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【水曜スペシャル】(603) 原辰徳氏が目指すは終身名誉監督!? 低迷続きの巨人軍から聞こえる不協和音

20230524 06
不振の『読売ジャイアンツ』の原辰徳監督の交代論がメディアで噴出しているが、辞める気配はない。昨シーズン、4位だったにも拘わらず続投したのは「渡邉恒雄氏(※読売新聞グループ本社代表取締役主筆)の意向」(読売新聞OB)とされる。渡邉氏をバックにして、原氏は選手の給料も決める権限まで持つ「暴君と化している」(巨人軍関係者)。また、『東北楽天ゴールデンイーグルス』元監督の大久保博元氏が今年、打撃チーフコーチとして突如入団したが、チーム内には十分説明されず、「原氏へのコーチ陣の不信感が広がっている」(スポーツ紙記者)という。選手のダーティーなイメージも拭えない。中田翔選手や坂本勇人選手等問題を起こした選手達に加え、今年、新たに楽天イーグルスで素行が問題視されたオコエ瑠偉選手を獲得している。辞める気のない原氏は、長嶋茂雄氏と同じ「終身名誉監督を目指している」(前出OB)と指摘されている。渡邉氏や長嶋茂雄氏ら読売グループ特有の“終身”という権力構造故に、「自分も…」との思いがあるのだろうか。“名門”の看板は煤けていくばかりだ。


キャプチャ  2023年5月号掲載
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テーマ : スポーツニュース
ジャンル : ニュース

【WEEKEND PLUS】(357) 舞台と経験を後輩選手へ…テニス界のレジェンド・伊達公子さん、成長へ「変化恐れず」



20230519 08
コートに転がったボールを選手が自分で拾い、1人の線審が移動しながら複数のラインを判定する――。大阪市で先月、新設の国際女子テニス大会『大東建託オープン』が開かれた。プロテニスツアーの下部大会という位置付けなので、この光景は珍しくない。変わっているのは、大会に込められたメッセージだ。「心地悪い大会なので選手は来年、戻って来ないで」。運営の指揮を執ったのは伊達公子さん(52、右画像、撮影/喜屋武真之介)。日本人で初めて女子シングルスの世界ランキング4位になったテニス界のレジェンドだ。6年前に2回目の現役生活を終え、今は次世代の育成に情熱を注ぐ。本人も「まさかここまで」と漏らすほどのめり込んでいる。選手が出場できる大会は世界ランクによって決まる。賞金、食事、試合中に使われるボールの数といった選手の待遇は、下部の大会ほど厳しい。そして、より高いレベルの大会に出場する為の通過点に過ぎない。「早く抜け出して、二度と帰って来てほしくない」。だから、大東建託オープンにはそんな思いをメッセージに込めたのだ。私(※記者)は伊達さんの1学年下の元プロ選手。高校総体で初めて対戦した36年前から“天才”と評するしかない彼女の姿を、一歩後ろで見つめてきた。伊達さんが世界4位になった1995年は、日本女子テニスの全盛期だった。開幕中に阪神・淡路大震災が発生した四大大会の全豪オープン。シングルスの本戦128人中、日本女子は伊達さんを筆頭に史上最多の11人が出場した。その一人だった私も出場する少し前までは、「四大大会で活躍するのは欧米人ばかり。日本人には無理」と思っていた。身長163㎝と小柄な伊達さんが世界の壁を破り、私達も心の壁を越えた。

それから27年後の昨年6月。伊達さんが発起人になり、過去に女子テニスの世界50位以内に入った元選手で後進を育成する一般社団法人『Japan Women's Tennis Top50 Club(JWT50)』を創設した。世界100位以内に現在、日本人はいない。伊達さんは「危機的な状況」と認識している。「日本から強い選手が育ってほしい。自分達の経験を次世代に伝えることが、大切な要素になるんじゃないか」。伊達さんは元世界8位の杉山愛さん(47)らに声を掛け、ジュニア育成に本格的に取り組むことにした。活動の柱の一つに据えたのが大会設立だった。大阪の大東建託オープンを手始めに今年、『国際テニス連盟(ITF)』公認のツアー下部大会を国内に6つ作った。テニスはグランドスラムと呼ばれる四大大会を頂点に、賞金総額に応じて大会がある。だが、国内には国際大会のピラミッドの一番下に当たる女子の下部大会がなかった。海外に行くには渡航費用がかかる。国内に大会があれば、ジュニアや若手プロも世界に挑戦し易くなる。JWT50の発足から1年足らず。これだけ早くスポンサーや会場を見つけ、実行できたのは、次世代の育成に懸ける思いが明確だからだろう。上位に行く為には技術だけでなく、“正しい意欲”が必要だと伝えたい。そう考える伊達さんが「残念なことがあった」と顔を曇らせた。10代の選手が試合前にアイスクリームを食べていたという。ゲーム前に脂肪分の多いアイスクリームを食べることは好ましくない。近付いて選手に話し掛けた。プロは厳しい世界。体を作る食事に気を配るのは当然だ。上を目指す意志はあるのか。アイスクリームは何からできているのか――。頭ごなしに注意するのではなく、一つひとつ尋ねて「プロとしての姿勢を持つように」と伝えた。「グランドスラムに行ったら変えるのではなく、今から同じ心構えでなければ」。後進に用意したのは、大会という“箱”だけではなかった。プライベートでは昨年1月、新たな伴侶を得た。友人の紹介で出会い、フィーリングが合うと思った。共にスキーが趣味。今は登山を一緒に楽しんでいる。互いに50代なので、「やりたいことをやっていこう」とマイペースな関係を保っている。「私がずーっと一人で喋っている。聞いているのか、いないのか」と笑うが、後進育成への熱意はしっかりと伝わっているようだ。ジュニアの合宿をしていると、「仕事前に、ちょっと見に行ってもいいかな?」と聞かれる。ジュニア選手育成に関係するテニス記事を見つけると、スマートフォンで「ひょいっと送ってくる」。伊達さんは2月、スポーツ用品メーカー『ヨネックス』と進める育成プロジェクトの合宿で沖縄にいた。プロで培ってきた感性を伝えるのが目的だ。何を伝えるか。合宿に入る前、コーチ陣で議論が8時間に及ぶこともあった。合宿中の伊達さんはジュニアにどんどん質問する。「言葉にすることで責任が生まれる」。試合中は自分1人で判断しなければならない。ジュニアが自ら気付き、意見を言えるよう心掛けている。新たな道にチャレンジし続けるレジェンド。その姿を追うと、若い頃には見えなかった“天才”の一面が浮かび上がってきた。

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テーマ : テニス
ジャンル : スポーツ

【WEEKEND PLUS】(335) 世界一奪還も“信心”次第? WBC日本代表・栗山英樹監督の信仰遍歴

20230317 03
「真に信ずれば、智恵が生まれる」――。これは、WBC日本代表の栗山英樹監督(61)が“信仰”する人物の言葉だ。スポーツ紙記者が言う。「栗山監督といえば、日本ハム時代、大谷翔平を二刀流に育て上げました。今回も本人から直接、『監督、正式に(WBCに)出ます』と連絡をもらったそうです」。大谷を筆頭に、中田翔や斎藤佑樹らスター選手を率いた『北海道日本ハムファイターズ』時代。監督を務めたのは2012年から2021年までだ。当初は推定7000万円だった年俸も次第に増え、2019年以降は推定1億1000万円。10年間で約10億円を稼いだ計算だが、「派手な生活を送っている感じがしません。以前はTBSアナウンサー(※当時)の福島弓子やテニスの伊達公子らと浮名を流す等、プレイボーイぶりで知られていましたが、最近は女性の噂もない。“独身貴族”を貫き、貯金も溜まっている筈ですが」(同)。確認できる資産といえば、現役時代の1989年、東村山市内の実家近くに約5000万円で購入した一軒家。長嶋茂雄に憧れ、2階には素振りをする為のスイングルームを設えた。「住み始めた頃は近くの物陰で、若い女性がよく帰りを待っていました。その後、ご両親が住んでいましたが、ここ数年は空き家状態です」(近隣住民)。

もうひとつ、広大な不動産を所有している。北海道夕張郡栗山町にある約5000㎡の土地。自身の苗字と同じ町名に親近感を抱き、2000年に購入したものだ。ただ、栗山監督が『ビッグトゥモロウ』(※2017年2月号)で語ったところによれば、「もともと山林原野ですからね。1000円札1枚あれば何坪か買えてしまうくらいの金額だったんです」。格安で購入した土地を一体、どうしたのか。「何年もかけて、私財を投じて、地元の少年達の為に天然芝の野球場を造ったのです。その名も“栗の樹ファーム”。日本ハムの監督に就任してからは、敷地内に建てたログハウスで暮らしている。“清貧”な栗山監督らしいお金の使い方です」(球界関係者)。栗山監督といえば創価高校の出身で、『第三文明』や『パンプキン』等『創価学会』の関連誌にも登場してきたが、「大学は東京学芸大学。本人は毎年のように、菅原道真を祀っている栗山町の栗山天満宮に参拝し、必勝祈願をしている。片やその時、創価学会信者という栗山監督のスタッフは『家庭の都合で』と欠席するのが恒例です」(同)。そんな栗山監督が“信仰”している人物がいる。「埼玉銀行元専務の井原隆一氏(※2009年没)です。井原氏は独学で法律や哲学を学び、企業再建で実績を残してきた人物。知名度は低いものの、著書や講義を収めたCDを多数出している。経営者らに、能力や財力よりも“徳”が大事と説いています」(同)。日本ハム監督時代、夕張から札幌ドームまでの車中で毎日のように、井原氏のCDを聴いていたという。「日本人の中で僕が一番井原さんのCDを聴いているんじゃないかと思います」(※『致知』2017年3月号より)。冒頭の「真に信ずれば、智恵が生まれる」も、井原氏の言葉。強い思いがあれば発想や智恵も生まれる、という意味だ。「栗山監督も『絶対に優勝するという思いを持てば、考えるプロセスが変わる』と言っている。WBCの指揮官としても意識している言葉のようです」(同)。真に信じ、3大会ぶりの世界制覇となるか。決勝は日本時間の3月22日だ。


キャプチャ  2023年3月16日号掲載

テーマ : スポーツニュース
ジャンル : ニュース

【沖縄復帰50年】第6部・未来へ(04) パフォーマーに光を

https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/feature/CO061932/20221222-OYTAT50000/


キャプチャ  西部本社版2022年12月22日付掲載

テーマ : スポーツニュース
ジャンル : ニュース

【WEEKEND PLUS】(332) 熱闘、“サムライ”から“侍”へ…栗山英樹×森保一、監督対談

https://www.yomiuri.co.jp/sports/wbc/20230124-OYT1T50337/
https://www.yomiuri.co.jp/stream/2/20755/


キャプチャ  2023年1月25日付掲載

テーマ : プロ野球
ジャンル : スポーツ

【WEEKEND PLUS】(331) 二刀流、できるからやる…世間は冷笑のち熱狂、目指すは世界一のみ



20230310 01
スポーツ界には幾つもの不思議な巡り合わせがある。その縁が生み出すストーリーは、いつの時代も見る者を熱狂させ、興奮の渦に巻き込んできた。10年前に打ち出した、前例のない投打“二刀流”の挑戦は、今なお野球ファンの胸を熱くさせている。二刀流を推し進めたのは、野球日本代表『侍ジャパン』の栗山英樹監督(61)と大谷翔平選手(28)。当初は「二刀流は無理だ」と否定的な声が多かった。体の負担が増し、怪我のリスクが懸念される他、「投打のどちらかに専念したほうが好成績を残せる」との見方が主流だったのだ。しかし、大谷選手は日本のプロ野球から大リーグへと大きく羽ばたき、日本の力になる為に舞い戻った。日本が3大会ぶり三度目の頂点を目指す国・地域別対抗戦、『第5回ワールドベースボールクラシック(WBC)』。今月8日に開幕する大会で、2人の挑戦の新章が開く。大谷選手は1日夜にチャーター機で帰国。3日に行なわれた『バンテリンドームナゴヤ』(※愛知県名古屋市)での壮行試合、『中日ドラゴンズ』戦前のセレモニーでその名前をコールされると、193㎝の長身選手が颯爽とグラウンドに飛び出した。約3万5000人の観客がどよめき、歓声と拍手で球場が揺れた。報道陣から「WBCでも二刀流か」と聞かれた大谷選手は、「それが僕のプレースタイル。そのつもりでいきます」と言い切った。日本の勝利に向けた自身の役割については、「一番はプレー。自分の持つものを100%試合で出せることがチームにとって大事で、他の選手の安心材料になると思う」と語った。

栗山監督には優勝トロフィーを掲げることに加え、再び描きたい風景がある。それは、自宅や学校、居酒屋等で年齢に関係なく皆が野球談議に花を咲かせるシーンだ。野球は国民的スポーツと呼ばれてきたが、インターネットの普及や娯楽の多様化により、時代は変わった。「皆が野球の話で盛り上がって、自分の意見を語り合う。そんなワクワクした気持ちを、野球を通じてまた感じられるようになってほしい」。心技体を極めた一流選手が国を背負い、真剣勝負を繰り広げるWBCには、国民の心をもう一度、野球に引きつける力がある筈。野球熱を再燃させることが、自らを成長させてくれた野球界への恩返しになると考える。勿論、大谷選手もWBCに心を躍らせる。「日本のトップ選手が一つのチームとなり、他の国のトップとやっている。見るだけでワクワクした。僕自身、一番野球が楽しい時期にそういうプレーや試合を見せてもらい、『いつかここでプレーできたら面白い』と夢として持っていた」。WBCは記憶に残る大会でもある。2006年の第1回大会、不振だった福留孝介さん(※当時中日)が準決勝の韓国戦に代打で登場し、実況が「生き返れ!」と叫んだ直後に描いた豪快な先制2点本塁打。2009年の第2回大会、韓国との決勝で延長10回にイチローさん(※同シアトルマリナーズ)が放った中前への勝ち越し2点適時打と、最後の打者を三振に仕留めたダルビッシュ有投手(※同北海道日本ハムファイターズ、現サンディエゴパドレス)の渾身のガッツポーズは、球史に残る名場面として語り継がれる。こうした先輩の活躍を見て憧れ、触発された世代が今、野球界の中心を担う。栗山監督は1月6日、WBCに出場する全30選手のうち、大谷選手ら12人を先行発表した。東京都内のホテルで開かれた記者会見に、2人は“JAPAN”のユニホームを身に纏って登壇し、並んでフラッシュを浴びた(※右上画像、撮影/猪飼健史)。2013~2017年には日本ハムファイターズの監督と選手として同じ時間を共有したが、公の場での2人の共演は久しぶりとなった。大リーガーの参戦は、所属球団や、選手の契約交渉等を行なう代理人の理解も必要で、ハードルは低くない。「出場の決断に栗山監督の存在が大きかったか」との質問に、大谷選手は「本人を目の前に申し訳ないが、恐らく誰が監督でも出たい気持ちは前向きだった」。栗山監督からの愛情を感じた場面について尋ねられると、「あんまり感じたことはないです。冗談です」と即答し、会場を沸かせた。本番に向かう一つの節目だったが、リラックスした空気感が互いの信頼の厚さを感じさせた。数週間後、栗山監督に記者会見でのやり取りについて話題を振ると、嬉しそうに目尻を下げた。「酷いよね、彼。でも、『翔平らしいな』って思ったし、こんなことを皆の前で言うようにもなったんだなって」。あらゆる面で大谷選手の成長を見て取るが、栗山監督は決して本人を前に褒めることはない。「本当は、やっぱり凄いなって。でも認めたら、そこで(成長が)止まるかもしれない怖さもある。だから、常に『そんなもんじゃない』って言い続ける人が必要なんだよ」。エールは続いた。「美味しいものを食べる、友達と遊ぶ。それより野球が上手くなることが単純に一番楽しいと思っているのが翔平。その価値観を持った選手は、何も言わなくても勝手に突き進んでいく」。二刀流は不可能ではないと信じ続けた2人の歩みは、否定的だった世間の見方を変え、冷笑は背中を押す大声援に変わった。大谷選手は、「誰もやったことがないことを選んだのではなく、やれることをやるうちに結果的にそうなったと思う」と語る。昨年12月中旬、固定観念に囚われないチャレンジに「(二刀流が失敗する)恐怖心が勝ることはないのか」と記者が尋ねると、栗山監督は困ったような表情で苦笑いを浮かべた。「僕的には凄く自然に常識的な動きをしているつもり。2つできる可能性があるから、2つやるだけ。凄くシンプルな考え方だと思うけど、僕って変わっていますか?」。

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テーマ : プロ野球
ジャンル : スポーツ

【水曜スペシャル】(553) 男子ゴルフの新たな試合主催者に“ハマのドン”藤木企業の名前

20230125 01
国内男子プロゴルフの今シーズンのスケジュールが発表され、あるトーナメントが話題となった。8月の第一週に『横浜ミナトチャンピオンシップ』という聞き慣れない試合が行なわれる。賞金総額は1億円。その主催者が『藤木企業』だった。ゴルフ業界は「どこの会社だ?」とざわついたという。藤木企業といえば、地元・横浜の政財界では知られた会社。代表取締役会長の藤木幸夫氏(※右画像)は“ハマのドン”と呼ばれる人物である。政界とも近く、嘗ては菅義偉前首相の後ろ盾になってきた。しかし、カジノを含む統合型リゾートの考え方で菅氏と袂を分かち、横浜市長選で“反菅”の候補者を推す等、いわくつきの有名人なのだ。新たな試合の主催者には『三協』という会社も名を連ねるが、「メインは藤木」(ゴルフ業界関係者)だ。極めてローカル色が強い上、何かと有名な会社。国内トップツアーの主催者として相応しいのか、疑問符がつく。ただ、凋落著しい男子ツアーの主催者をみると、パチンコメーカーや宗教団体絡みの組織等、“多様性”に溢れている。どんな企業であれ、賞金を払ってくれれば良いスポンサーということなのだろう。


キャプチャ  2023年1月号掲載

テーマ : スポーツニュース
ジャンル : ニュース

【クライミング・森秋彩の挑戦】(下) 雌伏の3年間、戻った初心

20230120 15
初優勝した昨年9月のワールドカップスロベニア大会に出場するまでの約3年間、森秋彩(※茨城県連盟)の名前は国際大会のリストから消えていた。2020年春からのコロナ禍や大学受験準備が表向きの理由だったが、あれほど好きだったクライミングから一時的に心が離れてしまっていたのだという。シニアデビューとなった2019年シーズンは、前半戦のボルダリングW杯で3位。8月の世界選手権(※東京都八王子市)のリードも3位、東京五輪と同じ方式だった複合は6位に食い込む。上々の船出に見えたが、ユースと比べて格段に難化した課題(※コース)を攻略したいとの思いが、次第に空回りしていく。後半戦のリードW杯では比較的容易な下部でミスする等、「気持ちが『勝たなきゃ』となって成績を残せなくなった」。離れたホールド(※突起物)に飛びつく、苦手なランジを克服する為に筋力強化を図ったことも裏目に出る。「ゴリゴリになろうと無理したら、しなやかさという良さが押し潰されてしまった」。東京五輪の代表選考を巡っても、日本協会と国際競技団体の見解の違いから、日本協会がスポーツ仲裁裁判所(※CAS)に提訴する事態に発展。当事者の一人だった森は結局、最終選考会を経ないまま落選が決まった。望まない形で大混乱の渦中に立たされ、「色々と疲れてしまった。このまま突っ走ったらよくないなと」。悪い流れを断ち切るべく、一旦、壁から離れたのは2019年末のこと。幸いにも1ヵ月程で英気を取り戻したが、ここで無理にギアを上げず、雌伏の時を過ごしたことが奏功したようだ。出場試合数を絞り、筋力強化以外の方法でランジ克服に時間をかけた。大学の自己推薦入試用の資料として、体にセンサーをつけて傾斜のある壁で何度もジャンプする動画を撮影。最適な角度等を詳細に分析した。3ヵ月にも及んだリポート作成は「だいぶ大変だった」が、登りを客観視するまたとない好機となり、我武者羅に壁に取り付いていた初心も思い起こさせてくれた。今年のシーズンは、来月初旬のボルダリングジャパンカップ(※東京都世田谷区)で開幕し、来年のパリ五輪の選考も本格化する。「五輪に縛られ過ぎて何年も無駄にするのはもったいないけど、五輪に出てクライミングライフが充実するなら、勝つことに焦点を当てるのも必要かな」。勝負の重圧も受け止め、より高みを目指す。ゴール後に新たな景色が待っていると信じて――。 《敬称略》

          ◇

鱸正人が担当しました。


キャプチャ  2023年1月12日付夕刊掲載

テーマ : クライミング
ジャンル : スポーツ

【クライミング・森秋彩の挑戦】(中) 小1で練習の虫、培った持久力

20230120 14
小学1年生の時に近所の商業施設のジムで色とりどりの突起物(※ホールド)に触れて以来、森秋彩(※茨城県連盟)の日常はクライミング漬けになった。地元の茨城県や首都圏のジムに週4~5日は通い、時間を忘れて壁に取り付いた。「家族には『そんなに登ってよく疲れないね』と言われたし、普通は『登れ、登れ』と指導するコーチからも『もう怪我するから止めろ』としか言われなかった」。高強度に設定した課題(※コース)を“本気トライ”で何度も攻め、疲労で前腕に力が入らなくなればグレードを落としてまた登る。「きついけど何か楽しかった」。中学生頃まで好んで取り組んだ独自練習の蓄積が、無尽蔵の持久力の土台となる。大会の課題を設計するルートセッターの東秀磯は、主に高校生以上が対象の講習会に特別参加していた10歳前後の森の姿をよく覚えている。非力ながら既に高い技術があり、「基本的には何でもできた」という。東がセッターを務めた年代別の大会では、その抜きんでた力量を念頭に難度を上げたつもりが、「頑張るそぶりすら見せず、簡単に登っていた。笑ってしまうくらい強かった」。ボルダリングもリードもセッターが想定する模範解答こそあれ、課題の攻略法は1つではない。競技前の下見ではライバルと隠し事なしの作戦会議を行ない、終了後は勝者も敗者も関係なく「あそこはどうやったの?」と反省会に時間を費やす。自由で仲間を認め合い、大会はまるでお祭り。そんな競技特性が、「こうしなきゃいけない、皆と同じことをしなきゃいけないというのが凄く嫌だった」という性格の少女には、何とも心地よかったという。「クライミングは正解がなく、自分らしさを登りで表現できる。指先や足先までしっかり理解していないといけないから、自分と向き合えた」。直感的に体を動かすと、「ああいう登り方をしたのは秋彩ちゃんだけだよ」とよく言われた。優勝カップやメダルと同じくらい、そんな声かけが嬉しかった。中学1年生だった2016年8月にスポーツクライミングの東京五輪での初採用が決まり、1年後には世界ユース選手権のリード(※14~15歳の部)を制した。“期待の天才少女”――。にわかに周囲が騒がしくなり、五輪選考レースに注目が集まった2019年、いよいよシニアの国際大会デビューを迎える。より高いレベルで競い合う、新たなステージ。これまで通り自然体で挑むつもりでいたが、予想だにしない道が待っていた。 《敬称略》


キャプチャ  2023年1月11日付夕刊掲載

テーマ : クライミング
ジャンル : スポーツ

【クライミング・森秋彩の挑戦】(上) 絶対女王を抑え、W杯連勝

20230120 13
しなやかで気持ちのこもった登りが、世界女王の凱旋試合に集まった大観衆を唸らせた。昨年9月にスロベニアで開かれたスポーツクライミングのワールドカップ。高さ12m超の壁で到達する高度を競うリードで、当時18歳の森秋彩(※茨城県連盟)が快進撃を見せた。8人による決勝は、前半から蛇行が続く厳しい課題(※コース)。実力者たちが早々と落下する中、身長154㎝の森はじりじりと、確実に突起物(※ホールド)を越えていく。歯を食いしばって中盤の難所も突破。最高高度を獲得すると、大トリで登場した同国の東京五輪金メダリスト、ヤンヤ・ガンブレットが数手前で落下。「夢のような存在」という相手を抑えてのW杯初優勝だった。それまでW杯リードで7連勝中だったガンブレットは、『国際オリンピック委員会(IOC)』公式サイトがGOAT(※greatest of all time=史上最も偉大)と評する選手だ。森は翌週のW杯イギリス大会でも勝利。結果がまぐれでないことを証明した。一般に、課題は最も強い選手がギリギリで完登できる難度に設計される。下見を経て臨むとはいえ、実際に取り付いてわかるホールドの向きや距離感の違いから、攻略法に迷う場面はざらだ。リードは制限時間6分の一発勝負。頭も体もすり減らす過酷な種目で森の安定した登りを支えるのは、自他共に認める抜群の持久力だ。「練習で大会より難しい課題をひたすらこなしているから余裕がある。途中で迷っても(どの)ムーブ(をすべきか)を選べる」と、多少の一時停止は厭わない。真骨頂は傾斜がきつくなる終盤。「あとは出し切るだけというワクワク感があってアドレナリンが出る」という高ぶりを粘りに変え、重力に抗う姿は海外やクライミング関係者にもファンが多い。2024年パリ五輪と同じ方式で開催された、昨年10月のW杯複合盛岡大会も優勝。メダル候補として注目されるが、勝敗だけに胸を躍らすことは殆どないという。「人というより課題との戦い。ただ攻略したいだけ」。第一声が「完登できずに悔しい」という優勝インタビューも珍しくない。リードで最後のホールドを掴み、体を支えるロープを終了点のカラビナにかける。誰もいない空間に「カチッ」と響く金属音が完登の合図だ。派手なガッツポーズは見せなくとも、「クリップの瞬間はすっごい気持ちいい」。死力を尽くし、辿り着いた者だけが味わえる達成感を求め、今日も壁と向き合う。 《敬称略》


キャプチャ  2023年1月10日付夕刊掲載

テーマ : クライミング
ジャンル : スポーツ

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George Clooney

Author:George Clooney

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