「政界最強の“花”と共に日本を取り戻す」――津川雅彦さん遺稿

我々は“運が良いのも芸のうち”とよく言う! だが、役者の値打ちは芸でも魅力でもない。世阿弥が言うところの“花”があるかないか、だ。“花”とは強運をもった存在感のこと。安倍晋三さんには、珍しくその“花”がある! 政治的センスもあり、人間的魅力に溢れ、何よりその強運をもった存在感は圧倒的だ。彼が歳若くして総理の座についたのも強運あってのことだが、逆に不運にも難病に見舞われ、総理の座を降りた。だがその挫折こそ、いまの強運を得るために必要な条件だったように思う。安倍さんが無役でいた頃、人を通じて「津川さんのブログが面白い、一度お会いしたい」と連絡があり、食事をする機会を得た。僕はこれまで橋本龍太郎さんをはじめ五十嵐広三さんなど多くの政治家とお付き合いしたが、安倍さんには全く政治家臭さがなく、柔軟な人間味を感じた。「普段、どんなことをしてるんですか?」「アポなしでアパートを訪ね、有権者にご挨拶をしています」。暇な間にドブ板選挙! 一所懸命なのだ! 彼が患った難病は、うちの親戚の子と同じ潰瘍性大腸炎だった。その子に訊いた。「安倍さんは、なぜ元気になれたと思う?」「良い薬が発明されたのと、僕と違って部分的発病だったからじゃないの?」。冷静な分析だ。だがそれにしても、いまのあの元気は、強運によるものとしか言いようがない。お会いしたあと、総裁選に出ると聞いて心配した。自民党に仲間がたくさんいたわけでなく、泡沫候補の域を出ないようだったからだ。
だが、様子が変わっていく。本命の石原伸晃さんが谷垣禎一さんを押しのけて総裁候補に名乗り出た。だが、「女房が亭主の足を引っ張るなんて、この渡世にはない」という麻生太郎さんの一言でポシャ。石破茂さんは第1回投票で1位だったが過半数を得られず、決選投票では一度自民党を裏切っているため不人気で、安倍さんに敗北。結果、2位の安倍さんが奇跡的に総裁になれた。これを強運と言わずなんと言う! さらにその直後の党首討論で、当時の民主党・野田佳彦首相が安倍さんに解散を約束した。なぜそんな無謀なことを? 安倍さんの強運に圧倒され、トチ狂ったとしか思えない。総選挙は民主党に愛想を尽かした国民が自民党を選んだ、これは不思議でも何でもない。しかし安倍さんが総裁になった途端、あっと言う間に総理に返り咲いた…これは不思議でしかない。こんなあり得ないことが続く強運は本物だ! 総理就任を祝う官邸での食事会に招かれた僕は、「今回の功労者の席に座るのがふさわしい人は、野田さんじゃないですか」と言った。出席者全員からブーイングを頂戴したが、後日、安倍さんから「僕も津川さんと同じ意見ですよ」とメールをもらった。芸人の冗談が楽しめるユーモアの持ち主だ。その後、2014年12月、2017年10月と安倍さんは総選挙に打って出た。「なぜいま?」と思う意表をつくタイミング、マスコミからは総スカンを喰ったが、意表は強運を呼び、逆風が強運を招き、大勝を続けた。また、対する野党にいる議員たちが、見事にみっともない人たちが勢揃いしちゃった、この現状もまた強運! メディアの説得力のない幼雅さも、強運の片棒をかついでいると言っていいだろう。さらに強力な次期総裁候補がいない自民党の現状が、安倍さんを歴史上最長の総理にする日がくれば、最強運と存在感を持った、政界の“花”が誕生することになる! 安倍さんが第1次内閣の時、“美しい国へ”という国家像を掲げた。明治以来、政治家は“文明開化”・“文化廃絶”をうたい、ユダヤ金融の援助を受け、西洋化へ邁進した。国作りには3つの体系の整備が必要だが、維新を成し遂げた侍たちは優秀だった。まずは“利益の体系”である経済力を高め、次に“力の体系”である軍事力強化を成し遂げ、世界第2位の国力を身に付けるに至った。しかし、“価値の体系”である文化力を高めなければ品位ある国作りはできない! しかし…。「文化は苦手でねぇ」「一票にならないからね」。政治家からよく聞くセリフで、西洋かぶれした日本人は、日本独特の文化に無関心になってしまった。そんな中、安倍さんは“美しい国へ”と言ってのけたのだ! 日本が世界に誇る文化国家だという誇りを持っているからだろう。勇気と覚悟がみなぎっている。“美しい”とは文化を代表する言葉だ。富士山は美しいがゆえに、日本人の芸術の源泉となり、世界の文化遺産となった。頭脳が偏っている野党やメディアはどう説明しようが、“美しい国”の意味は理解できっこないだろう。安倍さんが病に倒れ、自民党から民主党政権になってからは案の定、日本は“美しい国”どころか“恥ずかしい国”になってしまった。そんな時、東日本大震災が起こる。被災者たちの我慢、忍耐、礼節という“美しい心”に世界中が感動した。
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