【解を探しに】第1部・漂流ニッポン(02) 標準世帯の呪縛なお

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「家を借りるのに敷金と礼金が工面できない」「子供の病気で仕事の契約更新ができなかった」――。離婚等により、子供を1人で育てる母親を支援するNPO法人『しんぐるまざあず・ふぉーらむ』(東京都千代田区)には、こんなSOSが次々飛び込む。子供が病気がちで、「勤務中、保育園からの電話が怖い」と打ち明けた母親もいた。同NPOで相談を受ける大塚君江さん(48)も16年前、離婚でシングルマザーになった。当時、2人の子は4歳と10ヵ月。3ヵ月後に派遣社員に採用されたが、長女が入院した際は付き添いで収入がゼロに。「景気に関わらず、シングルマザーの苦労はずっと変わっていない」と実感している。夫婦の3組に1組が離婚する時代。1人親家庭は、子供がいる世帯の約7.4%を占める。しかし、社会の仕組みは、夫婦と子が同居する“標準世帯”が中心だ。島根県浜田市は今年4月から、1人親を対象にした移住政策を始めた。支度金として30万円を支給、住宅を用意して中古車も無償提供する。月約15万円で介護施設で働くのが条件だ。

発表後に問い合わせが殺到し、4世帯9人が移り住んだ。2歳の子供と暮らす島田幸子さん(仮名)は、「暮らしが安定した。子供ものびのびとしている」と微笑む。中央大学の山田昌弘教授(家族社会学)は、「標準世帯の呪縛から逃れられない状況が、社会を苦しくしている」と指摘する。家族の形が多様化する中、社会の仕組みや意識も変容を迫られる。埼玉県戸田市の『太陽の子新曽北保育園』。昨年、保育士らが『父の日』・『母の日』について話し合った。「イベントをすると気にする子がいるかも」「一部の組だけ止めるのはどうか」。1人親や、親と離れて祖父母と暮らす子供も珍しくない。結局、“ファミリーデー”として、感謝したい人にプレゼントを贈る方式に変えた。清水由佳園長は、「どの子も、誰に贈るかを楽しそうに考えた」という。「まるで実家のよう」。福岡県久留米市のシェアハウスで、看護師の橋谷直代さん(仮名・45)は寛いだ表情を覗かせた。離婚後に住む場所が見つからず、知人の紹介でこの家に移った。再婚して引っ越した後も、長女(6)と共に訪れて食卓を囲む。介護福祉士の平山綾子さん(49)が10年ほど前、自宅を改装した。1人親や高齢者を受け入れる。風邪を引いた子供を他の住民が世話したり、高齢者の話し相手になったり…。互いを思いやる姿は自然だ。「たとえ他人同士で一時的であっても、元々あった家族の形に思える」。笑い声が絶えない食卓を見ながら、平山さんはこう考えている。

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夫婦の3組に1人が離婚する時代。離婚に至る理由も様々だ。実は、景気変動や失業率と離婚との間には相関関係があり、そこには日本人の国民性もあるという。“金の切れ目が縁の切れ目”と言われるが、夫婦にも当て嵌まるのか。夫婦問題や家族関係に詳しい専門家に聞き、現代の離婚事情を考えた。総務省統計局の労働力調査と国勢調査を基に、世帯主の失業率と、配偶者がいる1000人当たりの年間離婚数(有配偶離婚率)の関係を見ると、バブル崩壊以降、失業率の上昇に合わせるように離婚率も上昇する。データの上からは、失業と離婚の間に相関関係はありそうだ。「何で相談無しに会社を辞めるの!」――。外資系生命保険会社の営業職だった50代の男性が、40代の妻から“三行半”を突き付けられたのは、2度目に職を失った直後だった。最初の失業は大手外食企業のリストラ。割り増し退職金を手にしたものの、再就職した生保会社の厳しいノルマを熟す為、男性は虎の子の退職金に手を付ける。家族名義の生命保険を、自ら幾つも契約したのだ。しかし、慣れない営業職に神経をすり減らし、結局は突発的に退職する。これが妻の逆鱗に触れた。結局、夫婦は別居し、妻は「退職金を保険料に充てなければ財産分与された筈」として、多額の慰謝料を要求。男性が拒み、妻は離婚調停を申し立てた。夫婦問題研究家の岡野あつこさん(61)に、実際に相談が寄せられた事例だ。自身の離婚経験を基に約25年間、多くの相談に乗ってきた岡野さんは、「本来は支え合うべきところを、失業をきっかけに離婚に至る夫婦を何人も見てきた」と話す。岡野さんによると、失業に伴う離婚は、「相談無しに離職したケースと、直ぐに就職活動に動かないケースで特に多い」。夫側には「事前に相談しても反対されるだけ」「失業保険が出る間はゆっくりしたい」等の思いがあるというが、妻側は強い不安に直面する。独断の離職や就職活動に熱心でないことが、妻側には“極めて不誠実”と映り易い。

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「失業は飽く迄もきっかけ。失業前後の夫の言動に『信用できない』と不信を抱き、関係が破綻するのではないか」と岡野さんは分析する。「日本では、“夫が妻を経済的に支える”という考え方が根強い。夫がリストラされる等、『収入が低くなると、女性が見限って実家に帰る』という選択肢がある」。そう指摘するのは、長年、家族社会学を研究してきた中央大学の山田昌弘教授だ。韓国等の海外でも同様の傾向があるが、欧米や中国は「夫が失業しても“次がある”と結婚関係が続く」といい、お国柄による違いもあるという。一方、統計学の手法を使った労働経済の研究を専門に扱う明海大学の佐藤一磨専任講師は、「確かに、失業は離婚と強い相関関係があるが、所得減少が原因とは言い切れない」と指摘する。つまり、原因は“お金”ではないということか? 一般的には、「夫の失業で世帯収入が無くなり、糊口を凌ぐ生活に妻が愛想を尽かす」と考えられがちだ。佐藤講師の研究でも、多くの日本人を10~20年、追跡調査した2つのパネル調査を使って、失業と離婚の関係を分析したところ、1~2年前に夫が失業した場合に夫婦の離婚確率が上昇した。だが、統計的手法を用いて所得減少の影響を除外した場合でも、失業が離婚の確率を上昇させる傾向があることも判明したのだという。つまり、「所得減少の有無に関わらず、失業がダイレクトに離婚に繋がっている」という訳だ。佐藤講師は、「失業そのものが“負の烙印”となって、結婚相手としての適性に疑問を抱かせ、離婚に至っている可能性がある」と話す。“頼りがい”や“威厳”のようなものが失われることこそ、危機を招くのかもしれない。3人の専門家の話を総合すると、「失業は離婚のきっかけになるが、必ずしも経済的な理由だけが原因で離婚に至っているとは言えない」というところか。“金の切れ目が縁の切れ目”という諺は、必ずしも当たらないのかもしれないが、若しもの時に備えて、普段からパートナーとの関係を良好に保っておくことが重要なことは、言うまでもなさそうだ。 (倉辺洋介・小川知世)

■時代と共に変わる家族像
日本の家族像は、時代と共に変化してきた。“働く夫と専業主婦・子供”は減り、単身や子供のいない世帯が増えた。昨年には、東京都渋谷区が同性カップルを公的に認定する条例を作る等、“家族”の定義を多様化する動きもある。家族の基本構成である“夫婦”も揺らぐ。年間の離婚数を結婚数で割った離婚率は、昭和初期には1割未満だったが、戦後は上昇に転じて、1982年に2割を突破。1998年以降は3割超で推移し、“3組に1組が離婚”する状況が続く。世帯平均人員(単身世帯除く)は、60年前の約5人から、2014年には3.04人に減少。嘗て4割を超えた3世代同居は、2014年には約7%で、家族は縮小を続けている。


⦿日本経済新聞 2015年12月31日付掲載⦿

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