【揺れる退位】(04) 摂政“二重構造”の懸念

20161227 01
憲法と『皇室典範』は、天皇が病気等で首相任命等の国事行為を行えない場合の対応策として、他の皇族が摂政として国事行為を代行する制度を設けている。政府の『天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議』の専門家ヒアリングでは、高齢になった天皇の負担軽減の為、摂政制度を活用できるかどうかも論点となった。政府は過去の国会答弁で、「摂政は天皇が病気・失踪・生死不明の状態等によって、自らの意思を示せない場合に限定される」としてきた。天皇が意思は示せるものの、入院や海外訪問等で国事行為を行えない場合には、国事行為を一時的に委任する臨時代行の制度がある。現憲法下で臨時代行は27件あったが、摂政が置かれた例は無い。天皇陛下は現在、自らの意思を示すことができる状態であり、摂政を置くには皇室典範の改正が必要だ。有識者会議がヒアリングで問うたのは、法改正して摂政設置の要件を緩和することの是非だ。ヒアリング対象となった16人の専門家の内、退位を容認した9人の多くは摂政設置に異論を唱えた。主な理由の1つは歴史的な経緯だ。ノンフィクション作家の保阪正康氏は、「大正天皇が崩御するまで摂政が置かれた5年間、“天皇がいるけれども天皇がいない二重構造の空間”があり、摂政を務めた昭和天皇も複雑な心境だったのでは」と指摘した。

陛下は今年8月のビデオメッセージで、摂政設置に否定的な考えを示された。保阪氏は、「天皇にしかわからない心理・感情は(他人には)わからない。軽々に『摂政を置けばいい』と言うのは、傍観者のエゴイズムだ」とも語った。天皇と摂政という2人の“権威”が並び立つことへの懸念も、反対理由の柱だ。高齢を理由に摂政を置けば、“意思は明瞭だが公務を行わない高齢の天皇”と“国事行為等を実際に務める摂政”の2人が存在するようになる。「長期間に亘ると、国民統合の象徴が事実上分裂する恐れ」(国士舘大学の百地章客員教授)もあり、退位して新天皇が即位したほうが国民にわかり易いという訳だ。元最高裁判所判事の園部逸夫氏は、「どちらが象徴として相応しいかわかり難い状態が続く。場合によっては、天皇の象徴性や権威も低下する」と警鐘を鳴らした。これに対し、退位に反対か慎重な立場の7人の内、5人は摂政を容認し、残る2人も「臨時代行で対応できる」と主張した。7人は、天皇による祭祀等の伝統的な役割を重視し、天皇が終身在位することの意義を強調している。「高齢になった天皇は祭祀に専念し、身体的な負担が大きい国事行為等は摂政等に任せればいい」という考え方だ。国学院大学の大原康男名誉教授は、「天皇は存在することが重要だ」として、「摂政等を置いても、天皇は我々が仰ぎ見る存在としての地位は変わらない」と述べた。だが、法改正して、高齢を理由に摂政を置けるようにした場合、摂政にどこまでの活動を任せるのかが問題となる。憲法は「摂政は天皇の名で国事行為を行う」としており、摂政が行えるのは本来、国事行為だけだが、天皇の公的行為に分類される国賓の歓迎行事・宮中晩餐会・外国への公式訪問等はどうするのか。こうした公的行為の一部を認める場合、これまでの政府解釈との整合性が問われる。政府は、これまで国会答弁等で、公的行為を「象徴としての地位に基づいて行われる公的な活動」と説明してきた。“象徴”でない摂政に公的行為を認める根拠を、どう説明するのか。詰めるべき課題は多い。

■18歳未満でも設置
憲法第5条は「皇室典範に基づいて摂政を置ける」と規定し、皇室典範第16条2項は「天皇が、精神もしくは身体の重患または重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く」と定める。同条1項により、天皇が未成年(18歳未満)の場合も摂政が置かれる。これに対し、国事行為の臨時代行に関する法律は、天皇は「精神もしくは身体の疾患または事故があるとき」、内閣の助言と承認で皇族に国事行為を委任し、臨時に代行させることができると規定する。摂政も臨時代行も、皇室典範に明記された順位に従って皇族が務め、天皇に支障が無くなれば廃止・解除される。政府は、「摂政設置は、天皇の意思に関係なく皇室会議が決める一方、臨時代行は天皇の意思と内閣の助言・承認で決める」としている。


⦿読売新聞 2016年12月11日付掲載⦿

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