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【水曜スペシャル】(589) アメリカの大学で“人種優遇”に暗雲…「これは世界中のアジア人の為の戦いだ」、背景に最高裁の保守化

アメリカの大学が入学者選抜で黒人やヒスパニックを優遇するアファーマティブアクション(※積極的差別是正措置)を巡る2件の訴訟が注目されている。一貫して是正措置を容認してきた連邦最高裁の保守化傾向が強まり、判例を覆す可能性が浮上している為だ。アメリカの人種差別の歴史と密接に結びつく制度の行方は、アメリカ社会の在り方も左右しかねない。 (取材・文・撮影/ロサンゼルス支局 渡辺晋)



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「大学の多様性を肌の色で確保するのは間違っている。これは、アメリカの大学を目指す世界中のアジア人の為の戦いだ」――。カリフォルニア大学バークレー校2年のカルビン・ヤンさん(21、右画像)は語気を強める。カナダ出身で、韓国系の父と中国系の母を持つ。幼い頃からハーバード大学を目指し、学業だけでなく、気候変動対策を求めるデモを組織する等、課外活動にも積極的に取り組んできた。ニューヨークの高校を経て、2021年に同大を志望したが、不合格となった。アメリカの大学は入試ではなく、主に書類審査で合否が決まる。高校の成績や大学進学適性試験(※SAT)等の点数以外に、ボランティア等の課外活動や人物評価が大きく影響する。更に、多くの大学は“多様性の確保”を目的に、人種的少数派を優遇する是正措置を導入する。アジア系は対象でなく、ヤンさんは「多様性は重要だが、人種ではなく家庭の収入を対象とし、貧しい環境にあっても、能力のある人が優遇されるべきだ」と訴える。2件の訴訟は、NPO『公平な入学者選抜を求める学生達(SFFA)』が2014年11月、ハーバード大学とノースカロライナ大学チャペルヒル校を相手に起こした。「是正措置は、人種差別を禁じた公民権法に違反する」と主張し、ハーバード大学に対しては「アジア系差別を前面に打ち出し、合格者数が抑えられている」と訴えたことが特徴だ。アメリカでアジア系は相対的に学力が高いとされる。同大に対する訴訟では、成績のみに基づく選考だと、入学者の4割以上がアジア系になるとの試算が学内で行なわれていたことが判明した。

同大の学生新聞『ハーバードクリムゾン』によると、アジア系新入生の割合は今年、過去最高を記録したが、それでも29.9%だった。「アジア系は人物評価が低い」というのは、志望者の間で“定説”とされる。訴訟では、同大側が是正措置に基づき、黒人やヒスパニックに加点し、是正措置がなければ、ヒスパニックの3分の1、黒人の半数が不合格だった可能性が高いことも明らかになった。また、同大は多様性の確保を掲げながら、大口の寄付者や“レガシー”と呼ばれる卒業生の子女を優遇している。その恩恵は、主に裕福な家庭に生まれ育った白人が受ける。ヤンさんは、「アジア系はアメリカで日々、差別に直面している。多くのアジア系アメリカ人が自分の子供を名門大学に行かせたいと思うのも、それがアジア系の地位向上に繋がるからだ」と吐露する。是正措置の歴史は古い。「政府と取引する請負企業は、人種や信条、肌の色、出身国に関係なく、応募者や雇用者を確実に取り扱うよう積極的な行動を取らなければならない」。1961年3月、当時のジョン・F・ケネディー大統領が署名した“大統領令10925号”が、人種的平等を求める是正措置の始まりとされる。続いて1965年6月、リンドン・ジョンソン大統領が“黒人のハーバード”と言われるハワード大学の入学式でこう訴えた。「我々は権利や理論としての平等だけでなく、事実としての平等、結果としての平等を求める」。背景には、アメリカで長く続いた奴隷制度と黒人差別の歴史がある。1964年7月に公民権法が制定されたが、法的に差別を禁止しただけで、根深い人種差別を是正するのは難しい。ジョンソン氏が“結果の平等”を求めたのは、アメリカの“負の歴史”を直視した為だった。ジョンソン氏は1965年9月、“大統領令11246号”で是正措置を具体的且つ広範に規定。その頃から多くの大学で人種を考慮した選考が始まった。是正措置を巡っては、保守派の白人を中心に「逆差別だ」との批判は根強い。過去にも訴訟が繰り返されてきたが、連邦最高裁は一貫して合憲とする立場を崩さなかった。最高裁は1978年6月、カリフォルニア大学デービス校の医学部に不合格となった白人男性が起こした訴訟で、是正措置による人種毎の入学枠の割り当ては違法とする一方、人種を考慮すること自体は容認する判決を言い渡した。その後の訴訟でも合憲判断が維持され、今回も下級審はSFFA側の訴えを退けたが、連邦最高裁が昨年1月に上告を受理した。

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【WEEKEND PLUS】(338) やり抜く拳を生徒に伝える…元プロボクサーの高山勝成さん、高校教師になる



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教室のホワイトボードの前に立つと、一気にペンを走らせた。“題「GRIT」 やり抜く力を身につけよう!!”。そう板書すると、振り向いて語り掛けた。「GRITとは困難でもやり抜く力のこと。才能、IQ、学歴ではなく、個人のやり抜く力が社会で成功を収める大きな要素です」。名古屋産業大学(※愛知県尾張旭市)の教室で1月19日に行なった模擬授業。アメリカの心理学者の提唱した“GRIT”という理論を説明する身長158㎝の小柄な男性は、プロボクシングの元世界王者・高山勝成さん(39)だ。この日は、担当の伊藤利明教授(※現代ビジネス学部、71)と学生10人を前に、10分余り論じた(※右画像、撮影/兵藤公治)。高校の公民科教師になる為に入学した同大を2021年3月に卒業したが、未履修及び再履修の必要な教職課程がある為、昨年4月から科目等履修生として大阪の自宅から週1~2回通学していた。講義後、記者(※私)がGRITをテーマにした理由を尋ねると、高山さんは「自分のやってきたことが全て当てはまる(理論)と思った」と答えた。確かに、彼の競技人生は“不屈”そのものだ。主に最軽量のミニマム級(※47.6㎏以下)で戦い、『世界ボクシング協会(WBA)』・『世界ボクシング評議会(WBC)』・『国際ボクシング連盟(IBF)』・『世界ボクシング機構(WBO)』の世界主要4団体の王座を日本選手で初めて全て獲得する等、リング内外で数々の困難を乗り越えてきた。高山さんを2017年4月の大学入学から指導してきた伊藤さんは感心する。「あれだけ事前準備をする学生はいないし、集中力も違う。他の学生は見習ってほしい」。提出リポートの審査等を経て、2月15日に教職課程修了が決まった。3月9日には大阪府教委から高校教諭1種免許(※公民)を受け取り、早ければ2024年度から教壇に立つ。

プロボクサーとしては2021年5月にWBOライトフライ級王座挑戦で9回TKOで負けた後、現在所属する『石田ジム』(※大阪府寝屋川市)等で断続的に練習はしている。しかし、“教職課程に専念する為”に試合には出場していない。高校教師との両立も視野に現役続行するのか、それとも引退か――。進退について熟慮中で「結論は出ていない」という状態だ。それにしても何故、高校教師になるのか。「世界チャンピオンが教師になってもいいじゃないですか。いや、寧ろなるべきだと思っている。減量のつらさ、殴られる痛さ、戦いの修羅場をくぐってきた経験を教育現場で伝えられる」。熱い口調で、そう力説した。大阪市生野区で生まれ育った。中学2年の時、友人に誘われて同市内にあった『エディタウンゼントジム』でボクシングを始め、世界王者を志した。「楽しい高校生活の誘惑に負け、練習が疎かになる」と考え、親や周囲の反対を押し切って高校には進まず、2000年10月に17歳でプロデビューを果たした。21歳でWBCミニマム級王者になり、取材される機会が増えると「自分の思いを上手く伝えられない。言葉を知らず、表現力がない」と痛感した。「いつか高校で学びたい」。IBF同級王者だった30歳の時に菊華高校(※愛知県名古屋市)に入学した際には、大きな話題になった。高校生活を送る中で、15歳下の級友達が「しんどい」「面倒臭い」「止めた」等の後ろ向きな発言をよくすることに気付いた。部活動でも「次の試合は相手が強いからだめだ」と直ぐ弱気になる。次第に「僕の体験を通じ、諦めずにやり抜くことの大切さを子供達に伝えたい」と思うようになり、高校教師を目指して系列の同大に進学した。高山さん自身、人との出会いで運命が開けた経験がある。その一人が、14歳から指導を受ける中出博啓トレーナー(63)。関西大学ボクシング部で1戦1敗のアマ戦績しかなく、知り合った当時は指導実績もなかったが、研究熱心で情熱的だった。高山さんが信頼するようになるのに時間はかからなかった。だが、2003年4月にあった高山さんの日本王座初挑戦を境に、2人の運命が変わった。同ジムの村田英次郎会長(66)は、良かれと思ってプロ選手経験のある別のトレーナーに担当を代えたのだ。試合は9回TKO負けで、11戦目で初黒星。その数日後、「私がいると後任のトレーナーも高山もやり難いだろう」と案じた中出さんが退職することを知ると、高山さんは「僕も辞めます」とジムを飛び出した。2人は紆余曲折を経て『グリーンツダジム』(※大阪府大阪市)に移籍した。当時19歳の高山さんに対する中出さんの指導法は独特で、ボクシング担当だった私は驚いた。試合でラウンド間のインターバルは1分間だが、多くのジムは練習では選手に負荷を掛ける為、30秒程度に縮めている。その間に選手は呼吸を整えるのだが、高山さんはインターバル中もスクワットをしたり、ジャンプをしたりと動き続けていたのだ。筋力やスタミナをひたすら鍛える為かと思ったが、中出さんは「体がしんどい状態の時、次のラウンド中にどうやって上手く休むか、どこで手を出すかを常に考えさせる為」と説明。こんなハードな練習方法をとる選手は、後にも先にも見たことがない。前後左右に小刻みに動き続けながら鋭い連打を繰り出し、接近戦と、距離を保つアウトボクシングを融合した独特のファイトスタイルで頭角を現し、21歳で初めて世界王者に。しかし、これが苦悩の始まりだった。

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【水曜スペシャル】(580) 長野大学の不正を追及した教授が懲戒処分に…あまりに理不尽な大学と市の対応

公立大学の中には、設置者である自治体が大学を私物化するケースがある。長野県上田市にある長野大学は、幹部の不正を追及した教授を懲戒処分。教授は「納得できない」と提訴した。 (取材・文/フリージャーナリスト 田中圭太郎)



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「私は学部長として当時の副学長の会計不正等を調査し、追及していました。ところが、不正を調査する危機管理委員会の設置を要請したこと等を理由に、懲戒処分を受けました。不正について調査を求めることは社会的に正当な行為です。そのことを不当だとして懲戒処分すること自体、異常な状況ではないでしょうか」――。こう憤るのは長野大学の田中法博教授(※左画像)。自身が2022年10月26日に大学から受けた、3ヵ月間に亘る給料月額10%減給の懲戒処分は「不当で合理性に欠ける」等として、法人に対し処分の無効と減給分も含めた損害賠償を求める訴訟を起こした。12月9日に長野地方裁判所上田支部に訴状を提出し、同日、長野県弁護士会館で記者会見した。長野大学は、1966年に公設民営で開学した本州大学を起源としている。1974年に名称を長野大学に変更。2017年に上田市を設置者とする公立大学法人に生まれ変わった。それまでの学校法人は解散し、大学を運営する理事会は上田市の関係者や市が選んだ理事らで構成されている。田中氏が懲戒処分を受けたのは、「企業情報学部の学部長時代に実施した副学長に対する調査が不適切だった」等という理由だ。当時の副学長に文部科学省や長野県等からの助成金を含む研究費の不正使用の疑いが強まり、大学では2019~2020年にかけて中村英三学長の指示で危機管理委員会を設置して調査した。委員会は不適切な活動を確認し、副学長と学外関係者らが共同使用していた部屋の使用停止を決定している。ところが、大学はこの調査結果に対して副学長の処分はせず、逆に今回、部屋の使用禁止は危機管理委員会の権限を越えた措置だとして、田中氏ら4人を懲戒処分とした。大学によると、4人の中には学長の中村氏も入っているという。

更に田中氏に対しては、危機管理委員会の設置を中村氏に強く働きかけたことも懲戒の理由にしている。田中氏は次のように反論する。「委員会の開催を決めるのは学長で、私には何の権限もありません。何故、懲戒なのかわかりません」。田中氏の懲戒には別の理由もある。調査の過程で、学内の誰もがアクセスできるサーバーに不適切な写真が公開されていたのを見つけた為、拡散を防ぐ為にサーバを停止させ、学長に報告した。田中氏の行動は当たり前の対応だと思われるが、そのことも大学は問題視しているのだ。しかし、そこに公開されていた写真こそが問題だと、田中氏の代理人弁護士である山下潤氏は指摘する。「在籍していた未成年の女子学生が長野大学や上田市の関係者と飲酒している写真で、学生が肩を抱かれている写真もありました。長野大学は、田中教授がこの写真を閲覧できないようにしたことが重大な違反だと言っているのです」。また、減給10%・3ヵ月という重い処分が、労働契約法第91条に定められている減給額を超えているとして、懲戒処分は無効と田中氏は主張している。一方、問題の副学長は田中氏らが追及した件とは関係なく、自己都合退職している。それにしても、大学は何故2年前の不正調査を持ち出して、今頃になって懲戒処分を出したのか。実は、学外には殆ど公表されていないが、大学によると10月26日以降の約1ヵ月間で、4人以外にも別件で2人が懲戒処分され、1人が口頭注意の処分を受けている。田中氏によると、この7人の多くが副学長ら大学幹部の不正の調査に取り組んでいたという。つまり、不正を追及したことに対する報復が疑われるのだ。大学が抱えている問題はそれだけではない。今年度に入って、コンプライアンス違反が疑われる事案が多数発生している。ひとつは労働基準法に違反したとして、労働基準監督署から度重なる是正勧告を受けたこと。タイムカードと実際の勤務時間が異なることや、36協定に違反して長時間働かせた等として、2021~2022年9月までに合計5件もの是正勧告を受けている。二つ目は、情報システムの導入を巡る混乱だ。本来は競争入札すべきところを、市から出向している幹部が主導して、幹部と懇意にしていると見られる業者と随意契約した。その結果、システムが正常に機能せず、1年生が履修登録できないトラブルが起きたのだ。学生によるクレームは500件に及び、トラブルは地元メディアでも大きく報じられた。

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【水曜スペシャル】(575) 儲かっているのに教員を切る必要性は? 東海大学、“メール1通で雇い止め”の異常事態

近年、全国の大学で大量の“雇い止め”による労働争議が後を絶たない。東海大学もそのひとつである。財政難でもないのに、使用者の思いのままに人を切る行為が、現代で許される筈がない――。 (取材・文/フリージャーナリスト 田中圭太郎)



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「私は非常勤講師として東海大学と契約期間を1年とする有期労働契約を結び、2004年以降18年に亘って毎年、契約更新を繰り返してきました。それが、2022年4月に『来年の契約は厳しい』と言われました。非常にショックを受けて、他の講師と連絡をとると、他の多くの講師も『来年の契約はない』と言われていることを知りました。私は面談を受けることもないまま、8月に『来年度の契約はない』と通告されました。私だけでなく、長く勤務した多くの講師を、『これまでありがとうございます。もう結構です』というメール1通だけで雇い止めしているのです」――。こう話すのは、同大静岡キャンパス清水校舎で語学を担当していた非常勤講師だ。東海大学は東京、神奈川、静岡、熊本、北海道と全国にキャンパスがある。各キャンパスで長年勤務してきた非常勤講師が、2023年3月末での雇い止めを通告される事態が相次いでいるという。雇い止めの全貌はわかっていないが、かなりの人数に上ると見られている。このうち、神奈川、静岡、北海道のキャンパスに勤務する非常勤講師8人が東海大学を相手取り、無期労働契約の地位確認を求めて、2022年11月17日付で東京地裁に提訴した。更に、別の非常勤講師も提訴を検討していて、今後、集団提訴が拡大する見込みだ。提訴に踏み切った8人の主張は、「期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する」というシンプルなものだ。2013年に改正された労働契約法では、5年以上勤務している有期労働契約の労働者が、無期雇用に転換できる権利を得られるようになった。これは、非正規で働く労働者の雇用を安定させる目的で改正されたものだ。

改正法では2013年4月が起点となる為、2018年4月以降に5年を超えて働いている人は無期転換権を得られる。今回提訴した講師の多くは15年以上勤務しており、中には25年も勤務している講師もいる。にも拘わらず、東海大学は全員に来年度は労働契約を結ばないことを通告してきた。前出の非常勤講師が語るように、2022年4月以降、同大の全国のキャンパスで非常勤講師が次々と雇い止めされていることが明らかになった。同大には労働組合がなかったが、非常勤講師や再任講師らが集まって、2022年5月に東海大学教職員組合を結成。結成集会では全国から不安の声が寄せられた。「『カリキュラムの変更により2023年以降の仕事はありません』という説明があり、契約更新をしないと書かれた書面が送られてきました」「雇い止めされる理由が説明されていない人もいます。どのくらいの人達に雇い止めが通告されているのかもわからない状態です」。教職員組合では、5年以上勤務している組合員について、無期労働契約への転換を東海大学に申し入れた。しかし、大学側はこの申し入れに応じず、組合員の雇い止めを強行する構えだ。大学に非常勤で勤務する講師や職員の大量雇い止めは、労働契約法が改正されて5年が経過する2018年3月末を迎える前にも問題になった。無期転換を阻止する為に雇い止めをしようとした大学が相次いだのだ。しかし、早稲田大学や東京大学で労働争議となった結果、無期転換が認められたことから、多くの大学が雇い止めをしなくなった。その一方で、東北大学のように雇い止めを強行した大学がある他、無期転換権が5年ではなく10年で生じるとして、5年の無期転換を認めない大学も現れた。東海大学もそのひとつだ。改正労働契約法が施行された2013年末の国会では、10年で無期転換権を認めるという特例と言える法律が成立した。それが、現在の『科学技術イノベーション創出の活性化に関する法律(科技イノベ法)』と『大学教員等の任期に関する法律(任期法)』だ。東海大学は、この2つの併用できない法律を根拠として、「無期雇用への転換には10年が必要」と主張しているのだ。科技イノベ法は、科学技術に関する研究者や技術者を対象にしている。科技イノベ法の対象者であることを説明して契約することが求められているが、東海大学ではそのような説明を受けたとする講師はいない。抑もこの法律は、授業のみを担当する非常勤講師は対象にならないと考えられている上、今回の8人の原告は科技イノベ法成立前に入職している。裁判も既に起きている。専修大学が科技イノベ法を理由に非常勤講師の5年で無期転換を認めなかったことから、非常勤講師が大学を提訴し、東京地裁と東京高裁で非常勤講師が勝訴した。現在、大学側が上告中だ。

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【横浜創英校長インタビュー】(下) “最上位目標は何か”に立ち返る

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子供達に民主主義を教えるには、教員が民主主義を理解することから始めなければいけません。今までやってきたことって、民主主義じゃなかった。この矛盾に気がつくことからです。例えば、多数決。教員は全員やっているのではないでしょうか? 文化祭で、A案とB案が“8対2”で分かれた時、ほぼ間違いなく多数決でA案が採用される。それで、教員は「皆で決めたんだから、守ろうね」と平気で言っています。でもそれって、マイノリティー(※少数派)を切り捨てろと教えているのと同じです。では、多数決を使わずに、どうやって合意するか。例えば、文化祭の出し物を決める時、ダンス派8割、劇派2割と分かれたとします。少数派を切り捨ててはいけないと普段から教えていれば、誰の不利益にもならない方法を見つけるまで対話します。「ミュージカル風の劇ってどうだろう?」というアイデアが出れば、皆がやりたいことができて楽しめますよね。子供が対話する時、大人のフォローは大切です。好き勝手に意見を言ったり、感情的になったりしないようにするコツがあるのです。それは、“誰一人置き去りにしないこと”を明確にした最上位目標を決めること。麴町中学校(※東京都千代田区)の文化祭であれば、“生徒全員で観客全員を楽しませる”でした。

対話をしている時に様々な意見が出ますが、「これって何の為にやるんだっけ?」と最上位目標に立ち返って、答えを見つけようとする経験を繰り返すことが大事です。学校運営や行事、校則等のルール作りの権限を子供達に委ねていけば、自然とそうした経験ができます。自分達の学校をどう改善するか、その仕組みをどうするか。より直接的に、自分事として課題に取り組めます。全国で校則を変える動きがありますが、多数決に走ってしまっては意味がありません。生徒総会で多数決を取り、「8割が賛成なので、来年から黒靴下も許されました」となったと言われても、そこには反対者が2割いるわけです。結局、先生達と同じことを生徒達がやっている。民主的な考え方じゃありません。恐らく10年かからず、日本の学校は必ず変わると思います。今のままの教育を続けていたら、日本はもっと酷くなります。物を考えず、文句ばかり言う社会が続けば、教育が変わらなきゃいけないことが誰でもわかる時代が来ます。私は麴町中学校の校長をやっていた時から、1校だけじゃなく、本気で多くの学校を変えようと思っていました。横浜創英でも、全国に広められるモデルを作ろうとしています。一言で言えば、本当に子供主体の学校に変えていく。子供がカリキュラムを選べ、クラスも学年も超えて学び合える。学校運営も委譲し、生徒へのサービス提供をどうすればいいかを自分達で考える。そうなると、高校生なら学校の中に会社を起こすかもしれない。目指しているのは、日本の画一的な教育制度をぶっ壊すこと。それには前例がいるんです。それを今、現場でやっているのです。でも、基本的に僕がやるというよりは、教員の意識が変わって、子供達と一緒にやっていく。与えられたものじゃだめなんですよ。ゆっくり、時間がかかっても、自分達が当事者となって、少しずつ変えていく。それをやらなきゃいけないのです。 (撮影/前田梨里子)

          ◇

(デジタル報道センター)大沢瑞季が担当しました。


キャプチャ  2022年12月10日付掲載

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【横浜創英校長インタビュー】(中) 皆が自由で幸せになるには

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学校現場では、成績が良くて、スポーツもできたほうがいいと、矢鱈手をかけるようになり、物事を考えさせない教育を続けています。与えられるのに慣れた子供は、嬢巣くいかないことがあると、直ぐに人のせいにします。「教え方が悪い」「もっといい手のかけ方をして」と文句を言う。それは、当事者であることを忘れさせる教育をしているからです。これまで私は著書の中で、学校は“社会の中でよりよく生きていけるようにするため”にある、その為には“自律する力”を身につけさせる必要があると書いてきました。でも実は、もう一つ並んで“学校を民主主義の土台にする”という究極の目標があります。これまでの学校改革は全て、学校を民主主義を学ぶ場所に変えることに繋がっています。日本は制度だけみれば民主主義国家ですが、選挙の投票率の低さをみても、自分達で社会をつくるんだという当事者意識があるとは言えません。『日本財団』による18歳の意識調査で、「自分は大人だと思うか?」「自分の行動で国や社会を変えられると思うか?」について尋ねた質問がありました。「はい」とした回答は、日本の高校生だけが3割に満たず、アメリカやイギリス、中国、韓国、インドと比べて大きく差が開いています。日本は、あまりにも未成熟な国になりました。

自分で物事を決定しない人達は、国や政治家の批判をし、人のせいにする。自分達では変えられないので、カリスマ的なリーダーを求める。嘗てのドイツがアドルフ・ヒトラーを選んだように、国民が成熟していなければ、制度だけあっても、間違った方向に進む可能性もあります。日本では“民主主義”という言葉から、多数決を思い浮かべる人もいれば、議会制民主主義や人権擁護を思い浮かべる人もいます。民主主義の概念が定着していないからです。ですが、国連がSDGs(※持続可能な開発目標)で使った“誰一人置き去りにしない”という言葉を知った時、「これが民主主義だ。やっと日本でも受け入れられる言葉が出てきた」と思いました。麴町中学校(※東京都千代田区)での具体的な事例も揃った今、やっと自分の言葉で語れるようになりました。民主主義を学ぶ意味は、“誰一人置き去りにしない、持続可能な社会を実現する”為です。つまり、自分が自由であると同時に、他人の自由も尊重することです。皆が自由であれば、価値観は多様なので、対立は当然起こります。そんな時、多数決で物事を決めるのではなく、“誰一人置き去りにしない”という最終ゴールに向けて対話を重ね、解決への道筋を探る。皆が自由で幸せになる為には、どうしたらいいか。少し痛みがあっても、頑張ろうという結論を出せるかどうか。それも、教員等から押しつけられるのではなく、全員が当事者として対話に加わる。それが私の考える民主主義教育です。「社会は皆でつくっていくものなんだよ」「他人のせいにしないで、自分で考え、行動しようね」「対立は必ず起こるから、それをどう解決するかを学ぼうね」。こうしたことを子供の時から教えなかったら、成長し続ける社会は絶対に実現しません。そうした対話を経験した子供が社会に出ていくことが、日本を民主的に成熟した国に成長させる。そう信じています。 (撮影/前田梨里子)


キャプチャ  2022年12月9日付掲載

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【横浜創英校長インタビュー】(上) 教育のゴールは“自律”

学校改革の旗手として知られる工藤勇一さん(※横浜創英中学・高校校長、右下画像、撮影/前田梨里子)に“今、子供達が身につけるべき力とは何か”をテーマにインタビューし、3回に亘って掲載します。初回は、東京都千代田区立麴町中学校で校長当時に宿題や定期テストを廃止し、運動会を変革した狙いを中心にお伝えします。

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勉強は“わからないものをわかるようにすること”が目的であって、“量をこなすこと”が目的ではありません。宿題を出すと、できる子は全部やるんです。でも、できない子はわからないところを飛ばします。それでは成績は上がりません。宿題を出せば出すほど、子供は提出することが目的になる。特に中3になると、内申書に影響するので、本当は理科を勉強したくても、国語の宿題が出ると、それをやってからじゃないと手がつけられない。総じて勉強時間は増えていきます。今、日本の労働生産性の低さが問題になっています。大人になって仕事をしているとわかると思うんですが、やるべき仕事がないのに残業はしませんよね。やるべき時にやることが大事な筈です。でも、学校では「何もやることがなくても、勉強する習慣が大事だ」と教えます。そうすると、言われたことをやり、時間だけ奪われて、学力は何も変わらない子が育ちます。社会に出れば、自分で勉強を続けないといけません。自分にあった学習方法を学校にいる間に身につけてもらうことは大事です。そうした意味からも、一律に課せられる宿題は、寧ろ子供の為になりません。物事を変える時には、必ず批判が出ます。宿題を廃止した時、中3だけは喜びました。受験勉強ができるからです。でも、中1の親は「勉強しなくなりませんか?」と不安がりました。私は、「宿題はわからないところをやるもの。わかるものとわからないものを切り分けて、わからないところを勉強する子は成績が伸びる。それを自分で学ぶことが大切なのです」と説明しました。同時に中間・期末テストを廃止し、単元テストに変えました。単元テストは再チャレンジできるようにしました。但し、2回目を受けたら、1回目の点数は取り消されます。

そうすると、子供達は絶対に2回目の点数を上げたいと思うので、1回目のテストで間違えたところを勉強します。わからなかったところをわかるようにする為、友達に聞いたり、先生に質問したりするようになりました。皆、成績が上がったんです。多くの学校では、運動会の目標に“団結”を掲げます。ですが、特性がある子も含めて、全ての子供達に強制すべきものなのか? 私はずっと疑問に思ってきました。クラス対抗で勝ち負けを競う為、ミスをすれば責められたり、負けたクラスは無力感に覆われたりします。でも、民主的に考えれば、競争したい人は競争すればいいし、競争したくない人は競争しなくていい筈です。それを全員に強制するのはおかしい。先ず、名称を体育祭に変えました。「“祭り”だからね、君達に全部あげる」。そう伝えて、種目や運営等は生徒に全てを委ねました。但し、“生徒全員を楽しませる”という目標だけ与えました。練習が嫌になって明日から来たくないという子を無くしてほしかったのです。生徒たちは、種目をちょっとずつ変えていきました。4年目でクラス対抗をなくした時は、全校生徒にアンケートをとっていました。運動が好きか嫌いかを聞き、其々が半数ずつになるよう2つのチームに分けて、東西対抗にしました。競争したい生徒には練習ができるような種目を作り、その日だけ楽しみたい生徒には笑えるような種目を作って、其々にエントリーできる方法にしました。よくやったなと思いました。それでも生徒達は、『東西対抗の全員リレーをやりたい』と言いました。それもアンケートをとり、結果は『全員リレーをやりたい』が8割、『反対』が1割、『どちらでもいい』が1割でした。普通なら多数決で決めるのでしょうが、少数派の意見を取り入れながら、上位目標である“生徒全員を楽しませること”を達成する為、どうしたらいいか、話し合いを続けました。その結果、『全員が楽しむことが目標だから、反対が1割いるなら全員リレーはできない』と、希望者のみが出場するリレーを代替案として出しました。教育は、自律した子供を育てることがゴールです。でも、いつの間にかそれを忘れて、自律していなくても、成績が良くて、スポーツもできたほうがいいと、矢鱈手をかけるようになった。“豊かな人間性を身につける為に”と、色々な体験活動もさせる。子供がやらされる時間が長くなっています。人口が増え続けていた時代は、物がどんどん売れますから、誰かが成功したビジネスモデルを真似すればよかった。一度会社に入れば定年まで雇ってもらえましたから、上が決めたことに従うだけの従順な人間でも豊かになれた。でも、今は人口が減少に転じ、作っても作っても物が売れない時代です。誰かが成功した仕事を真似すれば、安売り競争になり、賃金は上がらず、労働環境も悪化する。そんな時代には、誰もやらない仕事に目を付ける人間が必要です。新たな価値を生み出していく人がいないと、世の中が回りません。


キャプチャ  2022年12月6日付掲載

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【絶望センセイ奮闘中】第2部(15) 自治体間の格差が浮き彫りに…学校“教育力”ランキング

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公立学校における教員の陣容は、各自治体の政策や財政力に左右される。教員体制の充実度を2つの指標でランキングした。先ずは充足率。国が標準と定めた小学校の定数に対し、どれくらい教員数を満たしているかを示す。文部科学省の『“教師不足”に関する実態調査』によると、充足率の全国平均は101.8%(※昨年5月時点)だった。充足率が100%を超える自治体は、独自の政策で教員を増員しているということだ。1位の鳥取県は独自に小学校全学年の30人学級導入に取り組み、少人数学級化を進めている。その為、充足率と併せて示した教員1人当たりの児童数は、全国平均を大きく下回る11.6人だ。充足率103.3%と全国平均を上回る島根県も、独自に少人数学級化による増員を実施する。島根県教育委員会は、「加配(※増員)は毎年百数十人程。不登校や特別支援教育の対象児童が増えており、きめ細かく支援するには、教員数を国の基準以上に増やさないと対応できない」と話す。ただ、少人数学級化により教員定数が増える程、確保すべき教員の数も増える。確保ができないと欠員、つまり教員不足と認識される。文科省の教員不足調査で、教員不足数の上位に鳥取県や島根県が入っているのは、こうした理由からだ。もう一つの指標は、教員数に占める非正規教員の割合を示す非正規率だ。『ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会』が教職員実数調を基に算出。この非正規率は、教員の年齢構成比によって差が出る産休・育休代替を除外した比率だ。非正規率の低い順に並べると、最も低い北海道は7%を切るが、岡山市、奈良県、堺市は20%以上で、約3倍もの開きがある。非正規率が高く、充足率も100%を下回る沖縄県の教育委員会は、「正規教員を採用しても特別支援学級の増加で必要な教員数が増え、正規比率が上がらない」と話す。学級増加に対し、正規教員確保が追いつかない自治体の厳しい現状が浮き彫りになった。 (取材・文/本誌 井艸恵美) =おわり

          ◇

私が通っていた公立中学校は当時、地元では有名な荒れた学校でした。いわゆる不良の生徒が多く、授業が成立しないことも。真面目な生徒だった私は、そんな不良達に毎日からかわれては喧嘩をしていました。中学2年の時、私が重い机を運んでいると、クラスで最もやんちゃだったA君が無言で手伝ってくれました。普段の攻撃的な態度からは想像もつかず、唖然としてお礼も言えませんでした。A君は高校に入って直ぐ、バイクの事故で亡くなりました。ただ、今でもその優しい一面を思い出します。公立学校は均質ではない、あらゆる子供を包摂する場です。そんな公教育の場を失いたくないとの思いで特集を作りました。 (本誌編集部 井艸恵美)


キャプチャ  2022年7月23日号掲載

テーマ : 教育問題
ジャンル : ニュース

【部活動が危ない!】番外編(08) 「地域移行、道筋示して」――猿橋善宏氏(仙台育英学園高校硬式野球部長)インタビュー

宮城県の仙台育英学園高校で硬式野球部長を務める猿橋善宏さん(60)は、同県の公立中学校で長年に亘って野球部監督を務め、4回の全国大会出場を果たした。“軟式野球のカリスマ監督”と呼ばれ、教員として人間教育の視点から部活動に情熱を注いだからこそ、“地域移行”に伴う部活改革の課題を感じている。 (聞き手・撮影/運動部 川村咲平)

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――部活の意義をどうお考えですか?
「時代の移ろいと共に、部活の意義は大きく変わりました。私が教員に採用された1980年代は学校が荒廃した時代で、部活指導を通じて生徒を管理する意味が凄く大きかった。裏を返せば、部活の場面しか生徒に常識的な行動を教えられないほど、生徒のあり余るエネルギーを方向付けることが難しかった時代でした。部活は嘗て、集団行動を大切にさせたり、礼儀作法を身に付けさせたりする場所という位置付けでしたが、時代と共に音楽やスポーツを教育的効果を最大限に発揮する“仕掛け”と捉え、周囲の人間との関係性を構築し、自己実現を目指す場所に役割を変えました。授業だけでは身に付けられない(※テスト等で数値化することが難しい)非認知能力を補うには、最適の機会になりました」
――その一方で、部活には“厳し過ぎる指導”という否定的な印象があり、教員の負担が大き過ぎるという課題も浮き彫りになりました。
「あまりに集団統制的な活動が長く続き過ぎた為に、“ブラック部活”という言葉に象徴される陰惨なイメージを作り出し、世間の認識としては、教育活動としての新たな価値を見いだす広がりは遅れてしまいました。私自身、部活の意義が変わったと感じたのが、いわゆる“ゆとり教育”と言われていた2008年頃です。集団統制の為の指導が意味をなさず、生徒のニーズが変わっていきました。1対1の対話が増え、“指導者”と“生徒”ではなく、“私”と“貴方”という関係性の中でコーチングするという立ち位置のほうが上手くいくようになったと感じました。教員の負担増の問題については、本来なら部活の在り方を議論する際に、給与面を含めた教員の待遇とセットで考えるべきでした」
――“地域移行”をメインとする部活改革の動きが進んでいます。
「年代を問わず、地域住民がありとあらゆるスポーツを経験できる総合型のスポーツセンターが構築されることは、素晴らしいことだと思います。だが、スポーツ活動も文化的活動も同じですが、拠点の創設から進める必要があると感じます。ただ闇雲に地域移行を進めれば、課題も多く生じます。何といっても、受け皿の整備が必須です。学校の教員にとっては、部活の主体となる地域側との連絡調整が更に必要になり、寧ろ負担増になる可能性もあります。更に、教員の立場から考えてみると、教員を目指す若い人が戸惑ってしまうかもしれません。『学生時代に部活で素晴らしい体験ができたから、今度は指導者として生徒と共有したい』と教員を志す若者は少なくありません。部活が学校教育から少し離れた位置付けになることで、中学の教員志望者が高校教員志望に“鞍替え”することもあり得ます」
――将来の部活はどのような仕組みが望ましいのでしょうか?
「生徒が非認知能力を身に付ける機会を与えることが大切ですが、学校が全てを担う必要はないと思います。だが、枠組みをどうするかという議論が先行しなければなりません。枠組みがしっかりしなければ、地域移行が始まっても定着まで時間がかかり、子供達が“空白と混沌の時代”を過ごすことになります。誰にとっての改革なのかわからなくなってしまうのではないでしょうか。若年層にとってのスポーツや文化的活動は、タレントを発掘し、上の世界に進ませる選抜の場だけではありません。活動を通じて、人間性を醸成していくことが大事だと思います。技術は決して高くなくても、活動を楽しみながら発表の場を設けるようなレベルと、競争や選抜によるスペシャリストを育成するレベルのように、生徒の特性に合わせたクラスを複数用意する必要があります」
――部活はこれまで、学校教育の一部として行なわれ、猿橋さんも熱心に指導してきました。学校で教員が部活を指導するメリットはどこにありますか?
「大前提として、例えば“問題がある行動をしたら活動停止にする”というように、部活を盾にして生徒の行動を統制することは止めるべきです。その上で、教師が生徒の多面性を把握し、より深く理解する為に部活動を有効に活用できる点に着目すべきです。部活の時間に教室とは違う顔を見せる生徒がおり、部活が地域移行されればその顔を教師が知る場所がなくなり、生徒をより深く理解する上で弊害になる恐れがあります。学校として、部活の代わりに生徒の多面性を知る機会を持ち得るのでしょうか。他の手段でその精度を上げない限り、今までのように学校が期待された成果を発揮できないのではないでしょうか」
――部活改革のあるべき姿についてご意見を。
「世論に『部活動に大きな価値がない』という雰囲気が広がり、現在の体制は維持できないところまで来ていると感じます。地域移行に切り替えるのであれば、先ず今後の具体的な道筋を早く示してほしいと思います。部活改革を考える時に“教育とは誰の為にあるのか”という原点に立ち返る必要があります。答えは明確で、子供達の為です。地域移行で生徒と教員が接する時間が減れば、当然ながら教育の幅が狭まり、親和性がなくなります。子供の豊かな今日と未来を作る可能性を減少させないことが前提だと思います」


キャプチャ  2022年6月9日付掲載

テーマ : 部活
ジャンル : 学校・教育

【絶望センセイ奮闘中】第2部(14) 少子化でも何故儲かる? 塾業界で繰り広げられる“子供争奪戦”

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過去最大のブームを迎えている中学受験。その主戦場である首都圏に、あの一大教育グループが殴り込みをかける。『ベネッセホールディングス』傘下で、関西において学習塾予備校を運営する『アップ』は5月30日、東京都渋谷区に中学受験塾『進学館√+(ルータス)』を開校すると発表した。同校は、40年以上に亘って兵庫県の灘中学校等関西の人気校に合格者を輩出してきた『進学館』をベースとして、プロの専任講師による少人数の集団指導と個別指導を交える新ブランド。今年夏から体験説明会や人気講師による教育相談等を開催し、来年2月の授業開始に備えている。アップにとっては勿論、ベネッセとしても進学館ルータスが首都圏で初めての中学受験専門塾となる。「中高6年間を生き生きと過ごせるように、詰め込みではなく、主体的に学べる学習習慣を身に付けてもらう」(ベネッセ)。2012年に188万人に上った学習塾における小学生の受講生数は、少子化が響き、単純比較が可能な2017年までに136万人へ後退(※左画像)。ただ、市場規模はここ10年の間、3000億円前後でほぼ横這いを保っている。背景にあるのが単価の上昇だ。同じ期間に学習塾の受講生1人当たり売上高は16万円から23万円へと増加した。ある業界関係者は、「(少子化が意識され始めた)30年前、業界展望は、受講生数の減少に伴って細るか、それとも1世帯で複数人の子供にかけていた教育費が1人に集中して横這いか、意見が割れていた。結果、後者が正しかった」と振り返る。別の関係者も、「多くの塾は個別指導や合宿等、サブメニューをより多く利用してもらおうと躍起になっている。先生から勧められれば、そりゃ親は言われるがまま買ってしまう」と明かす。更なる追い風が、コロナ禍を経て広がった公立中学校に対する不信感だ。2020年春に政府から一斉休校が要請された際、オンライン授業等のICT活用で他校との差別化を図った私立と対照的に、公立は対応が遅れた。「東京都内でも特に中学受験率が高いエリアでは、公立は敬遠されている。学力の高い難関校でなくとも、私立の中高一貫校にさえ入れればいい、というケースも少なくない」(業界大手の幹部)。

実際、横這いの市場で増勢する大手も少なくない。都内屈指の難関校である開成中学校で68%、桜蔭中で66%の合格者占有率(※2022年)を誇る『SAPIX』小学部だ。運営元の『日本入試センター』は2016年3月期に11億円の営業赤字だったが、小学部の快進撃により、開示されている最新年度の2018年3月期には売上高201億円、営業利益9億円と黒字に浮上した。『早稲田アカデミー』の小学部も、2022年3月期における受講生数が2万4937名に上り、4年前比で40%増加。これが全社における11期連続の増収にも貢献し、過去最高益を更新した。中学受験専業の名門『四谷大塚』も、近年は増収増益が続いている。アップの決断も、こうした市況が後押しした。「コロナ禍によって(首都圏で)中学受験塾の需要が高まったこと、その首都圏市場で、既存のサービスでは満たされていない顧客ニーズがあること、アップとベネッセのノウハウでそのニーズに応えることができるとの確信が得られたこと。以上3点から(進出を)判断した」(ベネッセ)。今後、アップは都内で池袋や吉祥寺等のエリアに狙いを定め、首都圏での校舎数拡大を図る。ただ、国内の少子化に歯止めはかかっておらず、事業環境は楽観できない。実際、『栄光ゼミナール』の『栄光』や『市進学院』の『市進ホールディングス』、『第一ゼミナール』の『ウィザス』等、中高生向けも含めた学習塾事業が停滞気味の企業も散見される。特に高校受験対策に重点を置く中学部を抱える企業では、中学受験ブームの“反動”も懸念される。学習塾による中学生向けの売上高は2019年に4911億円と、小学生向けの1.3倍。小中高の各世代別で最大の市場規模を誇るが、高校受験の必要がない中高一貫校のブームがこのまま続けば、足元こそ堅調な中学部の市場規模が縮小しかねない。競争に生き残るべく、各社が学年を問わず注力するのがAI活用だ。四谷大塚は2020年、親会社で『東進ハイスクール』を手がける『ナガセ』と共に、中学受験生向けのAI演習コンテンツを開発した。東進で成果を上げている同様のシステム『志望校別単元ジャンル演習講座』を基に、AIを生かした中学受験向けの精緻な入試問題分析・対策を謳う。栄光も昨年、AIを活用した教材を開発するベンチャー『atama plus(アタマプラス)』と手を組み、個別塾に中高生向けの新コースを開講した。アタマプラスの教材は、AIが一人ひとりの学習で躓く原因を特定し、その生徒専用のカリキュラムを作成するというもの。栄光は従前から教室授業でこの教材を導入していたが、「授業時間外も同サービスを利用したい」という声に応える形で、自宅から時間制約なく同教材を利用できるオンライン授業と教室授業のハイブリッドプランを組んだ。低学年時からの囲い込み戦略も、今後を占うポイントのひとつだ。従来の中学受験といえば、「小学3年生の終わり頃に入塾テストを受けて、2月から塾に通い始める」(前出の業界大手幹部)という慣習だった。しかし、今年の早稲田アカデミーにおける小学校低学年の受講生数が小学1年生で前年比79%増、同2年生で60%増と、低学年層からの通塾ニーズは高まっている。「勢いづくSAPIXでは、低学年からの継続生で満員御礼という校舎も出ている。それを見てしまい、4年生からの入学では遅いと捉えられている」(同)。こうした施策は勿論だが、今後より一層重要性を増してきそうなのが、明確な差別化を齎すポジショニング戦略だ。基本的に、学習塾の集客力は「難関校・人気校の合格実績×プロモーション」(同)で決まるとされる。これにより、実績を上げた塾には優秀な生徒が集まるサイクルが生まれる為、上位校の合格実績で独走するSAPIX等好調な塾とそれ以外とでの真っ向勝負は成立し難い。それでも、劣勢の塾は人気塾の授業についていけない生徒の“受け皿”として、明確な強みがなくとも一定数の生徒を確保することができていた。これが近年になって、都立中高での合格実績を重視する『ena』の『学究社』等、ニッチなニーズを的確に捉える企業も台頭しつつある。ある業界大手の首脳は「実績の低い塾は淘汰される」と顔を強張らせる。教育熱が高まり、低学年からの通塾で家計の負担が一層重くなれば、塾選びの基準は今以上にシビアになるだろう。どの企業が“塾王”の座に就き、逆にどこが没落するのか――。市場が横這いである以上、近い将来の明暗はくっきり分かれそうだ。 (取材・文/本誌 森田宗一郎)


キャプチャ  2022年7月23日号掲載

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