【2017年の世界はこうなる】(01) 先進国と新興国、逆転する希望と失望

20170110 01
今の時代には、繁栄も機会も繋がり(コネクティビティー)も、嘗てないほど溢れている。昔より寿命は延びたし、教育の機会も(とりわけ女性にとっては)飛躍的に増えた。先進的な医療が普及したおかげで、1世代前なら助からなかった筈の命が沢山救われている。では何故、欧米社会で、こんなにも多くの人が不満を抱いているのか。アメリカの場合、複数の主要な世論調査結果を総合した『ハフィントンポスト』の報道によると、国民の10人に6人が「この国は間違った方向に進んでいる」と考えていた。『ピューリサーチセンター』の調査では、3人に2人が「子供の世代は自分たちの世代より貧しくなる」と憂えていた。イギリスも似たような状況で、フランス、イタリア、ドイツはもっと悲観的だ。何しろ、ユーロ圏の先行きは不透明で、景気も停滞している。但し、西欧諸国は2世代ほど前にもっと酷い経験をしている。約5000万人の議牲者と、計り知れないほどの破壊を齎した第2次世界大戦だ。勿論、長い目で見れば、楽観的なマクロ的予想をすることもできる。だが、人々は限られた時間をミクロな市民として生きている。皆、リアルな世界を生き、リアルな混乱を経験し、リアルな不満を抱く。そして、今の欧米社会には混乱・不満・怒りが満ちている。欧米に暮らす私たちは今、“不安の時代”を生きているようだ。では欧米以外の、世界の“残り”の部分(つまりアジア、アフリカ、中南米)はどうか。中国やインド、アジアやアフリカの新興諸国(ベトナム、インドネシア、ナイジェリア、エチオピア等)に目を向ければ、これらの国々に暮らす人々には新たな希望と楽観主義が芽生えている。欧米の親は子供の未来を案じているが、中国、インド、ナイジェリア、エチオピア、ベトナムを始めとする新興国の親は、子供の将来を楽観している。そして、「自国は正しい方向に進んでいる」と固く信じている。因みに、“残り”の人々は、世界の総人口の85%を占める。つまり、“85派”は概して希望に満ち、“15派”は不安と怒りに苛まれているということだ。何故、こんなことになったのか?

欧米社会(日本もここに含まれる)は物質的に、“残り”の地域より豊かだ。欧米の人は綺麗な空気を吸い、安全で種類豊富な食べ物を口にし、自由で公正な選挙に参加し、個人の能力を伸ばす機会にも恵まれている筈だ。勿論、比較対照の問題はあり、新たな“怒りの政治”の問題もある。欧米人は質の高い生活に慣れていて、「そうした生活を送る権利がある」と信じている。だから、給料が上がらず、職を失い、生活が不安定になれば不満を抱き、腹を立て易い。実際、アメリカでもヨーロッパでも、中流層の暮らしは苦しくなっている。特に、高卒の労働者はきつい。雇用機会は狭まり、これまでの常識が通用しない。しかもアメリカでは、この15年で肉体労働者の平均寿命が縮まっている。絶望したくなるのも当然だ。ラジオを聴き、テレビやインターネットの情報サイトを見ればわかる。今では、人々の失望感が、あっという間に怒りや憎悪へと膨れ上がっていく。アメリカのラジオのトーク番組は怒りに満ちている。テレビのニュース番組も罵り合いの場になった。誰もが反対意見に異を唱えるでなく、相手を邪悪な存在と考えたがる。『フェイスブック』等のソーシャルメディアはフェイク(偽)ニュースの舞台となり、偽情報は瞬時に世界に広まっていく。嘗て、イギリスの元首相であるウィンストン・チャーチルは言ったものだ。「真実がズボンを穿く間に、嘘は世界を半周している」。ヨーロッパでも、ポピュリストやナショナリストの政治家が如何わしいスローガンを使って、既存の政治家やイスラム教徒、移民への憎悪をかき立てる。こうしたスローガンは有権者を惹き付けるが、有権者が置かれた苦しい状況の救いにはならない。何故、こんな状況に陥ったのか? 17世紀の哲学者であるトーマス・ホッブズの言葉を借りれば、人間は元々野卑で、野蛮で短命な存在だった。しかし、200年ほど前の産業革命で、欧米諸国では“中流層”と呼ばれる人が増え、大量消費の時代が来た。西欧諸国は早くからアジア、アフリカ、中南米に植民地を広げ、その豊かな資源を巧みに搾取していたが、産業革命後は搾取の規模もペースも格段に上がり、“残り”の地域との格差を益々広げることになった。20世紀の初頭までは、ヨーロッパに世界の人口の4分の1が住み、10大都市の内の9つまでは欧米にあった。2度の世界大戦を経た後も、欧米が歩みを止めることはなく、建設と創造と革新を続け、人々はより豊かに、より健康になった。教育水準は高まり、自由の幅は広がった。20世紀後半に先進国の仲間入りをした日本は、「“欧米化”した」と形容されたものだ。

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しかし、1980年代になると、“残り”の地域が追い掛けてきた。中国は世界の工場となり、貿易額で世界一となった今や、世界経済――とりわけアジアと新興諸国の経済に大きな影響を及ぼしている。インドも1990年代から躍進し、この20年で新興市場の輝く星となった。勿論、中国にもインドにも問題はある。中国国民は嘗てないほどの購買力を手にしたが、未だに政治的自由が無い。エリート層も、最近の急速な資金流出に不安を抱いている。インドでも中流層は飛躍的に増えた。しかし、国民の大半は今も汚れた空気を吸い、清潔なトイレなど望むべくもなく、酷い貧困に喘いでいる。それでも、“85派”が楽観的なのは何故か。先ず、40歳以上の中国人なら、人口の90%近くが極貧だった時代を知っている。極最近、1980年代初めのことだ。今の極貧人口は10%を下回る。そして、10代半ばから30代のミレニアル世代は本物の不況を知らない。だから、「未来は明るい」と信じる。事情はインド、ナイジェリア、エチオピア、ベトナムでも大差ない。“85派”の国にも大都市が出現している。ドバイ、上海、深圳、バンガロール等で、今やシンガポールや香港に追い付く勢いだ。ナイロビ、アブダビ、サンティアゴがこれに続く。新興地域の企業が先進国企業との競争に参戦し、勝利を収める例もある。アラブ首長国連邦(UAE)の『エミレーツ』・『エティハド』、それにカタールやトルコ等といった中東の航空会社は、欧米の『ルフトハンザ』・『エールフランス』・『ユナイテッド』と肩を並べ、凌駕する場合もある。中国の『阿里巴巴集団』は『Amazon.com』を蹴散らし、『滴滴出行』は『ウーバー』の中国事業を買収した。イギリスの名門『ジャガー』はインドの『タタモーターズ』の傘下にあり、ベルギーの『ゴディバ』はトルコの食品会社『ウルケル』に買収された。通信業界でも、インドの『バーティエアテル』、UAEの『エティサラート』、エジプトの『オラスコムテレコム』、南アフリカの『MTNグループ』が、世界市場で欧米企業に挑んでいる。

フィリピンのファストフード市場では、地元企業の『ジョリビー』に『マクドナルド』や『バーガーキング』が苦戦を強いられている。それでも、軍事力では欧米が圧倒しているが、孤立主義に傾く欧米諸国が軍事力に訴える可能性は低い。そうなると、残るは経済力の勝負だが、実はGDPも中流層も貿易も、とっくにアジアへ流れている。アジアには世界のGDPの約3分の1が集中し、更に増えている。2030年までには、世界の中流層の3分の2をアジア人が占めているだろう。今でも、輸入額ではアジアがアメリカやEUを上回っている。アメリカの次期大統領であるドナルド・トランプは、中国との貿易不均衡を大騒ぎしているが、憂慮すべきは自国と“残り”の諸国における“希望の不均衡”だ。20世紀後半、欧米は経済でも貿易でも、政治でも軍事でも大衆文化でも、世界を牽引してきた。その結果、欧米人は様々な分野で優越感を抱いた。勿論、“希望”でも優越していた。あの頃は、欧米の寛容な資本主義が、希望をほぼ独占していた。所得が上昇し、技術が進歩し、「国が正しい方向に向かっている」と信じられたからだ。だが、そんな時代は終わった。今では希望の不均衡が逆転している。欧米諸国の人々は今、中国、インド、新興諸国の人々に比べると、概して将来に希望を抱いていない。希望は数値化できない。希望でものを買える訳でもない。しかし、アルバート・アインシュタインは言う。「数えられるものはどうでもいい。数えられないものこそ大事だ」と。ならば、希望は大事だ。これからの1年、ヨーロッパは希望の欠如で混乱するだろう。2016年のイギリスとアメリカがそうだったように、フランス、ドイツ、オランダの選挙には希望の欠如が暗い影を落とし、中道派は苦戦を強いられ、左右のポピュリストや民族主義者が大きく躍進することだろう。特定の集団を“敵”に仕立てるやり口が横行し、外国人の排斥と社会の分断が進み、穏健な中道派は居場所を失うだろう。世界の85%が希望の時代を生きている時に、15%の欧米諸国は不安な時代を生きているようだ。この分断が世界を揺るがし、私たちの社会や政治、そして生き様をも変えていく。今、必要なのは、“15派”が希望を取り戻すことだ。減税や金利の操作よりも、“85派”と“15派”が等しく希望を持てる世界を作り出すことだ。トランプを始め、欧米のポピュリストたちは、人々の怒りを増幅させる術に長けている。彼らに、希望を増幅させる術もあることを祈ろう。 (本誌コラムニスト アフシン・モラビ)


キャプチャ  2017年1月3日・10日号掲載

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