【内向く世界】(05) 市場原理主義の蹉跌…投資家、社会の変革者に

20161220 02
アメリカ大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利し、世界に衝撃が走った今月半ば。各国から300人余りの資産運用関係者が東京に集まった。アジア中心に市場改革を主導する民間組織『アジア企業統治協会(ACGA)』の年次総会に出席する為だ。会場の話題となったのは、日本の『年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)』。最高投資責任者の水野弘道氏が、「株式運用にESG投資の要素を取り入れる」姿勢を明らかにしたからだ。『ESG』とは、“環境(Environment)”・“社会貢献(Social)”・“企業統治(Governance)”を重視する投資手法の略語だ。トランプ氏の勝利によって、アメリカが環境・人権の保護・紛争解決といった面で、国際協調に背を向ける懸念が燻る。そんな折だけに、世界最大の年金基金であるGPIFが、グローバルな問題の解決を目指す姿勢を示したことは反響を呼んだ。ESG投資の源流は2006年、国連のコフィー・アッタ・アナン事務総長(当時)が提唱した時に遡る。基本哲学は“投資収益と社会問題の解決の両立”。一部の投資家だけを利するのではない、新しい市場原理の追求だった。

2013年にイギリスのデヴィッド・キャメロン首相(当時)が『主要8ヵ国(G8)』会合で提唱した“インパクト投資”も、その延長線上にある。債券等で調達した資金を、福祉や地域振興等に投資し、浮いた行政コストを投資家の利払いに回す仕組みだ。世界的には、受刑者の再犯防止に向けた教育や新興国の発電事業で、インパクト投資が使われる例が増えた。日本では、震災後の産業復興用等の資金として注目を集めた。こうした新しい市場原理の探求は、資本主義経済を持続可能なものとする為の試みだ。1989年に『ベルリンの壁』が崩壊し、社会主義という対抗勢力が消えた資本主義は、各国間の対立軸が鮮明になった。フランス経済人であるミシェル・アルベールは、1990年代初めに著した『資本主義対資本主義』(日本語版は竹内書店新社)で、米英に顕著な市場原理を重視する“アングロサクソン型”と、ドイツや日本で一般的な社会性を重んじる“ライン型”のモデルを提示した。21世紀に入り、市場のグローバル化が加速し、企業経営等多くの面でアングロサクソン型が主流を成した。半面で、勝者と敗者の格差は広がり、社会の歪みは拡大した。それを解決する力を、どこに求めるべきか。「我々は、現実の問題に対処しなければならない」。最近の米紙インタビューで声を上げたのは、著名な投資家であるジョージ・ソロス氏。激しさを増す人種差別に対処する為、1000万ドル(約11億円)を市民団体等に寄付する。アングロサクソン型の蹉跌を乗り越える為、市場の富を社会に再分配する仕組みも、資本主義の成熟に欠かせない。国は時に内向きになり、自らを閉ざす。それでも資本主義が前に進むには、多様な市場の力を磨き、新しい原理を探し求める他ない。 (編集委員 小平龍四郎) =おわり


⦿日本経済新聞 2016年11月29日付掲載⦿
スポンサーサイト

テーマ : 国際ニュース
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR