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【宇垣美里の漫画党宣言!】(27) 人が人の価値を測れるか

社会評価によって生命の価値が査定され、種の存続こそが至上命令と謳われる、徹底管理された社会。『きみを死なせないための物語』で描かれる世界に漂う閉塞感に、何だか強い既視感がある。性的マイノリティーを「生産性がない」と侮辱したのは、どこの国の政治家だったか。人類が宇宙空間に浮かぶ居住施設・コクーンで生活するようになった近未来。限りある資源を有効活用し、道徳的な社会を守る為、至るところに監視カメラが設置され、人々は契約を結んだパートナー以外とは会話することも許されていない。契約の種類によって、仕事の話しかできなかったり、握手以外の肉体的接触は許されていなかったり。より深い関係を結びたければ契約を更新、二度と話したくないと思えば契約を解除することもできる。狭い社会で生きていく上では便利なこのシステム、人によっては無駄なやり取りの省かれたユートピアだと思うのかもしれない――なんてことに気付いてぞっとした。そんな歪んだ社会に生まれた長命な新人類『ネオテニィ』のアラタたち4人は、短命の奇病・ダフネー症の少女と出会ったことで、大きな喪失を味わうことになる。どのページをめくっても、絵の美しさ、線の細やかさにうっとりする。SF設定の緻密さは勿論のこと、其々のコクーンの造形や宇宙都市での暮らし等がとても丁寧に描かれている。例えば食事の場面。家族団欒の食卓に並ぶのは、きまってレトルト食品だ。なるほど、限りある資源において、プロでもない人間が料理をするのは非効率極まりないのだなと膝を打った。

壮大な交響曲のような物語の根底に流れているのは、愛とは何なのか、人の価値とは何なのかという普遍的な問いだ。社会的価値がないと査定されれば、待つのは安楽死。コクーンの総人口は決まっている、一人生まれる為には誰かが死ななくてはならない。短命の遺伝子など生きる価値すらないと断罪し、恰も肉体は遺伝子の入れ物でしかないと見做す非情な制度の下では、愛など非合理で猥雑なものでしかない。それにも拘らず、人々は誰かを愛することを止められない。「最後ににぎっている手はきみの手でなければいやだと思ったんだ」と顔を歪める姿に、新天地を目指すよりパートナーの手を繋いでその死を見送ることを選び、浮かべた笑顔に、其々の愛の形と生きざまを見た。大切な人の手の温もりは、それだけで生きる意味になる。ただ己の価値を引き上げることができる相手との契約を望み、生き延びる為に生きる。そんな腐った繭の中で、短命のダフネーだけが瞳をキラキラとさせている。その瞳が無価値だと何故言える? 人が人の価値を測るだなんて烏滸がましいにも程がある。「人生なんてね 誰だって割とどうしようもないの! どう生きたって割と地獄なのよ! だったら好きな地獄を選んで生きるの! いい? 自分で選ぶのよ!」。辛辣な研究員がダフネーの少女にかけたこの言葉が好きだ。同じ地獄なら、私は誰の手を選ぼうか、どの道に命を燃やそうか。


宇垣美里(うがき・みさと) フリーアナウンサー。1991年、兵庫県生まれ。同志社大学政策学部卒業後、『TBS』に入社。『スーパーサッカーJ+』や『あさチャン!』等を担当。2019年4月からフリーに。近著に『風をたべる』(集英社)。


キャプチャ  2020年7月2日号掲載
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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

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Author:George Clooney

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