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【INSIDE USA】(102) 日本を巻き込んで進むバイデン政権のサイバー攻撃対策

大統領の就任初年度には、あらゆる政策課題が“最優先”のように打ち出されるものだ。そして真の優先課題は、時間の経過と共に自ずと明らかになってくる。就任から7ヵ月、ジョー・バイデン大統領はある政策課題に対し、明らかに高い優先順位を与えているように見える。サイバー防衛能力の大幅な増強だ。バイデン流の“同盟重視”に野心的な官民協力を組み合わせることで、広範且つ大胆な戦略を推し進めようとしている。費用がかかり、成功も難しい戦略だが、そうした中でも日本の政府と企業は重要なパートナー役を務めることになりそうだ。今年5月にアメリカ東部のガソリン供給の半分を担う石油パイプラインが、ランサムウェア(※身代金要求型ウイルス)攻撃で停止するという大事件が発生する以前から、バイデン政権はサイバーセキュリティー強化に向けた長大な大統領令を準備していた。そこで列挙された課題は多岐に亘る。サイバー攻撃に関する情報共有の壁を取り除く、重大事案の調査と対策の検討を進めるサイバー安全審査委員会を設置する、ハッカー侵入後も内部データを保護できるよう暗号化対策等を厳しくしたゼロトラストアーキテクチャーの利用を政府内で広げる――といった対応を明確な期限付きで求めた。安全審査委員会は、航空事故等を扱う『国家運輸安全委員会(NTSB)』がモデルになっている。サイバー攻撃対策を打ち出した大統領はバイデン氏が初めてではない。が、脅威は猛烈に拡大し、嘗てない対策が求められるようになっている。2020年に世界で報告されたランサムウェア攻撃は、前年の5.85倍に急増。サイバー犯罪が世界に与える損失は今年、6兆ドルに達すると予測される。対策が急がれる所以だ。

過去の政権と比べ、民間への要求が厳しくなっているのも、バイデン政権の特徴と言える。順守すべき基準を引き上げ、新たなシステム投資を迫る。重要インフラ企業における対策は、バイデン氏が先月署名した国家安全保障に関する覚書にも盛られた。国土安全保障省は同月、一部のパイプライン企業にシステムの刷新を命じた。バイデン大統領の対策には外交政策としての側面もある。ロシアや中国は金目当ての犯罪組織を匿うばかりか、サイバー空間で国家ぐるみのスパイ活動を繰り広げるようになっている。中国やロシア、北朝鮮による国家的なサイバー攻撃は、民主主義陣営の経済と安全に深刻な影響を及ぼしかねない。アメリカと『北大西洋条約機構(NATO)』加盟国、日本等は先月、『マイクロソフト』に対する中国のサイバー攻撃を一斉に非難。日本の警察庁も最近、『宇宙航空研究開発機構(JAXA)』等が受けた攻撃について、中国の国家的関与を日本として初めて公に名指しした。サイバー攻撃対策は、日米の同盟関係の中でも優先度の高い共通課題となりつつある。尤も、日米ではルールや手続きが異なる為、二国間協力を効果的に進めるのは容易ではない。それでも、第三国におけるサイバー防衛能力の構築等では共同作業が既に開始されている。また、日米両政府には被害の情報共有、ハッカー特定手法の改善、暗号通貨による資金洗浄対策の強化でも協力の動きが見られる。何れも日米の集団安全保障、そして未来の繁栄に向けた重要な投資となるだろう。


ジェームズ・ショフ(James Schoff) 『カーネギー国際平和財団』上席研究員。1966年生まれ。バラク・オバマ政権下の2010~2012年に国防総省東アジア政策上級顧問。専門は日米関係、東アジアの安全保障。


キャプチャ  2021年8月28日号掲載

テーマ : アメリカお家事情
ジャンル : 政治・経済

【人が集まる街・逃げる街】(186) 新潟県長岡市…慰霊・復興の花火大会が全国的に有名

長岡市は新潟県の中南部、越後平野の南にある人口約26万5000人の街だ。江戸時代には譜代大名・牧野氏の城下町として栄えたが、幕末の戊辰戦争で政府軍からの攻撃により長岡城等が焼失、会津藩に逃れた藩士たちも悲惨な最期を遂げた。太平洋戦争末期の1945年8月1日には大規模な空襲で街の約8割が焼失、1488人もの市民が犠牲になった。当時の長岡は、石油の産地であると同時に多くの兵器工場があった。こうした戦禍に加え、この街は自然災害にも見舞われてきた。街の中心部を流れる信濃川は洪水のリスクをはらむ。また、国内有数の豪雪地帯でもあり、街を深い雪で覆い尽くされたことも多い。1961年の長岡地震、2004年の新潟県中越地震、2007年の新潟県中越沖地震でも多くの犠牲・被害が出た。だが、長岡の街はその度にフェニックスのように甦ってきた。その証しが毎年、盛大に開催される『長岡まつり』である。祭りの起源は空襲の翌年に開催された『長岡復興祭』で、現在は8月1~3日に開催される。空襲や震災等の犠牲者を弔う灯籠流し、昼行事としては長岡駅前の大手通やすずらん通り等への企業・団体のブース出店、8月1日夜10時30分からは慰霊の花火、2~3日の夜には大花火大会が行なわれる。この大花火大会は、土浦(茨城県)や大曲(秋田県)と並ぶ日本三大花火大会の1つ。2日間で100万人もの観光客で盛り上がる。他の花火大会はお祭り色が強いが、長岡の花火は慰霊や復興の思いが背景にあることが特徴だ。

東日本大震災のあった2011年も、他の花火大会が中止となる中、慰霊の意味を込めて開催された。残念ながら、昨年に続き今年もコロナ禍の影響で中止となったが、来年はコロナ禍の中で亡くなった方々への慰霊の意味でも、開催されることを祈りたい。長岡の中心部は長岡駅大手口から続く大手通沿いに、オフィスや商業店舗が集積する。長岡市シティホールプラザ『アオーレ長岡』は、元は公会堂や厚生会館のあった敷地を再開発。市役所本庁舎、アリーナ、市民交流ホール等で構成され、2012年4月にオープンした。建築家の隈研吾氏が“まちの中土間”をコンセプトに設計。外壁には地元産の杉材を用い、長岡城の市松模様を取り入れた斬新なデザインとなっている。沿岸部に行くと寺泊港がある。漁業で栄えた港で、今でもこの港を訪れると海産物を売るお店がずらりと並び、観光客を集めるのに余念がない。この港からは佐渡島が近く、佐渡島の赤泊港との間には嘗て両泊航路があったが、2018年に廃止された。上越新幹線を利用すれば、長岡駅までは東京駅から僅か1時間半程だ。関越自動車道と北陸自動車道の分岐点にある長岡ジャンクションは交通の要衝にもなっている。今後は、こうした地の利を生かした街の活性化が求められる。街は長岡カフェ、長岡ナイト、長岡ツアー等、地元住民と観光客を含む市外の人たちとの交流、関係を構築できる接点を増やそうと努力を続けている。米や野菜、お酒が美味しく、ニシキゴイ発祥の地でもある長岡。もっと見直されてもよい街である。


牧野知弘(まきの・ともひろ) 不動産事業プロデューサー。1959年、アメリカ合衆国生まれ。東京大学経済学部卒。『第一勧業銀行』(※現在の『みずほ銀行』)や『ボストンコンサルティンググループ』を経て、1989年に『三井不動産』に入社。『三井不動産ホテルマネジメント』に出向した後、2006年に『日本コマーシャル投資法人』執行役員に就任し、J-REET(不動産投資信託)市場に上場。2009年に『株式会社オフィス・牧野』、及び『オラガHSC株式会社』を設立し、代表取締役に就任。2015年に『オラガ総研株式会社』を設立し、代表取締役に就任。著書に『なぜビジネスホテルは、一泊四千円でやっていけるのか』(祥伝社新書)・『2020年マンション大崩壊』(文春新書)等。


キャプチャ  2021年8月28日号掲載

テーマ : 住宅・不動産
ジャンル : ライフ

【池上彰の「そこが知りたい」】(02) 「今は学業や恋愛よりも将棋が重要な時」――藤井聡太さん(将棋棋士)

ジャーナリストの池上彰さんが各界で活躍する人と対談するシリーズ第2弾。今回登場するのは将棋棋士の藤井聡太さん(18)だ。史上最年少の14歳2ヵ月でプロ入り後、歴代最多の29連勝を達成する等、次々と記録を塗り替え、将棋界に旋風を巻き起こしてきた藤井さん。将棋界を席巻しているAIへの考え方や今後の目標について、池上さんが硬軟織り交ぜながら鋭く切り込んだ。



20210830 15
池上「新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言発令後、ひたすら研究していたそうですね」
藤井「昨年4~5月は対局がない状況が続き、スケジュールに拘束されず将棋の研究や勉強ができて、有意義な時間になりました」
池上「具体的にはどんなことをするのですか?」
藤井「将棋ソフトを使って中盤や終盤の戦い方を検討し、自分が考えた判断と照らし合わせることをやっています。パソコンの性能がいいと1秒間に読める局面の数が多くなるので、それだけ正確な判断が可能で、効率よく学習ができます。今の将棋ソフトは凄く強いですが、示す手が唯一解ということはありません。その点に留意して、自分で解釈していく必要があるかなと思います」
池上「AIの将棋ソフトが示した手が最良の手と考えがちですが、それが正しいとは限らないってことですか?」
藤井「将棋を解明するまでには至っていません。“将棋の神様”に比べると、AIもまだまだ弱いかなと思います」
池上「“将棋の神様”って何ですか?」
藤井「将棋というゲームの結論は3種類考えられます。先手勝ち、後手勝ち、引き分け(※持将棋)がありますが、“将棋の神様”というのは結論がわかっている状態です。将棋のゲームツリー(※ゲーム全体)を全て解明した状態を神様だとすれば、ソフトは未だそのレベルには遥かに遠いということだと思います」

池上「対局時は『将棋の神様だったらどう指すんだろう?』って考えるのですか?」
藤井「それは全く考えないですね。神様から見たら、あらゆる局面が3種類のどれかに分類されることになるんですけれど、流石に人間から見たら、殆どの局面で全くわからない状態ですので」
池上「ところで、今年1月に高校を辞めましたが、どうして?」
藤井「スケジュール的な面が結構大きかったですね。(最初の緊急事態宣言解除後の)昨年6月に対局が再開されてからも、中々学校に行けませんでしたし、日程的にも厳しいのかなと思っていました。将棋にしっかりと取り組んでみたいと考えていましたので、そういう決断に至りました」
池上「もうちょっと我慢したら高校卒業の資格を得られるし、将来有利になるんじゃないかなと思ってしまうのですが」
藤井「卒業することにあまり拘りがなかったですし、入学時から卒業がマストではないと思っていました。両親も自分と同じ考え方だったので、反対しませんでした」
池上「将棋の技量を上げる為には、今が大切なんだという思いがあったと」
藤井「自分にとって強くなる上でとても重要なのかなという認識がありました」
池上「生活が随分変わったのでは?」
藤井「学校に行かなくなったことは大きな変化です。その分、机(=将棋の勉強)の時間が増えますけれど、自分でコントロールしないといけないところでもあり、取り組み方が問われるなと思っています」
池上「それにしても、将棋は対局時間が長いので、集中力や体力を使って大変でしょう?」
藤井「長い対局ですと、自分の持ち時間が5時間とか6時間になるので、ずっと集中して考えるのは中々難しいですね。だから、重要な局面に集力のピークを持ってくるようにしています。序盤はゆっくり、中盤は凄く集中して指すような時もあります」
池上「相手によっては(藤井さんの)思考のリズムを崩そうとか乱そうとするような指し方をする棋士もいるのではないですか?」
藤井「相手の棋風によって考えが凄く合う方がいる一方で、読み筋が合わないと感じる方もいます。自分が気付いていない手を指してくるのはその度に読み直すことになるので大変ですが、それも面白いことなのかなと考えています」
池上「集中力維持の為に普段気をつけていることを教えて下さい」
藤井「意識していることはあまりないですが、生活のリズムが大きく変わらないようにしています。対局がない日は、朝7時半ぐらいには起きるようにしています。テレビは殆ど見ませんが、新聞は読みます」
池上「敢えて聞きますが、恋愛への関心が出てくる年齢ですね」
藤井「あまりないですね。棋士というのは人付き合いが少ない職業です。研究に気が向かない時はありますが、全体的には自然に将棋に関心が向いているかなと思います」

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テーマ : 将棋
ジャンル : ゲーム

【山根明のノックアウト人生相談】(124) 空手や日本拳法の道場を見学や!

Q. 息子が小学校に入り、クラスに乱暴な子がいるとかで、「強くなれる習い事をしたい」と言い出しました。ボクシング始め、柔道や空手等色々あると思いますが、喧嘩に強くなる習い事とは何でしょうか? 山根会長には数々の武勇伝があると思われますが、喧嘩に役立ったことって何でしたか? (広島県・41歳・メーカー営業)

A. 喧嘩は強くなろう思うて、なれるもんじゃありません。喧嘩が上手いいうのは、持って生まれた才能もある。ボクシングにしても、なんぼ教えてもあかん選手もおるね。ところが、練習はあんまりしていないけど、上手いボクサーもおる。僕が喧嘩が強くなったのは、ガキの時分から団体行動をしなかったから。10歳からもう、一人で生きてきた人間やからな。その頃は、親は生きていますよ。だけど、表に出たら常にね、親兄弟関係なし! 男一匹で生きてきました。誰を頼ることもなしに生きてきたんでね。喧嘩をしても、負けてはならんっちゅう根性を持っていました。世の中には自分一人! 誰にも負けたらあかん! そう自分に言い聞かして生きてきましたね。だから、喧嘩のやり方も常に研究していましたよ。相手がこう来たら、どう返すかとか、喧嘩のテクニックを自分で考えていました。他人様に教えてもらいたくないですね。ボクシングは、この世を去った親父に教えてもらいましたけどね。ただね、僕の真似をせい言うたら無理なんでね。息子さんの喧嘩の腕を強くしたいいうお父さんの気持ちは、よくわかりますから。特に男親いうのは、息子の喧嘩に関して、非常に気になるもんです。僕には一人息子がいるんですけど、もうしょっちゅう喧嘩がありましてね。学校に、1ヵ月のうち10日は呼び出されたんじゃないかな。相手の親と揉めたこともありますよ。子供が、うちの息子にどつかれたと。どうも、相手側の子が喧嘩を売ったら、うちの息子に逆に殴られたという。それで父兄に謝りに行ったらね、刺青を見せつけながら物を言ってくるわけね。そういうことも沢山ありましたよ。僕が住んでいた大阪の十三は、昔はそういう方も沢山おられましたからね。だから僕は、この相談者の方の気持ちは非常によくわかる。先ずはスポーツをさせることですよ。喧嘩が強くなる前に、自信をつけさすいうことが大事です。強くなりたいなら、空手にしろ、日本拳法にしろ、何か武術を習わすとかね。やっとったら自然に自信がつきますから。これは、強制をして子供に習わすんじゃなく、自然にね。習いたくなるような雰囲気を作ることです。お父さんが道場に子供を連れて行って、やっているところを見せるとか。本人が見て、「良いな」と思ったら、そこへ子供を通わせてね。ただ、まぁ、ボクシングは止めたほうがいいね。勿論、選手は皆、真面目な、ええ子ですよ。オリンピックでは頑張ってメダルも獲ってね。山根明の愛の結晶です。ただ、今の役員連中いうのは非常に腐っとる。そういう部類になってほしくないから、ボクシングは捨てなさい!


山根明(やまね・あきら) 『日本ボクシング連盟』前会長・在日コリアン2世。1939年、大阪府生まれ。大阪商業大学ボクシング部ヘッドコーチ、大阪経済大学ボクシング部監督、シドニー五輪日本選手団ボクシング競技監督を歴任。2011年2月に日本ボクシング連盟会長に就任、2012年10月に理事会全員一致で終身会長となったが、助成金の不正流用等を理由に2018年8月8日を以て同会長・理事を辞任。著書に『男・山根 “無冠の帝王”半生記』(双葉社)。


キャプチャ  2021年9月6日号掲載

テーマ : 人生を豊かに生きる
ジャンル : 心と身体

【池上彰の「そこが知りたい」】(01) 「日本社会は“悪い部分”に目を向け過ぎ。成功事例の共有が必要だ」――進藤奈邦子氏(WHOシニアアドバイザー)

ジャーナリストの池上彰さんが各界で活躍する人と対談するシリーズが始まった。初回は、新型コロナウイルスの感染対策に各国と連携し取り組む『世界保健機関(WHO)』で、責任者として提言を纏める進藤奈邦子さん。各国の対策をどう見ているのか。ジュネーブ在住の進藤さんを、池上さんがオンラインで直撃した。



20210830 14
池上「医学を志したのは、弟さんの病気がきっかけだそうですね」
進藤「弟は15歳で脳腫瘍で亡くなりました。私は建築家に憧れ、アメリカの高校に留学していました。余命が半年と知り、帰国して看病中、弟がこう話をしました。『死が怖くなって眠れない時、医師から“検査も治療も頑張ったから、明日は良くなるよ”と言われ、眠れるようになった。僕の代わりに僕みたいな人に“明日は良くなるよ”と言ってほしいんだ』。医者は聖職で、煩悩の塊みたいな私には無理と思いましたが、弟が亡くなると言葉が重くなり、挑戦しました。最初は脳外科でしたが、当時は『何故、女が外科?』という雰囲気で、帰宅は週1~2回。ある時、難手術に成功したのですが、患者さんは社会復帰できない後遺症を負いました。後に奥さんから『収入がなくなり、子供を大学に行かせられなかった』と聞きました。人生を変えてしまったのです。“神の手”が話題になりますが、社会に戻れるようにすることが大切。疲労が限界を迎え、深刻なセクハラにも遭いました。ウイルスや細菌にも関心があり、感染症研究に変更しました」
池上「新型コロナウイルスにかかりっきりの印象があります」
進藤「突き付けられた課題は直接的な感染症だけではありません。ロックダウン中の家庭内暴力や失業等、広い視野で考える必要があります。エボラ熱やポリオ等にも対応しています」

池上「WHOに入った経緯は?」
進藤「2人目を妊娠中、WHOにいた岡部信彦先生(※現在は川崎市健康安全研究所長)の講演を聞き、関心を持ちました。産休が明け、WHOの協力センターである国立感染症研究所にお誘いいただきました。先にWHOに派遣予定だった同僚がハーバード大学に留学し、番狂わせで子供2人を連れ、(WHO本部のある)ジュネーブに来ました。着任直後の2002年から、『感染症のアウトブレイクが疑われる。明日か明後日には現地に行け』と指示されました。資金調達等の運営に携わった後、技術系トップを志願し、今の仕事に至りました。米英で研修を受けた為か、思ったことをズバズバ言うタイプでした。言い方に注意しないと人種差別になったりするので、ディプロマティック(※外交辞令的)に話さなければいけません。気遣いが大切です」
池上「日本は国連への拠出金は大きいのに、職員が少ないですね」
進藤「特に管理職以上が少ないです。日本の優秀な人は国内で良いポジションを得られるので、厳しい環境で戦う必要がありません。国連職員は自信を持ち、競争も激しい。型破りな人が頑張るケースもありますが、国としてそういう人を応援しているかというと、そうでもないです」
池上「WHOの事務局長になろうと思いませんか?」
進藤「トップには政治力が必要で、官僚や政治家を経験した人の仕事と思います。人間は首を切ると死にますが、WHOという組織は頭が代わっても、骨格が組織を支えている。私は骨格の一部だと思っています。トップになることが幸せかというと、違うかなと感じます」
池上「昨年3月11日、新型コロナウイルスがパンデミックに位置付けられた対応で、WHOは『中国に配慮して遅れた』と批判されました」
進藤「WHOが中国寄りというより、『中国は凄い』と言いたい。初の感染者の報告から凡そ1週間後に、ウイルスの遺伝子解析結果を提供しました。それを機に世界中で診断可能になりました。国民一人ひとりに番号が振られ、感染を追跡しています。2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)で対応に遅れ、私たちと20年間、努力を重ねました。彼らは知らないことを恥ずかしがるより、学びたいという気持ちが強い。2009年の新型インフルエンザ流行時、上海の1病院に人工心肺装置(ECMO)が40台もありました。イギリス全体で10台あるかないかの時にです。自分の国ならどう対応するか、各国は検証する必要があります」
池上「中国にそのような印象はありませんでした。当局の公表前に警鐘を鳴らした武漢の医師が処分されました。隠蔽体質も残るのではないですか?」
進藤「最初は混乱があり、中国も情報の出し方に慎重で不幸な面はあったのでしょう。ただ、情報を早く開示し、素晴らしい論文を発表しています。韓国の成長も目覚ましい。2015年に中東呼吸器症候群(MERS)で大きな被害を受け、感染症システムを徹底的に変えました。欧米は、過去の感染症を対岸の火事とみていたと思います。その姿勢に警鐘を鳴らそうと、WHOや世界銀行が中心となり、2018年に世界健康危機モニタリング委員会を設立しました。感染症を政治課題として提言することが目的でしたが、世界を動かすには至りませんでした」

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テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体

【中小企業のリアル】(38) 日本コンピュータ開発(東京都品川区)――“良き社員育成”が企業を延ばす



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常々「中小企業の社長は教育者だ」と感じているが、筆者が最良の教育者と尊敬しているのが、「当社の常識は一般企業の非常識」と公言し、「いつ倒産してもよい経営」を目指しているIT技術者集団『日本コンピュータ開発』の高瀬拓士会長だ。高瀬会長の人生は波乱万丈だ。1939年、大分県豊後大野市の山奥、24戸しかない集落の農家で11人兄弟の10番目の子(※三男)として生まれた。敗戦の翌年に小学校に入学したが、学生服もランドセルも買ってもらえず、姉が作った藁草履を素足に履き、ごつごつした山道を1時間近く歩いて通学した。中学時代、大学進学を夢見て進学高校を目指そうとしたら、10歳上の兄に「うちは貧乏なんだから、職業高校へ行き、早く就職して自分で食っていけ!」と怒られた。「それなら大分工業高校に行け。あそこの卒業生はどこの大手企業も喜んで採用してくれるぞ」と教師に励まされ、進学先を決めた。徒歩と汽車で毎日、片道2時間かけて通学した。就職は、更に勉強できる機会を期待して東京へ。日本を代表する大企業のH社を受験した。高卒男子の採用は全国で40人という狭き門で、九州からの合格は僅か2人だった。配属されたのはコンピュータ開発部門。先輩も同期も東大、東工大、九大等有名大学出身者ばかりで、ただ一人の高卒。コンピュータに関する文献も碌にない時代だったが、周囲に負けないよう必死で勉強した。幸運なことに1年後、H社が大学レベルの教育を行なう為に開校した工業専門学院に合格し、給料を貰いながら毎日8時間、仕事の代わりに勉強できることになった。残業続きで受験勉強の時間が全く取れず、入試答案は不満足なものだったが、「部門長が押し込んでくれたのだろう」と思い、期待を裏切らないように必死で勉強した。

卒業する時には、新たに設けられた研究科に進学できる2人に選ばれ、東京大学工学部研究生として著名教授の指導を受けることができた。「貧しさから進学を諦め、就職しては学歴差に打ちのめされ、悪戦苦闘していたが、素晴らしい機会を与えられた」と高瀬会長は述懐する。研究生活を終えてコンピュータ開発部門に復帰したが、30歳の時、購買課長の技術サポート役でアメリカ出張を命じられた。初めて見るアメリカは驚きの連続だった。ボストンは雪で真っ白なのに、フロリダではビキニ姿の女性が泳いでいる。ダラスで訪問した工場の門番はテキサスハットで腰に拳銃。フェニックスのレストランは巨大サボテンが林立する砂漠の中にあり、巨大なステーキはとても食べきれない――。この時の体験から、日本コンピュータ開発では毎年2回、数人ずつ、約2週間の社員アメリカ体験旅行を実施している。ガイドも運転手も高瀬会長だ。1972年、32歳の時、京都の取引先で不況に苦しんでいた電子部品製造会社に工場長として支援に行くことになった。その会社の社長に「資金援助ではなく、是非とも高瀬さんを譲ってほしい」と言われ、「義をみてせざるは勇なきなり」と転職した。しかし、倒産寸前の会社には社員の不満が充満し、助け合う雰囲気は微塵もない。H社からの“天下り工場長”は、役員会では常に非難の集中砲火を浴びる。大企業は組織の力で仕事をするが、中小企業は人と人との繋がりや信頼が第一とわかり、従業員一人ひとりと話し合い、力を合わせて問題解決にあたるうち、その後4年間で生産性は10倍になり、 会社は見事に立ち直った。1979年には次なる課題に直面する。社長がアメリカ進出を考え、その担当者として渡米を命じられたのだ。「知識も経験も語学力もない私が何故?」と聞くと、「当社製品の使い方と製造の両方わかる者は君以外にいない」という。そして、「教育レベルが高く、日本人が少なく、先入観のない」ミネソタに行くことになった。渡米早々から、会社の設立、顧客開拓、輸入販売、工場建設、製品開発等次々と挑戦。通算6年間の滞在で、110人余りのアメリカ人を採用する優良企業に育て上げた。間もなく帰国し、本社社長に就任する予定だった1987年、新たな転機が訪れた。H社の孫会社、日本コンピュータ開発の社長を務める古巣の先輩が病に倒れ、会社を委ねたいとの遺言状を見せられたのだ。設立2年半、社員30名余りという未熟な会社だったが、社会人としての基礎を育ててくれたH社や、世話になった先輩に少しでも恩返しをしたいとの思いから、経営を引き受けることにした。48歳の運命の転職だった。1987年10月、帰国した高瀬会長が目にしたのは、お金に群がり浮かれている日本の姿だった。企業は最強の社会人教育機関でもある。日本の企業は間違っている。アメリカの価値観を真似るのではなく、日本文化に基づく日本企業の在り方がある筈だ。

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テーマ : 経済
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【Global Economy】(246) 中国、“勝ち組”IT叩き…格差不満封じ、一党支配を強化

中国共産党・政府が自国IT企業への締め付けを強めている。データの国外流出への懸念に加え、経営難の中小企業や格差拡大に対する国民の不満を逸らし、自らの支配体制の維持・強化に繋げようとする狙いが透ける。過度な統制は経済成長の芽を摘む危うさをはらむ。 (中国総局 小川直樹)



20210830 08
中国のIT企業が多数上場する香港株式市場の動揺が収まらない。代表的な株価指数であるハンセン指数の今月20日の終値は、節目の2万5000を割り込み、16~20日の週間の下げ幅は6%に迫った。中国でコロナ禍が深刻だった昨年3月以来の大幅な値下がりとなり、今年2月の高値から20%超下落した。有力IT関連銘柄で構成するハンセンテック指数に至っては、2月の高値からの下げ幅が50%に迫る(※①)。IT業界等への新たな規制導入に対する警戒感が背景にある。電子決済サービス『アリペイ』を手がける『アントグループ』を昨年11月に上場延期に追い込んで以来、共産党・政府はITサービス基盤を提供するプラットフォーム企業への統制強化を矢継ぎ早に打ち出した(※②)。『アリババ集団』・『テンセント』・『美団』・『滴滴出行(ディディチューシン)』等IT大手が、次々と罰金や調査の対象となった(※③)。市場の動揺に拍車をかけたのが、先月の学習塾への規制強化だ。学習塾に、非営利組織への転換を求める等強権的な内容だった。共産党・政府が、たった一つの意見文書だけで業界の存続すら危ぶまれる事態に追い込めることが、白日の下に晒された。投資家は次の標的となる業界を“物色”するようになり、官製メディアが批判的な記事を掲載したオンラインゲームやオンライン診療等の関連株が売り込まれる展開となっている。

20210830 09
アメリカの金融大手『ゴールドマンサックス』は先月のリポートで、中国株の投資家との会話で“投資不可能”という言葉が出るようになったと記した。『ソフトバンクグループ』の孫正義会長兼社長は今月10日の記者会見で、中国企業への投資について、「様々な規制が始まっている。株式市場にどのような影響を与えるか、もう少し様子をみたい」と述べた。何故、中国は虎の子のIT企業を傷付けるのか。3つの理由が考えられる。第一に、独占の弊害やデータ流出懸念への対応を迫られたことだ。例えば、アリババは自ら運営するインターネット通販サイトの出店業者に対し、競合他社のサイトに出店しないよう“二者択一”を強いた。要求に応じなければ販促活動に参加させなかったり、検索表示順位を下げたりする等、市場における支配的地位を乱用した。中国経済をリードするIT業界は、発展が優先され、独占禁止法上の問題が問われてこなかったが、利用者の不満の声に乗じて、政治的に最適なタイミングで 鉄槌を下したとみられる。配車アプリの滴滴は、関連当局がデータセキュリティーの観点から懸念を示していたにも拘わらず、6月末にアメリカ市場への上場を強行したと伝えられる。共産党・政府は先月、滴滴に安全保障上の審査に入った後、国境を越えたデータ移動等に関する法規を整える方針を示した。アメリカ上場企業を通じたデータの国外流出に対する当局の強い懸念が読み取れる。第二に、貧富の格差の縮小を目指す“共同富裕”との関係だ。習近平総書記(※国家主席)は今月17日に開かれた共産党中央財経委員会で、「共同富裕は社会主義の本質的要求だ」と述べた。国営の『新華社通信』は、この配信記事の中で「共同富裕を人民の幸福を図る力点とし、党の長期執政の基礎を絶えず固めなければならない」と伝える等、共同富裕に16回も言及した。『国際経済研究所』の伊藤信悟主席研究員は、「共同富裕に向けた着実な歩みを示す必要があり、その一つとして一連の規制も位置付けられる」と指摘する。

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【儲かる農業2021】(10) “特権階級”のコメ農家に野菜農家からの非難集中



20210830 06
本誌編集部は独自調査で、農家自身に“一番改めるべきことが多い農家”を聞いた。すると、65%の農家がコメ農家を槍玉に挙げた。実は、コメ農家とその他の農家は従来、経営マインドの格差等から長らく冷戦状態にあった。だが近年、コメ農家の補助金依存ぶりに、野菜農家等が我慢の限界に達しているようなのだ。コメ農家にあって、コメ以外を栽培する農家にない特徴とは何か――。それは、我田引水の政治力だ。コメ農家は戦後の農地解放で小規模化した上に、農作業の機械化で作業負担が軽減され、兼業化が進んだ。プロ農家ではないので、コメの販売は農協に任せがちになる。農協はコメ農家を票田にして米価運動を展開。農産物の中でコメだけが聖域化され、コメ農家は“特権階級”になった。1995年に食糧管理法が廃止され、コメ流通が自由化されても、政府は北朝鮮に援助米を送ったり、備蓄米として買い上げたりして米価を下支えした。近年は流石に露骨な余剰米処理は控えているが、主食用米から他の作物への転作を促すことをお題目に、毎年3000億円超の予算を投じて米価を高値に誘導してきた。だが、補助金による価格操作も愈々限界を迎えた。コメの国内需要は高齢化等で、毎年10万トン以上減るという壊滅的な状況だ。その減少に合わせて生産量を減らすのは、主食用米を作りたい農家が多い実態からも、転作助成金の財政負担が膨大になることからも無理があった。

そして昨年、コメがだぶついていたところにコロナ禍が追い打ちをかけた。米価は1俵(=60㎏)1万円を切る水準にまで暴落している(※一部の相対取引)。需要激減という現実から目を背けて、転作による米価維持を漫然と続ける“消費者不在”の政府介入のツケを払わされることになった。縮小均衡に陥ったコメ政策に、農協関係者からも異論が出てきた。『JA秋田ふるさと』前組合長の小田嶋契氏は「コメが抱える課題は、コメだけを特別扱いしてきたことに起因している」と喝破した上で、「売り先を持っていないのに作ってしまい、売り切れなかったから(政府や農協に)何とかしてくれという声に(コメ業界のプレイヤーが)振り回されている」と嘆く。コメの生産調整が事実上続いていることにも疑問を呈する。「(減反は)売り先がある人の生産を抑制するような行為で、これが続けば、伸びしろがある農家の成長の芽も摘んでしまう」と懸念する。ところが、本誌編集部の担い手農家アンケートに回答する有力農家ですら、コメ政策の見直しには慎重な姿勢だ。右上図は、政府による余剰米処理に4割の農家が賛成していることを示している。余剰米処理に賛成した農家の過半は、野菜等を作る、コメ農家以外の農家だ。というのも、「米価が下がるとコメ農家が補助金を使って野菜を作り、野菜価格の暴落を招く」(ある野菜農家)ことを警戒しているからだ。既に野菜農家は“実害”を被っている。コメ農家が補助金頼みでキャベツ、枝豆、玉葱を増産したせいで値崩れを起こし、それらが“儲からない作物”になってしまったのだ。しかも足元で、この傾向に拍車を掛けそうな政府の問題事業が“人気”を博している。その事業の名は『端境期等対策産地育成事業』という。農協や農業法人が5㏊以上といった広い農地で玉葱等指定された野菜を作る場合に、10a当たり15万円もの補助金をばらまく。その対象は事実上、水田なので、園芸振興の衣を纏った転作奨励金と言える。“10a当たり15万円”という補助水準は、60㎏当たり数百円というタダのような価格で取引される飼料用米への補助金の1.5倍に当たる。極端に言えば、野菜農家は、コメ農家が作る、叩き売っても痛くない野菜との価格競争を強いられることになるのだ。

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テーマ : 農業
ジャンル : 政治・経済

【絶望センセイ奮闘中】(03) 信頼されない教師、止まらない悪循環…“公立離れ”を招いたオンライン授業格差

コロナ禍でのオンライン授業対応で、公立学校と私立学校に格差が生まれた。保護者からは公立に「もう期待しない」との声も。“教師が信頼されない”ことは、クライシスの悪循環を生み出す。 (教育研究家 妹尾昌俊)



20210830 05
新型コロナウイルス感染拡大の影響で全国一斉休校が決まった昨春、多くの校長や教師は卒業式をどうするか、通知表をどう渡すかに腐心した。しかし、卒業式は卒業生と教職員のみ出席とする等開催方法の工夫はできるし、通知表は直ぐに出さなくたっていい。そんなことよりもっと深刻な問題である“休校中の学びをどうするか”について、彼らは知恵を絞るべきだった。多くの学校が共通して行なったのは“プリント爆弾”。大量の宿題プリントや紙のドリルを配って、「家庭でやっておいて下さい」と告げた。大量の家庭学習を前に「お子さんの面倒を見てあげて下さい」と学校から言われて、悲鳴を上げる保護者が続出した。「学校は保護者の大変さを理解していない」「学校は閉めて、プリントを渡して後はおうちで宜しくって、勉強は家庭に丸投げですか」という声が多数上がった。文部科学省が昨年6月に全国の教育委員会を調査したところ、休校中の公立学校においてオンラインで双方向性のある授業等ができた自治体は、小学校で約8%、中学校で約10%、高校で約47%だった。これは回答した設置者である教育委員会の割合であり、該当する学校が自治体内に1校でもある場合はイエスと答えている可能性がある。学校を単位にして実際の実施率を測ると、もっと低い可能性が高い。休校から2ヵ月、3ヵ月が経っていたにも拘わらず、多くの公立学校は有効な手だてを講じることなく、フリーズ状態だったのである。対して、私立学校は徐々に対応が進んだ。『首都圏模試センター』が昨年6月中旬に首都圏の私立中学校・高校を対象に実施したアンケート調査(※112校回答)によると、授業やホームルームへのオンライン活用を開始した時期は、3月中が17.9%、4月中が51.8%、5月中が28.6%。調査時点で開始していないところはゼロだった。

限られた地域・学校の回答なので、全国的な状況まではわからないが、私立学校は高い授業料を受け取っていることもあり、オンラインでの授業をやらないという選択肢はなかったのだろう。公立で見事なオンライン授業をやってみせた学校もあるが、総じてオンライン授業で公立と私立の間に格差が生じた。結果、動きの鈍い公立に見切りを付けたのか、「もう公立学校には期待しない」という保護者、児童・生徒が増えているようだ。2つの側面からそう示唆されている。一つとして、不十分だった学校の対応を学習塾やオンライン講座等で補った家庭がかなりあった。昨年7月下旬に実施された小学校高学年~中学生の保護者向けのアンケート調査(※『POPER』実施)によると、学習塾の85%は同年4月までにオンライン授業を導入していた。緊急事態宣言発令下における対応の満足度を保護者に尋ねた質問では、「学校のほうが良い」と答えた人が12.0%だったのに対して、「学習塾のほうが良い」という回答は88.0%に上った。学校と塾では機能、役割が違い、対象としている子供たちの家庭環境等も異なるので、一概に比べることはフェアではない。とはいえ、休校中に多くの公立学校が主体的に動けなかったのに対して、学習塾の多くは対照的だった。もう一つは、中学校や高校で私立に流れる動きである。大手進学塾の『日能研』によると、今年の1都3県の私立中学校の受験率は20.8%で、過去二番目に高い水準だった。教育関係者たちは、オンライン授業等で素早く緊急時の対応を取ることができた学校の人気が高まっていると分析している。伝統的に公立が強いと言われてきた愛知県でも、2020年度中学校卒業見込みの生徒の希望(※昨年9月時点)として、私立高校が13.1%増となったのに対して、県立高校は6.8%減となった(※対象は同県内の全日制高校)。勿論、高校進学には様々な要素が絡んでおり、私立高校でも国の支援により授業料が実質無償化(※所得制限あり)された影響も大きいだろう。コロナ禍での公立学校のパフォーマンスの悪さが直接に影響していると断定はできない。とはいえ、このままでは私立人気は年々強まっていく可能性を否定できない。“炭鉱のカナリア”という言葉がある。昔、欧米の炭鉱作業員はカナリアを入れた籠を先頭にして炭鉱を進んだ。若し炭鉱内に人間が感知できない有毒ガスが蔓延してい る場合、カナリアの歌声は止まり、そのことで危険を察知できるからだ。私立志向が強まるのは、「このままでは公立学校は見限られるぞ」「公立離れが起きるぞ」という“炭鉱のカナリア”であろう。筆者が昨年5月に保護者向けに実施したアンケートは、些かショッキングな結果になった。「休校中の学校からのコミュニケーションや働き掛けが少なく(※又は満足できるものではなく)、信頼感が下がったかどうか」を聞いたところ、公立小の保護者の50%、公立中の保護者の56%が「信頼感が下がった」と回答。対して、国立・私立の小中で「信頼感が下がった」と回答したのは23%。公立と国立・私立でかなり差が出たのである。学校毎の対応の差が、保護者の不信という結果に表れた格好だ。保護者も児童・生徒も社会も、休校中の学校にそう多くのことを期待したわけではなかっただろう。小学生の親であれば、せめてもっと教師から宿題の趣旨や意味を説明してほしかったり、小中学生や高校生であれば、他の児童・生徒とオンライン上等でちょっとでも交流したかったりということだろう。何も凄く質の高い授業動画を沢山配信してほしいといった願いではなかっただろう。

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テーマ : 教育問題
ジャンル : ニュース

【定年制度終了のお知らせ】(25) コロナ禍で需要動向に変化の兆し…即戦力人材は引く手数多

20210830 04
70歳まで現役で働きたいと考える中高年にとって、会社を飛び出し、転職するのも選択肢の一つだ。では、中高年の転職事情は今、どうなっているのか。一般的に中高年になると、転職のハードルは上がる。『エンジャパン』が運営する転職サイト『ミドルの転職』では、55歳以上は登録者全体の5%前後に過ぎないという。「55歳以上の転職は年収が下がるケースが多い。その為、特に大手企業では、これまで年収を下げてまで転職に踏み切る50代の人は少なかった」と、同サイトの天野博文事業部長は語る。従来の55歳以上の転職といえば、建設業の施工管理や製造業の品質・生産管理、中小企業の経営層等、特定の業務や役割に限られてきた。但し、コロナ禍前には55歳以上の人材ニーズに増加の兆しも見られた。2019年にエンジャパンが実施した転職コンサルタントを対象としたアンケート調査では、50歳以上の求人について、約8割が「増えている」「どちらかといえば増えている」と回答。求人が増えている企業タイプについては、「中小企業」との回答が約8割を占めた。また、50歳以上で企業が求める人材の特徴については、「高い専門性」や「即戦力」等の回答が目立った(※右図)。

特に、中小企業では人手不足が深刻化。若手の労働力では補充できず、専門性を持った即戦力の中高年への需要が高まりつつあった。コロナ禍以降、そうした中高年の転職市場には更なる変化の動きが生じている。『パーソルキャリア』が運営する転職サービス『doda』の喜多恭子編集長は、「コロナ禍で求人の中身が変わってきた」と指摘する。「以前は中小企業においても未経験者を採用して育てようとしていた。しかし、コロナ禍以降、そうした余裕がなくなっている。逆に上昇したのが即戦力人材のニーズ。55歳以上の転職志望者にはチャンスと言える」(喜多氏)。尤も、採用意欲は業種によって分かれる。観光や飲食等コロナ禍が直撃した業種は、業績悪化で採用には及び腰だ。一方、「小売りや物流、IT、メディア、コンサルティング、金融等の業界では、特にデジタル化に対応できる即戦力の求人が増えている」(同)。コロナ禍の影響もあり、今ではDX(※デジタルトランスフォーメーション)の必要性が嘗てないほどに叫ばれている。DXを推進できる人材は引く手数多である。IT業界経験者やエンジニア等の需要が強いばかりではない。アナログ業種であっても、一足先にデジタル化を進めた経験があれば引き合いは強いという。「DXといっても各業界に独自慣習があり、それがわからないと難しい。日系企業でDXを進めた経験があれば、中高年人材でもニーズは強い」と喜多氏は語る。中高年人材を斡旋する『パソナマスターズ』の中田光佐子社長は、「定年後も働きたいという中高年は大勢いる。未だその転職市場は小さいが、企業側の求人需要を掘り起こせば、市場は広がっていく筈だ」と語る。 (取材・文/フリージャーナリスト 吉田典史)


キャプチャ  2020年10月17日号掲載

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