【2017年の日本はこうなる】(02) 天皇陛下の“お気持ち”表明が指摘した“伝統”の制度疲労

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2016年8月8日、天皇陛下が“象徴天皇の務め”についての考えをビデオで国民に向けて公表した。憲法上、天皇は政治的発言はできないので、飽く迄も“個人として考えて来たこと”としつつ、全身全霊で果たすべき“国民統合の象徴としての役割”を、天皇が高齢となって十全に果たせなくなった場合、摂政を置いてまで終身在位することに疑問を呈した形だ。根底には、象徴天皇の在り方を模索し続け、憲法に定められた国事行為以外の公的活動を大幅に増やしてきた“積極的・能動的象徴天皇”観があるようだ。『皇室典範』第4条は、「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」と崩御継承を定めており、譲位継承を可能にするには、同条や関連条項の改正が必要となる。若し譲位が実現すれば、江戸時代後期の1817年に第119代光格天皇が仁孝天皇に譲位して以来、約200年ぶりとなる。“万世一系の天皇”を近代国家の機軸に据えた明治政府は、天皇が幼少の場合や重篤な病気等の場合には摂政を置く終身在位を、旧皇室典範で定めた。原案作成に当たった法制家の井上毅や柳原前光は“譲位”を盛り込んでいたが、伊藤博文が「天子は位を避くべからず」と反対して、“崩御継承”のみが規定された。敗戦後、天皇が“象徴”となり、“人間天皇”となった後も、現行典範に引き継がれている。譲位を認めない理由について政府は、①退位を認めると、歴史上にみられた上皇や法皇といった存在が出て弊害を生ずる恐れがある②天皇の自由意思に基づかない退位の強制があり得る③天皇が恣意的に退位できる――等と説明してきた。ただ、長い歴史を振り返ると、昭和天皇までの歴代天皇(※124代とされている)の内、譲位継承は7世紀の第35代皇極天皇から光格天皇まで58例ある。皇極天皇以降の90代だと、58代は64%を占める。譲位継承が通例化し始めた第45代聖武天皇以降だと、80代の内の54代と、実に68%が譲位継承だった。初めて“象徴”として即位した現天皇は、従来から、「帝国憲法下より戦後の日本国憲法下のほうが、長い伝統的な天皇の在り方に沿う」との考えを示している。終身在位への疑問には、国民に対する責任感と、摂政を置く為に重篤な病状が殊更に曝された祖父・大正天皇や、摂政という中途半端な立場で苦労し、最期の闘病が長引いて国や国民生活に影響を及ぼした父・昭和天皇の前例から、終身在位制度の非情さへの苦い思いもあるようだ。

ただ、譲位の制度化には幾つかの難しい課題もある。①譲位を認める基準をどうするのか。高齢化で一定年令に達したら認める定年制とするのか。本人の意思に基づくのか②承認するのは国会か政府か皇室会議か③譲位した太上天皇の活動をどう位置付けて、“象徴の二重性”といった事態を避けるのか④譲位を認めれば即位辞退の自由を認めることに繋がらないか――等だ。安倍内閣は天皇の発言を「重く受け止める」として、早期実現に向けて動き出した。過去の政府答弁との整合性もあり、明治以降の崩御継承の原則は崩さず、現天皇1代限りの特別措置法も検討されている。ただ、天皇は「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことを偏に念じ」ると、国民に理解を求めた。特措法では「天皇の真摯な問題提起を、まるで1人の天皇の我が儘であるかのように扱い、渋々“抜け穴”を作ろうとしている」との印象も与えかねず、「典範改正で恒久的な制度化を」との反対も予想される。また、どちらにしても様々な課題がある。①退位した前天皇の称号は、伝統通り“太上天皇”(略して“上皇”)とするのか②現皇太子が即位すれば皇太子不在となるが、皇位継承順位2位と3位の男子のいる秋篠宮家の扱いをどうするのか。“皇太弟”の位を新設するか否か③“明仁太上天皇”と“美智子皇太后”の住まい(※伝統的には『仙洞御所』と呼ばれた)をどうするか④剣璽等承継の儀を中心とする譲位の儀式をどう具体化するか⑤太上天皇家の日常経費は今の天皇家と皇太子家の経費を賄う“内廷費”の枠内とするか、それとも別建てとするか⑥宮内庁や皇宮警察のスタッフの配置はどうするか――等だ。皇室典範だけでなく、『皇室経済法』・『宮内庁法』・『皇統譜令』・『宮内庁組織令』等も手直しが必要となってくる。また、太上天皇が亡くなった時の葬儀を、天皇の大喪の礼のように大がかりな国事行為とするのか、或いは香淳皇后の時のように、皇室行事として簡素に営むのかも大きな論点となる。明治から大正にかけて、帝国憲法の神勅天皇を演出する儀礼体系は、膨大な旧皇室令で定められた。こうした旧令は、敗戦後の日本国憲法施行に伴い失効したが、天皇・皇族の通過儀礼や宮中行事等は“皇室の伝統”として踏襲され、昭和天皇の死去・葬儀と現天皇の即位・大嘗祭は戦前宛らに大がかりに再演され、国家機能や国民生活に大きな影響を及ぼした。「象徴天皇に相応しい儀式はどうあるべきか?」という議論はずっと置き去りのままで、皇太子妃が“皇室という環境への適応障害”を患い、こうした儀式から長年に亘ってドロップアウトする事態も起きている。現天皇が2012年、自らの葬儀について、従来の土葬ではなく火葬として、陵も控えめにする“薄葬”を希望したのも、こうした明治からの“創られた伝統”の制度疲労の問題に一石を投じた形で、今回の生前譲位という問題提起も、この延長上にある。象徴天皇の望ましい在り方について、時代に相応しい皇室の伝統の姿について、国民的議論が求められている。 (フリージャーナリスト 岩井克己)


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