貧困や親子の孤立を防ぐお寺の『こども食堂』の実践――「手伝わせてほしい」との声が続々、全ては高齢者の居場所作りから始まった

「学校帰りに、皆でご飯を食べない?」――そんな呼びかけが少しずつ広がっている。『こども食堂』だ。最近では、お寺でも始めるところが登場している。実践する寺院に、その目的と方法を取材した。

今年7月の夕暮れ。東京都板橋区にある真言宗智山派南蔵院のホールでは、子供たちが駆け回っていた。「鬼ごっこ!」「ワーッ」。広いホールを走り回る子供たち。その楽しげな顔が一層輝くのが、厨房から漂う美味しそうな匂いだ。今日の夕食の献立は、麻婆ご飯・サラダ・味噌汁、デザートはメロン。それに、住職夫人の花木千恵子さん(66)手作りのじゃがいもとコーンの煮物まである。19時過ぎ、花木義明住職(66)の食前の挨拶と共にテーブルを囲み、「いただきます!」の大合唱。大人・子供合わせて、総勢約60名。毎月2回、南蔵院で開かれる『こども食堂』こと『南蔵院こども会』の光景だ。こども食堂――最近、新聞やテレビ等で目にした読者も多いだろう。貧困で食事を十分に取れなかったり、親が忙しくて、家に帰っても1人ぼっちでご飯を食べる子供の為に、無料或いは数百円で食事を提供する地域活動のことだ。背景に、子供の6人に1人が貧困という現代日本の現実があり、地縁が薄れた社会から孤立する親子の問題がある。ここに、「“食”を通じて地域で子育てを支えよう」という民間発の取り組みがこども食堂だ。食事の提供というシンプルな支援、世代を超えて地域を繋ぐ効果もあり、ここ数年で公民館・児童館・民家等を会場に、全国に続々と開設されている。住民の動きに押され、支援を行う行政も出てきた。それで今、その運営会場として大きな期待を寄せられているのが、地域に根差したお寺なのだ。既に首都圏では、この1年間だけでも数ヵ所の“お寺のこども食堂”が生まれた。どのようにしたら可能なのか。その実際を取材した。

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①NPOや有志と共に支え合う  東京都・真言宗智山派南蔵院
冒頭の『南蔵院こども会』がスタートしたのは昨年6月。現在は月2回、16時から20時までの開催だ。参加対象は、子供と保護者。内容は、食事と居場所の提供。タ飯は揃って食べるが、それ以外の時間は宿題をしたり、遊んだり、本を読んだりと自由時間。参加費は、子供は無料で大人は300円だ。運営を支えているのは、お寺や地元のNPO法人『健やかネットワーク』、それに子供たちの母親。食材の調達は、参加費とお寺からの援助で賄われる。参加希望者は基本、事前にNPO法人を通じて連絡。その人数に合わせて毎回、献立と食材を準備。有志の母親たちがローテーションを組んで調理する。約60人分のお米を炊くのは、千恵子夫人だ。会場は、多目的ホールとして平成11(1999)年に境内に建築された『福聚殿』。最高500名を収容できるこのホールは、普段は葬祭場やお寺の文化活動にも使われているが、この日は雰囲気がガラリと変わる。廊下を走り回る子もいれば、ホール内の1室でボランティアの絵本の読み聞かせにじっと耳を傾ける子供もいる。「皆、遊びたいんだよ。ここなら、どれだけ騒いだっていいんだもの。この活動を始めてから、お寺がうんと賑やかになりました」と花木住職は微笑む。境内に見事な桜の木が植わる南蔵院は“櫻寺”として昔から地域に親しまれてきた。毎年、釈尊の誕生日に合わせて、3月下旬から4月上旬まで開かれる『花まつり』は大賑わいだ。平成11(1999)年に前述のホールを建ててからは、茶道・音楽教室・体操教室等の文化活動も積極的に行ってきた。そんな花本住職には、ある思いがあった。「うちには子供会が無かった。『何か子供を対象にした活動ができないかな』と考えていたんです」。丁度その時、ニュースで子供の貧困率が高まっているということを知り、気になった。そんな中で縁ができたのが、前出のNPO法人『健やかネットワーク』だ。行政等と連携しながら様々な地域支援を行っている同団体が、南蔵院に「お年寄りの会食サロンを開きませんか?」と持ち掛けたのだ。同法人の佐々木令三理事はこう話す。「1人暮らしの高齢者は、ご飯を1人で食べていても美味しくない。『週に1回、皆でご飯が食べられる場所があれば』と思いました。それで、南蔵院さんに相談したのです」。謂わば、高齢者の居場所作り。花木住職は快諾した。

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【霞が関2016秋】(06) 経産系と文科系…“AI研究所”は2つも必要か

実用化で先行するアメリカを始め、世界各国が凌ぎを削る人工知能(AI)の開発競争。政府内では経済産業省・文部科学省・総務省が共同で戦略会議を立ち上げ、人材育成策等を検討している。一方、政府が資金を出す研究拠点は2つに分かれ、早くも“縦割り”の弊害を懸念する声が出始めている。1つ目の研究拠点ができたのは昨年5月。経産省が所管する『産業技術総合研究所(産総研)』が、東京都江東区のお台場地区に『人工知能研究センター』(以下『産総研AIセンター』)を立ち上げた。169人の研究者を含む348人の規模で、主に産業用ロボットや医療用の画像診断等を研究している。そこに、文科省所管の『理化学研究所(理研)』の新たな拠点構想が加わった。『革新知能統合研究センター』(以下『理研AIセンター』)だ。『トヨタ自動車』や『NEC』等、産官学から精鋭100人を集め、来年1月にも本格的な研究を始めるという。「今ある技術を明日にも使えるようにするのが産総研、今は無いが10年先に使える技術を開発するのが理研の抑々の役割だ」。理研でAI分野を統括する理研AIセンター長の杉山将氏は、2つの出身母体の特徴を引き合いに出しながら、「AI分野での棲み分けができる」と強調する。言い換えれば、技術の原理や開発の仕方等といった“基礎研究”に強いのが理研で、企業が製品開発に転用できる技術を開発する“応用研究”で定評のあるのが産総研ということになる。

例えば、自動運転車に関する研究開発では、理研AIセンターが歩行者を認識する際の原理を研究し、産総研AIセンターがAI技術を自動車に組み込む可能性を探る…といった分担になりそうだ。ただ、こうした役割分担は外部からは見え難い。経産省は、産総研AIセンターの設立・研究費用に約100億円を投じており、文科省も来年度予算の概算要求で、理研AIセンターの設立費用50億円を要求している。巨額の費用を使うからには、別々に拠点を造る必要性や、其々の研究内容の意義をわかり易く国民に示す必要がある。その一例が、センターの立地拠点だ。理研AIセンターは、大手外資系金融等も入居する中央区日本橋の高層ビルに入る見通しだ。文科省は「国内外からトップレベルの研究者を呼び易い場所を探した結果だ」と説明するが、都心の一等地に拠点を設ける必然性がどの程度あるのか。元々、昨年に産総研AIセンターを立ち上げる際、「産総研が理研に『一緒にやらないか?』と声をかけたが、断られた」(経産省幹部)経緯がある。産総研AIセンター長の辻井潤一氏は、「『似たような拠点ができて無駄だ』という印象を与えると、AI技術の重要性自体にも疑念を抱かれかねない」と懸念する。大量の画像や音声等のデータから、自力で特徴を見つけ出す“深層学習”の発展によって、AIの研究開発は実用段階に急速に進みつつある。ただでさえ周回遅れの日本が産学官の力を結集できなければ、世界との差は一段と開きかねない。双頭の司令塔は、そんな懸念を払拭する為にも、注ぎ込んだ資金に見合った成果をきちんと出す必要がある。 (光井友理)


⦿日本経済新聞電子版 2016年9月27日付掲載⦿

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【霞が関2016秋】(05) 財務省に忍び寄る3次補正の足音

事業規模28.1兆円と、史上3番目の規模に膨らんだ先月決定の経済対策。今日召集の臨時国会で、経済対策の裏付けとなる今年度第2次補正予算案の審議が始まろうとする中、財務省には早くも“3次補正”の足音が聞こえ始めた。「状況次第だ。補正のシナリオは否定できない」。財務省幹部は、第3次補正予算が来年の通常国会冒頭に提出される可能性について、こうした認識を示す。今年度の歳出総額は、96兆円の当初予算に、熊本地震の復旧費を盛り込んだ1次補正と経済対策の2次補正で、3年ぶりに100兆円の大台に乗っている。通常は他省庁の歳出拡大に睨みを利かせる財務省だが、省内からは3次補正について、半ば諦めの声が漏れる。背景には、3つの特殊要因がある。第1の要因は、12月15日に予定される日露首脳会談だ。安倍晋三首相の地元である山口県にプーチン大統領が訪問する日程が既に固まっており、日本側では北方領土問題でも前進を期待している。首相は今月2日の首脳会談で、エネルギー等8項目の対露経済協力案を示しており、プーチン大統領は記者会見で「政治的な問題の解決の為にも極めて重要だ」と、経済協力の重要性に言及した。こうした背景から、民間エコノミストの1人は、「補正を出すとすれば、経済協力案件を柱とした“ロシア補正”となるだろう」との見方を示す。経済協力は民間企業が主体となるものが多いが、ロシア企業への出資や融資等、財政措置を伴う項目もある。ロシア企業への出資なら、建設国債の発行で財源を賄うことが可能で、自民党内に抵抗が強い赤字国債も回避できる。第2の要因は、予算制度の仕組みにある。政府は当初予算で事業費と税収の見積もり等を決めて、年度を通じて予算の執行状況を確認していく。経済環境の変化や事業の進捗状況によって、実際の歳入や歳出にはぶれが生じる為、毎年秋頃に収支の帳尻を合わせる“事務補正”と言われる補正予算案を提出するのが通例だ。

しかし、今年度は2次補正案を編成するタイミングが早かった為、こうした事務処理を未だ終えていない。内部的には、来年1月召集の通常国会冒頭への事務補正提出が既定路線となっている。「事務補正だけでは終わらせない」。事情を熟知する自民党幹部は、こう鼻息を荒くする。政府関係者によると、現在の金利水準が続けば、来年1月までに予定していた国債発行の不要額が数千億円程度生まれるという。日銀の金融政策の基本方針が大きく揺るがない限り、当初予算の国債費で想定した1.6%の想定金利を、実際の金利が下回る状況が続く。経済成長率が高まらない中、事務補正に合わせて数千億円という規模の財源を、景気浮揚の為に活用したいのが議員心理だ。首相の経済ブレーンで積極財政派である京都大学の藤井聡教授は、早くも「3次補正を今から検討しておくことが重要だ」と布石を打っている。これに拍車をかける第3の要因が、永田町で囁かれ始めた“早期解散説”だ。公明党の井上義久幹事長は今月17日の党大会で、次期衆院選について「現行の区割りの下で行われる可能性は十分ある」と、早期解散の可能性に言及した。事務補正の提出時期と丁度重なる来年1月に、衆議院解散に打って出る説が取り沙汰されているという。安倍政権の衆議院解散と補正予算を見てみると、強い相関関係があるのは明白だ。2014年12月投開票の衆院選では、翌年1月に総額3兆円の補正予算を閣議決定。自民党が政権交代を果たした2012年12月投開票の衆院選でも、翌年1月に総額13兆円もの補正予算を策定した。何れも選挙戦で安倍首相がアベノミクスの実現を訴えた形を取っており、家計等に恩恵が十分に行き渡っていない経済情勢は、現在の情勢と一致する。ただ、補正予算は緊急的な編成理由がある時にのみ認められ、連発すれば「経済政策の失敗だ」と批判されるリスクもある。3次補正を編成することになれば、東日本大震災で年度を通じて第4次補正予算まで組んだ2011年度に次ぐ回数だ。「今はじっくり状況を見極めるしかない」(財務省幹部)。更なる財政出動に動くのか。足音の正体が明らかになるのは晩秋だろうか。 (重田俊介)


⦿日本経済新聞電子版 2016年9月26日付掲載⦿

テーマ : 経済・社会
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『創価学会』は会員からの巨額財務の収支や使途を何故報告しないのか――気になる学会員の年間納金額、高まる収支報告使途公表の声

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参議院選挙も中盤に入った6月28日、東京高等裁判所で興味深い控訴審判決があった。被告は、“集団結婚”等で知られる『世界平和統一家庭連合』(前身は『世界基督教統一神霊協会』。通称“統一教会”)で、訴えたのは統一教会の女性信者の元夫である。元夫は「夫に無断で妻に献金させたのは違法だ」とし、統一教会に約3300万円の損害賠償を求める訴訟を起こしていたのだ。その控訴審の判決で菊池洋一裁判長は、「教団は、既婚の女性信者に夫の財産を献金させていた」と認定。更に、献金が離婚の原因になったことも認め、判決は慰謝料等360万円が増額され、統一教会に3790万円の賠償を命じたのである。金銭的被害を受けた元親族(元夫)が、宗教団体に対して賠償請求訴訟を起こし、高裁が認めるという判決は、恐らく、これが初めてのことである。教団への献金を巡る夫婦間のトラブル。決して珍しいケースではない。実は、創価学会でも目下、似たような裁判が進行しているのだ。香川大学教育学部の現職教授で、嘗て創価学会員で学術部員でもあった高倉良一氏が、同会の原田総会長等、地元四国の最高幹部4人を相手取って、2011年1月、3000万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしている。裁判はどのように進行したか。高倉氏のブログ『白バラ通信 パンドラの箱』に詳しいが、訴状によると大筋、以下のような訴えであった。高倉氏夫婦は、創価学会活動に従事していた1994年頃から毎年、同会に“財務(寄付)”として100万円を納金してきた。ところが、2003年頃から高倉氏は、同会が発行している書籍類等を読み、池田大作名誉会長の言動等に疑問を抱くようになる。その為、2005年から財務納金をストップ。一方、創価学会の熱心な会員で、実家が資産家という夫人のほうは、独自で財務に500万円を納金したのである。しかし、こうした財務納金を巡って夫婦で意見が衝突し、同年12月、夫人は子供を連れて九州の実家に帰省してしまった。軈て、離婚という最悪の結果を招くことになる。但し、離婚に至るまで、高倉氏が創価学会幹部から“査問”を受けるな等、壮絶な抗争があり、現在も尚、裁判の形で見通しもできない係争が続いている――。

自分が信仰する教団に毎年100万円にも及ぶ財務納金とは、決して少ない金額ではない。国立大学の教授は年間、どのくらいの報酬を得ているのだろうか。しかも、先の訴状によると、納金は一度に限らない。少なくとも10年間、毎年、創価学会に財務だけでも100万円を納金していたことになる。10年間で、総額1000万円の寄付である。更に、夫人に至っては、1年で納金が500万円という。サラリーマンなら給与1年分に匹敵する巨額である。公明党の参議院議員を務め、愛媛大学助教授の経歴を持つ福本潤一氏は、「国立大学教員の給与は国家公務員と同じで、報酬は等級によっても違います。教授当たりで年間、ボーナスを合わせたら1000万円を超える額でしょうか。でも、その収入だけから毎年、100万円の財務納金の出費はきついでしょうね。大体、教団からいくら堀られても、100万円も出すのはバカらしいです。若し、それだけのゆとりがあれば、大学教授なら多くの研究書を購入しますし、楽しい生活だって築きたい。私は大学の教員時代、財務納金の最高額は10万円だったでしょうか。確か高倉先生は、財務納金を止めた後、難民の子供たちを救う国連教育科学文化機関(UNESCO)に寄付をしていた時期があったと聞いています」と語る。先の高倉氏のように、気前よく毎年、100万円の財務納金等、実は、創価学会会員の中ではそう珍しいことではない。では、公称827万世帯という巨大教団である創価学会の会員は、毎年、財務を含めて家計から、どのくらいの金額を出費しているのだろうか。奈良県天理市に本庁を構えている『天理教』のように、毎年、信者からの“お供え金(浄財)”総額や、使途に至る収支報告を公開している教団も存在する。でも、新宗教教団で収支を公開している天理教等は、寧ろ特異な部類に入るだろう。実際、宗教法人は原則として非課税の為、公開する義務が無い。しかし、伝教宗派は殆ど全て、宗報等の機関誌等によって財政状況を公表している。ところが、宗教法人創価学会の収支決算は全くべールに包まれたままである。とりわけ同会の場合、殊の外収支金額が機密扱いで、会員から集める財務(浄財や寄付)にしても、いくら集まったか等、自らの会員に対してもこれまで正式に知らせたことがない。我が国の国政を左右しかねない政党母体と言われるほどの教団の収支がベールの中とは、一体どういうことなのか。その為、創価学会の“カネ”に焦点を絞る時、経理責任者の内部告発や情報漏洩でもない限り、金額については推定ということになる。

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テーマ : 創価学会・公明党
ジャンル : 政治・経済

【変見自在】 デュテルテは偉い

アメリカ人は、しっかりした魂胆を持つ人たちだ。例えば、19世紀末の米西戦争。アメリカ人は、“植民地”キューバの民を虐めるスペイン人が「許せない」と言った。海軍省次官のセオドア・ルーズベルトは、義勇兵となってキューバで戦った。善意の塊に見えた。スペインは、「我が領土での問題だ、内政干渉だ」と習近平みたいな言い方をした。折も折、ハバナ港に入ったアメリカの戦艦『メイン』が謎の爆沈をする。米紙は「スペインの仕業だ」と騒いで、遂には宣戦布告に至った。「さぁ、アメリカ艦隊が大挙してキューバに出かけ、可哀そうな民を救い、彼らの建国を助けるのか?」と思ったら、そっちはいかなかった。アメリカの艦隊は太平洋を渡り、マニラ湾でスペイン艦隊に襲い掛かっていた。陸側からは、エミリオ・アギナルド将軍のフィリピン人民兵約1万人がアメリカ軍に呼応して、スペイン軍を襲った。 実は、宣戦布告の遥か前、アギナルドはアメリカ政府から独立の約束を貰っていた。頑張るフィリピン人。狭撃されたスペインは速やかに降伏するが、ここでマッキンリー大統領は、フィリピンとグアムを2000万ドルで買い取ることでスペインと折り合いに入った。キューバの民を助ける筈が、いつの間にか太平洋の要衝であるグアムとフィリピンの領有話に化けた。その少し前、ルーズベルトが「日本は脅威だ」とアルフレッド・セイヤー・マハンに言った。それとも符合する。で、それをアギナルドに伝えた。「ここは都合でアメリカの植民地にする。独立は無しだ」と。因みに、キューバもアメリカの保護領にされた。怒れる民兵とアメリカ軍は、マニラ郊外にあるサンファン橋を挟んで睨み合った。そして、1発の銃声が轟いた。盧溝橋に似る。アメリカ軍は、それを合図に即座に大攻勢をかけた。優勢な火器にもの言わせ、民兵の3分の1を殲滅してしまった。1発目は勿論、アメリカ軍からだった。もう、嘘と魂胆だらけだった。

潰走するアギナルド軍が山に逃げると、司令官のアーサー・マッカーサーが「山に逃げたら最早、正規軍ではない」と、一方的にゲリラ認定した。それだと、捕虜を拷問しようが殺そうがお構いなしになる。斯くて、フィリピン全土が戦場と化し、街中で拷問と処刑が派手に行われた。20リットルの泥水を飲ませる水責めが最も流行った。「それでも土人が自白しないと、膨れた腹に巨漢のアメリカ兵が飛び降りた」「土人は6フィートも泥水を噴き上げて死んだ」(アメリカ上院公聴会での証言)。“1週間処刑”も行われた。1日目に捕虜の左膝を撃ち、2日目に右肩、3日日に右膝、4日目に左肩、そして5日目の金曜日にやっと頭を撃って殺した。アメリカ軍の一方的な戡定戦が続く中、ルソン島の東にあるサマール島で、パトロール中のアメリカ軍2個小隊が民兵に襲われ、38人が殺された。アーサーは報復として、「サマール島と隣のレイテ島の島民10万人を皆殺しにしろ」と命じた。但し、「10歳以下は除け」と一言付けた。掃討が終わった後、部下が報告に来た。「10歳以下の子供はいませんでした」。アーサーの息子であるダグラスは、先の大戦で、フィリピンに戻る再上陸地点にレイテ島を選んだ。「土人どもは日本軍と過ごして、すっかり懐いている」と彼は思った。アメリカ軍に楯突く気になったらどうなるか。「レイテみたいに皆殺しにする」という含意だ。フィリピン人は日本軍から離れていった。アーサーの残虐さは、今もフィリピン人の悪夢に出てくる。ラオスで開かれた『東アジアサミット』でオバマは、フィリピンの大統領・デュテルテが麻薬売人を2000人も殺したことについて人道的に指摘する気だった。南沙の支那問題より大きいとは思えぬが、そこは白人キリスト教国家を代表する立場だ。野蛮な土人どもに窘めの一言は要る。対してデュテルテは、アメリカがフィリピンを騙し、躊躇い無く40万人も虐殺した歴史を逆に尋ねた。「アメリカは他国を批判できるのか?」と公式の場で問うた。彼は、皆殺しにされたレイテ島の僅かな生き残りの子孫なのだ。


高山正之(たかやま・まさゆき) ジャーナリスト・コラムニスト・元産経新聞記者・元帝京大学教授。1942年、東京都生まれ。東京都立大学法経学部法学科卒業後、産経新聞社に入社。警視庁クラブ・羽田クラブ詰・夕刊フジ記者を経て、産経新聞社会部次長(デスク)。1985~1987年までテヘラン支局長。1992~1996年までロサンゼルス支局長。産経新聞社を定年退職後、2001~2007年3月まで帝京大学教授を務める。『高山正之が米国・支那・韓国・朝日を斬る 日本人をますます元気にする本』(テーミス)・『アジアの解放、本当は日本軍のお陰だった!』(ワック)等著書多数。


キャプチャ  2016年9月29日号掲載

テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

【「佳く生きる」為の処方箋】(20) “生かす手術”と“佳く生かす手術”

心臓外科医にとって、手術は2通りあると考えています。患者さんを“生かす手術”と“佳く生かす手術”です。生かす手術は、“死なせない手術”と言い換えてもいいでしょう。一方、佳く生かす手術は、患者さんの生活の質を高め、健康寿命を延ばすことに貢献できる手術と言えます。こんな例があります。著名な政治家だった方ですが、嘗て、ある病院で『僧帽弁閉鎖不全症』の手術を受けました。この病気は、左心房と左心室の間にある僧帽弁が上手く閉じなくなって、血液が逆流してしまう心臓弁膜症のひとつ。手術では、悪くなった僧帽弁を人工弁に取り替える弁置換術が行われました。人工弁は体にとって異物で、血栓ができ易い為、術後は抗凝固薬を一生飲み続ける必要があります。この方の場合、手術自体は順調にいき、その後は元気に仕事をされていたのですが、抗凝固療法で躓いて腸管血栓症を起こし、闘病の甲斐なく帰らぬ人となりました。偶然ですが、この方の手術とほぼ同じ頃、私は全く同じ病気の患者さんを手術しました。術式は弁置換術ではなく、弁形成術でした。患者さん自身の弁を修理して、本来の機能を取り戻す手術です。これだと、術後に抗凝固薬を服用する必要が無く、全く普通の生活が送れます。もう10年近くになりますが、この患者さんは今も元気にバリバリ仕事を続けておられます。後者の患者さんは手術を受けることで、“佳く生きる”チャンスを手に入れました。片や、前者の患者さんが受けたのは“生かす手術”ではあったが、“佳く生かす手術”とは言えませんでした。同じ弁膜症の手術でも、これだけ明暗が分かれることもあるのです。

勿論、弁膜症の患者さん全員に弁形成術ができる訳ではなく、病状や技術的な難易度から弁置換術しかできない人もいます。弁形成術は複雑で技術的に難しいですから、外科医の経験や腕に左右されるのです。ただ、外科医なら手術内容を工夫する等して、ギリギリまで弁形成術ができる可能性を追求すべきでしょう。無論、これは他の難手術についても同様です。例えば、心臓手術を受ける際には、手術による死亡リスクを事前にスコア化します。このスコアが高い患者さんの場合、我々のところでは入院管理等で病状を極力改善させ、スコアをできるだけ低くしてから手術に臨むようにします。これも、佳く生かす手術をする為の努力のひとつなのです。しかし、現実にはそういう努力をしないまま、さっさと安易な手術をしてしまう外科医も少なくありません。彼らにとっては、患者さんを生かすこと・死なせないことが手術のゴールであり、抑々、「患者さんを長期に亘って佳く生かす」という発想そのものが欠けているのかもしれません。患者さんが術後に一定期間生きてさえいれば手術死亡はゼロであり、死亡率の低さは病院の評判に直結します。数字には、患者さんの“生きる質”までは反映されないのです。実は私自身も、若い頃はそういう外科医の1人でした。しかし、50代に入った頃から疑問を感じるようになったのです。「患者さんを死なせないことは最も大切だが、果たしてそれだけでいいのか。死亡率が低いことを前面に出して自慢するのは、外科医の自己満足に過ぎない。術後に健康寿命を謳歌できる、本当に患者さんの側に立った治療をしているのだろうか…」と。そうして辿り着いた理想像が、“佳く生かす”手術だった訳です。「外科医は、単に生かすだけの手術で止まっていてはいけない。自分を鍛えて、その先を目指さなければいけない」と気が付いたのです。


天野篤(あまの・あつし) 心臓外科医・『順天堂医院』院長。1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒。『亀田総合病院』『新東京病院』等を経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月18日に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀。2016年4月より現職。著書に『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)・『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)等。


キャプチャ  2016年9月29日号掲載

テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

【男の子育て日記】(20) ○月×日

互いにエキサイトするあまり、妻とはよく離婚話が持ち上がる。その時、あちらは決まって昔話を持ち出してくる(女って何でいつまでも覚えているんだろう)。親しい編集者(庇っているのではなくマジで誰か忘れた)に妻の職業とエピソードを伝えたら、「(仮に結婚したとしても、離婚する時は)身ぐるみ剥がされるよ」と言われた。それを悪気なく話したところ、今でも根に持たれている。妻には、この“身ぐるみ剥がす”というのが酷く癪に障るらしく、喧嘩をする度に蒸し返してくる。自分は男に頼らない自立した女になる為に、猛勉強をして弁護士になったのに、まるで寄生虫の如く、もっと言うと「カネ目当てに結婚をした」みたいに言われるのが悔しいのだと思う。勿論、僕は金持ちなどではない。『タモリ論』を上梓した年を除けば、妻の半分しか年収がない。妻は金剛力士像のような顔で口走る。「今後の養育費もいらないし、これまで掛かった経費も全額返す。但し、一文にはもう会わさない」。妻は怒るだろうが、敢えて言いたい。「『身ぐるみ剥がされるよ』と言った人は正しかった」と。僕にとって「一文に会えない」というのは、「身ぐるみ剥がされる」と同義語だからだ。あの子がいない人生なんて考えられない。「俺のほうがオムツを替えてきたし、ミルクを作ってきたから、親権はこっちだな。次に一文に会えるのは、この子が20歳の時だぞ。しかも、丁寧語を使われて」。冗談とはいえ口にしてきたけど、僕ももう止める。

昔は、こんな風に思っていなかった。「こちらにカネを求めず、勝手に産んで育ててくれたらそれでいい」。酒席でそう言う人がいて、同調していた。昔、デビッド・ボウイがインタビューで、「スーパースターの座を手にした貴方でも後悔はありますか?」と訊かれて、「子供が幼い頃、一緒にいてあげられなかった」と答えているのを見て、「はぁ? そういうもんすかね」と10代の僕は鼻で笑っていた。ボウイが亡くなった時、映画監督になった息子のダンカン・ジョーンズは、自身のツイッターで、父の死を伝える文に幼い自分を肩車する父の写真をアップしていた。僕はボウイに詳しくない。しかし、“地球に落ちてきた男”とは思えない幸福が溢れる笑顔だった。「家族って最高」とか「親子の絆が一番」とか、何でもかんでも良い話にすり替えるのは好きじゃない。父親になった今も唾棄の対象だ。だけど、確実に言えることは、以前の僕とは違う。未だ妻と出会う前、「樋口は子供ができたら可愛がるんだろうね」と何人もの人から言われた。「えっ、俺って自分の小説の中で赤ん坊を頭から落として踏み殺したりしているよ?」と思ったけど。今後、作風が変わるかもしれない。変わらないかもしれない。ただ1つ言えることは、途端にいい人になって、凡庸でありふれた、お涙頂載の小市民賛歌だけは書くまい。これからも、僕は小説でもエッセイでも面白いものしか書かない。たとえ読者が、今、これを読んでいる君1人しかいなくなったとしても。約束するよ。


樋口毅宏(ひぐち・たけひろ) 作家。1971年、東京都生まれ。帝京大学文学部卒業後、『コアマガジン』に入社。『ニャン2倶楽部Z』『BUBKA』編集部を経て、『白夜書房』に移籍。『コリアムービー』『みうらじゅんマガジン』の編集長を務める。2009年に作家に転身。著書に『日本のセックス』(双葉文庫)・『ルック・バック・イン・アンガー』(祥伝社文庫)・『さよなら小沢健二』(扶桑社)等。


キャプチャ  2016年9月29日号掲載

テーマ : パパ育児日記。
ジャンル : 育児

<画像3枚> 潜伏先の宮古島で堂々ご開帳! 清原和博が消せない“昇り龍の入れ墨”

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今月上旬、宮古島を訪れた清原と、10年来の知人のB氏(右)。乗っているのは、地元の観光業者のボート。清原の脛が綺麗なのが意外。

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宮古島の海で遊ぶ清原と弟分のA氏(手前の人物)。清原の左胸には、昇り龍の入れ墨がうっすらと見える。

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テーマ : 芸能ニュース
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【ヘンな食べ物】(06) クモ臭い巨大グモ

妻と一緒にメコン河沿いを旅していた時だった。カンボジア中部の小さなバスターミナルで休憩していると、女の人たちが大きな笊を頭に乗せて売っているのが見えた。笊の中には、体長10㎝もある巨大蜘蛛の素揚げが山盛り。思わず、バスを降りて呼び止めた。アジアでは、路上売りの食品のひとつくらい味見しても文句を言われないので、そのタランチュラそっくりの蜘蛛をひょいと掴み、口の中に放り込んだ。そのまま歩いて行こうとしたら、売り子のおばちゃんと周りの人が凄い形相で私を取り囲み、怒り出した。このタランチュラ、日本円で1匹15円ほどなのだが、具沢山のバゲットサンドが50円で買えるこの国では、決して安価なおやつではないだろう。「それは悪いことをした」と、お詫びの印に10個買い、ビニール袋に入れてもらった。バスの中に戻って、同行していた妻に見せると、彼女はぎょっとした。「何これ? 蜘蛛臭い!」。今まで、私と一緒の旅で、どんなゲテモノでも平気で食ってきた妻が拒否したのは、後にも先にもこの巨大蜘蛛だけである。どこが“蜘蛛臭い”のかよくわからないが、「挨っぽい臭いがする」とのこと。私は気にせず、ビニールから1つずつ摘んでバリバリ食べた。確かにちょっと黴臭い感じはするが、サクッとして、海老か小魚のかき揚げみたいである。本来ならビールを飲みたいところだが、丁度この日、風邪を引いて朝から熱があった。ビールを飲む気が湧かず、巨大蜘蛛も4匹食べたら胸焼けがしてきた。後はぐったりして、バスに揺られるのみ。その晩、カンボジアとラオスの国境の町で、私は安宿のべッドに倒れていた。高熱のせいで憶えていないのだが、妻によれば、「何か食べたい。俺、今朝から蜘蛛しか食べていないんだよ…」と繰り返していたという。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2016年9月29日号掲載

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【霞が関2016秋】(04) 計算ずくの祝日臨時会合…政府・日銀が協演

財務省と金融庁に日本銀行を加えた3組織の幹部が、秋分の日の昨日午後、財務省内に集まった。今春に創設した『国際金融市場に関する情報交換会合』の臨時版と説明されたが、入念にタイミングを計った上での祝日開催だ。日銀が一昨日の金融政策決定会合で金融緩和の新たな枠組みを導入し、アメリカの『連邦準備理事会(FRB)』が日本時間の22日未明に利上げ見送りを表明。3者会合が始まったのは、日米金融政策の決定を受けた21日のニューヨーク市場が取引を終える時間帯だった。21日の外国為替市場は日銀の公表を受けて、一時、1ドル=102円台後半まで円安・ドル高が進んだ後、夜には100円台半ばの円高に転じる乱高下の様相。財務省の浅川雅嗣財務官は、3者会合後に「投機的な動きが今後も続けば、必要な対応を取らざるを得ない」と、テレビカメラを前に円売り介入をちらつかせて、円高を牽制した。浅川氏は通貨政策の司令塔として、日頃から情報発信に努めているが、3者会合を踏まえた発言となると重みが増す。「為替政策は財務省の所管であり、日銀や金融庁は直接関与しない」という建前は兎も角、3者会合で擦り合わせた相場観と問題意識に基づくメッセージと映るからだ。1ドル=100円を突破した円高になった先月と同じく、3者会合後の財務官発言で、為替市場への口先介入にアクセントが加わった。

21~22日の金融市場がどんな反応を示そうとも、「恐らく、3者会合は開催されていた」とみるのが自然だろう。市場が極めて平穏であれば、日銀が一昨日決めた政策を財務省と金融庁に伝える場という性格が強まる。3者会合の創設を提唱した金融庁の森信親長官は、財務省で対日銀の窓口役を務めた経験があり、金融政策に一家言を持つ。日銀は、マイナス金利政策に抵抗する金融界と、その意向を受けた金融庁から反発を受けた末に総括検証を纏めただけに、森氏との意思疎通にいつも以上に気を遣っても不思議ではない。仮に、急激な円高が進み、財務省が2011年以来の円売り介入に踏み切ったとしたら、3者会合は一段と意味が重くなった筈だ。日銀の新たな枠組みを金融市場がどう受け止めるかは中々読み切れず、財務省はいざという局面での円売り介入を視野に入れていた。財務省の佐藤慎一次官と浅川財務官は、日銀の政策決定会合の数日前から首相官邸へ何度も足を運び、様々な場面を想定した作戦を固めていった。財務次官は3者会合の定例メンバーではないが、佐藤氏は昨日の会合には姿を見せた。3者会合は、先月の盆休みの円高局面や、イギリスの『ヨーロッパ連合(EU)』離脱決定を受けた6月の市場混乱時も緊急開催され、参加者が為替の安定や流動性供給の強化を確かめた。マクロ経済政策の舞台装置として、閣僚級とは違った重みを持ちつつある。 (上杉素直)


⦿日本経済新聞電子版 2016年9月23日付掲載⦿

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