【ソニーの現在地】(13) 時価総額はソニーの4分の1! パナソニックの“失敗の分岐点”

先月24日に大阪で開催された『パナソニック』の株主総会で、株主からは業績と株価の低迷に対する批判の声が出た。「ソニーは過去最高益を出しているのに、パナソニックは30年前と売上高が変わっていない」という株主からの指摘に対し、津賀一宏社長(※現会長)は「お客様へのお役立ちを絶えず新しい形に拡大している」と現状を説明しつつ、「株価に反映されるのには時間がかかる」と弁明した。パナソニックと『ソニーグループ』の現在の事業領域は、一部のAV機器を除いてほぼ重ならない。だが、嘗ては総合電機メーカーとしてテレビや録画機等でライバル視され、共にテレビ事業を元凶とする業績不振に陥った。時価総額も同程度だった。それが、平井一夫前社長によるソニーの構造改革が実を結び始めた2015年頃からソニーの時価総額がパナソニックを上回るようになり、2021年現在のソニーの時価総額は約14兆円。パナソニックの4倍以上と大差がついている(※左図)。ソニーが見事復活を果たした一方で、何故パナソニックは未だに旧態依然のままなのか。その“運命の分かれ道”はどこにあったのだろうか。実は、リーマンショックで業績が落ち込んだ大手電機メーカーの中でも逸早く業績を回復させたのがパナソニックだった。2011、2012年度と2期連続で7000億円超の巨額赤字を計上したが、プラズマテレビからの撤退等で膿を出しつつあった。BtoCから車載機器や住宅等のBtoBへのシフトを掲げた経営方針も評価され、2014年時点ではソニーよりも高い時価総額を誇った。新聞各社も「パナソニックは業績回復鮮明」と持ち上げる記事を連発した。
ところが、2015年頃から構造改革が停滞し始めた。プラズマテレビからは撤退したものの、他にも赤字事業は半導体や液晶パネル、テレビ等が残っていた。これらの事業の“選択と集中”は遅れ、液晶パネル生産と半導体からの撤退を発表したのは2019年、テレビの低価格機種の委託生産方針を明らかにしたのは今年に入ってからだ。人員削減は事業リストラに伴うものが主体であり、こうしたリストラの不徹底が今でも尾を引いている。ソニーがエレキ事業を中心に2万人の人員削減を行ない、テレビの高級路線シフトや、パソコンやリチウムイオン電池等の不採算事業の売却を実施したのとは対照的だ。成長領域への投資でも誤算があった。BtoBシフトの柱は、車載分野への注力だった。コックピット領域(※運転席周り)やADAS(※先進運転支援システム)、車載電池等で事業拡大を狙い、通常の事業投資の他に設けられた1兆円の戦略投資枠のうち、5000億円以上が車載事業に投じられた。2018年には『ボッシュ』や『デンソー』等のメガサプライヤーが鎬を削る車載部品市場において、トップ10入りを目指すという高い目標も掲げられた。ただ、コックピット領域やADASでの過去の取引実績は一部メーカー相手に限られ、投資をしても成長に繋がるかは未知数だった。車載機器では欧州メーカー買収する等拡大を急いだが、無理な受注拡大で逆に減損が発生する等、裏目に出ることもあった。車載領域でパナソニックに優位性があったのは、寧ろリチウムイオン電池だ。パナソニックは2013年当時、車載リチウム電池で世界シェア約4割を占めるトップメーカーだった。2009年には『テスラ』と円筒形リチウムイオン電池の供給契約を結び、共同運営する電池工場には2000億円以上を投じた。尤も、テスラの他にこの円筒形電池を採用するメーカーは乏しく、主流は角形電池だ。結果、車載電池事業の業績はテスラの生産動向に激しく左右されることになってしまった。パナソニックは2009~2011年にかけて、車載向けの角形電池を持つ『三洋電機』を6000億円以上で完全子会社化していたが、組織統合が上手くいかず、有力な技術者がライバル企業へ流出する事態を招いていた。テスラ事業の投資回収に時間がかかった車載事業は、2020年3月期からの3ヵ年計画で成長事業から“再挑戦事業”に格下げされ、角形電池事業も『トヨタ自動車』との合弁企業へと切り離された。ソニーが画像センサーを成長領域と定めて集中投資し、4割を超す市場シェアを築いたのとは又しても対照的だ。“選択と集中”の遅れ、そして成長領域での迷走の中で、今のパナソニックはアイデンティティーを見失っているように見える。2018年に津賀社長はパナソニックを“くらしアップデート業を営む会社”と定義した。単品売り切り型の大量生産モデルから脱却し、住空間や社会インフラ分野を中心に、幅広い製品群とソフトウェアを組み合わせた継続課金モデルを目指すというわけだ。この路線の下で、2009年秋に『グーグル』のスマートホーム部門を率いていた松岡陽子氏を招聘。今年には供給網効率化業務を手がけるアメリカのソフトウェア企業『ブルーヨンダー』を7800億円で巨額買収すると発表した。倉庫の在庫管理といった法人向けの継続課金ビジネスモデルの強化を狙う。ただ、一度掲げた“くらしアップデート”という目標を今のパナソニックが自ら発信することはない。社内から「わかり難い」と不評を買い、徐々に決算資料等でも使われなくなっていった。6月に新たに社長に就任した楠見雄規CEOは、代わりに“地球環境問題の解決”を目標として掲げるが、パナソニックが何の会社なのかはやはり不明瞭だ。パナソニックの示す方向性はBtoBでの継続課金モデルの確立であるが、具体的にどのような収益拡大モデルを思い描いているのか。パナソニックが“自分探しの旅”を終え、再び市場評価でソニーと伍する日が来るのは未だ先だ。 (取材・文/本誌 劉彥甫)
