【科学捜査フロントライン】(03) 中野区女性劇団員殺害事件、4兆7000億人から1人を識別するDNA型鑑定の驚くべき精度

交友関係から洗い出した知人には全てアリバイが…。そこで、捜査が一度は行き詰まった非道な事件。だが、科学捜査の力によって、僅かな痕跡から犯人に辿り着いたのだ。 (取材・文/ノンフィクションライター 八木澤高明)

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2015年8月26日20時頃、東京都中野区に暮らす加賀谷理沙さん(当時25・左画像)のマンションを、新宿区内のアルバイト先である居酒屋の店長とアルバイト仲間が訪ねていた。殆ど休むことが無かった劇団の稽古を2日続けて休んだことで、劇団からアルバイト先に連絡が入ったことがきっかけだった。前日には居酒屋のアルバイトを休んでいたこともあり、居酒屋の店長とアルバイト仲間が足を運んだのだった。部屋のドアホンを押しても何の反応も無く、玄関は施錠されていた。店長らは警視庁中野警察署に電話。駆けつけた署員が、管理人から鍵を借りてドアを開けると、玄関奥で仰向けに倒れている全裸の加賀谷さんの姿があった。顔にはタオルがかかっていて、首には紐で絞められたような痕が見え、既に息絶えていた。彼女が何者かによって殺害されたことは明白だった。中野署に捜査本部が設置され、50人態勢で捜査が開始された。先ず、捜査員が注目したのは遺体の状況だった。遺体は全裸だったが、顔にタオルがかかっていた。犯行に巻き込まれた遺体の顔にタオル等の衣類がかかっていることは、被害者と親しい人物が「死に顔を見たくない」という感情から取り得る行動であった。更に、玄関やベランダが施錠されていて、何者かが侵入した痕跡が見当たらなかったことも、親しい人物による犯行を匂わせていた。

加賀谷さんは、アルバイト仲間に「知人に付き纏われて困っている」とストーカーのような行為を受けていることを打ち明けており、事件の1ヵ月ほど前には、「加賀谷さんが(現場となったマンションで)男性と激しく口論している」と住民が通報し、中野署員が事情を聞きに訪れる事態も発生していた。そのことから、「交際相手か知人等、身近な人物による犯行なのではないか」と捜査本部は想定して動き出した。だが、加賀谷さんの周囲にいる人物を洗っていくと、誰もにアリバイがあった。今までの事件捜査であれば、この時点で捜査が行き詰まってしまう可能性が高かったが、この事件でも犯人逮捕に繋がっていったのは“科学捜査の力”であった。加賀谷さんの爪には加害者のものと思われる皮膚片、胸の周囲には唾液が付着していた。直ぐに皮膚片と唾液を鑑定すると、2つのDNA型は一致し、同一人物であることがわかった。警視庁がDNA型鑑定を取り入れたのは、1989年のことだった。当初は94人に1人の人物を識別できる程度のものだったが、2003年には1100万人に1人、2006年には4兆7000人に1人という精度になり、数字上は地球に暮らす人間全てを識別できるレベルにまでなった。『法科学鑑定研究所』の冨田光貴所長が言う。「私たちが行っている鑑定では、爪の間の1㎜の皮膚片や、肉眼では確認できないような微かな唾液からもDNAを採取することができます。今までは、極微量で鑑定不可能と思われたものからも、鑑定できるようになっています」。犯人が爪と遺体に残した残留物は、鑑定するには十分な量だったのである。ところが、加賀谷さんの知人や友人で、このDNA型と一致する人物は見つからなかった。DNA型鑑定の精度がいくら上がったとしても、鑑定の対象となる被疑者を見つけることができなければ、全く意味をなさない。捜査本部は、加賀谷さんの身辺にいる人物を捜査する一方で、行きずりの不審人物による犯行の可能性も考慮し、事件発生と同時に、現場周辺の防犯カメラの分析や、聞き込みによる捜査を続けていた。

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事件発生日前後の防犯カメラを解析していくと、加賀谷さんが殺害される前日に、野球帽にTシャツ姿でマンション周辺を歩き回る男の姿が写し出されていた。捜査本部はその男も含めて、劇団員や近所の住民等、1000人近くに任意のDNA鑑定を行っていた。“野球帽の男”のDNA型鑑定を行うべく足取りを追うと、事件発覚後直ぐに引っ越していたことがわかった。男は会社の同僚に「長く付き合っていた年下の彼女と結婚することになった」と告げ、事件後に会社を辞めて、福島県内の実家に戻っていたのだった。2016年2月中旬に男の実家まで捜査員が赴き、任意で提出された試料を鑑定すると、加賀谷さんの遺体から発見されたDNA型と合致したのだった。逮捕されたのは戸倉高広容疑者(37)。加賀谷さんとの面識は無かったが、彼女のマンションから400mほど離れたマンションに暮らしていた。事件発生から半年以上が過ぎた容疑者逮捕であった。動機については、「偶々見かけ、気になったので後をつけて部屋に押し入った。LINEを交換したかったが断られ、声を上げられそうになったので、首を絞めて殺した」と供述した。戸倉容疑者の一方的な欲望の為に犠牲となった加賀谷さんは、殺害された翌月には『見果てぬ夢』という舞台に立つ予定だったという。アルバイトで生活費を稼ぎながら女優になるという夢は、永久に叶わなくなってしまったのだった。唯一の慰めは、警察の執念による科学捜査によって、犯人が逮捕されたことである。


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