【Global Economy】(16) トランプ相場、新興国経済に影…投資マネーがアメリカに流入

“トランプ相場”に沸く日米の株式市場の陰で、新興国経済に危機感がじわりと広がっている。投資マネーが新興国からアメリカへ一斉に流れ込んでいる為だ。新興国経済が腰折れすれば、世界の景気停滞に繋がりかねない。 (本紙編集委員 山崎貴史)

20161219 17
「自宅に眠る外貨を売り、リラに交換しよう」――。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は今月、国民に対し、手持ちのドルを通貨・リラに両替するよう繰り返し訴えている。為替相場のリラ安を少しでも食い止めたいのだ。通貨当局が行う“ドル売り・リラ買い”の市場介入を、個人や企業に促しているようなものだ。トルコでは、今年7月のクーデター未遂や相次ぐテロで社会不安が高まり、リラは下落傾向にあった。更に、先月8日のアメリカ大統領選でドナルド・トランプ氏が勝つと、インフラ(社会資本)投資等への期待からドルが一気に買われ、リラ売りが加速した。大統領選当日に1ドル=3.1リラ前後だったリラ・ドル相場は、日本時間昨日現在、1ドル=3.5リラ前後と11%も下落し、史上最安値圏で推移している。民族意識の強いトルコの人々は、大統領の呼びかけに応じている。現地の報道によると、ある散髪店の店主は「国を助けたい」として、リラに両替した証書を見せた客の代金を無料にした。100ドル(約1万1000円)以上売却した人に、イワシを1㎏サービスしている魚屋もある。ある石材店は、2000ドル(約23万円)を両替した客に墓石を無料で提供した。トルコ経済は「製造業等も弱く、見通しは決して良くない」(『アジア経済研究所』の間寧氏)状況だ。2008年のリーマンショック以降、先進国の中央銀行は、景気を梃子入れする為に金融緩和を行い、先進国で超低金利が続いた。世界の投資家は、政情等に不安はあるものの、一定の利回りが見込める新興国に資金を投じた。新興国の政府や企業も、自国通貨よりも低金利で借りられるドルを調達し、経済活動に取り組んだ。しかし、アメリカ大統領選でトランプ氏が勝つと、状況は一変。投資家は資金を新興国から引き揚げ、ドルに流し込んだ。

更に、アメリカの『連邦準備制度理事会(FRB)』が一昨日、政策金利引き上げを決め、今後の利上げペースも速まる見通しになり、新興国の通貨安に拍車がかかった。アメリカ大統領選以降、15日(日本時間)まで、リラの他にも、対ドルでメキシコのペソが12.5%、南アフリカのランドが6.0%下落している。『みずほ総合研究所』の武内浩二氏は、トランプ氏の主張について、「財政・通商・外交政策の何れも、ドル高・新興国通貨安に繋がる」とみる。減税やインフラ投資等の財政政策は、アメリカの当面の景気拡大を齎す為、株が買われ、安全資産とされるアメリカ国債が売られるので、アメリカの金利が上昇し、ドルが買われる。通商政策で、自国産業を過度に守る保護主義の動きが強まれば、新興国からアメリカへの輸出が減る為、新興国経済への不安が高まり、新興国通貨が売られる。外交で他国の紛争等に介入しない内向きの方針を取れば、中東やアジアで政情不安が広がり、新興国通貨が売却され易くなる。トランプ氏が掲げる経済政策は、1981年に就任したロナルド・レーガン大統領の政策に似ていると言われる。だが、“レーガノミクス”はアメリカの景気を拡大させた一方、現在と同様にドル高・新興国通貨安を齎し、中南米の経済をどん底に突き落とした。レーガン政権は減税や規制緩和等を実施し、景気が上向いてドル高が進んだ。当時の中南米諸国の政府は、アメリカ等の銀行から多額のドルを借りて、工業地帯の建設等インフラを整備していた。だが、ドル高・自国通貨安で、借金の元本と利息が膨らんだ。1980年代にメキシコ、ブラジル、アルゼンチン等が相次いで借金を予定通り返せなくなって、債務危機に陥り、『国際通貨基金(IMF)』等の支援を仰いだ。その後の景気停滞は、“ラテンアメリカの失われた10年”と言われた。現在の新興国も、民間企業を中心にドル建ての借り入れが増えている。新興国企業のドル建て債務(今年3月末)は、5年前に比べ5割近く増え、3.2兆ドル(約370兆円)に上る。『第一生命経済研究所』の西浜徹氏は、「新興国の通貨安は、債務の返済負担を増し、国内の金融市場の信用収縮を招く懸念がある」と指摘する。リーマンショック以降、先進国で低成長が続く中、新興国の景気拡大が世界経済を支えてきた。それだけに、ドル高やアメリカの保護主義による新興国への打撃は、影響が広がる恐れがある。“トランプ相場”に浮かれてばかりはいられない。

20161219 18
■保護主義、通貨安の利点奪う
通貨安が進むと、輸出品の値段を自国通貨では変えなくても、販売先の国では安くなり、輸出企業の競争力が高まる。企業が海外で得た儲けも、自国通貨換算で膨らむ。現在の日本で円安が進んで、株価が上向いているのもその為だ。しかし、トランプ氏が関税引き上げ等で保護主義の姿勢を強めれば、巨大市場であるアメリカへの輸出が減り、通貨安の利点が失われる。ドル建てでお金を借りている新興国の政府や企業は、収入の多くを自国通貨で受け取るものの、借金はドルで返す。この為、ドル高になると、自国通貨でみた返済額が膨らむ。アメリカの金利高で利払いも増える。新たな借り入れもし難くなり、経済活動が弱まる。通貨安で輸入品は値上がりする。レアル安が進むブラジルも、物価が上昇しつつある。リオデジャネイロで弁護士事務所の職員を務めるジョージ・ジオニスさん(23)は、「携帯電話を海外機種に買い替えたいが、費用が嵩むので手が出せない」と溜め息を漏らす。市内のパソコン店は、レアル安や景気低迷の影響で、売り上げが1年前に比べ60%も落ちたという。店主のオラン・アルベスさん(26)は、「市民生活を重視しない今の政治体制では、景気回復も期待できない」と政府に怒りをぶつけた。各国の政府も、通貨の下落を防ごうと懸命だ。中国の金融当局は、海外への資金流出を抑えようと規制を強化している。最近、海外への500万ドル(約5億8500万円)以上の大口送金について事前に相談するよう、国内外の金融機関に指導した。『みずほ銀行』の林信秀頭取は、「こうした動きが長く続くと、顧客にも影響が出るだろう」と懸念する。別の邦銀の幹部によると、中国当局は、外貨の購入額と売却額を同水準に保つよう指導したという。幹部は、「指導内容は書類に残さず、物凄い緘口令が敷かれた。こんな厳しい指導がいつまで続くのか」と頭を抱えた。マレーシアの中央銀行は今月5日、国内企業が輸出代金として得た外貨の75%以上を、通貨・リンギットに両替するよう義務付けた。両替したリンギットには、高い金利を適用するようにもした。現地メディアによると、ナジブ・ラザク首相は「リンギットの下落は(通貨の価値が)弱いからではない」とし、「投資家による投機活動等が原因だ」と訴えた。 (バンコク支局 辻本貴啓・中国総局 鎌田秀男・リオデジャネイロ支局 田口直樹)


⦿読売新聞 2016年12月16日付掲載⦿

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