残業規制で“支障”47%、同一労働同一賃金は“困難”66%――本紙143社アンケート

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政府が働き方改革の一環で検討している残業時間の上限規制について、主要企業の47%が業務への支障を懸念する一方、「支障が無い」と考える企業も45%と意見が拮抗していることが、本紙のアンケートでわかった。調査は、政府が9月に働き方改革実現会議(議長は安倍晋三首相)を設置したことを受け、10~11月に実施。180社の内、143社(79%)が回答した。現行法では、労使協定を結ベば事実上、無制限に残業ができる為、政府は上限を設けたい意向だ。上限規制で「業務に支障が出る可能性があるか?」との問いに、「どちらかと言えばそう思う」が36%、「そう思う」が11%、「どちらかと言えばそう思わない」が28%、「そう思わない」が17%だった。長時間労働を見直す上での課題(複数回答)を集計したところ、“業務量の削減”は、支障を懸念する企業では81%だが、懸念しない企業では63%で18ポイント開いた。“業績を落とさない為の取り組み”も、懸念する企業は63%、支障が無いとする企業は52%と差がついた。業務量の削減等が進んでいる企業ほど、「規制が支障にならない」とみているようだ。『同一労働同一賃金』の導入は、「どちらかと言えば」(55%)を含め「難しい」が66%。その理由(複数回答)は、同じ仕事に見えても、“中長期的な役割や期待”・“責任の重さ”・“配置転換や転勤等人材活用の仕組み”が違うケースがあるとした企業が、何れも8割を超えた。

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長時間労働を見直す為に行っている対策について、当て嵌まるものを全て選んでもらったところ、管理職を巻き込んだ取り組みが多かった(左表)。トップの“上司からの声かけ”(81%)は、会議で注意喚起したり、残業の多い部下に進捗状況を尋ねたり、早く帰るよう促したり…という内容。『JXエネルギー』は“さよなら残業 Action8”と名付け、管理職を職場の“推進者”に任命し、声かけ等を通して、20時退社等8つの取り組みを掲げる。同社は、「上司が声をかけることで、部下の業務を把握するきっかけになり、効率的に仕事を進められている」と話す。また、“部下が残業する際は上司の許可を前提とする”・“管理職研修の実施”も上位だった。一方、フレックスタイム制の導入等、柔軟な働き方の他、残業禁止日を設定する等、働く時間を規制する制度の導入を挙げる企業も多かった。長時間労働を減らす上での課題についての質問では、管理職らの意識改革を始め、業務量を減らすことや、業績を落とさないようにすることを挙げる企業が多かった。「仕事量が減らないまま残業時間を制限すれば、家で隠れて残業する心配がある」(メーカー)といった声も聞かれた。メリハリのある働き方を目指し、『神戸製鋼所』は今年度から全社で19時以降の残業を原則禁止し、それ以降に残る場合は上司の許可を必要としている。会議も簡素化する等、業務も効率化しており、「昨年度前半と比べ、今年度は残業時間が約30%減った。時間内に仕事を終える意識に変わった」という。『イオン』は部署毎による繁閑を考慮し、1年を通じて残業が出ないよう、月毎の労働時間を前以て設定。超えそうになると、本人や上司に警告している。『損害保険ジャパン日本興亜』は、ノー残業デー等全社一斉の取り組みを今年3月で終了し、職場単位で対策を立てるよう見直した。「部署によって異なる事情を踏まえたほうが、業績を落とさずに労働時間を削減できる」としている。この他、『大林組』・『キリンビール』・『旭硝子』・『ヤフー』等は、正確な労働時間を把握する為、パソコンの起動時刻や入退館時刻等を記録するシステムを導入。『リコー』は、こうして得たデータを個人や部署毎に纏めて管理職に伝えて対策を立てるよう求め、2014年には20.8時間だった月の残業時間が、昨年には17.4時間に減った。『日本電産』は2020年までに残業を無くす方針で、浮いた残業代は給与や研修等、社員に還元するという。取り組みがイメージアップに繋がるケースもある。『カゴメ』は20時以降の残業を禁止する等、健康増進を図る取り組みが評価され、『日本政策投資銀行』の優遇融資を受けた。この他、取り組みがメディアで紹介され、「採用試験を受ける学生が増えた」「優秀な学生が集まるようになった」と答えた企業もあった。

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1人当たりの月の残業時間を平均約10時間減らし、業績も好調――。こんな成果で注目を集めているのが、IT業界の『SCSK』だ。長時間労働が常態化していた2012年に対策に乗り出した。残業が月20時間までは課長、20時間を超えると部長、80時間を超えると社長の承認を必要とし、部署の残業時間を定期的に社内で共有する。「残業が続くと、『何かトラブルが起きたのか?』と心配する雰囲気」(人事企画部)という。年に数日、平日に一斉に休む日を定めており、社員が休めるよう理解と協力を求める社長からの手紙を取引先に手渡している。月の残業時間は、2011年度の27.8時間から、昨年度には18時間まで減少。有休取得日数は13日から18.7日まで増えた。営業利益もこの間、約169億円から317億円に増えた。現在は、他の社員から話しかけられたり、電話応対したりすることなく作業ができる“集中席”の設置や、広いテーブルと座り心地の良いソファを配した“ファミレス席”等を設けている。同社人事企画部長の小林良成さんは、「残業を増やさず、どうやって生産性を高めるか。課題は変わりつつある。効率を高める方法を探りたい」と話している。正社員と非正規労働者(パート・アルバイト・契約社員等)では、賃金や福利厚生に関わる制度の適用状況に大きな違いがあることも浮き彫りになった。適用される制度を、正社員・非正規労働者の其々について、選択肢から全て選んでもらったところ、“昇進”は無回答以外の全企業が正社員に適用しているが、非正規労働者は13%。“賞与”は非正規労働者でも66%だったが、“定期昇給”・“退職金”の適用は何れも3割前後で、正社員との開きが大きかった。能力開発の分野でも差がみられた。非正規労働者に“社員研修”を適用している企業は6割弱で、“自己啓発への援助”も半分以下。非正規では、キャリア形成が難しい実情も浮き彫りになった。一方、正社員と非正規労働者間で賃金等に差を設ける場合、従業員に説明するよう会社に求めることを政府が検討している点については、「どちらかと言えば」(35%)を含めて、57%が「説明可能」と回答。「どちらかと言えば」(25%)を含めて、「説明は難しい」とした割合は32%だった。

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配偶者手当については、「見直した」と回答した企業が全体の35%を占めた。見直しを予定する企業も含めれば、ほぼ半数になる。共働き世帯の増加等を背景に、見直しの動きが広がっている。「見直した」「見直しを予定している」と答えた企業に内容を尋ねたところ、「廃止し、子供手当の財源に」が30%で最も多く、「廃止し、給与の財源に」が25%で続いた。見直しの理由(複数回答)については、“賃金制度全体の見直しの一環”を選んだ企業が72%で最も多く、“専業主婦(夫)世帯と共働き世帯の公平性の観点から”も25%に上った。今年から原則、子供を対象とする手当に段階的に移行している『トヨタ自動車』は、「安心して子育てできるように、手当の役割を教育資金支援とした」と回答した。“65歳以降”も働ける取り組みを導入したり、検討したりしている企業は、計33%あった。法律は“65歳まで”働ける制度の導入を企業に義務付けているが、少子高齢化による人手不足懸念も背景に、一歩進んだ対応も広がり始めているとみられる。65歳以降の継続雇用の取り組みは、建設や化学等、専門性の高い人材が活躍する分野で目立った。保険・証券でも「昨年4月、会社が認めた営業専門職は70歳まで働ける制度を始めた」(『野村ホールディングス』)等、複数の企業が導入している。一方、課題(複数回答)については、“賃金や人事制度の設計”・“本人の意欲の維持・向上”を6割以上の企業が選んだ。“健康管理が難しい”も4割に上った。

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■上限規制の導入必要  山田久氏(『日本総合研究所』調査部長)
長時間労働を見直す為の取り組みについての回答を見ると、“上司からの声かけ”・“フレックスタイム制”・“定時退社”等と、以前から行われている内容が上位を占めた。本格的な労働時間の短縮に必要な業務そのものの見直しまで踏み込んだ取り組みは、未だ広がっていない印象だ。長時間労働を見直す上での課題として、管理職や従業員の意識改革を挙げた企業が多かったが、制度の改革も欠かせない。ヨーロッパのように、一定の調整期間を設けた上で、労働時間に絶対的な上限を設ける規制を導入することが必要だ。正規・非正規の格差の問題についての結果からは、「長時間労働の是正よりも、企業の対応が更に遅れている」という印象を受ける。男性正社員中心の長時間労働が前提の働き方では、人口減による人手不足で企業活動が成り立たなくなる恐れがある。労働時間を短縮し、非正規雇用の賃金も上げ、女性やシニアに活躍してもらう政策が求められる。職業教育や再就職支援の拡充も必要だ。

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■管理職業務見直しを  大嶋寧子氏(『みずほ総合研究所』主任研究員)
長時間労働を見直す上での課題として、“管理職の意識改革”を挙げた企業の割合が高かった。カギを握るのは管理職ということが裏付けられた。「仕事の割り振りが偏っていたり、残業を前提に仕事を指示したりすると、部下の労働時間が長くなりがち」という調査もある。自分の担当業務をなるべく部下に任せ、人材育成や組織運営に重点を置くような見直しが大切だ。配偶者手当の見直しを進める企業が半数近くに上り、その財源の使い道を、子供に振り分ける企業と、給与にする企業とで二分されていた点も興味深い。非正規労働者については、正社員と比べて、賞与や退職金だけでなく、昇進・定期昇給、職業能力の形成に関わる部分にまで大きな差が出た。非正規労働者の能力開発を行う企業への支援を拡充すべきだ。企業にとって、長時間労働等の問題を改善することは、子育てや介護中の人にも能力を発揮してもらうだけでなく、専業主婦等、潜在的な労働力を生かす上でも重要なテーマだ。

               ◇

20161219 07
■回答企業(50音順)
IHI・旭化成・旭硝子・アサヒグループホールディングス・味の素・アステラス製薬・イオン・出光興産・伊藤忠商事・ANAホールディングス・SMBC日興証券・SCSK・NTTコミュニケーションズ・NTTデータ・NTTドコモ・NTT西日本・NTT東日本・王子ホールディングス・大阪ガス・大塚製薬・大林組・オムロン・オリックス・オンワードホールディングス・花王・カゴメ・鹿島建設・カルビー・川崎重工業・関西電力・キッコーマン・キヤノン・九州電力・キユーピー・キリンビール・近畿日本鉄道・クボタ・神戸製鋼所・コーセー・コスモエネルギーホールディングス・サイバーエージェント・サッポロホールディングス・サントリーホールディングス・JR東海・JR西日本・JR東日本・JXエネルギー・JFEスチール・J.フロントリテイリング・資生堂・清水建設・シャープ・スズキ・住友化学・住友商事・住友生命保険・住友林業・西武ホールディングス・積水ハウス・セコム・セブン&アイホールディングス・ソフトバンク・損害保険ジャパン日本興亜・第一三共・第一生命保険・大成建設・太平洋セメント・大和ハウス工業・高島屋・武田薬品工業・中部電力・DMG森精機・TDK・デンソー・東京海上日動火災保険・東京ガス・東京電力ホールディングス・東芝・東レ・TOTO・凸版印刷・トヨタ自動車・日産自動車・日清食品ホールディングス・日本製紙・日本通運・日本郵政・日本IBM・日本ガイシ・日本生命保険・日本たばこ産業・日本電産・日本マクドナルドホールディングス・野村ホールディングス・ハウス食品・博報堂・パナソニック・阪急電鉄・バンダイナムコホールディングス・ファーストリテイリング・富士重工業・富士ゼロックス・富士通・富士フイルムホールディングス・ブリヂストン・古河電気工業・ホンダ・松井証券・マツダ・丸紅・マンダム・ミズノ・みずほフィナンシャルグループ・三井化学・三井住友銀行・三井物産・三井不動産・三菱ケミカルホールディングス・三菱地所・三菱自動重工業・三菱重工業・三菱商事・三菱東京UFJ銀行・三菱マテリアル・明治ホールディングス・明治安田生命保険・森永乳業・森ビル・ヤフー・山崎製パン・ヤマト運輸・ヤマハ発動機・ユニーファミリーマートホールディングス・ユニチャーム・ライオン・楽天・LIXIL・リクルートホールディングス・リコー・りそなホールディングス・ローソン

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社会保障部 安田武晴・滝沢康弘・大広悠子が担当しました。


⦿読売新聞 2016年12月6日付掲載⦿

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