【憲法のトリセツ】(04) そもそも憲法って何?…日本は“本家”か

20161221 05
今、世界に憲法を持たない国は殆どありません。憲法は、国家が成り立つ為の最低条件の1つと言って差し支えないでしょう。でも、歴史を振り返ると、第2次世界大戦以降にできた新興国を別にすれば、国家が成立した時点から憲法があった国は然程多くありません。今回は、「抑々、憲法って何?」という話です。多くの読者にとって、最初に出合った憲法は、日本史の授業で出てくる『十七条憲法』ではないでしょうか。『日本書紀』等によれば、聖徳太子(右画像)が604年に制定しました。世界で最初の憲法と言われることがあるイギリスの『マグナカルタ(大憲章)』ができたのが1215年ですから、それより600年ほど前。「日本は憲法の本家だ」と自慢したくなります。でも、憲法学者は「十七条憲法が“憲法”である」とは認めていません。法体系の基本的なルール――例えば、「対象は誰で、執行するのは誰か?」等が不明確だからです。十七条憲法で最も有名な条文は、1条の「以和爲貴」、読み下すと「わをもってたっとしとなす」です。色々な解釈がありますが、大まかに言えば「仲良くするのは良いことだ」ということでしょう。「良いことだ」と言い聞かすのは道徳であって、憲法と呼ばれるにはもっと明確な規範性が必要です。

憲法の役割は、大まかに2つあります。1つは、国民の権利と義務の範囲を確定する。もう1つは、国家の統治機構の仕組みを構築することです。英米では、こうした社会の基本的なルールを“Constitution”と呼びました。“Constitute”が“構成する”ですから、“構成要素”ぐらいの意味でしょう。江戸幕府が開国を決め、こうした考えが日本に入ってきた当初は、色々な訳語が飛び交いました。“政体”・“政規”・“国憲”等です。肥後藩士の家に生まれ、明治政府で官吏等を務めた林正明(1847-1885)は、アメリカの“Constitution”を翻訳して、『合衆国憲法』の題名で出版しました。最終的に“Constitution”の訳語が確定したのは1882年のことでした。京都大学大学院の大石真教授が著した『憲法講義』(有斐閣)によれば、日本にも“Constitution”を作る為、参議だった伊藤博文をヨーロッパに派遣することになった際の勅語(天皇の命令)に、「欧州各立憲君治国の憲法に就き【中略】研究すへき事」と明記しました。広辞苑で“憲法”を引くと、「①(古くは)おきて。基本となるきまり」とあり、その上で、“Constitution”の訳語として、「②国家存立の基本的条件を定めた根本法」という意味があると指摘しています。本当の意味は①なのに、②の訳語の役割を背負わせたことで、“憲法”という単語が何を指すのかがわかり難くなったのです。「民法は社会の基本原理を定めた法律であり、フランスでは“Constitution”と呼ぶことがある」。民法の権威だった東京大学の星野英一名誉教授(1926-2012)に、こんな話を聞いたことがあります。民法は「人の財産や身分に関する一般的な事項を規律する法律」(広辞苑)で、契約が成立する為の条件な等、近代の市民社会が円滑に運用されていくのに不可欠なルールが載っています。

憲法は一般法よりも上位の存在ですが、民法が先にできた国もあったということで言えば、民法こそが“Constitution”と呼ぶに相応しい法とも言えます。星野氏は、「憲法は国家の基本原理、民法は社会の基本原理」と語っていました。憲法は大事ですが、憲法学者がしばしば民法や刑法の研究者よりも偉そうに振る舞うことを不快に思っていた面もあったような気がします。世界最古の法律とされる『ウルナンム法典』(紀元前2100年頃)は、他人に損害を与えた場合の賠償のルール等が書いてあります。その350年ほど後にできた『ハムラビ法典』は、更にルールを厳格にして、「目には目を」等と定めました。古代国家の多くは専制政治だった訳ですから、統治の仕組みを文章にする必要はありませんでした。でも、王の下に持ち込まれる様々な紛争の仲裁は、ルール化したほうが処理が簡単です。「法体系は刑法から始まり、民法が必要になり、最後に憲法が生まれた」というのが最も自然な流れです。つまり憲法は、幅広い国民が発言権を持つ近代国家ができて、初めて必要になった新参者です。「すべて国民は、法の下に平等」。日本国憲法第14条のこの決まりはよく引用されますが、仮に憲法にそう書いてなければ、他人を好き勝手に差別してよいのでしょうか? 「人には生まれながらの人権があり、誰もそれを侵してはならない」。こうした権利を“自然権”と呼びます。近代社会にこうした考えが広まり、それを明文化したのが憲法ですから、憲法の書きぶりの不備を利用して人権を損なうのは本来、おかしなことです。日本国憲法の条文毎の研究は何れしますが、一例を挙げれば、第24条にこう書いてあります。「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立(する)」。2つの性が必要ということは、男性同士・女性同士の同性婚は認められない。文章をそのまま読めばそうでしょう。「本当にそれでよいのか?」――そんなところから憲法論争を始めてみるのもよいかもしれません。


大石格(おおいし・いたる) 日本経済新聞編集委員。1961年、東京都生まれ。東京大学法学部卒。国際大学国際関係学科修士課程修了後、1985年に『日本経済新聞社』入社。政治部記者・那覇支局長・政治部次長・ワシントン支局長として、様々な歴史的場面に立ち会ってきた。現在の担当は1面コラム“春秋”・2面コラム“風見鶏”・社説等。


⦿日本経済新聞電子版 2016年12月7日付掲載⦿

スポンサーサイト

テーマ : 憲法改正論議
ジャンル : 政治・経済

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接
QR码
QR