【衆院選2021・私の主張】(05) コロナ禍の“次”へ今から備え――具芳明氏(東京医科歯科大学病院感染症内科長)

新型コロナウイルスの感染が急速に拡大した第五波では、行政から随時、病床確保の要請がきていた。中等症患者用の病棟を1棟から2棟に増やし、重症者用と合わせて61床を用意した。別の病気で入院中の患者がいる。スタッフ配置の調整も必要だ。病床をタイミングよく増やすのはどうにも難しい。ピーク時は受け入れを断らざるを得ない状況が毎日のように続いた。入院すべき患者が自宅で待機しているのは、医師として耐え難いものがあった。第五波の経験を踏まえ、より円滑に病床を増やす手法が必要となる。病院の努力に委ねるのでなく、政府と自治体で協力し、施策を検討すべきだ。ワクチン接種は随分進んだが、スタートは諸外国より遅れ気味だった。第五波を抑えるには、もう少し早く始められたらよかった。治療薬等も含め、迅速に行き渡らせる仕組み作りは政府が取り組むべき課題だ。衆院選で各党が新型コロナウイルス対策を中心的なテーマとしているが、感染症の専門家としては中長期的な視点で施策を考えてほしい。今は感染症といえば新型コロナウイルスだが、ワクチンや様々な薬の開発等、少しずつ明るい話題が増えてきており、先を見据える必要がある。2009年にも新型インフルエンザのパンデミックが起きた。パンデミックが10年、20年の間隔で起きる可能性を、専門家は指摘し続けている。コロナ禍で明らかになった課題を見つめ、いつ起きるかわからない“次”に対して、中長期的な視点で医療システムを整備していくことが求められる。“喉元過ぎれば熱さを忘れる”という事態があってはならない。 =おわり

【衆院選2021・私の主張】(04) 誰もが再起できる社会に――川口加奈氏(NPO法人『Homedoor』理事長)

大阪でホームレスや生活に困窮した人の支援を続けており、新型コロナウイルスの影響で仕事や住居を失った等として、昨年は一昨年比で1.5倍の相談が寄せられた。若い人や女性からの相談も少なくない。誰もが経済的に厳しい立場になり得るという現実が浮き彫りになった。一方で、行政の支援の“網の目”からこぼれ落ちるホームレスも多く目にしてきた。コロナ禍対策として1人当たり一律10万円が支給された国の特別定額給付金では、住居の定まらないホームレスらに届かず、支援団体が声を上げる事態もあった。今日、明日の暮らしに困窮している人を中長期的に支援するには、生活保護が有効だ。ただ、要件を満たさないとして何度も給付を断られ、相談に来る人もいる。どうしても家族に頼れない等、様々な事情を抱える人の社会復帰に向けた最後の砦として、柔軟な対応が求められる。生活の基盤となる住居の提供の在り方も、見直す必要がある。自治体が用意するホームレス向けの一時宿泊施設(※シェルター)は複数人での共同生活が基本で、個人の尊厳を維持できないとして利用を控える人が多い。誰もが安心して使える1人1部屋のシェルターの必要性は高まっている。たとえ困窮した状況に置かれたとしても、誰もが再起できるような社会にどうしたら近付くのか。選挙戦での訴えに注目したい。

【衆院選2021・私の主張】(03) 若い世代に伝わる政治を――能條桃子氏(『NO YOUTH NO JAPAN』代表理事)

今、話題となっている選択的夫婦別姓や同性婚は若い世代から賛成意見をよく聞くのに、中々実現しない。これから当事者になる世代の意見が政策に反映されないのは、もどかしく感じる。人によって選挙に行く理由は皆別々でいい。若い世代の投票率が低いと、投票に行く他の世代の声がどうしても優先される。これが続けば、若い世代には不利のままになりかねない。私が政治に興味を持ったのは、2017年の衆院選で候補者の事務所のインターンシップに参加したことがきっかけだった。候補者が行なう選挙活動の中で若い世代と接する機会がなく、これが政治に声が届いていない理由だと感じたからだ。若者の政治参加の課題について考え始めた時に、デンマークで若い世代の投票率が80%を超えていることに関心を持って、留学先に選んだ。現地では日常で政治の話題が出る等、若い世代と政治との距離が日本より遥かに近く、政治を自分事として捉える土壌があった。小学校でも選挙の候補者にインタビューする宿題があり、政治家は自分たちの代表であることを幼い頃から自覚できていた。日本でも義務教育の段階から政治参加の意識を育む工夫が必要だ。政党側からのアプローチにも大きな差がある。デンマークでは各政党が政策をグラフや表で視覚的に示し、若い世代一人ひとりが各政党の政策の違いを説明できるほどに理解を深めている光景があった。日本の各政党にも、課題を読み解いて伝わり易く説明する努力を求めたい。

【衆院選2021・私の主張】(02) 心潤す芸術、支援を迅速に――吉田智誉樹氏(『劇団四季』社長)

新型コロナウイルスの感染防止策として、劇場や映画館の営業休止や入場者数の制限を要請された時は大きな衝撃を受けた。劇場に人を集めて楽しんでもらうことが醍醐味なのに、演劇等が“不要不急”と言われた時は悲しかった。演劇や映画を楽しむ時間がないと、人の心は病む。文化芸術の役割は魂を遊ばせ、明日を生きる糧となる一時を提供することだ。定量的な効果は計れない。しかし、文化芸術は生活に必要不可欠だという価値の再定義がコロナ禍であったかもしれないと感じる。『劇団四季』の昨年度の公演回数は約2分の1、収益は1953年の劇団設立以来の大幅な赤字だった。緊急事態宣言の解除後もなお、チケット販売枚数はコロナ禍前の5割程度だ。今後の上演への影響も見通せない状況にある。断続的に強い要請があった場合の組織の生き残り期間を、昨年の感染拡大が始まったころにシミュレーションした。資産状況等を基に凡そ2年間は経営が持つだろうと見通したが、その2年が経とうとしている。未だ赤字は続いており、感染抑制と文化芸術活動の継続を両立できる政策を期待したい。劇団四季は入場時の検温、施設内の消毒等を徹底し、客席内でクラスターは起きていない。休業や入場制限等強い要請の際には、感染抑制にどれほど効果があるのか、根拠を示してほしい。要請する場合は引き続き経済的な支援も必要になる。公演費用を賄うのが難しい劇場も少なくない。国には補助金の審査や支払いのスピードアップを求めたい。文化芸術を生活の基盤にする人は大勢いる。業界への影響を最小限に抑えつつ、感染防止策を講じるにはどうすべきか。衆院選の候補者には、議論をより深めてほしい。

【衆院選2021・私の主張】(01) 不登校対策、共有で実効性――今村久美氏(NPO法人『カタリバ』代表理事)

子供の不登校が増えている。文部科学省の調査では、昨年度に小中学校で19万人を超え、過去最多を更新した。新型コロナウイルスへの不安も影響したとされるが、実際には不登校になる理由は様々だ。学ぶ機会を失った子供たちへの学習支援を通じ、背景は単純ではないと感じてきた。学校では標準化された学習内容を一斉授業で学ぶ。校則に疑問を抱くことも許されず、行動や態度を周囲に合わせるよう指導している学校は多い。不登校は、そうした学校の同調圧力に対する悲鳴とも言えるのではないか。子供が登校を渋り始めると、親は「何とかしなければ」と苦しい状況を孤独に抱え込んでしまうことがある。周囲の目を気にして学校等に相談できない人は多い。ひとり置いて家を出るわけにはいかず、子供の為に仕事を転々と変えるうちに生活が苦しくなる人もいる。不登校対策の予算は自治体間の格差が大きく、無駄もある。財源等の問題から、全く手を打っていない地域も多い。例えばデジタル技術を活用し、自治体間で人的な支援リソースや子供の特性に応じた効果的な支援施策のデータ等を蓄積、共有していけば、効果的な対策を講じられるだろう。政府が創設を目指すこども庁が中心となり、こうした仕組み作りを推進してほしい。今では1人1台の学習用端末が配備され、学びの進み具合等も確認し易くなった。憲法26条は、国民が「能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と明記する。理念を本気で実現しようとしているか、衆院選の論戦を見極めたい。
