【トランプショック】(12) FRB批判、不安高める――ナラヤナ・コチャラコタ氏(『ミネアポリス連邦銀行』前総裁)

20161227 03
――ドナルド・トランプ次期大統領の経済政策をどうみますか?
「インフラ投資は成長を高める潜在力を持つ。今まで抑えられてきたイノベーションの促進に繋がれば、経済への恩恵は大きい。一方、そうした効果が出なければ、労働需給が均衡に向かう中でインフレ圧力を高め、利上げを加速させるだけに終わるかもしれない」
「減税も需要押し上げに繋がり得る。効果の程は、やはり新しいアイデアに基づく製品やサービスが生まれ、消費者がそれを求めるかによる」

――通商政策には懸念があります。
「トランプ氏が保護主義的な感情を露わにしているのが心配だ。政策がその方向に動けば、アメリカや世界の経済には打撃となる。環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱宣言があったが、もっと懸念しているのは北米自由貿易協定(NAFTA)の行方だ。長く定着してきた仕組みで、そこから抜け出すようなことがあれば影響は甚大だ」
「貿易は経済全体を潤すが、恩恵が皆に平等に及んでいる訳でないのも確かだ。ただ、そうした問題は、所得再配分等で利益を分かち合うことによって対応すべきだ」

――市場では株高やドル高が進んでいます。
「相場の方向は理解できるが、動きの大きさは驚きだ。市場が期待するインフラ投資や減税は、議会を通さないと実現できない。共和党には財政悪化への懸念も強い。新政権と議会との間で緊張が生まれれば、どこまで実行されるかわからない」

――トランプ氏はドル高を容認しますか?
「彼の言動から感じるのは、『既存の概念を見直そう』という強い意欲だ。『アメリカの歴代政権は、ずっと為替市場介入を避けてきたから、それは変わらない』という風には考えないほうがいい」

――財政刺激策の金融政策への影響は?
「刺激策でインフレ圧力が高まるのか、生産性上昇のほうが進むのかによって変わる。前者なら、予想より速い速度で利上げが進むだろう。自分自身はインフレ率の低さを心配してきたので、財政出動が連邦準備理事会(FRB)にとってとても悪いことだとは思わない」
「経済を刺激も冷やしもしない“中立金利”(物価上昇分を除く実質水準)の上昇に繋がる可能性もあり、そうなれば将来の利下げ余地を増す利点がある」

――トランプ氏によるFRBのジャネット・イエレン議長批判が、選挙戦では目立ちました。
「大統領候補が金融政策を語ること自体はいい。だが、『政治的な配慮で金融政策を決めている』といった発言は明らかな誤り。政権発足後どうなるかはわからないが、不確実性を高めている」

――共和党の議員からは、FRBの金融政策への監視を強める内容の法案も出ていますね。
「心配している。一番危ないのは、政策決定時に、インフレ率や需給動向から望ましい政策金利を弾く“テイラールール”を参考にするよう求める法案だ。当局の手足を縛り、『このルールに基づいて政策が決まる』との誤解を招きかねない」 (聞き手/編集委員 実哲也)


⦿日本経済新聞 2016年12月7日付掲載⦿
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