【憲法のトリセツ】(05) 初の立憲国家はアメリカかフランスか

20161226 11
聖徳太子が作った『十七条憲法』が、現代で言う“憲法”ではないとすると、どの憲法が世界で初めてなのでしょうか? 1215年のイギリスの『マグナカルタ(大憲章)』は重要な先駆けですが、完成形とは言えません。世界の憲法の歴史を振り返ってみましょう。民主主義の先進国とされるイギリスですが、憲法についてこんな言い方をされることがあります。「イギリスには世界で最も古い憲法がある」「イギリスには憲法が無い」。どちらも間違っていません。イギリスには、『日本国憲法』のような単一の憲法はありません。でも、マグナカルタを始めとする様々な法令や判例を総称して“憲法”と呼んでいます。イギリスは立憲君主制の国です。王、若しくは女王がいて、貴族がいて、市民がいます。中世に王権が確立する過程で、王の暴走を防ぐ為に貴族が王に署名させたのがマグナカルタであり、近世に市民が持つ基本的人権を明確にさせようと王に承認させたのが『権利章典』(1689年)です。マグナカルタには、法に基づかない逮捕の禁止等が明記されました。権利章典には、議会の開設・自由な選挙の保証・議会の同意を得ない立法や課税の禁止――等、現代の憲法の世界標準が盛り込まれています。これらを以て、“世界最初の憲法”と呼んでも全く差し支えありません。ただ、ここに書かれていないルールも沢山あります。例えば、13世紀にエドワード1世が始めた行政と司法の分離もその1つです。民主主義の先進国であるが故に、少しずつ統治構造が出来上がり、纏まった文章にする機会が無かった訳です。

では、成文憲法――即ち文章で書かれた憲法の第1号は、どこの国のでしょうか? 一般的には、『アメリカ合衆国憲法』が世界最古とされています。1787年に書き上げられ、州による批准手続きを経て、1788年に発効しました。イギリスの植民地だったアメリカが独立を宣言したのは1776年ですから、当時としては新興国でした。それ故に、ジョージ・ワシントンら“建国の父たち”は、「しっかりした法体系を作ろう」と考えました。アメリカ国民は、自分たちが世界で最初の立憲国家であることに強い誇りを持っています。首都のワシントンD.C.には『憲法通り』という名前の道路があります。学校では、小さい頃から憲法の歴史をみっちり教え込まれます。左上画像は、代表的な絵本の日本版です。三権分立が大木に擬えられています。アメリカでは銃規制の是非がよく論議になりますが、規制反対派の最大の根拠は、「憲法修正第2条の“国民が武器を保有し携行する権利”は侵してはならない」です。良くも悪くも、アメリカ国民の憲法への思い入れはかなり過剰です。話が横道に逸れました。出来たばかりの合衆国憲法は、大統領の決め方等、統治構造に関する規定だけで出来ていました。“1つの国として独立した”と言っても、それまであまり交流の無かった13州を束ねる為のルール作りを急ぐ必要があったからです。前回、「憲法の役割は①国民の権利と義務の範囲を確定する②国家の統治の仕組みを構築する――の2つだ」と書きました。そこで、ワシントンらは3年後の1791年に、基本的人権に関する規定を纏めて付け加えました。これが修正第1条~修正第10条です。この時点で、漸く現代でも通用する“憲法”として完成したことになります。当時のアメリカは、フランスと親しい関係にありました。ライバルであるイギリスの国力を弱めたいフランスが、アメリカの独立を支援したからです。ホワイトハウスに隣接するラファイエット公園は、独立戦争に助っ人として参加したフランス軍人のラファイエット侯爵の名前を取ったものです。

そのフランスで1789年に革命が起き、ラファイエットの手になる『人権宣言』が発表されました。この宣言は革命政府の国民会議の名前で出されましたが、“社会全体の全ての構成員”を対象にしています。アメリカの建国の父たちはこれに刺激されて、「憲法に基本的人権に関する規定がいる」と思ったようです。フランスの革命政権は、2年後の1791年に憲法を採択しました。前文に人権宣言を再録し、本文で任期2年の一院制の議会を置く等の統治の仕組みを定めました。合衆国憲法に基本的人権が書き込まれたのと、時期がかなり近接しています。どちらが最初の“憲法”でしょうか? アメリカの憲法改正は、1789年9月25日(フランス人権宣言の1ヵ月後)に連邦議会で採択され、州による批准が終わって発効したのは1791年12月15日でした。フランスの国民会議が憲法を採択したのは同年9月3日ですから、人権と統治の2本柱に拘るならば、3ヵ月の差でフランスが第1号となります。尤も、フランス最初の憲法は、ルイ16世を“国民の代表”とする立憲君主制だったので、翌年8月の王政停止によって1年足らずで紙くずになりました。色々と修正を足しつつ、現在も効力を有する合衆国憲法を“最初の憲法”と呼ぶことが多いのには、そんな事情もあるようです。

※アメリカ合衆国憲法は、『アメリカンセンタージャパン』の翻訳に沿って引用しました。


大石格(おおいし・いたる) 日本経済新聞編集委員。1961年、東京都生まれ。東京大学法学部卒。国際大学国際関係学科修士課程修了後、1985年に『日本経済新聞社』入社。政治部記者・那覇支局長・政治部次長・ワシントン支局長として、様々な歴史的場面に立ち会ってきた。現在の担当は1面コラム“春秋”・2面コラム“風見鶏”・社説等。


⦿日本経済新聞電子版 2016年12月21日付掲載⦿

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