【INSIDE USA】(102) 日本を巻き込んで進むバイデン政権のサイバー攻撃対策
大統領の就任初年度には、あらゆる政策課題が“最優先”のように打ち出されるものだ。そして真の優先課題は、時間の経過と共に自ずと明らかになってくる。就任から7ヵ月、ジョー・バイデン大統領はある政策課題に対し、明らかに高い優先順位を与えているように見える。サイバー防衛能力の大幅な増強だ。バイデン流の“同盟重視”に野心的な官民協力を組み合わせることで、広範且つ大胆な戦略を推し進めようとしている。費用がかかり、成功も難しい戦略だが、そうした中でも日本の政府と企業は重要なパートナー役を務めることになりそうだ。今年5月にアメリカ東部のガソリン供給の半分を担う石油パイプラインが、ランサムウェア(※身代金要求型ウイルス)攻撃で停止するという大事件が発生する以前から、バイデン政権はサイバーセキュリティー強化に向けた長大な大統領令を準備していた。そこで列挙された課題は多岐に亘る。サイバー攻撃に関する情報共有の壁を取り除く、重大事案の調査と対策の検討を進めるサイバー安全審査委員会を設置する、ハッカー侵入後も内部データを保護できるよう暗号化対策等を厳しくしたゼロトラストアーキテクチャーの利用を政府内で広げる――といった対応を明確な期限付きで求めた。安全審査委員会は、航空事故等を扱う『国家運輸安全委員会(NTSB)』がモデルになっている。サイバー攻撃対策を打ち出した大統領はバイデン氏が初めてではない。が、脅威は猛烈に拡大し、嘗てない対策が求められるようになっている。2020年に世界で報告されたランサムウェア攻撃は、前年の5.85倍に急増。サイバー犯罪が世界に与える損失は今年、6兆ドルに達すると予測される。対策が急がれる所以だ。
過去の政権と比べ、民間への要求が厳しくなっているのも、バイデン政権の特徴と言える。順守すべき基準を引き上げ、新たなシステム投資を迫る。重要インフラ企業における対策は、バイデン氏が先月署名した国家安全保障に関する覚書にも盛られた。国土安全保障省は同月、一部のパイプライン企業にシステムの刷新を命じた。バイデン大統領の対策には外交政策としての側面もある。ロシアや中国は金目当ての犯罪組織を匿うばかりか、サイバー空間で国家ぐるみのスパイ活動を繰り広げるようになっている。中国やロシア、北朝鮮による国家的なサイバー攻撃は、民主主義陣営の経済と安全に深刻な影響を及ぼしかねない。アメリカと『北大西洋条約機構(NATO)』加盟国、日本等は先月、『マイクロソフト』に対する中国のサイバー攻撃を一斉に非難。日本の警察庁も最近、『宇宙航空研究開発機構(JAXA)』等が受けた攻撃について、中国の国家的関与を日本として初めて公に名指しした。サイバー攻撃対策は、日米の同盟関係の中でも優先度の高い共通課題となりつつある。尤も、日米ではルールや手続きが異なる為、二国間協力を効果的に進めるのは容易ではない。それでも、第三国におけるサイバー防衛能力の構築等では共同作業が既に開始されている。また、日米両政府には被害の情報共有、ハッカー特定手法の改善、暗号通貨による資金洗浄対策の強化でも協力の動きが見られる。何れも日米の集団安全保障、そして未来の繁栄に向けた重要な投資となるだろう。
ジェームズ・ショフ(James Schoff) 『カーネギー国際平和財団』上席研究員。1966年生まれ。バラク・オバマ政権下の2010~2012年に国防総省東アジア政策上級顧問。専門は日米関係、東アジアの安全保障。
2021年8月28日号掲載
過去の政権と比べ、民間への要求が厳しくなっているのも、バイデン政権の特徴と言える。順守すべき基準を引き上げ、新たなシステム投資を迫る。重要インフラ企業における対策は、バイデン氏が先月署名した国家安全保障に関する覚書にも盛られた。国土安全保障省は同月、一部のパイプライン企業にシステムの刷新を命じた。バイデン大統領の対策には外交政策としての側面もある。ロシアや中国は金目当ての犯罪組織を匿うばかりか、サイバー空間で国家ぐるみのスパイ活動を繰り広げるようになっている。中国やロシア、北朝鮮による国家的なサイバー攻撃は、民主主義陣営の経済と安全に深刻な影響を及ぼしかねない。アメリカと『北大西洋条約機構(NATO)』加盟国、日本等は先月、『マイクロソフト』に対する中国のサイバー攻撃を一斉に非難。日本の警察庁も最近、『宇宙航空研究開発機構(JAXA)』等が受けた攻撃について、中国の国家的関与を日本として初めて公に名指しした。サイバー攻撃対策は、日米の同盟関係の中でも優先度の高い共通課題となりつつある。尤も、日米ではルールや手続きが異なる為、二国間協力を効果的に進めるのは容易ではない。それでも、第三国におけるサイバー防衛能力の構築等では共同作業が既に開始されている。また、日米両政府には被害の情報共有、ハッカー特定手法の改善、暗号通貨による資金洗浄対策の強化でも協力の動きが見られる。何れも日米の集団安全保障、そして未来の繁栄に向けた重要な投資となるだろう。
ジェームズ・ショフ(James Schoff) 『カーネギー国際平和財団』上席研究員。1966年生まれ。バラク・オバマ政権下の2010~2012年に国防総省東アジア政策上級顧問。専門は日米関係、東アジアの安全保障。
