【地方銀行のリアル】(11) 浜松信用金庫(静岡県)――静岡再編劇の“仕掛け人”

20180222 02
静岡県に“信金再編”の嵐が吹き荒れている。昨年9月に『浜松信用金庫』と『磐田信用金庫』、『しずおか信用金庫』と『焼津信用金庫』が其々相次いで合併を発表。同11月下旬には、“日本最古の信金”として知られる『掛川信用金庫』も『島田信用金庫』との合併を表明した。実現すれば、現在12金庫が犇いている県内信金は9金庫に集約される。地元金融筋の間では、「まだまだオーバーバンキング。静岡、スルガ、清水、静岡中央と4行ある地銀も含めて、更なる合従連衡もあり得る」との観測が頻りだ。一連の再編劇の「事実上の仕掛け人」(事情通)とされているのが、浜松市中区に本店を置く浜松信金(※通称“はましん”)だ。2017年3月期末時点で預金量1兆6063億円、貸出金残高8868億円と、共に県内首位。預金量は唯一、1兆円を超える。「県信金業界は、2008年1月の沼津信用金庫による駿河信用金庫の吸収合併を最後に、10年近く謂わば無風状態が続いてきた。しかも、浜松市を中心とする県西部地区には競合相手となる地銀の本店が無く、域内でのはましんの存在感は抜群。そのはましんでさえ合併に踏み切るのだから、他はもう“待ったなし”とばかりに再編の機運が一気に高まった」。掛川信金幹部の1人は言い切る。はましんが白羽の矢を立てたパートナーの磐田信金は、2017年3月期末で預金量7018億円、貸出金残高3543億円で県内4位。2019年2月にも合併で誕生する『浜松磐田信用金庫』は、単純合算で預金量2兆3081億円となり、今の全国264金庫中20位から10位前後に浮上する見込みだ。

尤も、『静岡銀行』等県内地銀関係者からは、「合併がそのまま預貸金の積み上げに繋がるかは疑問」といった声も少なくない。営業エリアの大半が重複しており、地理的な相互補完効果も期待し難い為だ。はましんは現在、浜松市を本拠に、湖西市、磐田市、袋井市、掛川市、菊川市、御前崎市、牧之原市、島田市や周智郡、榛原郡吉田町と愛知県豊橋市を営業エリアとして定めている。この内、磐田信金と重複しないのは、湖西市、島田市、吉田町と豊橋市だけ。残りは全て磐田信金と同じだ。地元関係者の1人は、「取引先も数多くがだぶっており、今後融資シェアの調整が起こるのは必至。同一域内の再編では、取引先の販路開拓等を仲介・支援するビジネスマッチング等の案件も限られる」と指摘する。支店数は、はましんが出張所含め59店、磐田信金が34店。重複店舗は内12店に及び、しかも6店舗は支店名までが一緒だ。はましんでは、「当面は両金庫の全ての店舗を存続させ、近接する場合には店舗の機能や業務内容を差別化する方向で調整する。雇用も守る」(幹部)としているが、店舗統廃合やリストラゼロの合併では、最大の目的である筈の収益基盤の底上げには繋がるまい。そんな中、信金業界内で燻っているのが、「合併には、全国信用金庫協会(全信協)の次期会長の椅子を虎視眈々と狙う、はましんの御室健一郎理事長の野心が綯い交ぜになっているのでは?」との噂だ。全信協は全国の信金を束ねる業界団体だ。今の会長は、2016年6月に『城北信用金庫』の大前孝治会長からポストを引き継いだ『多摩信用金庫』の佐藤浩二会長。任期は2年で、今年は改選期に当たる。無論、再任もあるが、多摩信金では地元自治体から販売委託を受けていたプレミアム付き商品券を、発売解禁前に職員が購入していた不正が発覚。佐藤会長自身にも暴力団組長の葬儀に出席していたといったコンプライアンス上の疑惑が降りかかり、金融当局の不興を買っている。「協会の自浄作用をアピールする為にも、退任は避けられない」(前出の事情通)との見方が有力だ。そうなると、後任は現在6人いる副会長陣の中から選ばれる可能性が強く、筆頭副会長を務める御室理事長は、その有力候補の1人といっても過言ではない。ただ、事はそう容易くはない。2年前の改選時にも、自らの会長昇格に強い意欲を示し、周囲からも佐藤氏の対抗馬と目されながら、「緊急時の案件への機動的な対応を考慮すると、東京地区からの選出が望ましい」との意見が出て、十分な支持を集められなかった経緯がある。その点、合併という大事を決断した辣腕経営者として名を轟かせ、尚且つ規模拡大で業界内での発言力と存在感を一段高めておけば、「つまらぬ理由での反対論など封殺できる」という訳か。御室氏は1945年生まれの御年72歳。地元出身で、浜松西高校から成蹊大学に進学し、卒業後の1968年にはましんへ入庫した。浜松市内にある可美支店長や本店営業部長、融資部長、業務本部長を歴任後、2005年に理事長に就任。以来、13年に亘ってトップの座に君臨し、合併新金庫でも初代理事長となる予定だ。この間、2007年から2013年までは『浜松商工会議所』の会頭を務めた他、サッカーJ1『ジュビロ磐田』や、信金の中央機関といわれる『信金中央金庫』、国立大学法人浜松医科大学等の社外役員も兼任している。

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黒田日銀総裁は再任に値する…誰が何と言おうと日本の金融緩和は正しい政策だった

20180221 06
黒田東彦氏は、『日本銀行』総裁としての1期目に失敗を犯し、自ら定めた2%のインフレ目標を達成できなかった。だが、失敗を上回る成果を上げている。総じて立派な働きぶりであり、安倍首相は黒田氏を日銀総裁に再任すべきだ。黒田氏の最大の功績は、2013年の日銀総裁就任の数日後、大規模な資産購入プログラムを無期限で開始したことだ。日銀が消極姿勢でデフレを許した20年間からの決別だった。多くの否定的な声(※その一部は日銀内部から上がっていた)を無視して、黒田氏は日銀を行動に立ち上がらせた。結果は急激な円安と株価の急上昇だった。それを受けた輸出主導の景気回復により、日本は1980年代末以来の好況を迎えた。経済成長率、失業率、企業収益に明白な結果が出ている。黒田氏は評価に値する。インフレは別問題だ。2013年の金融緩和政策の導入時、黒田氏は「2年程度で2%のインフレ目標を達成する」と明言した。だが、現実味の無いまま目標は未達成に終わった。それから5年経っても日銀は目標達成に近付いていない。昨年12月の物価上昇率(※変動の大きい生鮮食品とエネルギーを除く)は、前年同月比0.3%に留まっている。世界中の中央銀行が低インフレと闘っているが、日本は国民が数十年に亘る物価の停滞や下落に慣れてしまった為、特に苦戦している。

とはいえ、黒田氏も幾つかの失敗を犯した。最大の失敗は2014年4月、5%から8%への消費税引き上げを支持したことだ。未だ景気の足取りが弱かった時期の増税により、黒田氏が任期1年目に生み出したインフレへの勢いが全て削がれてしまった。黒田氏は同年10月に金融緩和を追加したが、最早手遅れだった。景気が低迷した2015年、黒田氏は何故か更なる行動に出ようとせず、2016年1月になって漸く功罪相半ばするマイナス金利を導入した。10年物国債の利回りを“0%程度”に抑えるという革新的で効果の大きい手法の導入は、同年9月になってからだった。この間、市場との対話は、中央銀行総裁というよりも財務官だった頃を思わせるスタイルで、予想外の政策をぶつけて市場を揺さぶった。このやり方とその欠点は、「検討していない」と国会答弁した数日後にマイナス金利を導入した際にありありと表れた。しかし、黒田氏の政策と目標達成への決意が生み出している基本的な推進力を踏まえれば、そのような欠点は許容できる。2期目にも同様の決意、或いは更なる決意が必要とされるだろう。先ず、特にアメリカの金利上昇が続く中で、日銀は早期の金融引き締めに非常に強い圧力を受けることになる。日銀総裁は、それに抗わなければならない。1994年の早過ぎる増税から、2007年の同じく早過ぎる利上げに至るまで、日本は回復への有望な流れを止めてしまうことを重ねてきた。また繰り返す訳にはいかない。とはいえ日銀も、いずれかの時点で出口に向かわなければならない。現時点で金融緩和を通じて国内総生産(GDP)と同規模程度に膨らんでいるバランスシートの巨大さからして、出口戦略は厄介な問題になる。その仕事には巧みな対話力に加え、市場、国民、政治家の扱いに経験を積んでいることが求められる。黒田氏は2期目の満了時には78歳になるが、活力と熱意に衰えは無いようだ。金融緩和は正しい政策だった。それを始めた黒田氏には、遅ればせながらも2%のインフレという約束を果たすチャンスが与えられるべきだ。黒田氏に更なる5年を。


⦿フィナンシャルタイムズ 2018年2月16日付掲載⦿

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NTTドコモ、M&Aでまた“勉強代”60億円

20180220 07
「うちはそこまで軽くみられていたのか」――。有機・低農薬野菜等の食品宅配大手『らでぃっしゅぼーや』(東京都新宿区)の関係者から恨み節が聞こえてくる。親会社の『NTTドコモ』が、保有するらでぃっしゅ株を、今月末までに同業の『オイシックスドット大地』に売却すると発表したことに対してだ。1988年設立のらでぃっしゅは、全国16万世帯の会員に1万1000品目の農畜産品等を届ける。生産者と直接契約し、通常のスーパーマーケットに無い食品を取り揃えるのが特徴だ。嘗てはニッチとされた有機食品市場だが、東日本大震災で原発事故が起きると、日本でも食の安全に対する関心が高まった。ここに目をつけたドコモが、2012年にらでぃっしゅを買収した。ドコモは2011年に策定した2015年までの中期計画で、M&Aをてこに食や健康等通信以外の事業領域の拡大を掲げていた。らでぃっしゅの買収は、そのはしりだった。通販サイト『dショッピング』の立ち上げを控え、食の安心・安全を訴求すれば新サイトの目玉にできる。全国約2400店の携帯電話販売店『ドコモショップ』を通じて客を呼び込むことも想定していた。

一方のらでぃっしゅ側にとっては、携帯最大手のドコモ傘下になることで、顧客基盤の拡大という期待があった。だが、思惑は外れた。買収以降、らでぃっしゅの売上高は横這い続き。同業のオイシックスが売上高を約6割伸ばしたのとは対照的だ。官報掲載の決算公告によると、らでぃっしゅは2度に亘り営業赤字を計上した他、資産価値の見直しで減損処理を迫られ、買収前に39.4%あった自己資本比率は、2017年2月時点で5.4%まで落ち込んだ。買収後5年半で手放すことについて、ドコモの吉沢和弘社長は「食の事業領域で経験を積むことができた」と一定の成果を強調するが、らでぃっしゅ側には複雑な思いがある。「ドコモに巨大な顧客基盤があっても、有機食品に興味を持つ客は限定的だった」と関係者は唇を噛む。今回、ドコモはらでぃっしゅをオイシックスに売却するのに合わせ、オイシックスが実施する第三者割当増資を引き受け、3%を出資する。食品宅配事業は継続し、「市場拡大に努めていく」(吉沢社長)とするが、果たしてその狙い通りになるのか? ドコモのM&Aは苦い経験の連続だ。2000年代にアメリカの『AT&Tワイヤレス』等に計約2兆円を投じたが、約1兆円の巨額損失を計上して撤退。インド最大の財閥である『タタグループ』の通信会社への出資も失敗に終わった。「海外投資は事実上凍結している」(ドコモ関係者)状態にある中、代わりに将来の成長の柱と見込んだのが、国内の異業種買収戦略だった。その象徴的案件だったらでぃっしゅの買収と売却で、差し引き60億円に上る“勉強代”を支払った。M&Aで中々成果を出せない“買収下手”を露呈したドコモは、いつまで勉強代を支払い続けるのだろうか? (取材・文/本誌 高槻芳・藤村広平)


キャプチャ  2018年2月19日号掲載

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【The CONFIDENTIAL】(11) 初のキャンセル濃厚…MRJ、7年前の痛恨

『三菱航空機』が開発する国産初のジェット旅客機『MRJ』が、初の注文キャンセルに見舞われる可能性が出てきた。オプションを含めて40機分の購入契約が消える公算が大きい。これまでに計450機を積み重ねてきた受注が減るのは初めてだ。しかし、それもほんの小事にみえてくる。MRJはもっと構造的な危機に陥っている――。

20180220 06
その不安は、アメリカの地域航空の再編から始まった。嘗て4大航空会社と呼ばれた『イースタン航空』は、1991年に経営破綻した。一時、現大統領のドナルド・トランプによる買収等を経たが、2009年に別会社として再生。三菱航空機との間でMRJ40機(※購入権含む)の契約に調印したのは、2014年9月のことだ。そのイースタンが再度経営危機に陥り、今年6月、アリゾナ州フェニックスを地盤とする『スウィフト航空』に買収されることが明らかになった。「近い将来、ボーイング737は13機から18機程度増えるだろう」。新規航空機計画についてスウィフト航空の意向が伝わると、三菱側に危機感が走った。契約中のMRJについての言及が無かったからだ。交渉に近い関係者は、「注文を維持するのは難しいだろう」と認める。抑々、2019年の納入を反故にした三菱側にも非はある。三菱航空機の広報は「個別の契約についてはお話できない」と話すが、カタログ価格にして2000億円弱に上る大型契約が消えて無くなる公算は大きい。MRJはこれまでに、『全日本空輸(ANA)』25機の他、アメリカの『TSH』から100機、ミャンマーの『エアマンダレー』から10機等、これまで計447機(※基本合意含む)の受注を積み重ねてきた。最も恐れるシナリオは、200機を発注した『スカイウエスト』等アメリカ勢が一斉にキャンセルに動くことだ。『YS-11』以来、約40年ぶりの国産旅客機としてMRJの開発が始まったのは2008年。ローンチカスタマー(※初号機の顧客)であるANAへの納入は2013年を予定していたが、5度の延期の末に7年遅れの2020年に先送りした。その間に航空会社の業界再編が進んでしまった格好だ。

アメリカの連邦航空局(FAA)を始め、各国の航空当局から取得する型式証明(※TC)の取得に手間取っているのが最大の要因とされるが、実はもっと根本的な問題がある。顧客となる航空会社の心変わりだ。「航空機屋さんは燃費燃費と言うけど、今は(超大型の)ボーイング747でもなければ、燃費なんてそれほど気にしていませんよ」。大手航空会社で整備部門の責任者を務めたOBは、こう語る。MRJは、従来機に比べて3割の燃費改善が最大のセールスポイントだった。目指す方向性は正しかった。史上空前の原油高が続いていた2008年時点では――。この頃の原油価格(※WTI)は1バレル=100ドル前後まで高騰していたが、直近は半分の50ドル程度に落ち着いている。航空会社の最大の関心事は、燃費よりも寧ろ、導入時の初期コストに移った。100席以下のリージョナルジェット(※RJ)では、カナダの『ボンバルディア』と並んで高いシェアを持つブラジルの航空機メーカー『エンブラエル』は、市場の変化に巧みに対応している。70~90席級のMRJに対し、エンブラエルが2021年に投入するのは『E175-E2』。低燃費を謳い、エンジンもMRJと同じアメリカの『プラット&ホイットニー(P&W)』の機種を搭載する。だが今、エンブラエルが売り込みを強めているのは、一世代前の『Eジェット(E1)』。「E2を急いで投入しよう等という気は、エンブラにはさらさらないだろう」(航空関係者)。MRJの5度目の延期が明らかになった昨年末、エンブラエルもE2の投入を2021年に先送りした。300機弱の受注を確保しており、開発も順調。表向きは「アメリカの規制緩和に合わせて遅らせただけ」(商用機部門営業責任者のアーヤン・メイヤー)としているが、「MRJの後ろで環境を見極めよう」という余裕が伺える。MRJのカタログ価格は47億円だが、航空機ビジネスで価格などあって無いようなもの。これまでの商談は1機あたり30億円前後が中心とみられる。これに対し、「エンブラエルは20億円台の前半でEジェットを売っている」(国内大手メーカー)。燃費に関心を失っている航空会社に高いE2を売るより、低価格のEジェットで繋ぐのが当然だ。「新たな受注は取らなくていい」。『ボーイング』や『エアバス』が激しい受注競争を繰り広げた6月の『パリ国際航空ショー』を前に、三菱航空機の営業部門に通達が回った。異例の自制指令だ。パリには始めてMRJの実機を伴って乗り込んだが、実際、蓋を開けてみると受注はゼロだった。新型の航空機が利益を出すには、10年以上かかるケースも珍しくはない。三菱重工は当初、300~500機をMRJの採算ラインとみていたが、今や販売価格を維持できたとしても、この規模の受注ではとても追いつかない。受注獲得のピッチを遥かに上回るスピードで、開発コストが膨張しているからだ。

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【Global Economy】(75) アメリカ経済、強過ぎる加速…ドナルド・トランプ政権の景気刺激策

今月に入り、アメリカ発の株価急落が世界の金融市場を揺さぶったが、アメリカ経済は好調が続く。アメリカの景気回復期間は既に9年目となっており、政権にとって、アクセルとブレーキの加減が難しい局面に入ったことは間違いない。 (調査研究本部主任研究員兼編集委員 佐々木達也)

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「アメリカは何年もの停滞の後、力強い経済成長を経験している」――。ドナルド・トランプ大統領は先月26日、スイスのダボスで開かれた『世界経済フォーラム』の年次総会(※ダボス会議)で、こう力を込めた。演説の通り、アメリカ経済は順調だ。2017年10~12月期の国内総生産(※GDP)の実質成長率は、年率で2.6%。7~9月期(※3.2%)からは減速したが、トランプ政権が目指す3%成長はほぼクリアした状態とも言える。将来不安で消費が振るわず、国内市場の縮小を懸念して企業が投資を躊躇う日本と比べ、アメリカは個人消費と設備投資の増加が目立つ(※グラフ①)。アメリカでは、毎年11~12月の年末商戦が消費動向を映すデータとして注目される。『全米小売業協会』によると、2017年の年末商戦期の小売り売上高は前年同期比5.5%増の約6900億ドル(※約74兆円)と、金融危機後で最大の伸びを記録した。雇用情勢の改善や、株価上昇で株を持つ人の財布の紐が緩む“資産効果”が消費を押し上げている。年末商戦で店舗以外の売上高が11.5%増となり、『Amazon.com』等インターネット通販の急成長も消費全体を底上げしているようだ。設備投資では輸送機械や建設機械等が好調だった。原油価格の上昇で、シェールオイル関連の投資回復も見込まれる。それでもなお、トランプ政権は景気のアクセルを踏み込む。大型減税とインフラ整備だ。減税の規模は10年間で約1.5兆ドル。法人税の税率を35%から21%に引き下げる他、設備投資をした際に全額を課税所得から差し引く“即時償却”ができるようにする等、企業のメリットは大きい。

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道路網や橋等のインフラ整備は、大型減税に次ぐ“第2の矢”となる。トランプ大統領は先月30日の一般教書演説で、当初、10年間で1兆ドルとしていた投資規模を1.5兆ドルに引き上げる意向を示した。減税が決まったことを受け、『国際通貨基金(IMF)』は同月の経済見通しで、アメリカの成長率を昨年2月の予想から大幅に上方修正した(※グラフ②)。2018年は0.4ポイント、2019年は0.6ポイントもの引き上げだ。減税が無かった場合と比べ、2020年までにGDPが1.2%押し上げられるという。アメリカでは、賃上げや新たな投資を表明する企業も相次ぐ。経済学では、景気変動に影響を与える合理的には説明のつかない楽観的な期待を“アニマルスピリット”と呼ぶ。『双日総研』チーフエコノミストの吉崎達彦氏は、「リーマンショックから10年近くが経過し、アメリカの企業や投資家はアニマルスピリットを取り戻した」とみており、アメリカ経済の好循環は当面続く可能性が高い。一方、アクセルを踏み過ぎると車の動きは不安定になる。経済も同じだ。今月5日、ニューヨーク株式市場でダウ平均株価は1日で1000ドル以上値下がりし、世界同時株安を招いた。きっかけは、雇用統計で時間当たりの賃金が前年同月比2.9%増(※グラフ③)と、2009年6月以来の伸び率になったことだ。これまで鈍かった賃金の伸びが大きくなり、「景気が過熱して利上げが早まる」との予測が広がった。アメリカの調査会社のリポートによると、ジョン・F・ケネディ政権(※1961~1963年)以降、アメリカで7回の大型減税があったが、実施時の失業率は平均7%。現在は4.1%だ。働く意思があれば仕事に就ける“完全雇用”の状態とされ、リポートは「“火に油を注ぐ”という言葉が浮かぶ」と指摘した。大型減税は財政の悪化を伴う。トランプ政権は今月12日、予算教書の発表で、「今後10年間の財政赤字が昨年の見通しから2倍以上に増え、約7兆ドルに達する」との見通しを示した。

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【働き方改革の表と裏】(21) 働き方改革は安倍首相の強い意志だ――水町勇一郎氏(東京大学社会科学研究所教授)

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これまでの労働政策は、厚生労働省を中心に労使のコンセンサスを重視して決定されてきたが、必ずしも急速な社会の変化に沿うような改革は行なわれてこなかった。そこに安倍晋三首相が危機感を抱いて立ち上げたのが、今回の『働き方改革実現会議』だ。労使のトップと官邸とで直接コンセンサスを作ることで、残業時間の上限規制と同一労働同一賃金という大きな成果を上げることができた。私も実現会議に参加したが、安倍首相と官邸で話をした時や、会議の場での発言等で感じたのは、働き方改革に対する首相の強い関心とリーダーシップだ。それは、働き方が社会的公正さの観点に加え、経済政策として成長と分配の好循環を実現する為にも重要だと認識されているからだろう。その中でも、首相が当初から強い関心を持っていたのが同一労働同一賃金だ。このテーマで官邸のスタッフと最初に話をしたのは2015年1月とだいぶ前になる。非正規労働者の賃金が安いと、企業は景気が良くなってもコストの安い非正規労働者を増やし、全体としての賃上げに繋がらない。賃上げで消費が拡大し、企業の収益向上に繋がる好循環にならないので、最低賃金の引き上げと併せ、正規・非正規の格差是正を強く意識しているのだと感じた。だから、今回の働き方改革の議論も同一労働同一賃金から始まり、具体的なガイドライン案の策定までこぎ着けることができた。更に、もう1つの課題である正社員の働き過ぎの問題にも真剣に取り組もうということとなった。残業時間の上限規制には経済界側からの抵抗も予想されたが、生産性向上を図る為にもやはり上限は必要だと、首相をトップに労使に要請して受け入れてもらった。今は大臣告示が適用されない自動車運転業務や建設事業についても、改正法施行の5年後に上限規制が適用されることになる。現状のままで、他業種と一緒にスタートするのは現実的に難しい。無理に進めると脱法行為も招きかねない。関係団体とぎりぎりの交渉をして、最終的に調整したのが今回の着地点だった。


キャプチャ  2017年7月1日号掲載

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【右派×左派で読み解く日本経済】(08) 100年に1度! 伝統企業の既得権を壊すテック企業

保守と革新という両翼の視点で日本の産業界を色分けしたところ、100年に1度の歴史的転換期にある産業界の実像が浮かび上がった。

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丁度100年前の1917年、後に世界をイデオロギー対立の渦に引きずり込むことになるロシア革命が起こった。今、日本の産業界でも、革新勢力が保守勢力を打倒する100年に1度の産業革命が起ころうとしている。抑々保守勢力とは、固有の伝統や慣例を守りつつ、漸進的な変化を志向する勢力であり、日本の産業界においては既得権を有する伝統的な大手企業に見立てることができる。一方の革新勢力は、理性によって急進的に社会を変革しようとする勢力を指し、AI等革新的な技術力を武器に、劇的なパラダイムシフトを狙うテック企業がぴったり当て嵌まる。国内で長年続いてきた伝統的大手企業による支配体制を、新興のテック企業が今まさに打ち倒そうとしているからだ。“保守系企業vs革新系企業”の争いの火蓋は既に切られ、様々な業界で局地戦が繰り広げられている。その最前線を見ていこう。先ずは金融業界。嘗て旧大蔵省主導による横並びの護送船団方式に守られた規制業種の典型だったが、激動の大再編時代を経て3メガバンクに集約された。再編による巨大化で経営は安泰かと思いきや、今度は金融とテクノロジーを組み合わせたフィンテック企業に既得権を脅かされている。大手金融が一括して担っていた決済、融資、資産運用等、個別のビジネス毎に高い専門性を持ったフィンテック企業が乱立しており、強かに大手金融と連携しながらビジネスを展開している。メガバンクは、気が付けば“母屋”を取られていたなんていう事態に陥りかねない。

自動車業界で起ころうとしているのがEV(※電気自動車)革命である。日本の産業界の牽引役だった自動車大手だが、ガソリン車からEVへの転換が進めば、3万点に上る自動車部品の内、実に4割が不要になるとされ、『トヨタ自動車』や『ホンダ』といった完成車メーカーを頂点とする系列構造は、一気にアンシャンレジーム(※旧体制)となるリスクを孕む。そんなEV革命の先駆者が、EV専業メーカー『テスラ』のイーロン・マスクCEO。登場した当初は大手自動車メーカーから相手にもされなかったが、今春には一時的だが、時価総額で『ゼネラルモーターズ』を抜くまでに成長。今年7月には価格を抑えた『テスラモデル3』を発売し、世界中の同業者が注視している。テスラは量産化に苦戦しているが、中国勢等更なる新勢力も台頭してきており、戦線は激化の一途を辿る。半導体の世界では、『ソフトバンクグループ』の孫正義社長がIoT革命の主役に躍り出ようとしている。革命の原動力となるのが、昨年買収した半導体設計大手『アーム』だ。昨年、全世界で出荷された半導体の約3分の1に相当する177億個でアームの設計図が使われており、アームは半導体の陰の支配者として君臨。その圧倒的シェアを武器に、IoT時代のプラットフォームを握ろうという戦略である。既に革命を成功させたといっても過言ではないのが、『スタートトゥデイ』が運営しているファッション通販の『ゾゾタウン』と、フリマアプリの『メルカリ』だ。百貨店等保守勢力の苦戦を尻目に、利用者数を劇的に伸ばし、ゾゾタウンの年間利用者は700万人に迫る勢い。メルカリも4年足らずで月間流通総額を100億円超にまで急成長させた。他にも、ゲリラ的にホテル市場を侵食する民泊仲介の『エアビーアンドビー』等、様々な業界で革命の火の手が上がっている。防戦一方の保守系企業に共通するのは、柵だらけのレガシーを多く抱えているが故に経営判断が遅い点だ。急進的なスピード経営を得意とする革新系企業には到底敵わず、悉く後手に回っているのが実情だ。ロシア革命で権力を握った革新勢力は、国家の在り方を根底から覆した。時代に学べば、変わることのできなかった保守系企業に待っているのは、再編淘汰の悲劇でしかない。


キャプチャ  2017年11月18日号掲載

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【黄金の昭和・リーダーたちの直言】(02) 堤さん、出家遁世は早過ぎる――堤清二氏(『西武流通グループ』代表)

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――この頃、詩はお書きになっていますか?
「ポツポツとでございます。今度、私の詩集が現代詩文庫(思潮社)に入ることになりまして、私の詩集に未だ入れていないのも少し加えまして、来月、久しぶりに出ます」

――堤さんの詩を拝見して、私、詩のほうはよく知りませんけれども、本格的な立派な詩集でした。経営者と文筆業というのは中々両立しないという感じを持っていたのですが。例えば金子直吉なんかは、『鈴木商店』の全盛時代に“初夢や 太閤秀吉 ナポレオン”という凄い俳句を書いている。鈴木商店が潰れた後は、“炎天や 従うものは 影ばかり”というのでした。
「これは作品になっていますね」

――経営者と文筆業が両立しないということが、作品に象徴的に出ているという気がするんですよ。堤さんの場合、例外的な感じで、私、詩を拝見したんです。今、経営者と詩人ですが、若し生まれ変わるならば何に生まれ変わりたいですか?
「今ですか…。音楽家なんていうのはいいですね。ものを書くのはあまりよくないみたいな感じがします」

――音楽家とか画家はいいですね。でも詩人というのは、他の仕事を持たないと生きていけないですから、堤さんの今の形もいいんじゃないですか?
「でも、ちょっと辛いところがありますね。経営者と文筆業では、やはりものの見方もかなり違いますでしょう。具合悪いことありますね。詩を書いていることで客観的になれるという点では、経営者としてもある意味ではいいのかもしれませんが。しかし、その為に『自分の会社が世界一だ』とまるまる思い込めないというのは、ある意味でマイナスのところもあるんじゃないですか」

――しかし、経営者はこれからはそういう目を持たないとだめですね。
「政治はどうなんでしょうか? 『我が党が政権取らなきゃ日本はだめだ』と、皆が思い込んでいるんでしょうか?」

――思い込んでいるんでしょうね。
「そう思いこまないと政党員としてはだめでしょうからね。そこは経営者のほうが未だ政治家よりいい」

――経営者だけの問題でなく、日本人全体の問題にもなってくるんでしょう。伊藤忠の入社試験に、「君はアリになれるか、君はトンボになれるか、しかも君は人間である」という箇所が出ていた。「トンボになれるか」というのは「複眼的な見方ができるか」ということで、「しかもなお人間である」という。やっぱり、そういうものを日本人全部が持たないとだめですね。
「僕、伺いたいんですけれども、今度の東京都知事選で凄く困っているんです。『石原さんに応援しろ』って偉い方から言われたんです。ちょっと考えるところがあって『勘弁して下さい』といった。そうしたら『君は美濃部か?』という。私は、『美濃部さんも石原さん以上にやりません。実は、大変生意気なことを申し上げれば、どちらも今度は夢中になってやれない感じです』と言ったんです。それがどうしても通じない訳です。会社とすれば、また自ずと違った姿勢というのが出てくると思いますけれども、辻井喬(※堤氏のペンネーム)というほうだと、どちらの選挙もやれないなという感じですね。それはいけないんですかね?」

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【WATCHERS・専門家の経済講座】(08) 住宅過剰社会、膨らむツケ――野澤千絵氏(東洋大学理工学部教授)

20180216 05
「日本には既に世帯数を超える住宅があるにも拘わらず、新たな住宅がどんどん作られ、“住宅過剰社会”となっています。このままでは将来世代に負の遺産を押し付けてしまう。対応を急がなくてはいけません。何故、今も住宅が増え続けているのでしょうか? 先ず、自治体の政策の問題があります。兎に角、人口を増やしたい市町村は、周囲の自治体に負けないよう、なるべく開発の規制はせず、規制を緩めて、本来は宅地向けに整備されていない市街化調整区域等の農地エリアに人を住ませようとしています。地方分権で、市町村に都市計画の権限が移った影響もある。過疎化を避けたい地域の声や、アパート経営等の土地活用を期待する土地所有者らの声も反映しています。大都市も、バブル時代の地価高騰で中心部に住宅が建てられずに空洞化した為、都心居住を推進することが悲願でした。規制緩和に後押しされ、タワーマンション等が次々に建てられています。不動産業界が新たな住宅を建てることに注力していることも大きな要因です。土地を仕入れて建物を建てて売り、その売却益で土地を仕入れて建ててまた売る。住宅を作り続けざるを得ないビジネスモデルなので、新築ばかりになってしまう。国民に持ち家志向が根強いことも、要因の1つに挙げられます」。戦後、日本は持ち家政策を展開してきた。戦前は大都市部の持ち家比率は3割以下だったが、現在は6割程度になっている。

「住宅難解消の為の持ち家政策は、それ自体が悪かった訳ではありません。問題は、作ることを優先した結果、古くなった住宅を解体したり活用したりする“住宅の終末期問題”への対応策が全く考えられていなかった為に起きたのだと思います。空き家の急増等、様々な歪みが生じ始めています。相続の時、子供世代は既に自分たちの家を持っているので、親の家に住むケースは多くない。売りたくとも売れず、荷物が整理できない等の理由で放置された空き家が、都市部や地方を問わず目立っています。私は“問題先送り空き家”と呼んでいます。空き家解体には数百万円の費用がかかり、空き地になると固定資産税が高くなる。相続人が遠くにいれば管理に関心も持たず、酷い場合は所有者がわからなくなり、行政の対応も難しくなります。2025年には団塊の世代が75歳以上となり、後期高齢者の割合が急上昇する。同時に相続の大量発生も見込まれ、団塊ジュニア世代が問題に直面することになるでしょう。空き家問題は更に深刻化する恐れがあります」。全住宅に占める空き家の比率は、2013年で13.5%。世帯数の減と住宅増加で、2033年に30%を超えるとの予測もある。「一方、活用法が見つからないような空き家が散在する地域の隣で、新たな宅地が開発されている。道路、小学校、公園等、居住の基盤が整っていない地域で新築住宅が作られ続ければ、インフラの整備費用が必要になる。防災対策やゴミ収集等、公共サービスが必要なエリアが増え、多額の税金が投入されることになります。対策として望ましいのは、新築住宅を建てる際、空き家の立つ土地や空き地を活用してもらい、居住地を無秩序に広げないことです。人口減少と財政難で、自治体はいずれインフラを維持するエリアを絞らざるを得なくなる。例えば前橋市では、実家近くの空き家を解体して新築や改修をすると補助金が出る制度があります。空き家の解消と、2世代近居で市に人を留める効果が同時に期待できる良い施策です。“土地は必ず値上がりする”という土地神話は崩壊しました。今後、住宅は買い手が見つからず、税金や管理費等を払うだけの“負動産”になるかもしれない。既存の住宅を使う仕組みが、事業として成り立つようにする必要があります。中古住宅の流通の他、価値や機能を高める改修(※リノベーション)をして再販するビジネス等がもっと広がるべきです。住宅以外の使い方等、アイデアも問われます。政策的にも、住宅政策、都市計画、税制が連携した対応が求められます。新築物件は固定資産税が減免されますが、例えば居住を誘導する地域とそうではない地域で差をつけることも一案でしょう。我々個人の意識も変えていく必要がある。家を買う人は、自動車を買うような感覚ではなく、子供が相続した後にかかる将来のコストも考えないといけません。立地や交通の便が悪い大規模な住宅団地では、空き家の活用が難しいケースが出ています。長期的な視点が大切です。何十年も放置された空き家は対処が難しい。相続が発生したら、問題を先送りせず、直ぐに考えること。親世代もエンディングノートに自宅の引き継ぎに必要なことを記し、子供の世代にツケを残さないようにするべきです」。 (聞き手/経済部 水上嘉久)


⦿読売新聞 2018年2月14日付掲載⦿

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【2018年の世界経済を読み解く】(09) 地球を救うビジネスモデル

20180215 07
今の時代、どこの国も其々悩みは尽きない。格差と分断が極限まで進んで崩壊寸前だとか、経済成長が止まって政府の懐が寂しいとか。それでも、何が問題なのかを国民全てが理解し、行動を起こそうと決意すれば、どうにか悩みは解消できるものだ。しかし、気候変動は全ての国に共通する問題だ。科学者たちは問題の本質を理解し、どう対処すべきかでもほぼ合意に達しているが、そうした対策を実行しようという社会的機運は未だ盛り上がっていない。言うまでもないが、気候変動の主たる原因は、18世紀後半の産業革命にある。あの時から化石燃料の野放図な使用が始まり、大気中に大量の二酸化炭素(※CO2)がまき散らされてきた。結果はどうか? 被害は深刻で対策は高くつくが、放置すれば人々の生存を脅かすところまで来ている。海水温の上昇でハリケーンや台風は巨大化し、大気汚染は世界に広まり、海面上昇は沿岸部に水没の危機を齎している。エコノミストのジェフリー・ヒールは著書『危機に瀕した経済』で、これ以上の温暖化を防ぐ官民の取り組みを精査した上で、「現時点でも地球環境に与えられたダメージは深刻なものであり、それは私たちの生存のみならず、多くの企業をも脅かす」と指摘した。企業活動も、植物の受粉や水の循環、海や森の生態系といった自然の恵みを無償で利用しているからだ。つまり、こうした“自然資本”の保護は、投下資本に対する利益率の向上に繋がる。そうとわかれば、企業は投資を増やし、それで生産性が向上すれば更なる投資が可能となり、自然資本の保護が一段と進む可能性はある。自然資本が枯渇するほど急速な経済成長を、私たちは求めてはいけない。求めるべきは、環境の汚染や破壊を伴わないグリーンな成長であり、一方で環境保護が技術革新や経済成長を阻む事態も避けねばならない。

コロンビア大学の経済学教授で数学者のグラシエラ・チチルニスキーによると、温暖化を抑制して人類が生き延びるには、大気中に放出されたCO2を回収し、地中や水中に封じ込めることが必要だ。勿論、費用はかかるから、「貯留したCO2を売買できるような市場を作り出すべきだ」とチチルニスキーは言う。農業分野で言えば、CO2を含んだ家畜の排泄物等を地中に埋めて肥やしにし、土壌を改善する“再生型農業”もあり得る。生物学者のアラン・セイボリーがパタゴニア等で挑戦しているものだ。こうした取り組みで利益が上がるなら、政府の後押しが無くても、民間企業も挙ってCO2貯留ビジネスに参入するだろう。但し、貯留したCO2の供給が増えて価格が下がった場合にも、利益が出る保証は無い。一方で、果てしない人口増加、産業化の進展、脆弱なガバナンスといった問題にも対処しなければならない。気候変動との戦いのせいで、国民の生活の質が下がらないようにする配慮も必要だ。「気候変動に関する科学的な理解は深まり、どんな対策が必要かもわかったから、もう心配は無い」と思われるかもしれない。しかし、企業が政府に強制されなくても、自主的に必要な対策を取る保証は無い。利益追求と社会的な大義は必ずしも両立しないからだ。問題は、あまりに多くの人が「一般の企業や家庭、或いは政治家は科学者の助言に従うだろう」と思っていることだ。「企業が社会的な圧力や政府の規制に屈して環境破壊的な行為を止める」とか、「政府がCO2の排出削減・停止に向けて炭素税やCO2の排出権取引を導入するだろう」と期待するのは間違いだ。何しろ、環境破壊の抑制は簡単なことではない。たとえ、大企業が贖罪の為に本気でアマゾンの熱帯雨林再生に取り組んだとしても、地球の総人口が今も増え続け、それだけ多くのCO2を吐き出しているという事実は変えられない。ここが厄介なところだ。エコノミストでキール大学教授のデニス・スノアーが何年か前に指摘した通り、私たちの何げない活動(※釣り、薪ストーブでの調理、水の流しっ放し等)も環境破壊の大きな原因となり得るのに、その点については政府も地域社会も私たち自身も殆ど気付いていない。つまり、真に地球環境を守ろうと思えば、企業に「利己的な行動を止めろ」と迫るだけでは足りない。もっと道徳的な働き掛けが必要で、私たち1人ひとりが利他の意識に目覚め、自発的に環境破壊と温暖化の防止に努めなければならないということだ。別の問題もある。今も未だ多くの国が発展途上にあり、仮に各国が“1人当たりの”環境負荷を減らすことに成功したとしても、工業部門で働く人が増える限り、地球規模で見たCO2の排出量は増え続ける。いくら自然資本の保護に対する投資を増やしても、人口増の影響を相殺できる保証は無く、政府が企業の利己的な行動を阻止できる保証も無い。更に厄介な事情もある。若しも、ある国の国民の大半が貧しく、いつの日か欧米の富裕国に負けない豊かさを手に入れようとしていたら、その政府は何をするだろう? 経済成長の達成が第一だから、CO2、その他の環境汚染物質の排出削減は後回しにするのではないか? 因みに、現状では世界の自然資源の80%を総人口の僅か20%が消費している。それでも、生存の権利は、どこかの国が経済成長の為に地球環境を破壊する権利に勝る。そうであれば、気候変動との戦いを主導する諸国は、コストを理由にCO2の排出削減を渋る国々に厳しい姿勢で臨むしかない。

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