【火曜特集】(56) 「24時間働きゃいい」「ゴキブリの精神でやれ」…ヤマトHD子会社社長のパワハラ音声
「お前ら殺されるぞ、本当に。わかる、これ? そのくらいの給料を貰ってんだよ。殺されるよ、本当。ふざけんなよ、馬鹿たれ! それもわからねぇから問題なんだよ」――。筆者の手元にそんな暴言を録音した音声データがある。声の主は、『ヤマトリース』の小泉弘社長。2017年に入り、200億円超の未払い残業代が発覚して以降、グループ全体で働き方改革に踏み切った筈だが――。 (取材・文/フリージャーナリスト 横田増生)

ヤマトリースは『ヤマトホールディングス』の100%子会社で、トラックやフォークリフト等といった車両のリースを主に手掛けている。『ヤマトフィナンシャル』常務等を経て、小泉氏が社長に就任したのは昨年9月。前社長が引っ越し代水増し請求問題で降格処分になったことを受けての“リリーフ登板”だった。ところが、小泉氏は就任以降、パワハラとも受け取れる言動を繰り返しているという。冒頭の音声は今年に入ってから録音されたもので、ある支店会議後に開かれた懇親会の席での発言だ。録音した社員が語る。「小泉社長が色々な懇親会で『死ね』とか『殺されるぞ』等といった物騒な言葉を社員に浴びせていると聞いて、怖くなって社長の発言を録音しました。そしたら、本当に『殺されるぞ』と言われて…」。小泉氏が不満を抱いたのは、40代で1000万円に届く社員もいるというヤマトリースの給与水準だ。本体のヤマト運輸でも、同年齢では800万円や900万円程度だと主張。「給料が高過ぎる」と社員たちを怒鳴り続け、こう吐き捨てた。「1000万貰うんだったらちゃんと働けよ、24時間働きゃいいじゃない。ヤマト運輸に戻ると下がるんだよ。うちに残りたいんだったら死に物狂いで働けよ。家買ってんだろ? ローンあるんだろ? できますか? 甘えるの止めてくれよ」。
そして、働く者の心構えについて、「恐竜は滅びたけれど、ゴキブリは滅びていないだろ。ゴキブリの精神だよ。ゴキブリの精神でやれっていうことだよ」と言い放ったのだった。あまりの剣幕に誰もが沈黙するしかなかったが、前出の社員が反論する。「確かに、支店長クラスの中にはインセンティブの配分も大きく、1000万円を超える人もいます。しかし、多くの営業マンの年収は500万~600万円程度。午前8時前に出勤し、夜8時から9時に退勤する日々で、仕事量は多いし、サービス残業も少なくありません」。ヤマトリースの社員たちは、親会社であるヤマトHDの内部通報システム『目安箱』に連絡し、小泉氏のパワハラについて善処を求めた。しかし、何も変わらなかったという。 そこで社員たちは株主宛に、小泉氏の言動について改善を求めるよう、今度は書面で要求した。すると、ヤマトフィナンシャルの監査担当者がヤマトリースの営業部員に聞き取り調査を行なったという。だが、その結果も結局、小泉氏に報告されただけで終わっている。親会社のヤマトHDは以下のように回答した。「現在確認中であり、今後、事実関係等に基づいて適切に対応してまいります」。労働問題に詳しい『旬報法律事務所』の佐々木亮弁護士が指摘する。「今国会で、事業主のパワハラ防止措置義務等を定めた改正労働施策総合推進法が成立しました。しかし、小泉氏はパワハラを防ぐどころか、暴言を吐く等、自らパワハラを行なっている。経営者として論外と言わざるを得ません。被害社員が訴訟を起こした場合、司法の場でも小泉氏のパワハラは認定されると見られます」。社長がこれでは、働き方改革など絵に描いた餅。ヤマトはグループ全体でガバナンスの在り方を見直す必要に迫られている。
2019年7月11日号掲載

ヤマトリースは『ヤマトホールディングス』の100%子会社で、トラックやフォークリフト等といった車両のリースを主に手掛けている。『ヤマトフィナンシャル』常務等を経て、小泉氏が社長に就任したのは昨年9月。前社長が引っ越し代水増し請求問題で降格処分になったことを受けての“リリーフ登板”だった。ところが、小泉氏は就任以降、パワハラとも受け取れる言動を繰り返しているという。冒頭の音声は今年に入ってから録音されたもので、ある支店会議後に開かれた懇親会の席での発言だ。録音した社員が語る。「小泉社長が色々な懇親会で『死ね』とか『殺されるぞ』等といった物騒な言葉を社員に浴びせていると聞いて、怖くなって社長の発言を録音しました。そしたら、本当に『殺されるぞ』と言われて…」。小泉氏が不満を抱いたのは、40代で1000万円に届く社員もいるというヤマトリースの給与水準だ。本体のヤマト運輸でも、同年齢では800万円や900万円程度だと主張。「給料が高過ぎる」と社員たちを怒鳴り続け、こう吐き捨てた。「1000万貰うんだったらちゃんと働けよ、24時間働きゃいいじゃない。ヤマト運輸に戻ると下がるんだよ。うちに残りたいんだったら死に物狂いで働けよ。家買ってんだろ? ローンあるんだろ? できますか? 甘えるの止めてくれよ」。
そして、働く者の心構えについて、「恐竜は滅びたけれど、ゴキブリは滅びていないだろ。ゴキブリの精神だよ。ゴキブリの精神でやれっていうことだよ」と言い放ったのだった。あまりの剣幕に誰もが沈黙するしかなかったが、前出の社員が反論する。「確かに、支店長クラスの中にはインセンティブの配分も大きく、1000万円を超える人もいます。しかし、多くの営業マンの年収は500万~600万円程度。午前8時前に出勤し、夜8時から9時に退勤する日々で、仕事量は多いし、サービス残業も少なくありません」。ヤマトリースの社員たちは、親会社であるヤマトHDの内部通報システム『目安箱』に連絡し、小泉氏のパワハラについて善処を求めた。しかし、何も変わらなかったという。 そこで社員たちは株主宛に、小泉氏の言動について改善を求めるよう、今度は書面で要求した。すると、ヤマトフィナンシャルの監査担当者がヤマトリースの営業部員に聞き取り調査を行なったという。だが、その結果も結局、小泉氏に報告されただけで終わっている。親会社のヤマトHDは以下のように回答した。「現在確認中であり、今後、事実関係等に基づいて適切に対応してまいります」。労働問題に詳しい『旬報法律事務所』の佐々木亮弁護士が指摘する。「今国会で、事業主のパワハラ防止措置義務等を定めた改正労働施策総合推進法が成立しました。しかし、小泉氏はパワハラを防ぐどころか、暴言を吐く等、自らパワハラを行なっている。経営者として論外と言わざるを得ません。被害社員が訴訟を起こした場合、司法の場でも小泉氏のパワハラは認定されると見られます」。社長がこれでは、働き方改革など絵に描いた餅。ヤマトはグループ全体でガバナンスの在り方を見直す必要に迫られている。
