【情報偏食・歪む認知】第3部・揺れる教育現場(04) 大量の薬、“いいね”次々
【情報偏食・歪む認知】第3部・揺れる教育現場(03) 動画拡散、苛め加速
【情報偏食・歪む認知】第3部・揺れる教育現場(02) テスト作成、先生いらず
【情報偏食・歪む認知】第3部・揺れる教育現場(01) 小5「バナナ320本で死ぬ」
【疲弊する教員】(下) 待遇改善、現場が一歩

「東京都の校長の年収は1100万~1200万円。教員の退職金は大企業並みの水準だ」――。東京学芸大学は今年1月、教員の待遇を公認会計士が解説する学生向けの動画を公開した。長時間勤務が常態化している労働環境についても、「ICT(※情報通信技術)や部活の外部コーチを活用し、残業は減ってきた」と強調。「今の学生は現実的で、教員の“やり甲斐”だけでは響かない。具体的な待遇面でのアピールが必要だ」との声が、動画作成のきっかけだ。教員養成を目的に設立された学芸大でも、卒業後の進路に教職を選ばない学生は増えている。昨年3月卒業生の教員就職率は63.3%にとどまり、10年前より10.1ポイント下がった。浜田豊彦副学長は、「教育実習等で現場の教員と接する機会はあっても、具体的な給与や福利厚生面までは知られていない。“ブラック職場”のイメージに囚われず、実態を知ることで教員という仕事に目を向けてほしかった」と語る。文部科学省が不定期に実施する公立学校の教員勤務実態調査では、2016年度調査で月の残業時間が80時間超の過労死ラインに達した教員が、小学校で34%、中学校では58%に上ることが明らかになった。以降、改善に向けた取り組みは少しずつ広がり、先月末に公表された昨年度調査で過労死ラインを超えたのは、小学校14%、中学校37%に下がった。だが依然として、国指針の残業上限である“月45時間”を超えて働く教員は、全体の6~7割を占める。
横浜市教育委員会は2019年度から、市立の全約500小中学校に職員室業務アシスタントを置いた。公募等に応じた保護者や元教員らが、その役割を担う。全校児童約640人の寺尾小学校には、2人が交代で平日の午前9時から午後4時45分まで職員室に詰める。保護者からの欠席連絡等、日に20~30本の電話を受け、教員に代わってプリントの印刷や仕分け等を受け持つ(※右上画像の手前)。北村高則校長は「教員は授業に集中でき、助かっている」と話す。労働環境の改善に、教員自らも動き始めている。長野県の公立中に勤める女性教員(57)は、ベテランの一人として校長ら管理職と相談しながら、業務負担の軽減を図ってきた。毎日のように開いていた大小の会議を減らし、毎週の職員会議も隔週に。各教員の業務を見直し、負担が集中しがちなクラス担任は少なくした。これまで大きな問題は起きておらず、自身を含め、定時で退勤できる教員が増えた。女性は、「子供達の為に延々と働くのを良しとしてきた我々の世代が動けば、学校はもっと変わる」と訴える。岐阜聖徳学園大学の玉置崇教授(※学校経営論)は、公立中学校での校長時代に行事の為の練習の一部や式典の来賓挨拶を割愛した。「慣習でやってきた業務は一から見直すべきだ」と指摘する。現役教員や大学教授らでつくる有志の会は3月中旬、教員給与特別措置法(※給特法)の抜本改善を求める要望書を、オンラインで集めた約8万筆の署名と共に文科省に提出した。1971年に制定された給特法は、公立学校教員に残業代の支給を認めず、代わりに月8時間の残業に相当する基本給4%分の教職調整額を支払うと規定する。乗率の見直しは一度も行なわれておらず、「実態と乖離している」との声が上がっていた。文科省は昨年12月から有識者会議で法改正に向けた議論を進めており、政府が6月に示す『経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)』に方向性を盛り込む見通しだ。文科省幹部は、「学校現場の労働環境は改善しつつあるが、長時間勤務の解消は道半ばだ。教職が魅力を取り戻せるよう、更に踏み込んだ改革を行なう必要がある」と話している。
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(教育部)江原桂都・鯨井政紀・松本将統・福元洋平・佐々木伶が担当しました。
【部活動が危ない!】番外編(18) “3年で地域移行”、見直し

主に公立中学校で部活動の指導を地域へ委ねる“地域移行”を巡り、スポーツ庁と文化庁は昨日、来年度からの3年間で集中的に移行を進めるとした方針を改め、期間内の達成に拘らないと明記した部活ガイドラインを公表した。当面は学校主体の部活も併存させる。自治体から移行後の指導を担う“受け皿”の不足を訴える声が相次いだ為、目標を緩めた。両庁は、顧問を務める公立校教員の多忙化や、少子化に伴い学校単位の部活維持が難しくなることを踏まえ、指導の担い手を民間スポーツクラブや文化団体等へ移すことを目指している。有識者会議の提言を踏まえ、来年度からの3年間を“改革集中期間”とし、先ずは休日の活動から移行を始める方針を示してきた。また、自治体や学校向けに、移行後の部活の在り方も定めた新ガイドラインの案を先月公表。指導を担う人材や活動場所の確保が難しくなるケースも考慮し、教員が望めば“兼職兼業”の手続きを経てスポーツクラブ等の指導者として部活に関わり続けたり、学校の体育館やグラウンドを使ったりする案も示した。だが、今月16日に締め切られたガイドライン案へのパブリックコメントには、自治体関係者らから「3年間の移行達成は現実的に難しい」「指導をお願いできる人材が不足している」等と、国が想定するスケジュールでは移行が困難だとする意見が相次いだ。この為、昨日公表のガイドラインでは、地域移行達成の目処としてきた2025年度までの“改革集中期間”について、地域の事情に応じた取り組みを支援する“改革推進期間”に改称。目標時期に拘らず、移行は条件の整った地域から始めてもらうこととした。3年間の進捗を踏まえ、2026年度以降も国による自治体やクラブへの支援は続ける。スポーツクラブ等が少ない中山間地や離島に限らず、都市部の学校でも指導者不足で移行が難しい場合がある。その際は、教員に代わる“部活動指導員”の登用や、複数校による合同部活の導入によって、教員が担ってきた指導や大会引率の負担軽減を図ることが可能だとした。文部科学省は来年度当初予算案の概算要求で、部活改革の関連予算118億円を計上。①学校や自治体、受け皿団体等の調整を担うコーディネーターの配置②指導者確保に向けた人材バンク設置③困窮世帯への参加費補助――といった取り組みを支援し、地域移行を後押しするとした。ただ、指導者確保等自治体側の取り組みが追いつかず、23日に閣議決定された当初予算案では、こうした施策を地域移行に向けた先進例となる“実証事業”として着手してもらうこととした。関連予算も28億円に縮小し、今年度第二次補正予算と合わせ、47億円になった。スポーツ庁の担当者は、「関係者の理解を得て移行を進める為に必要な見直しだ。早期実現の旗は降ろしておらず、準備の整ったところから取り組んでほしい」と述べた。 (取材・文/社会部 李英浩) =おわり

【部活動が危ない!】番外編(17) 「元プロの指導で生徒が本気に」――早坂良太さん(元Jリーガー)インタビュー
部活動の地域移行では、元プロアスリートが指導に携わるケースが予想される。サッカーJ1の『サガン鳥栖』や『コンサドーレ札幌』でプレーし、2020年シーズン限りで現役を引退した早坂良太さん(36、右下画像、撮影/上田泰嗣)は昨年度、佐賀県有田町の2つの中学校でサッカー部の指導を始めた。元プロの目で見た部活の今と、地域で指導に取り組む思いを聞いた。 (聞き手/西部本社報道部運動グループ 丹下友紀子)

――昨年設立した一般社団法人『A-bank SAGA』は昨秋、有田町と連携協定を結び、10月から今年3月まで有田中学校と西有田中学校でサッカー部の指導を受け持ちました。経緯を教えて下さい。
「選手として札幌に在籍した時に、教育現場にアスリートを派遣する一般社団法人“A-bank北海道”の活動を知り、実際に活動の一部を見せてもらいました。凄く良い活動だと思い、同じようなことができないかと佐賀県に相談し、有田町を紹介してもらいました。有田は有田焼で知られる焼き物の町で、松尾佳昭町長は『15歳までに本物を見せるのが一番の教育だ』という考えを持っていました。スポーツも同じではないかということになり、挑戦が決まりました」
――実際に指導をしてみて如何でしたか?
「現場に行くと色々な課題が見えてきました。一番は指導面。子供が考える前に、先に起こるであろうことを周囲の大人が言ってしまっていました。例えば、一つの中学校は当時10人しか部員がおらず、試合も10対11と、1人少ない状況で戦っていました。相手の指導者が『相手は10人だぞ、疲れさせろ』と声を出していたことがありました。大人は口に出さず、選手達自身にどうしたら勝てるかを考えさせるべきでした。部活に限らず、小学生の試合会場に行っても同じような感覚を持ちました」
――どんなことを意識して指導しましたか?
「指導は2つの中学校で月に2回ずつ。学校や町からは、技術よりも『何かを達成したり、一生懸命競技に向き合ったりする大切さを教えてほしい』と伝えられていました。初回にアンケートを取り、夢や興味があることを聞きました。現在、サッカースクールでも週に1度指導していますが、スクールに比べて部活のほうが個々のレベルに差があります。全員が関わることができるトレーニングメニューを組むことに腐心しました。教育現場では、大人が子供達に怒り難くなっていると聞きます。指導している時にヘラヘラしながら練習している生徒がおり、その理由を聞いたが、黙って答えられなかった。僕から、『少しでも何か成長や思考のきっかけになれば、とトライしている。主役である君達がやる必要がないと思うならばやる意味はない。指導が不要ならば、僕も他のことに時間を使いたい』と話をしたら、彼らはそれで変わり、本気になってくれました。こちらが本気で対面すれば生徒も感じてくれるということを学びました」
――今年度は部活を直接指導するのではなく、地域ぐるみで部活を指導する仕組み作りをしているそうですね。
「“部活が居場所”という子がいます。しかし、部活の地域移行が進んだ時、地域に受け皿がなければ、居場所がなくなってしまうのではと思いました。部活の地域移行は先生の働き方改革で始まりましたが、先生が子供と向き合う時間を取る為に必要な改革であるべきです。その子供が優先されていないのは変だなと思いました。現状は、熱心な大人がいなければ地域での活動は成立しません。地元企業や住民から資金や指導者を集め、それを循環させていく仕組みを町と一緒に考えていきたいですね。どこかに過剰な負担があれば長続きはしません。継続的にできる仕組みが必要だと考えています」
――活動の原点は何でしょうか?
「中学校も高校も学校の部活に所属していました。中学時代は名古屋市の選抜選手のトレーニングに呼ばれ、『こんな上手いやつがいるんだ』と刺激を受けたことがありました。選抜トレーニング後に部活に戻り、そこでやったことをイメージしながら練習する時間が有益でした。部活に所属するかしないか、その選択肢が減ってしまうのは、子供達の豊かさを減らすことになるのではと思いました。僕自身のキャリアは特殊だと思います。大学卒業後に企業に就職し、仕事をしながら競技を続け、回り道をしてプロになりました。小さい頃は夢にサッカー選手と書いたのに、プロ選手の現役引退後の将来が不安で、回り道をし、考え抜いた上でプロになりました。子供達はプロは凄いと信じています。夢を見て達成した後は崖っぷち、というのが正しいのかとずっと考えてきました。だが、スポーツ経験がある経営者の方に『競技を頑張った記憶は経営をしている時にも役に立つ』と言われ、ハッとしました。プロを目指すこと自体は間違っていません。なるかならないかが重要ではなく、過程が重要なんだと気付かされました。そういう環境を子供達に残していきたいですね」
2022年8月30日付掲載

――昨年設立した一般社団法人『A-bank SAGA』は昨秋、有田町と連携協定を結び、10月から今年3月まで有田中学校と西有田中学校でサッカー部の指導を受け持ちました。経緯を教えて下さい。
「選手として札幌に在籍した時に、教育現場にアスリートを派遣する一般社団法人“A-bank北海道”の活動を知り、実際に活動の一部を見せてもらいました。凄く良い活動だと思い、同じようなことができないかと佐賀県に相談し、有田町を紹介してもらいました。有田は有田焼で知られる焼き物の町で、松尾佳昭町長は『15歳までに本物を見せるのが一番の教育だ』という考えを持っていました。スポーツも同じではないかということになり、挑戦が決まりました」
――実際に指導をしてみて如何でしたか?
「現場に行くと色々な課題が見えてきました。一番は指導面。子供が考える前に、先に起こるであろうことを周囲の大人が言ってしまっていました。例えば、一つの中学校は当時10人しか部員がおらず、試合も10対11と、1人少ない状況で戦っていました。相手の指導者が『相手は10人だぞ、疲れさせろ』と声を出していたことがありました。大人は口に出さず、選手達自身にどうしたら勝てるかを考えさせるべきでした。部活に限らず、小学生の試合会場に行っても同じような感覚を持ちました」
――どんなことを意識して指導しましたか?
「指導は2つの中学校で月に2回ずつ。学校や町からは、技術よりも『何かを達成したり、一生懸命競技に向き合ったりする大切さを教えてほしい』と伝えられていました。初回にアンケートを取り、夢や興味があることを聞きました。現在、サッカースクールでも週に1度指導していますが、スクールに比べて部活のほうが個々のレベルに差があります。全員が関わることができるトレーニングメニューを組むことに腐心しました。教育現場では、大人が子供達に怒り難くなっていると聞きます。指導している時にヘラヘラしながら練習している生徒がおり、その理由を聞いたが、黙って答えられなかった。僕から、『少しでも何か成長や思考のきっかけになれば、とトライしている。主役である君達がやる必要がないと思うならばやる意味はない。指導が不要ならば、僕も他のことに時間を使いたい』と話をしたら、彼らはそれで変わり、本気になってくれました。こちらが本気で対面すれば生徒も感じてくれるということを学びました」
――今年度は部活を直接指導するのではなく、地域ぐるみで部活を指導する仕組み作りをしているそうですね。
「“部活が居場所”という子がいます。しかし、部活の地域移行が進んだ時、地域に受け皿がなければ、居場所がなくなってしまうのではと思いました。部活の地域移行は先生の働き方改革で始まりましたが、先生が子供と向き合う時間を取る為に必要な改革であるべきです。その子供が優先されていないのは変だなと思いました。現状は、熱心な大人がいなければ地域での活動は成立しません。地元企業や住民から資金や指導者を集め、それを循環させていく仕組みを町と一緒に考えていきたいですね。どこかに過剰な負担があれば長続きはしません。継続的にできる仕組みが必要だと考えています」
――活動の原点は何でしょうか?
「中学校も高校も学校の部活に所属していました。中学時代は名古屋市の選抜選手のトレーニングに呼ばれ、『こんな上手いやつがいるんだ』と刺激を受けたことがありました。選抜トレーニング後に部活に戻り、そこでやったことをイメージしながら練習する時間が有益でした。部活に所属するかしないか、その選択肢が減ってしまうのは、子供達の豊かさを減らすことになるのではと思いました。僕自身のキャリアは特殊だと思います。大学卒業後に企業に就職し、仕事をしながら競技を続け、回り道をしてプロになりました。小さい頃は夢にサッカー選手と書いたのに、プロ選手の現役引退後の将来が不安で、回り道をし、考え抜いた上でプロになりました。子供達はプロは凄いと信じています。夢を見て達成した後は崖っぷち、というのが正しいのかとずっと考えてきました。だが、スポーツ経験がある経営者の方に『競技を頑張った記憶は経営をしている時にも役に立つ』と言われ、ハッとしました。プロを目指すこと自体は間違っていません。なるかならないかが重要ではなく、過程が重要なんだと気付かされました。そういう環境を子供達に残していきたいですね」
