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【未来の食卓】(07) 食を通じた縁、紡ぐアプリ

20230526 08
「絵本に出てくる蕪だよ」「皆の分を抜こうね」――。東京都千代田区のビル屋上にあるシェア農園『ザ・エディブルパーク・大手町』で昨年12月、会社員の玉村章祐さん(40)と長女の千代希ちゃん(2)が、男女10人程と蕪や白菜を収穫していた。同年5月に開設された同パークでは、プランターで約20種類の野菜を栽培。ビルで働く人やその家族、飲食店、地元住民ら会員60組が、手の空いた時に水やり等を行ない、育てる野菜は話し合って決める。参加者を結ぶのが、畑にあるセンサーと連動したスマホアプリだ。センサーは気象データを記録し、AIが必要な農作業をアドバイス。カメラで成長も確認できる。誰がいつ何の作業をしたかは随時、配信される。この日は近くの料理店に野菜を持ち込み、野菜炒めやサラダ等として皆で味わった。玉村さんは、「農作業を通じて知り合いが増えた。子供も可愛がってもらえ、来るのが楽しみ」と笑った。こうした農園は現在、全国に500ヵ所以上あり、総面積は2㏊超に。アプリを開発した『プランティオ』の芹沢孝悦代表は、「農作業と食を楽しむ新たなコミュニティーを広げたい」と話す。“同じ釜の飯を食う”――。苦楽を共にした親しい間柄をこう言い表すように、食には人と人を結び付ける機能がある。今、最新技術が新たな縁を紡ぎ始めている。

埼玉県桶川市の会社員、森山美和さん(54)の元に今月6日、職場近くのパン店から商品が余りそうだという“レスキュー”メッセージが届いた。発信したのは、東京都内の『リトルマーメイド』王子店。駆けつけた森山さんは、1000円相当のパンセットを680円で入手し、笑顔を見せた(※左上画像)。「美味しいパンを割安で購入できて満足です」。店の担当者も「買ってもらえてありがたい」と喜んだ。店と消費者を仲介するのは、スマホアプリ『TABETE』だ。食品を廃棄せざるを得ない小売店が、余りそうな商品を割り引いてアプリで呼びかけ。応じた利用者がアプリで決済し、店に取りに行く。物価高騰が家計を圧迫する中、アプリの利用は好調だ。運営会社『コークッキング』によると、利用者は全国に約65万人、参加店舗は約2500店に。2018年のサービス開始以来、約250トンのフードロスを削減した。同社の伊作太一さんは、「直接会う為、会話が生まれ易く、人の輪が広がっている。助け合いも実感できる」と話す。最新型の台所をコミュニケーションの拠点とする試みもある。武蔵野美術大学の山崎和彦教授は、民間企業や自治体と“ソーシャルキッチン”の実用化を目指す。深刻化する個食化、孤食化を食い止めるのが狙いで、「人の繋がりをキッチンから取り戻したい」と意気込む。開発した長机ほどの台所は、移動可能で、独立した給排水システムを備える。高さも調節できる為、子供や車椅子利用者も使い易い。山崎さんは、「餃子の材料を用意し、自由に作ってもらう実験では、初対面でも協力し、仲良くなれることがわかった」という。コンポストと野菜栽培装置を組み込んだ、持続可能なキッチン等を今後、作っていきたいという。食を通じた緩やかな繋がり“縁食”を提唱する京都大学の藤原辰史准教授(農業史)は、「フードテックは持続可能な食生活や利便性向上等が重視されがち。漸く、人と人を結び付けようとする視点が出てきたが、未だ乏しい」と指摘する。利便性の追求により自然環境の破壊が進む等、我々が失ってきたものは大きいことを例にし、藤原さんは「フードテックは単なる道具に過ぎない。大事なのは、食が果たしてきた役割を歴史的に振り返りつつ、どんな食卓、どんな生活を我々は目指していきたいのかを考えることではないか」と話す。 =おわり

          ◇

斉藤保・加藤亮・梶彩夏が担当しました。


キャプチャ  2023年1月12日付掲載
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【未来の食卓】(06) 隠し味“電気”、薄味を濃く

20230526 07
白色のお椀の底を包み込むように持ち、中の減塩味噌汁を啜ると――。ジーンと舌を刺激するような“通電”感覚と共に、味噌汁の塩気や旨味がふわっと広がる。『キリンホールディングス』と明治大学が共同開発した『エレキソルト』(※右画像)は、薄味の料理でも塩味を最大1.5倍強く感じられるという夢のような器だ。仕組みはこうだ。人体に影響のない電気を流し、食品に含まれるナトリウムイオンの動きをコントロール。塩味や旨味を舌に伝える。このお椀を日常的に使う等の実証実験に昨年秋、全国の男女約60人が参加した。高血圧等を気にして減塩食を選ぶものの、味に満足できずにいる人達が中心だ。参加者からは、「同じ味噌汁とは思えないほど塩味を感じ、驚いた」といった喜びの声が相次いだ。同社が減塩に取り組む男女120人に調査したところ、「薄味ではなく濃い味で食べたいもの」の1位はラーメン、2位は味噌汁だった。厚生労働省によると、日本人の1日の食塩摂取量は男性10.9g、女性9.3g。国は、男性7.5g未満、女性6.5g未満を推奨するが、『世界保健機関(WHO)』は5.0g未満としている。世界的に見ても日本人は塩分過多の状態で、生活習慣病等が懸念されている。開発を担当した同社の佐藤愛さんは、「薄味に変える食事療法はつらい。美味しいを諦めないでほしいと願い、開発に取り組んでいる」と話す。スプーン形の商品も用意し、今年中の販売を目指す。

最新技術で人の五感を操り、食事を本物以上に美味しく感じさせる――。一見、騙しの技術のようだが、制限のない、幸せな食生活を追求し、多様な研究が進んでいる。視覚を操作し、食品を別の味に変化させる研究に取り組むのは、奈良先端科学技術大学院大学博士課程3年の中野萌士さんだ。使うのはゴーグル。装着してにゅうめんを食べると、当然、そうめんが見え、出汁の味がする。ところが、ゴーグル越しに見かけが焼きそばに変化すると、それまであった出汁汁がなくなったように感じ、どことなくカップ焼きそばを食べた気分になる等、不思議な変化が起きる。中野さんは大学1年の時に消化器官の病、クローン病を発症し、食べられるものが限られるようになったことから、この研究を始めた。「映像をよりリアルにし、香りも使って嗅覚を刺激すれば、より変化が大きくなる可能性がある」と説明する。口の中は空っぽなのに、まるで食べているような食感の再現を試みるのは『パナソニック』だ。名刺大の機械を頬にあてて歯を噛み締めると、ブルッブルッという振動と共に、唐揚げを噛んだ時の“かりっ”という音が流れる。繰り返し噛み締めていると、唐揚げを食べているような気分に。開発者の小川慧さんは、「まだまだ試作段階です。将来、蒸し鶏を食べながら使用すれば、唐揚げを食べた気になれる。そんな使い方もできるようになるかも」。こうした研究開発の背景には、視覚や聴覚に比べ、出遅れていた味覚分野に着目する企業や研究者が増えてきたことがある。明治大学の宮下芳明教授は、味を数値化し、塩化ナトリウム(※塩味)やスクロース(※甘味)、食用色素等9種類の溶液を食材に吹きかけて、100万通りの味や見た目を再現できる装置を作った。装置は1万円程の材料で誰でも製造できるそうだ。「例えば、この仕組みをオーブントースターと組み合わせ、焼いたパンにピザ味の溶液をかければ、チーズやソースがなくてもピザを楽しめる」と宮下さん。アレルギーのある人も心配がいらないという。「完全栄養食や3Dフードプリンターと組み合わせれば、好きなものを好きな味で楽しめるようになる。最新技術を組み合わせることで、将来、我慢のいらない世の中が到来するのではないか」と語った。


キャプチャ  2023年1月11日付掲載

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【未来の食卓】(05) 昆虫食定着へ知恵絞る

20230526 06
英語で蟻と蝉の意を持つレストラン『ANTCICADA』は、予約の取り難い人気店だ。「芳香を楽しんでみて下さい」。昨年11月の昼、初来店の会社員、パウリーナ新子さん(※左画像の左)は店員の声を聞きながら、コース料理の前菜、野菜とクリームチーズのクレープを頬張った。「わっ、洋梨の香りがする」。店員の「水生昆虫のタガメの肉。オスのフェロモンは洋梨の香りそっくりなんですよ」という説明に頷きながら、パウリーナさんは「初めてですが、食べ物として十分美味しい」と笑顔を見せた。2020年に開業した同店は、可能性を秘める昆虫やジビエを品良く調理し、提供する専門店だ。この日は、コオロギの旨味が利いたラーメンや、噛むと杏仁豆腐の香りがするハムシの幼虫のデザート等、約10品に客らは舌鼓を打った。料金は、飲み物込みで1万1000円だ。国連食糧農業機関が、世界的な食料危機を懸念し、昆虫食を奨励する報告書を出したのは2013年。人口増加で蛋白質の需要は右肩上がりだが、家畜用の飼料を作る土地は限られる。小さな面積と少ない餌で、効率的に生産できる昆虫は、有望な蛋白源として熱視線を集める。店の代表である篠原祐太さんは「とはいえ、中々受け入れられない。兎に角、美味しいと思ってもらうことが大事」と言い、腕利きのシェフらとメニュー開発に励む。

EUではコオロギやミールワームと呼ばれる幼虫の安全性が確認され、商業化が進む。国内でも採卵、給水・給餌等を自動化する動きがある。安定供給を支えるのは最新技術だ。銘柄牛に倣い、昆虫のブランド化に取り組む動きもある。昆虫食販売会社『TAKEO』は、ご当地昆虫で勝負をかける。広島で養殖する“広島コオロギ”は、アーモンドを餌にし、オレイン酸豊富な香ばしい甘みが特徴。京野菜で成長した京都育ちの“京都コオロギ”は優しい出汁が出る。同社の斎藤健生さんは、「昆虫の消化器官は単純なので、餌の味の影響を受け易い。色々な美味しさがあることを知ってほしい」と話す。大学の学生食堂や高校の給食等でコオロギが使われる例も。徳島県立小松島西高校では、コオロギ養殖を手がける地元企業の協力を得て、昨年11月、生徒が調理を行なう給食でコオロギの粉末入りコロッケを出した。希望した生徒らが味わい、好評だったという。大手も参入している。『無印良品』は粉末化したコオロギ入りのチョコレートや煎餅を発売し、話題を集める。『日本能率協会総合研究所』の調査では、昆虫食の市場規模は、世界で2019年度に約70億円だったが、2025年度には1000億円に達する見込みだ。古くからイナゴやザザムシ等を郷土食としてきた長野県の『伊那市創造館』の捧剛太館長は、「美味しいだけでなく、捕る楽しさもあり、文化として続いてきた。古くは全国各地で食べられていた」と話す。昆虫食への関心の高まりを受け、地元の販売店には全国各地から注文が舞い込んでいるという。今後、昆虫食は定着するのか。農業史に詳しい大阪樟蔭女子大学の野間万里子准教授は、明治維新を機に庶民が未知の食材だった牛肉を食べるようになったことを例に、こう説く。「食肉と文明開化が結びつき、“牛鍋食わねば開化不進奴(ひらけぬやつ)”という言葉が生まれた。肉を食べることが時代の最先端だったという点では、現在の昆虫食もそれに近い。食料難という世界規模の課題を抱える今、時間をかけながら受け入れられていくのでは」。


キャプチャ  2023年1月7日付掲載

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【未来の食卓】(04) 植物由来の“肉”、続々と

20230526 05
東京都内でイベント企画会社を経営する清水優希さんは“ゆるベジタリアン”だ。1週間のうち2日はなるべく動物性食品を避け、野菜や植物由来の食品(※プラントベース)で過ごす。緩やかな菜食主義生活を続けて約1年になる。そんな清水さんがよく訪れるのが、専門レストラン『プラントベースド東京』だ。お気に入りは“濃厚ソイうにクリームパスタ”(※右画像)。「臭みもなくて本当に美味しい」と絶賛するウニは、見た目も味も本物そっくりだが、実は豆乳ペースト等からできている。店にはホイコーローや唐揚げ、ビビンバ等、ボリュームのあるメニューも並ぶが、全て植物由来の食品だ。「夜遅くに食べても翌朝、体が軽い。味も凄く良くて満足できます」と清水さん。店の運営会社によると、2021年7月の開店時と比べ、売り上げは1.5倍と順調だ。こうした食生活を支持する人は、一定数いるようだ。大学2年の板谷舞華さん(20)もそのひとり。「大豆肉等で美味しそうな料理が作れた時は、SNSに料理写真を投稿しています」と話す。プラントベースポータルサイト『Vegewel』が約2400人を対象に2021年に実施した調査では、週に1回以上、意識的に動物性食品を減らす食生活を送る“ゆるベジ”と呼ばれる人たちは、全体の15.8%に上った。こうしたニーズを背景に増えているのが、植物性由来の代替食品だ。

加工技術の進化もあり、特に大豆の躍進は目覚ましい。最近はツナやウナギ等のシーフードにも姿を変えている。海外では、小麦や豆の蛋白質から、サーモンやイカを作る動きもある。調査会社『シードプランニング』によると、国内の市場規模は2030年に780億円に達する予想で、10年間で約2.3倍に拡大する見通しだ。大豆に頼らない、代替肉の開発も進む。山形大学は民間と協力し、輸入の必要がない、米から肉を作ろうとしている。米油の副産物の脱脂米糠から蛋白質を抽出し、肉にするのだという。同大の渡辺昌規教授は、「食感を調整できる為、誰でも食べ易い肉が作れる。農家の収入アップも見込めて、持続可能性が高い」と胸を張る。今後、味を調整し、来年の商品化を目指している。ここまでして代替肉を模索するのは何故なのか。牛のゲップから出るメタンガスは地球温暖化の一因とされる等、畜産は環境負荷が大きい。世界人口が急増する中、海外の飼料や輸入肉に頼る日本で、将来も美味しい牛肉を手頃な値段で食べ続けられるかどうかは不透明だ。「何れ今と同じようには牛肉を食べられなくなる可能性もある。食糧危機に備える選択肢として、培養肉の技術は必要」と話すのは、東京大学の竹内昌治教授だ。昨年3月、国内で初めて牛の細胞を増殖させて作る培養肉の試食にこぎ着けた。噛み応えはあったが、未だ牛肉の風味はなかったといい、その原因を探っていくつもりだ。目指すは、筋繊維のあるステーキのような肉だという。植物性の肉や培養肉といった代替品は、今後、定着していくのだろうか。女子栄養大学短期大学部の豊満美峰子教授は、「食事をとる際、見た目や原材料等の情報は、味を左右する大事な要件になる。代替肉と言われると、これまでの食経験から肉と同じような見た目を求めてしまいがちだ」と話す。「肉に似せても、味の再現には程遠い。新たなジャンルの食品として理解を広げていくほうが成長を見込めるのでは」と話すのは、プラントベース研究家の池上紗織さんだ。日本人は古くからがんもどき等、大豆の加工品を数多く作って食べてきたといい、「植物由来の食品を好んで食べる姿は、実は原点回帰とも言える食行動」と話す。池上さんは、「嘗て一般的だった鯨肉は、今や珍味だ。何れ家畜動物もそうなる日がくるかもしれない。植物性でも培養肉でも、若い世代は拒否反応より新しいものへの関心が強い。将来、幅広い“肉”が食卓に並ぶ可能性は高い」と指摘する。


キャプチャ  2023年1月6日付掲載

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【未来の食卓】(03) 有名シェフの味、鍋が再現

20230525 05
東京都内のパート社員、三沢友美さん(43、左画像、撮影/岩佐譲)は知人の薦めで、昨年1月からスマートキッチン家電『ヘスタンキュー』を愛用する。アメリカ生まれの鍋で、専用のIHヒーターとアプリを近距離無線通信『ブルートゥース』で連動させて使う。アプリの中には、すき焼きやかき揚げ等の家庭料理から、世界各国の有名シェフが考案したレシピ等450種がずらり。選ぶと、調理法が動画で流れる為、初めての料理にも挑戦し易い。手順通りに食材を入れると、プログラムを読み取った鍋が加熱時間や、火加減も1℃単位で調整し、加熱を始める。まさに、車の自動運転のような印象だ。「実は長年、煮物ってどこまで煮たら完成なのかよくわからずにいましたが、これなら牛肉と野菜の煮物が約10分で煮上がる。最適な加熱時間で作れるので、時短にもなって便利」と三沢さんは喜ぶ。料理初心者の夫も、角煮等を作るようになったそうだ。販売会社『フェリシダ』によると、この家電は2015年、失敗のない調理体験を全ての人に提供したいと誕生。今は世界20ヵ国で流通する。価格はIHヒーターと鍋を合わせて8万8000円と割高だが、50代の男女に人気だ。フライパンもある。同社社長の上野雄太郎さんは、「食材キットの開発等を進めれば下拵えも不要になる。誰でも料理を楽しめるようにしたい」と意気込む。これまで料理は、一定の調理技術やレシピを読み解く力が必要とされてきた。特に美味しさを左右する火加減や調味は、経験に基づく塩梅や勘がものをいった。

しかし、その領域でもデジタル化が進む。味付けに自信がない人の味方になりそうなのが、『ルナロボティクス』の調味料プリンター『コロニー』だ。30㎝四方の箱型で、醤油や酒、胡麻油、塩水等、最大19種類の液体調味料が内蔵されている。専用アプリと連動させて作りたいレシピを選ぶと、合わせ調味料を自動調合してくれる。あとは、食材と合わせて煮たり焼いたりするだけで、味が決まるというから驚きだ。レシピは肉じゃがやおひたし等数百種類で、随時追加される。今年には外食産業向けに貸し出しを開始し、数年後には家庭向けも販売する予定だ。「味のデジタルデータ化を進め、今後は、おふくろの味や郷土の味等も保存し、必要な時に誰でも再現できるようにしたい。将来は、推しのアイドルの手料理の味等を自宅で再現できるようになる」と同社担当者は未来を描く。こうした家電への需要の背景には、家族の姿の変化があるようだ。内閣府によると、共働き世帯は増加傾向で2021年は1177万世帯。“男性雇用者と無業の妻からなる世帯”の2倍以上だ。「共働き世帯を中心に、調理の簡便化を求める声は根強い」と話すのは、『シャープ』キッチン事業部長の池上教久さんだ。同社では、2015年に自動調理家電『ホットクック』を発売。炊飯器のような釜に食材や調味料を入れるだけで、カレーや筑前煮等が作れる手軽さが受けて、約50万台売れた。「もっと暮らしを便利にし、家事時間の負担を減らしたい」と話す。外食産業では、人手不足解消を狙い、ロボットの参入が進む。昨年6月、東京都内に開業した『エビノスパゲッティ』では調理ロボットが働く。同時に最大4つのフライパンを操り、ソースを絡めたり、食洗機に道具を入れたり。一皿を最短45秒で仕上げる。店を運営する『プロントコーポレーション』担当者は、「味がいつも均一なのが利点。ロボットが作っているとは知らずに食べている方も多い」と話す。同社と共同で開発した『テックマジック』は、今後、家庭用の調理ロボット開発も進めたいという。和洋女子大学の大石恭子教授(調理科学)は、「調理家電が提供するレシピは豊富とはいえ、画一的で満足できない人もいるのでは」と指摘する。「その日の気分や誰と食べるかによって、味付けをアレンジする等、調理過程そのものが料理の楽しさであり、妙味。調理家電の便利さはわかるが、広がりは限定的なのではないか」と話す。


キャプチャ  2023年1月4日付掲載

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【未来の食卓】(02) 完全栄養食ゴクリ、1食1分

20230525 04
東京都内のIT企業役員、笠原元輝さん(33、右画像、撮影/木田諒一朗)の食事は無駄がない。食べるのは、ビタミンやミネラル等国の食事摂取基準で設定された栄養素をバランス良く詰め込んだという“完全栄養食”だ。粉状のものを、豆乳や抹茶と一緒にシェーカーに入れて振って混ぜ、そのままぐいっと飲み干す。平日は3食ともこれでおしまい。この食事スタイルを貫いて4年になる。「噛んで食べる食事は時間がかかりますが、これなら準備を含めて1分で済む。その分、仕事や勉強の時間を増やせます」と笠原さん。咀嚼しないせいか、唾液が出難い点はガムを噛んでカバーする。健康診断の結果は良好だという。「他人に比べて食事に興味が薄いのかも。栄養さえ取れればいい。仕事を続ける限り、結婚しても今の食生活を続けるつもりです」と話す。食べる喜びより、栄養価の高さ等機能を求める傾向は高まっているようだ。『キリンウェルビーイング研究所』が2019年に10~60代の男女約8000人を対象にした調査では、「栄養価・安全性などの機能か、食の楽しみ・だんらんのどちらを重視するか」の問いに、「機能を重視」と答えた人は49.2%と、2013年調査より14ポイント増えていた。子育てが終わり、自身の健康が気になる60代女性では61.5%と、最も機能を重視していた。

同研究所シニアフェローの太田恵理子さんは、「時間の効率化を求める傾向が強くなり、食事にも、手軽に短時間で栄養価の高いものを摂取したいという考えが広がっている」と話す。食品製造技術の向上で、機能的な食品は増え続けている。『日清食品』が昨年9月に出した冷凍食品『完全メシ』シリーズも、そのひとつだ。牛丼や担々麺等5種類あり、“栄養バランスを考えるのがめんどくさい人に!”と宣伝する。即席麺作りで培った技術を応用し、栄養素の苦みやえぐみを感じさせず、美味しさと栄養バランスの両立を実現したという。個人の生活状態を踏まえた上で、その人に合わせた食事を提供するサービスもある。『マッスルデリ』が手がける『ユアミール』は、まさに“個人に最適化した超個食”だ。例えば、身長と体重を入力し、3ヵ月後に5㎏の減量を目標にする。そして、睡眠時間や食の好み等計約20の質問に答えると、約150のメニューから目的にあった弁当が30種類表示される。中から気に入ったものを選ぶと冷凍で届く。初回割引もあり、送料込みで1食当たり約900円。同社執行役員の山岡大介さんは、「情報は溢れているが、本当に自分に向く、美味しい商品を探すのは容易ではない。最適な栄養素を含む食事で、その人の生活を応援したい」と話す。日本人の食卓を長らく調査してきた大正大学の岩村暢子客員教授は、「アスリートが取り入れるスポーツ栄養学が数年前から注目され、部活動に熱心な親子を中心に一般家庭にも浸透してきた」と説明する。今後は、個々に栄養を自己管理する“セルフ食”が広がると予想する。一方で、「準備が面倒な一汁三菜等ではなく、カレーや丼等、食べ易い単品料理に必要な栄養素を全て詰め込んだ加工食品が今後、もっと増え、食事の中心になっていくかもしれない。しかしそれは、良い食材を提供する農業、漁業の衰退化や食体験の豊かさを低下させることに繋がる」と警鐘を鳴らす。


キャプチャ  2023年1月3日付掲載

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【未来の食卓】(01) 食品、3Dプリンターで出力

介護食を出力する3Dフードプリンターや、米糠から作る肉――。最新テクノロジーと食が融合したフードテックが広がり、今までになかったような食品やサービスが登場し始めている。私達の生活はどう変わっていくのだろう。一足先に“未来の食卓”を紹介する。

20230525 03
「ウィーン、キウィーン」――。リズミカルな音を発し、3Dフードプリンターが動く。電子レンジより一回り大きな庫内で、ノズルが小刻みに揺れ、原料のマッシュポテトを糸状に積み重ねていく。約10分後、“ロブスター”を出力した。「おお、意外と立体的」。プリンターを2台購入した岐阜県の結婚式場『アンジェミエル』の総支配人、柴田智弘さんらは昨年12月、東京都の販売元とのウェブ会議で操作法を学びながら笑顔を見せた(※左画像)。披露宴では「歯が悪くて食べられない」と訴える高齢者が増加し、別メニューを用意することもある。本人の要望でオマールエビを細かく切って出したところ、喉に詰まらせ、出席していた看護師らの対応で大事に至らなかったこともあった。そこで着目したのがプリンターだ。1台約100万円と安くはないが、例えばロブスターをペースト状にし、プリンターで本物そっくりに成形することを目指す。「これで皆で同じ料理を囲み、新郎新婦を祝福できる。今秋にも提供したい」と柴田さんは話す。高齢化が進む日本では、見栄えのする介護食作りへの応用に関心が高い。今年度、プリンターに特化したゼミを開講した十文字学園女子大学では、9台を導入。ゼミ生は増粘剤等を調節しながら、介護食の試作と試食を重ねている。同大の高谷和成特任教授(※食品開発)は、「従来のペースト状の食事では高齢者の食欲を刺激し難いが、プリンターを使えば噛む力に応じながら本物に近い形に成形可能だ」と話す。

一般家庭でも作れる時代が来るのか。「電子レンジ機能を内蔵した製品の量産が進めば、普及する可能性はある。在宅介護の質も向上するし、日本はプリンターで世界をリードできる」と期待する。新発想のウニ寿司は如何――。東京都内で昨年12月、黄色い1㎝四方の立方体を乗せた軍艦巻きの試食会があった。「本物みたいな食感」「磯の風味が程良い」等、感嘆の声が上がった。作ったのは、大学や企業、料理人らで作るチーム『オープンミールズ』だ。ウニは近年、各地で大量発生し、海藻を食べ尽くす“磯焼け”を引き起こしている。駆除しても可食部分が少なく、廃棄されてきた。代表の榊良祐さんは、「可食部分を集め、プリンターで成形すれば、新しいウニができる」と語る。山形大学が開発した最新プリンターを使用。粉末化したウニ等を入れた液体にレーザーを照射し、熱で固めると、1時間程で出力される。未利用だった食材を活用でき、デジタルの力で持続可能な社会を目指す。跳ね返る食感が楽しめる『ハニカムタコすし』等、新たな構造の寿司等も模索している。プリンターならではの造形を追求したのが、新興企業の『バイトバイツ』だ。内側は中空で、厚さ1㎜程のチョコレートを昨年5月、都内で販売。2個入り1400円と高額だったが、珍しさから120セットが売れた。プリンターの活躍の場は地球上にとどまらない。将来は月での食事会にも役立ちそうだ。『宇宙航空研究開発機構(JAXA)』もプリンターの可能性に注目し、民間企業等と月面や宇宙での活用を探っている。『フードテック革命』等の著書がある『シグマクシス』役員の田中宏隆さんは、「最新のテクノロジーが社会課題を解決し、生活を豊かにする可能性がある。但し、安全基準等の情報公開が重要だ。電子レンジも当初は漠然とした不安を訴える人がいたが、今では生活必需品となっている。消費者も本当に役立つのか、読み解く能力が求められる」と話す。食の海外依存度が高い日本では、フードテックへの関心が膨らむ。例えば、環境負荷の低い植物由来の大豆肉や昆虫食の開発、AIやロボットの活用による人手不足解消等、官民挙げて普及啓発が進む。食文化に詳しい梅花女子大学の東四柳祥子教授は、「日本の食卓は三度目の大きな変革期に差し掛かっている」と指摘する。最初は、明治維新以降。銘々膳から卓袱台に移行が進み、一家団欒が重視された。家庭で様々な料理が作られるようになった。次は、戦後のダイニングキッチンの登場だ。それまでの寝食同室の様式と大きく異なるスタイルは、主婦の憧れに。高度成長期には食の簡便化が進んだ。「身近な食材で料理を作る時代から、今まで見たことのないような食品をボタン一つで“創る”時代が近付きつつある。未来への期待はあるが、四季折々の食材を、知恵と工夫で調理する和食文化の豊かさも再確認したい」と話す。


キャプチャ  2023年1月1日付掲載

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【レトロ×エコノミー】(07) 「手間や不便さ、発信楽しむ」――長田麻衣氏(『渋谷109ラボ』所長)

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230114-OYT1T50270/


キャプチャ  2023年1月15日付掲載

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【レトロ×エコノミー】(06) “対面”の価値、再認識

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230109-OYT1T50213/


キャプチャ  2023年1月10日付掲載

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【レトロ×エコノミー】(05) デジタル“解毒”に需要

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230108-OYT1T50191/


キャプチャ  2023年1月9日付掲載

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George Clooney

Author:George Clooney

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