【新聞ビジネス大崩壊】(10) 「痛みを伴う業界再編と記者の原点回帰が必要だ」――河内孝氏(『毎日新聞社』元常務)インタビュー

新聞のビジネスモデルは既に崩壊した。では、今後もメディアとして生き残る為には、どのような改革が必要なのだろうか? 『毎日新聞社』元常務の河内孝氏が、抜本的な改革案を示す。 (聞き手・構成/フリーライター 青木康洋)

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この10年間で起きている“新聞凋落”は、世界的な傾向と言っていい。少し前の話になるが、2008年にアメリカでそれまで発行部数・売上共に全米2位だった『トリビューン』が、負債総額130億ドルを抱えて破産手続きを行った。それ以後、アメリカでは堰を切ったように新聞社の経営破綻が相次いだ。倒産情報専門の『新聞死亡ウォッチ』なるどぎつい名称の専門サイトまで登場する始末である。以来、現在に至るまで、アメリカの新聞業界は急激な大淘汰の渦中にある。翻って、日本の新聞業界は、そんなアメリカをどう見ていたか。2009年の合同新春所長会議の席上で、『読売新聞』の渡邉恒雄会長が述べた挨拶を引用してみたい。「欧米の新聞は収入の8割を広告に依存しており、半分になったらもう経営ができない。戸別配達の割合が少ないので、販売収入も安定しない。日本は広告依存度が3割程度で、完全戸別配達網が確立しているおかげで、経営は安定している」。確かに、日本の新聞業界をそのままアメリカと比較することはできない。アメリカで全国紙と呼べるのは『USAトゥデイ』『ウォールストリートジャーナル』『ニューヨークタイムズ』くらいで、それ以外は1400余りの地方紙が乱立している。それに対して、日本では5大全国紙(朝日・読売・毎日・日経・産経)とその系列のスポーツ紙や夕刊紙、それに加えて有力地方紙が60~70紙ある程度。全て合わせても100紙前後である。日本は、人口こそアメリカの3分の1強でありながら、総発行部数はアメリカより多いくらいだ。渡邉氏の言うように、経営基盤はアメリカに比べて安定しているとは言える。だが、渡邉氏の発言から7年が経過した今、日本の新聞社経営も流石に尻に火が点いてきた。

今年に入って、『朝日新聞』が段階的な賃金カットを発表したことは記憶に新しい。同社は「2020年度に総額100億円のコスト減を目指す」と言うが、他の大手新聞社も何らかのコストカットを迫られるのは必至である。新聞業界は最早、待ったなしの状況になってきているのだ。これまで、我が国の新聞社は国によって手厚く守られてきた。アメリカの新聞シンジケートの多くは上場企業であり、買収や合併を繰り返してきたが、『日本新聞協会』加盟の新聞社の中で上場している会社は、私の知る限り1社もない。それは、市場からの監視を受けずに済むということだ。しかも、日刊新聞法によって株式の譲渡には取締役会の承認が必要とされているから、経営陣にしてみれば会社を乗っ取られる心配は先ず無い。更に、新聞は再販適用業種である為、末端での値崩れが起こらない。それに加えて、日本独特の専売店制度に支えられてもきた。よく、「日本の新聞購読率が世界最高水準にあるのは、戸別配達制度にある」と言われるが、実は、世界的に見ても類のない専売店制度に、そのカラクリがある。発行本社との専売契約の為に1地区で1紙しか売ることのできない専売店は、生き残る為に部数を拡張するしかなかった。新聞を発行する本社側も、経費補助や目標部数を達成した時の報奨金等によって、専売店の忠誠心を繋ぎ止めてきたのである。他業種では先ず考えられないほどの経費をかけて、新聞本社は必死に専売店制度を維持してきた。3ヵ月の購読カードの生産費が2万円以上という、採算度外視の商法が罷り通ってきたのである。勿論、一頃の携帯電話の“ゼロ携帯”のように、原価割れしてでも販売競争をする業種が他に無い訳ではない。だが、当時の携帯電話の場合、利用者がゼロの状態からスタートして1億人にまで膨らむほどの急成長市場だった。それに比べて、斜陽産業である新聞業界は、今も尚“ゼロ新聞”をばらまいているのだ。相も変わらず各新聞社は、発行部数が如何に多いかという見栄の張り合いを止めていない。実際の読者数以上の新聞紙を販売店に送り込み、発行部数を多く見せる悪しき商習慣を止めることができないでいるのだ。自殺行為という他はない。厳しい言い方になるが、新聞はこれまで恵まれ過ぎた環境にあった。そういった微温湯体質が簡単に抜けるとは思えないが、大出血を覚悟してでも今、改革を行わなければ、荒涼たる風景が眼前に広がったままだろう。どんなビジネススクールでも最初に習うことだが、構造不況に陥った業種がやらなければいけないのは業界再編である。新聞社が先ずしなければいけないのは合理化だ。現在の新聞社は、原料(新聞用紙)の購入から印刷・流通・販売という全過程を、個別に保有して運用している。この構造を、記事を取って編集して発信する機能だけに特化するのだ。原料購入から印刷までは業界全体で立ち上げる共同印刷に、流通・販売は共同販売会社に業務委託すればいい。つまりは、出版業と同じようなスタイルにするのである。現行の新聞産業では、原料購入から印刷・流通・販売までのコストが営業費用の60%を占めているから、これによって大幅なコスト減が期待できる。

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テーマ : テレビ・マスコミ・報道の問題
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120人以上のオーナーが集団訴訟! 大家を騙してボロ儲けな『レオパレス21』のえげつない手口

家賃収入10年保証は大嘘だった! 女優の広瀬すず出演のテレビCMでお馴染み、不動産サブリース業大手『レオパレス21』の不誠実な対応に、オーナーが激高。裁判が始まっているという。レオパレスのボロ儲けの手口とは――。 (取材・文/フリージャーナリスト 小石川シンイチ)

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「レオパレスに騙された!」。取材した大家たちは、そう口を揃える。レオパレス21(東京都中野区)といえば、広瀬すず出演のテレビCMでもお馴染みの不動産サブリース業界大手。不動産サブリース業は、アパートオーナーの所有している土地にアパートを建てさせ、そのアパート全体をオーナーから借り上げる形にして、入居者に貸す。アパート建設からアパート管理まで一式を丸受けすることで、コストを圧縮し、多くの利益を出すことができるビジネスモデルだ。現在、安倍政権下の経済政策『アベノミクス』による『日本銀行』の異次元金融緩和政策で、地方のアパート投資に大量のマネーが流れ込んでいる。日銀の貸出先別貸出金によると、2016年の金融機関による不動産融資は、前年を15.2%上回る12兆2806億円だった。統計は1977年まで遡れるが、2016年が過去最高。融資先に悩む地方銀行が、地方の地主や定年退職組を中心に融資を行い、局所的な不動産投資バブルが起きている。その恩恵を受けているのが不動産サブリース業、延いてはレオパレスなのだ。レオパレスの物件は家具・家電付きの上、賃貸業の経験も豊富な為、入居者にも事欠かない。この為、“(オーナーへの)家賃収入10年保証”や“30年借上げ保証”等を売りにして、オーナーの奪い合いをしているほどだ。テレビCMを積極的に展開しているレオパレスは、知名度も上々。子会社に家賃保証会社『プラザ賃貸管理保証』等も抱えており、2016年3月期で売上高は5114億円、営業利益は209億円と4期連続増収、7期連続増益とボロ儲けなのだ。管理戸数は約56万戸で、『大東建託グループ』(約92万戸)や『積水ハウス』(約56万戸)と共に上位グループに入っている。2004年に東証1部に上場した株価も“アベノミクス銘柄”として好調で、2014年にはJPX日経インデックス銘柄に新規採用されるほど。しかし、2016年8月には750円を上回っていたものの、同年11月には600円を切るショックに見舞われた。

更に、レオパレスと契約を結ぶオーナーから訴訟を起こされる事態になっている。「一部のオーナーで作るLPオーナー会(※本部は名古屋市・全国組織のレオパレスのオーナー会)が、レオパレスの不誠実な態度に疑問を抱いて提訴したのです。1つは、2016年11月に報じられた、家具・家電総合メンテナンスサービスを巡るオーナー128名による集団訴訟。請求総額は約4億7000万円強になります。更に、2017年2月には、『家賃収入が10年間変わらないという契約でアパートを建てたのに減額された』として、減額分の支払いを求める集団訴訟も起きています。これまで不動産業界で囁かれていたレオパレスの闇が、裁判によって次々に明らかになりそうです」(経済誌記者)。何れも100人を超えるオーナーの集団訴訟で、裁判所の判断によっては、レオパレスだけでなく、同様のトラブルを抱えるとされる不動産サブリース業全体も突かれる可能性がある。業界にとって致命傷になりかねない爆弾なのだ。「レオパレスの巧みな営業トークで、多くのオーナーがアパートの建設を決意しましたが、資金が回収されていない事例が多発しています。この事実を、これからアパート建設を検討中の全国のオーナーに知ってほしい」。そう語るのは、一部のオーナーで構成される『LPオーナー会』代表の前田和彦氏だ。前田氏も、嘗てはレオパレスのシステムを好意的に捉え、レオパレスが発行するオーナー向け雑誌の記事に登場するほど信頼関係のあるオーナーだったという。そんな関係に罅が入ったのは、前田氏が太陽光発電設備を導入しようとしたことだった。レオパレス側の出してきた見積もりが、市価よりも4割ほど高かったのだ。建築設備士の資格を持つ前田氏は、太陽光発電設備の原価も知っていた為、交渉の過程で不信が募り、更にレオパレス側のこれまでのコストを検証してみた。そこで浮上してきたのが、「レオパレスは家具・家電メンテナンス契約の家具交換レンタルを殆どやっていない」という問題だった。レオパレスのオーナーは、家具家電総合メンテナンスサービスも契約している。これは、レオパレス物件の売りである家具・家電をレオパレスからオーナーがレンタルする契約で、レンタルした家具・家電はレオパレス側の費用負担で定期的に(7~14年)新品に交換してもらえるという内容だった。家具・家電が新品か中古かで客付けに大きな差が出るだけに、オーナーにとっては重要なポイントだ。「ところが、契約年数が経過しているにも拘わらず、家具・家電が新品に交換されないケースがあるのです。私たちは、賃料の安い地域でも一律で月2000円/戸のサービス料という高い負担を払っているのに、一体どこに消えたのか。2014年1月にオーナー会を立ち上げ、情報収集を開始。同年8月から翌2015年4月にかけて、契約の年数を経過した家具・家電について新品に交換するようレオパレスに要請しましたが、その回答は期待した内容ではなく、交渉も不調に終わったことから、集団訴訟に踏み切ったのです」(前田氏)。2016年11月に提訴し、翌2017年2月に初公判が開かれたが、弁護士1人の原告に対し、被告であるレオパレス側は何と20人を超える弁護団で臨んでいる。

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テーマ : ブラック企業
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ヤマト運輸は本当にアマゾンの被害者なのか――10年以上伸びていない利益、昨年12月下旬に想定超える荷物流入

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宅配最大手の『ヤマトホールディングス』が、大きな試練に直面している。『アマゾンジャパン』等、インターネット通販の荷物が急増。宅配ドライバーのサービス残業が深刻化していた。経営陣は、「人手不足等、外部環境の変化が主な原因だ」と言う。宅急便は時代に先駆けた取り組みで支持されてきた。しかし今、構造改革に伴うサービス後退が避けられない。何故、こんな事態になってしまったのか? 「インターネット通販というのは、基本的には非常に良い存在だと思いますよ。しかし、それは荷物を運んで初めて成立するビジネスでしょう」「クリスマスや母の日等、荷物が増える毎年の行事には備えてきました。ただ、インターネット通販が独自に展開するセールによって、例えば大量のミネラルウオーターを運ばなければならないようなことまで想定して、我々が体制を整えておく必要があるのでしょうか?」――。本誌のインタビューに、ヤマト運輸の長尾裕社長は、苛立ちを隠さずに本音を露呈した。それは、「インターネット通販の需要拡大を支えてきたのはヤマトであり、消費者が利便性を享受できるのもヤマトのおかげだ」という強烈な自負があるからだろう。そして、インターネット通販大手のアマゾンジャパンとの取引については、次のように説明した。「佐川急便さんが(2013年に)捨てたものを拾ったみたいな言い方をよくされますが、そんなつもりはさらさらない。元々、日本通運さんがやっていたアマゾンさんとの取引を、全部安値でひっくり返したのは佐川さんですから。(ヤマトがやらなければ)誰が運ぶのですか? (Amazon側から)『何とかして助けてくれないか?』というお願いがあったので、『力になろう』と判断した」。だが、こうした公共性を重んじ、他社が断った荷物まで運ぶようなヤマトの姿勢が、限界に達している。先月、過去2年分で約190億円もの未払い残業代を支払うという前代未聞の事態を発表。現場が疲弊しているのだ。昨年12月下旬、宅急便のインフラは試練に直面していた。運ぶべき荷物の配達が終わらず、そこに新たな荷物が届き、運ぶ順序がわからない混乱状況に陥る宅急便センターもあった。あるセンター長は責任を感じ、泊まり込みで仕分け作業等をしたという。

約1400億円を投じて2013年に稼働した最先端の大型物流施設の象徴的存在『羽田クロノゲート』はどうだったか? この施設に荷物を送っているある会社の社長は、「クロノゲートはキャパオーバーだった」と話す。別の物流会社幹部も、「取引先から急遽、トラックの応援を頼まれた。『クロノゲートがパンクして混乱が起きている』と説明を受けた」と話す。こうした見方に対してヤマトは、「クロノゲートで荷物の仕分け作業等が滞ったという事実はない」と否定する。ヤマトは今年2月、“働き方改革室”を設置して、サービス残業の実態調査に乗り出した。先月には未払い残業代の支払いの他、宅配事業の構造改革プランを発表。そこでヤマトの経営陣は、混乱の主因として“想定を超えるインターネット通販の急増”・“人手不足”・“社会保険等社会制度の変更”等、外部環境の変化を挙げた。まるで、「我々はインターネット通販拡大等の被害者」と言っているかのようだ。だが、本当にそうなのだろうか? 大きく分けて3つの疑問が生じる。1つ目は、「何故、現場の窮状を把握するのが遅れたのか?」である。実態として、多くの企業でサービス残業があるものの、約190億円というヤマトの残業代未払いの額はあまりにも大きい。ヤマトの元役員は、「長時間労働は20年来の課題。インターネット通販の拡大を言い訳にすべきではない」と話す。ヤマトは、他社に比べて宅配ドライバーの質が高いとされてきた。昨年、『日経リサーチ』が調査した『ブランド戦略サーベイ』では、『Google』や『トヨタ自動車』を抑えて首位となった。今回の事態は、従業員を大切にするイメージと懸け離れている。長尾社長は、「昨年夏頃から異変に気付き、改革の検討をしてきた」と説明する。しかし、現場では「特に、Amazonとの取引が拡大した4年ほど前から状況が大きく変化し、サービス残業が常態化し始めた」との声は多い。2つ目の疑問は、「何故、Amazonから安値で受注したのか?」という点だ。宅配便のシェアが約5割という公共性の高い事業を展開するヤマトが、価格を抑えた高品質のサービスを提供するのは、企業としての使命だろう。それでも、業界内で噂されるほどの取引を引き受けた背景には、どのような事情があったのだろうか? ヤマトの宅急便の平均運賃は今年3月期で559円だが、Amazon等大口顧客には高い割引率を適用している。Amazonについては、1個当たり200円台後半と言われている。そして最後の疑問が、「宅急便の収益性が低下する中、何故、収益源の多角化は想定通りに進まないのか?」。ヤマトの業績は、宅急便を始めてから右肩上がりで伸びてきた。連結売上高は今年3月期に約1兆4700億円となり、過去10年で26%増えた。ところが、営業利益は2006年3月期に600億円台に乗せてから、ほぼ横這いだ。同社は宅急便で全国に物流網を張り巡らせ、会員サービス『クロネコメンバーズ』で約1500万人の個人情報を保有している。2011年に掲げた長期経営計画『DAN-TOTSU経営計画 2019』では、こうした強みを生かした多角化による成長ビジョンを掲げた。その計画は思うように進んでいない。営業利益では、中期経営計画で掲げた今年3月期の目標である900億円に遠く及ばず、業績を見る限り、描いていたシナリオと大きなズレが生じている。日本の物流サービス業を引っ張ってきたヤマトに、何が起きているのか――。 (取材・文/本誌 大西孝弘・村上富美・大竹剛)


キャプチャ  2017年5月29日号

テーマ : 経済・社会
ジャンル : ニュース

【教科書に載らない経済と犯罪の危ない話】(44) エッフェル塔を売った天才詐欺師の“十戒”

「人を惹きつけろ、喋り過ぎるな、よい聞き手となれ、身なりに気を配り、絶えず威厳を保て」――。ヴィクトル・ルースティヒが残した『詐欺の十戒』から抜粋した言葉である。ルースティヒは1890年、プラハ生まれ。青年時代に外洋豪華客船のウェイターとして働き、数ヵ国語と上流階級のマナーを身に付けた。彼が天才詐欺師としてその名を知らしめたのは1925年、35歳の時だ。当時、『パリ万博』の目玉として建築されたエッフェル塔は、老朽化による維持費等の問題で撤去が計画されていた。それに目をつけたルースティヒは、政府高官に成りすまし、解体計画書を偽造。そして、数社の解体業者を極秘会談と称して呼び出し、「受注の為には賄賂が必要である」と大金を騙し取った。現在ではパリを代表するシンボルとなったエッフェル塔を、7000トンの鉄屑として扱うところが痛快である。日本であれば、東京タワーを解体屋に売り払う感覚か。その洗練された手口と大胆な発想は、近代詐欺事件の始まりと言っていいだろう。この時から、ルースティヒは“エッフェル塔を売った男”と呼ばれるようになったのである。冒頭の詐欺十戒は、アメリカで偽札製造機という代物を売った容疑で捕まり、獄中で認めたものである。この偽札製造機自体が偽物であったのがルースティヒらしい。「詐欺師は人柄で騙し、事件師はネタで騙す」。これは、詐欺師と事件師の違いを端的に表した言葉だが、ルースティヒはその両方を併せ持つハイブリッドな詐欺師と言える。人の第一印象は見た目で決まる。詐欺師が詐欺師に見えたら詐欺は成功しない。騙されるほうも、まさか自分が騙されるとは思ってもいない。だから、人は詐欺に遭うのだ。

一口に詐欺と言っても、その間口は広く多岐に亘る。近年はインターネットの普及で詐欺の手口は多様化し、複雑になった。送金手段や決済機能も充実し、犯罪も簡単に国境を越える。法の空間を跨げば事件化は難しく、被害の教済も困難となる。猫太郎が巻き込まれたパッケージスカム(小包詐欺)も、ITを駆使した現代の手口だ。「大量の金塊があわよくば自分の物になるかもしれない」と思わせる古典的な要素に、電子メールや大手物流会社の偽サイトというテクノロジーを融合させた新しい詐欺だ。私たちは、当事者が直接会うこともなく、コンピューターとインターネットで詐欺が完結してしまう時代を生きているのだ。最新の手口で猫太郎を騙そうとしたアメリカ軍女性兵士のナタリアは、相手が予想以上に強いとわかり、仲間のアランを送り込んできた。猫太郎は現在、このアランを相手に奮闘中である。相手は、「何とか元だけでも取り返したい」と思っている。その焦りを嗅ぎ取った猫太郎は、騙されたふりでエサを投げた。相手の要求は、送料と関税で約1000万円だった。パッケージの中身は約14億円相当の金塊とダイヤモンドというネタでだ。勿論、中身が本物である筈がない。そこで猫太郎は、アランに1つの提案をした。「14億円の銀行保証が付いた証券で全て買い取ってやろうか?」。アランは見事にエサに食いついた。直ぐさま、猫太郎に個人情報が記載されたCIS(クライアントインフォメーションシート)を送ってきた。正確な情報でなければ銀行で証券を受け取れないし、現金化もできない。猫太郎は完全に敵の尻尾を掴んだ。ナタリアたちは完全に敵を見誤った。猫太郎が20年もの間、中国と取引しながら生き残っているという意味をわかっていない。そして何より、猫組長の一派なのだ。反撃の狼煙は上がったばかりである。 (http://twitter.com/nekokumicho


キャプチャ  2017年5月30日号掲載

テーマ : 国際問題
ジャンル : 政治・経済

【教科書に載らない経済と犯罪の危ない話】(43) 猫太郎vs国際詐欺グループの息詰まる攻防と意外な結果

アメリカ軍女性兵士のナタリアから金塊の受け取りを頼まれた猫太郎。その後の物語である。シリアの戦地で略奪した金塊を部隊で山分けしたナタリアは、猫太郎に日本での換金を頼んできた。次々と送られてくるシリアの画像には、山積みの金塊も映し出されており、それだけで猫太郎を舞い上がらせた。イギリスの大手物流会社からのお知らせメールと荷物追跡番号も、猫太郎を鼓舞させた。その経過を逐一報告される度に、筆者はクヒオ大佐事件を思い出す。カメハメハ大王の親戚(※自称)で、アメリカ空軍特殊部隊のパイロットという設定の結婚詐欺師だ。弁当屋のおばさん等から1億円以上を騙し取って逮捕されたクヒオ大佐は、パイロットどころか自動車の免許も持っていない普通の日本人で、本名が鈴木さんだった。彼は女性と会う時、いつもアメリカ空軍の制服姿で、電話はジェット機の音が聞こえるよう、アメリカ軍基地の近所でかけていたという。女性から金を騙し取る口実が、特殊作戦の工作費やジェット機の燃料代というのが面白かった。きっと、クヒオ大佐に騙された女性たちはロマンチストなのだ。空軍の制服に特殊作戦という非日常が、彼女たちを惹きつけたのだろう。ナタリアが猫太郎に送ってくる画像も全て、アメリカ軍の制服姿である。それは、戦地の画像と共に、緊張感を醸し出していた。人間は制服姿に権威と信頼感を持つものだ。ナタリアもクヒオ大佐も、それをわかった上で演出しているのだろう。猫太郎は胡散臭いと思いつつも、1日の大半をナタリアたちとの連絡に費やしてきた。彼女も猫太郎からカネを騙し取ろうと一生懸命なのである。

今では、ナタリアの他に、弁護士のアラン、外交官のフランクまで登場してきて、完全な劇場型詐欺になってきた。彼女たちは、猫太郎の偽造した送金伝票で赤字を出している。それだけでも取り返さないと、詐欺師の沽券に関わるのだ。ナタリアたちの計画では、「金塊を送った」と思い込ませ、その送料として6500ポンド(約100万円)を騙し取るつもりだった。そして、その送料を支払えば、次は関税を請求する予定だった筈だ。ところが、猫太郎は650ポンド(約10万円)しか送金せず、更にその送金伝票を6500ポンドに偽造してナタリアに提示した。「これで第2弾の関税まで騙し取れる」と踏んだナタリアは、哀れ入金の確認を待たず、オーストラリアにまで荷物を送ってしまったのである。ロンドンからオーストラリアまでの送料を調べると850ポンド(約12万円)。既に2万円の赤字だ。勿論、中身が金塊でないのはわかりきっているが、ジュラルミンのケースだけでも安くはないだろう。こうして、ナタリアと猫太郎の攻防は、やや猫太郎有利で進んできた。そして遂に、弁護士役と外交官役の仲間が助っ人として登場したという訳だ。弁護士役のアランは最初は強気で、「猫太郎を訴える」と息巻いていたが、手に負えないとわかると泣き落としの作戦に変わった。猫太郎も、何とか送料を負担せずに日本へ荷物を届けさせようと必死である。そして、アランは350ポンド(約5万円)までディスカウントしてきたのである。つまり、最初に送金した金額と合計すれば約15万円、恐らくこれが詐欺に要した経費の原価なのだろう。もう、何が目的になっているのかわからない。これまで約2ヵ月の間、国際間でいい大人が何をやっているのだろう。ナタリアも、今では猫太郎を相手に選んだことを後悔している筈だ。物語は今も進行中である。 (http://twitter.com/nekokumicho


キャプチャ  2017年5月23日号掲載

テーマ : 国際問題
ジャンル : 政治・経済

【Deep Insight】(19) 新・第三の道と欧州の未来

フランスに39歳の大統領が誕生する。極右の圧力を堰き止め、世界を安堵させたエマニュエル・マクロン氏の登場。その影の立役者がいる。3代前のジャック・シラク大統領だ。7年の大統領任期を5年にする憲法改正を2000年に実現した。任期5年の国民議会(下院)選と大統領選を同時期にして、任期途中の議会選で野党に敗れ力を失う“ねじれ”を防ぐ思惑だった。2大政党を前提にした制度改正は、17年後に想定外の事態を招く。政党員でも議員でもない青年が大統領の直接選挙で当選し、下院選でゼロから過半数確保に挑む。マクロン氏を頂点に押し上げたのは『En Marche!(オン・マルシュ=前進)』。ほんの1年前に始まった政治運動だ。政党でもない草の根集団が何故、政治の地殻変動を主導するのか? 第1回投票の2日前、パリ9区の学校で前進が開いた会合を見た。小さな椅子に車座で約20人の男女が座り、疑問を語り合う。「教育にもっと投資すべきだ」「製鉄所がまた閉鎖した。変化にどう対処するのか?」。前進のスポークスマンを務めるマイヤール氏が、マクロン氏の公約を丁寧に説明し、投票先を未だ決めていない人に支持を訴えた。マクロン氏に賛同して戸別訪問を続ける男性は、「福祉住宅等を300戸は回った。民主主義と変化を我々が担っていることを示したい」と声を弾ませた。2日後、1回目を首位で突破した前進の祝勝会でも声を聞いた。ドイツ人とフランス人の両親の下に生まれたアレクシさん(36)は、「イギリスのヨーロッパ連合(EU)離脱の決定後に、親EUの姿勢を明確にしたマクロン氏に勇気付けられた。更に戦いを続ける」と話した。左派・右派の既存政党を破り、極右を止めたマクロン氏の勝利は、旧態依然の候補も過激な候補も避けたい有権者の消去法的な選択とも言える。だが、反グローバル・大衆迎合・自国優先といった言葉が当たり前になった国際政治の中で、プロビジネス(企業寄り)・構造改革・グローバル主義を問うた候補の成功には大きな意義がある。『ヨーロッパ中央銀行(ECB)』の総裁を2003~2011年に務めたジャンクロード・トリシェ氏は、「マクロン氏は、柔軟な労働市場・健全な財政・雇用を生むのに有効な税制といった改革の必要性を、明確にわかっている。『今の経済状況はとても続けられない』と、多くのフランス人は理解している」と話す。

左派でも右派でもない“ベストの中道路線”を志向するマクロン流。フランスでは新鮮だが、ヨーロッパの政治史を振り返ると、2人の指導者の20年前に重なる。1997年にイギリスの首相に就いたトニー・ブレア氏と、翌1998年にドイツの首相となったゲアハルト・シュレーダー氏だ。どちらも中道左派に属するが、ビジネスや貿易を活発にして経済を高めようとする視点は、今のマクロン氏の路線にも共通だ。イギリスの社会学者であるアンソニー・ギデンス氏が1998年に出版した『第三の道』は、新しい労働党(ニューレーバー)を掲げるブレア氏の政策理念だった。平等や弱者保護等で政府の責任を確認する一方で、グローバル化や世界の多元主義も重視する。政府の3つの優先課題を「最初に教育、次に教育、そして教育」と評した若いブレア氏の発言は有名だ。一方で、EUへの積極関与等、今のイギリスの歩みとは逆の開放姿勢もみせた。『モンテーニュ研究所』のドミニク・モイジ首席顧問は、「マクロン氏を誰かに例えるとして最適の人物はブレア氏。これは、フランスの“第三の道”だ」と指摘する。今のフランスと同様、ドイツで高止まりする失業率と苦闘したのがシュレーダー氏だ。中道右派で16年続いたヘルムート・コール政権の『レフォルムシュタウ(改革の渋滞)』に飽き飽きした有権者の期待を集めたものの、“ヨーロッパの病人”と呼ばれた東西統一後の経済・雇用不振は改善しなかった。2003年、不人気を承知で、失業手当のカットや医療の負担増に取り組む『アジェンダ2010』を宣言した。企業競争力の改善で失業が減り、支持拡大の果実を味わったのは、2005年に後を継いだ今のアンゲラ・メルケル首相だ。今年9月の連邦議会(下院)選で4期目を狙う長期政権は、厳しい改革に何ら着手していない。2011年、ベルリンでシュレーダー氏に当時の心境を聞いた。「前向きな効果は何年か後にしか出ず、時間の空白ができる」「次の選挙に勝てないと覚悟してでも、政治家は確たる決断を下さなければならない」。新たな“第三の道”を歩むなら、厳しい反発や支持の低下も避けられない。マクロン氏の覚悟が、ヨーロッパの未来を左右する。「成長の大統領になる」。5年前、支持者の前で宣言したフランソワ・オランド大統領。改革は未達に終わり、ドイツとの失業率格差を広げた指導者は、10%台と壊滅的な支持率の下で1期の短い務めを終える。2年半前、経済産業デジタル大臣に就いて間もないマクロン氏は、インタビューで筆者にこう語った。「成長も競争力も不足し、特に若年の失業が問題だ」「構造改革は時間がかかる。中長期で成長を齎すが、短期的には非常に困難で異論も多い」。問題意識は高い。新大統領が得た時間は最長2期10年だ。世論の支持を巻き込み、不可能を可能にできるかどうか? 形勢を変える突破力に期待したい。 (本社コメンテーター 菅野幹雄)


⦿日本経済新聞 2017年5月10日付掲載⦿

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【ドクターXは知っている】(04) 傷や火傷に消毒薬は“毒”…市販の傷を乾かすスプレーも却って治りを遅くする

20170530 07
幼い頃、ちょっとした怪我をして、母親に赤チン(マーキュロクロム液)を塗ってもらった経験は、誰にでもある筈です。他にも、ヨーチン(ヨードチンキ)・イソジン(ポピドンヨード)・クロルへキシジン等、様々な消毒薬が私たちの身の周りにあります。また、傷に使われる軟膏・ヨード(沃素)の嗽薬・歯磨き粉・洗口剤の多くにも、こうした成分が入っています。これらは私たちの日常生活に欠かせないアイテムになっていますが、「消毒薬は毒である」と警鐘を鳴らす医師がいます。『練馬光が丘病院』で傷の治療センター科長を務める夏井睦先生です。「消毒薬の殺菌力は、細菌にだけ効果があるのではありません。人間の細胞まで殺してしまうのが消毒薬なんです」。何故、そうしたことが起こるのか、理由を説明するには、消毒薬が細菌を殺すメカニズムを知る必要があります。消毒薬は、細菌の蛋白質を破壊することによって細菌を殺します。化学作用や物理作用によって細胞膜の蛋白質を変性させ、細菌の生命維持をできなくさせてしまう訳です。しかし、このメカニズムには弱点があります。消毒薬は、細菌の蛋白質だけでなく、人間の細胞膜に含まれる蛋白質まで攻撃してしまうからです。

「皆さん、傷口に消毒薬を塗った時に、相当な痛みを感じた経験があると思います。消毒薬が傷口の細胞膜タンパクを破壊する為に痛みが起こるんです。実は、消毒薬にとっては、細菌の細胞膜蛋白よりも、人間の細胞膜蛋白のほうが攻撃し易い。消毒薬が細菌の細胞膜に到達するには細胞壁を通らなければなりませんが、人間の細胞には細胞壁が無く、ダイレクトに攻撃を受けてしまうからです」(夏井先生)。消毒薬の問題はわかりましたが、傷をそのまま放っておいてもいいのでしょうか? 私たちは子供の頃から、「消毒しないと黴菌が入りこんで化膿してしまう」と教えられてきました。「確かに、細菌がいなければ化膿はしませんが、それは十分条件ではなく、必要条件の1つに過ぎません。細菌だけで創感染(※傷口に細菌が付いて化濃すること)を引き起こすには、とてつもない数の細菌が必要なんです。実際には、細菌に異物や壊死組織が加わることによって創感染する。消毒薬で細菌を殺す意味は殆どないんです。抑々、消毒薬を使ったからといって、細菌を全て撃退できる訳ではありません。傷口を消毒しても、細菌は生き残って、我々の細胞だけを殺してしまうことになりかねないんです」(同)。だとすると、私たちは何故、「傷ができた時に消毒薬を使って細菌を除かなければならない」と考えるようになったのでしょうか? 夏井先生は、19世紀に活躍したフランスの細菌学者、ルイ・パスツールの名前を挙げます。「『細菌が全ての病気の原因である』と考えていたパスツールは、『感染を防ぐには消毒で細菌を殺すことが一番大事だ』と主張した。不幸にも、医学界では今もその時代の考え方が生きているんです」。常識に囚われてはならないと言えそうですが、消毒薬を使わないとしたら、私たちは傷口にどういう手当をしたらいいのでしょうか? 「先ずは水道水で洗うこと。これだけでも細菌はかなり減り、創感染を防ぐことに繋がります。そして乾かさないこと。市販のハイドロコロイド素材の絆創膏を貼るか、ワセリンを塗って食品用ラップで患部を覆う等して、湿潤状態を保って下さい。怪我や火傷の傷は消毒せず、乾燥させなければ痛まず、早く、しかも綺麗に治ります」と夏井先生はアドバイス。「消毒薬を安易に使うことは無駄なばかりではなく、危険でもある」と頭に入れておきたいものです。 (取材・文/フリージャーナリスト 田中幾太郎)


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テーマ : 医療・健康
ジャンル : ニュース

【働く力再興】番外編(02) 労使トップに聞く

政府が働き方改革に着手した。同じ仕事に同じ賃金を払う『同一労働同一賃金』や外国人就労等、検討課題は多い。企業の生産性を高め、労働者の能力を最大限引き出す改革になるか。政府の『働き方改革実現会議』に参加する労使代表に、成長持続の決意を聞いた。 (聞き手/中村亮・三木理恵子)

20170530 04
■外国人労働者拡大、慎重に  神津里季生氏(『連合』会長)
――政府は改革のスピードを強調しています。
「課題に結論を出すのは簡単でない。経済の好循環と関わるので、官邸中心に方向性を議論するのはおかしなことではない。政権への不信感丸出しで会議に臨もうとも思わない」

――最も慎重に考えている課題は何ですか?
「外国人労働者だ。『人手不足だから外国人を』という発想は心配。なし崩しに単純労働者を増やすと禍根を残す。低条件の分野で数を広げるのは如何なものか」

――長時間労働是正を求めつつ、“脱時間給”には反対しています。
「時間に縛られない働き方は一見、見栄えがいいが、健康管理や実労働時間の把握が欠かせない。実現会議でも、脱時間給と裁量労働制の範囲拡大は慎重に考えるべきだ」

――残業時間の一律上限規制は寧ろ、働く現場の制約になりませんか?
「残業を労使できちんと決めているか点検する。上限規制に適用除外を色々設けると、『何の為の改革か?』となる。人も集まらない。採用される側も労働時間に敏感だ」

――同一労働同一賃金は、非正規の処遇改善に軸足がありそうです。
「正規と非正規で賃金制度に違いがあるのは事実だが、職能給中心の現行の賃金制度を大きく変えると、日本の良さを葬り去らないか? その場凌ぎで生活設計に展望の持てない人を増やしたのが、非正規の問題だ」

――企業には賃上げの余力がありますか?
「ある。経営者は、『日本経済の先行きは絶対大丈夫』とは思っていないだろう。『内部留保はけしからん』と言うつもりもない。ただ、皆が活力を持って働ける労働条件か、蓄えをどう使うかは、企業に考えてほしい」

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テーマ : 経済・社会
ジャンル : ニュース

【解を探しに】第2部・引き算の世界(02) 持たない生活、憧れる世代

20170530 03
「チーズ専用ナイフは普通のナイフで十分」「犬のグッズは全部使っていますか?」――。京都市内のマンションの一室で、男性(30)が次々と指示を出す。その横で、部屋の主の女性(36)が、覚悟を決めたように持ち物を片付ける。結婚式の装飾品・犬のライフジャケット・ダーツ盤…。半日がかりの“戦果”が、玄関前にこんもりと積み上がった。男性は“ミニマリスト”を名乗る。本職は証券ディーラー。4年ほど前から、“物を持たない暮らし”をブログで紹介する。昨秋からは無料で指南役を始め、10人ほどの自宅を訪れた。男性の自宅にはテレビも本棚も無い。1000冊近く持っていた書籍は全て電子化して処分した。1DKの部屋で目に付くのは寝具くらい。掃除が直ぐ終わり、自由な時間が増えた。殺風景に見える部屋も、「物が無いほうが充実している」と屈託ない。物を極力持たない生活を目指すミニマリストは、20~30代を中心に広がる。男性のように、自身の暮らしをブログで発信する人は多い。

2015年には、“爆買い”と並んで新語・流行語大賞の候補になった。女性誌や健康情報誌も相次ぎ特集を組む。“断捨離”に“お片付け”と、大量消費社会を否定するような現象が数年前から続く。昨年、ベストセラーとなった『フランス人は10着しか服を持たない』を出版した『大和書房』の編集部長・小宮久美子さんは、「今は安くて良い物がいくらでも手に入る。物を管理し切れないストレスを抱え、少ない物で暮らすことへの憧れがある」とみる。高度経済成長からバブル期を経て、“より良い物”を求めてきたことの反動なのか? 「身の丈に合わない贅沢をする考えが薄くなっている」(マーケティング論が専門の立教大学・有馬賢治教授)。「東日本大震災を機に人々の価値観が変わった」との指摘もある。尤も、発想の転換は簡単ではないようだ。大阪市の堀井みきさん(28)は昨春、ミニマリストを止めた。持っていた服を数着に減らしたところ、親族の通夜で着る服が無いことに気付いた。友人から言われた「女子力が低い」の言葉も堪えた。考えた末に出した結論は、「持たなくても何とかなる。でも、あったほうがいい」。結局、服は買い直した。滋賀県草津市の自宅で主婦らを対象にした“お片付けゼミ”を開く阪口ゆうこさん(34)。教えの肝は、ただ片付けるだけでなく、「自分がどんな暮らしを送りたいか?」を考えることだ。阪口さんは嘗て、食器を家族4人分に減らしたが、その後、買い足した経験がある。自分の理想が“友人を呼べる家”であることを思い出したからだ。「物の適正な量は、人によって違う。減らすのに囚われて、同じ失敗をしてほしくない」。こう考えている。


⦿日本経済新聞 2016年4月13日付掲載⦿

テーマ : 経済・社会
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【男たちの貧困】(01) 借金・自殺未遂・海外逃亡…元IWGP王者レスラーの安田忠夫をバンコクで直撃!

20170530 02
「貯金? 生まれてこのかた、したことないよ。していたら、こんな風になってないでしょ」――。そう言って大きな体を揺すったのは、元プロレスラーの安田忠夫(53)だ。2001年の大晦日の格闘技興行『INOKI BOM-BA-YE 2001』で、『K-1』の猛者ことジェロム・レ・バンナを総合格闘技ルールで撃破し、愛娘をリング上で肩車する姿をご記憶の読者も多かろう。あれから15年、安田はバンコクにいた。「今は日本料理居酒屋の雇われ店長をしていてね。でも、タイ人から見りゃ俺は所詮外国人じゃん? だから毎日、タイ人の女性従業員に苛められてさ。休みは週1日。タイは物価が安いというけど、俺、現地採用みたいなもんだから、給料も現地価格で安いんだ。全然意味ないよな」。果たして何故、安田はそこまで堕ちてしまったのか? 貧困へと繋がる、その流転の人生を振り返ってもらった。大相撲の力士だった安田は、1990年7月場所で小結に昇進するも、生来のギャンブル好きが祟って廃業。非合法の野球賭博等で、知り合いの力士への当時の借金が約2600万円まで膨らんでいたという。1993年に『新日本プロレス』に入団し、翌年2月にデビュー。“どん底に堕ちた男の裸一貫からのスタート”と、当時は話題になった。「実際ね、新日本入って直ぐの時は、ギャンブルは殆どしなかった。というのは、嫁が新日本からの給料を管理していたからさ。そこから小遣いだけ貰う生活で。お金が無けりゃ賭け事はできないだろ? ところがさ、俺が家にあった何かのお金を持ち出して、ギャンブルに遣っちゃったんだよ。そしたら嫁が激怒して、そこからは別居状態。新日本に入って未だ数ヵ月しか経っていなかったんだけどね。給料は俺のところに振り込まれるし、俺も家族がいなきゃ暇だから、またどんどんギャンブルにのめり込んでいった感じだね。嫁は看護師をやっていたし、稼ぎもあった。いつ離婚したかは覚えていないけど、それは必然だったんじゃないかな。そこから、俺は大田区の木造の2階建てアパートを借りて。家賃は7万円くらいだったかな。当時の新日本での稼ぎ? 毎月100万円から150万円は貰っていたよ。でも俺、そのお金はできるだけギャンブルに遣いたかったから、家賃は兎に角安いところにしたんだよ(苦笑)」。

2001年、総合格闘技人気の高まりにより、安田も“猪木軍”の一員として『PRIDE』に参戦。同年の時点で、年収は約2000万円あったという。そして大晦日にTBSテレビ系で放送されたバンナ戦で、“1億の負債を持つ借金王”として煽られながらも、劇的な勝利を果たし、全国的にブレイク。翌2002年2月には、新日本プロレスでIWGPヘビー級王座も獲得。一躍、時の人となった。「俺の場合、PRIDEはワンマッチ500万円だった。だけど、それは後から知ったことでね。実際に入ってきたお金は250万円。猪木さんが半分中抜きしていたんだよ。まぁ、お世話になったし、飯もよく食わしてもらっていたから、特に恨みも無いよ。でもまぁ、ギャンブルはよくやったね。競馬・競輪・競艇は勿論、裏カジノでポーカーゲームもやった。ルーレットもあったけれど、確率が36分の1で、俺は好きじゃなかったな。借金も膨らんで、当時の額は3000万円くらいだった。借用書? 無い。全部、個人的な知り合いから借りたものだったからね。新日本の選手から借りたのも、吉江(豊)くらいじゃなかったかな? ただ、大晦日のバンナ戦の時は、3000万円くらいの借金だとインパクトが弱いから、思い切って借金の額を『1億!』って言ったんだよ。『それくらいじゃないと夢が無いかな?』って(苦笑)」。以降、2004年までは猪木軍や新日本の主力であった安田だったが、同年6月に雲行きが怪しくなってくる。新日本の社長が、藤波辰爾から草間政一に代わったのだ。「それまでも、寝坊とかの試合への遅刻で給与のカットとかはあったんだよ。だけど、本格的にやばくなったのは草間が社長になってから。年俸制でなくワンマッチ契約になったんだよ。そうすると、定期的収入は無い。試合毎の契約と聞いても、試合に呼ばれない。それじゃあ無収入だよな。結局、翌年の1月に新日本を解雇されたんだよね。草間を恨む気も無いよ。結局、会社的にも俺がいらない感じになっていたんだろうな。解雇された年の5月からはIWAジャパンってインディー団体に上がったんだけど、そこがワンマッチ5万円。月に2~3試合だから生活できないよな。でも、中には1試合5000円でやっている若手選手もいるって聞いてさぁ。出てみたら本当に客も少なくて。逆に、『5万円も貰っていいのかな?』って気になったよ。次に猪木さん率いるIGFに上がったんだけど、こっちはワンマッチで50万円から100万円貰っていた。ところが、2~3ヵ月に1回しか試合がないんだ。ハッスルってリングにも上がっていて、こっちも給料は悪くなかった。『お金あるじゃないか』って? 違うんだよ。東京スポーツの記者が俺を的確に表現していたな。『安田さんは10万円貰っても100万円貰っても一緒。あればあるだけギャンブルに遣っちゃうから、結局は同じ』だって。その通りなんだよ。俺の前では、お金は無くなるだけだったんだ。2007年になると、どの団体からも試合に呼ばれなくなって、収入が途絶えた。無銭飲食も2回くらいやったよ。あの、電話がかかってきたフリをして店を出て行くやつ。場所? ファミレスだったかな。勿論、家賃も滞納していた。その年の10月だったな。例の事件を起こしたのは…」。2007年10月4日、安田はアパートの自室で練炭を焚いたまま昏睡状態にあったところを、関係者に救われた。こちらは、焼き肉の雰囲気を楽しもうとした“エア焼肉事件”として知られるが、自殺を試みたことは明らかであった。事実、決行直前には、複数の関係者に死を仄めかすメールを送 っている。

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