【地方銀行のリアル】(40) 大東銀行(福島県)――筆頭株主『SBI』でパニック

「真珠湾攻撃」――。地元金融筋の間では、こう呼ばれているらしい。福島県郡山市に本店を置く第二地銀の『大東銀行』を激震が見舞ったのは、今年5月29日のことだった。地域金融機関を糾合する形で“第四のメガバンク”構想の実現を目指す『SBIホールディングス』が突如、筆頭株主へと躍り出たのである。傘下の『SBI証券』を通じ、マンション分譲や再生可能エネルギー事業等を手掛ける東証2部上場の『プロスペクト』から保有株の大半(※216万株弱)を譲り受けたもので、持ち株比率は17.14%(※議決権ベース)。更に、4日後の先月2日には16万9400株を追加取得し、合わせて発行株の18.49%を握った。「事前にSBI側から何ら連絡もなく、全く寝耳に水」(大東銀行幹部)の出来事だったという。鈴木孝雄社長も「筆頭株主の異動はここにきて(初めて)聞いた話で驚いている」として、不快感と衝撃を隠さない。無理もなかろう。SBIは昨年11月、福島市を本拠とするライバルの『福島銀行』と資本業務提携を結び、11億円の第三者割当増資を引き受けて17.85%を保有する筆頭株主となっているからだ。事と次第によっては、SBIが主導する形での合併・統合提案を受け入れざるを得ない局面に追い込まれる可能性すら浮上する。鈴木社長は早稲田大学社会科学部卒業後、1976年に大東銀行に入行。2004年に常務、2008年に専務となり、2010年6月に社長に昇格した。以来、10年間に亘ってトップに君臨。その豪腕ぶりは地元金融界でも夙に知れ亘っており、専務時代から既に「大東銀行には2人の社長がいる」と取り沙汰されていた程の実力者だ。
ただ、いざ再編ともなれば、その地位は一挙に流動化。いつまで玉座にとどまれるかは保証の限りではない。いきなり表舞台に登場してきたSBIの存在に、些か首筋辺りが薄ら寒くなったことだろう。その鈴木社長の下で大東銀行が今年度から新たにスタートさせたのが、「共創力と提案力で地域の豊かな未来を実現する」とした中期計画だ。自主独立路線を明確化したもので、コンサルティングや事業承継、M&A、事業再生支援等に経営資源を重点投入して、対法人ビジネスを底上げ。その一方、対個人は資産形成・管理や相続に注力して、投信・保険等の預かり資産を積み上げる。これにより、投信解約益を除いたコア業務純益を2023年3月期で15億円(※2020年3月期10.6億円)に拡大。預かり資産(※今年3月末時点で1102億円)50億円の上乗せを目指す。が、SBIの存在はそんな大東銀行が描く近未来図をも揺さぶる。同行関係者からは、「まさにSBIショック。出鼻を挫かれた形で、衝撃度はコロナショックを遥かに上回る」といった呻き声が止まらない。「純投資」――。SBIでは大東銀行株の取得の目的について、大量保有報告書等で今のところ、こう説明している。確かに、大東銀行株のPBR(※株価純資産倍率)は0.2倍前後。大幅に割安だ。とはいえ、これを真に受ける市場関係者は「ほぼ皆無」と言っても過言ではなかろう。SBIの資本業務提携先である福島銀行は、業績不振が続く地銀の中でも収益基盤が殊の外、脆弱だ。投信解約益を除いたコア業務純益は2020年3月期で7.29億円。前期比で2.6倍超増加したものの、その水準は地銀底辺クラス。今年1月にSBIとの共同店舗1号店を郡山市に出店する等、協業化が進みつつあるとはいえ、コロナ禍による取引先の財務内容悪化で今後は与信費用が膨らみかねず、「収益の劇的な改善や安定化は望み薄」(メガバンク筋)だ。こうした状況を打開するには、SBIという支持棒一本だけでは如何にも力不足。「再編の受け皿を用意して、一先ず合併や統合に活路を見出すしかない」(同)。そして、その受け皿候補としてSBIが白羽の矢を立てたのが大東銀行――。市場はすっかりこう見切っているのだ。尤も、「仮に両者の再編が実現したとしても、経営の先行きはなお予断を許さない」という見立てもまた、市場の総意と言ってよい。“弱者連合”との誹りを免れ難いからだ。
『帝国データバンク』が行なっている福島県内企業のメインバンク先調査によると、大東銀行のシェアは9.8%、福島銀行は8.3%。2行合わせても18%強に過ぎず、県内トップバンクである『東邦銀行』の40.6%に遠く及ばない。ボリュームの格差も圧倒的だ。東邦銀行の貸出金残高が今年3月末で3兆9405億円と4兆円の大台に迫るのに対し、大東銀行は5383億円、福島銀行は5324億円。単純合算で漸く1兆円に届こうかという水準で、東邦銀行の約4分の1にとどまる。そして、こうした数量格差はそのまま収益力にも跳ね返る。2020年3月期における大東・福島連合のコア業務純益(※投信解約益除く)は、足し合わせても17.89億円。一方の東邦銀行は76.73億円で、その4倍超だ。「大人と子供というか、象と蟻。ここまで実力差が懸絶していると踏み潰されるだけ。いくらSBIが後ろ盾につこうとも到底、太刀打ちできない」。メガバンク幹部の一人は言い切る。大東銀行は『郡山無尽』・『会津勧業無尽』・『磐城無尽』の三社の合併で、1942年8月に誕生した『大東無尽』が母体。戦後、相互銀行を経て1989年に普銀転換した。福島県内の他、栃木、埼玉、東京に各1店を配置する等、本支店58店を展開する。その大東銀行がここ数年、血道を上げてきたのが、退職者不補充等あの手この手による徹底した人件費の圧縮だ。2020年3月期の人件費支出は35.65億円。前期比6.3%削減した。『日本銀行』によるマイナス金利政策が始まった2016年3月期に計上した44.66億円と比べると、4年間で10億円近く、2割強もカットしたことになる。「最早、逆立ちしても鼻血すら出ない。これ以上、人件費削減を進めれば銀行業務が立ち行かなくなる上、士気が崩壊する」。中堅行員の一人は危機感を募らせるが、裏返せば、ここまでして骨身を削っても10億円規模のコア業務純益を稼ぎ出すのがやっとということにもなる。況してや、与信費用増等を通じてコロナ禍が銀行財務に負担を強いるのは、これからが本番だ。しかも大東銀行は、所謂コロナ禍7業種(※陸運、小売り、旅館・ホテル、飲食、生活関連サービス、娯楽・エンタメ、医療・福祉)向けの融資比率が「相対的に高い」(事情通)とも言われている。大東銀行の自己資本比率は今年3月末で9.24%、自己資本額は361億円強。その他有価証券の評価損益はマイナスで、不良債権の処理余力に乏しく、ちょっとした大口与信先で焦げ付きや回収不能が発生すれば、財務基盤を直撃する。SBIの軍門に下り、福島銀行との再編で一先ず延命を図るのか、それとも6月12日に成立したコロナ禍対応の改正金融機能強化法を使って公的資金注入申請の道を選ぶのか。何れにせよ、生き残りへの選択肢が急速に狭まりつつあることだけは確かだ。

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