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【NHKはどこへ】(10) 犇めく動画配信サービス…荒波に挑むNHKの勝算



20230529 04
今は“任意業務”のインターネット活用業務を“本来業務”に引き上げることが議論されている『NHK』。次期会長の稲葉延雄氏は昨年12月の会見で、「デジタル化のうねりの中で多くの企業が経営を翻弄されており、NHKも全く例外ではない。生き残りを懸けた努力がまさに問われている」と述べた。国内テレビ局では抜きんでた存在感があるNHKだが、インターネットで成功するとは限らない。インターネットとテレビ両方の統計データを取る『インテージ』によれば、インターネットに接続するスマートテレビの家庭内保有比率は、昨年4月時点で38.9%と右肩上がりに増えている。「高齢の視聴者が多いNHKでも、地上波の利用減少は避けられないトレンド」(同社メディアと生活研究センターの林田涼氏)だという。NHKが手がける動画配信サービスは、主に2つだ。常時同時配信&1週間の見逃し配信サービス『NHKプラス』と、見逃し&オンデマンド配信サービス『NHKオンデマンド』。他に『NHKワールドJAPAN』や『NHKワールドプレミアム』もあるが、前述の2つに比べて規模は大きくない。NHKプラスは、有料業務であるNHKオンデマンドとは違い、受信料財源業務として位置付けられる。その為、受信料が主要財源であるNHKとしては、是が非でも伸ばしていきたい分野だ。来年度予算におけるインターネット活用業務の費用配分は、NHKプラスを始めとする常時同時配信等業務が3割を超え、個別の項目では最も比重が高いとみられる。来年度のNHKプラスでは、平日午後6時台の地域向けニュース番組の配信を拡充し、全ての放送局の番組を提供する方針だ。総務省が認めるインターネット活用業務における費用上限は現在、年間200億円となっているが、この制限が外れればNHKプラスへの投資にアクセルを踏む可能性が高い。

では、NHKプラスを中心としたインターネット配信ビジネスの市場環境はどうなっているのか。左上画像に示す通り、NHKプラスが主戦場とするリアルタイム配信において、NHKとの競合が予想される動画配信サービスとその個別領域は多岐に亘る。勢いがあるのは、共に広告付きの無料動画配信サービスである『TVer』と『ABEMA』だ。在京民放キー局5社等が共同出資するTVerは、昨年12月時点の月間ユニークブラウザー数が2500万人を超える。強みは約600ある豊富な番組数だ。参加する放送局は115に及ぶ。同社の蜷川新治郎取締役COOは、「YouTubeのような個人投稿型のメディアを除けば、TVerはAmazonプライムビデオやNETFLIXをも上回るコンテンツ数を取り揃えている」と話す。昨年4月からは民放5系列揃ってのリアルタイム配信を開始し、同年12月からはTVerオリジナル番組も制作・配信する。『ビデオリサーチ』の調査によれば、TVerのジャンル別再生割合は60%以上をドラマが占め、バラエティーが30%近くある。「NHKは報道や教育系が圧倒的に強いが、エンターテインメントでは民放も負けない。寧ろ、NHKと相互送客をすることで、TVerの価値を更に高めることも考えられる」と蜷川氏は話す。FIFAワールドカップカタール2022の放映権獲得で知名度を上げたABEMAは、独自のニュース番組やドラマの制作が特徴だ。運営会社の『AbemaTV』には『サイバーエージェント』が55.2%、『テレビ朝日』が36.8%出資する。「恋愛リアリティーのような若者向けコンテンツが強みで、インターネット企業ならではのコンテンツに拘っている。正直、NHKのインターネット参入は脅威とは全く感じていない」(サイバーエージェント関係者)。ABEMAと連動した周辺事業の収益化も進んでいる。競輪のオンライン投票サービス『WINTICKET』の今年度第4四半期取扱高は、前年同期比1.7倍の779億円となった。リアルタイム配信ならではのコンテンツ活用で、NHKを含めた競合の一歩先を行く。これまではテレビ媒体が中心だった『WOWOW』や『スカパーJSAT』といった有料放送事業者も、インターネットでの配信サービスを強化している。スカパーは2011年から有料配信サービスを運営してきたが、既存の有料放送サービスを未契約でも利用できるようにする為、2021年に『SPOOX』としてリニューアルした。スポーツやエンタメ等様々なジャンルを揃え、好きなジャンルに合わせてプランを決定できる料金体系となっている。WOWOWも2021年1月、リアルタイム・オンデマンド視聴が可能な『WOWOWオンデマンド』をスタート。昨年7月には全体デザインを一新し、ダウンロード機能等を追加した。スカパーはプロ野球、WOWOWはサッカーやテニスの中継が人気コンテンツだ。地上波と衛星放送では放映権の棲み分けがあるが、インターネット配信にその境目はない。近年はスポーツの放映権料高騰が話題となっており、NHKと投資競争になる可能性もありそうだ。

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【NHKはどこへ】(09) 財務から見たNHK…まるで投資ファンド! 金融資産が急膨張



20230522 05
『NHK』の“貯め込み”が加速している。昨年9月末時点のNHKの連結剰余金残高は5135億円(※図1)。営利を目的としない特殊法人でこの数字というだけでも貯め込み過ぎの観があるが、それより注視すべきは8674億円もの金融資産残高だ(※図2)。剰余金残高の1.7倍近くに上る。受信料収入は2018年度(※2019年3月期)に過去最高の7235億円を計上したが、営業スタッフによる戸別訪問を段階的に廃止した影響で、昨年度の受信料収入は6896億円へと約340億円減った。にも拘わらず、一般事業会社の連結営業キャッシュフロー(※CF)に該当する連結事業CFは、2019年度から2021年度までの3年間の累計で3696億円となり、2018年度までの平均的な金額である年間1200億円前後を維持した(※図4)。昨年度の事業CFは1056億円で、前年度に比べ約380億円の急減となった。だがこれは、東京オリンピック・パラリンピック関連の放送費用(※放送権料以外)180億円と、五輪等国際催事放送の放送権料80億円の計260億円を払った上でのことで、これらがなければ2019~2021年度の事業CFの累計は3956億円にもなる。NHKがCF計算書の開示を開始したのは2008年度から。多少のばらつきはあるが、特別な事情で多額の資金流出があった年度を除けば、毎年1000億円を超える事業CFを生んできた。そして、その半分強が設備投資等に回り、残りは余資となり、国債等公共債での運用に回されてきた。その結果として積み上がったのが、7360億円もの有価証券である。これに現預金を加えた金融資産の残高が、冒頭で紹介した数字になる。

金融資産は総資産の6割を占めており、この他に保有不動産の含み益が136億円ある。まるで資産運用を生業としているファンドのようなバランスシートだ。何故、こんな芸当が可能なのか。第一に、収入が減ってもそれ以上に支出を抑え、しっかり利益を稼いでいるからだ(※図3)。その利益はどう生み出されているのか。2018年度と2021年度の連結決算で比較してみよう。昨年度の経常事業収入は7508億円。3年前と比べると6.2%減少した。これは、NHK単体での受信料収入が約339億円減ったことが主因だ。一方、昨年度の経常事業支出は7057億円で、3年前と比べ8.5%減少した。収入は6.2%しか減っていないのに、支出は8.5%減ったのだから、昨年度の経常事業収支差金(※営業利益)は2018年比で50%以上も増えた。支出減の主因は連結放送事業運営費が481億円減ったことにある。連結放送事業運営費の内訳は開示がなく、具体的に何が減ったのかは不明なので、内訳開示がある単体にヒントを求めてみる。単体の国内放送費、国際放送費、番組配信費の合計額は、3年前比で382億円減っている。内訳は、番組配信費が125億円増えた一方で、国内放送の番組費が461億円減っている。これら放送関連の費用以外では、契約収納費、つまり受信料の徴収にかかる費用が158億円減ったのに、人件費は28億円増えている。この10年程、NHKの番組では、番組の最後に流れる制作者の表示に、NHKの子会社や外部の制作プロダクションの名前が頻繁に登場するようになっている。良質な番組制作に外部の力を借りること自体は批判の対象になる話ではないが、NHKは番組制作予算が減った分を、外部の制作会社に皺寄せしていないと言い切れるのだろうか。NHKは「外部の制作会社には適正な対価を支払っている」と胸を張るが、外部のディレクターからは「出張ロケの現場では、NH K本体の人達は宿代始め、費用は全てNHK持ちなのに、制作するフリーランスは自分が知る限り、基本自腹。宿代や移動費を払える資力がないフリーランスは出張ロケにすら参加できない」という声が出ている。

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【NHKはどこへ】(08) 「“公共性”という体のいい言葉に視聴者はそろそろ怒ったほうがいい」――立岩陽一郎氏(元NHK記者)

20230515 04
受信料制度は、『NHK』に希少価値があり、民放との力の差が圧倒的だった時代には成立していた。しかし、今はその希少性が薄れている。世論に訴えるよりも、政治家の力を使って、インターネット時代でも受信料制度を維持しようという姿勢だ。NHKの国民への影響力は薄れているが、政治家にとっては国会中継や選挙報道等にNHKの存在価値が残っている。1日経ったら結果が出る選挙の開票速報に記者を総動員する選挙報道は意味があるのか。取材で得た選挙情報を政治家に伝えることが、国会対応の武器にも使われている。1997~2005年に会長を務めた海老沢勝二氏の時代に、政治との癒着とも言える状態が問題になり、海老沢氏退任後は経営委員会の機能が強化された。しかし、首相の選んだ委員が政府に都合のよい会長を任命するという流れができ、結果的に政治の介入が強まってしまった。制度を変えても意味がなかったのだ。政治家を懐柔できても、国民はNHK維持の為にお金を支払うことに納得しないだろう。過労死した佐戸未和さんについても、報告書すら作成していない。自己批判して検証する姿勢こそが本当の公共性だ。それをせずに、「受信料を維持することが公共性だ」と体のいい言葉に言い換えて乗り切ろうとしている。視聴者はそろそろ怒ったほうがいい。 (聞き手・構成/本誌 野中大樹・井艸恵美)


キャプチャ  2023年1月28日号掲載

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【火曜特集】(595) 日テレとの“合同”出口調査計画が破算に…NHKの飽くなき権力闘争

20230509 06
『NHK』の報道局長人事が物議を醸している。今月15日付で報道局長が山下毅氏から原聖樹氏に交代するが、山下氏は解説委員室特別主幹となり、「出世コースから外れる」(NHK幹部)という。山下氏は政治部長時代、安倍晋三元首相と近かった部下の岩田明子氏との関係が悪化し、熊本放送局に飛ばされた過去がある。だが、同じ自民党宏池会担当だった正籬聡氏が副会長になったことで、2年前に報道局長として復活した。ただ、今回は永田町絡みが理由ではなく、「NHK内部の派閥抗争」(全国紙政治部デスク)との見方がある。山下氏はこの間、正籬氏の下で『日本テレビ』と選挙の際の出口調査を一緒に行なう計画を進めていた。日テレ常務で報道担当役員の粕谷賢之氏は、正籬氏と同じ早稲田大学政治経済学部の出身という縁もあり、数億円かかるとも言われる調査費用の削減の為に接近したのだ。着々と準備が進んでいたが、今年2月にNHKで稲葉延雄会長、井上樹彦副会長の体制がスタートし、事情が変わる。NHK内部で「受信料を使って調査をするのに、一部の社とだけでは不公平になる」との意見が出て、協力計画はご破算になってしまったのだ。解散総選挙が囁かれる中、「日テレ側は今更どうしてくれるのかと怒り心頭」(NHK関係者)だという。山下氏には、その責任があると判断され、けじめをとらされたようだ。山下氏の激しい浮き沈みに、NHKにおける熾烈な権力争いの一端が窺える。


キャプチャ  2023年5月号掲載

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【NHKはどこへ】(07) 「“公共メディア料”としてウェブインフラを支えるシステムに進化させるべき」――境治氏(メディアコンサルタント)

20230508 05
日本は放送と通信の融合を先送りにしてきたが、漸く2020年に同時配信が始まった。『NHK』は公共放送から“公共メディア”に転換しようとしている。だが、インターネット中心の情報空間中でNHKがどのような姿を目指すのか、その実態が未だによく見えていない。インターネット利用者にとっての公共メディアの役割は何か。どのような受信料の仕組みにするのか。新会長に就任する稲葉延雄氏は、難しいパズルに直面することになる。その難題を解く為には、NHKで働く職員達も内側から声を上げ、内部で答えを出す努力が必要だ。更に、視聴者を巻き込んだオープンな議論にすることこそ、NHKが生き残る上での活路となるだろう。新聞や民放等民間メディアも巻き込むべきだ。民放もこれまで以上に公共性を考えねばならない。『ABEMA』も、サッカーW杯の配信では公共性を示せたのではないか。民放はこれまで「民業圧迫だ」と言ってNHKの足を引っ張ってきたが、ローカル局の経営難は深刻だ。受信料を“公共メディア料”に切り替え、NHKだけでなく、民放や新聞、ウェブメディアも含めたウェブインフラを支えるシステムに進化させる。そうした議論をする時だろう。一部から猛反発を受けるだろうが、無秩序なインターネット情報の中で真っ当な言論空間を構築するのが、公共メディアとしての責任だ。 (聞き手・構成/本誌 野中大樹・井艸恵美)


キャプチャ  2023年1月28日号掲載

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【NHKはどこへ】(06) 「インターネット受信料の対象はアプリを導入した人が最も現実的」――曽我部真裕氏(京都大学教授)

20230424 08
『NHK』のインターネット配信が本業になった場合、受信料徴収の在り方はどうなるのか。インターネット受信料は、①ラジオのように無料にする②アプリをインストールした人③端末所有者④全ての国民が支払う――といった選択肢がある。本来の受信料は放送の対価ではなく、公共放送機関そのものを支える国民負担だが、実際はテレビ受信機の有無も加味した制度になっている。国民の理解を得易いのは②だろう。インターネット空間の中で、公共メディアとしての役割をどこまで果たせるのかも重要だ。総務省は公共の役割として、情報空間での“インフォメーションヘルス”の確保を強調する。偽情報が飛び交うインターネット空間で信頼性の高い情報を発信することで、“情報の健康”を保つという考えだ。しかし、インターネット情報は“見たいものを見る”が大前提だ。インターネット上で存在感を示せれば解毒剤的な役割になる可能性はあるが、NHKの情報発信がインターネット空間を劇的に向上させるというのは過大な期待だ。規制のないインターネット空間では、信頼性の低い記事も高い記事も同列に扱われる。NHKだけでは公共の役割を果たすには不十分だ。メディアの多元性を考える上では、存続の危機にある新聞等の主要メディアを維持する為の政策も打ち出すことが必要だ。 (聞き手・構成/本誌 野中大樹・井艸恵美)


キャプチャ  2023年1月28日号掲載

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【NHKはどこへ】(05) 「NHKのお客様は視聴者であって政治家ではない」――相澤冬樹氏(元NHK記者)

20230417 04
私は森友事件の取材中に記者を外され、退職することになったが、『NHK』には“育ててもらった”という思いがある。先輩に教わり、同僚に刺激を受け、他社と競い合う中で記者のありようを学び、鍛えられた。インターネットの時代となり、放送や新聞は消えてゆく。では、効率優先でPV数や経営者の思惑により内容が左右されがちなウェブメディアに公共が担えるか。プロの記者は育つのか。これまでプロの記者を育ててきたのは新聞とNHKだった。だから、私はNHKをなくしてはならないと思う。日本の報道と映像制作の根幹を維持する組織として、NHKは今後も必要だ。問題は、この考えを普通の国民が理解してくれるかどうかだ。今のままでは理解してもらえない。お客様のほうを向いて仕事をしていないからだ。NHKのお客様は、受信料を払ってくれている視聴者。なのに、政治家をお客様だと勘違いしている。受信料の額をどうするかは経営の根幹に関わる話なのだから、本来、内部で必要な額を精査して決めるのが筋。だが、今回の値下げも政治の意向で決まった。若し私が会長だったら、「何で経営の現場を知らない政治家の意向で決められなきゃいけないんだ」と思うだろう。「政権を怒らせなければ組織は維持できる」等とNHKが考えているとしたら、国民から竹箆返しを食らう筈だ。 (聞き手・構成/本誌 野中大樹・井艸恵美)


キャプチャ  2023年1月28日号掲載

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【WEEKEND PLUS】(343) インターネットと足と勘で“発掘”…オモウマい店は何故成功したのか?

“異色のグルメ番組”と呼んでいいだろう。それは『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』(※中京テレビ・日本テレビ系、火曜午後7時)。グルメ番組によくあるタレントの食リポは一切なし。更に、アポなしの飛び込みスタイルで、ユニークな料理や店主の人柄を紹介する。“異色”の背景を探った。 (取材・文/学芸部 屋代尚則)

今月6日の放送。秋田市の山奥にある食堂が紹介された。メニューは“あいがけ丼(チョモ)”。特大どんぶりに3合半ものご飯を詰め、豚の生姜焼きやカレー、キムチ等を豪快に乗せた見たことのないような一品。大人の男性が数人がかりで何とか食べきれるくらいのボリュームだが、値段は1400円で結構リーズナブルだ。デカ盛りを提供する理由について、店主は「(自分が)納得いくまで盛らないと、気が済まねぇから」と語り、「ハハハ」と笑う。兎に角、お客さんに楽しんで食べてほしいというのが本音のようだ。“お客さん愛=デカ盛り”と感じる。同番組は『中京テレビ』(※愛知県名古屋市)の制作。スペシャル番組が好評を博し、昨年4月に現在のタイトルでレギュラー放送が始まった。平均視聴率は毎回ほぼ10%台前半を記録(※『ビデオリサーチ』調べ、関東地区)し、中々好調だ。因みに、番組のタイトルであるオモウマい店は、“オモてなしすぎでオモしろいウマい店”の略だ。グルメ番組だから美味しい店を紹介するのは当然として、“オモてなしすぎる”に着目したきっかけは何だったのか。笠井知己プロデューサー(44)に聞くと、どうやら名古屋圏独自の食文化が背景にあるらしい。例えば、喫茶店で見られるモーニング文化。笠井プロデューサーは、「朝にコーヒーを頼むと、サービスでトーストや卵だけでなく、うどんやステーキまで出してくれる店もあります。以前、名古屋を中心とした東海地方独特の“サービスし過ぎちゃう文化”をローカル番組で取り上げたのですが、評判が良くて。だから、各地の店のおもてなしぶりを全国ネットで紹介してもウケると思いました」と語る。番組ではおもてなしの例として、前述のあいがけ丼等手頃な値段のユニーク料理が紹介される。ただ、笠井プロデューサーは「もてなしたい思いがデカ盛りという形で表れる場合があるということであって、デカ盛りの映像を沢山撮ろうという意識はないです」。寧ろ、店主が客にどんな風に接し、お客さんがどう喜んでくれたか。そういった出来事を“ドキュメンタリー”として伝えることを、主眼に置いていると強調した。抑も、取材する店をどうやって探しているのか。インターネット検索で下調べをした上で、ディレクターが街に繰り出し、店を実際に確かめているという。

20230414 01
谷口昂ディレクター(25、左画像の右、中京テレビ提供)は、その着目ポイントについて、「店が1階、住まいが2階の2階建ての一軒家は、安くて美味しいことが多い」と語る。何とも意外だが、そういった店は家族経営が多く、人件費が比較的かからない。その分、料理を提供するコストが少なくて済むという。谷口ディレクターはこう言う。「偶々通った店の外観が、何だかオーラを放っていることがあるんですよね」。番組開始時から取材をしてきた経験に基づく“勘”が働くのだという。また、谷口ディレクターは以前、埼玉県にある蕎麦店をアポなしで訪ね、泊まり込みで密着取材した。店主の弟子になり、蕎麦打ちに励む様子がオンエアされた。取材対象への“食い込み”ぶりに頭が下がる。そのココロについて、谷口ディレクターはこう話す。「先ずはお店のことを好きになることでしょうか。相手を知り、仲良くなることから、です」。笠井プロデューサーは、「取材というより、店主さんを好きになるという気持ちを持ってほしいと伝えています。そうすれば、結果として血の通った取材ができますから」と打ち明ける。扨て、記者(※屋代)は今月、谷口ディレクターが弟子入りしたという前述の蕎麦店に行ってみた。埼玉県滑川町の『會津野 茂三郎』だ。番組同様、勿論アポなし、である。店の窓際に座っていた店主の五十嵐茂さん(73、同左)は、「取材? 大丈夫だよ」と出迎えてくれた。ガハハ系の豪快な性格だが、訪れた客に「気をつけて帰ってね」と声をかける等、思いやりが滲む。「(谷口ディレクターは)もう息子みたいな存在だね」とも。番組の“異色さ”は、ディレクターが丸裸になって取材相手の店主にぶつかり、本音を引き出すという地道な努力の結果だと実感した。番組は10月4日、2時間スペシャルを放送する。五十嵐さんも登場する予定だ。


キャプチャ  2022年9月17日付夕刊掲載

テーマ : 日本テレビ
ジャンル : テレビ・ラジオ

【水曜スペシャル】(584) 子役に強い劇団や社内のツテも頼る…テレビドラマ“赤ちゃん出演”の舞台裏

テレビドラマを見ていると、生まれたばかりの赤ちゃんをよく目にする。可愛くて、思わず見る方も微笑んでしまう。そこでふと疑問に思った。赤ちゃんって、一体どこから連れてくるのだろうか。泣き止まない時だってあるだろうし、撮影だって大変そう。事情を探ってみた。 (取材・文/学芸部 松原由佳)

20230405 05
先ず問い合わせたのは『NHK』。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、二代将軍・源頼家やその子の誕生等、登場人物の生後間もない様子が幾度も描かれている。どうやって探してきたのだろう。NHK広報局によると、子役を専門とする芸能事務所があって、基本的にそこに依頼しているとのこと。安全を確保する為、対象は首の据わった生後3~4ヵ月以降の乳児という。収録現場にいる時間を短くする為、赤ちゃんの顔を出さないシーンでは人形を使用する場合もあるとか。実際にどのシーンで人形を使ったのかを尋ねたが、「わからないように苦労しているので、回答を差し控えさせて下さい」との返答。人形かどうかを見極めるべく注視したが、全くわからなかった。続いて訪ねたのは、多くの子役が所属する『劇団ひまわり』。この劇団には0~3歳児を対象にした無料の児童登録制度がある。登録の動機は、メディア出演で思い出を作りたい、子供の可能性や個性、表現力や感受性を伸ばしたい等、様々だという。登録した親子に対し、劇団は創造力等を育む為のワークショップを提供している。砂岡誠代表は「マスメディアに出すことだけが目的ではありません」と強調し、「ワークショップ等を通して可能性を引き出そうと考えています」と語る。とはいえ気になるのは、ドラマに出る赤ちゃん。キャスティングを決めるのは、あくまで制作サイドだ。劇団ひまわりは“どういう赤ちゃんを求めているか”を確認した上で、合致しそうな子を制作サイドに提案している。

それにしても、テレビ出演に向き、不向き等はあるのだろうか。赤ちゃんだから、イケメンかどうかなんてよくわからないし――。広報担当者は、大事なのは「赤ちゃんよりも親」と話す。「劇団ひまわりでは『このツールがあれば必ず泣き止むというものを用意してほしい』と親に伝えています。撮影現場で、赤ちゃんは知らない人に囲まれます。その時に機嫌が取れるように、我が子の特性を知ることが大切です」。更に、「生まれたての赤ちゃんの出演はあるのか?」と聞いてみた。砂岡代表は、「ニーズはあるが、実際には衛生面を考えると中々難しいと思います」。やはりハードルは高そうだ。しかし、このハードルを乗り越えたドラマがあった。TBSテレビ系の『コウノドリ』シリーズ(※2015、2017年放送)だ。綾野剛演じる産婦人科医の鴻鳥サクラが命の誕生と向き合うヒューマンドラマで、様々な事情を抱えた妊婦が登場する。女性が出産し、我が子と初めて対面するシーンはドラマの重要な要素だ。鴻鳥が「おめでとう」と母親に呼び掛けながら、赤子を取り上げる。どう見ても生後直ぐの様子だ。「生まれたての赤ちゃん役として出演してもらったのは、生後1週間~1ヵ月。中には名前が未だついていない子もいました」。そう話すのは、同作のプロデューサーである那須田淳さん(59)。生後間もない乳児を出演させる為、撮影の半年程前から、TBS社内で出産が近い家族等を募り、協力を仰いだという。手を挙げてくれた家族は第1シーズンで100人程に。その中から撮影スケジュールに合わせて出演を依頼した。撮影現場では乳児の健康管理に細心の注意を払い、産婦人科の医師や助産師が立ち会った。テストは人形で行ない、本番のみ赤ちゃんにカメラの前に来てもらった。生まれてきた瞬間をよりリアルに再現する為に、保護者の許可を得た上でベビーオイルやベビーパウダーで化粧を施した。こうした出産シーンは1人や2人ではない。ドラマで何人の赤ちゃんが出ているか数えようとしたが、あまりの多さに途中で諦めてしまった。作中には、低体重だったり難病を抱えていたりする乳児が登場する。こうしたケースではスタジオに来てもらうのは難しい。その為、実際の病院の新生児集中治療室(※NICU)で乳児だけを撮影したり、手術シーンは人形を利用したりして再現した。ここまで赤ちゃんの出演に拘り、労力を割いたのは、「感動の原点になるべく嘘は吐きたくない」という思いがあったからだという。那須田さんは、「テーマである出産を如何にリアルに近付けるか考えた結果です」と説明する。これまで何気なく見ていたドラマの赤ちゃん。その裏には関係者の熱い思いがあった。今度はどんな赤ちゃんを見られるのか、楽しみだ。


キャプチャ  2022年8月27日付夕刊掲載

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【火曜特集】(583) WBC中継“高視聴率”でホクホクのTBS…CM収入で赤字でも心配ない理由

20230404 02
日本の優勝で幕を閉じた『ワールドベースボールクラシック(WBC)』の中継を担った『TBS』の笑いが止まらない。5回目となった今大会も、第2回大会以降と同様、『テレビ朝日』とTBSが地上波で放送した。TBSは先月21日、生中継した日本の準決勝(※対メキシコ)を同日19時から再放送。更に翌日には、テレ朝が中継した決勝(※対アメリカ)を、やはりゴールデンタイムに再放送した。試合結果がわかっているにも拘わらず、再放送の視聴率はメキシコ戦が19.8%、アメリカ戦は22.2%(※共に関東地区)と、レギュラー番組を潰してまで放送する価値があった。3年後の次の大会について、放映権契約は未締結だ。「値上げも予想されるが、うちは余程のことがない限り再契約する方針」(同局関係者)という。抑も今大会も、「中継番組単体のCM収入で考えれば赤字」(同)。しかし、関連番組や中継前後の番組への好影響を考えれば、そこまでのマイナスではない。また、放映権を保有していると過去の大会映像を“プロモーション目的”であれば無料で使える。今大会の決勝、大谷翔平選手が三振を奪い勝利を決めた場面等を、次回大会時に他局が使うと“1分数十万円”という法外な料金を取られるが、TBSとテレ朝は無料で済む。放映権料には再放送の権利も含まれていたといい、TBSは労せずして高視聴率を叩き出した。過去2大会もテレ朝が決勝の放送を担当していたものの、日本は準決勝で敗退。その為、決勝の再放送権をTBSに譲った可能性があるが、テレ朝はさぞ悔しかろう。


キャプチャ  2023年4月号掲載

テーマ : テレビ・マスコミ・報道の問題
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