【大機小機】 日銀に財源はいらない

『日本銀行』の金融緩和政策の“出口懸念”がよく語られる。緩和政策が終了する出口では、これまで購入してきた長期国債の金利が上昇し、日銀に含み損が発生して貸借対照表(バランスシート)を毀損する。そうなると、日銀の信認が低下し、金融政策の運営が困難になる。それを避ける為に政府の損失補填が必要になる――といった議論だ。出口懸念は正しいのか? 日銀のバランスシートや自己資本は、どんな役割を持っているのか? 金融政策に財源は必要なのか? 残念ながら、日銀のホームページを見ても明確な説明は無い。この問題を経済学的に最も明快に考察しているのは、経済アナリスト・吉松崇氏の論考『中央銀行の出口の危険とは何か』だ。先ず何よりも、不換貨幣を発行する現代の中央銀行は、財務の健全性を心配する必要がない。中央銀行は民間銀行や企業と異なり、通貨発行益を有する。資産の購入も経費の支払いも、日銀当座預金の貸方記帳で取引は完結する。日銀は債務超過を心配する必要がないから、自己資本を心配する必要もない。では、出口の過程で日銀が経常損失を被ることは無いのか? それはあり得る。吉松氏は、長期金利・政策金利・満期構成について、幾つかの前提を置いてシミュレーションしている。結論から言えば、短期金利の上昇が始まるまで、日銀は経常利益を出し、出口に入って短期金利が上昇し始めると、経常損失が生じ始める。だが、出口での経常損失も心配するに及ばない。出口政策が完了した暁には、再び経常利益が発生し始めるからだ。では、損失が出た時には、政府による日銀の補填は必要なのだろうか? 「不要だ」と吉松氏は言う。政府による補填は、税金と国庫納付金を通じて、日銀から政府に還流するだけだからだ。吉松氏の議論は、全く以て正しい。ひょっとしたら、出口での日銀のバランスシートや債務超過を懸念する人々は、日本銀行を民間銀行のように、或いは嘗ての金本位制のように兌換通貨を発行していると考えているのかもしれない。勿論、日銀は民間銀行ではないし、今は金本位制の時代ではない。金融政策に財源は不要だ。この簡単な事実を、日銀はきちんと広報すべきだろう。 (カトー)


⦿日本経済新聞 2017年2月24日付掲載⦿

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【Deep Insight】(05) トランプ氏、移ろう中国観

何故だろう? 就任前、あれほど厳しかったドナルド・トランプ大統領の中国観が、じわりと変わり始めているという。その真相を探ると、アジアに混乱を齎しかねない不安の種がみえてくる。米中要人の往来が加速している。中国外交トップの楊潔篪国務委員(副首相級)が先月末に訪米したのに続き、国務省のレックス・ティラーソン長官が同18~19日に北京入りした。習近平国家主席が来月上旬に訪米する案も検討されている。「中国と建設的で、結果を重視した関係を目指していく。アメリカ国民の利益になり、同盟国との信頼関係にも適う筈だ」。アメリカ政府高官は、こう説明する。だが、アメリカのアジアの同盟各国には不吉な予感が漂っている。「米中が何らかの裏取引を交わし、自分たちが外されてしまうのではないか?」。そんな不安だ。何故なら、トランプ大統領の対中戦略は半ば空洞であり、軸足がブレ易い現実が少しずつ明らかになってきたからである。例えば、事実上、台湾を中国の一部と見做す“1つの中国”政策への対応がそうだ。トランプ大統領は当初、これに従わない可能性を滲ませていた。ところが、トランプ大統領は先月上旬になると、この政策の堅持をあっさり中国に約束し、関係改善に意欲すらみせた。嘗て強く非難した人民元や南シナ海の問題でも、最近は発言を控え気味である。一体、トランプ大統領の中国観はどうなっているのか。手がかりになるのが、先月10日の安倍晋三首相との初会談だ。複数の関係者によると、伏せられたやり取りはこんな感じだったらしい。約40分間の会談の殆どが中国問題に費やされた他、その後の昼食会でも中国が主な話題の1つになった。中国は経済力や軍事力にものを言わせて、東・南シナ海で勢力圏を広げようとしている。“中国主導のアジア”を作り、アメリカの影響力を排除するつもりだ。そうさせないよう、日米同盟を強めなければならない――。会談は安倍首相が主導し、こんな対中認識を共有する流れになった。最側近のスティーブン・バノン大統領首席戦略官上級顧問は会談後、「中国に関する安倍首相の説明は素晴らしい」と日本側に囁いた。ところが、トランプ大統領は時折、日本側が「おやっ」と不安を感じる発言もしていたのだ。「そうはいっても、習主席も中々見どころがある人物だ」「習主席とは初めて電話したが、とても良い話ができた」。トランプ大統領は、安倍首相との共同記者会見でも、米中連携に前向きな姿勢をみせた。

彼は安倍首相と親交を結ぶ一方で、もう片方の手で習主席とも握手を交わそうとしているようなのである。トランプ大統領の心変わりのきっかけは、日米首脳会談の前日に当たる先月9日、習主席と交わされた電話だ。米中関係者らによると、トランプ政権が重視する国内雇用やインフラの整備の為、中国が協力していく姿勢を習主席がみせたらしい。バラク・オバマ前政権が求めていた米中投資協定の締結について、「前向きな意向を示した」との情報がある。トランプ大統領はこの見返りとして、“1つの中国”政策を堅持し、関係の改善に動いたとみるべきだろう。習主席への来月のアメリカ招待も、この延長線上にある。「トランプ大統領には骨太な戦略観が無く、損得に外交が流され易い」という不安が、予て指摘されていた。やはり、そうだったのだ。無論、彼としても、中国の対米貿易黒字や東・南シナ海での強硬な行動に怒ってはいる。だが、それは明確な理念に基づく反応というより、“感情的に腹を立てている”と言ったほうが近いという。中国の外交ブレーンによれば、習主席は「トランプ大統領は取引好きで、御し易い」と見抜いている。トランプ大統領を取り込む為、今後、様々な協力案件を打診するに違いない。経済に加えて、もう1つの有力なカードが北朝鮮問題での協力だ。密かに、米中間で取引が始まっている形跡がある。アメリカは先月17日、ドイツで開かれた初の外務大臣会談で、北朝鮮に“あらゆる手段”を使って圧力を強めるよう、中国側に求めた。すると、その翌日。中国商務省は突然、「北朝鮮からの石炭輸入を今年末まで停止する」と発表した。「偶然とは思えない。何らかのディールが交わされたのだろう」。アジアのベテラン外交官からは、こんな声が漏れる。北朝鮮問題を巡って米中が連携を深めること自体は、世界にとっても朗報だ。問題は、「トランプ大統領がその見返りに、中国側にどんな譲歩をするのか?」である。若し、東・南シナ海での中国の行動を巡り、トランプ政権が甘い態度を取ることになれば、日本やオーストラリア、東南アジアの同盟国の安全保障が脅かされてしまう。では、日本やオーストラリアはどうすればよいのか? 1つの方策は、安全保障に精通し、厳しい対中観を持っているジェームズ・マティス国防長官らと連携し、トランプ大統領が危ない対中取引に走らないよう抑えることだ。この意味で、マイク・ペンス副大統領もカギを握る。それでも、大統領が絶大な権力を握るアメリカでは、副大統領や閣僚の影響力には限界がある。空洞になっているトランプ大統領の中国観がきちんと肉付けされていくよう、同盟国は彼との対話を深めていかなければならない。 (本社コメンテーター 秋田浩之)


⦿日本経済新聞 2017年3月22日付掲載⦿

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【政治の現場・総裁任期延長へ】(07) 増税判断、避けられぬ壁

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一昨日夜、首相の安倍晋三は、衆議院予算委員長の浜田靖一ら与党メンバーを首相公邸に招き入れた。新年度予算案の衆議院通過を慰労する宴席では、大相撲にも話題が及んだ。「総理大臣杯を渡す時、何度も経験している白鵬は直ぐに受け取ってくれるんだけど、初優勝の力士は中々来ないから重いんだよ」。一同の笑いを誘う安倍の姿に、出席者の1人は「話しぶりに自信が漲っていた。政権発足から4年以上経っても支持率は高いし、“一人横綱”の気分だろう」と感じた。翌3日、安倍は3年に1度顔を出すという民間主催のパーティーにビデオメッセージを寄せ、欠席を詫びた上で、2年後の出席を約束。「その時も未だ総理大臣を続けている」と、一度言葉を切り、「という意味ではありません」と続けて会場を沸かせた。安倍は、与野党で囁かれていた今年1月の衆議院解散を見送った。周囲には、「いつ選挙になっても民進党は伸びない。任期満了まで解散しなくてもいいんじゃないか」と語っている。昨年来、安倍に“1月解散”を進言してきた副総理兼財務大臣の麻生太郎は、「首相は“9年スパン”で解散戦略を考えている」と見る。自民党総裁任期を“連続3期9年”まで延長することが決まり、安倍は2021年9月までの超長期政権を視野に入れる。衆議院議員の任期は4年。今年9月までに解散すれば、政権が終わる総裁の任期切れまでにもう1回、衆院選をやらなければならない。

逆に言えば、今年9月以降の解散なら1回の衆院選で済むという訳だ。そんな安倍に、官房長官の菅義偉は「総裁選後に勝負しましょう」と持ちかけている。来年9月に予定される総裁選で3選を決め、その勢いを駆って衆院選に臨む作戦だ。今夏の東京都議選は、都知事の小池百合子が率いる地域政党の参戦で、自民党の苦戦が予想される。小選挙区を“0増6減”し、100選挙区前後の区割りを変更する公職選挙法改正案は、今国会で成立する見通しで、候補者調整に時間がかかる。連立を組む公明党からは、「都議選や区割り変更の影響を考慮すれば、年内解散は難しい」といった声が漏れる。『森友学園』問題の行方も不透明だ。安倍にとって、“総裁選後”解散は有力な選択肢の1つとなり得る。ただ、解散を先延ばしした場合、避けて通れない壁に直面する。2019年10月の消費税率10%への引き上げ判断だ。予算編成を考えれば、各省庁からの概算要求がある来年夏には、一定の判断が求められる。総裁選後に解散するなら、消費税を争点に衆院選を戦うことになる。安倍はこれまで、消費増税を2度先送りしてきた。自民党内では、「次期衆院選でまた延期すれば、流石にアベノミクス失敗の批判は免れない」(中堅)との声が強い。とはいえ、増税を掲げた選挙に勝った政権は過去に無い。次期総裁選で安倍との対決を睨む前地方創生担当大臣の石破茂は、牽制を強める。「1強は、権力を楽しむ為にあるのではない。『票が減る』『選挙に落ちる』と先送りしてきた課題に果敢に挑戦し、答えを出す為だ」。先月22日、石破は千葉県松戸市での講演会で、増税延期を繰り返した安倍の姿勢を暗に批判した。「消費増税は、国民に丁寧に語りかければ必ずわかってもらえる」というのが、石破の持論だ。安倍が消費増税とどう向き合うかが、“9年政権”を占う試金石となる。 《敬称略》

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【政治の現場・総裁任期延長へ】(06) 自公維、危うい距離感

20170330 03
自民党幹事長の二階俊博が、公明党に気を使うことが増えている。今年1月23日、二階は公明党中央幹事長の漆原良夫ら幹部数人を、東京都内の行きつけの日本料理店に招いた。同29日には、幹事長の井上義久や国会対策委員長の大口善徳らを同じ店で歓待した。二階は、自民党本部で行う鳥獣害対策のイベントに、公明党幹部を誘って回った。イベントが行われた同31日昼、自民党本部には漆原・井上らが顔を揃えた。二階は上着を脱いで餅をつき、彼らに振る舞った。公明党は昨年12月、議員立法のカジノ解禁法への態度を決められず、採決の対応が割れた。“拙速”とも批判された“スピード成立”の背景には、大阪へのカジノ誘致を目指す『日本維新の会』を重視した首相の安倍晋三や官房長官・菅義偉の意向があった。井上は、同法の為に自民党が2回目の臨時国会延長に踏み切ったことについて、「議員立法での再延長は問題としなければならない」と抗議。同党代表の山口那津男も、「(政権の)歪みと映る部分は正していかなければならない」と不快感を示した。

二階は、公明党との関係修復への対応を余儀無くされた。安倍や菅も、公明党への配慮を怠っている訳ではないが、維新への接近ぶりが目立つ。先月22日、赤坂の中国料理店で菅は、維新幹事長の馬場伸幸や国会対策委員長の遠藤敬らとテーブルを囲んだ。遠藤は、昨年の臨時国会で民進党と対峙して自民党に協力したことを念頭に、「今年は活躍する機会が無くて暇ですわ」と軽口を飛ばした。菅は「万博の件は政府でも精一杯やっていく」と語り、維新が誘致に取り組む大阪万博への協力を約束した。安倍は、維新の法律政策顧問・橋下徹(前代表)と馬が合うとされる。山口は、憲法改正の議論自体は否定しないものの、時折、慎重な物言いをする。橋下は改憲に積極的で、安倍が維新に共感する一因ともなっている。安倍は周辺に、「維新は野党の立場でいてくれるからこそ価値がある。『幅広い勢力が改憲を目指している』とアピールすることができる」と語る。自公両党は、安全保障法制や軽減税率を巡り、意見の相違を乗り越えて互いに歩み寄り、一致点を見い出してきた。「“自公融合”の選挙協力は、解消のしようがない」とも言われる。自民党は「公明党が連立から離脱することは絶対にあり得ない」(ベテラン)とみているが、東京都議会で公明党は自民党との連携を解消し、都知事の小池百合子と協調する等、波乱要因もある。公明党と維新の両天秤の上で危うさを孕みながらも、安倍政権は憲法改正という大きなテーマにも挑もうとしている。 《敬称略》

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【獅子の計略・習1強時代へ】(06) “対日改善”駆け引き

20170330 02
「ドナルド・トランプ大統領は、ノーベル平和賞を取るかもしれない。中国と日本を和解に導いた功績で、だ」――。昨年11月のアメリカ大統領選から暫くの間、中国人識者の間ではこんなジョークが囁かれてきた。「トランプ大統領という共通の不安要因を“媒介”に、日中の歩み寄りが可能になる」という見立てだ。安倍晋三首相がトランプ大統領と2度会談して、“日米蜜月”を先ず優先し、アメリカと協力して中国の海洋進出を牽制したことから、“日中接近”の機運は遠退いたかに見えた。だが、中国の習近平国家主席は今も、「“日本は手元に引き付けておくべき対象”という認識だ」と中国外交筋は解説する。トランプ大統領は、習主席が今年後半の第19回共産党大会で発足させる2期目体制の盤石化に向けて、「1㎜も失敗が許されない」(中国共産党関係者)という局面で登場した。中国外交を取り巻く不確実性を減らす上で、日本等の周辺国との安定した関係作りは喫緊の課題だ。カレンダーも悪くない。今年は国交正常化45年、来年は平和友好条約締結40年と、「重要な節目」(中国の王毅外務大臣)が続く。「『この2つの年を活用し、関係改善を進めたい』との安倍首相の言葉に印象付けられた」。習主席も、昨年11月に会談した安倍首相に、対日関係改善への意欲をはっきり伝えた。

習主席は2012年、日本政府の沖縄県尖閣諸島国有化を巡る日中対立が激化した直後に、中国トップに就任。2年後、北京での『アジア大平洋経済協力会議(APEC)』で漸く実現した安倍首相との会談での“仏頂面”の印象が強いが、習主席周辺は「(本人は)日本に悪印象は持っていない」と口を揃える。それを窺わせるのが、2015年5月、自民党の二階俊博総務会長(現在の幹事長)が約3000人を伴った訪中時の対応だ。その最中、安倍首相の昭恵夫人が自身のフェイスブックで、靖国神社を参拝し、併設の戦史展示施設『遊就館』を訪れたことを写真付きで紹介した。北京で訪中団の対応に当たっていた関係者は凍りついた。「『親中派の二階氏に対中外交の主権を握らせない』という言相周辺の意思」とも受け止められ、二階氏が切望していた習主席との会議や首相親書の手渡しは“絶望的”との観測が広がった。だが、習主席は人民大会堂で3000人の前に姿を現し、「中日関係を重視する基本姿勢は今後も変わらない」と言い切った。日本の対中世論を分断する狙いがあったにせよ、“抗日戦争勝利70年”で反日的な宣伝戦を仕掛けている最中に、中国のトップが“対日重視”を明言する影響は小さくない。その後、全面改装された盧溝橋の『抗日戦争記念館』には、3000人の前で演説する習主席の大きな写真が展示された。だが、中国共産党が政権の正統性を主張する為に長年利用してきた“反日”の火種は、些細なきっかけで再燃する可能性がある。官民の日中交流が動き出していた今年1月には、旧日本軍による南京事件を巡る『アパホテル』のボイコット騒きが起き、冷や水を浴びせた。「結局、どこまでも中国にとって日本はリスク」(外交筋)との懸念は消えない。習主席は2023年3月までの2期10年、安倍首相は3選なら最長2021年9月までと、共に長期政権を睨む。「習主席の権力が強まれば、敏感な対日間題での習主席の裁量も広がる」(外交筋)との期待がある一方、習主席は南シナ海の軍事拠点化のような“力による現状変更”による強国外交を加速している。“航行の自由”を主張し、中国の軍事的台頭を視野に国防強化を図る安倍首相とは相容れない。欧米の内向き傾向が続く中、世界の“1強”も視野に入れた習主席の中国と、国際舞台で存在感を増す安倍政権との長い駆け引きが続く。 =おわり

               ◇

五十嵐文・竹腰雅彦・鎌田秀男・蒔田一彦・中川孝之・幸内康が担当しました。


⦿読売新聞 2017年2月27日付掲載⦿

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【激流韓国】(03) 埋めようのない格差

20170330 01
「この辺りのアパートは、暫く値上がりが続くだろうね」――。ソウル南部・江南区の大峙洞。不動産会社を10年以上営む李健弘(56)は、こう予想する。僅か3.5㎢に500もの学習塾が犇く同地区は、お金持ちが集まる韓国有数の街だ。先月時点の1㎡当たりのアパートの平均売買価格は1129万ウォン(約113万円)と、全国平均の4倍。「有名大学の受験突破へ優れた教育を受けられる」というのが人気の理由だが、「ここに住めるのは精々、上位10%に入る高所得層。値上がりで、居住者は更に限られていく」と李は言う。就職等で学歴が大きな意味を持つ韓国で、一握りの富裕層ほど将来が有利になり易い構図が強まる。今月10日に朴槿恵(65)が大統領を罷免された直前の世論調査。弾劾賛成は60歳以上で50%だったのに対し、29歳以下では92%に上った。

“朴降ろし”は、若者による既得権者への不満のマグマの噴出でもある。格差は今年5月9日の大統領選の主要テーマになるが、縮小への解が容易には見つからないほど深刻になっている。「住宅を持つ者と持たない者の格差は埋めようがない」。第2野党『国民の党』の国会議員・鄭東泳(63)は今月6日、警鐘を鳴らした。1988年の民主化後の賃金は6倍に上昇したが、江南区のアパート価格は264倍に拡大した。特に、2003年からの“革新系”盧武鉉政権の下での値上がりが激しかったといい、「今や正常な所得内で自宅を構えるのは不可能になった」。朴も、2013年の政権発足当初は、大企業と中小企業の共存や所得格差の是正を掲げていた。任期途中から景気浮揚策として、不動産等資産市場の活性化に頼り始めた。労働市場改革は頓挫し、大学以上の高等教育卒業者の就職率は70%を切る。昨年9.8%だった若年失業率の上昇も続く。若者の間では、生き辛い韓国を“ヘル(地獄)朝鮮”と卑下する言葉が飛び交う。「私は、経済と庶民生活の問題を解決できる候補者だ」。大統領選で支持率首位を独走する革新系最大野党『共に民主党』の前代表・文在寅(64)は、今月14日のテレビ討論会で胸を張った。自身が幹部の一員だった盧政権で、寧ろ拡大の要因を作った格差をどう解消するのか。建設的な方策は未だ示せていない。 《敬称略》


⦿日本経済新聞 2017年3月24日付掲載⦿

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骨の髄からのアウトロー、中勝美伝説…「舞鶴の事件は俺がやったんや」、和製ナチュラルボーンキラーの破天荒な生涯

舞鶴女子高生殺害事件で無罪を勝ち取った“冤罪ヒーロー”の本性は、殺人の前科があった札付きのワルだった。司法は何故、こんな危険な男を野放しにしてしまったのか――。 (取材・文/犯罪ジャーナリスト 響波速人)

20170329 14
京都府舞鶴市で2008年5月に起きた女子高生殺害事件で、殺人等の罪で起訴された後、最高裁判所で無罪が確定し、別の殺人未遂事件で実刑判決を受けて服役していた中勝美(67・右画像)が2016年7月、大阪医療刑務所で病死した。散々社会に迷惑をかけまくった悪党にしては、不似合いなほどの“安らかな死”だった。実は、中が最初に世間を震撼させる事件を起こしたのは、1973年9月、滋賀県草津市で交際中だった女性(当時24)とその兄(当時37)を刺殺したというものだった。当時、中は25歳のバーテンだった。中は大阪のミナミでクラブのボーイをしていたが、そこにホステスとして入店してきた女性と知り合い、同棲生活を開始。事件の4ヵ月前にプロポーズしたが、今でいうDV男だった為、女性の母親や兄弟に反対され、彼女は京都市中京区の実家に戻っていた。諦め切れない中は、「今度こそ真面目に働く」と言って女性を連れて帰ったが、事件の4日前には再び家族によって連れ戻され、彼女は滋賀県草津市の兄の家に匿われていた。中はそのことを突き止め、「何度も会わせてほしい」と頼んだが、兄によって断られていた。事件当日、中は朝7時から交渉に訪れたが、兄に「会わせない」と冷たくあしらわれ、「殺してやる」と激高。近くの金物店に出刃包丁を買いに行き、家の前の道路で待ち構え、2人が外に出てきたところを滅多刺しにした。更に、近所の民家に押し入り、主婦(当時26)とその妹(当時24)を人質にして立てこもった。中の事件は日本中の注目を集め、テレビで生中継された。

中は人質に主婦に、「同棲していた女を、女の家族に引き離された。1週間考え抜いた挙げ句、やったんだ…」等と涙を浮かべて、事件の経緯を語り、姉妹に自首を勧められて、約6時間後に投降。殺人容疑等で逮捕された。裁判では、これらの経緯が考慮され、懲役16年という軽い刑で済んだ。実質的には12年で仮釈放されることになり、出所後に知り合った女性と結婚。一女を儲けた。だが、程なくして夫婦関係は破綻。その頃から、舞鶴市内で若い女性に対する猥褻事件を起こすようになった。1991年9月、中は自転車に乗った女性(当時21)に体当たりして襲いかかり、抵抗する彼女の顔等を鈍器で執拗に殴るという事件を起こした。悲鳴を聞きつけた通行人の海上自衛官2人が駆けつけ、逃げる中を40mほど追いかけて取り押さえ、警察に引き渡した。中は当時、43歳のグラインダー工員。この事件では懲役6年の実刑判決を言い渡された。この頃を知る懲役仲間は、次のように語る。「アイツは刑務所でも女の話ばかり。セックスの話も延々とする。『下着はこうして盗めばいい』みたいな講義を、皆の前で喜々としてやっとった。最初の事件については、『俺の事件は田舎でやったから、凄い騒ぎだった。出所後は、ヤクザが俺の顔を見るなり逃げ出した』等と自慢げに話していた」。その後、出所すると、舞鶴事件の現場近くの府営住宅で1人暮らしを始めた。生活保護を受給し、鉄屑拾いをして糊口を凌ぐ日々。だが、近所での評判は最悪だった。「自宅は有刺鉄線が張り巡らされていて、庭までゴミが溢れ、ちょっと注意しようものなら棒を振り回して大暴れする。感情の起伏が激しく、直ぐキレる危ない人でした。昼間から自転車でフラフラしていて、マスクにサングラスという格好も不審者そのもの。他人の家をジーッと見とる姿は不気味やったし、スコップで犬や猫を殴る等、動物虐待も日常茶飯事でした」(近隣の住民)。更に、“ヤマモト”という偽名で繁華街に繰り出し、ホステスにストーカー紛いの行為を繰り返していた。「『パチンコ屋におったやろ?』『○○と一緒におったやろ?』と何でも知っていた。何度、店を変えても、どこからか聞きつけてやって来る。いつの間にか自宅も突き止められて、『プレゼントを持ってきた。中でコーヒーでも飲ませてくれへん?』と頼まれたこともあった。カラオケの十八番は“ふたりの大阪”で、デュエットすると『股間を触ってくれ』と言われた」(付き合いのあったホステス)。そして2008年5月7日、女子高生の小杉美穂さん(当時15)が殺害される事件が起きる。遺体が見つかった場所は、中の自宅の目と鼻の先だった。防犯カメラに映った美穂さんの後をつけ狙う自転車の男は、中に酷似していた。

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事件から20年後の今でも世間を騒がせる男…酒鬼薔薇聖斗が足立区の『UR花畑団地』に現れた理由とは?

嘗て“犯罪多発地帯”と言われた時期もどこへやら、現在の犯罪発生率は新宿区・世田谷区・江戸川区のそれを下回り、イメージが変わりつつある足立区。しかし、“あの男”の出現で、そのイメージが再び覆された。酒鬼薔薇聖斗こと“元少年A”である。Aは何故、足立区の『UR花畑団地』に現れたのか? その背景には、誘引されたとも言えるような負の歴史が見え隠れしているのだ――。 (取材・文・写真/ノンフィクションライター 八木澤高明)

20170329 11
2016年2月、嘗て神戸で5人の児童を殺傷した酒鬼薔薇聖斗こと“少年A”(※既に少年ではないが敢えてそう呼ぶ)が、東京都足立区のUR花畑団地で生活していることが『週刊文春』によって報道され、大きな話題となった。足立区といえば、Aの潜伏が知られる以前から、これまで他地域に増して数々の凶悪事件が起きてきた土地でもある。「最近は大きな事件が起きたとも聞かないな」と思っていたところに起きた元少年A騒動。あの陰惨な事件から20年近くが過ぎ、Aは既に33歳の大人となった。Aが暮していたUR花畑団地は、埼玉県草加市との境に接した場所にある。同年10月某日、筆者はその団地へと向かった。既に騒動から半年以上が過ぎていたが、人々にどのように記憶されているのか、この目で確かめてみたかった。UR花畑団地のある足立区北東部は、『つくばエクスプレス』が開通するまで、地元民をして“陸の孤島”と呼ばれ、甚だ交通の便の悪い土地として知られていた。団地の住民は、最寄りの東武伊勢崎線・竹の塚駅までバスか自転車を利用するのが一般的だというが、週刊文春のグラビアで、Aもまた竹の塚駅を利用し、バスで団地と行き来している姿をばっちり撮られていた。Aが暮らしていたUR花畑団地は、東京と埼玉の県境を流れる毛長川の畔にある。建物自体は老朽化が進んでいたが、近年リフォームされ、更に周囲には大きな公園もあって、のんびりとした空気が流れていること等から、近年は若い夫婦等も増えているという。Aは週刊文春記者の直撃取材に腹を立て、記者を追いかけ回したが、その舞台となったスーパーマーケットへも歩いて5分もかからない、生活には便利な場所だった。

筆者が訪ねたのは昼過ぎということもあり、人の姿はあまり見かけない時間帯だった。しかし、団地内の公園のべンチに腰かけている初老の男性を見かけたので、取材と断って声を掛けてみた。「いやぁ、あの時は大騒ぎだったな。記事が出るだいぶ前から、記者が色々と調べていたみたいだね。記者みたいな人が動いていることは、Aが住んでいた棟の住民は知っていたんだってよ。皆、調べているのがAとは知らなかったようだけどね」。当たり前だが、Aが暮らしていたと知った住民たちの驚きは如何許りだっただろうか。しかし、「ここは以前から人の出入りが激しいところだから慣れたのだ」と、この団地に40年以上暮しているという男性が言う。「うちの部屋の上にも1人、男が住んでいてね。3ヵ月ぐらい前に引っ越してきたと思ったら、つい最近いなくなっちゃったんだよ。動きがおかしくてね。自転車置き場にカゴ付きのオバさんが乗る自転車を置かないで、部屋まで態々持って上がるんだよ。きっと、やましいことがあったんだろうな」。男性によると、他にも住民によるトラブル等が少なからず発生しているそうだ。「先ず、ここは家賃が安いだろ? だから下っ端のヤクザが多くて、堂々とした顔して歩いているよ。この前も、Aが住んでいた棟の近くでヤクザ同士の喧嘩があったばかりでさ」(前出の男性)。Aは1997年に児童2人を殺害し、3人に重軽傷を負わせて逮捕された。その後、『医療少年院』に送致された。2004年に仮退院し、四国・東京都内・神奈川県内を転々としながら、足立区のUR花畑団地へと流れてきた。3年ほど前から「Aが東京都内にいるのではないか?」という噂は、ところどころで囁かれていた。その内の1つは、「東大和市の団地にいる」というもので、近隣のスーパーマーケットで働いていたという。潜伏生活をしていたAだが、 2015年に入ると蠢動を開始する。6月に自身初となる著書『絶歌』(太田出版)を出版し、その2ヵ月後にはブログまで開設したのだ。自己表現の場として、世の中に自分の存在をアピールしたかったのかもしれない。だが、それ以前に彼がしなければならないのは、何より被害者への償いである。著書にもブログにも、被害者に対する謝罪は一言も無く、そうした行動は見る者を不快にさせるに充分だった。ブログを始めるということは、インターネット接続が必要になる。その為にはプロバイダーとの契約が必須となる他、アパートの賃貸契約等は果たして誰がやったのであろうか? その点を住民たちに聞き込みしていくと、やはり“協力者”の影が見えてきた。UR花畑団地に暮らす60代の女性が言う。「あの男の人は殆ど見ることはなかったですけど、恋人だと思われる女の人がいました。その人が契約から何からやってあげたみたいですよ。支援者ががっちりガードしているから、記事が出たら直ぐに引っ越しちゃいましたけど。流石にもう東京にはいないって話ですけど、今度は越谷に行ったって噂が出ていますよ」。Aをサポートする人間が東京周辺の人間であれば、当然、彼の生活圏から遠く離れることはないだろう。隣近所の人間関係が濃密な田舎は、潜伏するには適さない。そうなると、身を潜めるには東京周辺のべッドタウンが好都合なのだろう。噂にあった越谷市は、竹の塚から東武伊勢崎線で僅か20分程度のところでもあり、如何にも信憑性を感じさせるものだ。

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【随筆】 漫才のツッコミ禁止?

以前、中学校のある先生を取材したことがあるんです。所謂“荒れた学校”で有名な中学校で、先生はかなり年配の方でした。僕が「こういう学校で毎日神経を尖らせているのは大変でしょう?」と言ったら、先生は「でも、大声を出したり胸座を掴んでくるような生徒にはエネルギーがあるんですよ。そのエネルギーの方向がちょっと変わるだけで、凄い起業家になったりする姿を、僕は何度も見ているんです」と言うんです。「僕は、この学校はエネルギーを持った子供たちが沢山いるから好きなんです」と。更に、「一番難しいのは、エネルギーを見せない子供たちとの接し方です。何を言っても響かない子供たちを動かすのは、僕たちには難しい。そういう子たちの心を動かすのは、高須さんのようなものを作る人たちの仕事ですね。そういう子供たちを思わずクスッと笑わせるような、おおっと奮い立たせるようなものがエンターテインメントですね」って言うんです。いい先生でした。確かに、生きていくには沢山のエネルギーが必要なこともあって、それをあまり抑えてしまうと、そのエネルギー自体を奪ってしまうことになりかねません。小学校の運動会で競技の着順を付けなかったり、学芸会で主役を何人も用意して複数の子供に主役を経験させるということがありますよね。学校で子供たちに差が付かないようにするのはわかりますが、平均化がどんどん進んでいって、「バレンタインデーでチョコが1人に集まるのはよくない」とまで言われるに至ると、少し心配になります。『ダウンタウン』の番組を長年やっていますが、視聴者の方々から色々なご意見を頂きます。その中で少なからず、僕も「えっ、こんなことまで?」と思うような、呆然としてしまうご指摘もあります。このまま行くと、いつか「お笑いに順位を付けるのはよくない」「漫才での強いツッコミは良くない」等という時代が、(まさかとは思いつつ)来るのではないか――。業界人の1人として、「こりゃアカン」という気持ちになります。僕は、「日本という国は、ルールが無くても、そのシーンに応じて相手を思いやるという文化を育ててきた国だ」と思います。最近は何でもルール化して、縛り付け過ぎている気がしますが、コミュニティーの中での個人個人の試行錯誤の学びって大切だと思うんです。煙草についても、たとえ店内が喫煙可能な場合であっても、一旦周りを見回してみて、「今、吸っても大丈夫かな?」と自分自身で考えてから判断することが、本当のマナーに繋がりますよね。 (放送作家 高須光聖)


キャプチャ  2017年3月16日号掲載

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【霞が関2017春】(04) 日本、IoT規格で独を追う…背後には中韓

日本政府が、あらゆるモノがインターネットに繋がるIoT分野で、ドイツ政府との連携強化を打ち出した。その柱となるのが、『国際標準化機構(ISO)』のような国際規格の共同提案だ。実は、ドイツはこの分野で最も影響力を持つ国の1つ。“強国”と組むことで、日本発の技術が次世代のスタンダードに採用され易くする狙いがある。日独両政府は、今月20日からドイツで開催されたITの見本市『CeBIT』に先立ち、『ハノーバー宣言』を出し、互いに連携を強化することを打ち出した。その中心となるのが、IoT関連の規格策定だ。両国の首相も、CeBIT開幕前の挨拶で、「モノ・人が皆繋がる時代には、共通の規格が必要になる」(安倍晋三首相)、「規格の標準化や統一なくして、これからの社会は成り立たない」(アンゲラ・メルケル首相)と、規格の重要性を訴えた。国際規格は、螺子の形状からIoTの仕組みに至るまで、幅広く存在する。有名なISOのような標準化機関は他にもあり、特にIT分野は『国際電気標準会議(IEC)』で国際標準の規格が決まることが多い。規格に準拠しているかどうかは、製品やサービスの輸出入に直結する為、各国は自国企業に有利な規格の策定に向け、凌ぎを削っている。ドイツは伝統的に、この分野で強い影響力を持つ。例えば、ノートや印刷紙のA3やA4といった寸法。これも、元々はドイツ国内の規格が国際規格化したものだ。

ドイツの強さを物語る数字もある。現在、各標準化機関には、議長等、計約950の幹部ポストがある。この内、ドイツは2割弱の約170ポストに、自国企業の幹部等を送り込んでいるのだ。勿論、主要国ではトップのポスト獲得数だ。ドイツは、『シーメンス』のような自国のグローバル企業を通じ、『ヨーロッパ連合(EU)』を中心に、各国国内の規格関連団体に人も送り込む。ISOでの規格の策定は、最後は1国1票の投票で決まる。「いざ投票をしてみたら、『ヨーロッパ勢の票が全てドイツの影響下にあった』という事態がままある」(経済産業省幹部)といい、政治的要素が強い。日本は現在、95ポストを押さえており、第3位につける。重要ポストでもあるIEC会長も、昨年末までは『パナソニック』の野村淳二顧問だったが、任期を終えて今年1月からはアメリカに移った。経済産業省の世耕弘成大臣は、「今後はポスト獲得に力を入れる」と話す。日本の危機感の背景には、中国の存在がある。中国は、ここ10年の間でポスト獲得数を約6倍に伸ばす等、国際規格分野に力を入れ始めている。現在のISO会長は『鞍山鉄鋼集団』の張暁剛氏で、通信分野の国際規格を作る『国際電気通信連合(ITU)』の事務総局長も、中国の元通信官僚・趙厚麟氏が務める。日本企業のライバルも、有望な若手を規格担当に投入する等、力を入れる。韓国の『サムスン電子』は、国際規格の策定担当部門だけで150人を配置している。技術は良いのに、国際的なスタンダードにならない――。日本の技術がこれまで歩んできた“悲しきガラパゴス化”の道を避けられるか。ドイツとの連携は、その試金石になりそうだ。 (八十島綾平)


⦿日本経済新聞電子版 2017年3月28日付掲載⦿

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