【NHKはどこへ】(12) 制作の決定権者が圧倒的に高齢! NHKの若者向け番組が若者に刺さらない皮肉

「本当はテレビはあまり見ない。YouTubeをやりたいのだけれど、ウェブ動画制作会社は待遇が悪くて不安定。だから、テレビ制作会社を就職先として考えている」――。今、テレビ制作会社を志望している学生達の本音はこんな感じだ。修業のつもりでテレビ制作会社で腕を磨き、何れウェブ動画で勝負をかけたいと思う学生が増えている。『NHK』のインターネット業務を“補完業務”から“本来業務”へと格上げする議論が進んでいるが、放送を配信に変えれば済むほど簡単な話ではない。『テレビ朝日』(※放送)、『ABEMA』(※配信)、動画制作を目指す大学生達に教える立場(※若者)と、3つの立場を経験している筆者から見えるNHKの課題について述べてみたい。“テレビよりもウェブ”という意識のシフトは、学生だけではない。映像制作会社もテレビからウェブ動画制作へ軸足を移しつつある。地上波よりABEMAのほうが自由に制作できる。そして、最高峰の仕事とも言えるのが、『NETFLIX』等の海外配信の番組だ。制作費が桁違いに高額で、世界規模の勝負ができる。NHK等各局がインターネット配信に注力するのには、若者にも制作会社にもテレビが相手にされなくなりつつあることも影響している。学生達はNHKを見ているのか。答えは大きく二分される。敢えて表現すれば、放送局への就職を目指すような難関大の学生達はNHKをよく見ている。制作会社を志望する普通の大学生達は、ほぼNHKを見ない。番組の面白さという点で、“YouTube>民放>NHK”という図式は全ての若者に共通する傾向だ。NHKの番組で、学生が比較的見ているのが大河ドラマ、そしてニュースである。意外にも若者達は寧ろ高年齢層向けとも思える定番番組を好んで見ており、若年層をターゲットとしたNHKの番組をあまり見ていない。
何故、若年層にNHKの番組が刺さらないのか。大きな理由が思い当たる。テレビ業界とウェブ業界は制作環境が大きく違うことだ。ウェブの意思決定権者は兎に角、若い。ABEMAの例だと、トップの藤田晋氏(※『AbemaTV』社長)ですら40代。番組制作を統括するチーフプロデューサー級の決定権者は30代で、実働部隊のプロデューサーの主力は20代だ。若者が企画を提案し、若者が決裁して制作されるから、番組は当然、若者にぴったりフィットする。扱うテーマも恋愛等の身近なものが選ばれ、出演者も若者が共感でき、親しみの湧く人物が選ばれる。そして、制作にスピード感がある。ABEMAでは、視聴者数等の指標が目標に達しない番組は直ぐに打ち切られる。企画は採用され易いが、振るわなければ直ぐ終わる。テレビが基準とする1クールは3ヵ月で、だめな番組でも最低3ヵ月は続くのとは随分違う。一方、NHKの制作プロセスはABEMAとはまるで逆と言っていい。先ず、決定権者が圧倒的に高齢だ。チーフプロデューサーは50代、実働部隊のプロデューサーの主力は40代で、偶に30代の若いプロデューサーがいても、上司達が次々に口を挟み、自由にさせてくれないだろう。企画は高年齢の上司達が決定する。「若者向けの番組もやっています」とアピールできる企画を高齢者が選ぶので、必然的に“意識高め”の番組が増え、“若者達の政治参画意識は今”とか“国際社会の中で今、日本の若者は”のような説教臭いテーマの番組ばかりになる。その結果、若者番組の体ではあるものの、実際の視聴者は高齢者が殆ど。「そうか、今の若者はこうなのだな」と、高齢者が若者をわかったような気になる番組ばかりという皮肉な事態になるのだ。これで、果たしてNHKはウェブコンテンツ業界にとって脅威となり得るのか。それは“やり方次第”だ。先ず、ニュース制作力に関して言えば、NHKほどの取材網を持つ報道機関はない。NHKが全力で制作すれば、ウェブ最強となることも可能だろう。問題は娯楽番組だ。エンターテインメント・音楽の番組制作費は234億円に上る(※右下画像)。タレントの出演料に関して、NHKは民放に比べて驚くほど安い。特別な価格で出演してもらえるメリットがあり、“豪華な出演者をふんだんに使ったウェブ番組”を制作できる可能性がある。しかしながら、若者に受け入れられる面白いバラエティー番組を制作するのは、今のNHKの制作体制では難しい。ウェブ業界の中で、民業の脅威にはならないだろう。若者がNHKに違和感を持つ一番の理由は、NHKが“強制サブスク”と感じられることだ。音楽も動画もゲームも定額料金サービスが当たり前になっている若年層にとって、見たくなるような面白い番組がないのに、強制的に受信料を徴収されるNHKは、“止めたくても止められない”理不尽なサブスクと同じなのだ。
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