【明日への考】(20) 教職不人気、小学校の危機感…質確保へ国家試験提案も
小学校教員の採用倍率が低迷し、教育関係者が危機感を募らせている。児童急増期に教職に就いたベテランの大量退職で採用数が増えたのに、多忙な職場が敬遠されて受験者は減る一方だ。35人学級への移行が始まる中、教員の数と質の両方を確保していく為に、現行制度の在り方を問い直す時期に来ているのではないか。 (編集委員 古沢由紀子)

「教員免許を持つ知人はいませんか」――。東京都内の女性会社員は昨年、長男の通う公立小学校で校長が保護者に呼びかけるのを聞き、驚いたという。産休と病気休職で高学年の2学級で担任が不在となり、何れも校長が兼務したものの、授業は自習が続いていた。「代替教員を補充できず、管理職が担任を務める学校は近年珍しくない」と『全国連合小学校長会』の喜名朝博会長は話す。校長や教頭が業務の傍ら授業を担うのは難しく、児童への影響は大きい。育児休業等で休職者が出た場合、教育委員会に登録する教員免許所持者を“臨時的任用教員”として充てることになっている。嘗ては正規の採用試験で不合格だった教員志望者が多数登録していたが、「採用増が続いた為、翌年の試験を目指す層が払底している」と喜名会長は説明する。埼玉県教委の昨年11月の調査(※さいたま市を除く)では、育休による休職分等を小学校で77人、中学校で22人補充できていなかった。文部科学省は今年度、教員不足に関する初の全国調査を行なう。文科省によると、昨年度採用の教員試験で公立小学校の採用倍率は、過去最低の2.7倍。中学校の5倍、高校の6.1倍と比べても際立って低い。中学・高校教員の免許は幅広い学部で取得できるが、ほぼ全教科を教える小学校教員は養成する大学が限られる。最も狭き門だった20年前と比べ、小学校教員の採用者は約1万6700人と5倍近い。一方で受験者は約4万4700人で、1500人近く減っている。
教員採用に詳しい兵庫大学の山崎博敏教授は、この10年程を“戦後3回目の大量採用時代”と位置付ける。終戦後の児童生徒急増期に採用された教員の多くは1970~1980年代に退職。その補充と第二次ベビーブーム世代(※1971~1974年生まれ)を教える為に大量採用された教員が定年を迎えたのだ。教員の需要は児童生徒の増減や学級規模にも左右されつつ、35~40年周期で増減を繰り返す“構造的な問題”がある。教員の年齢構成も偏り、近年は20~30代が急増。長期的な計画が求められる。受験者減少には教員養成の状況も影響している。文科省は1980年代後半以降、少子化も踏まえて国立大教員養成課程の入学定員を半減させた。体育や音楽も教える小学校教員養成は科目の負担が重く、戦前の師範学校を前身とする国立大が主に担ってきた経緯がある。それが2005年、大量退職による採用増が見込まれる為、文科省は定員の抑制方針を撤廃。小学校教員養成課程を設ける私立大が急増し、昨年には190校に上ったが、「新規参入には地域差があり、供給が追いついていない県も多い」と山崎教授は指摘する。更に、近年は民間企業の採用が好調で、多忙な教職は不人気だ。講師等を続けながら教員試験に再挑戦する待機組も減り、小学校の採用倍率は昨年度、13県市で2倍を割った。今後数年間は採用数が高止まりする自治体も多く、人材の質を懸念する声が強まる。窮状を打開する為に、文科省は小学校教員免許の取得者を増やし、教員志望者の裾野を広げる戦略を立てる。現行の救員免許は、大学で必要な単位を修得すれば都道府県教委から授与される。文科省は小中両方の教員免許を取得する場合に必要な単位を軽減する他、小学校教員養成課程の設置要件を緩和し、私立大等での開設を更に推進する方針だ。社会人が教員免許を取得できる認定試験の受験負担も軽減している。今年度から小学校で35人学級が段階的に導入されるのに伴い、5年間で約1万3000人の教員が必要になる。都教委は、幼稚園教諭経験者が小学校の免許を通信課程で取得して採用された場合、費用を補助する制度を始めた。他方で、新規参入した私立大の一部では、“学力不問”に近い入試や教科指導が不十分な傾向も指摘されている。学校の現場では、「学力不足の若手に高学年を任せられない」「通知表の所見を適切に書けない教員が多く、管理職が添削に追われる」といった校長の嘆きが聞かれる。

「教員免許を持つ知人はいませんか」――。東京都内の女性会社員は昨年、長男の通う公立小学校で校長が保護者に呼びかけるのを聞き、驚いたという。産休と病気休職で高学年の2学級で担任が不在となり、何れも校長が兼務したものの、授業は自習が続いていた。「代替教員を補充できず、管理職が担任を務める学校は近年珍しくない」と『全国連合小学校長会』の喜名朝博会長は話す。校長や教頭が業務の傍ら授業を担うのは難しく、児童への影響は大きい。育児休業等で休職者が出た場合、教育委員会に登録する教員免許所持者を“臨時的任用教員”として充てることになっている。嘗ては正規の採用試験で不合格だった教員志望者が多数登録していたが、「採用増が続いた為、翌年の試験を目指す層が払底している」と喜名会長は説明する。埼玉県教委の昨年11月の調査(※さいたま市を除く)では、育休による休職分等を小学校で77人、中学校で22人補充できていなかった。文部科学省は今年度、教員不足に関する初の全国調査を行なう。文科省によると、昨年度採用の教員試験で公立小学校の採用倍率は、過去最低の2.7倍。中学校の5倍、高校の6.1倍と比べても際立って低い。中学・高校教員の免許は幅広い学部で取得できるが、ほぼ全教科を教える小学校教員は養成する大学が限られる。最も狭き門だった20年前と比べ、小学校教員の採用者は約1万6700人と5倍近い。一方で受験者は約4万4700人で、1500人近く減っている。
教員採用に詳しい兵庫大学の山崎博敏教授は、この10年程を“戦後3回目の大量採用時代”と位置付ける。終戦後の児童生徒急増期に採用された教員の多くは1970~1980年代に退職。その補充と第二次ベビーブーム世代(※1971~1974年生まれ)を教える為に大量採用された教員が定年を迎えたのだ。教員の需要は児童生徒の増減や学級規模にも左右されつつ、35~40年周期で増減を繰り返す“構造的な問題”がある。教員の年齢構成も偏り、近年は20~30代が急増。長期的な計画が求められる。受験者減少には教員養成の状況も影響している。文科省は1980年代後半以降、少子化も踏まえて国立大教員養成課程の入学定員を半減させた。体育や音楽も教える小学校教員養成は科目の負担が重く、戦前の師範学校を前身とする国立大が主に担ってきた経緯がある。それが2005年、大量退職による採用増が見込まれる為、文科省は定員の抑制方針を撤廃。小学校教員養成課程を設ける私立大が急増し、昨年には190校に上ったが、「新規参入には地域差があり、供給が追いついていない県も多い」と山崎教授は指摘する。更に、近年は民間企業の採用が好調で、多忙な教職は不人気だ。講師等を続けながら教員試験に再挑戦する待機組も減り、小学校の採用倍率は昨年度、13県市で2倍を割った。今後数年間は採用数が高止まりする自治体も多く、人材の質を懸念する声が強まる。窮状を打開する為に、文科省は小学校教員免許の取得者を増やし、教員志望者の裾野を広げる戦略を立てる。現行の救員免許は、大学で必要な単位を修得すれば都道府県教委から授与される。文科省は小中両方の教員免許を取得する場合に必要な単位を軽減する他、小学校教員養成課程の設置要件を緩和し、私立大等での開設を更に推進する方針だ。社会人が教員免許を取得できる認定試験の受験負担も軽減している。今年度から小学校で35人学級が段階的に導入されるのに伴い、5年間で約1万3000人の教員が必要になる。都教委は、幼稚園教諭経験者が小学校の免許を通信課程で取得して採用された場合、費用を補助する制度を始めた。他方で、新規参入した私立大の一部では、“学力不問”に近い入試や教科指導が不十分な傾向も指摘されている。学校の現場では、「学力不足の若手に高学年を任せられない」「通知表の所見を適切に書けない教員が多く、管理職が添削に追われる」といった校長の嘆きが聞かれる。
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