【政治の現場・民共融合】(04) 政策軽視の結集、限界

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先月31日に投開票された東京都知事選で、民進・共産等野党4党が統一候補として推薦した鳥越俊太郎氏は、保守分裂の好機を生かせず、3位に沈んだ。「野党共闘の要は2つあり、1つは政党が中(支持層)を固めること。もう1つは、それを前提に浮動票の過半数を取ること。何れもできなかった」。民進党の岡田代表は今月4日の記者会見で、野党共闘が機能しなかったことを率直に認めた。読売新聞の出口調査では、鳥越氏に投票したのは民進支持層の約5割、無党派層の約2割に留まった。都知事選前の参院選では、4党は東京で計248万票の比例票を獲得したが、鳥越氏の得票数は約134万票。単純計算すると、4党の支持層から100万票超が逃げたことになる。最大の敗因は、政策軽視の戦術だ。民進党は、告示直前に突如出馬の意向を示し、「未だ公約はできていない」と公言する鳥越氏を即座に推薦した。共産・社民両党も、過去2度の都知事選で支援し、早くから準備を進めてきた宇都宮健児氏ではなく、鳥越氏に相乗りした。政策協定も結ばないまま、各党が“見切り発車”を決めたのは、「入念に政策を擦り合わせれば、各党の違いが露呈しかねない」(陣営関係者)との事情もあったようだ。鳥越氏が各党の共通政策である“改憲阻止”を理由に出馬表明したことも、共闘には好都合だった面がある。実際の選挙戦では、鳥越氏の主張と民進党の政策との違いが際立った。

「東京を中心に250km圏内の原子力発電所の停止・廃炉を電力会社に申し入れる」(北区の演説会で)。鳥越氏は原発の停止や廃炉に踏み込んだが、“2030年代の原発ゼロ”を目指す民進党は、責任ある避難計画の策定等を条件に、当面は再稼働を容認する立場だ。それでも、民進党は異論を唱えなかった。一方、“原発即時ゼロ”を主張する日本共産党は、機関紙『しんぶん赤旗』で鳥越氏の発言を取り上げ、全面的に賛同した。民進党の枝野幹事長は、この点を記者会見で指摘されても、「発言の詳細を窺っていない。コメントは避けたい」と答えるのがやっとだった。消費増税を巡っても、鳥越氏の発言は更にエスカレートした。伊豆大島での演説で、消費税率を“大島限定”で現行の8%から5%に引き下げる考えを披露したのだ。民主党政権時に消費増税への道筋をつけた“社会保障・税一体改革”を主導した民進党だが、ここでも修正に乗り出さなかった。『おおさか維新の会』の橋下徹前代表は自身のツイッターで、「民進党は鳥越さんの公約を実現する覚悟があるのか。覚悟がなければ、鳥越さんにドクターストップをかけるべきだ」と指摘した。民進党都連には今尚、執行部への蟠りが残る。元経済産業省官僚である古賀茂明氏の擁立で動いていたところを、野党共闘の枠組みを重視する岡田代表らが頭越しで鳥越氏推薦に向けた調整を始めた為だ。党都連会長で元国家公安委員長の松原仁氏は、「古賀さんのほうが、都民が聞きたいことを語れて、政策議論も深まった筈だ。魅力的な候補者だった」と無念さを隠さない。都連幹部の1人は、「党本部は『鳥越さんは知名度があるから選挙戦術的に勝てる』と思ったのだろうが、却って拒絶反応を起こした」と振り返る。都知事選は、政策の一致よりも、反自民票の結集を優先する“野党共闘”路線の限界を明確に示した。


⦿読売新聞 2016年8月23日付掲載⦿

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【警察の実力2016】(05) 捜査2課…“花形”は汚職の摘発でも最近は“特殊詐欺”に軸足

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汚職・選挙違反・詐欺・横領等、所謂“知能犯”の捜査を担当するのが捜査2課だ。殺人や窃盗事件等の発生事案とは異なり、姿形の無い犯罪を立証しなければならない。捜査自体が地味である為か、刑事ドラマで取り上げられることは殆ど無い。しかし、時に政治家や官僚らを摘発する捜査2課の課長職は、警察庁のキャリア官僚も就く都道府県警察本部の重要ポストだ。彼らは、その存在意義を誇示する為にも、頭文字の部首名から“サンズイ”と呼ばれる汚職事件を狙う。汚職の摘発こそが、捜査2課の王道なのだ。捜査2課の仕事は、隠されている事件の発掘から始まる。事件の端緒を掴むコツについて、関西地方の元刑事は「如何に良い協力者を多く作るかが腕の見せどころ。人脈がものをいう世界だ」と語る。公務員・議員・民間企業の会社員らと非公式に接触し、雑談の中から端緒を掴むことが多いという。その為の会食費等は、自腹を切るのが基本だ。前出の元刑事は、「仮に相手に奢られた場合、必ず同じ金額の贈答品を送って借りを作らないようにした。毎月の出費は平均20万円ほど。妻がアルバイトをして、生活費の足しにしてくれていた」と笑う。それでも“見えを張る為”に、ワイシャツやネクタイはブランド品で固めた。警察本部の中でも、捜査2課の刑事が「断トツで持ち出しが多い」というのが関係者の一致した見方だ。事件の端緒を掴んだら、証拠を固める内偵捜査に入る。対象者の行動を長ければ数年かけて追うが、必ず事件化できる訳でもない。忍耐力が要求される仕事だ。

汚職事件は捜査2課の“花形”事件ではあるが、近年、その摘発は低調気味だ。その理由について、捜査2課担当の全国紙記者はこう話す。「内偵捜査を進めて仕上げ段階に入ると、2課は検察庁に相談に上がる。しかし、あの事件が起きて以降、検事が相当慎重になり、着手のゴーサインが出難くなった」。“あの事件”とは、2010年に発覚した大阪地検特捜部による証拠改竄事件のことだ。特捜部の見立てに沿った虚偽の供述調書が作られ、証拠品のフロッピーディスクのデータを改竄したことが明るみに出た。この事件を契機に捜査当局への風当たりが強まり、自白偏重の捜査手法が見直されることになった。しかし、密室で起きる汚職の摘発は、結局のところ、関係者の供述による部分が大きい。事件に着手できるか否かは、公訴権を持つ検察の判断次第なのだ。抑々、全国最大の陣容を誇る警視庁捜査2課と東京地検特捜部は、捜査段階でバッティングすることも多く、長年に亘る確執があった。「検察は『巨悪を眠らせない』と豪語するが、こっちは巨悪から少額被害の詐欺のような“小悪”まで全てやる。検察は起訴と公判維持に専念するべきで、捜査は警察に任せてくれればいい」と警察庁の元キャリア官僚は主張する。汚職事件に中々着手できないジレンマの中で、捜査2課の仕事は近年、急増する特殊詐欺の捜査に軸足が移りつつある。何しろ、振り込め詐欺等特殊詐欺の被害総額は、2014年に565億円と過去最高を記録する等、未だ減る気配が無いからだ。“小悪”も積み重なれば“巨悪”になるかもしれないが、2課本来の役割は政治家等の“巨悪”を摘発することだ。検察といがみ合っている場合ではない。


キャプチャ  2016年7月30日号掲載

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【創価学会vs日本共産党】(09) 約70もの学会施設が犇めく膨張を続ける“創価村”の今

石造りの白い建物に三色の旗が映える創価学会員の聖地、信濃町。書店もお土産店も飲食店も、街の風景が学会一色に染まっている。そんな“創価村”は今、どうなっているのか。

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緑豊かで、秋には銀杏並木が黄色に染まる明治神宮外苑。東京オリンピックを控えて建て替えが物議を醸した新国立競技場のある場所だ。その神宮外苑から首都高速とJR中央線を挟んで北側に広がるのが、創価学会員の“聖地”、信濃町である。JR信濃町駅の改札口を出て、街に一歩足を踏み入れれば、青・黄・赤の三色旗に染まった商店街が目に飛び込む。普段は見慣れない風景に、非日常の世界に迷い込んだ感覚になる。そこから更に歩を進めると、2013年に建立された『広宣流布大誓堂』という、学会総本部の入る荘厳な大礼拝堂が出迎えてくれる。大誓堂の南側には、2012年に新設された『創価文化センター』が鎮座する。中にある金舞会館は、5月に創価班・牙城会の集いが開催された礼拝施設だ。『創価学会』の歴史をデジタル化した展示スペースもあり、広報機能も果たす。この2棟が聖地の中核施設だ。信濃町の学会関連不動産事情を整理したのが右の地図だ。南にあるJR信濃町駅から北の四谷3丁目方面に“創価村”は延びており、ここだけで約70もの学会関連施設が犇めき合う。信濃町だけでは収まり切らず、南東に隣接する南元町や北西の左門町まで勢力範囲を拡大している。例えば、『南元センター』と『南元栄光会館』に挟まれた場所に古い建物がある。嘗て、『三井住友銀行』の福利厚生施設が入っていた『銀行会館』だった所だ。2014年3月に、学会が三井住友から1000㎡以上の不動産を購入。どのように活用されるのか気になり、本誌記者が現地に足を運んだものの、門が閉ざされていて看板も掛かっていない。今のところ、何かに利用されている様子は無さそうだ。『南元会館』の東隣にあるアパートも、今年2月に学会が購入。既に飽和状態と思われた“創価村”だったが、今後もまだまだ膨張を続けて広がりを見せそうだ。

信濃町周辺の施設を大別すれば、点在する礼拝所等の宗教施設・『聖教新聞社』の施設・公明党の関連施設、そして学会関連企業が入るビルの4つがある。学会の本部施設は大誓堂近辺に集中する。直ぐ北側の『接遇センター』は、地方から上京した学会員らが池田大作名誉会長にお土産や手紙を渡す場所。その東の『常楽園』は、学会員のみに立ち入りが許される。本部を見詰める戸田城聖第2代会長の胸像や池田名誉会長の句碑・和歌の銘板があり、学会員と思しき女性グループがにこやかに記念撮影していた。また、『創価文化センター』の南には、勤行・唱題の場である『信濃平和会館』がある。これらが大誓堂周辺の主な施設で、後は本部別館や職員寮等がある。学会の機関紙を発行する聖教新聞社は、大誓堂周辺の喧騒から少し離れた閑静な一画に佇む。水色のガラス張りの外観が印象的な本社、その隣に第1別館と第2別館、そして見学室がある学会内では、聖教新聞を各家庭に届ける取次店(販売店)及び配達員を“無冠の友”と呼ぶが、見学室は彼らを顕彰する空間だ。聖教新聞本社から南に少し坂を下っていくと、池田名誉会長の私邸が見えてきた。常時、学会員と思しき人物が目を光らせており、何人も近付くことが許されない雰囲気が漂う。本誌は、創価学会関連の民間企業を現状で14社確認しているが、その内、信濃町近辺に本社を構えるのは、『東西哲学書』・『シナノ企画』・『信濃建物総合管理』・『日光警備保障』・『ニット保険』の5社。後は北に向かって四谷3丁目方面に行けば、『文化会館』等の設計を一手に担う『創造社』の本社ビルがある。大誓堂から外苑東通り側に抜けて道を渡れば、慶應義塾大学病院の隣に『民音音楽博物館』がある。不動産は学会関連財団の『民主音楽協会』の所有だったが、2012年に“寄付”の形で学会が引き受けた。2010年に学会創立80周年を迎え、信濃町はここ数年で施設の改築が進み、街全体がスッキリと整備された印象がある。一方で、街の至る所に警備員が配されている為、無機質な空気感を醸し出しており、益々“創価村”としての色彩を強めているようだ。


キャプチャ  2016年6月25日号掲載

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【電通の正体】(01) 新国立競技場“8万人”の嘘から始まったオリンピックと神宮外苑再開発の複合利権

『新国立競技場』の観客席数8万は、神宮外苑再開発の為にでっち上げられた嘘だった。オリンピックは、再開発利権のダシに使われた――。 (後藤逸郎・池田正史・大堀達也・荒木宏香)

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東京都の明治神宮外苑で今月初め、時雨れるような蝉の声をかき消し、築50年余りの都営霞ヶ丘アパートの取り壊し作業が行われていた。都が示した1月30日の退去期限を過ぎて、尚も残る3世帯の存在は高いフェンスが覆い隠す。まるで、新国立競技場建設を起点に、都心最後の手つかずの土地の1つである神宮外苑再開発(図1)と五輪が絡み合う複合利権を知られまいとするかのように。新国立競技場建設と神宮外苑再開発について、文部科学省傘下の『日本スポーツ振興センター(JSC)』は2012年8月、地元説明会を開き、2019年日本ラグビーワールドカップ開催用に8万人規模の新国立競技場建設の為、都営アパート住民を立ち退かせる考えを示した。しかし、8万人という数字の根拠は、この時も今も存在しない。『日本ラグビー協会』によると、『国際団体ワールドラグビー(WR)』のW杯開催基準に観客席数は無い。JSCは本誌の取材に対し「6万人が基準」と一旦は答えたが、直後に「日本ラグビー協会に聞いてほしい」と態度を翻した。一方、『国際オリンピック委員会(IOC)』の基準は6万人だ。『国際サッカー連盟(FIFA)』は、開幕・決勝戦で8万人との基準はある。ただ、JSCの説明会の約1年半前、日本は2011年サッカーW杯の招致に失敗した。FIFAの規定により、日本でW杯開催が可能となるのは2034年以降となっており、新国立競技場を8万人にしなければいけない理由は無かった。8万人という数字はどこから出たのか。地元説明会の9ヵ月前に当たる2011年12月、『ラグビーワールドカップ2019日本大会成功議員連盟』(会長は参議院の西岡武夫議長)が、国立競技場8万人規模化と神宮外苑地区の都市計画の再整備を求める決議文を纏めた。『国会ラグビークラブ』顧問として決議文に名を連ねる森喜朗元首相は、日本ラグビー協会長でもあるが、W杯開催基準に観客席数が無いことを知らない筈がない。だが、JSCが2012年3月に開いた『第1回国立競技場有識者会議』で、JSCの河野一郎理事長は「8万人規模をスタートライン」とぶち上げた。根拠として挙げたのは、議連の決議文というお粗末さを厭わず、JSCは以後、8万人という数字を独り歩きさせていく。

更に不可解な事実がある。石原慎太郎知事(当時)は2005年、2016年東京オリンピック招致の意向を表明した。2009年10月のIOC総会でリオデジャネイロに負けるまでの招致活動で、東京都は国立競技場改修を見送り、メインスタジアム建設候補地を晴海(東京都中央区)とした。石原知事は2005年12月、国立競技場の敷地に観客数8万~10万人規模の施設を建設した場合、周辺の道路に食み出すこと等を理由に、改修案に難色を示した。東京都が纏めた2016年オリンピック招致報告書は「敷地面積、各種法規制【中略】の観点から検討したところ、霞ヶ丘地区でのオリンピックスタジアム整備は困難との結論に達した」とある。各種法規とは、国立競技場がある神宮外苑一帯の厳しい用途制限を指す。高さ15m制限の風致地区・緑地・文教地区・都市計画公園の建築許可等、日本一厳しい建築制限が、新国立競技場のような高層建築を不可能にしていた。こうした経緯から、鈴木俊一知事(1979~1995年)時代の湾岸開発失敗で塩漬けになった晴海を活用したい思惑もあって、2016年オリンピック招致で、東京都は規制緩和や改修を否定した。だが、東京都は2012年2月、IOCに2020年東京オリンピック開催を申請。メインスタジアムは、国立競技場を8万人規模改築へと方針転換した。この申請の2ヵ月前、ラグビーW杯議連は8万人規模決議をした。息の合った動きに続き、JSCは2012年7月に国立競技場改修の国際コンペ概要を発表、同年8月の地元説明会に至る。JSCは同年11月、新国立競技場建設を含む一帯の再開発を可能にする都市計画変更の為、『神宮外苑地区地区計画』の地元説明会を開き、都営アパートの移転跡地に高さ約80m・地上17階・地下2階建ての新事務所建設方針を示した。自身は国立競技場に隣接する築20年の地上4階・地下2階建て本部事務所を取り壊して、『日本青年館』と共に新事務所に入るという。東京都が翌2013年6月に都市計画を変更し、一帯に高さ30~80mを認める前だ。住民の要望を一切聞かず、既定路線とするJSCに対し、住民から「人を泣かしてしまう計画でいいのか」「高飛車に見える」と反発が相次ぎ、説明会は紛糾した。だが、JSCはその後も東京都と足並みを揃え、再開発の手続きを進める。そして、東京都・明治神宮・JSC・一般財団法人『高度技術社会推進協会』・『伊藤忠商事』・『日本オラクル』・『三井不動産』の7者は昨年4月1日、『神宮外苑地区まちづくりに係る基本覚書』を締結した。「国立競技場の建替計画の具体化を契機に【中略】スポーツクラスターと魅力ある複合市街地を実現することを目標」に掲げる。

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【私の履歴書】大村智(28) 女子美大理事長――創立100周年事業に奮闘

私の美術好きは、ゴルフ仲間もよく知っていた。その中に、『女子美術大学』の職員だった鳴川洋一さんがいて、「理事をしてほしい」と打診された。平成5(1993)年頃のことだ。女子美大については、明治33(1900)年に設立が認可された歴史ある学校ということ以外、よく知らなかった。忙しいので迷ったが、遠縁の同大の関係者からも要請され、引き受けることにした。創立100周年記念事業の準備が始まると、今度は理事長を頼まれた。実は、当時の理事長と教授会の衝突に嫌気がして、一旦は理事を降りたのだが、「戻ってきてほしい」と言われて、平成9(1997)年に理事長に就任した。頼まれると「しょうがないなぁ」と受けてしまうのが、私の悪いところだ。記念事業では、相模原キャンパスに美術館を造った。10億円を目標に募金活動をし、卒業生や企業から9億円が集まった。10号館校舎の1階に広い展示スペースを設け、中庭を“ヴァンジ広場”と名付けた。現代彫刻の巨匠で、客員教授(現在は名誉博士)のジュリアーノ・ヴァンジ先生の作品を置きたかったからだ。ヴァンジ先生の作品はオリジナル1体のみしか作らないので、普通なら手が出ないほど高価だ。それを「小さいものでいいから」と何とか引き受けて頂き、平成26(2014)年に高さ165㎝の『金髪の娘』が完成した。女子美大生をイメージして作って下さったという。

女子美大は優秀な卒業生を多数輩出し、文化勲章受章者や文化功労者も多い。100周年記念事業では卒業生10人から作品を戴き、「版画集を作ろう」と考えた。早速何人かに相談すると、皆が「無理だ」と言う。幾つかの派があったし、女子美大と疎遠になっている先生も多かったからだ。でも、私は「無理だ」と言われるとやりたくなる性質なので、「やる」と決めた。先輩方から、「片岡球子先生・堀文子先生のお2人が『うん』と言わない限り、版画集はできない」と助言を受けた。女子美大で教授もした片岡先生は折り合いが悪くなり、他校に移っていたが、佐野ぬい先生を通して承諾を戴いた。初めてお目にかかったのは平成12(2000)年になってからで、「富士山の絵を描き続けているが、一度も富士山に褒められたことがない」「いつか褒められるよう、これからも描いていきたい」と、当時95歳で語っていたのが印象に残っている。堀先生は最初、「関係無い」と仰るので、知人に飲み会をセットしてもらって口説いた。意気投合してすっかり親しくなり、温泉や写生旅行にお供するまでになった。「追い詰められた人間でないと自分の領域を切り開くことができない」等の言葉に共感し、メモ帳に記してある。立派な版画集が完成し、題字『徳の華』は私が墨書させて頂いた。卒業生との連携を深め、同窓会長を理事に迎えた。平成11(1999)年には、同窓生等の為の基金も作った。名称は『大村智基金』が検討されたが、私は家内の内助の功への感謝を込めて、“文子”の名を入れるよう提案した。こうして『100周年記念大村文子基金』ができ、パリに研究員として滞在できる『女子美パリ賞』や『制作・研究奨励賞』等を出している。理事長は平成15(2003)年に退いたが、創立110周年を前にまた要請を受けて、平成19(2007)年に再度就任し、平成27(2015)年まで続けた後、名誉理事長となった。


⦿日本経済新聞 2016年8月28日付掲載⦿

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【Jazzyの裁判傍聴ライフ】(06) 被害者家族の叫び! 心揺さぶる“意見陳述”

裁判では、証拠品の開示・証人尋問・被告人質問だけでなく、被害者やその家族が胸の内を語る“意見陳述”があります。本人が出廷し、証言台で陳述書を読み上げることが多いですが、場合によっては検察官や裁判長が代読することもあります。裁判員と裁判官に訴えかけるその内容には憎しみと悲しみが溢れ、傍聴に慣れている私でさえも胸が締め付けられて、メモを取る手が止まってしまうことがあるほど。そんな意見陳述の中で、特に印象深かったものを今回はお伝えします。

■強姦被害者の母(被害者は小学生)
事件当時は幼かった娘が成長していき、軈て自分がされたことがどういうことだったのかを改めて知って、更に苦しむ時が来ます。考えれば考えるほど、被告人に対する怒りが増していきます。とても温厚な主人が、「生まれて初めて『人を殺したい』という感情を持った」と言いました。私も同じ思いです。被告人の存在自体が憎い。実際に、この苦しみを味わった人間にしかわからないことだからこそ、何よりも被害者の思いに寄り添ってほしいのです。被告人が、日本の法で可能な限りの重罰に処されることを強く強く願っております。(1審判決懲役22年)

■強姦致死被害者の母(被害者は20代女性)
貴方は人間の心を持っているのですか? 貴方は、自分の欲望の為だけに、うちの娘を連れ去り、殺した。娘の為に、きちんと罪を認め、償うべきです。死を以て償うべきです。娘の魂を奪い、命まで奪った極悪人が何故、死刑にならないのですか。死刑にして下さい。娘は未だ20代前半でした。裁判員の皆様、私たちの思いをどうかお聞き入れ下さい。(1審判決無期懲役)

■強盗殺人被害者の母(被害者は20代女性)
私は母親なのに、娘を守ることができませんでした。そんな自分のことが許せません。そして、被告人を許すことは到底できません。「命の償いは命でしかできない」と思っています。娘の遺体の写真を見た時の私の気持ちがわかりますか? 私は毎日、被告人の死刑を望んでいます。それが無理ならば自殺してほしい。それも無理ならば、被告人をこの手で殺したい。今の望みは、被告人の死と、その後、自分が娘のところに行くことです。(無期懲役確定)

■毒物殺人被害者の父(被害者は20代男性)
病院に搬送されてから意識が無かった息子が、10日後に突然目を開け、ポロポロと涙を流した。そして、そのまま亡くなった。それは、未だ生きたかった息子の無念の涙だったのだと思う。上からの指示ならば何でも従うのか? お前が「死ね」と言われたら死ぬのか? 被告人も、寄って集って息子を殺した内の1人(※共犯者多数)。こちらの為に何かできるというなら、腹を切って死んでもらいたい。(1審判決無期懲役)

■強盗殺人被害者の娘(被害者は90代女性)
貴方は、面識の無い母の頭をバールで殴打し、包丁で20ヵ所以上刺して殺した。どうしてそんなことができたのですか? 母と同じ恐怖を味わわせてやりたいです。貴方は突然、大切な人を奪われたことがありますか? 遺族の気持ちを考えたことはありますか? 私たちに普通の生活を返して下さい。自分の犯した罪は、身を以て償ってもらいたい。極刑を望みます。(1審判決死刑)


キャプチャ  2016年9月5日号掲載

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【ホワイトハッカーなんでも相談室】(11) スマホが水没! ピクリともしない! 助けて下さい!

未だ暑い日が続きますが、海やプールで撮った写真をSNSにアップする方も多いでしょう。しかし、iPhone等のスマホを誤って落水させてしまい、困っている人がとても多いようです。スマホに使われているバッテリーはリチウムイオン電池です。これは、小さくてもかなりの高エネルギーを生み出すことができる優れたバッテリーでもあります。しかし、リチウムは化学反応を起こし易い物質で、水に含まれる酸素と反応して簡単に燃えてしまいます。バッテリーのパッケージが破損した状態で水がかかったり、湿度の高い場所で水分に反応するだけでも発火や爆発の危険性があるのです。ですので、電池メーカーはスマホがショートしたら、充電回路を態と壊す設計にして、リチウムイオン電池の安全を確保しています。とてもデリケートな電池であるが故に小さなICチップが内蔵されており、そこでバッテリー電力に関する管理を行っています。“サイクルカウント”といって、何回充電したのかもICチップが管理しています。1日3回の充電で2~3年で交換するよう、設計されているのです。これは、安全の為の設計です。では、実際にスマホが落水した時にどうなるかといえば、当然、バッテリーの安全確保の為、スマホは起動しなくなります。メーカーとしては安全優先で、とても有難い設計なのですが(笑)。そんな時、ガラケー全盛の時代は電池パックだけ別途購入することができました。本体を念入りに乾燥させれば電池パック交換だけで復活することも多かったのですが、電池パック内蔵のスマホではそうもいきません。落水した端末には何の保証も無く、お金を払って本体交換をするしか方法が無いのです。しかし、「大事なデータだけでもバックアップをしたいので、一度でいいから起動してくれ!」という人は、駅前の繁華街等にあるスマホ修理業者に持ち込むと、安価で直すことができます。買い替えで数万のお金が飛ぶ前に、1万円程度で修理してくれる業者に持ち込むのは、経済合理性からもオススメしたいところですが、厳密には「通信機器は分解してはいけない」という法律があるので(『電気通信事業法』)、そこで修理したスマホをその後も使い続けることは法律違反になる可能性があります。しかし、直ったスマホを機内モードにして起動すれば電波を発信しないので、違法にはなりません。業者にバッテリーだけ交換をしてもらい、データを救済してから機種変更をするようにすれば、夏の思い出の写真等、大切なデータだけでも救うことができますね。


石川英治(いしかわ・ひではる) 『東日本インターネット事業協同組合』理事。1969年、埼玉県生まれ。『西武鉄道』退社後、弁護士秘書・外車販売・訪問販売等の職を経て起業。1998年までハッカーグループ『UGTOP』の主催者として活動。1998年に実業家として、日本初のインターネットセキュリティー専門会社『アルテミス』を起業。2000年から2011年まで携帯電話公式コンテンツを運営する『サイバーエデン』を起業。著書に『まるわかりカジノ読本』(廣済堂ベストムック)・『子どもたちが危ない!スマホの現実』(ロングセラーズ)等。


キャプチャ  2016年9月5日号掲載

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【小さな親切、大きなお世話】 多数に倣わない精神

8月の暑さの中では当然なのだが、21日午後、東京都あきる野市のテーマパーク『東京サマーランド』には、プール目当ての入園者1万4000人が集まっていた。13時20分頃、若い女性客8人が「水着の上からお尻等を切られた」と通報があった。幸い軽傷だったが、他にも被害者はいる模様だという。その光景がテレビのニュースで伝えられたのはほんの数秒だけだったが、私は驚いた。報道写真というものは、伝えたい内容が最も色濃く出ている場面を使うのが常道だが、その混み方は只事でなかったのだ。人間の頭と肩、帽子と浮き輪がびっしり浮かんでいるだけで、水が見えないほどなのである。このプールは1時間置きに3分間だけ波が立つようになっているというから、誰しもこのしつこい暑さの中では、誘惑を感じて当然だ。私にはプールの大きさの実感が無いので、“それくらいの人数は平気”なのか“芋を洗う”状態以上だったのかははっきり言えないが、私だったらその人混みを見ただけで「今日は帰ろう」と思っただろう。勿論、どんなに人が混んでいようが、痴漢と言える行為は決定的に悪いに決まっている。人が楽しく遊んでいる時に傷を負わせる行為等というのは、真面な神経ではない。しかし、あらゆる事件の背後には、ほんの数%だが、防けたかもしれない要素はある。それは、「軽々に人と同じことをしない」という生活習慣だ。

人と同じことをすることを自分に許せば、人に呑まれ、自分を失うことは、物理的にもわかり切っているのである。外は酷暑。どうしても涼を取りたかったら、我が家で水風呂を浴びる楽しみを発見することだ。アジアの田舎の子供たちは、スコールが来ると裸になり、時には石鹸の欠片まで持って、喜々として豪雨の中を自分の家の前の道や広場に出ていく。天からの贈りものである水は幾らでも使え、浴室は広大。尤も、落雷は心配だから、うっかりこういう習慣を子供に教えるのは考えものだが、個人的には、涼しく暮らす方法はどんな生活の中にもある。それが独創性というものであり、自由な個人の生き方の確立である。「美味しいと評判のラーメン屋に並んで食べる」という行動を自分に許すのも、貧しい感覚だ。ラーメンを食べるだけに遥々出かける物好きは、うちの家族にも知人にもいるが、「並んでまで食べるのは屈辱だ」と思い、人の少ない時刻を狙うか、同じくらい美味しい店を他に探す。人がするからといって、写真を撮られる時にピースサインをしたり、『ポケモンGO』に溺れたりする癖も、子供の時に厳しく直させねばならない。それを放置すると、多数に倣う羊の群れの1匹になる癖が付く。それは、2つとない個性的な人生を失わせることになるし、延いては世間の大勢に従う弱い精神となって、社会の暴走に加わる。どんなに流行の施設だろうと、混み過ぎたプールには入らない程度の抵抗の精神は必要だ。 (作家 曽野綾子)


⦿産経新聞 2016年8月28日付掲載⦿

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【ポケモン、世界へGO!】(05) “ポケモノミクス”が世界を救う

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『任天堂』等、関連企業の株価が軒並み高騰し、経済効果にも注目が集まる『ポケモンGO』。店舗への新たな集客手段として、或いは鉄道各社のスタンプラリー代わりに…等、様々な“ポケモノミクス”効果が今から期待されている。やり方次第では、“死に体”のビジネスを甦らせることさえできるかもしれない。例えば、こんなものが――。ポケモンGOで最も問題視されているのが、歩きスマホの助長だ。いつ出現するかわからないポケモンを逃さない為に、スマホ画面から目を離せない。既に海外では、熱中する余り車に撥ねられたり、崖から落ちる事故が起きている。こうしたトラブルを避ける為には、どうしたらいいのか。2012年にウェアラブル端末の代表選手として脚光を浴びながら、鳴かず飛ばずに終わった『Google Glass』の出番かもしれない。眼鏡のレンズにスマホの画面を表示できるから、視線を前方に保ちながらポケモンGOを楽しめる。尤も、ゲームと連動したウェアラブル端末は、既に任天堂が腕時計型の『ポケモンGOプラス』を準備している。無線通信でスマホと連動し、ポケモン出現等のゲーム情報をランプと振動で知らせる。専用ボタンを押してポケモンを捕まえることもできる。Google Glassで画面を確認しつつ、ポケモンGOプラスを使えば、歩きスマホから完全に解放されるだろう。

客足が遠のく飲食店にとって、ポケモンGOは究極の集客ツールになるかもしれない。日本でも『マクドナルド』が協賛し、全国約3000店舗がプレイヤー向けの対戦スポットになる予定だ。競争激化による収益の悪化と異物混入事件で、最近は活気が無かったマクドナルドの株価は、ポケモンGOのリリース後、急速に上向いている。観光客誘致に悩む自治体や存亡の危機にある商店街を、ポケモンGOが救うこともあり得る。人を呼び込みたい場所にポケモンを捕獲できる“ポケストップ”を設置したり、入手困難なポケモンを出現させれば、人が集まるきっかけになる。実際、システムの不具合により偶然、サービスが始まった韓国北東部の小さな町には、ユーザーが殺到し、突然の観光ブームが起きた。パズルゲームの代表格『パズル&ドラゴンズ』にアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のキャラクターが登場する等、スマホゲームとキャラクターのコラボはユーザー獲得の常套手段。全国各地で乱造気味だった“ゆるキャラ”を、現地でしか入手できない限定ポケモンとして登場させるアイデアもある。昨年の流行語大賞にもなった中国人観光客による“爆買い”。だが、今年に入って高額商品の売れ行きにブレーキがかかり、百貨店や免税店には閑古鳥が鳴く。中国人の観光需要を喚起する次の一手も、ポケモンGOが握る。実は中国は、『Google Map』と連動しているこのアプリを国内で楽しめない。中国政府の検閲を嫌って、Googleが中国から撤退しているからだ。ポケモン探しに飢えた中国人にとって、日本は絶好の訪問場所になるだろう。名所やランドマークがポケストップに指定されているから、観光ガイド代わりにもなる。業績悪化に悩む企業や自治体には、ピカチュウが救世主に見える筈だ。 =おわり

               ◇

単なるスマホゲームの範疇を超え、社会現象にまでなっている『ポケモンGO』。先行して配信を開始したアメリカでの熱狂が、全世界に伝播しています。1つのゲームが国や言葉の壁を超え、サービス開始から2週間足らずで“世界標準”になるとは…。誕生から20年を迎えたポケモンというキャラクターの浸透率、そして安定感のあるスマホインフラの定着、その両者が組み合わさった絶妙のタイミングだったのは間違いないでしょう。


キャプチャ  2016年8月2日号掲載

テーマ : ポケモンGO
ジャンル : ゲーム

【憲法考・揺れる各党】(06) 識者インタビュー

国会は、憲法改正論議をどう進めるべきか。憲法問題に携わった2人に聞いた。

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■与野党間、信頼の構築を  元衆議院憲法調査会長 中山太郎氏
――改憲に前向きな勢力が、衆参両院で憲法改正発議に必要な3分の2の議席に達した。
「憲法改正のチャンス到来と言いたいところだが、そんな浮かれた話ではない。国民と共に考えるところから議論を始めるのは、今までと変わりない。ただ、憲法改正が現実味を帯びた議論として、普通にできるようになる点は意義がある。議論の場となる衆参両院の憲法審査会は、できるだけ静かに落ち着いた雰囲気でやるべきだ。私が衆議院憲法調査会会長を務めた時は、少数意見に耳を傾けた。与野党、党の大小を問わず、発言時間を確保し、議論を尽くすよう心がけた」

――民進党は“安倍内閣での改憲”に反対している。
「野党は安倍首相を“タカ派”と批判するが、私から見ればそれほど“右”ではない。どちらかと言えば、平均的な日本人の知識階級の中心に近い印象だ。ただ、国民や国際社会に誤解を招く言動は避ける必要がある。与野党間の話し合いが上手く行くかどうかは、安倍さんの“色の出し方”次第という面はある。今、安倍さんは自分の主義主張を胸の内に留め、議論を見守る姿勢を強調している。議論を進める上では良い配慮だ」

――与野党への注文は?
「民進党を含め、野党は“改憲”という言葉にアレルギーを持たず、具体的な改正項目の議論に参加すべきだ。どの部分まで(改正)が許容範囲かを示すべきだ。カギとなるのは、与野党間の信頼関係を如何に築くかだ。双方が納得いくまで議論を尽くす以外にも、与野党の議員同士が人間的な繋がり・信頼関係を構築することが重要だ。幸い、今は政治的に安定した環境にある。これこそ、憲法改正に向けた“急がば回れ”だ」 (聞き手/藤本将揮)

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テーマ : 憲法改正論議
ジャンル : 政治・経済

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