【労基署ショックが日本を襲う】(03) 会計士・アナリスト・研究員…エリート業界に是正勧告の嵐

エリートと呼ばれる業界や職種にも、労働基準監督署がメスを入れ出した。今や、水面下で多くの有名企業が、労基署に問題を指摘されているのだ。その実態を取材で明らかにする。

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「労基署(労働基準監督署)対応が、今や最大の経営課題だ」――。4大監査法人の一角である『新日本監査法人』の幹部は、深刻な面持ちで語った。監査法人と言えば、エリート業界として名高い。超難関の国家資格試験をパスした公認会計士を多数擁し、企業の決算報告書にお墨付きを与える監査を行う花形職種だ。中でも、新日本監査法人・『監査法人トーマツ』・『あずさ監査法人』・『PwCあらた有限責任監査法人』は“4大監査法人”と呼ばれる。その彼らにとって今、労基署対応が喫緊の経営課題となっているというのだ。「来年4~5月の監査業務ができなくなるかもしれない」。前出の幹部がそれほどの危機感を募らせる理由は、労基署から100時間とも80時間とも言われる「月間残業時間のキャップ(上限)を嵌められる可能性がある」(同)からだという。監査現場では、繁忙期のピークになると、残業100時間超えは当たり前というのが実態。そんな上限を課せられれば、多くの企業が決算を締める3月末から、決算報告書を出す5月にかけてのピークを乗り切れないという訳だ。実は、監査法人業界は労基署対応以外にも苦悩を抱えている。1つは、『東芝』問題の余波だ。東芝の粉飾決算を見抜けなかった担当監査法人の新日本は勿論のこと、業界全体として監査品質の向上を迫られている。もう1つの苦悩は、慢性的な会計士不足だ。企業のアドバイザリー案件やベンチャー企業の新規株式公開(IPO)等で仕事は増える一方、会計士の人数は限られており、4大監査法人を中心に、毎年約1000人の資格試験合格者を奪い合っている。つまり、監査法人業界は左画像のように、労基署から労働時間の削減を迫られる一方で、監査品質を今まで以上に上げる必要があり、尚且つ人材不足という“三重苦”に陥っているのだ。

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こうなると、監査法人に残された道は限られてくる。その1つが、一定の利益が確保できる顧客に監査先を絞る“選別”だ。そうなると、真っ先に割を食うのがベンチャー企業。手間はあまり変わらないが、監査報酬は低い為、“監査難民”リスクが高まっている。それでも、監督当局の手が緩むことは無さそうだ。東京労働局のある幹部は、「監査法人が今、一番問題が多い。私の知る限り、相当酷い」と問題視していることを認めている。「監査法人は激務だ」というのが業界の常識だ。右画像のように、四半期決算や、決算期がずれている複数の企業の監査業務が重なると、年中繁忙期になる。労基署は、そんな監査法人へ監督に入り、労働環境改善に関する様々な指摘を行っているのだ。例えば、労基署の監督を受けたトーマツは今春、未払い残業代を支払っていたことが本誌の調べでわかった。勤務時間のタイムレポート内でサービス残業の温床となっていた、クライアント先に紐付いていない残業時間を職員に精査し直すように指示。再申告で判明した未払い残業代を纏めて支給した。「土日もサービス残業をさせられ、労基署も入って大変だった」と、元トーマツのある会計士は語る。また新日本も、東芝問題の処理に当たって、繁忙期のピークを更に上回る長時間労働が発生し、労基署から問題の指摘を受けている。ただ、社会問題化した東芝問題の影響度を鑑みて、労基著もその時ばかりは強く出なかったようだ。更に、本誌取材で残業代や長時間労働を巡る問題が判明したのは、監査法人だけではない。3大証券会社の一角である『SMBC日興証券』では、企業の財務分析やレポート作成を行う株式調査部で、残業時間の過少申告が発覚。残業代が出る“クラス2”以下の社員に対して、過去8ヵ月間の不足分を先月、一括支給したことがわかった。その他の事例も左下画像に纏めた。新入社員の過労死が社会問題化した『電通』は最早、説明不要だろう。大手カード会社の『ジェーシービー』は、違法な長時間労働で略式起訴され、罰金50万円の略式命令を受けた。また、『九州旅客鉃道(JR九州)』では残業代の未払いが発覚し、給料の追加支給を行っている。

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更に、ある厚生労働省幹部の口からは、「シンクタンクにも監督に入っている」という発言が漏れた。業界として名指しするほど、照準を合わせているようだ。厚労省によると、昨年4~12月に労基署が監督を実施した8530事業場の内、違法な時間外労働やサービス残業等の法令違反で是正勧告を受けた事業場は、実に56.2%の4790にも及ぶ。左画像に名前が挙がっているのは氷山の一角に過ぎず、今や多くの有名企業が、水面下で労基署から問題を指摘されているのだ。そして、その監督対象となる職種は、エリートと呼ばれる監査法人の会計士・証券会社のアナリスト・シンクタンクの研究員等に及んでいる。労基署がエリート職種に照準を合わせていることに危惧を抱くのは、そうした企業の人事担当者だけではない。現場で働くエリートたちの中には、「このままでは仕事をしたいのにできなくなる」と恐れている人もいるのだ。アナリストの間では、労基署のメスが入った『野村證券』(※前回参照)における厳しい勤怠管理が話題だ。同社では、社外からのリモートログインも含めて管理されているという。この話を聞いたある著名アナリストは、「只でさえ残業が難しくなってきているのに、それをやられると本当にアナリストの仕事ができなくなる」と頭を抱える。こうした“働きたい人が働けなくなる”というジレンマを抱えながら、エリート職種を抱える企業は、労基署対応・長時間労働の是正・働き方改革をどう進めていくのか。前出のトーマツでは、在宅や定時限定での勤務等を導入。「周囲の理解を得る為に、展開までに3年ほどかけた」(同社パートナーの滝沢勝己氏)。また新日本では、会計士を目指す試験合格前の人材を、“監査トレーニー”という枠組みで採用し始めた。募集100人に対して1000人以上が殺到。「第2新卒等のブルーオーシャン(未開拓市場)を狙っている」(同社人財開発本部長の松村洋季氏)という。長時間労働が前提となってビジネスモデルが成立しており、働く側も一定層はそれを受け入れたり、寧ろ望んでいたりするエリート職種。型に嵌まった規制はジレンマを招きかねず、働き方改革実現の難しさを再認識させる。


キャプチャ  2016年12月17日号掲載

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