【2017年の世界はこうなる】(02) トランプ就任100日の挫折

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ドナルド・トランプの支持者は、アメリカ政治史に刻まれる大番狂わせを起こした。ところが、彼らは新政権が発足して最初の100日間に、大きな失望を味わうことになりそうだ。トランプは2016年11月下旬、就任後に何をやりたいかを有権者に伝えるビデオを公開した。そこでは、移民の流入を防ぐメキシコ国境の“壁”の建設も、『オバマケア』(医療保険制度改革)の撤廃も触れられていなかった。アメリカでは、選挙戦での訴えが中々実現できないのが常識ではある。しかし、当選から1ヵ月半が過ぎたトランプの場合には、その点が大きく引っかかる。トランプ陣営は、主要な公約の一部について「議会審議を回避する必要がある」と考えている。何しろトランプは、歴史的に見ても“最弱”大統領の1人になる。就任時の支持率は世論調査が定着して以来最低の水準だろうし、有権者の54%は一般投票で別の候補を支持していたのだ。連邦議会の上下両院は共和党が制したが、同党の多くの議員の間では、トランプは予備選の序盤において、17人の共和党大統領候補の内、17番目と見られていた。与党内での支持率は低く、求心力には疑問符が付く。従って、最初は実現が比較的簡単で、支持者の受けがよさそうな政策を実行に移す可能性が高い。トランプが就任直後から抱える政策を、其々の実現可能性に分けて考えてみた。

■難易度低し
①貿易 トランプは『環太平洋経済連携協定(TPP)』をぶっ潰す。現大統領のバラク・オバマが実現に向けて交渉を重ねてきた貿易協定だが、議会の批准に持ち込めなかった。大統領選では、民主党候補のヒラリー・クリントンもTPPに否定的な姿勢を打ち出したが、トランプはアメリカとその労働者に対する“レイプ”という強烈な表現で、TPPを批判した。トランプが予想外の当選を果たした要因の1つは、国際競争に負けて衰退した『ラストベルト』と呼ばれる工業地域のミシガン州・ウィスコンシン州・ペンシルベニア州等で、教育水準の低い白人有権者を味方に付けたことだ。その為、一般投票ではクリントンに300万票近い差を付けられながら、以前なら民主党が勝っていた州で勝利を収めた。これも、“アメリカを再び偉大にする”というスローガンのおかげだ。トランプはクリントンとの間で、白人労働者層の支持率の差を約40%に広げた。このスローガンは、製造業のアウトソーシングが始まるまでは、安定雇用を享受していた人々の郷愁に訴えた。TPP離脱は、トランプが熱烈な有権者と思想を共有し、政治的にも殆ど抵抗を受けないことを示すいい機会になるだろう。
②規制緩和 トランプは、政治の素人の割には、優れた腕前を発揮して有権者に取り入った。肥大化した中央官僚機構による規制に苛立つ人々の心を掴んだのだ。彼は、「新規の規制1件につき、古い規制2件を撤廃する」と約束。これが実行されると見込んで、特に「金融規制が緩む」という期待感から、金融株が大きく値上がりした。既に、金融機関は利益増を予測している。
③環境問題 トランプの主張によると、「気候変動は、中国がアメリカの生産性低下を狙って捏造した説ではないか」ということになる。気候変動に懐疑的な人物を『環境保護局(EPA)』長官に指名したからには、オバマ政権による環境規制を本気で覆すつもりらしい。トランプは“石炭戦争”と選挙戦中に称したように、『クリーン発電法』を標的にするだろう。国内の炭鉱地域で、トランプは圧倒的に強かった。環境問題に熱心だったオバマの大統領令を、幾つも撤回するだろう。国際的な温暖化対策であるパリ協定から「離脱する」との約束も守るかもしれない。但し、逆方向の動きも1つ、可能性がある。トランプの長女・イバンカが、「政権内でファーストレディーのように強力な役割を果たす」とみられているからだ。既に彼女は、環境活動家としてノーベル平和賞を受賞したアル・ゴア元副大統領との会合に臨んだ。環境問題が自身の主要テーマになる可能性を、公式に表明してもいる。

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■中難易度だが制約あり
①移民 トランプは選挙戦で、「メキシコ国境に壁を造り、その建設費をメキシコ側に負担させる」と散々繰り返した。この公約は政治的に不可能だし、建設事業としても無理がある。しかし、ビザの認証制度を変えて、制限措置や刑事罰も導入することで、公約を“守った”ことにできるかもしれない。多くは、就任後の情勢に懸かっている。国内でテロが起こる等すれば、入国を認めない人物に関する大統領令が、今より厳格なものになるかもしれない。
②ロビー活動規制 “ワシントンの腐敗を一掃する”という意味の“へドロをかき出す”という選挙戦のキャッチフレーズは、トランプ支持者に人気があった。彼は、既成政治に挑むアウトサイダーとして選挙戦を戦った。大統領になればロビー活動を規制できる筈だが、当選後に取った行動は、熱烈なポピュリスト的支持者を満足させるものではない。何といっても、トランプの政権移行チームには、典型的な政界のインサイダーやロビイストが溢れている。トランプは、クリントンが証券大手『ゴールドマンサックス』で行った講演を取り上げて政治的に利用し、彼女を同社の“操り人形”と呼んだ。だが、経済分野で最も重要な地位である財務長官・『国家経済会議(NEC)』委員長・首席戦略官に、同社出身者を指名した。政界の新参者であるトランプは、顧問として政界と太いパイプを持つ人物を頼りにしているのだろう。ワシントンでは、「当選後にオバマと面会したトランプが、大統領の仕事の多さにショックを受けた」という噂も囁かれている。統治は選挙運動よりも遥かに難しいことに、彼はやっと気付いたようだ。

■難易度高し
①議員任期制限の憲法修正 “既存政治の破壊”を唱えたトランプの政策の目玉の1つは、連邦議員の再選回数に制限を設ける憲法修正案だった。憲法を修正するには、連邦議員の3分の2と、州の4分の3の支持を得る必要がある。トランプがこの公約を実現できる見込みは全く無い。
②オバマケア 後世の歴史家は、オバマを“最も素晴らしい政治家の1人”と評価するだろう。アメリカ初の黒人大統領であり、大統領選挙を見事に戦った。医療保険制度改革は、オバマ政権の最も重要な国内政策であり、その実施は政権の遺産として極めて重要だ。大統領選の結果が出て以来、オバマは政治的な才能を発揮してトランプを取り込んだ。大人な対応で、5年に亘って自分を侮辱し続けた男を、敬意と尊厳を持って遇した。トランプはオバマを「偉大な男だ」と称賛し、「今後も助言を仰ぎたい」と語った。これは、オバマを“史上最悪の大統領”とした選挙中のトランプの主張を180度覆すものだ。既にトランプは、オバマケアの“廃止”という選挙中の公約から後退し、「一部維持を検討する」と述べている。
③ヒラリー・クリントンの“投獄” トランプの選挙演説は、「ヒラリーを投獄せよ!」という支持者の大合唱に遮られることが多かった。トランプはクリントンについて、「“最も腐敗した”政治家であり、自分が大統領になったら彼女を刑務所に入れる」とテレビ討論会で面と向かって言った。だが、彼は方向転換した。地方の支持者と勝利を祝う“凱旋ツアー”でトランプは、「選挙中は“投獄しろ”という言葉が気に入っていたが、今はそこに拘る必要は既にない」と語った。
④利益相反問題 トランプの企業王国は、憲法上の問題になる可能性がある。特に、子供たちに持ち株会社を経営させ、同時に政権の上級顧問として起用するとなると、深刻度は増すだろう。大統領の倫理問題に詳しい専門家は、「トランプがこのまま進むなら、憲法の報酬規定に明らかに違反することになる」と厳しく指摘している。例えば、外交官がワシントンのトランプ系ホテルに濡在すれば、トランプは外国政府から利益を得たことになり、合衆国憲法第2条に違反する。トランプは、最初の100日を自らの腐敗や利益相反問題の収拾に費やすことになり、重要な政策課題が後回しになりかねない。
⑤外交政策 台湾の蔡英文総統と電話会議を行って中国を怒らせた一件や、パキスタンとロシア首脳との電話会談、更にイランに対する声明で、トランプは既に国務省のベテラン外交官たちを慄かせている。国務長官に指名されたレックス・ティラーソンが、多くを左右するだろう。但し、トランプは、アメリカ史上最も外交政策の準備が甘い大統領だ。最初の100日に、外交上の失策を数多く仕出かすことは間違いない。

               ◇

新政権発足直後の成績表を占う時に誤りがちなのは、外部環境の重要要因と、憲法上の“抑制と均衡”という点を過小評価してしまうことだ。“大統領制”というシステムは、大統領その人だけで成り立っている訳ではない。世界が複雑化していることもあり、大統領の政策が上手くいく可能性は、歴史的に見ても五分五分といったところだ。トランプは、アメリカ史上最も予測不可能で、最も経験の無い大統領だ。その為、この不確実性は更に大きくなる。確実と言えるのは、「トランプが統治する限り、国民は政治の混乱を経験する」ということだ。 (ジョージタウン大学教授 サム・ポトリッキオ)


キャプチャ  2017年1月3日・10日号掲載

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テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

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