松居一代劇場に完敗! “荒涼”の2017年夏ドラマをメッタ斬り!

青春ドクター・食み出し探偵・仕事のできない夫・おデブなシングルマザー…。例によって主役は脈絡なく出揃ったが、今夏ドラマも砂を噛む試練の予感。「砂漠が美しいのは、どこかに井戸を隠しているからだよ」。星の王子さまはそう言うけれど、これ、井戸無くね? (フリーライター 今井舞)

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毎日怒涛の新展開を見せる“松居一代劇場”。あっちに比べてかなり注目度は劣るが、一応、夏ドラマ群も始まっている。ラインナップを見ていこう。瀕死状態のフジ月9に助けが飛んできた。バラバラバラバラ。『コード・ブルー~ドクターへリ緊急救命~』(フジテレビ系・月曜21時)。ドクターへリで患者の元に駆けつけるフライトドクターたちの活躍を描いた人気ドラマシリーズの第3シーズン。優秀で責任感が強い新垣結衣、クールで超一流のオペの腕を持つ山下智久、負けず嫌いで鼻っ柱の強い戸田恵梨香等々、安定感あるキャラクター配置と、「了解、ドクターへリ、出動します。エンジンスタート!」といった派手な画ヅラ、緊張感ある救命のシーンの合間に織り込まれるヒューマンなストーリー。…ザ・盤石。今シーズンは、そこに“ダメな新人たちを一人前に育てる”というテーマが加わり、今時の若者に煮え湯を飲まされている人が溜飲を下げられる作りに。ドクターヘリがあるような大病院に何で若い救急医しかいないの? シーズン1・2に比べて事故現場のセットがチャチ過ぎやしない?――色んなツッコミはさておき、初回視聴率は今期最高の16.3%。だが、これはあくまで昔取った杵柄による延命治療。“月9という病”の根治には、新作成功しか治療法はない。へリは未だか。

「小難しいテーマよりも、偏差値低めで共感し易いポジティブな話を」というのが、今のドラマ制作の基本理念。その見本のような作品が『カンナさーん!』(TBSテレビ系・火曜22時)。主人公は、夫と1人息子をこよなく愛し、パワフルな毎日を送るアパレル会社勤務の渡辺直美。しかし、息子の誕生日に夫の不倫が発覚。即別居。パパがいなくたって大丈夫。保育園の父親ドッチボール大会には私が出るわ。うりゃー、ドカーン、わーい優勝。帰りに自転車でコケて病院。夫が駆けつけてくれたのは嬉しいけれど、いつも笑顔の自分でいたいから「私と離婚して下さい!」。…うーむ。離婚に至るまでの筋運びの感情移入のし難さも然ることながら、シシド・カフカと不倫するようなロマンチストの要潤演じる夫が、容姿もバイタリティーも何もかも“規格外”の渡辺直美と何故恋に落ち、どうして結婚したのか、今ひとつ合点が行く描写がないまま話が進むので、夫婦の絆や歴史が感じられず、仲直りを強要してくる姑の斉藤由貴の鬱陶しさにもリアリティーが伴わない。突飛な風貌でガサツにドタバタ大立ち回りする渡辺直美の姿は、ママドラマの主人公というより、殆どゆるキャラ。育児も家事も仕事も、鼻歌歌いながらあっという間に片付き、4歳の息子は人形みたいに大人しい。端からシングルマザーの細かな心の襞なぞ期待してない人たちが、主な視聴者層なんだろう。「直美ちゃん、明るくて元気貰えるー」って。それが一定数いるから視聴率12%。ビバ、偏差値低めポジティブ! 『ウチの夫は仕事ができない』(日本テレビ系・土曜22時)。会社でお荷物扱いされている夫の錦戸亮と、それを支える妻の松岡茉優の二人三脚の奮闘の物語。この筋と大仰なタイトルから、「それ、パワハラされていますよ」とユニオン的NPO団体に目を付けられた主人公が、次第にシンボルマークとして扱われるようになり、本人は何も変わっていないのに、会社での扱いや世間からの目線が勝手に変化し、出世するという、映画『メルシィ!人生』(メディアボックス)的な見所を勝手に想像していたのだが。忘れ物を届ける度に錦戸が会社で叱られているのを見てしまい、本屋で買った自己啓発本を頼りに松岡が夫にアドバイスするという、何じゃそりゃあなストーリー。突然、無意味に始まる『ラ・ラ・ランド』(ギャガ)的ミュージカルシーンも、唐突でツラい。錦戸は大手イベント会社勤務なのだが、そこで描かれる“仕事”のチャチさがまた…。閑職の弁当係を押し付けられて、予算無視で仕入れまくり。理由は「皆の喜ぶ顔が見たかったから」。うーむ。そういうべクトルで“仕事ができない”を捌くのか。お人好しで損しているけど、そこを評価してくれる人もいて…ってこれ、『なぜか笑介』(聖日出夫)の世界観だよなぁ。21世紀に『なぜか笑介』かぁ。ズッ。

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テーマ : テレビドラマ
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【ニッポン未解決事件ファイル】(26) 警察庁長官狙撃事件(1995年)――警察内部から瓦解した『オウム真理教』との暗闘

1995年3月30日、警察が『オウム真理教』に包囲網を敷く中、国松孝次長官が自宅前で狙撃され、重傷を負った事件。疑いの目を向けられた信者の現役警察官が犯行を自白するも、決め手無し。2010年、時効成立――。 (取材・文/フリージャーナリスト 李策)

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1995年3月30日午前8時25分頃。東京都荒川区のマンション敷地内に、突如として銃声が響き渡った。雨の中、スーツ姿の男性が腹を鮮血で染めて倒れこむ。警護のSPは素早く動いたが、銃声は数回続き、倒れた男性はその度に体をよじらせた。現役の警察庁長官が、自宅前で狙撃される――。“治安の良さ”を世界に誇ってきたこの日本で、誰も想像できなかったことが現実に起きた。この日から警察は、“威信をかけた捜査”に突入。しかし、その迷走ぶりは皮肉にも、「日本の警察が解決できるのは、身内や知人同士の怨恨やカネ絡み殺人だけ。計画的な犯罪には歯が立たない」との印象を強く与える結果になった。以下にその経過を振り返ってみる。目撃情報等によると、当時の警察庁長官・国松孝次(※右画像)は、20m以上離れた場所から撃たれた。犯人の男は、長官が住むマンションの1階敷地内の柱の陰に隠れて待ち伏せして、玄関から出てきた国松長官を狙撃した。犯人の男は40歳位で、身長約180㎝。白マスク、帽子に紺色トレンチコート姿だったという。狙撃後、現場近くで黒い自転車に飛び乗り、同マンション裏の路地を通って逃げ去った。しかし、朝の通勤時間帯の犯行だったにも拘わらず、捜査本部は逃走経路の把握に失敗する。「犯人らしい男を見た」。捜査本部には、事件から5日間で約120件の情報が寄せられた。その内の相当数は、京成本線等の町屋駅方向に逃げた様子を示唆。他方、マンションから南東側のJR・地下鉄の南千住駅方向に逃げたことを窺わせる情報も集まった。犯人と同じ格好をした仲間が、逃走支援の為に別の方向に走った可能性もあるが、何れにせよ、捜査はこの時点から迷走を始めるのである。

犯人像についても同様である。犯人は、歩行中の国松長官に約22mの距離から短銃を4発発射。うち3発を腹部等に命中させた。そのことから“射撃能力が極めて高い男”との見方が出る一方で、評論家の間では「訓練次第で、素人にもできない芸当ではない。寧ろ、プロなら確実に射殺されていた」との声も出た。そんな具合に、捜査の長期化が予想され始めていた1996年10月25日、元オウム真理教信者の現職警察官が狙撃に関与したことを仄めかす供述をしていることが明らかになった。都内の報道機関に、「犯人は警視庁の警察官で、既に犯行を自供している」等とする差出人不明の文書が送られてきたのだ。刑撃事件は、1995年3月20日に地下鉄サリン事件が起き、捜査当局が山梨県上九一色村等の教団施設に対し、大規模な強制捜査に着手する中で発生した。また、国松宅等のマンションの郵便受けに、狙撃事件の前日、オウム真理教への強制捜査を批判するビラが撒かれたという事実もあった。捜査本部は、こうした状況等から、オウム真理教が捜査の撹乱を狙った組織的な犯行との見方も視野に入れていた。そんな中、オウム信者であった現役警察官が、1996年5月初旬から実行を認める供述を開始した。警視庁は警察庁にも報告せず、捜査員が数ヵ月間、共同生活をしながら聴取。オウム真理教の警察官に対するマインドコントロールの影響を考え、専門家にカウンセリングも受けさせた。だが、その様子を収めたビデオが後に民放テレビ局に流出し、却って供述の客観性に疑問を抱かせる材料となってしまう。警視庁は、こうした任意聴取を続ける中で、発砲の状況や現場からの逃走の経緯に関する説明に、実際に事件に関わった者でなければわからない“秘密の暴露”を認めた。しかし、警察官が凶器の短銃を捨てたと明かしたJR水道橋駅近くの神田川からは、物証が見つからなかった。実行メンバーとして警察官が名前を挙げた複数の教団幹部も其々、事件への関与を否定した。結局、警視庁はこの警察官を懲戒免職の上、警察の内部情報を漏らしたとして地方公務員法違反(秘密漏洩)容疑で書類送検したが、そこまでだった。東京地検は1997年6月17日、「供述の信用性には重大な疑問を抱かざるを得ず、狙撃事件の被疑者として捜査を進めるのは適当でない」との見解を発表。「元警察官が銃撃事件の実行犯の可能性は極めて低い」との判断を示した。一方、この間、極秘の事情聴取が発覚したことを受けて警察庁は、①警視庁から警察庁に未報告だった②十分な裏付け捜査を怠った――として、当時の警視庁公安部長を更送。井上幸彦警視総監も引責辞任する展開となった。

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『三菱重工』の真っ暗な近未来図――延々続くMRJへの“ミルク補給”、遥かに遠退く“売上高5兆円”

20170817 16
“世界に飛ばすぞ!国産ジェット”――。愛知県営名古屋空港の傍らに立つ『三菱重工業』の航空宇宙システム製作所。その航空機最終組立工場を訪れた同社取引先関係者の1人は、工場内壁にこう大書された横断幕に何とも皮肉気な視線を送った。三菱重工が社運を賭けて進める小型ジェット旅客機『MRJ(三菱リージョナルジェット)』開発プロジェクトが“危機”に陥っている。量産初号機の納入時期が、ここにきてまたまた延期へと追い込まれたのだ。2018年半ばとしてきたローンチカスタマー『ANAホールディングス』への引き渡し時期は2020年半ばへと、凡そ2年先送り。当初の予定だった2013年からは実に7年もの遅れで、しかも5度目の納入延期だ。「最高水準の安全性能を国際的に説明できるようにするには、設計の変更が必要だと判断した」。今年1月の会見で宮永俊一社長はこう釈明したが、2020年半ばに納入するには、遅くとも2019年末までには安全性のお墨付きである“型式証明”を取らなければならない。これまで、アメリカで1年間に亘って積み重ねてきた400時間超の飛行試験は一からやり直しとなり、計画されている2500時間の飛行試験をクリアするには、スケジュールはかなりタイト。業界関係者からは、早くも「6度目があるかも…」との揶揄も飛ぶ。

宮永社長ら首脳陣にとって気掛かりなのは、リージョナルジェット市場で過半のシェアを持つ最大手の『エンブラエル』(ブラジル)が、この間にも着々と次世代機『E2』シリーズの開発成果を上げていることだろう。6月19日からパリ郊外のル・ブルジェ空港で開催された世界最大級の航空ショーには、実機を持ち込み、地上展示に留まったMRJを尻目に、飛行展示まで演じてみせた。MRJの最大のライバルと目されている座席数88席の量産機『E175‐E2』投入は「2021年頃」(事情通)とみられており、そうなると、これまで三菱重工が頻りと吹聴してきた“先行者利得”は大きく揺らぐ。開発の遅延に次ぐ遅延は、財務や資金収支の面からもプレッシャーとなってのし掛かる。三菱重工が64%を出資する開発子会社の『三菱航空機』は、2016年3月期に305億円の最終赤字を計上。資本金と資本剰余金合わせて1000億円あった資本基盤を、ほぼ食い潰した。2017年3月期には、最終赤字は更に511億円にまで増大。累積赤字は1510億円に膨らみ、遂に510億円強の債務超過に転落した。これでは資金繰りが持つ筈もなかろう。今では、三菱重工が開発費や固定費等の不足資金を毎月貸し付ける形で、「ミルク補給」(幹部)している有り様。こうした三菱航空機への長期貸付金は、2017年3月期だけで600億円規模に達した模様だ。その煽りをもろに食らったのが、三菱重工の単独決算だ。債務超過に陥った子会社株は、バランスシート上の簿価を引き下げる減損処理を行わなければならず、その与信に対しては貸倒引当金を積み増す必要がある為だ。三菱重工が2017年3月期に計上した保有株の減損特損は、三菱航空機分691億円に他の関係会社分を含めて1336億円、貸倒引当特損は510億円超。これにより、最終損益は186億円の損失超過(※前期は31億円の黒字)となり、2005年3月期以来、12年ぶりとなる単独最終赤字に沈んだ。こうした惨状を抜本的に改善するには、恐らく三菱航空機の増資くらいしか手段はあるまい。関係者によると、既に内部では三菱航空機向けの貸付金をDES(※デッドエクイティスワップ=債務株式化)で優先株等の株式に振り替えた上、三菱重工を始めとした既存株主らが割当増資を引き受けるといった案が検討されているという。とはいえ、このままだとMRJの開発コストは、当初計画を3倍超上回る5000億円規模にまで膨らむ見通し。これを全額増資で賄うとすれば、最低でも3000億円前後の追加出資が必要だ。仮に、現在の株主構成と出資比率の枠組みを維持するとすれば、各10%を出資する2位株主の『トヨタ自動車』と『三菱商事』は約300億円、各5%を保有する『住友商事』と『三井物産』は約150億円の追加出資を余儀なくされることになるだけに、調整は容易ではあるまい。といって、全てを三菱重工単独で引き受けるのは、今の手元資金の水準(※約2500億円)から言って、ほぼ不可能だ。それに、増資が実現して開発資金の確保に成功し、MRJを完成にまでこぎつけたとしても、それがビジネスとして軌道に乗り、最終的に投下資本の回収に繋がるのかどうかは、また別の問題となる。

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テーマ : 経済・社会
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「曲者&トラップだらけの極東情勢…ニッポンの底力で世界を圧倒せよ」――三橋貴明氏(経済評論家)インタビュー

混迷が続く極東アジアに、アメリカのドナルド・トランプ大統領は更なる混乱を呼び込むことになるのだろうか? 反日の機運に歯止めがかからない韓国に、軍事進出を隠そうともしない中国、そして北朝鮮からは金正恩の高笑いが聞こえる――。果たして、我が国に打つ手はあるのか? (聞き手/本誌編集部)

20170817 10
――激動の2016年を経て、混迷の2017年が始まってしまいましたが、今年の日本を表すキーワードはありますか?
「“グローバル化疲れ”ですね。これはフランスの歴史人口学者であるエマニュエル・トッドが言い出した概念で、もう既に始まっているんですが、グローバル化への反動として、民主主義で反乱するという動きが世界各国で見られます。イギリスのブレグジットもそうですが、今春のフランス大統領選挙、秋のドイツ連邦議会選挙等を通して、益々クローズアップされていくでしょう」

――トランプ大統領もバリバリ保護主義ですよね。
「保護貿易・保護主義というと悪いイメージがありますが、国内の企業を優遇することに何の問題もありません。考えてみればわかることです。国民を保護するのですからね。グローバリズム的にはNGで、1年前なら非常識とされていましたが、1年後は常識になるでしょう。以前は『保護主義が戦争を導く』と言っていましたが、そんなことが起きることはないんです」

――そうなると、日本が躍起になっていた『環太平洋パートナーシップ協定(TPP)』は?
「バカげています。明らかに真逆です。どうせ発効しないからいいんですが、完全に思考停止に陥っていますね。抑々、TPPは外圧で始まったんですから。その外圧で始まったTPPを、安倍政権は愛してしまったんですね。当のアメリカが辞めてしまったのに、安倍政権は『私を愛してくれたんじゃないの!?』と。ストックホルム症候群ですよ。犯人がお前を愛している訳がないだろうと」

――そうすると、『自由貿易協定(FTA)』そのものがいらないのでは?
「抑々、自由貿易は既に成立している話。日本は工業製品に関税を掛けていない。それに、自国の農業を保護するのは当たり前。投資の自由化や、最終的には人の自由化をするのが目的なので、モノの移動の自由化は然程重要ではありません。例えば、既に外資系保険会社“アフラック”の利益の90%は日本なんです」

――つまり、「モノやサービスの輸出入はとっくに自由化されている」と?
「『TPPがダメなら中国との“東アジア地域包括的経済連携(RCEP)”だ!』とかアホな話を言い出すんですが、そんなものはどれもやる必要がない。『じゃあ鎖国するのか?』と極論を言い出す人がいますが、常識的に考えて下さい(笑)。日本は大きな国なんですから不安になる必要はない。要は、日本の経済成長に自信が無いんでしょうね」

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【遠い和平・印パ独立70年】(下) 憎しみの連鎖、私が断つ

20170817 07
今月初め、パキスタン東部のラホールにある雑居ビルの一室に、約30人の男女が集まった。床に座って向き合う白い壁に映し出されていたのは、インターネット電話で繋がったインド西部・スーラトの住民約10人の映像だ。会ったことも話したこともないインドとパキスタンの人たちが、インターネット電話を通じて語り合う。両国の若者グループが“アガゼ・ドスティ”(※ウルドゥー語で“友情の始まり”の意味)と名付け、共同で取り組む様々な交流事業の一環だ。ラホールの男性が、インドでも有名なパキスタンの人気バンドの歌を披露すれば、スーラトの男性は自作の詩を朗読して応じた。使うのはウルドゥー語とヒンディー語だが、話し言葉はほぼ同じで意思の疎通には困らない。友人に誘われて参加したというラホールの病院職員であるカシム・マシさん(27)は、「彼らも僕らも同じ思いだったんだ」と、インド人と初めて触れ合った交流の感想をもらした。1947年の印パ独立以来、憎しみ合ってきた両国の人々の懸け橋にと、約5年前から、両国の学校同士をインターネットで繋いだ交流授業や、インドの学校へのパキスタン人講師の派遣等を続けてきた。パキスタン側の代表を務めるラザ・カーンさん(37)は、「お互いを知れば憎しみなんて消える」と話す。70年前の独立時、祖父母はイスラム教徒に対する迫害を恐れ、ヒンズー教徒が多数派のインドから逃れてきた。双方の集団移住は、各地で衝突や暴動を引き起こし、約100万人が死亡したとされる。

カーンさんは、祖父母や両親から「悲劇を繰り返してはいけない」と何度も聞かされて育ち、「インドは敵だ」と毛嫌いする友人たちが理解できなかった。8年前、各国の若者が集う祭典に参加する為、初めて訪問したインドで若者らと出会い、交流の大切さを実感した。同じ志を持つ人々と活動を始めるきっかけになった。今月下旬には、和平実現への願いを込めて、印パ両国の小学生たちに書いてもらった手紙の展示会も開く。「1人ずつでも考えが変わっていけば、軈て大きな力になる」と信じている。印パ関係の改善を目指す草の根の取り組みは、インターネット空間でも広がる。「私はインド人。パキスタンを憎んでいない」。『Facebook』で印パ友好の言葉と自撮り写真を公開しよう――。ムンバイ在住の映像作家であるラム・スブラマニアンさん(38)の発案で、2年前に始まったキャンペーンには、両国を中心に200万人以上が参加した。2歳の時に軍人の父を印パ間の戦乱で亡くしたインド人女性のグルメハール・コールさん(20)の協力を得て、昨年、メッセージビデオを作成し、インターネットの動画投稿サイトに公開した。1ヵ月で視聴者は500万人に達し、大きな反響を呼んだ。4分間の動画は、コールさんが自分の思いを認めた紙を無言でめくっていくものだ。父を殺したパキスタンが「憎かった」が、母の教えで「父を殺したのは戦争だ」と思い直した。コールさんのメッセージの1枚1枚が、見る人の心に突き刺さる。印パ両国では、相手の国を「嫌い」「危険」と思う人が大半だ。査証(ビザ)の発給には厳しい要件が課され、往来するのも簡単ではない。それでも、スブラマニアンさんは「語り合おうとする人たちが増えている」と手応えを感じている。70年に亘る憎悪の歴史を乗り越えるには、同じぐらい、或いはもっと長い時間がかかるかもしれない。その一歩として、互いに手を取り合い、理解を深めようとする交流の輪は、未だ僅かだが、着実に広がっている。

               ◇

ニューデリー支局 田尾茂樹が担当しました。


⦿読売新聞 2017年8月14日付掲載⦿

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【遠い和平・印パ独立70年】(中) 核兵器、果てなき競争

20170817 05
インドは昨年12月26日、同国東部オリッサ州から1発のミサイルを打ち上げた。射程5500~5800㎞とされる長距離弾道ミサイル『アグニ5』。複数の核弾頭を搭載して、異なる目標を攻撃できる“各個誘導多核弾頭”の技術を備える。実戦配備を間近に控え、4回目の試射成功とされた。その僅か2週間後。今度はパキスタンが、核弾頭を搭載可能な潜水艦発射巡航ミサイル『バーブル3』の発射実験に初めて成功したと発表した。インドは既に、潜水艦発射のミサイルを開発している。更にその15日後、パキスタンは多核弾頭の技術を採用した中距離弾道ミサイル『アバビール』(※射程2200㎞)の試射にも初めて成功したと明らかにした。同等、若しくは類似の技術を誇示し、敵対するインドを牽制する狙いは明白だった。2つのミサイル実験を「隣国の核戦略への対応」とし、声明で対抗意識を剥き出しにしたパキスタン軍は、「報復能力の獲得に成功した」と強調した。パキスタンの元陸軍幹部は、「我々はインドが(軍事的に)行うことへの対応を常に迫られてきた。インドの核実験が無ければ、我々も行うことはなかった」と打ち明ける。インドは1998年5月、計5回の地下核実験を西部のポカランで実施した。これに対し、パキスタンが南西部のチャガイ丘陵で計6回の地下核実験に踏み切ったのも、同じ月の月末だった。1947年のイギリス領からの分離独立後、インドとの3度の戦争で多大な犠牲を払い、今も核以外の戦力で大きく見劣りするパキスタンの人々の心には、インドへの極度の恐怖心と共に、強烈な対抗心がある。アメリカの『原子力科学者会報』の推計(※2017年)によると、保有核弾頭数はインドが130発、パキスミンは140発とされる。両国の核保有数は1998年以降、右肩上がりを続けてきた。

20170817 06
アメリカの民間研究機関『科学国際安全保障研究所』が昨年公表した報告は、「パキスタンが小型の核爆弾製造に適したプルトニウムの生産体制を大幅に拡充させている」と指摘した。北部のクシャブでは4基のプルトニウム生産用原子炉が建設され、3基は稼働済みだ。インドに狙いを定めた射程の短い戦術核を増強するとみられている。『パキスタン国際戦略研究所』のナイーム・サリク上級研究員は、「我々の核保有の自的は、インドに対する抑止力だけだ」と指摘する。一方、インドの核兵器保有には、対パキスタン戦略に加え、中国への備えがあるとされる。インドの民間調査研究機関『政策研究所』のバラト・カルナド教授は、「インドの懸念はパキスタンより中国だ。中国の脅威がある限り、核は減らせない」と言い切る。軍備拡張を続け、インド洋進出も加速させる中国との関係は近年、悪化の一途だ。カシミール地方で中印国境が未画定な上、今年6月以降、隣国のブータンと中国の係争地を巡り、中印両軍が国境地帯で対峙する事態になっている。アグニ5は、中国のほぼ全土を射程に収める。こうした中、インドが1999年に表明した核兵器先制不使用政策について、昨年11月に同国のパリカル国防大臣(※当時)が「縛られるべきでない」と発言し、物議を醸した。パキスタンでは、「『先に核を使う』と宣言したようなもの」(地元紙記者)と反発の声が上がった。印パ両国は、2001~2002年の対立激化で、核戦争の瀬戸際にあったとされる。この危機は回避されたものの、直近では中国も巻き込んで、其々が不信感を増幅させる悪循環が続く。『核拡散防止条約(NPT)』に加盟せず、『核実験全面禁止条約(CTBT)』にも署名していない印パ。2つの核保有国の際限無き軍拡競争に歯止めをかける道筋は、未だ描けていない。


⦿読売新聞 2017年8月13日付掲載⦿

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【遠い和平・印パ独立70年】(上) 「横暴インド、出て行け」

パキスタンとインドがイギリス領から分離独立して、14・15日に其々70年を迎える。過去に3回の戦争を経験し、今も移兵器を保有して睨み合う2つの地域大国は、南アジアに平和を齎すことができるのか? 課題と展望を探る。

20170817 04
中国との国境沿いで印パが領有権を争うカシミール地方。インド支配地域にある中心都市のスリナガルでは、先月8日、殆どの商店のシャッターが閉められ、異様な静けさに包まれていた。1年前のこの日、地元の武装勢力リーダーだったブルハン・ワニ司令官(当時22)が、インド治安部隊に殺害された。静寂は、各地で連帯した抗議のストライキが理由だった。あちこちの店のシャッターには、「インドは出て行け」「我々に自由を」等とスプレーで書かれた文字が目についた。一部地域では、警戒にあたる治安部隊と街頭に繰り出した住民との間で衝突も起きた。この1年余り、インドからの分離独立を求めるデモが止むことは無かった。これまでの治安部隊との衝突で死亡した住民は120人以上。デモ鎮圧に使われる殺傷力の弱いペレット弾で、1000人以上が失明したとされる。ワニ司令官の死後、デモに参加し始めた大学生のアーカシュ・ナイクさん(24)は、「彼の死が僕らの目を覚ましてくれた。自由を手にする日まで戦う」と話す。カシミールでは1990年代以降、独立運動の支援を掲げ、パキスタンやアフガニスタンから流入したイスラム過激派が猛威を振るった。ところが今、インド政府を悩ませるデモの主体は普通の住民たちだ。女性や10代の年少者も加わる。「あの子だってテロリストじゃない」。ワニ司令官の父であるムザファル・ワニさん(55)は訴える。クリケットが好きで勉強熱心だった。16歳の時、3歳上の兄が理由も無くインド兵に暴行されるのを目の当たりにし、「許せない」と呟いて姿を消した。その後、地元の武装勢力に加わり、インターネットを通じて“蜂起”を呼びかけ始めた。素顔を曝し、訥々と語りかけた。“自由の為に戦う若者”は、直ぐに人々の共感を集めた。「住民を反抗に駆り立てるのは、やりたい放題の軍に対する積年の怒りだ」とムザファルさん。

カシミールの治安部隊は、特別法によって、“公共の秩序維持”の為の発砲や、訴追せずに2年も容疑者を拘束する権限が認められている。「どの家庭でも当たり前のように誰かが殺されたり、暴行を受けたりしている」。ワニ司令官の兄も、2年前に治安部隊に殺害された。住民デモが続く中、印パの溝は深まるばかりだ。インド政府は、「パキスタンがデモを扇動して、カシミールの混乱を煽っている」と批判する。一方、パキスタン政府は「インド軍が人権無視の残虐行為を続けている」とし、インドによる“カシミール領有の不当性”を訴える。事実上の国境となっている実効支配線を挟み、両軍による砲撃戦も繰り返されてきた。先月上旬、カシミールの分離独立派団体指導者の1人であるシャビル・シャー氏(64)は、自宅軟禁下での取材に「カシミールの住民を交えた両国の対話こそが、問題解決への第一歩」と強調した。その約3週間後、インド当局にテロ支援容疑で逮捕された。北東部等他の地域でも独立運動を抱えるインドは、不穏な動きと見做せば徹底して抑え込む姿勢を崩さない。カシミールの領有権を巡り、一歩も譲らない印パ。多くが独立を望む地域住民――。相容れない三つ巴の主張が、70年に及ぶ対立の根深さを物語る。和平に向けた両国の対話も、2012年9月を最後に中断したままだ。カシミール地方は、印パ独立以来、宗教対立を背景に、戦乱の火種となってきた。1947年8月の両国独立時、カシミールを実質的に統治していたヒンズー教徒の藩王であるハリ・シンが、帰属についての態度を明確にせず、人口の約8割を占めていたイスラム教徒による暴動が各地で頻発した。同年10月、パキスタンが「イスラム教徒の同胞を支援する」として軍事攻勢をかけると、藩王はヒンズー教が多数派のインドへの帰属を表明。インドも軍を派遣して、第1次印パ戦争に発展した。国連は、1948年と1949年にカシミールの帰属を住民投票で決定する提案をしたが、実施されず、1965年に第2次、1971年に第3次の戦争が起きた。1972年の和平協定(『シムラ協定』)で、カシミールの3分の2をインド、残りをパキスタンの支配下に置く実効支配線が定められ、事実上分割された。パキスタンは、解決に向けた住民投票の実施を求めている。一方、インドはカシミール全体を“インド不可分の領土”と主張しているが、中国との国境も画定していない。


⦿読売新聞 2017年8月12日付掲載⦿

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【EV大転換】(下) これが持続可能な未来だ

20170817 03
先月上旬に横浜で開かれた太陽光発電の見本市。目玉は『テスラ』だった。「太陽光で作った電気を蓄電池で溜めて、電気自動車(EV)で使う。これが持続可能な未来だ」。同社シニアディレクターのカート・ケルティ氏は、こう語った。テスラは2月、社名から“モーターズ”を外した。2016年にアメリカの太陽光発電ベンチャー企業を買収。EV用電池に加え、据え置き型蓄電池にも事業を広げる。創業者であるイーロン・マスク氏の狙いは、発電からEVまで一気通貫のエネルギーインフラを作ることにある。何故、そこまでするのか? 「発電時の二酸化炭素(CO2)排出量まで考えれば、エンジン車はEVとの差が無くなる」。ある国内自動車メーカー幹部は、こう主張する。背景にあるのは、“ウェルトゥーホイール(油井から車輪)”という考え方。燃料を作る段階から、トータルの環境負荷を見る発想だ。『国立環境研究所』の調査では、ガソリン車に対するEVのCO2削減率は、フランスで90%。一方、中国では15%減に留まる。フランスは原子力発電の比率が高いのに対し、中国は7割以上をCO2を多く排出する石炭火力発電に依存する為だ。

いくらEVを増やしても、エネルギー源から変えなければ、根本的な地球温暖化対策に繋がらない。EVシフトの先には、太陽光発電等再生可能エネルギーの拡大が待ち受ける。多くの企業が、その事に気付き、動き始めている。北欧では『IBM』や『シーメンス』等が連携し、風力発電による電力をEVに供給するシステムの整備が進む。日本でも一部自治体で同じような実証実験が進むが、「ヨーロッパでは既に商用段階に入っている」(『日本IBM』スマートエネルギーソリューション部の川井秀之部長)。石油メジャーも“変身”に動く。フランスの『トタル』は、低炭素の液化天然ガス(LNG)等、ガスの生産量が発熱量ベースで原油を超えた。同国の電池メーカーを買収し、再生エネ事業の拡大にも走る。自動車に素材、そしてエネルギーまで産業構造を大きく変えようとしているEVへの大転換。それは、世界の秩序にも影響を与える。「2040年には、1日に800万バレルの石油の需要が減る」。アメリカの調査会社『ブルームバーグニューエナジーファイナンス』は、EVシフトの影響をこう予測する。800万バレルは、『石油輸出国機構(OPEC)』の1日の生産量の4分の1に相当する。世界の石油消費量の65%は、自動車等輸送用が占める。発電用途は全体の4%程度。自動車用の落ち込みを補うのは難しい。「各国が協調して需給調整するOPECの戦略が成り立たなくなるかもしれない」。『日本エネルギー経済研究所』中東研究センター長の田中浩一郎氏は指摘する。需要減によって協調が崩れれば、次世代産業に舵を切れるかどうかで産油国間の格差が広がる。不安定な中東に新たな不協和音を生みかねない。EVへの大転換は、地政学に大きな影響を与える可能性もある。

               ◇

藤野逸郎・上阪欣史・榊原健・工藤正晃が担当しました。


⦿日本経済新聞 2017年8月11日付掲載⦿

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【EV大転換】(中) もっと増産できないか

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東京都港区にある『住友金属鉱山』本社。材料事業本部には、催促がひっきりなしに届く。「もっと増産できないか?」。主な相手は、車載用リチウムイオン電池で世界首位の『パナソニック』だ。住友金属鉱山は、車載用電池の正極材で世界大手。世界各国で次々に電気自動車(EV)の量産計画が立ち上がるのを見据え、国内工場の生産能力を一気に2.5倍に引き上げることを決めた。世界で進むEV大転換。当惑気味の日本の自動車メーカーとは裏腹に、素材産業は“EV特需”に沸いている。『デロイトトーマツコンサルティング』によると、2015年に約450兆円だった自動車産業の総付加価値額は、2030年に約630兆円に拡大する。増加額の3割を占める“素材・部品”では、日本企業の強さが目立つ。EVシフトで急拡大が期待される需要を狙い、攻めの投資が活発になっている。「直ちに進出を決めなければ」。リチウムイオン電池の発火を防ぐセパレーター世界2位の『東レ』の井上治常務取締役の目線は、東欧に向く。東レは2020年までに、1200億円を国内外に投じる方針。2019年にもヨーロッパ初の工場を新設し、EVシフトの震源地でシェア拡大を目論む。セパレーター世界首位の『旭化成』も、2020年に国内外の生産能力を2倍に引き上げる計画だ。

尤も、我が世の春が続く保証は無い。一昨日、『NEC』はEV向け電極事業を手掛ける子会社の株式を売却する方針を発表した。EV市場が本格的に立ち上がるタイミングで撤退するのは、中国や韓国企業の台頭で競争が激しくなり始めている為だ。売却先は中国の投資ファンド。中国企業は、母国のEV市場の成長を見込み、貪欲に技術を取り込もうとしている。EVはガソリン車に比べ、構造が単純だ。デジタル製品のように、ものづくりの水平分業が進むとみられており、世界中の企業が新規参入を狙う。「困った問題だ。EV化の流れが予想を超えている」。自動車素材の主役である鉄鋼メーカーの幹部はこぼす。リチウムイオン電池を大量に搭載するEVは、ガソリン車と比べ重くなる。走行距離を延ばす為にも、車体等に使う素材の軽量化は待ったなしの課題だ。自動車の主要部材を、重たい鉄から軽いアルミニウムや樹脂等に置き換える動きが加速するのは避けられない。アメリカのエネルギー省は、「自動車材料の内、2015年に重量比で7割超を占めた鉄の比率は、2030年に4割台に低下する」と分析する。エンジン等が不要になるEVへの大転換が進めば、鉄の比率はもっと下がる可能性がある。『新日鉄住金』や『JFEスチール』は、軽量化に向く高強度鋼板や、EV用モーターに使う電磁鋼板の拡販に力を入れるが、鋼材需要の減少を食い止められるかは未だわからない。1980年代に世界を席巻した日本の半導体産業は、世界の技術トレンドを見誤り、坂道を転げ落ちるような衰退に直面した。“日の丸素材”は大転換を乗り切れるか? 戦いは既に始まっている。


⦿日本経済新聞 2017年8月10日付掲載⦿

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【EV大転換】(上) 海図なき戦いだ

100年超続いたエンジンの時代の終わりが見えてきた。イギリス、フランス両政府は2040年までにガソリン車やディーゼル車の販売を禁止し、中国やインドは環境規制を盾に自動車産業での下克上を狙う。『トヨタ自動車』と『マツダ』は、電気自動車(EV)の共同開発に向け、資本提携を決めた。うねりを増すEVシフトは、あらゆる産業に大転換を迫る。

20170817 01
“EV試作1号車”――。今春、トヨタはEVの投入に向けた試作車を完成させた。昨年12月にEV事業企画室を立ち上げ、従来の開発期間の半分となる僅か3ヵ月で仕上げた。『デンソー』等トヨタグループからの出向者ら企画室の4人が、社内調整を省き、迅速に仕様を決定。普及を見据え、銀行や愛知県豊田市の関係者等も加えた約30人を集め、開発期間を縮めた。「海図無き戦いだ」。マツダとの資本提携を発表した記者会見で、トヨタの豊田章男社長はこう述べた。世界の2大市場であるアメリカと中国で環境規制が強化され、英仏政府が2040年までにエンジン車の販売を禁止する等、大気汚染対策の動きも世界中に広がる。「EVシフトは想定よりも早い」(トヨタ役員)。異例の開発体制は危機感の裏返しだ。トヨタは、走行距離の長い燃料電池車(FCV)を次世代環境車の本命とする。走行時に水しか出さず、“究極のエコカー”とされるFCVだが、量産が難しく、水素の充填インフラも未整備。開発が容易なEVが先に普及すれば、トヨタのシナリオに狂いが生じる。

トヨタを突き動かした“EVドミノ”。車の技術革新を牽引してきたヨーロッパと、世界最大の中国市場の“共振”が発端だ。『フォルクスワーゲン(VW)』から広がった排ガス不正問題で、ディーゼル車の信頼が失墜。パリやマドリードは2025年からの乗り入れを禁じ、他の大都市も追随する構えを見せる。一方で、ドイツ車の“ドル箱”である中国は、EV普及を国策に掲げる。ドイツ勢の変わり身は早く、VW・『ダイムラー』・『BMW』のドイツ3社は、2025年に販売台数の最大25%をEV等電動車にする計画を打ち出した。「未来は間違いなくEV」。VWのマティアス・ミュラー社長は言い切る。中国やインドが狙うのは、参入障壁が低いEVシフトによる自国メーカーの競争力底上げだ。中国は既にEVの世界シェア3割を占め、『比亜迪(BYD)』等地元メーカーが市場を席巻。中国資本傘下であるスウェーデンの『ボルボカー』は、2019年から販売する全モデルの電動化を宣言した。従来のエンジン車の部品点数は約3万個。「EVでは、部品の約4割が不要になる」との試算もある。それだけに、従来の“勝ち組”には痛みを伴う。トヨタは今春、EV等の生産拡大による部品メーカーへの影響を調べ始めた。トヨタ幹部は、「変革のスピードアップと影響を抑える施策の両立を考えなければ」と悩む。『富士経済』によると、2016年のEVの世界販売は47万台で、うち日本車は14%。未だ世界販売全体の1%にも満たないEVが、エンジン車の誕生から100年以上続いてきた自動車産業を根本から揺るがす。


⦿日本経済新聞 2017年8月9日付掲載⦿

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