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【どうする福祉・縮む日本の処方箋】第2部・医療×介護(05) 変わる終の棲家、頼りは職業家族



20200611 03
ダイニングの高さ3.5mの天井に設けられた採光窓から、自然光が欅の大テーブルに降り注ぐ。傍らの個室では『ビートルズ』の『レットイットビー』が流れ、男性がベッドで穏やかに眠っていた。東京都町田市の幹線道路沿いに建つ2階建ての建物は、癌や難病患者ら20人が暮らすシェアハウス型ホスピス(※緩和ケア)住宅『ファミリーホスピス成瀬ハウス』(※右画像、撮影/三尾郁恵)だ。昨年2月に入所した樋口正裕さん(69)は、体が徐々に動かせなくなるパーキンソン病で、要介護5(※7段階で最も重い介護レベル)だ。ハウスには看護・介護スタッフが30人いて、看護師は24時間365日常駐しており、週1回は医師の往診も受けている。ハウスの特徴は、スタッフが利用者の“職業家族”として、本人の決定を“家族のような覚悟”で尊重し、支えてくれること。樋口さんは同8月、スタッフの付き添いで念願の1日帰宅を果たした。妻(62)が用意してくれた手料理は焼き肉に餃子、春巻きと、樋口さんの好物ばかり。「カロリーは高いけど嬉しかった」と振り返る。都内の自宅には今、妻が独りで暮らす。自分の病気は完治が困難で、症状が進めば更に介助が必要になるとわかってはいるが、本音を言えば「いつか家に帰りたい」。だが、子供たちには其々の生活があるし、妻一人に自分の介護を担わせるのは無理だと思っている。月約30万円の利用料は安くはないが、「他に行くところはない」。他の入所者やスタッフと時折興じるトランプの大富豪が楽しみだが、スタッフらに看取られながら亡くなる人もいる。「スタッフは嫌な事も文句一つ言わずにやってくれて、とても感謝している。自分が帰るところは、ここしかない」と、淡々とした口調で語った。

看取りは、本人にとっても家族にも重要な選択を迫られる問題だ。令和元年版の『高齢社会白書』(※内閣府)によると、60歳以上の51%は「自宅で最期を迎えたい」と回答したが、実際に自宅で亡くなった人の割合は13.7%(※平成30年人口動態統計)で、死亡場所で最も多いのは病院の70%。現代日本で在宅死を叶えるのは容易ではない。世界各国と比較しても、アメリカの病院死(※2007年)は43%、イギリスでも66.5%と、日本の病院死の割合は突出している。長野県上田市で9年前に在宅医療を始めた井益雄医師(67)は、在宅医療について講演したりする時、「病院や施設に入って家に帰れない人は、目が覚めてから寝るまでの殆どの時間を、この光景で過ごして死んでいく」と、1枚の写真を見せる。病院のベッドに横たわった患者が見る、仕切り用のカーテンが下がった天井の風景だ。「本人が『家に帰りたい』と涙ながらに訴えても、在宅医をいくら増やしても、介護者がいないと帰すことはできない。病院や施設を転々として亡くなって、やっと我が家に帰れる。これが現実です」。令和7年には団塊の世代が75歳以上となり、医療や介護の費用は一層膨らむ。そこで、政府は同年を目標に、高齢者を地域一帯で支える『地域包括ケアシステム』の構築を進めている。医療や介護、生活支援を行政や民間事業者、地域が連携することで、住み慣れた地域で最後まで安心して暮らせる社会を実現しようというものだ。大きな柱が在宅医療・介護だが、前提は家族が介護の主体を担うことだ。高齢者の“家に帰りたい”願いもそこにかかっていると言えるが、現実は厳しい。前出の井医師は、総合病院での勤務医時代、地域での24時間在宅医療体制を構築したが、家庭の“介護力”が少子高齢化と核家族化ですっかり弱体化した現実に直面した。「家に帰らせて」と泣いて頼まれても、介護者がいない患者が多かった。介護が問題で家に帰れないなら、自治体が要介護度の改善を後押ししよう――。こうした発想で、国が地域資源の活用を目指して創設した特例制度(※総合特区)を活用し、全国初の在宅介護事業を平成26年に導入したのが岡山市だ。

介護保険制度では、要介護度が重い程、サービスを提供する施設側が受け取る介護報酬が上がる一方、リハビリ等で要介護度を改善させると報酬は下がる。そこで岡山市は、要介護度の改善に貢献した通所サービスの事業所を評価し、平成27年からは報奨金を出すことにした。直ぐに効果は数字に表れた。特区制度に参加して高評価を得た事業者は、通所サービス利用者の要介護度の平均が1.518(※平成27年9月)から1.454(※平成28年12月)に改善した。リハビリ特化型の介護施設『デイサービスセンターアルフィック東川原』に週3回通う金子敏雅さん(67)は、平成27年12月末に脳出血で救急搬送された。直後は右の手足が動かなかったが、杖歩行で好きなマラソンの沿道応援もできるようになり、「手応えを感じている」と声が弾む。要介護は3から2に改善した。ただ、たとえ要介護度が改善しても、ケアする家族の備えや意識が十分でなかったり、抑々見守る家族がいない等の事情で、我が家に戻ることが難しい高齢者も多い。地域ぐるみで啓発する自治体もある。福岡市早良区は平成29年度から地域の各団体と協力し、公民館を拠点に『親子で考える介護の備え講座』を開いた。わかり易く伝わるよう、ある地区は中学校のボランティアの寸劇を取り入れ、参加者から「介護の話を家族ですることが必要だと思った」といった感想が聞かれた。井医師が在宅医療を始めて気付いたのが、「地域住民同士が互いの“介護者”になれる」ことだった。独居で介護者がいない人も、地域で支えあえば最期まで自宅で暮らせるのではないか――。趣旨に賛同した地元の医療・介護関係者らと、NPO法人『新田の風』を設立した。重視しているのは、支え合う仲間作りだ。田舎とはいえ、地域の人間関係は昔に比べ、希薄になっている。ならば、仲間に介護が必要になれば手助けし、自分の番がくれば仲間に頼む関係作りを進めようと、毎週金曜日にサロンを開催。引きこもりがちな高齢男性の為、アルコールを提供することもあり、毎回20~30人が参加する。通所を中心に、短期間の宿泊や訪問介護サービスも提供する小規模多機能型居宅介護施設『新田の家』も造った。昼寝中、穏やかに最期を迎えた利用者もいる。終の棲家はどこか――。本人と家族、自治体、医療・介護従事者の其々が、手探りで答えを見つけようとしている。 =第2部おわり

                    ◇

坂井広志・伊藤壽一郎・伊藤真呂武・岡田美月・岡本祐大・小川恵理子・長内洋介・織田淳嗣・柿内公輔・松田麻希・三宅陽子/グラフィックは田中杏奈・山川昂が担当しました。


キャプチャ  2020年3月25日付掲載
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テーマ : 社会問題
ジャンル : ニュース

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Author:George Clooney

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