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【火曜特集】(670) NHK記者の経費不正請求問題、元上司が自殺を図る事態に発展

20231107 09
記者が不正な経費請求をしたとして、『NHK』が第三者委員会を立ち上げ、事実関係の調査を進めている。不正が疑われているのは、2012年入局で社会部に所属する男性記者。藤田財閥の系譜に連なる裕福な家柄に育ったが、取材先との飲食費の経費精算をエスカレートさせ、同僚との飲み会や私的な飲食費まで業務上の経費として請求していた。 男性記者は将来が期待されるエースとして知られ、NHKは当初、数件の不正経費を指摘して幕引きを図るつもりだった。ただ、社会部内等で聞き取り調査を進めたところ、不正請求件数は膨大に上ることが判明。これに報道局長が激怒、対外的に公表し、腰を据えた対応をせざるを得なくなった。外部有識者を交えた徹底調査で、他の記者の不正請求が明らかになる恐れもある。ただ、様々な相手と接触し、取材や人脈構築が求められる記者にとって、私的な飲食と業務上の飲食の線引きは難しい。ここまであからさまではなくても、常に“どこまでが取材と言えるか”というグレーな範囲は存在する。NHKが今後、再発防止策として経費の認定範囲を大幅に狭めたり、経費申請手続きを厳格化したりすれば、飲食を伴う取材活動が大幅に制限される可能性は高い。こうした機会が多い政治部や社会部の記者は、どのような対策が打ち出されるか戦々恐々としているという。第三者委設置直後、NHKでは男性記者の元上司が飛び降り自殺を図っている。不正経費請求問題との関連は不明だが、闇は深そうだ。


キャプチャ  2023年11月号掲載
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テーマ : テレビ・マスコミ・報道の問題
ジャンル : ニュース

【火曜特集】(643) フジテレビのやる気の無さで霞む民放連の威光…最後の頼みは“テレ朝のドン”しかいない?

20230905 01
地方局の経営状況の悪化や『NHK』のインターネット配信業務の拡大等、課題が目白押しの『日本民間放送連盟』。昨年6月、会長に就任した『フジテレビ』の遠藤龍之介副会長(67)は「来年6月の任期で交代では」(民放キー局幹部)とも囁かれる。遠藤氏からは、インターネット配信時代に苦境に立たされている民放をどうしていくのか、リーダーとしてのビジョンが全く伝わってこない。その為、「民放連会長はもはや名誉職の時代ではない。仕事をしてもらいたい」(地方局幹部)と厳しい声が出ている。フジテレビは遠藤氏を支える民放連専務理事を送り込んでいない。歴代の殆どの会長は、自分の腹心を専務理事に据えた。例えば、前会長の大久保好男氏(※『日本テレビ』顧問)は『読売新聞』政治部時代からの部下を専務理事にして、改正国民投票法の国会対応等難題に対応した。会長の黒子役を信頼できる部下から出さないこと自体、「遠藤氏やフジテレビのやる気を疑う」(総務省幹部)との見方が就任当初から出ていた。総務省や自民党、NHKからも、民放連と交渉する際の「顔になる人物がいない」(自民党幹部)と嘆き節が聞かれる。フジテレビは長期低迷状態。視聴率が民放キー局5局の中で4位が定位置では、業界を率いるには迫力に欠ける。遠藤氏“更迭”の場合の後任には、『テレビ朝日ホールディングス』の早河洋会長の名前が上がる。視聴率もトップ争いをしており、社業は好調でキャリアも申し分ないが、79歳という高齢がネックだ。


キャプチャ  2023年9月号掲載

テーマ : テレビ・マスコミ・報道の問題
ジャンル : ニュース

【NHKはどこへ】(20) 「受信料制度を批判する人に対して冷たいNHK。何故必要なのか説得してこなかった」――林香里氏(東京大学大学院情報学環教授)インタビュー

20230828 13
――NHKはインターネット配信事業を本格化させようとしています。
「インターネットが私達の生活に欠かせない存在となった今、NHKもインターネットに進出するしか道はない。しかし、NHKが本当に必要だという理由付けをきちんと説明しない限りは、新事業について国民の理解を得るのは難しいだろう。NHKという組織は未だに内向きだと感じる。会長や経営委員の決め方、自民党との関係は不透明なままで、情報開示を求めたり、批判したりする人に対しては一貫して冷淡だ。視聴者の顔色は気にするけれど、政策的な話になると途端に自民党や官邸ばかりを見る。国民を説得してこなかったツケが回ってきているように思う」
――放送のスクランブルを求める声が一部で強まっていますが、何故受信料制度は理解が得られないのでしょうか?
「受信料は一つひとつの番組に支払う対価ではなく、公共放送制度を維持する為のもの。そうした根本的な理解がないから、スクランブル化という議論に負けてしまう。これまで国民は受信料を惰性で払ってきた印象が強いが、受信料制度は本来、健康保険制度のようなもの。健康であっても診療や検査等が必要な時の為に、皆でお金を出して制度を支える。同じように、私達の社会には、民主主義の実現の為に、健全な情報を提供し続ける機関が必要だ。ただ、こうした公共放送制度の必要性と、NHKという組織の維持とは分けて考えるべきだろう」
――公共放送は必要だが、それを担うのがNHKでよいのか、と。
「海外には、公共放送が1局ではなく、複数ある国も多い。公共放送は、本当はNHKだけでなくてもいい。しかし、日本ではNHKが巨大化し、身動きが取れない状態になってしまった。NHK、延いては公共放送が何故必要なのかという根本的な議論がないまま、話題に上るのは受信料の僅かな値下げや、組織のスリム化といった経営の話ばかり。これでは公共放送を維持しようという方向には向かわない」
――NHKだけが受信料で維持されていることに、民放や新聞社からの反発もあります。
「民間は営業して広告を取っているが、NHKは自動的に受信料が入ってくる。にも拘わらず、民放と同じ手法で視聴率を上げようとする。一方で、民放や新聞社もインターネットに追い上げられて自分達の存立基盤を失いつつあり、社会全体で公共性を維持しようとは考え難い構造に陥っている。日本はNHKと民放の二元体制が戦後から続いてきた。民放は無料な為、情報にお金が必要だという意識が根付かなかった。受信料制度という案外難しい議論を、皆で共有していかなければならない。マスが弱まり、多様性の時代になった。Eテレでは障害者やLGBTQ等のマイノリティーを積極的にテーマに取り上げているが、報道番組はマイノリティーに対して冷たい。公共と名の付くメディアこそ、知られざる人を掘り起こし、踏み込んだ報道が求められている」 (聞き手/本誌 井艸恵美・野中大樹) =おわり

         ◇

“公共”という概念は掴みどころのないものです。民間でも国でもありません。この掴みどころの無さを、NHKは巧みに利用してきたような気がします。番組を見ようが見まいが受信料を払わなければならない理由について、NHKは「公共放送だから」と説明してきました。いや、それしか説明してきませんでした。敢えて曖昧さを残してきたのです。そして今、インターネットユーザーからも受信料を徴収しようと模索しています。公共は曖昧だから、インターネット空間にも入り込むことが可能なのです。若い世代から「スクランブル化しろ」という声が上がるのは道理でしょう。公共放送は何の為に、誰の為に存在するのか。立ち止まって考える時です。 (本誌編集部 野中大樹)

実家の母は『チコちゃんに叱られる!』のファンで、毎週見ています。ただ昨年、NHKが旧統一教会問題を積極的に放送しないことに腹を立て、暫く好きな番組を見ず、“チコちゃん断ち”もしたそうです。今は見ているのですが…。おかしな理屈だと思いましたが、それほど公平に情報を届けてくれる筈のメディアだと信頼する証しなのかもしれません。今回取材を受けてくれたNHKの職員からは、報道や番組作りへの熱い思いと信念を感じました。元経営委員の上村達男氏は「公共放送には独立性や人権という魂が必要だ」と言います。その魂は他のメディアにも必要なこと。自分の姿勢も問われているようでした。 (本誌編集部 井艸恵美)

郵便物を受け取る為に自宅にポストを付けたら、知らぬ間に新聞が投函されていて、「うちは新聞は取っていませんよ」と連絡したら、「ポストを設置したら新聞を取る契約をしたことになるんですよ」と告げられ、購読料を徴収された…。ありがちな高齢者詐欺の例え話と思われるでしょうが、これがNHKのビジネスモデルです。彼らは、この理屈を「受信料はサービスの対価ではなく、公共放送を支える国民負担なのだから」と正当化しますが、到底納得できるものではありません。百歩譲って、ユニバーサルサービスとして許容できるのは地上波の一部。衛星放送はどう考えてもオプションなので、スクランブル化が必須です。 (本誌編集長 風間直樹)


キャプチャ  2023年1月28日号掲載

テーマ : 報道・マスコミ
ジャンル : 政治・経済

【NHKはどこへ】(19) 「独立性という魂がなければ受信料を取る資格はなくなる」――上村達男氏(早稲田大学名誉教授)インタビュー

20230821 13
――受信料は強制徴収できるとされています。
「受信料を強制徴収できる根拠は、NHKを“公共財”と見做すからだ。放送法の理念は“放送が表現の自由を確保し健全な民主主義の発達に資するために存在する”とされ、放送は憲法の根幹を担っている。民放にも適用される理念だが、NHKはそれに特化した報道機関であるからこそ、受信料の徴収が認められるわけだ。しかし、実際の放送内容が公共的な役割に特化していなければ、受信料を取る資格はない」
――公共的役割とは何でしょうか?
「災害報道は勿論大事だが、欧州でいう公共性とは人権と民主主義を軸にしている。その具体的なものとして、格差や貧困、戦争等が報じられる。しかし、NHKがこうした問題に積極的に踏み込んできたとは言えない。政治的な問題でも少数意見を持つ人がいる。公共放送の中立性や独立性は、どの番組でも中立な立場を取るという意味ではない。少数意見を掘り起こし、公正に伝えることも、健全な民主主義の発達に資する重要な役割だ。公共性とは、民主主義に基づいた人権や独立性という魂の問題だ。その魂がNHKに本当にあるのか」
――経営委員会は、安倍晋三政権時代には首相に近しい人物が委員に選ばれていました。
「経営委員は国会で承認を得て選出される。こうした国会同意人事が政府任命人事と異なるのは、NHKや日本銀行等政府から独立した機関の人事という点だ。国会同意人事は与野党一致か、最低限、野党1党の同意がなければならないという慣例が日本にあった。嘗て総務省は、野党も賛成する経営委員候補を探すのに苦労していた。これを完全に無視して、政府任命人事と混同したのが安倍政権だ。政府任命人事は税金を扱う業務で、選挙に勝った与党は税金を使う権限がある。しかし、NHKは税金による運営ではない。その点を政府が区別できないでいる。NHKの経営をチェックする筈の経営委員が首相のお友達人事によるものとなれば、経営委員の権威自体がなくなってしまう。制定法に対して、憲法や人権という強力な規範は、欧州では“law”そのものである。NHKのガバナンスの脆弱さには、先人達が培った慣習を“law”として認識できない日本の国会の現状が表れている」
――欧州では受信料を義務化している国もあり、日本でも義務化すべきだという政治家もいます。
「フランスのように、政治に対する市民によるコントロールが日本よりも効き、人権が根底にある国であれば、税金による徴収もあり得る。しかし、税金ならば政府が好きなようにできると考える国では、税金による公共放送の運営は時々の政府の為のものとなってしまう。日本は明治以降、欧州から法律という形は輸入できたが、人権等の魂の部分は受け継げないできた。“仏造って魂入れず”ということだ。経済が巨大化した日本社会で、実は公共性という魂を欠いてきたことが重大な問題だと突きつけられている」 (聞き手/本誌 井艸恵美・野中大樹)


キャプチャ  2023年1月28日号掲載

テーマ : 報道・マスコミ
ジャンル : 政治・経済

【WEEKEND PLUS】(385) 日経の“植民地”と化すテレ東…制作現場に跋扈する新聞記者に「異様な感じ」

20230804 01
『日本経済新聞社』による天下り支配が続く『テレビ東京ホールディングス』では、副社長に日経出身の新実傑氏が昇格した。新実氏は「次期社長は確実」(民放キー局幹部)とされる。日経は“経済番組を制作する”名目で、制作現場にも社員を大勢送り込んでいる。新聞記者が跋扈し、「テレビ局とは言い難い、異様な感じ」(他局幹部)。しかも、「日経本社に一々お伺いを立て、混乱する」(業界関係者)。テレ東はこれまで数々の個性的な番組作りをしてきた。最近では『日経テレ東大学』が『YouTube』でヒットしたが、今年3月に終了。担当プロデューサーが退社する事態になったが、「終了の背景に日経出身者の判断があった」(テレ東関係者)とされる。新実氏は新聞から雑誌、テレビとグループ内を渡り歩き、「自分のいる業界は衰退する」という自虐が売り。テレ東の生え抜きの恨み節が早くも聞こえてきそうだ。


キャプチャ  2023年8月号掲載

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【NHKはどこへ】(18) 受信料制度は“不公平な税金”!? 制度見直しで揺れるBBCの行方

20230731 12
昨年夏以降、スキャンダルや財政政策の失敗で3人目の首相を迎えたイギリス。トップすげ替え劇の陰で、今年まで議論が持ち越しになったのが、『英国放送協会(BBC)』の料金徴収の在り方だ。『日本放送協会(NHK)』の放送受信料に相当する、BBCのテレビライセンス料(※以下、受信料)制度は今後も続くのかどうか。イギリスの放送・通信業を管轄するデジタル・文化・メディア・スポーツ(※DCMS)省のナディーン・ドリス大臣(※当時)は昨年1月、自身の『ツイッター』で受信料制度の廃止を暗示した。ドリス大臣は反BBCの強硬派として知られる。若し廃止となれば、BBCの将来が危うくなるのは必至だ。続いて4月、政府は放送業の未来を描く白書で制度見直しを明記。これを踏まえて、夏には政府とBBCが話し合いを始める筈だったが、相次いで首相が辞任。10月末に成立したリシ・スナク政権で文化相を担うのは、リズ・トラス首相時代に任命されたミシェル・ドネラン氏。嘗て「受信料制度は不公平な税金。一切廃止するべきだ」と発言した人物だ。12月6日、下院のDCMS委員会に召喚されたドネラン氏は、過去の発言からは一定の距離を置いたものの、「受信料制度が長期的に持続可能なモデルでないことは否定できない」と述べた。今後、委員会を設置し、制度の在り方を探る。BBCは民間放送企業としての開局から、昨年10月で100周年を数える。1920年代から、BBCの国内活動資金の殆どは受信料収入による。最新の年次報告書(※2021~2022年)によると、受信料収入の総額は38億ポンド(※約6100億円)に達する。これに国際放送『BBCワールドサービス』運営の為の政府からの交付金、制作コンテンツを海外市場向けに販売する商業部門関連の収入を合わせると、収入総額は53億3000万ポンドに上る。

BBCは、約10年毎に更新される『王立憲章(ロイヤルチャーター)』によって、その存立が定められている。現行の王立憲章の有効期間は2017年1月から2027年12月末まで。この期間内は受信料制度の継続が決まっている。焦点となるのは、2028年以降どうなるかだ。受信料の金額は政府とBBCの話し合いで決定される。昨年1月、ドリス氏は159ポンドの受信料を今後2年間、2023~2024年度まで値上げしないと発表した。その後はインフレ率に上乗せした形で上昇する。現行の金額は2020~2021年度から続いているが、イギリスは今、物価とエネルギー価格の急騰が国民の生活を直撃している。インフレ率を加味すると、受信料収入は実質的に2桁の減収となる。受信料制度が“維持できない”理由は、メディア環境の激変だ。BBCを含むイギリスの主要テレビ局は、15年程前からオンデマンドサービスに力を入れてきたが、動画投稿サイト『YouTube』や、『NETFLIX』・『Amazonプライムビデオ』等の有料動画サービスが多くの人を魅了している。昨年7月、貴族院の通信・デジタル委員会が、受信料制度に代わる資金調達方法について調査を行なった結果を報告書として纏めた。複数の例が紹介されているが、一つ目が広告収入のみの場合だ。BBCの収入が減ってしまい、広告収入を主要な収入源とする民放へも負の影響がある。二つ目が有料視聴制。これも収入が減る見込みで、視聴者の幅も狭く限定することになる。“国内全体に価値あるサービスを提供する”というBBCの存在目的を果たすことができなくなる。三つ目は、所得額と関連付けた金額を徴収する案。価格が上下する、不公平感が出る可能性等が指摘された。四つ目が、通信税を導入する案。ブロードバンド環境の違いによって、これも不公平感が出る可能性ある。五つ目が、普通税の一部とする案だ。視聴する・しないに関わらず一定金額を徴収するが、住宅の価値によって決まるカウンシル税(※日本の地方税に相当)に紐付ける等で不公平感を解消させる。但し、住宅の価値が高くても収入が低い場合、逆に不公平感が増す場合もありそうだ。欧州ではドイツ、フランス、フィンランド、スイス、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク等、公共放送の受信料制度を廃止する国が相次いでいる。ドイツやスイスでは普通税の一部が使われ、フィンランドやスウェーデンでは所得税から公共放送用の資金を捻出。ノルウェーとデンマークは国家予算として割り当て、フランスは消費税を資金源とする。何らかの形で税金を投入し、公共放送を維持する流れがある。しかしイギリスの場合、税金と関連付ける収入源は時の政権や政治家の影響を受け易く、報道機関としての独立性を重要視するBBCにはそぐわないという見方が強い。『欧州放送連合(EBU)』は、公共放送の資金繰りについて考える時に守られるべき指針を出している。「安定し、適切かどうか」「政治的及び商業上の利益から独立しているか」「国民及び市場から見て公正か」「調達方法に透明性があるか」である。政府とBBCは、2028年以降の公共放送の新たな資金調達方法について、今月から本格的な話し合いを始める見込みだ。 (取材・文/在英ジャーナリスト 小林恭子)


キャプチャ  2023年1月28日号掲載

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【NHKはどこへ】(17) 独立は守られているか…安倍晋三政権以降強まる“官邸の意向”

20230724 05
徴税権に準ずる程の強力な受信料徴収権。何故、放送局で唯一、NHKだけに与えられているのか。国家権力や資本家、如何なる団体からの影響も受けず、独立した編集権をNHKに持たせる為に他ならない。それは、国営放送局だった戦前の日本放送協会が、大本営発表の虚偽の戦況と軍部礼賛の報道によって、国民を欺き続けたことへの反省から生まれた知恵と言える。だが、果たしてNHKは国家権力からの独立性を確保していると言えるのだろうか。放送法は、未だ日本が『連合国軍総司令部(GHQ)』の支配下にあった1950年、電波法や電波監理委員会設置法と共に、いわゆる“電波3法”として施行された。一般事業会社の取締役に当たる経営委員は、衆参両院の承認を経て内閣総理大臣が任命。会長はその経営委員が指名し、一般事業会社の執行役員に当たる理事も経営委員の同意を得て会長が指名する。予算・事業計画も国会の承認を必要とする。国会での審議というと一見、民主的なようだが、結局はカネも人事権も政権与党に握られ、人事権を通じて番組内容に関与できる組織とみることができる。つまり、戦後のNHKは最初から「政権与党にとって金(=税金)は出さなくても口を出して人事を左右できる利便性の高い“報道装置”」(NHKに関する多数の著書がある放送ジャーナリストの小田桐誠氏)なのだ。GHQは民主化政策を推し進め、一度は言論の自由を日本国民に与えた。だが、東西冷戦の深刻化と共に、早くも1948年には占領政策を百八十度転換、言論統制を強めた。朝鮮戦争勃発は、電波3法施行から僅か24日後である。

そんな世界情勢の真っ只中で、日本国政府も日本の世論もコントロールしたいアメリカ政府が、NHKに国家権力からの独立性など許す気は毛頭なかったとすれば、NHKのカネも人事権も国に握らせたことは、謂わば必然である。戦後のNHKの歴史の中で政権与党との結び付きがあからさまになったのは、1960年代のことだ。NHKの会長選考は、自民党人事抗争の代理戦争の様相を帯びた。1964年、NHK会長選は、首相4選を阻止された池田勇人氏と、阻止した佐藤栄作氏の代理戦争となり、佐藤氏の強い推薦によって前田義徳氏が会長の座を射止めた。前田氏が、国会での予算審議前に自民党通信部会、政務調査会、総務会に会長自ら事前説明に回る仕組みを導入したのは、自身の就任経緯からすれば当然のことだった。但し、自民党自体が多様な価値観を持つ傑物達が群雄割拠し、良くも悪くもバランスが取れていた為に、1990年代半ば頃までは然程深刻な事態は起きなかった。だが、1996年の衆院選から小選挙区制が導入されると、自民党内の勢力図が一変。森喜朗政権末期の2001年には、政治介入によって番組内容が大きく改変されたとされる、いわゆる“NHK番組改編問題”が発生した。その後、二度の安倍晋三政権で、官邸によるNHKへの介入はより先鋭化していく。2006年に第一次安倍政権が発足すると、菅義偉総務大臣はNHKの受信料支払い義務化と、支払い義務化による増収分を原資とする受信料の2割引き下げを政治課題として掲げた。受信料引き下げは、実現すれば票に繋がる。放送法に受信料の支払い義務を盛り込めば、未払い世帯への強制執行が格段に容易くなるから、財源確保もセットにした改革である。この案に、内部昇格で会長に就いていた橋本元一氏が抵抗すると、『富士フイルムホールディングス』の古森重隆社長を経営委員長として送り込み、受信料の1割値下げを実現させ、会長には『アサヒビール』の福地茂雄元会長を就かせた。菅氏は自身の著書で、官邸主導のNHK経営改革に向け、官邸が人事権を行使したことを明言している。NHKの経営委員長は、複数年、委員を経験した後に就任する慣例も、この時に破られた。第二次安倍政権下では、これまた慣例を破って野党の反対を無視。安倍氏に近い人材で経営委員会が固められ、その経営委員会の指名で誕生した籾井勝人会長(※『三井物産』元副社長)が、就任会見で「政府が右と言っているのに、我々が左と言うわけにはいかない」と発言。受信料制度の根幹たる国家からの独立性を否定した。2014年、報道番組『クローズアップ現代』で、国谷裕子キャスターが菅氏に厳しい質問をしたことが菅氏の怒りを買い、それが2016年3月の国谷氏の番組降板に繋がったとの見方は、今も根強くある(※菅氏は影響力行使を否定)。2016年には高市早苗総務大臣が、放送内容が政治的公平に抵触しているかどうかを判断するのは、行政当局であることを前提とした発言を行なった。前田晃伸会長まで5代続いた経済界出身の会長達は、受信料の引き下げとコストカットには積極的だったが、巨額の貯め込みは問題視しないばかりか、寧ろ加速させた。菅氏も貯め込みを問題視したことがない。税金を投入することなくNHKをコントロールできる官邸にとって、NHKは“国家権力から独立した報道機関”という仮面を着けてくれている今の状態が、最も望ましいのではないか。NHKの貯め込み加速は、NHKの体力強化を狙った官邸の意向そのものなのではないのか。NHKを国家権力から解放するには、放送法を改正し、予算・事業計画の審議権と人事権を国から取り上げ、視聴者による組織を立ち上げて移管するしかない。だが、受信料制度に不満を抱く国民の大勢の意見は、「見ないのに対価を払いたくない」という次元にとどまる。NHKに権力の監視を期待しない、それどころかその必要性すら認識しない国民が増えているのだとしたら、日本は本当に危うい。 (取材・文/金融ジャーナリスト 伊藤歩)


キャプチャ  2023年1月28日号掲載

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【NHKはどこへ】(16) 次期会長が口にした“綻び”の内実…前田晃伸前会長の人事改革に不満噴出

20230710 05
「綻びが見つかるのかもしれません。必要があれば、手直しをしながらベストな姿を見つけていく」――。『NHK』の次期会長に任命された稲葉延雄氏は、昨年1月の会見で“前田改革の評価”を問われ、こう答えた。“綻び”の中身については言及されなかったが、職員の間では「稲葉氏が、前田晃伸会長が断行した人事制度改革のことを暗示した」という見方が支配的だ。2020年1月に会長に就任した前田氏は、同年5月に会長特命のプロジェクトを立ち上げる。8月には会長秘書室が改革を実行に移すメンバーを公募。対象は20~30代の若手職員が中心だ。翌2021年1月に人事制度改革の全体像が職員に説明された。年功序列や縦割りを是正する中身だ。新人採用では職域別採用が廃止され、管理職の昇級試験を導入。50代を中心に早期退職や転職を後押しする施策も始められた。前田改革を前向きに評価する職員からは、「受信料収入が減っていく中、バブル世代で高給の50代管理職の割合を減らそうとする方向は間違っていない」(30代記者)、「年功序列で管理職になった人の中には、部下に仕事を無茶ぶりするような人が時折いる。そういう管理職を減らし、若手や中堅を登用しようとする姿勢は理解できる」(20代記者)という声が上がる。だが、反発も相次ぐ。記者やディレクター、技術といった職種別の採用を止めたことで、2年間は全新人が各職域を体験することになった。40代のディレクターは、「記者志望やアナウンサー志望の新人が入れ替わり立ち替わり制作現場にやって来るようになったが、ちょっと見学したくらいではわからない」と溜め息を漏らす。別の40代ディレクターは、「ディレクターでも記者でも、NHKで働くことの醍醐味は、1つの事案を生涯をかけて追い続け、他メディアではつくれない高いクオリティーのコンテンツを制作できるところにある。縦割りを壊すといえば“改革”として聞こえはよいが、縦割りだったからこそ、横槍を入れられず、現場が仕事に専念できた面もある」と肩を落とす。

改革では、管理職と一般職という分類から、基幹職と業務職という分類へと変更した。旧管理職である基幹職はTM(※トップマネジメント)、M(※マネジメント)、Q(※品質・業務管理)、P(※専門)の4ランクに分けられ、其々に試験を設けた。昨年12月5日に公表された今年度の最終選考結果によれば、TMはエントリー数380人に対し最終通過者数28人で、通過率は7.4%。基幹職全体でも15%以下にとどまる(※左上画像)。能力評価の試験によって、職員約1万人の37%を占めていた管理職を、来年度中に25%まで減らす方針だ。改革の主眼は管理職の割合を減らすことにある。受信料収入が先細りする中では合理的な判断とも言えるが、単なる数字合わせではないかという見方もある。「『納得がいかない、説明をしてほしい』と上層部にまでかけ合ったが、結局、説明はされなかった。あんな不透明な選考で決められるくらいなら辞めてやろうと」。こう語るのは、2007年に入局し、今年退職した元制作局職員だ。『NHKスペシャル』のディレクターや『あさイチ』で企画コーナーのチーフ的な業務をしていたが、昨年度のP選抜で不合格とされた。「新型コロナウイルスで騒然としていた時に、ウイルス企画の番組を年間50本はつくっていた。ボーナスの査定は2年連続最高ランクで、稀なケースの筈だ。実務では誰にも負けていない筈なのに、P選抜に落ちたのは何故なのか」。不合格通知の〈今後 特に意識するべきポイント〉には“人財育成への取り組み”とあるが、〈評価が高かったポイント〉にも“人財育成に取り組む意識”とある。「内容が論理破綻している。人事制度改革が如何に人を見ず、数字合わせをしているかが証明されている」(同)。人事制度改革では、人事権を現場から人事局に集中させた。昇級の合否は試験結果から判断する為、「現場での実績や評価と乖離している」という疑念が拭えない。「何故、この人が合格したのか」。そんな疑念の声は、試験に合格した職員からも上がっている。前出の元制作局職員は、以前存在した管理職への登用資格は取得していた。それだけに、人事制度改革には不合理を感じている。「是正を訴える者を排除し、“従順な会社員”だけで管理職を固めていては、真の改革は不可能だろう」。二次試験以降の面談やグループディスカッションでは、マネジメントやハラスメント等リスク管理に関する質問が大半を占める。西日本の40代デスクは、「NHKには、サービス残業をしてでも地道に取材を重ねている記者が少なくない。彼らの日頃の努力は、昇級試験の評価対象にはなり難い。書類を上手く書き上げ、グループディスカッションでスマートに対話のできる人間が“マネジメント能力がある”として昇格していくのは腑に落ちない」と訝る。誰の為に改革しているのかが見えないという指摘もある。人事制度改革には『ボストンコンサルティンググループ』や『デロイトトーマツコンサルティング』等、大手コンサルタント会社が関与してきた。50代のディレクターは、特殊法人であるNHKが大手コンサルタントの手を借りて改革を進めることに怒りを抑えきれない。「NHKは国民の受信料で成り立っている。そのお金をコンサルタントに支払い、NHKはどこへ向かおうとしているのか」。“綻び”をどう見直していくか。稲葉次期会長の一手に注目が集まる。 (取材・文/本誌 野中大樹・井艸恵美)


キャプチャ  2023年1月28日号掲載

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【NHKはどこへ】(15) 佐戸美和記者の過労死の真相を追及したジャーナリストはNHKの仕事が激減

20230703 05
100人を超える関係者に当たって、未和さんの過労死の真相に迫ったのが『未和 NHK記者はなぜ過労死したのか』(※岩波書店)。著者の尾崎孝史氏はフリーの編集マンとして30年来、『NHK』で番組制作に携わってきた。ところが、尾崎氏が本書に関する取材を始めた2017年を境に仕事は激減した。NHKでの仕事は尾崎氏の収入の9割超を占め、中でも10年来軸足を置いていたのが、『ハートネットTV』等を作る文化・福祉番組部だ。2017年に82日だった同部での業務日数は、2018年に5日に激減。2020年にはゼロになった。主な収入源を失い、昨年には住宅費を捻出するのも困難に。丁度その頃、ウクライナ戦争が勃発し、3月に現地移住を決断。現在は前線で取材を重ねる日々を送る。昨年4月、尾崎氏のSNSを見たNHK職員のディレクターからメッセージが届いた。それをきっかけに、牧師の避難民支援活動に関するルポを作ることになった。ルポは国際放送のニュース番組で5月に放送され、評判が良かった為、6月4日の『おはよう日本』でも流すことになった。ところが、試写も終わった前日の21時に事態はひっくり返る。急遽、放送中止を告げられたのだ。理由は、フリーランスを危険な地域での取材に起用できないといったものだった。「あのルポが地上波で出ていたら、人道支援活動すら攻撃の標的にされていると広く伝えることができた。NHKが未だ未和さんの過労死をタブー視していることを、身を以て知った」(尾崎氏)。放送中止と、尾崎氏が『未和』の著者であることに関係はあるのか。NHKは、「取材・制作の詳しい過程は答えていない。外部への業務の発注は責任者が個別に判断している」と回答した。 (取材・文/本誌 印南志帆)


キャプチャ  2023年1月28日号掲載

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【NHKはどこへ】(14) 「娘を過労死させた真因を今からでも検証してほしい」…佐戸未和記者の両親の思い

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――2013年に娘の未和さんが亡くなって10年になります。
父の守さん「未和の過労死を巡り、法的にはNHKと調停が成立している。だが亡くなる前、そして亡くなった後のNHKの対応には納得がいかない。過労死の経緯を巡って関係者の証言を十分に集め、問題点を洗い出すような調査、検証をしておらず、調査報告書も作成していないからだ。未和の長時間労働が放置された理由を、NHKは当時の記者に適用されていた勤務制度にあると短絡的に結論付けた。しかし、問題は制度だけではない筈だ。NHKには、報道機関として過労死が起きたことを総括し、自戒を込めた検証番組のようなものを作ってほしい、と要望してきた。しかし、応じることはなかった。毎年、命日になると幹部が我が家に来るが、ただ私達の話を黙って聞き置くという姿勢に徹している。こうしてNHKが未和の過労死へのけじめをつけないまま、昨年8月には第二の過労死が労災認定された。しかも、未和と全く同じ職場で、だ」
――NHKは2017年まで未和さんの過労死を伏せており、職員にも周知しませんでした。
守さん「未和が過労により亡くなり、翌年に労災認定されたことを、一周忌、三回忌共に出席された全員に話している。NHKから多くの人が出席していたので、局内で伝わっているのだろうと思い込んでいた。しかし、実態は違った」
母の恵美子さん「私は未和を失ったショックで心を病み、暫く入院していたが、退院後の2017年春から“東京過労死を考える家族の会”の一員として活動し始めた。ある集会に参加した際、会場にNHKの記者らが来ていたので、『佐戸未和の母です』と声をかけた。すると、皆がポカンとしている。そんなことが頻発し、未和の過労死は局内で殆ど伝わっていないと気がついた。過労死防止に関する厚生労働省の協議会の傍聴席で出会った労働問題専門のNHKの解説委員さえ、局内で起きた過労死を把握していなかった。未和と親交のあった若い職員の方々に事情を聞いたところ、局内では未和のことを話題にすることすら憚られる雰囲気だという」
――NHKは「遺族が公表を望んでいない」と説明していました。
守さん「『公表しない』とは一言も口にしていない。2014年に労災認定を受けた後、担当弁護士から記者会見をするかを問われ、辞退したのは事実。妻の焦燥ぶりが酷く、自殺しかねない状況だったからだ。記者会見を開ける精神状態ではなかった。しかし、会見をしないと公表する意思がないと見做されるとは思いもしなかった」
――未和さんは過労死ラインを大幅に上回る長時間労働をしていました。加えて、職場の人間関係にも問題があったようです。
守さん「正確な時期は不明だが、未和が働く都庁クラブで上層部から『(番組の枠を埋める為の)出稿数が少ない』と叱責され、会議が開かれたという。そこで取材方針を巡る議論があり、特ダネ路線でいくのか、1つのテーマを深掘りした記者リポート重視の路線でいくのかで意見が割れた。テーマを掘り下げた取材がしたい未和は、そこで特ダネ路線を主張するキャップと対立してしまった。その会議を機に、キャップの未和への態度は豹変したという。キャップに他の男性記者も追随していたので、未和はチーム内で孤立していたのかもしれない」
――未和さんが音信不通になってから発見されるまで、2日間の空白があります。同僚は何故異変に気付かなかったのでしょうか?
守さん「“空白の2日間”の職場の対応を、NHKがどう検証したのか知りたい。同僚達が未和の異変に気がつくチャンスは、少なくとも3回はあったからだ。1回目は7月24日の面談。未和は横浜局の県庁担当への異動が決まっており、都庁の局長、次長へ挨拶に行くことを前日に先輩記者にメールで報告している。ところが、その場に未和は現れていない。それを不審に思った人はいないのか。その先輩記者にメールについて尋ねると、『よく覚えていない』と返されてしまった。2回目は、その日の夜に開催された首都圏放送センター選挙班の打ち上げ。そこにも未和は出席していない。そして3回目が翌25日。音信が途絶えた未和を婚約者が心配し、都庁クラブに電話した。受けたのは前述の先輩記者だが、『携帯電話の電源が切れているのでは』と真面に取り合わず、他のメンバーにも情報共有しなかった。何故、一緒に働いている誰も未和の消息を確認しなかったのか。疑問は拭えない」
――今、最も強く訴えたいことは?
恵美子さん「未和は私の人生、希望そのものだ。何故あの時、傍にいてやれなかったのか、自分を責め続けている。こんな思いを他の人にさせたくない。親からしたら、娘を見殺しにされたようなものだ。今からでも遅くない。検証・調査チームをつくり、当時の職場の実態を明らかにしてほしい」 (聞き手/本誌 印南志帆・野中大樹)


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