【「佳く生きる」為の処方箋】(33) “挨拶”が患者の命を守る

2016年4月に『順天堂医院』の院長に就任し、8ヵ月が経ちました。この間の仕事は多岐に亘りますが、特に力を入れて取り組んでいるのが“挨拶・自己紹介”の徹底です。「こんにちは。心臓血管外科の天野です。宜しくお願いします」――。診察室に患者さんが入って来られたら、患者さんの顔を見ながら、こんな具合に自己紹介をします。これを院内の医師全員に励行するよう、求めているのです。挨拶だけではダメで、必ず自己紹介もします。考えてみれば、英会話学校でも先ず習うのは接拶と自己紹介。その基本のキを「大学病院の診療の場にも徹底させたい」と思っているのです。その理由は、大きく2つあります。1つは、患者さんとのコミュニケーションを良くする為。医師のほうから挨拶と自己紹介をすれば、患者さんも打ち解けて話し易くなります。「この医師は自分の話をちゃんと聞いてくれる」と心の扉を開き、診断に必要な情報を包み隠さず話してくれるようになるのです。それが、正確な診断と正しい治療に繋がります。挨拶と自己紹介は、まさに相互信頼の入り口です。もう1つは医療安全の為で、その代表が患者さんの誤認防止です。「別の患者さんと間違えて注射をした」とか、「取り違えて手術をした」等という医療事故がニュースになりますが、そういった医療過誤は絶対に起こしてはなりません。そこで必須なのが本人確認。これは、医療安全の為の一丁目一番地なのです。しかし、患者さんには名前や生年月日を聞くのに、医師の側は自分の名前すら言わないというのは失礼な話です。先ずは自ら挨拶と自己紹介をして、患者さんに個人情報を尋ねる。そうすれば、患者さんもすんなりと答えてくれて、確認自体がスムーズに運びます。

院内には医療安全管理委員会があり、患者確認を徹底するようスタッフに周知を図っていますが、実は「医師の実施率があまり高くない」という実情がありました。それが、挨拶・自己紹介と患者確認とをセットにしたところ、6割程度だった実施率が、数ヵ月後には8割以上にまで上がったのです。今後は100%を日指して、更に周知徹底していきます。病院が果たすべき使命は、言うまでもなく患者さんを守ることです。患者さんとの意思疎通も、正しい診断と治療も、医療過誤の防止も、目指すところは全て、“患者さんを守る”という一点に集約されます。挨拶と自己紹介は、その気になりさえすれば誰もが直ぐにできる日常生活のマナーですが、この使命を果たす大きな助けになることは確かです。勿論、対患者さんだけでなく、医療スタッフ間の潤滑油にもなります。互いに見知っている間柄なら自己紹介は省きますが、挨拶はその都度するのが基本。打ち合わせや廊下ですれ違う時等も、きちんと声を出して挨拶し合うべきです。それがチームの一体感と信頼感を醸成する。手術はチームワークですから、皆の連帯感が重要なのです。困ったのは医学部生で、挨拶のできない者が如何に多いか。「このまま彼らが医師になったら、将来の医療安全が脅かされるのではないか」と本気で危惧しています。学生の間でも、私は“挨拶に厳しい先生”で通っていますが、口煩く言う人がいないからこそ、敢えて“嫌われ役”を買って出ています。それもこれも、将来の患者さんを守る為です。挨拶や自己紹介が当たり前の“文化”として根付き、医療安全が高いレベルで守られる。そういう医療現場にするべく、今年も頑張ります。他を思いやる“仁”の心は、順天堂大学の学是です。“仁はまず挨拶より”といったところでしょうか。


天野篤(あまの・あつし) 心臓外科医・『順天堂医院』院長。1955年、埼玉県生まれ。日本大学医学部卒。『亀田総合病院』『新東京病院』等を経て、2002年に順天堂大学医学部心臓血管外科教授に就任。2012年2月18日に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀。2016年4月より現職。著書に『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)・『この道を生きる、心臓外科ひとすじ』(NHK出版新書)等。


キャプチャ  2016年12月29日・2017年1月5日号掲載
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