【Global Economy】(18) 竹森俊平の世界潮流:ポピュリズム政治の行方

2017年の世界経済は、アメリカのドナルド・トランプ大統領就任や、イギリスの『ヨーロッパ連合(EU)』離脱問題等、歴史の転換点となる動きが相次ぐ。国際経済学者で慶應義塾大学教授の竹森俊平氏が、2017年の経済を展望する。

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経済はいつも政治の影響を受けるが、今年は特に政治上の出来事が世界経済を支配する。ポピュリズム(大衆迎合主義)旋風が昨年、欧米で吹き荒れた。この動きは、経済のグローバル化や、エリート主導の政治に強く反発する中間階層に支えられている。国民投票でEUからの離脱を選択したイギリスと、トランプ氏が大統領選で勝利したアメリカで、その傾向が顕著だった。トランプ氏は選挙で、既成秩序の破壊をテーマにした。ポピュリズム政治が、製造業の雇用回復等の目標を実現できるかどうかが、今年は試される。トランプ氏は大統領選で、3~4%の経済成長率の実現を掲げた。トランプ政権は、この公約達成を先ず目指すだろう。その為に、減税とインフラ(社会資本)への公共投資が実行される。それが好景気を齎すという期待で、アメリカの株式市場は既に活況に沸く。しかし、注意が必要だ。第一に、現在議論されているアメリカのインフラ投資計画は、空港や道路等に投資する民間企業を、政府が減税等で支援する案だ。企業がその案に応じ、大々的にインフラ投資を展開するかどうかは定かでない。第二に、減税のような財政措置には議会の承認がいるが、議会が大統領案をそのまま呑むとは限らない。少数派ではあるが、民主党は上院で審議引き延ばしの行動を取れる議席数を持つ。審議引き延ばしで対立党の大統領の政策を妨害するのは、これまでは共和党のお家芸だった。だが今回、「大統領選で民主党が不利になるように、ロシアがサイバー攻撃を仕掛けた」という『アメリカ中央情報局(CIA)』からの報告に、民主党議員は憤っている。それ故、財政措置ばかりか、主要閣僚人事についても民主党が審議引き延ばしをかけそうだ。

財政計画が思い通りにいかなかった場合、トランプ次期大統領は、大統領令だけで実行可能な貿易政策に軸足を移すかもしれない。選挙中の発言通り、中国やメキシコからの輸入に障壁を設けるのだ。そのようなことをしても、アメリカの製造業の雇用回復効果は限定的だろう。他方で、世界貿易ルールは大混乱する。今年一番の懸念材料だ。イギリスでは、国民投票の結果に従い、「EU離脱交渉開始の手続きであるリスボン条約第50条を3月までに発動する」と、メイ首相は公約している。しかし、離脱後にEUとどのような関係を維持するのか、イギリス国内の意見が纏まらない。EU側は、「イギリスがEU域内からの移民に制限をかけるなら、イギリスの金融ビジネスのEU域内での展開にも制限をかける」と明言している。移民の制限と金融ビジネスの発展、どちらを重視するのか――。その点で、イギリスの立場が決まらないのだ。このまま時間切れになれば、イギリスはEU内での金融ビジネスに認められた優遇条件を全て失った状態で、EUを離脱することになりかねない。そうなったら、EU市場への進出の地盤としてイギリスを考えている日本等外国の企業は、イギリスからの撤退を進める。それで、ヨーロッパで2番目に大きいイギリス経済が沈めば、世界景気への影響は計り知れない。今年は、ポピュリズム政治の真価が問われると同時に、既成の秩序がポピュリズムの更なる挑戦を撥ね返せるかどうかも問われる。焦点となるのは、ヨーロッパの2大国(フランスとドイツ)における選挙だ。4月から5月にかけてのフランス大統領選の場合、ポピュリズム政党である『フランス国民戦線(FN)』のマリーヌ・ル・ペン候補が、社会党の候補を退けて第2ラウンドに進むのは確実である。しかし、「既成秩序の支持者が第2ラウンドで共和党のフランソワ・フィヨン候補に結集する為、最終的に“ルペン大統領”誕生は阻止できる」と現在は予想されている。秋に行われるドイツの総選挙でも、「極右政党の進出はあるかもしれないが、結局は現職のアンゲラ・メルケル首相が4選を果たし、主導の内閣が誕生する」とみられている。予想が覆るとしたら、ポピュリズム候補が力を入れる移民・難民の問題で思いがけない展開があった場合だ。先月、べルリンのクリスマス市で発生したテロ事件の容疑者が、ドイツへの難民を申請して拒否された人物だった事実は、難民への門戸開放路線を表明していたメルケル首相にとり、大きな痛手だった。

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EUはイギリス離脱以外にも、銀行の経営不安や域内の南北格差拡大等、解決にドイツやフランスの政治指導力が不可欠な問題を多く抱えている。たとえ、両国の選挙で既成秩序の維持が確認されても、政治リーダーの権威が弱まれば、ヨーロッパ統合の行方は混沌としてくる。中国等の新興国や日本にとっては、アメリカの『連邦準備制度理事会(FRB)』の利上げの影響が注目される。順調な雇用回復を受け、FRBのジャネット・イエレン議長は、年内に3回の利上げを仄めかしている。いつものことだが、アメリカの利上げは、新興国に向かっていた資本の流れを逆転させかねない。最近、中国は個人や企業による対外投資に対する規制を強化した。アメリカの金利上昇で中国からの資本逃避が加速し、人民元売り・ドル買いが過熱する懸念が背景にある。中国だけでなく、海外からの資本流入の恩恵を受けてきた新興国にとり、アメリカの利上げは脅威だ。他方で、日本のように資本流入に依存せず、資本輸出に積極的だった経済にとっては、アメリカの利上げは、日米の金利差により利益を稼ぐ機会を生む。実際、アメリカへの投資を目指す邦銀のドル買い加速で、円安・株高が進んでいる。しかし、“円安”は同時に“ドル高”を意味する。「アメリカの製造業の雇用を輸入から守る」ことを建前にするトランプ次期大統領が、どう対応するか。やはり、アメリカの保護貿易政策が懸念材料だ。


竹森俊平(たけもり・しゅんぺい) 経済学者・慶應義塾大学経済学部教授。1956年、東京都生まれ。パリ大学留学(サンケイスカラシップ)。慶應義塾大学経済学部卒。同大学大学院経済学研究科修了。同大学経済学部助手やロチェスター大学留学を経て現職。著書に『世界経済危機は終わった』(日本経済新聞出版社)・『欧州統合、ギリシャに死す』(講談社)等。


⦿読売新聞 2017年1月6日付掲載⦿

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テーマ : 経済
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