【中外時評】 空き家生むもう1つの訳――住宅の立地誘導が必要

全国で空き家の増加が問題になっている。人口減少社会に突入し、住宅に対する需要が徐々に減ってきたことだけが理由ではない。供給面から見ると、もう1つ別の理由が浮かび上がってくる。蔵造りの町並みが“小江戸”と呼ばれ、人気の埼玉県川越市。市内の南東部に向かうと、近隣に農地もある地区の一角に、未だ真新しい建売住宅群が見えてくる。ここは開発を抑制する市街化調整区域だが、市が条例で規制緩和し、建設が可能になった物件だ。市が規制緩和に踏み切ったのは2006年5月。道路への接続等一定の条件を付けたものの、それ以降、どこでも住宅を建てられるようになった。市の想定以上に宅地開発は進み、5年半の間に開発許可を受けた件数は約1400件・5700区画に上った。その結果、市の人口は増えた一方で、突然の開発ラッシュが周囲の環境を変えた。生活排水の流入に伴う水路の悪臭に対して、近隣の農家等から苦情が殺到した。新たな宅地では、公共下水道の代わりに浄化槽を設置しているが、新住民の維持管理が杜撰だった為に起きた事態だ。逆に、新住民からは、農薬散布や堆肥の臭いに不満が上がった。地価が安い調整区域に開発がシフトした結果、街中での不動産取引が落ち込むという副作用もあった。「子育て世代が増える等、プラス面もあったが、虫食い開発に伴う弊害が広がってきた」(市開発指導課の刀根則明課長)と、市は2011年10月に、開発に対する規制を2006年以前の状況に戻した。現在、市はコンパクトな街作りへ舵を切り始めている。行き過ぎた規制緩和を見直した川越市は未だいいのだろう。今も、全国各地で宅地開発が続いている。2013年だけでも、東京ドーム約960個分に当たる4500haの農地が住宅地に変わった。日本の住宅建設の大きな問題点は、再建築率が著しく低いことだ。住宅着工戸数全体に対する、古い住宅を壊して建てた住宅の割合を表す指標である。

国土交通省によると、2014年度の再建築率は9.1%で、調査を始めた1988年度以降、最低だった。低下傾向が続き、初めて10%を割った。大雑把に言うと、10ヵ所で住宅が建設されても、古い住宅を取り壊して新しく造られるのは1ヵ所に満たない。嘗ての川越市のように、農地等での開発圧力が今も強いことを示している。人口減少で住宅需要が伸び悩む一方、供給面では古い物件をそのまま残して、新規供給が続く。これが、空き家が急速に増えているもう1つの理由だ。その結果、老朽化した家屋の後始末に追われているのが全国の自治体だ。最近でも、兵庫県姫路市・鳥取県鳥取市・福岡県宗像市等が、倒壊する危険がある空き家を強制的に撤去した。費用は所有者に請求するのが原則だが、これまで行政が撤去した住宅の大半は、所有者が死亡して相続も放棄されている等、現所有者がわからない物件である。今後、日本は“多死社会”に突入する。維持管理の手間や税負担を嫌って、親の家屋を引き継がない動きが更に広がれば、行政任せになる空き家が爆発的に増えるだろう。空き家の発生を抑えるには、先ず中古住宅の流通市場を整備し、売買を活性化する必要がある。その為にも、「アパート建設を結果的に促すような税制の歪みを直すと同時に、市場参加者が共有できる住宅建設の目安を国が示すべきだ」と、日本大学の中川雅之教授は話す。中川教授は10年後の着工数について、「現在の3分の2から半分程度が妥当な水準ではないか」とみる。加えて、新築住宅は“長期優良住宅”のように耐久性に優れ、間取りの変更や維持管理もし易い物件を中心にすべきだろう。そのほうが、築年数が経っても取引し易くなる。しかし、しっかりとした住宅だからといって、どこに建ててもいい訳ではない。長岡技術科学大学の樋口秀准教授が実施した調査を見ると、新潟県長岡市で2009年6月から2年間に認定を受けた長期優良住宅の17%は、市街化調整区域に建てられていた。市街化区域でも中心部の物件は少ない。調整区域内の物件等は将来、コンパクトな街作りを進める上で、寧ろ障害になる可能性がある。人口に続いて、2020年頃には世帯数も減少に転じ、住宅需要は本格的に減り始める。空き家の増加、それに伴う街の荒廃を防ぐ為には、住宅を誘導する区域を都市計画でしっかりと定めることが欠かせないのだろう。 (論説委員 谷隆徳)


⦿日本経済新聞 2016年12月18日付掲載⦿
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