【ヘンな食べ物】(17) キャビアより美味い? イランの珍味

前回、発酵学の小泉武夫先生が“世界一の珍味”と断言する“猛毒フグの卵巣の糠漬け”を食べたら、「味が“アシュバル”によく似ていた」と書いた。アシュバルはイラン屈指の珍味だ。出会ったのは、カスピ海に近い同国北部の町・ラシュトの市場。普通、イランの市場では、肉・野菜・果物は豊富だが、魚介類は少ない。ところが、ここの市場は「築地か?」と思うくらい魚ばかり。その辺りはカスピ海だけでなく、河川や湿地帯も多く、実に多種多様な魚が生息しているらしい。そういった魚売り場の中、腹が生クリームのような独特の白みを持つ魚が並んでいた。若い男性がその腹を裂き、素早く卵巣を取り出す。みるみるうちに卵巣の山ができる。更にちょっと歩くと、同じ魚の卵らしきものがビニールに包んで売られていた。ただ、先程の肌色とは異なり、綺麗な蜜柑色。「アシュバルだよ」と店のおじさん。「これか」と思った。アシュバルとは、マーヒーセフィードという魚の卵巣を茜(セイヨウアカネ)を混ぜた塩水に漬けたもの。今は20日間程度になってしまったが、嘗ては最低でも1年間、魚ごと密封しておくのが伝統的製造法だったという。因みに、カスピ海はキャビアの産地としても知られるが、現地の人は「アシュバルのほうが美味い」と言うそうだ。そう、イラン研究者の上岡弘二先生が書いている。なるほど、茜を入れるから綺麗な蜜柑色に染まっている訳か。イラン人の食に対する凝り具合も中々凄い。このアシュバルを持ち帰ったら、あまりの美味さにやみつきになった。乳酸の旨味が何とも言えない。特に、パスタに入れると最高。茹でたパスタにアシュバルを絡ませるだけで、レストランに出してもおかしくない逸品ができてしまう。どんな味か知りたい方は是非、フグの卵巣の糠漬けを買ってパスタに絡ませてみてほしい。


高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。早稲田大学第1文学部仏文科卒。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)・『アジア未知動物紀行』(講談社文庫)・『世界のシワに夢を見ろ!』(小学館文庫)等著書多数。


キャプチャ  2016年12月15日号掲載
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