「安倍さんが生放送で不機嫌になったら勲章ですよ」――久米宏氏(フリーアナウンサー)インタビュー

看板キャスターの相次ぐ降板に、総務省・高市早苗大臣の“テレビ局への電波停止”発言――。安倍政権下で“テレビ言論”が危うくなっている。長年、『ニュースステーション』(テレビ朝日系)のメインキャスターを務め、ニュースショーという新分野を開拓した久米宏さんの目に、現状はどう映るのか? (聞き手/本誌編集部)

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──今春、岸井成格さん・古舘伊知郎さん・国谷裕子さんがキャスターを辞め、夜のニュース番組が大きく変わりました。
「4月に、僕のラジオ番組で“テレビのニュース番組を斬る”という特集をやったんです。それで、普段はあまり見ない各局のニュース番組を見比べてみた。気付いたのは、番組の構成・雰囲気・言葉遣い、何から何まで似ているんですよね。昼のワイドショーは特に同じです」

──今のニュース番組の基礎は、久米さんが1985年に始めた『ニュースステーション』にあるのではないですか?
「僕は、『他の番組と違うことをやろう』としか考えていなかった。極端な話、『キャスターが前を向いて話す必要もないんじゃないか?』とか。そういった工夫をしないと他局に勝てなかったから。当時も次々にニュース番組が出てきましたが、ライバルが増えれば、他と違う切り口や、話し方を変えないといけない。『どうやって視聴者に伝えるか?』を徹底的に考えて、他とは違う、手触り感のある番組を作ることが大切なんです。それが今は、北朝鮮取材で平壌から中継しても、どの局も同じ場所にリポーターが立ち、同じ内容を伝える。北朝鮮当局から規制があっても、リポーターは平壌の散髪屋に行って、自分の髪を切ってもらうぐらいのことはできる筈です。それでテレビに映って、『これが平壌で流行の髪形です』と話せばいい。それぐらいの工夫をやる人がいないというのが不思議ですよね」

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──最近では、高市大臣が国会で、政治的公平性を欠く放送を繰り返した場合、テレビ局への停波について言及する等、「テレビ報道への圧力が強まっている」と言われています。
「今はニュースの現場にいないのでわかりませんが、ニュースステーションをやっていた時、『放送局に圧力があった』とは聞いたことがありません。唯一思い出せるのは、番組を始めて1年ぐらい経ったときに、自民党の幹部から『毎晩見ていますよ』と連絡が来たことぐらい。その人からすると、圧力なんて思ってもないかもしれませんが。先日、元NHKの池上彰さんとニュース番組の話になりました。池上さんは、『今のニュース番組に元気が無いのは、テレビ局に“自粛”の空気が広がっているからだ』と。確かに、NHKの会長に籾井勝人さんがなって、『政府が右と言うものを左と言う訳にはいかない』と言っていますから、現場は萎縮しているのかもしれない。ただ、もっと根源的な話をすると、『放送局が持つべき“矜持”が失われているのではないか?』と思うんです。世の中には色んな企業があります。収益を上げて組織を存続させることを目的としていますが、利益以外にも、その企業が存在している理由がある筈です。例えば、宗教法人であるお寺は持続することに使命がありますよね。廃寺になってしまえば、お墓を守る人がいなくなりますから。一方で、宗派の教えを守ることも、お寺にとって第一義的に大切なことです。民放も同じ。企業として持続することと同時に、ニュースを伝える人間は守らなければならない矜持やルールがある。それが忘れられている」

――権力とメディアの馴れ合い体質は、特に批判されています。
「放送局の社長が安倍首相と晩飯を食べたことを自慢しているような信じられない光景は、昔は無かった。上からの圧力に怯えて“自粛”しているというよりも、テレビ局が『儲かればいい』とだけ考えるようになったんじゃないかなと。“ゴールデンタイム1位”“視聴率3冠獲得”とか、そんなことばかり重視されるようになった。恐らく、ニュース番組を作っている側の人間にしてみれば、『自粛している』なんて思っていない人が殆どだと思いますよ」

──今や、「ニュース番組でも台本通り・打ち合わせ通りに進行することが多い」と聞きます。
「それでは生放送の面白さは出ない。僕は、前日に考えた質問よりも、当日の本番中に思いついた質問を優先していた。そのほうが面白いからです。前日に考えた質問なんてつまらない。僕がニュースステーションを始めようと思ったのは、『ニュースをビジネスにしよう』と思ったからなんです。テレビで最終的に残るのはニュースとスポーツ。生放送はテレビが強い。あと残るのはコマーシャルぐらいでしょう。だから、『ニュースをビジネスにしないと民放は生き残れない』と思った。元経産官僚の古賀茂明さんが、昨年3月に報道ステーションのゲストコメンテーターとして出演する最後の回に、『官邸にバッシングを受けてきた』と突然語り、“I am not ABE”というフリップを出して、古舘伊知郎さんが反論したことがありましたよね。だから生放送は面白い。スポーツも同じで、何が起こるかわからないから、皆、生放送で見せる。野球もサッカーも、録画だと観ません。古賀さんのような事件は、キャスターとしてみれば1年に1回ぐらいはあってほしい(笑)。だって、私たちの住む世界は、生きている限り何が起こるかわからない。1秒前に普通の生活をしていたのが、大地震が起これば生活が一変する。報道番組だけ全て予定通りに進むなんてことはあり得ない」

──選挙特番の『選挙ステーション』等でも、意表をつく質問で政治家を怒らせていました。
「橋本龍太郎さんや森喜朗さんは露骨でしたね。僕は、政治家が不機嫌になると嬉しいんですよ。他の番組でニコニコしていた人が、僕の番組では苦々しい表情になる。それを引き出す為に、色んな質問を考える訳です。選挙特番って、特に横並びの無いようになりがち。各党の幹事長インタビュー等は、テレビ局で籤引きで順番を決めます。なので、最後のほうの順番になると、スタッフにそれまでの全局の放送を見てもらう。それで、他局で出た質問はぶつけない。『今朝、何を食べましたか?』なんて質問をする。人間、同じ質問を同じように答えるのって面白くない。その場で一生懸命考えて初めて、命のある言葉になる。顔つきも変わる。安倍さんが生放送の番組で不機嫌になったら、それは勲章ですよ。ニコニコ笑っていたらダメ。その報道番組は碌なものではない。宗派を忘れたお寺みたいなものです」

――最近は、タレントがキャスターやコメンテーターをやることも増えました。イメージ優先で、CMに出ている人が、時の政権に厳しい質問をすること自体が無理な気がします。
「放送局も脇が甘い。結局、『誰がやっても同じ番組ができる』と考えているから、そういう人選になる。生放送でも台本があるなら、誰がやっても同じですよ。ただ、これはマスコミ業界に限った話ではないかもしれない。世の中全般に“メリハリ”が無くなった。世の中全体に切り立った山が無くなって、なだらかな丘ばかりになった。高いんだか低いんだかわからない。三菱自動車の燃費偽装問題もそう。社会がだらしない感じになった」

――社会全体が、尖った番組を受け入れられなくなったのでしょうか?
「そんな難しい話ではないです。ニュース番組でも、お天気キャスターとメインキャスターが喧嘩するみたいな、そういう緊張感が必要なんです。キャスターが『最近太ったね』と言ったら、『何を失礼な』と言い返すとか。くだらないことかもしれないけど、今のニュース番組の中にある世界って、人間社会ではあり得ない世界なんです。人間社会って、いがみ合ったり、意地悪したり、それをやり返したりするもの。なのに、ニュース番組だけが教科書の中の“綺麗な世界”になっちゃってつまらない。第一、コメンテーターの言うことにキャスターが全て頷いていることがおかしい。“ノー”と言う日があってもいい」

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――そう言われると、久米さんは女性のサブキャスターとの不仲がよく話題になりました。
「実は、それはニュースステーションを始める時から考えたことでもあったんです。政治家等のゲストと対決するだけではなく、キャスター同士でも緊張感を保ちたかった。人間が出ているんだから、僕と小宮悦子さんが対立していたほうが、見ているほうが面白いでしょう(笑)。画面に緊張感も出る。だって毎日、一緒に仕事をしているのに、“皆仲良し”なんておかしいですよ。不自然。実際のところは、少し演出していたぐらいです。例えば、僕が小宮さんに『最近、人気が出てきたねぇ。お互い天狗にならないようにしようね』なんてイヤミを言ってみるとか。それをやらないと、僕の個性も失われてしまうんです」

――久米さんは何故、そういう番組作りができたのですか?
「僕はフリーでしたから。“ザ・べストテン”(TBSテレビ系)を降りて、『ニュースステーションで失敗したら路頭に迷って、死ぬしかない』と思っていた。必死でした。ニュースステーションの企画は、最初はTBSに持っていって断られたんです。テレビ朝日は3局目。当時、テレビ朝日は報道が弱くて、番組作りに協力してくれたスタッフも必死でした。番組を始めた時、僕は41歳。今年4月から報道ステーションのキャスターになった富川悠太さんは39歳。それほど変わらない。やろうと思えば、彼も新しいことができる。ただ、彼は童顔なんで、僕に比べて損しているかもしれないね。今、環境大臣になった丸川珠代さんも局アナ時代、一緒に番組で仕事をしました。当時、丸川さんは原稿を読むのはあまり上手くなかったけど、この前、国会中継を見ていたら、危なげなく答弁をしていましたよ(笑)」

――“良いニュース番組”を作るには、何が必要なのでしょうか?
「もっと映像を信用したほうがいい。最近、大相撲の中継をよく見るのですが、白鵬なんて表情を見ているだけで何を考えているかわかる。語らなくても、視聴者に伝わるものがある。それくらい、映像が持っている情報というのは、新聞やラジオとは違う。だから、僕はニュース番組でもっと頑張るべきはカメラマンだと思う。日々のニュースにも、視聴者に訴える決定的瞬間がもっとある筈。それを見逃している。その点、スポーツ番組のカメラマンは優れています。野球にしてもサッカーにしても、決定的瞬間を撮ることが勝負ですから。映像に緊張感がある」

――テレビに限らず、活字メディアも“伝える工夫”が弱くなっているのかもしれません。
「自由主義・資本主義にいるメディアである以上、競争しなければならない。本当の意味での競争をやれば、かなりよくなると思う。『他力本願ではなく、皆で手を組む訳でもなく、自分だけは自立して目立ってやろう』という精神。確かに、ニュース番組を作ることは難しい。難しいのですが、それ以前にテレビ自体が難しい。子供の頃から当たり前のようにテレビがある時代に育った人は、そこが理解できていない。テレビに映ることの根源的な怖さや恐ろしさ、テレビと活字の違い、そういうことを真剣に考えないといけない」

──「安倍政権は、『テレビにどう映るか?』を細かく考えて情報発信をしている」と言われています。
「妻の昭恵さんが言うには、安倍さんは映画好きで、『映画監督になりたかった』と言っているそうですね。僕は、とても映画監督に向いているとは思えないけど(笑)。ただ、安倍さんは、映像については、そこら辺のテレビマンより関心があるかもしれない。少なくともテレビマンは、安倍さんより映像のプロであってほしい」

──今の日本で期待できるキャスターはいますか?
「いませんね」

──では今後、テレビニュースを面白くしてくれるキャスターは出て来ないのでしょうか?
「1人出てくれば直ぐに変わりますよ。テレビってそういうものです。でも、新聞記者がメインキャスターや重要なコメンテーターをやっている限りはダメでしょうね。ニュースの解説には勿論、知識や教養が大切です。ただ、テレビでは『何を言うか?』よりも『どういう言い方をするか?』のほうが重要な場合がある。そこがテレビの難しいところ。踏み込んで言うと、どんな例え話が最も視聴者に伝わるのか。テレビは新聞記事に比べて、文字量が圧倒的に少ない。そこを考えているキャスターやコメンテーターがどれだけいるのか。筑紫哲也さんは新聞記者出身でしたが、よく考えていましたね。映画も好きで、テレビについても研究をしていました」

──ニュース番組の現状を変える為に、今でも久米さんのニュース番組復帰を期待する声がありますが。
「よく聞かれるんですけどね。毎晩、ニュース番組をやるのって大変なんですよ(笑)」


キャプチャ  2016年7月7日増刊号掲載

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テーマ : 報道・マスコミ
ジャンル : 政治・経済

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