【解を探しに】第1部・漂流ニッポン(01) かつて中流、いま漂流

社会や人々の暮らしが変わり、価値観は多様化している。必ずしも“正解”が1つではない時代を、私たちはどう生きるのか。羅針盤を探す。

20161220 04
東京都内の歓楽街。ギラギラと光るネオンのトンネルを抜け、1人の女性(35)が雑居ビルの階段を上っていった。目指すのは、見知らぬ男女が会話を楽しむ出会い喫茶。店では“ミナ”と名乗っている。「楽しくお話ししましょ」。自分を指名した男性客と20分ほど店内で会話をし、気に入ってもらえれば1万円で食事やお茶をする。「したくはないけど交渉次第で…」。会話以上のサービスをすることもある。店に行くのは週2日ほど。月10万円ほどが懐に入る。ミナの本来の仕事は、医療関係の事務だ。会社員の夫と中学3年生の息子と都内で暮らす。世帯年収800万円ほどの“平凡な家庭”。勿論、“副業”は家族には言っていない。難関校とされる私立一貫校に通う息子の学費や塾代が、年300万円近くかかる。ただ、その為に生活を切り詰めたくはない。「家計は楽じゃない。老後への蓄えなんてできない」。内閣府による『国民生活に関する世論調査』(今年度)では、9割が自らを“中流”と考える。“1億総中流社会”は尚も健在だ。しかし、「真面目に働けば人並みの収入を得られ、人並みの暮らしができる」――そんな図式が通用し難くなっているのも事実だ。

「まさか、自分がそうなるとは思ってもみなかった」。埼玉県川口市の高野昭博さん(60)は15年前、26年勤めた大手百貨店を辞めた。喉頭癌を患った父の介護に専念する為だ。当時、年収1000万円。食品売り場で、販売から催事の企画まで熟した。「辞めても生活は何とかできるだろう」と考えていた。父は退職直後に亡くなり、貯金は治療代や葬儀代等でほぼ消えた。複数の会社で働いたが、人員整理や給料未払い等で長く続かない。家賃が払えず、アパートを追い出された時、所持金は1万5000円しかなかった。路上生活をしていた時に困窮者支援の団体に声をかけられ、生活保護を受け取れるようになったのは6年前だ。今、生活困窮者を支援するNPO法人『ほっとプラス』(埼玉県さいたま市)のメンバーとして、嘗ての自分と同じ境遇の人たちを支える側に回った。「最近は病気や派遣切りで働けなくなり、生活保護に頼らざるを得なくなった30~40代によく会う。転落は突然やって来る」。言葉に実感がこもる。社会学者らによる『社会階層と社会移動全国調査』等によると、1985年には学歴や職業による階層意識の差は殆ど無かったが、直近(2010年)は同じ中流でも学歴等で“中の上”と“中の下”の二極化が生じている。「経済が低成長期に入って、社会の変化が緩やかになり、学歴・職業・収入の高低で自分や他人の社会経済的地位がよく見えるようになった」。東北学院大学の神林博史教授(社会学)の分析だ。「貴方は中流だと思いますか?」。記者の問いに、「嘗ては中の上、今は下。自分では冗談で“漂流”って言っているんです」と高野さん。ミナは、「中の下じゃないかな? 家族で外食したり旅行したり。中の中や中の上の暮らしをする為に、こんな仕事をしている訳だし」と言い切った。

■きっかけは病気や失職
長く低迷が続いた日本経済だが、この3年間で日経平均株価は2倍以上に増え、今年には一時2万円台に乗った。輸出企業を中心に好業績が目立ち、日本経済新聞社調べによる今冬のボーナス調査では、全産業の1人当たり税込み支給額は80万1163円で、7年ぶりの80万円台となった。高額商品の売れ行きも好調だ。ただ、日銀短観等では、大企業の景況感は足踏みが続く。先行きは不透明だ。格差の広がりも指摘される。日本の相対的貧困率(可処分所得の中央値の半分に満たない人の割合)は、2012年が16.1%で、1980年代から上昇し続けている。『経済協力開発機構(OECD)』加盟国34ヵ国の中でも高い数字となっている。NPO法人『自立生活サポートセンターもやい』の大西連理事長は、「病気や失職を機に、貧困に転落する可能性は誰にでもある」と話す。


⦿日本経済新聞 2015年12月30日付掲載⦿

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