【バイデン政権の今】(04) TPP、待つ日本と動けぬアメリカ

首相の岸田文雄が今月21日夜に首相官邸から臨んだ日米首脳協議。「グッドモーニング、ジョー」。昼夜が反対のホワイトハウスにいるアメリカ大統領のジョー・バイデンに、こう呼びかけた。岸田が就任後初めてバイデンと本格的に話す機会となった。バイデンも「フミオ」とファーストネームを使い、冒頭から中国について突っ込んだ話を始めた。「中国から『QUADは止めてくれ』と言われた」と明かした。バイデンが副大統領として来日した2013年12月、外務大臣だった岸田は夕食を共にしている。この時は岸田のイランの話に、バイデンが「イランについてもよく知っているんだね」と呼応する一幕もあった。バイデンが旧知の岸田に親密さを示した今回の協議は、実現までに首相就任から100日超を要した。この30年の首相の多くは、凡そ60日以内に会談した。昨年1月に大統領に就いたバイデンは、最初の対面での首脳会談の相手に当時の首相、菅義偉を選んだ。中国を抑止する戦略上、日本を重視した。昨秋以降は内政課題に追われ、岸田との話し合いはずれ込んだ。アメリカが内向きを強める隙を中国は逃さない。昨年9月には『環太平洋経済連携協定(TPP)』に加盟を申請し、支持取り付けに動いた。既にチリ等複数国が賛同した。デジタル貿易に関する新協定への参加も含め、アメリカ排除に邁進する。菅は同年9月のQUAD首脳会議で、バイデンに初めて「将来的にTPPにアメリカが復帰することを望んでいる」と求めた。この時、バイデンは復帰の可能性を必ずしも否定しなかった。2ヵ月後に来日したアメリカ通商代表部(※USTR)代表のキャサリン・タイらは、TPPの議論を拒んだ。政権支持率の低迷が鮮明になり、国内で反発が出そうな話には触れたくない為だ。バイデン政権が進めるアジア各国との新しい経済枠組みの詳細は、なお見えない。アメリカのアジア関与が疎かになるうちに、中国は影響力を増し続ける。アメリカの『国家安全保障会議(NSC)』でアジア外交を仕切るインド太平洋調整官のカート・キャンベルらは、日本側がTPP復帰の必要性を伝えると、決まってこう答える。「わかっている。日本から言い続けてほしい」。 《敬称略》 =おわり
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坂口幸裕・鳳山太成・中村亮・飛田臨太郎が担当しました。

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