【2017年の世界はこうなる】(04) トランプという激震がアジアを揺さぶる

20170110 06
アジア太平洋諸国にとって、2017年は戦略見直しの年になる。アメリカでドナルド・トランプ政権が発足すれば、これまでとは大きく異なる外交政策が展開され、日本を含むアジア諸国は、その対応に追われるだろう。勿論、波乱要因はトランプ政権だけではない。中国の強引な言動・北朝鮮の挑発・ロシアの復活等、この地域の地政学はギスギスする一方だ。『東南アジア諸国連合(ASEAN)』は、中国への対応を巡って足並みが乱れており、アメリカによる方向付けが無くなれば、一段とバラバラになりそうだ。豊かな自由主義の国の集まりだった『G7』は2016年、ポピュリズムと反グローバル化の波に揉まれ、大きな潮目の変化を迎えた。その最も衝撃的な例が、イギリスの“BREXIT”(EU離脱)選択と、アメリカ大統領選におけるトランプの勝利だろう。更に、イタリアではマッテオ・レンツィ首相が辞任に追い込まれ、フランスでは極右政党『国民戦線(FN)』の支持が急拡大している。G7の首脳で経験と実績のあるリーダーは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相と日本の安倍晋三首相だけとなる。東南アジアでも、フィリピンでポピュリストのロドリゴ・ドゥテルテ大統類が誕生して、“アメリカからの決別”を宣言し、ロシアや中国との関係を強化している。マレーシアやべトナム等ASEANの一部新興国も、トランプによる『環太平洋経済連携協定(TPP)』からの離脱宣言以来、アメリカとの希薄な関係が目立つ。韓国では、朴槿恵大統領が自らの政治スキャンダルにより、辞意を表明。次期大統領が中国に歩み寄る可能性が指摘されている。朴は2016年、中国の猛反対を押し切って、在韓アメリカ軍の『高高度防衛ミサイル(THAAD)』配備を決定。野党から厳しい批判を受けていた。朴の後継者が誰になるかによっては、従軍慰安婦問題に関する日韓合意や、日韓の軍事情報包括保護協定についても見直し論が出てくる可能性がある。北朝鮮のことを考えると、韓国の政局混乱は一段と大きな危険を孕んで見える。北朝鮮は、韓国の混乱や、トランプ政権の誕生でアメリカの外交方針が不明瞭になるタイミングを利用して、大量破壊兵器とその運搬手段技術の開発を積極的に進めようとするだろう。

事態を更に複雑にしているのは、トランプが選挙戦の時から、「中国に圧力をかけて、北朝鮮にもっと言うことを聞かせる」と主張していることだ。具体的な政策は明らかにしていないが、トランプが北朝鮮をテロ組織『IS(イスラミックステート)』に次ぐ優先課題に位置付けているのは間違いない。そして、「中国が金正恩体制をコントロールできていない」と非難してきた。だが、たとえ中国がしっかりしても、アメリカが北朝鮮のリスクに対応できるかどうかはわからない。第一、トランプ政権には今のところ、アジアは勿論、外交政策の専門家がいない。その上、トランプは同盟の価値を軽視する発言を繰り返しており、日本や韓国等といったアジアの同盟国は懸念を深めている。金正恩は、こうした北朝鮮包囲網の綻びを利用してトランプに直接掛け合い、2国間合意を結ぼうとするかもしれない。そして、トランプは同盟国への相談無しに、金の呼び掛けに応じてしまうかもしれない。だが、その種の合意が本当に「北朝鮮の非核化に繋がる」と思うなら、トランプは甘過ぎる。とはいえ、アジア太平洋地域で何より注視するべきなのは、北朝鮮ではなく、中国のトランプ政権への対応だ。トランプは選挙期間中、中国に対する不満を捲し立ててきた。「中国は為替操作をしている」とか、「莫大な貿易黒字によってアメリカを“レイプ”している」といった具合だ。米中関係の見通しを決定的に悪化させたのは、トランプと台湾・蔡英文総統との電話会談だ。これは、アメリカが1970年代から離持してきた“1つの中国”という外交原則を覆すものだ。トランプは更に、中国が南シナ海に巨大な軍事施設を建設していることや、南シナ海でアメリカ海軍の無人潜水機を拿捕したことを厳しく非難した。だが、「トランプ時代の米中関係が対立一辺倒になる」と決め付けるのは未だ早い。トランプは生来のビジネスマンであり、“合意作りの名人”を自負している。中国を公然と挑発したのも、「“1つの中国”という原則を維持してほしいなら貿易面で譲歩しろ」という交渉術なのかもしれない。逆の見方をすれば、「台湾がアメリカの次期大統領と良好な関係を築きつつある」と安心するのは未だ早い。米中貿易をアメリカに有利に傾ける為なら、トランプは台湾問題で中国に譲歩する可能性がある。そうなれば、台湾の安全保障が危うくなるだろう。ここ数年の中国は、東シナ海と南シナ海の島や岩礁の領有権を強く主張するようになった。主張するだけでなく、これらの島を急速に軍事拠点化していることがわかっている。バラク・オバマ政権が中国との直接的な対立を回避する政策を取ってきたのをいいことに、中国は南シナ海の地図を強引に描き変えることに成功した。『戦略国際問題研究所(CSIS)』のサイト『アジア海洋透明性イニシアティブ(AMTI)』が最近公開した新たな衛星写真からは、中国が南シナ海での建設活動を急ピッチで進めてきたことがわかる。

20170110 07
中国は、人工島に滑走路や建物を建設しただけではない。対空砲等の防空システムを配備し、この海域の制空権を握る意思を露わにしている。ハーグの仲裁裁判所が2016年夏、中国が南シナ海における領有権の根拠としている“九段線”について、「国際法上の根拠は無い」と裁定を下したが、中国は完全無視を決め込んでいる。中国が今年も人工島の造成を進め、人工島に軍事施設の建設を続ければ、南シナ海の緊張はもっと高まるだろう。米中関係次第では、中国が一方的に防空識別圏(ADIZ)を宣言する可能性もある。更に、東シナ海の緊張も続いている。中国は、日本との偶発的衝突を回避する為のメカニズム構築に消極的なだけでなく、漁船・商船・沿岸警備隊からなる“海上民兵”を使って、尖閣諸島周辺海域への侵入を繰り返している。中国海軍も、東シナ海でのプレゼンスを強化してきた。こうした動向は、日本にとって安全保障上の直接的な懸念となるだろう。だが、その不透明性は、安倍政権にとってチャンスにもなる。日本はアメリカとの関係を強化して、日米同盟の重要性を再確認するべきだ。トランプは選挙戦で色々なことを言ったが、アメリカのアジアにおける戦略地政学的な利益にとって、日本が重要であることを知らない筈はない。安倍は何らかの方法で、東シナ海と南シナ海等の安全保障について、改めてアメリカの確証と支持を求めるべきだ。例えば、日米安保条約第5条が定めるアメリカの対日防衛義務を確認した上で、「尖閣諸島の問題について、アメリカには曖昧な立場を取ってもらう」といった方法があり得る。アジア太平洋地域の不安定性は、日本が安倍政権で蓄積してきた外交資本を駆使して、ルールに基づく自由な秩序を推進する必要性を明らかにしている。安倍はその要請に応じて、インドのナレンドラ・モディ首相との関係を一段と強化したほうがいい。アメリカを除けば、インドは同地域で中国に対抗する唯一の強力な防波堤だ。日本は、ASEAN諸国がTPP崩壊のショックからの立ち直りを図るのを支え、安心させる役割も果たすことができる。アメリカの同盟国やパートナーからなる幅広い地域安全保障ネットワークの構築も図るべきだろう。トランプは、日米豪・日米印・日米韓といった3国協力に力を入れない可能性がある。その時、安倍は、こうした安全保障ネットワークの重要性をトランプに説く役割を担うべきだ。 (本誌コラムニスト&『アメリカ外交問題評議会』研究員 J・バークシャー・ミラー)


キャプチャ  2017年1月3日・10日号掲載

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テーマ : 国際政治
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