【中外時評】 トランプとレーガンの間――理念なき指導者の時代に

「指導者として大成する人は、強い意志を持ち、他者の意志を動かすすべを知っている」――。こう書いたのは、アメリカ第37代大統領を辞任した後のリチャード・ニクソンである(文春学藝ライブラリー『指導者とは』・日本語訳は徳岡孝夫)。そして、「自己中心的でない大指導者など見たことがない」とも言い切った。間もなくアメリカの大統領になるドナルド・トランプ氏が、勝負に勝つことや頂点に立つことについて、並々ならぬ意志力の持ち主であるのは疑いない。偽悪的なまでの放言を重ねながら有権者の半数の意志を手繰り寄せたのだから、ニクソンから高い点を貰えそうだ。やり方が多少強引でも、良い結果さえ出し続ければ、偉大な指導者の系譜に連なることができるかもしれない。だが、トランプ氏の挙動を見ていて不安を感じるのは、手法の問題だけではない。勢いよく投げ付ける言葉から、リーダーとしての理念や哲学が伝わってこないのだ。不動産業で成功したトランプ氏は嘗て、「私は金のために取引をするわけではない」「魅力は、ゲームをすること自体にある」と述べた(早川書房『トランプ自伝』・日本語訳は枝松真一)。国家指導者としてもビジネス取引の感覚で臨めば、周りから大きな方向感は見え難いだろう。トランプ氏が尊敬し、モデルとする指導者はいるのだろうか。意識しているように見えるのは、同じ共和党で1980年代に8年間、大統領の座にあったロナルド・レーガン氏(故人)だ。強力な軍拡で旧ソビエト連邦を追い詰め、東西冷戦を平和裏に、西側の勝利に導く道筋をつけた立役者である。経済への介入を限定する“小さな政府”と反共産主義を掲げ、“保守革命”と呼ばれる保守主義優勢の時代を築いた。アメリカで2011年に行われた世論調査では、“最も偉大な大統領”にエイブラハム・リンカーンやジョン・F・ケネディを抑え、トップに選ばれている。トランプ氏も軍事力強化を唱える。“アメリカを再び偉大に”の選挙スローガンは、レーガンが目指した“強いアメリカ”とそっくりだ。

大型の減税と規制緩和を処方箋とする経済政策も一見、1980年代の“レーガノミクス”を思い起こさせる。レーガンは俳優出身で、大統領になった時には軽量級との見方もあった。しかし、持ち前の明るさ・楽観主義・ユーモアのセンスで国民を魅了し、不況とインフレに沈んでいたジミー・カーター前政権時代の暗い空気を一変させた。筆者がワシントンで取材していた1980年代後半、毎週、ラジオを通じて国民に語りかけるレーガン大統領の口調は柔らかく、品があった。主張する政策は往々にして議論を呼んだものの、真摯で温かい印象を与えるのが上手かった。イギリスのマーガレット・サッチャー首相(当時)とは、手を携えて冷戦終結への道を歩む盟友関係にあったことで知られる。市場重視の経済思想でも馬が合った。サッチャーは回顧録で、「レーガンと話をすると、“高い理想と価値観の全て”において同じように感じた」と振り返っている。トランプ氏はイギリスのテリーザ・メイ首相に、「レーガンとサッチャーのような関係を築きたい」と提案したという。メイ首相と深く共感し、共有できる理念はあるのだろうか。スタンフォード大学のダニエル・オキモト名誉教授は、レーガンを“保守主義の信念の人”と呼ぶ一方、トランプ氏については“利己的な日和見主義者”と厳しい。トランプ氏の政策はレーガンと似ていても、全体を貫く軸を見い出すのは困難だ。レーガン大統領の政策にも、影の部分はあった。巨額の減税で財政赤字が膨らみ、貿易赤字との“双子の赤字”を生む。対策として、1985年の『プラザ合意』でドル安路線に舵を切ると、日本は急激な円高に見舞われ動揺する。これが、必要以上の金融緩和によるバブルとその崩壊の要因になり、日本経済の長期低迷に繋がった。アメリカでは経済が活性化したが、所得格差の拡大も顕著になる。理念が無くても課題を実践的に熟し、現実に応じて軌道修正できる柔軟さがあれば、指導者として成功するかもしれない。だが、自身のツイッターで企業への一方的な介入を繰り返すトランプ氏には、そんな力量を感じるのも難しい。ともあれ、世界はアメリカ第一主義の新しい大統領と向き合う。中露の指導者も、自国優先路線を直走りそうだ。大国間の理念無きパワーゲームの時代である。国際協調路線がしばしば“弱腰”と批判されたバラク・オバマ大統領は、理念倒れの指導者だったのか。寧ろ、「理念こそがアメリカの強さの源だ」と再評価されるのではないか。レーガンなら何と言うだろう。 (論説委員 刀祢館久雄)


⦿日本経済新聞 2017年1月8日付掲載⦿
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テーマ : 国際政治
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