【昭和&平成芸能スクープの裏側】(08) 風吹ジュンの事務所移籍騒動――森七菜の件と酷似? 繰り返された移籍トラブルのタブー

人気急上昇中の若手女優、森七菜の移籍騒動で芸能人の移籍・独立トラブルが注目されているが、芸能史に残る移籍トラブルといえば、風吹ジュンの誘拐事件だろう。「古くは渡辺プロダクションから独立した森進一や小柳ルミ子が一時、芸能界から干されたことがあった。4年前は、あまちゃんで大ブレイクしたのん(※能年玲奈)の独立問題で公正取引委員会まで乗り出した。独立・移籍問題は芸能プロダクションと所属タレントの永遠のテーマですが、風吹ジュンのケースは反社会勢力が関わった異常な事件に発展しました」(元芸能記者)。富山県出身の風吹は、上京して銀座にあったミニクラブ『徳大寺』のホステスとして働いた。クラブといっても今のキャバクラのような店で、オーナーママが芸能界にパイプがあったことから、ホステスとして働いていた五十嵐淳子(※現在は中村雅俊夫人)や故・安西マリア、森田日記らがスカウトされ、芸能界入り。当時、徳大寺は“芸能界の登竜門”と呼ばれた。風吹もスカウトされ、1974年に歌手としてデビュー。清純派アイドル歌手としてブレイクしたが、同年9月に誘拐事件が起こった。「フジテレビでの番組収録後、元事務所の男ら数人が風吹とマネージャーを拉致し、品川区のホテルに軟禁したんです。部屋には反社会的な男や作詞家の故・なかにし礼さんやなかにしさんの実兄もいて、実兄が風吹に事務所移籍を考え直すように迫りました。この間に事務所の社員が顧問弁護士を通じて、警察に誘拐されたと連絡したことから、全国紙に誘拐事件として報じられたのです」(元女性誌記者)。
事の発端は、風吹がデビュー時に仮契約で所属していた事務所Aから、倍のギャラを出すと提示したBに移籍したことだった。レコードがヒットしても月給が上がらなかったことが原因だった。Aの関係者は風吹を拉致する一方で、Bの社長を暴力団事務所に連れ込み、暴行した。風吹はその後、ロビーで保護され、誘拐等のトラブルを否定した為に騒動は一先ず収まった。ところが風吹は、『Bの社長が暴力団と関係している』とある人間から吹き込まれたのを信じて、Cという事務所と契約を結び、三重契約が発覚したのです。風吹は『夜から明け方まで執拗にはんこを押せと迫られたから』と弁明したんですが、契約時に録音された会話のテープが公開され、風吹が全てを承諾した上で契約していたことがバレてしまったんです」(当時を知る芸能マネージャー)。その後、3社の話し合いで風吹はBに所属することで問題は解決したが、反社が絡んだトラブルで風吹の清純派というイメージは大幅にダウン。NHKからは出禁になったが、その後、歌手としてではなく、女優として再ブレイクした。「暴力団が絡んだ移籍トラブルの場に、なかにし礼がいたことで、業界関係者はかなりのショックを受けました」(前出の元芸能記者)。日本歌謡界を代表する作詞家で直木賞も受賞したなかにし礼は、昨年11月24日に死去。享年82。筆者にとっては忘れられないのが、『週刊ポスト』の“衝撃の告白シリーズ”事件だ。風吹の事件が起こる3年前、週刊ポスト1971年7月9日号に『凄い芸能界の“相愛図”なかにし礼』という記事が掲載された。発売後、なかにしは社外記者2人に「貴男の私生活を載せる。嫌なら協力しろ」と強要されたと、社外記者のSとTを刑事告訴。その後、2人は強要罪で逮捕されたが、民事上で和解が成立した事もあって、東京地検は2人を不起訴処分にした。実は、事件の背景には『日本音楽事業者協会(音事協)』の圧力があった。「同シリーズには当時、人気絶頂のアイドル歌手の天地真理も登場。所属の渡辺プロダクションの社長だった故・渡辺普さんは音事協の理事長で、渡辺さんの逆鱗に触れたことで、なかにしさんは業界から干されると恐怖を感じて、告訴状を出した。その一方で音事協は、発行元の小学館に『謝罪しなければ今後取材を拒否する』『写真使用も禁じる』と通告。小学館は圧力に屈して謝罪。同シリーズは、音事協とメディアが対立する象徴的な事件だった」(雑誌記者)。その後、音事協は圧力団体としてメディアに目を光らせるようになった。一方、なかにしは作詞家として次々にヒット作を連発したものの、今度は絶縁した素行不良の実兄が悩みの種となっていた。風吹の誘拐事件の現場にいたのも、不肖の兄に巻き込まれただけだったというのが真相だ。森七菜の移籍トラブルは、利権が絡み、“芸能界のドン”と呼ばれている重鎮が間に入って収まりそうだ。風吹の時のように、暴力団が介入しないことだけがせめてもの救いだろうか。
本多圭(ほんだ・けい) 芸能ジャーナリスト。1948年、東京都生まれ。明治学院大学中退。TBS臨時労働者雇用闘争を経て、『週刊ポスト』記者。フリー転身後は芸能や医療分野を精力的に取材。著書に『スキャンダルにまみれた芸能界のトンデモない奴ら』・『ジャニーズ帝国崩壊』(鹿砦社)。

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