【NHKはどこへ】(10) 犇めく動画配信サービス…荒波に挑むNHKの勝算

今は“任意業務”のインターネット活用業務を“本来業務”に引き上げることが議論されている『NHK』。次期会長の稲葉延雄氏は昨年12月の会見で、「デジタル化のうねりの中で多くの企業が経営を翻弄されており、NHKも全く例外ではない。生き残りを懸けた努力がまさに問われている」と述べた。国内テレビ局では抜きんでた存在感があるNHKだが、インターネットで成功するとは限らない。インターネットとテレビ両方の統計データを取る『インテージ』によれば、インターネットに接続するスマートテレビの家庭内保有比率は、昨年4月時点で38.9%と右肩上がりに増えている。「高齢の視聴者が多いNHKでも、地上波の利用減少は避けられないトレンド」(同社メディアと生活研究センターの林田涼氏)だという。NHKが手がける動画配信サービスは、主に2つだ。常時同時配信&1週間の見逃し配信サービス『NHKプラス』と、見逃し&オンデマンド配信サービス『NHKオンデマンド』。他に『NHKワールドJAPAN』や『NHKワールドプレミアム』もあるが、前述の2つに比べて規模は大きくない。NHKプラスは、有料業務であるNHKオンデマンドとは違い、受信料財源業務として位置付けられる。その為、受信料が主要財源であるNHKとしては、是が非でも伸ばしていきたい分野だ。来年度予算におけるインターネット活用業務の費用配分は、NHKプラスを始めとする常時同時配信等業務が3割を超え、個別の項目では最も比重が高いとみられる。来年度のNHKプラスでは、平日午後6時台の地域向けニュース番組の配信を拡充し、全ての放送局の番組を提供する方針だ。総務省が認めるインターネット活用業務における費用上限は現在、年間200億円となっているが、この制限が外れればNHKプラスへの投資にアクセルを踏む可能性が高い。
では、NHKプラスを中心としたインターネット配信ビジネスの市場環境はどうなっているのか。左上画像に示す通り、NHKプラスが主戦場とするリアルタイム配信において、NHKとの競合が予想される動画配信サービスとその個別領域は多岐に亘る。勢いがあるのは、共に広告付きの無料動画配信サービスである『TVer』と『ABEMA』だ。在京民放キー局5社等が共同出資するTVerは、昨年12月時点の月間ユニークブラウザー数が2500万人を超える。強みは約600ある豊富な番組数だ。参加する放送局は115に及ぶ。同社の蜷川新治郎取締役COOは、「YouTubeのような個人投稿型のメディアを除けば、TVerはAmazonプライムビデオやNETFLIXをも上回るコンテンツ数を取り揃えている」と話す。昨年4月からは民放5系列揃ってのリアルタイム配信を開始し、同年12月からはTVerオリジナル番組も制作・配信する。『ビデオリサーチ』の調査によれば、TVerのジャンル別再生割合は60%以上をドラマが占め、バラエティーが30%近くある。「NHKは報道や教育系が圧倒的に強いが、エンターテインメントでは民放も負けない。寧ろ、NHKと相互送客をすることで、TVerの価値を更に高めることも考えられる」と蜷川氏は話す。FIFAワールドカップカタール2022の放映権獲得で知名度を上げたABEMAは、独自のニュース番組やドラマの制作が特徴だ。運営会社の『AbemaTV』には『サイバーエージェント』が55.2%、『テレビ朝日』が36.8%出資する。「恋愛リアリティーのような若者向けコンテンツが強みで、インターネット企業ならではのコンテンツに拘っている。正直、NHKのインターネット参入は脅威とは全く感じていない」(サイバーエージェント関係者)。ABEMAと連動した周辺事業の収益化も進んでいる。競輪のオンライン投票サービス『WINTICKET』の今年度第4四半期取扱高は、前年同期比1.7倍の779億円となった。リアルタイム配信ならではのコンテンツ活用で、NHKを含めた競合の一歩先を行く。これまではテレビ媒体が中心だった『WOWOW』や『スカパーJSAT』といった有料放送事業者も、インターネットでの配信サービスを強化している。スカパーは2011年から有料配信サービスを運営してきたが、既存の有料放送サービスを未契約でも利用できるようにする為、2021年に『SPOOX』としてリニューアルした。スポーツやエンタメ等様々なジャンルを揃え、好きなジャンルに合わせてプランを決定できる料金体系となっている。WOWOWも2021年1月、リアルタイム・オンデマンド視聴が可能な『WOWOWオンデマンド』をスタート。昨年7月には全体デザインを一新し、ダウンロード機能等を追加した。スカパーはプロ野球、WOWOWはサッカーやテニスの中継が人気コンテンツだ。地上波と衛星放送では放映権の棲み分けがあるが、インターネット配信にその境目はない。近年はスポーツの放映権料高騰が話題となっており、NHKと投資競争になる可能性もありそうだ。
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テーマ : テレビ・マスコミ・報道の問題
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