモノ消費からコト消費へ変化している」(勝股副社長)。そこで同社が仕掛けるのが、2016年1月に公開した劇場アニメ『KING OF PRISM by Pretty Rhythm』(通称“キンプリ”)だ。企画製作から配給まで手掛け、“応援上映”という新しい楽しみ方を広げている。キンプリの上映中、観客は一体となって盛り上がる。映画館でコスプレを楽しみ、サイリウムを振って声援を送る。映画館はまるでライブ会場のような熱気に包まれる。過去には、1975年のイギリス映画『ロッキーホラーショー』や、1980年のアメリカ映画『ブルースブラザーズ』等、観客も一緒に盛り上がる作品もあった。キンプリはその進化形。アニメの内容や台詞も、応援上映を前提に作られている。アニメのキャラクターが「皆に言いたいことがありま~す!」と台詞を言うと、観客は「な~に~?」と応える。キャラクターにソフトクリームを食べさせるシーンでは、「はい、ソフトクリーム。ア~ン♡」の字幕が表示され、観客はアフレコを行う。観客は映画を見るという感覚ではなく、何十回と繰り返し見に行く。リピーターに支えられて興行収入は約8億円となり、一般には殆ど知られていないアニメ映画としては合格点と言える実績を残した。観客動員数は48万人を突破し、ブルーレイ・DVDは、単価1万円を超える特装版を含めて3万5000本を出荷。6月には続編の上映を控えている。エイベックスは4月から、成長市場としてアニメ、ライブ、デジタル(映像配信)の3事業を掲げた新体制となる。CD販売を中心とした音楽事業で成長してきたが、2009年度に748億円だった音楽事業の売上高は、2015年度は612億円まで落ち込んでいる。それを補うのがライブ事業と、500万人規模の会員を抱える映像配信サービス『dTV』を中心とした映像事業だ(※右上図)。足元の部門利益は映像パッケージ販売が映像配信を上回り、破竹の勢いで伸びている。今秋には青山の新社屋建て替え工事が完了し、移転を機に、創業から30年掲げてきた“レコード会社”の看板を降ろして再スタートする方針だ。2020年には連結売上高2500億円(※2016年3月期は1541億円)の目標を掲げるエイベックス。達成のカギを握るのは、アニメ事業の更なる成長だろう。 (取材・文/本誌 中原美絵子)


キャプチャ  2017年4月1日号掲載

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【JR・栄光と苦悩の30年】(06) JR7社で明暗くっきり…国鉄分割民営化の光と影

JR7社の明暗がくっきりと分かれた。この30年間で本州三社は潤い、三島会社とJR貨物は相対的に沈んだ。30年前に設計されたJRグループのビジネスモテルが、制度疲労を起こしている。

20170522 13
「今までも、そしてこれからも、東京-大阪間の大動脈の輸送を守ることが我々の最大の使命である」――。『JR東海』の拓植康英社長は、そう力強く宣言する。民営化から30年。この間にグループの中で一番の利益成長を果たし、勝ち組に躍り出たのがJR東海だろう。JR東海の運輸収入に占める東海道新幹線の構成比は9割。新幹線一本に経営資源を集中投下し、年間約6000億円もの営業キャッシュフローを生み出す。そして、今度は自前で総工費9兆円に及ぶリニア中央新幹線を建設する。これほどまで機動的な設備投資が実現できるのも、JR東海が完全民営化を果たしたからに他ならない。発足当初は、引き継いだ資産規模から、長男のJR東日本、次男坊のJR西日本に続く“三男坊”扱いだったが、今や経常利益でJR東日本を凌ぐ。売上高営業利益率は約30%と、通常の鉄道会社では卓越した収益力を誇る。JR東海の成功ストーリーは、分割民営化の“光”の部分である。国鉄からJRへ。経営指標に関わる数字だけを見れば、国鉄の分割民営化は大成功である。左図をご覧頂きたい。6つの指標、即ち売上高・単年度損益・負債・国家財政への寄与・余剰人員の削減・労働生産性で比較したところ、全ての経営指標で著しい改善傾向が見られる。例えば単年度損益では、国鉄末期には経常損失1.8兆円だったが、2015年度JR7社合計では経常黒字1.1兆円と、2.9兆円も改善している。同様に、負債金額は37.1兆円から3分の2が国に棚上げされたとはいえ、6.5兆円に激減した。興味深いのは、国家財政への寄与度。嘗ては毎年約6000億円ずつ補助金を貰っていたが、最近では逆に約4100億円を納税するまでになった。ところが、6つの経営指標をJR7社別の内訳で見ると、また違った実態が見えてくる。端的に言えば、本州三社(JR東日本・JR東海・JR西日本)とそれ以外の4社、即ち三島会社(JR北海道・JR四国・JR九州)+JR貨物とで明暗がくっきりと分かれている。例えば、経常利益1.1兆円の内、実に96%は本州三社で占められている。本州三社とそれ以外の4社の明暗を分けた理由には勿論、30年間の経営力も含まれるのだが、それ以前の前提条件にもあった。ざっくり言えば、国鉄から譲り受けた“営業基盤”とその後の“金利環境の変化”である。

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先ずは営業基盤についてだ。JR7社の発足時点の営業係数(※100の収入を得るのに幾らコストが掛かるのかという目安)を見ると、本州三社の131に対して、『JR北海道』は437、『JR四国』・『JR九州』・『JR貨物』が405だ。本州三社も赤字ではあるが、新幹線と東京・大阪といった巨大マーケットを持っており、収益化できそうなレベルだ。一方で、他の4社についてはコストが収入の3倍以上。黒字化を望むのは無理筋だ。次に、金利環境の変化についてである。稼ぐ営業基盤が与えられた本州三社は、売上高の4~5倍に匹敵する借金を背負わされた。例えばJR東日本でいえば、売上高1.6兆円に対して6.6兆円の負債を背負わされた。一方、赤字路線ばかりの不利な営業基盤を押し付けられた三島会社には、国からの“持参金”として其々数千億円の経営安定基金が与えられた。その基金の運用益で本業の赤字を補填するように配慮されたのだ。ところが、30年前の政府の想定は大きく狂った。分割民営化時の金利は年7~8%だったが、今や低金利時代である。巨額の借金を背負わされた筈の本州3社は、どんどん借金を返済することができた(※右図)。逆に、経営安定基金の運用益に依存する三島会社にとって、低金利は向かい風以外の何物でもなかった(※右図)。結果として、本州三社は優良な営業基盤で稼ぎまくり、借金も速やかに返済し、劇的に財務体質が改善した。悲惨なのは三島会社だ。稼ぐ武器を持たされることもなく、持参金も目減りするばかり。JR貨物は別の財務問題を抱えている(※詳細は次回)。JR7社の体力格差は広がる一方である。勿論、本州三社の絶好調は経営努力によるところもある。特にJR東日本とJR東海は、互いにライバル視をしながら切磋琢磨して競争力を付けてきた。前述したように、JR東海は東海道新幹線に心血を注ぐ会社である。経営資源を新幹線に一本化する経営戦略が奏功している。対するJR東日本にとっては、1日に100万人が利用する山手線こそが潜在的な力を秘めた“宝箱”だった。昔は駅構内では新聞やパンくらいしか販売していなかったが、エキナカ事業を充実させたり、お洒落な駅ビルを開発することで、驚異の集客力を実現した。今や、売上高に占める非運輸事業の構成比は32%に上る。そして『JR西日本』は、“新幹線型”のJR東海と“山手線型”のJR東日本の丁度“中間型”のビジネスモデルである。山陽新幹線と近畿圏の輸送が2本柱。近畿圏では、“私鉄王国”と呼ばれる近畿圏にあって輸送量を逆転した。

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【Global Economy】(37) ニューヨーク5番街、消えた旗艦店…インターネット通販拡大、閉店ドミノ

アメリカの小売業界で、過去に例のない規模の閉店ラッシュが起きている。インターネット通信販売に押されている為だ。日本にとっても他人事ではない。 (本紙ニューヨーク支局 有光裕)

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世界の高級ブランドが軒を連ねるニューヨークの5番街。先月14日、アメリカを代表するファッションブランド『ラルフローレン』の旗艦店は、大勢の客で賑わっていた。翌15日の閉店を前に駆けつけたファンたちだ。嘗てニューヨークで暮らし、この日はフロリダ州から来たという主婦のソニア・シャルマンさん(58)は、「ラルフローレンは欲しい服ばかりで、時間をかけて本当に好きな服を選んできた。閉店前に感謝の気持ちをどうしても伝えたかった」と涙を浮かべた。1960年代に自らの名に因んだブランドを生み出したラルフ・ローレン氏は、2014年9月にこの店を開いた。「洋服だけでなく、食事でも客を包み込みたい」と、店内にコーヒーショップ、近くにはレストランもオープンした。しかし、3年足らずで撤退を余儀なくされた。誤算の背景には、インターネット販売の普及がある。ラルフローレンは先月4日、「会社の持続性と収益改善、ブランド発展の為、価格競争力が高く柔軟性もあるインターネット販売を強化する」と発表した。アメリカの小売業界で、大規模な閉店が相次ぐ。大手百貨店の『メイシーズ』は昨年8月、全米で展開する約720店の1割以上に当たる100店を閉鎖する方針を打ち出した。小売り大手の『シアーズホールディングス』も今年1月、全体の約1割に当たる150店の閉鎖を発表。樹脂製のサンダルが日本でも人気の靴製造・販売『クロックス』は、アメリカ国内の約160店を閉める計画だ。「アメリカの小売企業が今年閉鎖する店舗数は8600を超える」との予測もある。世界の流通業が経験したことのない構造変化だ。インターネット通販は、アメリカの小売り販売額の約1割を占めるまでに成長した。主役は『Amazon.com』だ。Amazonは今年、アメリカの衣料品販売額でメイシーズを抜いて最大手になる見通しだ。Amazonも顧客を引きつける為、工夫を凝らす。2013年にはニューヨークに、2015年にはロンドンに巨大な写真スタジオを開いた。そこで撮影した写真や動画を使い、洋服の着こなし方等を消費者のスマートフォンに発信し、購入を促す。従来のファッションショーに対抗するかのようだ。

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インターネット販売の拡大は、アメリカ社会に新たな課題も突き付けている。都市部では、配送トラックの増加による交通事情の悪化が問題になりつつある。『アメリカ郵政公社』が運んだ荷物は、2011年の約33億個から2016年には約52億個と、5年で50%以上増えた。宅配業界への新規参入も相次ぐ。ジョージ・ワシントン大学のクリストファー・ラインバガー教授は、「ニューヨーク市内の駐車違反の罰金だけで、膨大な負担を強いられている運送業者もある」と話す。道路の整備やマンションの駐車スペース確保等も急務となっている。スーパーマーケット等の減少で、日常の買い物が不便になる“買い物弱者”の増加を懸念する声もある。ニューヨーク市立大学シティカレッジのアリソン・コンウェイ准教授は、「インターネット販売はクレジットカードの利用が前提だ。店舗が減ると、低収入等でカードを持てない人が取り残される恐れがある」と指摘する。雇用の行方も気がかりだ。アメリカ労働省によると、アメリカの百貨店で働く人の数は、先月時点で約127万7000人。ピークだった2001年の約178万2000人に比べ、30%近く減った。同じ期間の雇用の減少幅は、ドナルド・トランプ大統領が復活を目指す製造業(※約25%減)を上回る。アメリカの小売店で働く人は、女性やマイノリティー(人種的少数派)の割合が高い。白人男性の比率が高い製造業に比べて政治の関心が向き難く、対策が遅れかねない。ただ、アメリカは日本に比べて従業員が解雇され易いものの、次の職に移り易い面はある。アメリカの小売りの雇用減について、専門家の間では「業界がシャッフル(入れ替え)の時期を迎えている」として、「新たな成長企業が雇用の受け皿になる」と言われる。実際、Amazonは来年半ばまでに正社員を約10万人増やす方針だ。衰退産業から成長産業に転職し易い社会作りは、アメリカと同様にインターネット通販が広がる日本が見習うべき点でもある。

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【崩壊する物流業界】(12) 新倉庫の運営に苦戦する『ユニクロ』

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東京都江東区有明。レインボーブリッジを望む一角に、カジュアル衣料の『ユニクロ』を展開する『ファーストリテイリング』の物流倉庫(※左画像)がある。「配送リードタイムを大幅に削減し、お客の要望に直ぐに応える体制にする。店舗とeコマースが融合した、今までにないデジタルフラッグシップストアを作る」――。柳井正会長兼社長は、この構想を実現する為に、“有明プロジェクト”と呼ばれる物流改革を始動した。その中核を担うのが、首都圏向け商品の物流拠点であるこの倉庫だ。ところが、昨春に動きだしてから未だフル稼働に至っていない。人手が足りず、増加する注文への対応ができていない為だ。繁忙期に当たる昨年11月~今年1月には、オンラインストアで購入した商品の発送には1週間前後かかることがサイト上に明記され、翌日配送のサービスを中止した。ファーストリテイリングは今年8月期、国内ユニクロ事業でインターネット通販の売り上げ前期比4割増の目標を掲げているが、有明倉庫が機能しなければ画に描いた餅になりかねない。「今春には、当初から目指していた運営になるように変えていきたい」(岡崎健CFO)という。今年2月上旬、ユニクロの商品や情報部門を担う約1000人の社員が、本社のある六本木から有明倉庫の最上階5000坪の新しいオフィスに移った。商品企画と物流部門が密な関係を築き、商品開発のスピードを速めるのが目的だ。現在は、店舗でどの商品が売れているかだけでなく、顧客の属性データを収集し、購買履歴も把握できる仕組み作りをしている。ファーストリテイリングは、有明を含め、全国10ヵ所で同様の次世代物流センターを稼働させる。有明倉庫の躓きを換回し、思い描く物流の体制を作れるのか、手腕が試される。 (取材・文/本誌 菊地悠人)


キャプチャ  2017年3月4日号掲載

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